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第5章「正義の履き違え」
番外編:幸せの逃避行
しおりを挟む⚠︎注意⚠︎
・82話でデューデン国へと逃げてしまったifストーリー
・リクエストありがとうございます!!感謝です!!
・テオドール×エリザベータ??
・BADEND??
・地雷要素あり
・深夜テンションです。いつも以上に文章が荒ぶっています。酷いです。酷いです。(念押し)
・ヤンデレ(クズ)←重要
**********
「こんな寒くてなんも無い国なんか捨ててさ、新しい国で嫌なこと全部忘れて暮らせたら…幸せだろうな。」
「…。」
「お前もそう思うだろ?」
母親の庇護を求める子供のよう縋り付いてきた彼の手を、私は振りほどくことは出来なかった。
「…そうですね。きっと幸せだと思います。」
私のお腹から顔を上げた殿下の瞳は戸惑いで揺れていた。自分から言ったくせにと思いつつ、私はふんわりと微笑んでみせる。
「デューデン国なら、あたたかくて、海もあって…毎日新鮮なお魚の食べ放題なんでしょう?とても素敵で、魅力的です。」
不躾ながらも、彼の頭を優しく撫でる。癖がなくサラサラとした黄金の髪は、うっとりするほど触り心地が良い。
「…マジで言っているのか?」
彼は、私の心を探るような視線を向けてくる。その瞳の奥には、期待の色が隠れていた。そんな彼に私は深く頷いてみせる。
「えぇ。私も一緒に連れて行ってくれますか?」
サファイアの瞳をまっすぐに見つめ、笑ってそう言えば、彼も笑ってくれた。彼には似合わない、酷く歪んだ笑みで。
「あぁ、良いぜ。一緒に行こう。」
彼の瞳が淡く煌めき出すと、ノルデン帝国も淡い青い光に包まれた。
一つ、また一つと、私と殿下が居た痕跡が、記憶が皆の中から消えていく。ぼんやりと窓の外の景色を眺めながら、私たちの存在が消えていくのを感じた。
しばらくして、帝国から青い光が消える。
それと同時に、私たちの存在もこの国から消えたのだ。
ここに居るのは、皇太子でも公爵令嬢でもなく、肩書きなんて存在しない、ただの名も無き人間。
それに気付いた時、不思議と身体が軽くなった。
その、あまりの軽さに何故か涙がこぼれた。
*****
南にあるデューデン国で暮らし始めて、早5年が経った。
以前のような裕福な暮らしとは程遠かったが、それでも幸せな5年間だった。
デューデン国の人々は、余所者の私たちを歓迎してくれた。土地柄なのか、デューデン人は明るく陽気で、どんな人間に対しても思いやりを忘れない、とても素敵な国だった。周りの助けもあり、私と殿下は少しづつ、この国に適応していったのだ。
そんな、平和な日々を送っていた私と殿下の関係性が変わったのは、いつ頃だっただろうか。最初の1年は、そんなに変わっていなかったと思う。
2年目、彼は私に敬語をやめろと言ってきた。自分はもう皇太子ではないのだから、と。確かに彼の言う通りだと思った私は敬語をやめた。そのおかげか、彼との信頼が深まった気がした。
3年目は……よく覚えていない。
朧気に覚えていることといえば、彼が何度も「ごめん、ごめん、」と泣きながら私に謝ってきたこと。その縋り付くような手を拒めなかったこと。
お互いに強がって見せていたが、慣れない土地で、本当は不安だったのかもしれない。その不安を誤魔化すかのように、私たちは肌を重ねた。
そして、私のお腹には2つの小さな命が宿ったのだ。
