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47.バルテレス伯爵家の真実
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「私が言ったわがままはただ一つだけ。
リオ兄様のところに、公爵家に帰りたかった!それだけよ!
それだって聞いてもらえなかったのに!」
後ろから抱きしめられるようにリオ兄様に支えられる。
悔しすぎて、涙があふれてくる。
「……それは本当なのか?」
「少なくとも俺が知っているアリアはわがままを言うような子じゃない。
公爵家にいた時も、戻って来てからも、ずっとそうだ。
伯爵家の使用人から話を聞いたが、離れに閉じ込められていたのも事実だ。
アリアはずっと家族から虐げられていた」
リオ兄様にまで言われ、さすがにおかしいと気がついたようだ。
ラザール様は座り込んだままのマーガレットを見た。
「……俺の聞いていた話とは違う。
どういうことなんだ!マーガレット!
アリアンヌはわがままでどうしようもない悪女なんじゃないのか?」
周囲からの視線が集まり、マーガレットの身体がびくりとする。
大広間にいる貴族たちが静かに私たちの会話を見守っていた。
精霊の処罰にも関係することだ。何一つ聞き漏らすことのないように耳を傾けている。
マーガレットはこの異様な雰囲気に気がついたのか、周囲を見回した。
お母様は倒れたまま。マーガレットを助けてくれるような人はいない。
顔は青ざめていき、ラザール様から逃げるように視線をそらした。
「……お姉様が……いけないのよ」
ここまで来ても、まだ私が悪いと言うのか。
壇上の上からマーガレットに聞く。
本当に、どうしてここまで妹に嫌われているのかわからない。
「ねぇ、マーガレット。私があなたに何かしたの?
ほとんど話したこともないのに、どうやって意地悪できるの?」
「だって……お父様とお母様が……お姉様が悪いって」
「お父様とお母様が悪いって言ったら、私は悪いことになるの?
私は何もしていないわ。ただ、伯爵家に連れて帰られただけ。
公爵家に預けられたのだって、お母様が育児放棄したからよ?
それも、産まれたばかりの私が悪いって言うの?」
「……わ、私は……」
何を言おうとしたのか、マーガレットは言いかけてやめた。
その顔にある黒いいばらのあざがまた増えた気がした。
このままだと全身が黒くなってしまいかねない。
精霊王が帰っても、精霊の処罰はまだ終わっていないらしい。
ラザール様を見ると、さっきまで首までだった黒いあざが顔にまでのびていた。
「ラザール様、マーガレット。精霊の処罰は私のせいではありません。
精霊が、今も見ています。お二人のあざが増えていくことに気がついていますか?
何が悪かったのか、反省しなければもとに戻ることはないでしょう」
「……アリアンヌが何とかできないのか?
いつも、俺が言うことは何でもしていただろう?」
力なくつぶやくラザール様は、それでもあきらめきれないらしい。
こうなってしまったら、私が望んだとしてもどうにもならないのに。
学園の課題と同じだと思っているんだろうか。
「ラザール様に言われるまま、課題などを代わりにしていたのは、
婚約解消されれば平民となって家から追い出されるとわかっていたからです。
だから、ずっと我慢していました。
親の決めた婚約であっても、誠実に応えるのが貴族としての義務だと」
大広間のあちこちからため息が聞こえる。
政略結婚で決められた夫婦、婚約者は多いはずだ。
貴族としての義務だと、自分に言い聞かせて。
「……俺との婚約を望んでいたわけじゃないのか?」
「望むわけがありません。リオ兄様と婚約するはずだったのですから。
それを無理やり引き離されて、伯爵家に連れて帰られたのです。
泣いて嫌がっても、お父様に引きずられて……それなのに」
「知らなかったんだ、俺は。
マーガレットとディオに言われるまま信じて。
……全部、お前のせいだと思っていたんだ。………悪かったな」
聞こえるか聞こえないか、そんな小さな声だったけれど、ラザール様が謝っている。
許せるはずもないけれど、それでも謝ってくれたのはラザール様だけだった。
根は悪くない人だったのかもしれない。
うなだれたラザール様はそのまま、騎士たちに運ばれるカリーヌ様と退出していく。
見送っていると、マーガレットが不安そうな声で私に聞く。
もう顔中が黒くなって、マーガレットの顔がよく見えない。
「……お、お姉様。私たち、これからどうなるの?」
「さぁ?私に聞かれてもわからないわ」
「わからないって、ひどいわ。家族でしょう!?」
「家族?」
「お父様が消えちゃって、お母様は倒れているのよ!
