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29.本当は守られていた
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めずらしくお義父様とお義母様も朝食の席にいる。
リオ兄様と私、四人で食事を終えると、私室に戻ってすぐに着替える。
今日から学園の新学年が始まる。
戸籍が外された時に一度辞めたことになっていたため、
アリアンヌ・デュノアとして編入することとなった。
用意された服は落ち着いたえんじ色のワンピースだった。
華やかではないが、首回りと袖や裾に同じ色のレースが縫い込んである。
軽くて動きやすくて少し気分が上がる。
出かける準備を終えた頃、リオ兄様が部屋まで迎えに来た。
「うん、似合ってる。だけど、無理しなくてもいいんだよ。
新学年になったからといって、今日から行かなくてもいい」
「ううん、大丈夫。無理はしていないわ。
ずっとリオ兄様と一緒にいて、もう十分のんびりしたもの。
学園に行けるくらい元気になったから!」
「そうか。それならいいが」
公爵家に帰ってきたころは不安で一人ではいられなかった。
だけど、毎日リオ兄様と過ごして、公爵家の養女になって。
リオ兄様とまた気持ちを確かめ合うこともできた。
弱っていた心と身体は少しずつ癒えて、もう元通りだと思えるくらいだ。
だから、ちゃんと学園に通って卒業したいと思えた。
学生会としての仕事もあるし、残り一年。
学園を卒業するのはこの国の貴族としては当たり前のこと。
リオ兄様の隣に立つ者として、恥ずかしくないようにしたい。
まだ婚約は公表できていないけれど、陛下からは許可が出ている。
私がラザール様と婚約解消したばかりだから、
公表するのは三か月後の精霊祭の夜会でということになっている。
筆頭公爵家の次期当主の婚約者として、これから頑張っていくと決めた。
だけど、リオ兄様は私を一人にするのが不安なようだ。
大丈夫だと言ったのに、なんとなく納得していない顔をしている。
リオ兄様と手をつないで玄関の外に出ると、馬車が準備を終えていた。
そこにいたのは御者のラルフだった。
ラザール様の婚約者じゃなくなったのに、どうしているの?
「おはようございます」
「ラルフ!どうしてここに?
あなたは王家の御者じゃないの?」
「いえ、私はアリアンヌ様の御者として雇われているのです。
ですから、今日からは公爵家の馬車の御者になります」
「どういうこと?」
よくわからずにリオ兄様に聞くと笑っている。
「ラルフはね、騎士団の元副団長なんだ。
アリアに危ないことがないように陛下と父上が手配したんだ」
「そうなの?ラルフが騎士団の副団長だったなんて」
騎士団の副団長ともなれば、平民出身なわけはない。
それに副団長は子爵位を授かっているはず。
御者をするような身分じゃないのに。
「アリアを守るために特別な任務を受けてもらっているんだ。
ラルフだけじゃないよ。そこにいる三人も元騎士団だ。
伯爵家にいる時も馬車の前後を守っていた」
「え?気がつかなかった」
馬車の後ろには馬が三頭と手綱を持った騎士が三人立っている。
この騎士達も元騎士団?公爵家の護衛の装備をしている。
「伯爵家に迎えに行くときは、気がつかれないように離れておりましたから」
「お父様に見つかったら何か言われそうだものね」
王家からの馬車なのに御者が一人だけだったことを、お父様たちは喜んでいた。
私のことがどうでもいいからそんな扱いなんだと言って。
元騎士団が四人もついて守っていたとわかれば怒っていたかもしれない。
「これからもアリアが学園に通学する時は守ってくれるから。
あとは、ルナ、サリー、ハンナが交代でつくから。
何かあったらすぐに言うんだ。わかったね?」
「ええ、ありがとう!
一人でも大丈夫だって思ってたけれど、みんながついていてくれるのね。
うれしいわ。みんな、これからもよろしくね!」
「「「「はっ!」」」」
「アリアンヌ様、今日は私がおそばにつきます」
「うん、ありがとう。よろしくね、サリー」
もう大丈夫だと思っていたけれど、やっぱりほんの少し怖いと思う。
ラザール様やマーガレットとディオ様、そして私を冷たい目で見る学生たち。
一人で立ち向かっていかなくてはと思うと、不安がないとは言えない。
その不安が吹き飛んでしまうほどうれしい。
馬車に乗ってリオ兄様に手を振ると、馬車は動き出す。
リオ兄様と離れるのも久しぶり。
見慣れた学園に入って、馬車は止まる。
サリーの手を借りて馬車を下りると、そこには意外な人たちが待っていた。
「アリアンヌ様、おはよう」
「おはようございます」
「おはようございます?ジョセフ様とアリーチェ様?」
なぜかお二人がそこに立っていた。
偶然、登校時間が重なったのかと思ったが、二人は私へ礼をする。
「え?」
「今日より、ジョセフ・イノーラはアリアンヌ様の護衛に付きます。
お許しいただけますでしょうか?」
「ええ?」
何を言っているのかと慌てていると、サリーが小声で教えてくれる。
「イノーラ家はデュノア公爵家の分家です。
公爵家次期当主の婚約者の護衛になるのは名誉なことです。
アリアンヌ様、許すとおっしゃってください」
「ゆ、許す?」
「ありがとうございます」
ジョセフ様がやっと頭を上げたと思ったら、次はアリーチェ様だった。
「アリアンヌ様。わたくしはイノーラ家に嫁ぐことが決まっております。
今日よりアリアンヌ様の学友としてそばにつくことをお許しいただけますか?」
「アリーチェ様まで!え?イノーラ家に嫁ぐ?」
「アリーチェ様はジョセフ様の婚約者です」
「そうなの!?え、あ、許します!」
「ありがとうございます」
やっとアリーチェ様も顔を上げてくれた。
急にこんなことになって、心臓の音がうるさい。
「あの、ジョセフ様、アリーチェ様。
公爵家の養女にはなったけど、前と同じようにしてもらえる?