時折、誰かが耳元で「貴女は本当に、それでいいの?」と囁いていたが、今は聞こえない。
今ならその囁きに、はっきりと答えられるのに。「これで、良いのよ。」と。
自分が選んだ選択肢が、間違いだなんて思っていない。
だって、今がとても幸せだから。
*****
「じゃ、行ってくる。」
「行ってらっしゃい。たくさん稼いできてね。」
「任せろ。ついでにお土産も買ってきてやるからな。」
彼はそう言うと、私の頬に唇を落とす。私もお返しに、彼の頬に唇を落とした。これが毎朝の恒例行事。
最初は恥ずかしいと言って嫌がっていたのだが、何度もやっていくうちに、いつの間にか恥ずかしさは消えていた。
慣れというのは恐ろしい。
「パパ!僕もっ!」
「俺も!俺も!!」
私の腕の中に居る小さな双子の息子たちは、彼にキャッキャと腕を伸ばす。
「よっしゃ、覚悟しろ!」
「きゃ~!」
「きもーい!!」
「そんな言葉、何処で覚えやがった!」
私の腕の中で行われている、夫と息子のじゃれあいに頬が緩む。
こういう時「あぁ、幸せだなぁ。」と感じるのだ。
「あら、あなた。そろそろ行かないと遅刻するわよ。」
「あ、やべ。じゃ、今度こそ行ってくるわ。」
「あ、待って。テオ。」
「んだよ、奥さん。俺が行っちゃうのが寂し」
「ついでにゴミも出してきて。」
「………。」
「「パパ、ゴミ!!」」
「パパはゴミじゃありません。」
「ぶっ、」
そのやり取りに、思わず吹き出してしまった。
くすくすと笑う私を、天使(息子)たちは嬉しそうに頬を擦り寄せ、肩まで短くなった私の髪を撫でてきた。
「ママ、面白かったの?」
「ママ、楽しかったの?」
「えぇ。あなた達は最高ね。」
あのまま、エリザベータ=アシェンブレーデルとして生きていたら、こんな幸せを得ることは出来なかっただろう。
きっと、家のために見ず知らずの人と結婚していたはずだ。だが、あの時はそれが不幸だとは思っていなかった。貴族の娘である私にとって当たり前のこと。義務なのだから。寧ろそれが幸せに繋がると信じて疑わなかった。
だが、こうして本当の幸せを知った私は、もうあの頃の自分には戻れないだろう。家庭を義務として割り切れない。
だから、これで良かったのだ。
今の私はとても幸せ。
幸せすぎて、少し怖い。
*****
―――ゴーン、ゴーン、
「―っ、」
時計の音に飛び起きる。
当たりを見回せば、リビングは茜色に染っていた。
…どうやら、ソファで寝てしまっていたらしい。昼間、息子たちと庭で遊んでいたから疲れていたのだろう。
チラリと時計を見れば夕刻をさしていた。もうすぐ、テオが仕事から帰ってくる。そろそろ夕食の支度をしなければと、ソファから立ち上がった。
「…?」
ふと、違和感を感じた。
今日は妙に静かだ。いつもなら、この時間帯には外から家に帰る子供たちの笑い声などが聞こえてくるというのに…。子供の声どころか、自然の音がまったく聞こえない。
嫌な胸騒ぎを覚えた私は、2階でお昼寝中の息子たちを起こそうと階段へと向かう。
私が階段を上がろうとすると上の方から、みし、みし、と何かが軋む音が聞こえてきた。これは、階段を下りる時に鳴る音。
息子たちがお昼寝から起きたのだろう。
「起きたの?」
息子たちに声をかけるも、返事は帰ってこない。だが、足は止まっていないようで、みし、みし、という音だけは聞こえてきた。
みし、みし、みし…
ひとつだけの足音。
…ひとつ?