私を助けようと思わないの!?」
「……思わないわ」
目を潤ませてどうにかしろというマーガレットに少しもかわいそうだと思えない。
あぁ、本当に家族じゃなかったんだ。
お父様が消えたのを見ていたのに、なんとも思わない。
苦しめばいいとまでは思ってなかったけれど、
もう会わないんだと思うとほっとしている自分がいる。
目の前で倒れているお母様を見ても、どうにかしたいと思えない。
マーガレットが全身黒くなっていくのを見ても、大変だろうなとしか。
まるで他人の苦労を見ているようで、本気で同情しているわけではない。
「やっぱりお姉様は性格が悪いんだわ!妹を助けないなんて!」
「……私には妹なんていないわ。
私の家族はデュノア公爵家で、お義父様とお義母様、
そしてリオ兄様がいてくれれば、他はいらないの。
私を先にいらないと捨てたのはバルテレス伯爵家、そしてあなただわ」
「………そんな」
ポロポロと涙をこぼすマーガレットに近衛騎士が声をかける。
「自分で歩けるか。歩けなければ担ぐことになる」
「……嫌よ。私をどこに連れて行くのよ……」
「とりあえず、別室で。その後は詳しく話を聞くことになる」
「……嫌。嫌よ!」
「もういい、無理やりにでも連れていけ」
「「はっ」」
指示を出したのはジスラン様だった。
騒ぎが聞こえたのか、話し合いから抜けてきたようだ。
大広間中に聞こえるように声を張り上げた。
「なんでもかんでも人のせいにするなんて、どうかしている。
こうなったのはアリアンヌのせいではない。
アリアンヌを貶めようとしていた自分たちのせいだ。
たとえ、本当に下級以下だったとしても貶めていい理由にはならない。
バルテレス伯爵家は取りつぶすことが決まった。
他の貴族家も、精霊の処罰を受けた者がいれば王家からも処罰をする。
ここで暴れればそれだけ罪は増える。おとなしく従え」
わずかに残っていた希望が消えたのか、座り込んでいた者たちが下を向く。
立ち上がれないものは騎士が担ぎ上げて連れ出していく。
抵抗していたマーガレットも、お母様と一緒に無理やり連れて行かれる。
最後まで少しも反省しているようには見えなかった。
あの黒いあざが消える日は来るんだろうか。
処罰されずに大広間に残った貴族たちは、
私に対するバルテレス伯爵家の仕打ちを非難している。
「……実の娘なのに、離れに八年間も?」
「ドレスはともかく、普段着も買うこともなく下の娘の服を与えるだなんて」
「王子の婚約者だったというのに、なんてことを」
「精霊の処罰を受けるのも当然だというのに……あの娘の態度は許せない」
「精霊王にあんな真似をするなんて、なんて罰当たりな。消されるのも当たり前だ」
「そんな家に生まれてしまうなんて、大変だっただろうに」
今まで私の悪評を聞いたことはあっただろうけど、
ここに残っている人はそれを信じなかったか、
知ったとしても噂を広めるようなことはしなかった人たちだと思う。
「今年の精霊祭の夜会は中止する。
次回の夜会の開催も白紙だ。
精霊の処罰が落ち着くまでは、社交は控えるように」
夜会は中止に決まったようだ。
陛下の声に、皆が納得している顔になる。
このまま何も無かったように夜会を行うのは無理だ。
「アリアンヌ、とりあえず控え室に戻ろう。
もう少し落ち着いてから帰った方がいい」
「リオ兄様……わかったわ」
思ったよりも体力を消耗していたのか、歩こうとすると足の力が入らなかった。
その場に座り込みそうになったのを見て、リオ兄様が私を抱き上げる。
すそが広がったドレスだから抱き上げるのは大変なのに、
軽々と抱き上げられて控え室へと連れて行かれる。
「よく頑張った……あとは休んでいい」
「うん……」
疲れて、もう何も考えたくない。
お父様のこともお母様のことも、マーガレットのことも考えたくない。
リオ兄様の胸に頬を寄せて目を閉じる。
暗い水の底に落ちていくように意識が無くなっていった。
リオ兄様のところに、公爵家に帰りたかった!それだけよ!
