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59.ジスランの呼び出し(リオネル)
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ジスランが国王に即位してから半年が過ぎた。
まだ忙しいだろうに俺を呼び出すというのは、それだけの理由があるのだろう。
しかもアリアには内緒で話をしたいと。
国王の執務室に入ると、何かの書類を見ていたジスランが顔を上げた。
「あぁ、呼び出してすまないな」
「いや、忙しいのはわかってる。公爵家に来ている暇なんてないだろう」
「そうなんだ。もう少しすれば落ち着くと思うんだけどなぁ」
ためいきをついているジスランは放っておいて、勝手にソファに座る。
「ちょっと待ってくれ」
そう言うと、ジスランは執務室にいた者に休憩をとるように命じる。
これは人払いしたのか?護衛騎士までも外に出してしまった。
ジスランは二人きりになるとドサッと力をぬいたようにソファに倒れこんだ。
「あぁ、疲れた。国王なんてやってらんないよ。
父上が早く俺に譲りたかった気持ちもわかる」
「王族の側近が一人でもいればいいんだがな。
クロードが卒業して手伝えるようになれば楽になるだろうが、
それまではお前ひとりで頑張るしかないな」
「わかってるよ……ラザールを教育出来たらよかったんだがな。
まぁ、今さらか。切り捨てるのを決めたのは俺だ」
「お前のせいじゃないよ」
ラザールがアリアと婚約なんてしなければ、
ジスランはラザールを側近として教育させるつもりだった。
結局はアリアと婚約解消させるためにも手放さなくてはいけなくなった。
王族の側近は他の文官たちとは違って、任せられる範囲が広い。
ジスランの許可なく決裁できるものが一人でもいるというのは大違いだ。
今はジスランがすべてのことに目を通して決裁しなくてはいけない。
そのため王宮から出ることができないほど忙しい。
「呼んだのは……バルテレス家の夫人のことだ」
「アリアの母親か。何かあったのか?」
「もって、あと数日だそうだ」
「は?」
もって数日?牢に入っているとは聞いたが、病気だとは聞いていない。
「夫人は牢に入れられてからも自分の罪を認めなかった。
伯爵家の自分が牢にいれられるわけがない、ここから出せと監視に怒鳴り、
出してもらえないとわかると泣きわめき。
あげくのはてにはアリアンヌが悪い、あの子のせいだと」
「……言いそうだな。生まれたばかりのアリアを殺そうとするくらいだ。
自分の産んだ娘を、どうしてそうも憎めるのか理解できないが」
「俺も理解できないよ」
ジスランの息子、ユベール王子はもうすぐ二歳になる。
銀色の髪に緑目。髪の色はロゼッタ妃に、目の色はジスランに似た。
顔立ちは小さい頃のジスランにそっくりで、
落ち着いた性格なのはロゼッタ妃に似たのだろう。
いつ会ってもニコニコと笑いかけてくる。
精霊と遊ぶのが好きなのか、精霊の光を追いかけている時もある。
あの様子なら次の王太子として選ばれても問題はないだろう。
ジスランのユベール王子への可愛がりは思っていた以上で、
こんなにも子どもを大事にするとは思っていなかった。
だからこそ、バルテレス家のアリアへの仕打ちが信じられなくて、
よけいに腹立たしく感じるらしい。
「それで、病気にでもなったのか?」
「病気と言えば病気なのかもしれん」
「ん?」
「毎晩、寝ると嫌な夢を見るそうだ。
バルテレス元伯爵が暗闇の中から罵倒してくるそうだ」
アリアの父親?精霊王に精霊界のはざまに送られた……。
暗闇の中で反省しろと言っていたな。
「それって本当に夢なのか?」
「違うかもな。最初の頃は助けてくれと言ってたらしい。
だが、夫人はどうやって助けだしたらいいのかわからない。
そのうち、腹がへった、水が飲みたいと。
それも夫人にはどうすることもできない」
「まぁ、夢の中で言われてもな」
「で、ある時から元伯爵は夫人を責めるようになった。
お前は食事をしているのか、水も好きなだけ飲めるんだろうと」
「牢でも三食出されているよな?質素だろうけど」
「ああ。それで罵倒されるようになったらしい。
お前のせいでこうなったのに、どうしてお前は暗闇に閉じ込められないんだ、と」
お前のせいで?それは違うんじゃないか?