そんなはずはない。
あのふたりはいつも一緒に行動しているのだ。一人で1階に下りてくることなんて、今まで一度も無かったはず。
じゃあ、この足音は、
「お久しぶりです、姉上。外の世界は楽しかったですか?」
頭上から降ってきたのは、柔らかな声音。その声は記憶にあるよりも、少し低かった。
私を〝姉上〟と呼ぶのは、この世界でたった1人しかいない。
恐る恐る顔を上げて、後悔した。
―あぁ、なんで、
みし、みし、と階段を軋ませながらおりてきたのは、以前の面影を残したまま、立派な青年へと成長した義弟だった。
彼は、5年前と変わらず穏やかな笑みを浮かべている。
その表情に、言い知れぬ恐怖を感じた私は思わず後退りをするが、彼は無常にもその距離を着実に縮めてきた。
「…あ、アル、ベルト、様、なぜ…ここに…」
「300年前、確かに僕はアルベルトでした。ですが、今はユリウスです。どうぞ、昔のようにユーリと呼んでください。」
「馬鹿な事を言わないで…!」
以前と同じように接してくる彼が、たまらなく恐ろしい。その上、彼は私の問いに答えていない。何故、彼がここに。何故、彼が2階からおりてきたのか。
何故、何故、何故…
ふと、嫌な鉄の香りが鼻腔を刺激してきた。何処かで嗅いだことのある匂い。一体どこから…。
視線を泳がせると、彼の手に視線が止まった。
「…ひっ、」
彼の両手は真っ赤に染っていた。
あまりにも鮮やかな赤色に、血の気が引いていくのを感じる。
そして、恐ろしい可能性に行き着いてしまった。
「まさか…」
「あぁ、これですか?すみません。こんな汚れた姿で貴女の前に現れてしまうだなんて……紳士のすることではないですよね。」
私がよく言っていた口癖を言いながら、くすくすと笑う彼に震えが止まらない。
「ふざけないで!何をしてきたの!?」
「ふざけているつもりは無いですよ。僕はただ間引いてきただけです。」
「ま、間引く?」
「えぇ。作物の発育を助けるために、あいだの苗を引き抜く方法です。つい先程、貴女の成長を害する2つの苗を摘み取ってきました。」
発育?苗?2つ?
摘み取る?
私の頭に過ぎるのは、自分の命よりも大切な小さな宝物。
「あ、あぁ……そんな…嘘よ…」
彼の言葉の裏に隠された残酷な事実を知った私は、その場に崩れ落ちる。
これは幸いと、彼は一気に距離を詰めてきた。そして、彼も私の前でしゃがみこむ。
「貴方から実った苗は、とても可愛らしくて、愛おしさを感じました。」
「…やめて、」
「愛せると、本気で思っていたんです。」
「やめてってば…」
「でも、駄目でした。貴女から無償の愛を注がれていると思ったら、愛しさよりも妬ましい気持ちの方が強くなってしまい…」
「もう黙ってよ!!」
彼が言っていることが、何一つ理解できない。いや、理解したくない。
彼は異常だ。淡々と恐ろしいことを語る彼に、狂気すら感じる。
「…可哀想な姉上。あんな害獣にそそのかされてたせいで、貴女はこんなにも苦しんでいる。…でも、大丈夫ですよ。もう、貴女を苦しませる物はありません。雑草も害虫も、貴女を引き抜いてしまった害獣も全て摘み取ってきましたから。」
その言葉に思わず顔を上げれば、甘い蜂蜜のようなシトリンの瞳と目が合う。
その瞳の奥に潜んでいるギラギラとした猛禽類の光に、全てを察した。
「…っ!」
私は弾かれたかのように身体を起こし、走り出した。転びそうになりながらも、無我夢中でキッチンへと向かう。
そんな私の後を、彼は悠然と追いかけてきた。
「鬼ごっこですか?懐かしいですね。幼い貴女と良く日が暮れるまで遊んでいました。」
酷く愉しげに笑う彼の言葉なんか、もう耳に入ってこない。
目的のものを見つけた私は、それを掴み、背後まで迫ってきた彼にその矛先を向けた。
この人は、いつだって私の幸せを捻り潰してくる。まるで、虫を相手にするかのように、簡単に、淡々と、無慈悲に、呆気なく。
そんな残酷な彼を許せるものかっ!!!
