ネオンサインとサイコパシー

粒豆

文字の大きさ
上 下
9 / 11

番外編2

しおりを挟む
結局断り切れずに恋と外へ来てしまった。
普段引き籠りがちなので、なんだか外出自体が久しぶりだった。


「それで、デートって何処行くつもりなんだ?」

「水族館」

「水族館? なんで?」

「キミはお寿司が好きだって言ってたから」

「いや水族館で寿司は食えないから!
 さてはお前、展示してある魚食う気だな!?」

「ラッコとかイルカって美味しそうだよね」

「ああいうのは食えないの!
 食いもんじゃないから! 食おうとすんな!
 水族館、行ってもいいけど絶対食おうとするなよ?」

「そんな。じゃあなんの為に水族館行くの?」

「鑑賞する為だろ!」

「そんなのつまらないよ」

「でも水族館はそういうもんなの!」

「ふーん、つまんないね」

「もうツッコむのも疲れたよ……」



恋と一緒に水族館へやって来た。
水族館の魚が食べられないと分かって、
恋はがっかりしているかなと思ったけど意外と普通に楽しそうだった。


愛貴あいきクンは熱帯魚に似ているね。
 派手な色がキミにそっくり。あ、ネオンテトラだって。
 ボクこれ好きだな。かわいい。キミに似てるよ」


恋は熱帯魚の入った水槽の前に張り付いて、
そこからずっと動かなかった。
俺も恋の隣で、ゆらゆらと泳ぐ派手な色の魚たちを見ていた。
ネオンカラーの魚を見て居ると、夜の東京を思い出す。
恋によく似合う、妖しくて恐ろしい夜の街。
恋もこの魚たちを見て、あの歓楽街を思い出しているのかな。


「~~♪」


恋は水槽を眺めながら、ご機嫌そうに鼻歌を唄っていた。
そういえば、恋と昼間にこういう風に出掛けたのは初めてだな。
夜には何度か出掛けた事もあったけど。
恋は普段は昼間に仕事だし、こういう『デート』は初めてだ。
独特な照明に照らされた水族館は、ネオン街とよく似ている。
暗闇に、魚たちの泳ぐ水槽だけはキラキラとしていて。

「……楽しいね。食べられない水族館なんか行っても意味ないと思ってた。
 でも来てみたらとっても楽しいよ。きっと、キミと一緒だからだね。
 一人だったら、やっぱり食べられない水族館なんてつまらないと思う」

「言っとくけど、食べていい水族館なんてないからな」

「そうなの? ボクは回転寿司と水族館の違いが分からないよ。
 同じ魚なのに食べていいのと、食べちゃダメなのが居るなんてむずかしいよ。
 動物だって同じさ。ボクにとっては豚も牛も犬も猫も人間も同じだよ。
 ぜんぶ美味しそうに見えちゃうよ」

「それは…… 考えちゃいけない部分なんじゃないか?」

「……でもボクは考えちゃうの。
 ボクって、普通の人は敢えて考えないようにしてるコトとかをつい考えちゃうんだよ。
 だから『キモい』って言われるんだけど。
 でもいつもぐるぐるしちゃうの。頭が。
 つい頭の中のぜんぶを言葉に出そうとしちゃうしね。
 喋るのなんか全然得意じゃない癖に」

「そうなんだ……」

「きっとボクは脳みその何処かがおかしいのだろうね。
 だけどそれを嫌だと思ったコトはないし、自分のそういう部分は嫌いじゃないよ。
 どんなに他人からキモいとかウザいって言われてもね」

「うん。恋はそれでいいと思うよ。
 俺はどうしても世間体とか気にしちゃうタチだから……。
 だから、ちょっと羨ましいよ、お前のそういうところ」


俺も恋のように生きれたら、きっと音楽で悩んだりしなかった。
そうであったならば、自分が良いと思って作った曲がウケなくても、
そんなこと気にせずに、ずっと自分の良いと思うものだけ作り続けて居られた筈だ。
俺は誰にも自分の曲が評価されないことに、腹を立てた。
いつも苛立っていた。
俺が評価されないのは、世間に馬鹿しかいないからだと他者を責めた。
そんな事ばかりを続けて居たら、いつの間にか音楽が楽しくなくなってしまって……。
そうして俺は破滅への道を勝手に転がり落ちて、今に至る。


「ベジタリアンと似たようなものでビーガンっていう概念もあって、
 ビーガンという言葉は、1944年イギリスでビーガン協会が設立された際に命名された名称なんだけど」
「ベジタリアンは様々なタイプの菜食主義者の総称だけど、
 ビーガンは卵や乳製品を含む、動物性食品をいっさい口にしない『完全菜食主義者』のことで」
「さらに、食だけに限定するのではなく、身の回りのものからできるだけ動物由来のものを避けることで動物の命を尊重する人達のことを『エシカル・ビーガン』って言うんだけどボクは人間を食べてみたいと思うんだ………………」

恋は聞いてもないことを勝手にぺらぺら話す。
恋の扱い方にも慣れて来た。
本人が言ってた通り、恋は考えてる事が勝手に口から出てしまうだけなんだ。
だからコイツのわけの分からない話に本気で付き合うなんてことしなくていいんだ。
恋の口から漏れだす不思議な言葉の中で、俺にとって価値のある言葉だけ自分で選んで聞けばいい。
全部を相手にしてたらこっちの頭がパンクしちゃう。
恋は相手が自分の話を聞いていようと、いまいと、
どちらでも気にしないのだからこっちもそれでいいんだ。
恋はとにかく他人を気にしない。
だからファッションも独特だし、言動も独特で。
それは、考え方も同じだった。
いつだって、自分の頭の中で独自の哲学みたいなものが広がってる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

ダンス練習中トイレを言い出せなかったアイドル

こじらせた処女
BL
 とある2人組アイドルグループの鮎(アユ)(16)には悩みがあった。それは、グループの中のリーダーである玖宮(クミヤ)(19)と2人きりになるとうまく話せないこと。 若干の尿意を抱えてレッスン室に入ってしまったアユは、開始20分で我慢が苦しくなってしまい…?

保育士だっておしっこするもん!

こじらせた処女
BL
 男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。 保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。  しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。  園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。  しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。    ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

平熱が低すぎて、風邪をひいても信じてもらえない男の子の話

こじらせた処女
BL
平熱が35℃前半だから、風邪を引いても37℃を超えなくていつも、サボりだと言われて心が折れてしまう話

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

処理中です...