アリアを虐げていただけじゃなく、精霊王に忌避石を投げたのは元伯爵だよな。
自分のせいなのに、夫人のせいにしたのか。
「夫人も最初の頃は言い返していたようだ。
こうなったのは伯爵であるあなたのせいだ、
自分だって牢に入れられて自由はない、と」
「本当に似た者夫婦だな……」
「だが、毎晩寝るたびに元伯爵に罵倒され続けるものだから、
そのうち食事をするのに罪悪感を持つようになり、
食事の量が減り、次第に水を飲むのも難しくなったそうだ」
「……それで死にかけているのか」
「そうだ。無理やり食べさせることもできないしな。
かなりやせ細って、黒い身体はまるで木炭のようだと」
木炭か……精霊の処罰は薄れないだろうし、そう見えても仕方ないな。
まっくろで折れそうなほど骨と皮になった状態なら木炭に見えなくもない。
「食べないというのなら、牢にいる者にそれ以上のことはしない。
そもそも精霊の処罰を受けていなければ鉱山にでも送られていたはずだ。
精霊の処罰を受けた者は鉱山も修道院も受け入れない。
亡くなれば……平民の共同墓地に埋葬することになる」
「そうか」
呼び出したのはこの報告か。
もうバルテレス伯爵家は取りつぶしになったし、夫人は平民になっている。
それでも一応は報告しておこうということなのだろう。
「呼び出したのは、アリアンヌに会わせるかどうか、聞いておこうと思ったんだ」
「会わせる?」
「一応は実母だろう。死ぬ前に会っておきたいと思うかもしれないからな。
俺では判断ができないが、お前ならできるだろう。どうする?」
「いや、会わせなくていい」
「亡くなった知らせは?」
「しなくていい。あれはもう他人だ」
「それならそれで、こちらは規定に従って処理するまでだ」
ふぅと大きく息を吐いたジスランに、気をつかわれていたのはわかる。
本来なら知らせる義務なんてものはない。
だけど、アリアだから。
なるべく願いは叶えてやりたいと思っているんだ。
アリアが本当は両親に、妹に愛されたいと思っていたことをわかっているから。
だけど……
「今、アリアは大事な時期なんだ」
「ん?」
「身ごもっているんだ」
「本当か!?」
驚いて立ち上がったジスランに、落ち着いて座るようにいう。
まだ体調が安定しているわけじゃない。ここで騒がれても困る。
「まだ、二か月でわかったばかりだから。
こんな大事な時にアリアに心労をかけるわけにはいかない」
「あ、ああ!そうだろうな!そうだとも……そうか身ごもったか」
「にやけるなよ。お前は関係ないだろう」
「関係なくはないだろう。うちのユベールの妃になるかもしれない」
「産まれてくるのが娘かどうかもわからないだろうに」
「それはそうなんだが。
まぁ、それは置いておいて、俺はうれしいよ。
お前とアリアがこうして幸せになってくれたのが……」
めずらしく泣きそうなジスランに、俺も引きずられそうになる。
こいつがいなかったら、アリアとは結ばれていなかったかもしれない。
「ジスランがいてくれたからかもな」
「え?」
「……なんでもない」
「え!いや!もう一回言って!もう一回聞きたい!」
「うるさいな。俺はもう帰るぞ。ほら、側近たちも戻って来た。
休憩している場合じゃないんだろう。仕事しろよ」
「あーはいはい。仕方ないな。頑張りますか。
リオネル……良かったな」
「ああ」
話は夫人のことだけだったようだから、軽く手を振って執務室から出る。
アリアを一人にするわけにはいかないと、
公爵家の屋敷にはジョセフとアリーチェを呼んである。
護衛だけじゃなく、話し相手として。
それでも早くアリアのそばに戻りたいと、帰る足を速めた。
まだ忙しいだろうに俺を呼び出すというのは、それだけの理由があるのだろう。
しかもアリアには内緒で話をしたいと。
国王の執務室に入ると、何かの書類を見ていたジスランが顔を上げた。
「あぁ、呼び出してすまないな」