私は怒りの感情が赴くまま、その鋭利な包丁を振り上げた。
が、
「―あっ!」
意図も容易く彼の手によって、包丁は弾かれてしまった。
勢いよく床に突き刺さった包丁を拾い上げようと手を伸ばすよりも先に、彼の両手が私の首を捕らえた。粘性度の高い、ねちゃりとした赤い液体が、私の首にまとわりつく。
決して強い力ではない。それでも、私の身体は動けなくなってしまった。
「知っていますか?人間は急所を掴まれると、身動きが取れなくなってしまうんです。まぁ、例外もあるでしょうが。」
「…は、な、離して…」
「ふふ。本当は、直前まで貴女に刺されてもいいと思っていたんですけどね。」
「…ぁ…」
「でも、やめました。僕が死んでしまったら、貴女は1人になってしまう。」
「…ぅ…」
私の首に手を添えたまま話し続ける彼に、激しく滾っていた憤怒の炎は呆気なく鎮火してしまった。今は、ただただ彼が怖い。
「怒りに身を任せたまま僕を殺せば、貴女はきっと後悔し、自害の道を選ぶでしょう。」
「…。」
信じられないものを見るように、彼を凝視すれば、彼はふんわりと笑ってみせた。
「わかりますよ。だって僕は300年間、ずっと貴女のことだけを見てきましたから。そんな僕にとって、貴女がこうして生きていることは奇跡なんです。その奇跡の花をこんな所で散らす訳にはいかない。」
そこまで言って義弟は俯き、ひとつ息を吐く。俯いたまま、彼は上目遣いで私を見つめてきた。
「……やっぱり、貴女は何も知らないままでいい。」
首に添えてある彼の手にぐっと力が入る。
その圧迫感に、息苦しさを感じた。
その手を離して欲しくて、彼の手の甲を引っ掻くも大した効果は出ていない。…いや、そんなことはなかった。彼の甲に薄い傷が出来ると、蜂蜜色の瞳の奥の方からどろりとしたが劣情が見えた。どちらにせよ、私の寿命を縮ませるだけの効果だったようだ。
エサを求める魚のように、口をパクパクさせると、彼は薄く笑った。
「苦しいですか?可哀想に。では、貴女に僕の酸素を差し上げます。」
そう告げると彼は突然、己の唇で私の唇を塞いできた。
「…ん、ぁっ…!?」
突然唇を襲った柔らかな感触に目を見張り、思わず口を開く。そして、彼は僅かな隙間さえも与えないほどに私の口を覆い、空気を送り込んできた。正直、そんな空気、何の助けにもならない。
近くにある彼の顔を引っ掻いてやろうと思った瞬間、彼の口から生暖かい液体が流れ込んできた。
「んんんっ!?」
咄嗟に彼から離れようとしたが、彼の手が私の首を押さえつけているため、身動きが取れない。それに、少し動いただけで、自ら首を絞めているみたいに苦しくなるのだ。
どうしようもならない状況に絶望と苦しさで涙が滲んできた頃、限界を感じた私はその液体を喉に流し込んでしまった。
噎せ返るような鉄の匂いに吐き気がする。が、その鉄の匂いは、鼻に抜ける時だけ、甘い林檎のような香りがした。
液体を飲み込んだのを確認した彼は、満足気に目を細め、口を離した。
一気に肺に酸素が肺に入ってきたため、軽く噎せ込む。
口と一緒に首から手も離してくれたのだと思った瞬間、彼は角度を変えて、また唇を塞いできた。先程よりも、より一層深い口付けに目を白黒させる。
だが、塞ぐだけでは終わらず、彼はあろうことか自身の舌を私の口腔にねじ込んできたのだ。
「…ひっ、う…ふっ、」
ぬるりとした生々しい舌の感触に、身体が魚のようにビクリと跳ねる。初めての感覚に、涙が溢れ出した。怖い、怖い、怖い…!