せっかくA教室の仲間だと思っていたのに、なんだか嫌だわ」
「……アリアンヌ様がそういうのであれば」
「ふふ。そうですね。アリアンヌ様の要望ですものね」
いつものようににっこり笑ってくれる二人にやっと安心する。
手紙では連絡していたけれど、会うのは久しぶりだ。
「それじゃ、サリー。行ってきます」
「いってらっしゃいませ」
見送ってくれるサリーに手を振って三人でA教室へと向かう。
「それにしても驚いたわ。
ジョセフ様が分家なのは知ってたけど、アリーチェ様が婚約者だったのね」
いつも一緒にいるから仲がいいのはわかっていたけれど、
婚約したとは知らなかった。
「リオネル様の婚約が決まらないうちは公表できないからね」
「あぁ、そういうことだったんだ。
だから、もう公表してもいいのね」
「そういうこと。俺たちもずっと待ってたんだよ。
アリアンヌ様が公爵家に戻って来てくれるのを」
「ん?」
まるでこうなることを予想していたかのような発言に、
聞き返してしまう。
「ずっと私とジョセフはアリアンヌ様を見守るように指示されていたの。
危険な目にあうようだったら止めるようにと。
それ以外はあまり近寄らないようにと言われていたんだけど」
「え?でも、最近は普通に話してくれていたよね?」
「それはまぁ、不可抗力?
同じ教室なのに話さないなんて無理だろう」
多分、これもお義父様かリオ兄様が手を回していたんだろう。
命の危険がある時は助けるようにと。
それでも、私を助けてしまえばお父様が手放さなくなる。
ぎりぎりのところまで見守るだけにするように言われていたんだと思う。
それなのに、他の学生たちからかばってくれた。
命令されていないのに、助けてくれたのは二人の考えなんだ。
「また今日から同じ教室だし、一年間よろしくね」
「ああ、こちらこそ」
「ええ、もちろんだわ」
リオ兄様と私、四人で食事を終えると、私室に戻ってすぐに着替える。
今日から学園の新学年が始まる。
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用意された服は落ち着いたえんじ色のワンピースだった。
華やかではないが、首回りと袖や裾に同じ色のレースが縫い込んである。
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「ううん、大丈夫。無理はしていないわ。
ずっとリオ兄様と一緒にいて、もう十分のんびりしたもの。
学園に行けるくらい元気になったから!」
「そうか。それならいいが」
公爵家に帰ってきたころは不安で一人ではいられなかった。
だけど、毎日リオ兄様と過ごして、公爵家の養女になって。
リオ兄様とまた気持ちを確かめ合うこともできた。
弱っていた心と身体は少しずつ癒えて、もう元通りだと思えるくらいだ。
だから、ちゃんと学園に通って卒業したいと思えた。
学生会としての仕事もあるし、残り一年。
学園を卒業するのはこの国の貴族としては当たり前のこと。
リオ兄様の隣に立つ者として、恥ずかしくないようにしたい。
まだ婚約は公表できていないけれど、陛下からは許可が出ている。
私がラザール様と婚約解消したばかりだから、
公表するのは三か月後の精霊祭の夜会でということになっている。
筆頭公爵家の次期当主の婚約者として、これから頑張っていくと決めた。
だけど、リオ兄様は私を一人にするのが不安なようだ。
大丈夫だと言ったのに、なんとなく納得していない顔をしている。
リオ兄様と手をつないで玄関の外に出ると、馬車が準備を終えていた。
そこにいたのは御者のラルフだった。
ラザール様の婚約者じゃなくなったのに、どうしているの?
「おはようございます」
「ラルフ!どうしてここに?