「いや、忙しいのはわかってる。公爵家に来ている暇なんてないだろう」
「そうなんだ。もう少しすれば落ち着くと思うんだけどなぁ」
ためいきをついているジスランは放っておいて、勝手にソファに座る。
「ちょっと待ってくれ」
そう言うと、ジスランは執務室にいた者に休憩をとるように命じる。
これは人払いしたのか?護衛騎士までも外に出してしまった。
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「あぁ、疲れた。国王なんてやってらんないよ。
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「王族の側近が一人でもいればいいんだがな。
クロードが卒業して手伝えるようになれば楽になるだろうが、
それまではお前ひとりで頑張るしかないな」
「わかってるよ……ラザールを教育出来たらよかったんだがな。
まぁ、今さらか。切り捨てるのを決めたのは俺だ」
「お前のせいじゃないよ」
ラザールがアリアと婚約なんてしなければ、
ジスランはラザールを側近として教育させるつもりだった。
結局はアリアと婚約解消させるためにも手放さなくてはいけなくなった。
王族の側近は他の文官たちとは違って、任せられる範囲が広い。
ジスランの許可なく決裁できるものが一人でもいるというのは大違いだ。
今はジスランがすべてのことに目を通して決裁しなくてはいけない。
そのため王宮から出ることができないほど忙しい。
「呼んだのは……バルテレス家の夫人のことだ」
「アリアの母親か。何かあったのか?」
「もって、あと数日だそうだ」
「は?」
もって数日?牢に入っているとは聞いたが、病気だとは聞いていない。
「夫人は牢に入れられてからも自分の罪を認めなかった。
伯爵家の自分が牢にいれられるわけがない、ここから出せと監視に怒鳴り、
出してもらえないとわかると泣きわめき。
あげくのはてにはアリアンヌが悪い、あの子のせいだと」
「……言いそうだな。生まれたばかりのアリアを殺そうとするくらいだ。
自分の産んだ娘を、どうしてそうも憎めるのか理解できないが」
「俺も理解できないよ」
ジスランの息子、ユベール王子はもうすぐ二歳になる。
銀色の髪に緑目。髪の色はロゼッタ妃に、目の色はジスランに似た。
顔立ちは小さい頃のジスランにそっくりで、
落ち着いた性格なのはロゼッタ妃に似たのだろう。
いつ会ってもニコニコと笑いかけてくる。
精霊と遊ぶのが好きなのか、精霊の光を追いかけている時もある。
あの様子なら次の王太子として選ばれても問題はないだろう。
ジスランのユベール王子への可愛がりは思っていた以上で、
こんなにも子どもを大事にするとは思っていなかった。
だからこそ、バルテレス家のアリアへの仕打ちが信じられなくて、
よけいに腹立たしく感じるらしい。
「それで、病気にでもなったのか?」
「病気と言えば病気なのかもしれん」
「ん?」
「毎晩、寝ると嫌な夢を見るそうだ。
バルテレス元伯爵が暗闇の中から罵倒してくるそうだ」
アリアの父親?精霊王に精霊界のはざまに送られた……。
暗闇の中で反省しろと言っていたな。
「それって本当に夢なのか?」
「違うかもな。最初の頃は助けてくれと言ってたらしい。
だが、夫人はどうやって助けだしたらいいのかわからない。
そのうち、腹がへった、水が飲みたいと。
それも夫人にはどうすることもできない」
「まぁ、夢の中で言われてもな」
「で、ある時から元伯爵は夫人を責めるようになった。
お前は食事をしているのか、水も好きなだけ飲めるんだろうと」
「牢でも三食出されているよな?質素だろうけど」
「ああ。それで罵倒されるようになったらしい。
お前のせいでこうなったのに、どうしてお前は暗闇に閉じ込められないんだ、と」
お前のせいで?それは違うんじゃないか?
