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30.新しい関係

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三人でA教室に入ると、もうアニータ様は席についていた。

「アニータ様!」

「アリアンヌ様!良かった。本当に無事なのね」

駆け寄ってきたアニータ様は、私の両肩をつかむようにして確認してくる。
あんな風に突然消えてしまったから、かなり心配させてしまっていたようだ。

「あぁ、うん。顔色が良くなったわ。
 目の下のクマも無くなってるし……」

「心配させてしまってごめんなさい」

「ううん、手紙で事情はわかったから。
 アリアンヌ様が悪いんじゃないわ。あの馬鹿王子たちが悪いのよ」

「馬鹿王子って……」

「なによ、本当のことじゃない」

見た目は小柄でふわふわな金髪だから可愛らしいのに、
事情があって侯爵家を継ぐことが決まっているアニータ様はとても凛々しい。
それでも私が苦笑いをしていると、安心したようにふわりと笑う。
あまりにも可愛らしくて、つい抱きしめたくなってしまった。

「え、ちょっと?アリアンヌ様?」

「アニータ様がいなかったら耐えられなかったかもしれないわ。
 ありがとう……」

「もう。いいのよ、仲間じゃない。
 最後の一年、負けないで楽しみましょう?」

「ええ」

ふふふと笑い合っていると、教師が入ってくる。
私がいることに驚いたのか少し目を見開いていたが、何事もなく授業が始まる。
あいかわらず教師からは、よく思われていないらしい。

午前中の授業を終え食事に行こうとしたら、
ジョセフ様とアリーチェ様が私のところにきた。

「食堂に行くんだろう?行こうか」

「え?二人も一緒に?」

「当然でしょう。もうそばにいていいんだもの」

「そっか」

あまり近寄ってはいけないと指示されていたのを思い出した。
もう公爵家に帰ったから、一緒に食事をしてもいいんだ。

「じゃあ、アニータ様も一緒に行かない?」

「え?わたくしも?」

「だって、私たち三人だけで行くなんてさみしいわ。
 アニータ様も一緒に行きましょう?」

「……わかったわ」

一瞬だけ嫌なのかと思ったけれど、
アニータ様の耳が桃色に染まっているのを見て、誘って良かったと思った。
そういえば、いつもはどうしていたんだろう。
ジョセフ様とアリーチェ様は二人で食べているとことをよく見たけれど。

「アニータ様、いつもはどうしていたの?」

「個室で侍女と食べていたのよ」

「え?その侍女は一人にしても平気?」

今までアニータ様と食事をしていた侍女は、
急に予定を変えられて困らないだろうか。
そう思って聞いたら、アニータ様はすねたようにつぶやく。

「それは大丈夫。いつも文句を言われてたから」

「文句?侍女から?」

「侍女だけど、乳兄弟でもあるのよ。
 学園の侍女待機室や使用人の食堂って、噂を仕入れるのにいい場所なのに、
 私が一人で食事できないせいで侍女仲間をつくれないって。
 早くお嬢様もお友達をつくってくださいね~なんて言われてたのよ。
 私がみんなと食事をするって言ったら、喜んで踊り出すと思うわ」

「そ、そうなの?喜んでくれるならいいけど」

どうやら侍女には侍女たちの交流の場があるらしい。
帰ったらサリーに聞いてみよう。

アニータ様の侍女に連絡を頼んで、四人で食堂へと入る。
今まで一人でいた私が四人で席についたことで、周りの学生がざわめく。
だけど、なんとなくいつもとは視線が違うような?

「何か、見られている気がする。
 私が一人じゃないのがそんなに不思議なのかしら」

「それもあると思うけど、一番の理由はアリアンヌ様の容姿だと思うよ」

「容姿?」

「ほら、髪の色とか雰囲気とか変わったじゃない。
 私たちは手紙をもらっていたから理解できるけど。
 白金の髪のアリアンヌ様を馬鹿にできるようなものはいないでしょうね」

「白金の髪……そっか」

白銀、白金の髪はこの国では特別なものだ。
精霊に愛されている証拠だと言われている。

だから、下級以下だったはずの私が白金の髪に戻ったことで、
周りの学生は戸惑っているんだ。
今までのように陰口を言っていいのかどうか迷って。

「俺は幼い頃のアリアンヌ様に会っているから、懐かしいと思ったけどな」

「そうね。ジョセフ様とは会っているものね」

「幼い頃のアリアンヌ様、可愛かったでしょうねぇ」

「それはもう。リオネル様がずっと抱き上げていたのを覚えているよ。
 ジスラン様が歩けなくなるぞって注意していて」

「……うん、そんなこともあったね」

今でもそうだと言ったらどうなるんだろう。
ジスラン様が呆れていた顔を思い出して、とりあえずは黙る。

「アリアンヌ様がいなくなってから少しして、
 また変な噂が流れていたけれど、これでもうおさまるだろう」

「噂?」

「アリアンヌ様が公爵家の養女になった理由。
 伯爵家で散財しすぎてお金がなくなったから、
 アリアンヌ様が伯爵家を見捨てて出て行ったんだって」

「は?」

「どうせマーガレット嬢だろう。
 自分たちで追い出したのに、アリアンヌ様が公爵家の養女になって焦ってるんだ。
 今までのことがバレたらまずいとでも思ったんじゃないか」

「そんな噂を流したとしても、高位貴族の間ではもう真実がわかっているのにね」

「そうなんだ」

そういえばお義父様とお義母様が私を養女にする手続きをした時、
王家と他の公爵たちには事情を説明したと言っていた。
デュノア公爵と元王女の証言だもの。噂よりも信じるはず。

「三大公爵家はファロ家を切ることにしたそうだよ。
 当然、切られるのはバルテレス伯爵家もだ。
 いつまでつぶれずにいられるだろうね」

「三大公爵家だけじゃないわよ。
 ジョセフ様とアリーチェ様のところもでしょう?
 もちろん、うちも切らせてもらったわ」

「侯爵家にまで切られたら……」

「終わるでしょうね。まぁ、当然だわ」

にっこり笑う三人に思わず黙ってしまう。
ディオ様にも課題などでこき使われ、ひどい扱いを受けてきた。
それがバレたことでそうなったのなら、自業自得なのかもしれないけど。

ディオ様はバルテレス伯爵家に婿入りするんだよね?
だったら、ファロ家はあまり関係ないんじゃないかと疑問ではある。
私を虐げていたこと、ファロ伯爵は知っていたのだろうか。


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