あなたは王家の御者じゃないの?」
「いえ、私はアリアンヌ様の御者として雇われているのです。
ですから、今日からは公爵家の馬車の御者になります」
「どういうこと?」
よくわからずにリオ兄様に聞くと笑っている。
「ラルフはね、騎士団の元副団長なんだ。
アリアに危ないことがないように陛下と父上が手配したんだ」
「そうなの?ラルフが騎士団の副団長だったなんて」
騎士団の副団長ともなれば、平民出身なわけはない。
それに副団長は子爵位を授かっているはず。
御者をするような身分じゃないのに。
「アリアを守るために特別な任務を受けてもらっているんだ。
ラルフだけじゃないよ。そこにいる三人も元騎士団だ。
伯爵家にいる時も馬車の前後を守っていた」
「え?気がつかなかった」
馬車の後ろには馬が三頭と手綱を持った騎士が三人立っている。
この騎士達も元騎士団?公爵家の護衛の装備をしている。
「伯爵家に迎えに行くときは、気がつかれないように離れておりましたから」
「お父様に見つかったら何か言われそうだものね」
王家からの馬車なのに御者が一人だけだったことを、お父様たちは喜んでいた。
私のことがどうでもいいからそんな扱いなんだと言って。
元騎士団が四人もついて守っていたとわかれば怒っていたかもしれない。
「これからもアリアが学園に通学する時は守ってくれるから。
あとは、ルナ、サリー、ハンナが交代でつくから。
何かあったらすぐに言うんだ。わかったね?」
「ええ、ありがとう!
一人でも大丈夫だって思ってたけれど、みんながついていてくれるのね。
うれしいわ。みんな、これからもよろしくね!」
「「「「はっ!」」」」
「アリアンヌ様、今日は私がおそばにつきます」
「うん、ありがとう。よろしくね、サリー」
もう大丈夫だと思っていたけれど、やっぱりほんの少し怖いと思う。
ラザール様やマーガレットとディオ様、そして私を冷たい目で見る学生たち。
一人で立ち向かっていかなくてはと思うと、不安がないとは言えない。
その不安が吹き飛んでしまうほどうれしい。
馬車に乗ってリオ兄様に手を振ると、馬車は動き出す。
リオ兄様と離れるのも久しぶり。
見慣れた学園に入って、馬車は止まる。
サリーの手を借りて馬車を下りると、そこには意外な人たちが待っていた。
「アリアンヌ様、おはよう」
「おはようございます」
「おはようございます?ジョセフ様とアリーチェ様?」
なぜかお二人がそこに立っていた。
偶然、登校時間が重なったのかと思ったが、二人は私へ礼をする。
「え?」
「今日より、ジョセフ・イノーラはアリアンヌ様の護衛に付きます。
お許しいただけますでしょうか?」
「ええ?」
何を言っているのかと慌てていると、サリーが小声で教えてくれる。
「イノーラ家はデュノア公爵家の分家です。
公爵家次期当主の婚約者の護衛になるのは名誉なことです。
アリアンヌ様、許すとおっしゃってください」
「ゆ、許す?」
「ありがとうございます」
ジョセフ様がやっと頭を上げたと思ったら、次はアリーチェ様だった。
「アリアンヌ様。わたくしはイノーラ家に嫁ぐことが決まっております。
今日よりアリアンヌ様の学友としてそばにつくことをお許しいただけますか?」
「アリーチェ様まで!え?イノーラ家に嫁ぐ?」
「アリーチェ様はジョセフ様の婚約者です」
「そうなの!?え、あ、許します!」
「ありがとうございます」
やっとアリーチェ様も顔を上げてくれた。
急にこんなことになって、心臓の音がうるさい。
「あの、ジョセフ様、アリーチェ様。
公爵家の養女にはなったけど、前と同じようにしてもらえる?
せっかくA教室の仲間だと思っていたのに、なんだか嫌だわ」
「……アリアンヌ様がそういうのであれば」
「ふふ。そうですね。アリアンヌ様の要望ですものね」
いつものようににっこり笑ってくれる二人にやっと安心する。
手紙では連絡していたけれど、会うのは久しぶりだ。
「それじゃ、サリー。行ってきます」
「いってらっしゃいませ」
見送ってくれるサリーに手を振って三人でA教室へと向かう。
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「リオネル様の婚約が決まらないうちは公表できないからね」
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「そういうこと。俺たちもずっと待ってたんだよ。
アリアンヌ様が公爵家に戻って来てくれるのを」
「ん?」
まるでこうなることを予想していたかのような発言に、
聞き返してしまう。
「ずっと私とジョセフはアリアンヌ様を見守るように指示されていたの。
危険な目にあうようだったら止めるようにと。
それ以外はあまり近寄らないようにと言われていたんだけど」
「え?でも、最近は普通に話してくれていたよね?」
「それはまぁ、不可抗力?
同じ教室なのに話さないなんて無理だろう」
多分、これもお義父様かリオ兄様が手を回していたんだろう。
命の危険がある時は助けるようにと。
それでも、私を助けてしまえばお父様が手放さなくなる。
ぎりぎりのところまで見守るだけにするように言われていたんだと思う。
それなのに、他の学生たちからかばってくれた。
命令されていないのに、助けてくれたのは二人の考えなんだ。
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