それだって聞いてもらえなかったのに!」
後ろから抱きしめられるようにリオ兄様に支えられる。
悔しすぎて、涙があふれてくる。
「……それは本当なのか?」
「少なくとも俺が知っているアリアはわがままを言うような子じゃない。
公爵家にいた時も、戻って来てからも、ずっとそうだ。
伯爵家の使用人から話を聞いたが、離れに閉じ込められていたのも事実だ。
アリアはずっと家族から虐げられていた」
リオ兄様にまで言われ、さすがにおかしいと気がついたようだ。
ラザール様は座り込んだままのマーガレットを見た。
「……俺の聞いていた話とは違う。
どういうことなんだ!マーガレット!
アリアンヌはわがままでどうしようもない悪女なんじゃないのか?」
周囲からの視線が集まり、マーガレットの身体がびくりとする。
大広間にいる貴族たちが静かに私たちの会話を見守っていた。
精霊の処罰にも関係することだ。何一つ聞き漏らすことのないように耳を傾けている。
マーガレットはこの異様な雰囲気に気がついたのか、周囲を見回した。
お母様は倒れたまま。マーガレットを助けてくれるような人はいない。
顔は青ざめていき、ラザール様から逃げるように視線をそらした。
「……お姉様が……いけないのよ」
ここまで来ても、まだ私が悪いと言うのか。
壇上の上からマーガレットに聞く。
本当に、どうしてここまで妹に嫌われているのかわからない。
「ねぇ、マーガレット。私があなたに何かしたの?
ほとんど話したこともないのに、どうやって意地悪できるの?」
「だって……お父様とお母様が……お姉様が悪いって」
「お父様とお母様が悪いって言ったら、私は悪いことになるの?
私は何もしていないわ。ただ、伯爵家に連れて帰られただけ。
公爵家に預けられたのだって、お母様が育児放棄したからよ?
それも、産まれたばかりの私が悪いって言うの?」
「……わ、私は……」
何を言おうとしたのか、マーガレットは言いかけてやめた。
その顔にある黒いいばらのあざがまた増えた気がした。
このままだと全身が黒くなってしまいかねない。
精霊王が帰っても、精霊の処罰はまだ終わっていないらしい。
ラザール様を見ると、さっきまで首までだった黒いあざが顔にまでのびていた。
「ラザール様、マーガレット。精霊の処罰は私のせいではありません。
精霊が、今も見ています。お二人のあざが増えていくことに気がついていますか?
何が悪かったのか、反省しなければもとに戻ることはないでしょう」
「……アリアンヌが何とかできないのか?
いつも、俺が言うことは何でもしていただろう?」
力なくつぶやくラザール様は、それでもあきらめきれないらしい。
こうなってしまったら、私が望んだとしてもどうにもならないのに。
学園の課題と同じだと思っているんだろうか。
「ラザール様に言われるまま、課題などを代わりにしていたのは、
婚約解消されれば平民となって家から追い出されるとわかっていたからです。
だから、ずっと我慢していました。
親の決めた婚約であっても、誠実に応えるのが貴族としての義務だと」
大広間のあちこちからため息が聞こえる。
政略結婚で決められた夫婦、婚約者は多いはずだ。
貴族としての義務だと、自分に言い聞かせて。
「……俺との婚約を望んでいたわけじゃないのか?」
「望むわけがありません。リオ兄様と婚約するはずだったのですから。
それを無理やり引き離されて、伯爵家に連れて帰られたのです。
泣いて嫌がっても、お父様に引きずられて……それなのに」
「知らなかったんだ、俺は。
マーガレットとディオに言われるまま信じて。
……全部、お前のせいだと思っていたんだ。………悪かったな」
聞こえるか聞こえないか、そんな小さな声だったけれど、ラザール様が謝っている。
許せるはずもないけれど、それでも謝ってくれたのはラザール様だけだった。
根は悪くない人だったのかもしれない。
うなだれたラザール様はそのまま、騎士たちに運ばれるカリーヌ様と退出していく。
見送っていると、マーガレットが不安そうな声で私に聞く。
もう顔中が黒くなって、マーガレットの顔がよく見えない。
「……お、お姉様。私たち、これからどうなるの?」
「さぁ?私に聞かれてもわからないわ」
「わからないって、ひどいわ。家族でしょう!?」
「家族?」
「お父様が消えちゃって、お母様は倒れているのよ!