本能的に逃げようとするも、彼の手が私の腰を掴んでいるため身動きがとれない。その上、逃がさないと言わんばかりに、彼は隙間なく身体を密着させてきた。
恐怖でパニックに陥っている私の事なんか、お構い無しに、彼の舌は激しさを増してゆき、今度は私の舌を絡めとってきた。
「…ぁ……ふぐっ!?」
舌が絡み合う度に、唾液が溢れ出し、はしたなく口元を濡らしていく。それを拭う余裕なんてない。
粘稠度の高い音が部屋中に響き渡り、より一層心臓をおかしくさせていく。
口腔と聴覚を犯されて、もう自力では立てなくなってきた頃、ようやく彼の唇が離れていった。
嫌がらせのように耳元で熱い吐息を吐かれ、肌が粟立つ。
酸素が足りなくなった頭で、ぼんやりと彼を見つめれば、彼も私をじっと見つめてきた。
「…初めてだったのですか?」
「…?」
頭が思うように働かない。
首を傾げれば、彼は静かに首を横に振った。
「いえ、なんでもありません。どうせ、忘れますし。」
「……わ…しゅ……すれ……りゅ…る…?」
頭だけでなく、視界もぼんやりとしてきた。
言葉も呂律が回らなくなり、言葉を上手く紡げない。
とうとう自分の身体を支えられなくなってしまった私は、彼の胸へと倒れ込む。そんな私の身体を受け止めた彼は、私の頭を優しく撫でてきた。
「貴女は何も気にしなくて良いんですよ。」
「…そう……なの…?」
「えぇ。だから、ゆっくりとお休みなさい。」
その甘く優しく声に導かれるように、私の意識は微睡みの世界に堕ちていった。
*****
林檎のような甘い香りが、鼻腔を擽る。
その香りに誘われて、私の意識が微睡みから浮上した。
「おはようございます、姉上。」
声がする方へ顔を向ければ、義弟がニッコリと私を見下ろしていた。
…どうやら、私は義弟に膝枕をしてもらっていたらしい。
「ユーリ?」
「はい。」
義弟の愛称を呼ぶと、何故かいつも以上に嬉しそうに瞳を細めている。一体どうしたのだろう。いや、それよりも…
「ここは?」
「カモミール畑です。」
頭を義弟の膝に預けたまま、当たりを見渡せば、真っ白なカモミールの花が一面に咲いていた。
「忘れてしまいましたか?姉上が行きたいと言ってきたんですよ?」
「そうだったかしら?」
「そうですよ。」
義弟がそう言うなら、そんなんだろう。思い出せないのは、きっと寝惚けているから。
…でも、私はもっと大切なことを忘れている気がする。頭を支え、考え始めた私を義弟は心配そうに見下ろしてきた。
「姉上?」
「なんかね、大切なこと忘れている気がするの。何かしらね…。」
「…。」
義弟は優しく頭を撫でてきた。
「ユーリ?」
「きっとそれは夢ですよ。」
「夢?」
「えぇ。夢というものは不思議なものです。覚えていないことの方が圧倒的に多い。きっと姉上も夢の記憶を微睡みの世界に置いてきてしまったのでしょう。」
「…なるほどねぇ。」
確か、前にも似たようなことを義弟に言われた気がする。つまり、そういうことなのだ。これは、よくあること。
義弟の膝からムクリと起き上がり、寝癖を整えようと髪に触れる。そして、違和感を感じた。
「…あら?」
「どうかしましたか?」
「ねぇ、ユーリ。私の髪って、こんなに長かった?」
記憶にあるのはもっと短かったはず。確か、肩までしかなかったような…。
首を傾げながら自身の栗色の髪を弄っていると、義弟も同じように首を傾げてきた。
「いつもと変わりませんよ?」
「そう?……そうよね、ごめんなさい。変なこと言っちゃったわね。まだ寝ぼけているみたい。」
「謝らなくて大丈夫ですよ。…そろそろ、邸に戻りましょう。少し、冷えてきました。」
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「そうね、帰りましょう。」
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「ふふふ、そうね。早く帰らないと、怒られてしまうわ。」
「その時は一緒に怒られましょうね。」
「怒られる前提で帰るだなんて、嫌よ。」
お互いくすくすと笑いながら帰路に着く。
きっと、こんな何気ない日々が、これから先、ずっと続いていくのだ。
ずっと。
ずっと。
あぁ、私は幸せだ。
ただいま、世界。
メリーバッドエンド
「植え替え」
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