アリアを虐げていただけじゃなく、精霊王に忌避石を投げたのは元伯爵だよな。
自分のせいなのに、夫人のせいにしたのか。
「夫人も最初の頃は言い返していたようだ。
こうなったのは伯爵であるあなたのせいだ、
自分だって牢に入れられて自由はない、と」
「本当に似た者夫婦だな……」
「だが、毎晩寝るたびに元伯爵に罵倒され続けるものだから、
そのうち食事をするのに罪悪感を持つようになり、
食事の量が減り、次第に水を飲むのも難しくなったそうだ」
「……それで死にかけているのか」
「そうだ。無理やり食べさせることもできないしな。
かなりやせ細って、黒い身体はまるで木炭のようだと」
木炭か……精霊の処罰は薄れないだろうし、そう見えても仕方ないな。
まっくろで折れそうなほど骨と皮になった状態なら木炭に見えなくもない。
「食べないというのなら、牢にいる者にそれ以上のことはしない。
そもそも精霊の処罰を受けていなければ鉱山にでも送られていたはずだ。
精霊の処罰を受けた者は鉱山も修道院も受け入れない。
亡くなれば……平民の共同墓地に埋葬することになる」
「そうか」
呼び出したのはこの報告か。
もうバルテレス伯爵家は取りつぶしになったし、夫人は平民になっている。
それでも一応は報告しておこうということなのだろう。
「呼び出したのは、アリアンヌに会わせるかどうか、聞いておこうと思ったんだ」
「会わせる?」
「一応は実母だろう。死ぬ前に会っておきたいと思うかもしれないからな。
俺では判断ができないが、お前ならできるだろう。どうする?」
「いや、会わせなくていい」
「亡くなった知らせは?」
「しなくていい。あれはもう他人だ」
「それならそれで、こちらは規定に従って処理するまでだ」
ふぅと大きく息を吐いたジスランに、気をつかわれていたのはわかる。
本来なら知らせる義務なんてものはない。
だけど、アリアだから。
なるべく願いは叶えてやりたいと思っているんだ。
アリアが本当は両親に、妹に愛されたいと思っていたことをわかっているから。
だけど……
「今、アリアは大事な時期なんだ」
「ん?」
「身ごもっているんだ」
「本当か!?」
驚いて立ち上がったジスランに、落ち着いて座るようにいう。
まだ体調が安定しているわけじゃない。ここで騒がれても困る。
「まだ、二か月でわかったばかりだから。
こんな大事な時にアリアに心労をかけるわけにはいかない」
「あ、ああ!そうだろうな!そうだとも……そうか身ごもったか」
「にやけるなよ。お前は関係ないだろう」
「関係なくはないだろう。うちのユベールの妃になるかもしれない」
「産まれてくるのが娘かどうかもわからないだろうに」
「それはそうなんだが。
まぁ、それは置いておいて、俺はうれしいよ。
お前とアリアがこうして幸せになってくれたのが……」
めずらしく泣きそうなジスランに、俺も引きずられそうになる。
こいつがいなかったら、アリアとは結ばれていなかったかもしれない。
「ジスランがいてくれたからかもな」
「え?」
「……なんでもない」
「え!いや!もう一回言って!もう一回聞きたい!」
「うるさいな。俺はもう帰るぞ。ほら、側近たちも戻って来た。
休憩している場合じゃないんだろう。仕事しろよ」
「あーはいはい。仕方ないな。頑張りますか。
リオネル……良かったな」
「ああ」
話は夫人のことだけだったようだから、軽く手を振って執務室から出る。
アリアを一人にするわけにはいかないと、
公爵家の屋敷にはジョセフとアリーチェを呼んである。
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