私を助けようと思わないの!?」
「……思わないわ」
目を潤ませてどうにかしろというマーガレットに少しもかわいそうだと思えない。
あぁ、本当に家族じゃなかったんだ。
お父様が消えたのを見ていたのに、なんとも思わない。
苦しめばいいとまでは思ってなかったけれど、
もう会わないんだと思うとほっとしている自分がいる。
目の前で倒れているお母様を見ても、どうにかしたいと思えない。
マーガレットが全身黒くなっていくのを見ても、大変だろうなとしか。
まるで他人の苦労を見ているようで、本気で同情しているわけではない。
「やっぱりお姉様は性格が悪いんだわ!妹を助けないなんて!」
「……私には妹なんていないわ。
私の家族はデュノア公爵家で、お義父様とお義母様、
そしてリオ兄様がいてくれれば、他はいらないの。
私を先にいらないと捨てたのはバルテレス伯爵家、そしてあなただわ」
「………そんな」
ポロポロと涙をこぼすマーガレットに近衛騎士が声をかける。
「自分で歩けるか。歩けなければ担ぐことになる」
「……嫌よ。私をどこに連れて行くのよ……」
「とりあえず、別室で。その後は詳しく話を聞くことになる」
「……嫌。嫌よ!」
「もういい、無理やりにでも連れていけ」
「「はっ」」
指示を出したのはジスラン様だった。
騒ぎが聞こえたのか、話し合いから抜けてきたようだ。
大広間中に聞こえるように声を張り上げた。
「なんでもかんでも人のせいにするなんて、どうかしている。
こうなったのはアリアンヌのせいではない。
アリアンヌを貶めようとしていた自分たちのせいだ。
たとえ、本当に下級以下だったとしても貶めていい理由にはならない。
バルテレス伯爵家は取りつぶすことが決まった。
他の貴族家も、精霊の処罰を受けた者がいれば王家からも処罰をする。
ここで暴れればそれだけ罪は増える。おとなしく従え」
わずかに残っていた希望が消えたのか、座り込んでいた者たちが下を向く。
立ち上がれないものは騎士が担ぎ上げて連れ出していく。
抵抗していたマーガレットも、お母様と一緒に無理やり連れて行かれる。
最後まで少しも反省しているようには見えなかった。
あの黒いあざが消える日は来るんだろうか。
処罰されずに大広間に残った貴族たちは、
私に対するバルテレス伯爵家の仕打ちを非難している。
「……実の娘なのに、離れに八年間も?」
「ドレスはともかく、普段着も買うこともなく下の娘の服を与えるだなんて」
「王子の婚約者だったというのに、なんてことを」
「精霊の処罰を受けるのも当然だというのに……あの娘の態度は許せない」
「精霊王にあんな真似をするなんて、なんて罰当たりな。消されるのも当たり前だ」
「そんな家に生まれてしまうなんて、大変だっただろうに」
今まで私の悪評を聞いたことはあっただろうけど、
ここに残っている人はそれを信じなかったか、
知ったとしても噂を広めるようなことはしなかった人たちだと思う。
「今年の精霊祭の夜会は中止する。
次回の夜会の開催も白紙だ。
精霊の処罰が落ち着くまでは、社交は控えるように」
夜会は中止に決まったようだ。
陛下の声に、皆が納得している顔になる。
このまま何も無かったように夜会を行うのは無理だ。
「アリアンヌ、とりあえず控え室に戻ろう。
もう少し落ち着いてから帰った方がいい」
「リオ兄様……わかったわ」
思ったよりも体力を消耗していたのか、歩こうとすると足の力が入らなかった。
その場に座り込みそうになったのを見て、リオ兄様が私を抱き上げる。
すそが広がったドレスだから抱き上げるのは大変なのに、
軽々と抱き上げられて控え室へと連れて行かれる。
「よく頑張った……あとは休んでいい」
「うん……」
疲れて、もう何も考えたくない。
お父様のこともお母様のことも、マーガレットのことも考えたくない。
リオ兄様の胸に頬を寄せて目を閉じる。
暗い水の底に落ちていくように意識が無くなっていった。
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