上 下
12 / 27

タイムリミット

しおりを挟む
デート初日、レイとスミレは晴れて付き合う事になったのだが、てっきり告白の流れでスミレからキスされるのかと思いきや、何もされないままその日は解散し、ちょっとだけ期待していた俺は自室で燻っていた。
するとそこにスミレが勝手に上がり込み、俺のベッドに腰掛ける。
これはまあ、いつもの事なので咎めたりはしないが、さっきまでレイとしてスミレに会っていた事を思うと、ちょっと変な気分だ。それに男としてスミレからキスされた身としてはかなり気まずい。
しかもよりによってベッドに座るな。
「どうしたの?」
スミレは期待を裏切らない無表情っぷり。
「こないだキスした事、気にしてる?」
どっ、どうしてスミレって奴はこうもど直球なんだ!
俺はテンパった顔を見られまいと、スミレに背を向けてベッド下であぐらをかいた。
「全然。俺、欧米圏だから」
あれがファーストキスだったのに、俺はなけなしのプライドから大いに嘯いてしまう。
「でも弥生、泣いてた」
「泣いてねーし」
泣き顔をスミレにバッチリ見られたくせに、俺は男としてつい虚勢を張ってしまった。
やっぱりかわいくないな、俺。レイだったらもっと上手くやるのに。
レイを演じている時の俺は、自分が自分でないようなあざとい事が平気で言えていた気がする。
「弥生、泣く程イヤだった?」
「別に」
男の俺って、こうも素直じゃなかったっけ?
俺は素直になりたいのに、なんでかぶっきらぼうになってしまう。
「俺、弥生の嫌がる事はしたくないんだ」
とかなんとか言いながら、スミレは後ろから俺の胸に両腕を回す。
「おいおいおいおいおい、おい、言ってる事とやってる事が違うじゃねーか」
俺は気が動転してスミレの腕を引き剥がした。
「嫌がってたの?」
「それ以前に男同士だろ、どうした?」
スミレの奴、レイに手が出せなかったからって俺で発散させようとしてないか?
わざわざそんな禁忌犯さなくても、レイに抱きつけばいいのに。
「まあ、そうなんだよな」
「?」
「俺、弥生の嫌がる事はしたくないんだ」
「だから?」
壊れかけのラジオかよ。
「うん、弥生はさ、俺が他の女の人と付き合ったらイヤ?」
なんだ、そんな事か。
確かに、スミレがレイ(俺)以外の女と付き合ったらショックだが、相手はレイ(俺)だから、寧ろ大いに応援したい。
「イヤな訳ないだろ。俺はかねがねお前の行く末を心配してたんだから、うまくいけばいいと思ってる」
「……そっか」
後ろからため息と共に呟かれたその言葉は、俺にはどうにもガッカリしているように聞こえた。
本来なら、彼女が出来て、親友も祝福してくれて、万々歳のはずだろうに。俺には彼女ができた事がないから解らないけど、マリッジブルー的なものなんだろうか?
「恋愛の事でなんかあったら、何でも相談しろよ」
俺は兄貴風を吹かせて腕を組んだ。
「弥生、童貞じゃん」
「うるせ」
しれっとスミレが突っ込みを入れ、それに俺が反論する、これが俺とスミレの日常。俺の役割はスミレの親友で、スミレの恋人役はレイなんだ。

弥生のポジションはこれでいいんだ……


兎にも角にも、曲がりなりにも俺はスミレの恋人になれたんだ、あとは流れに任せてあいつに思い切り甘えていればいい。

俺達は週に一回、学校終わりや休みの日に3時間弱だけ会った。本当はもっとずっとスミレと一緒にいたかったが、神様はそれ以上を叶えてはくれない。俺はいつも時間ばかり気にして、デートの後半は逃げるように別れて、だから、スミレがレイを家に誘ってくれた時は素直に助かった。俺にとっては移動時間がかからない事は大変都合が良かったし、帰宅途中で変身が解けて周囲から白い目で見られるリスクも軽減される。家の裏口からスミレの家まではものの数秒しかタイムロスがないので、その分長くスミレといられる。願ったり叶ったりだ。
そして今日はその自宅デートの日な訳で、俺はスミレの迎えの申し出を断り、わざわざメールで住所を送ってもらい、スマホのナビを頼りにスミレ宅に訪問したていでお邪魔している。
俺はスミレの後について部屋に入ると、大根役者さながらの棒台詞を口にした。
「わぁ、スミレの部屋、想像通り整ってるね」
いつも整ってるが、今日はやけに整ってないか?
少なくとも、昨日、俺がここにUSBを借りに来た時は机の上に参考書が出しっぱなしだった。
それになんだ、普段俺には座布団の1枚も用意してくれないのに、クッションなんて置いてるじゃないか!
テーブルにセッティングされているグレーのクッションは、レイ用にスミレが用意してくれた物だろう。
「座って下さい。お昼は食べましたよね?冷蔵庫にメロンがあったから、デザートに持って来ます」
スミレがそのまま部屋を出ようとするので、俺は事前に駅前で買っておいたシュークリームの箱をテーブルの上に置いて引きとめる。
「いいよ、いいよ、お土産のシュークリーム持って来たから、一緒に食べよ?」
「じゃあ、お茶持って来ます」
「お構いなく~」
スミレがスタスタと階段を駆け下りて行き、俺は部屋でひとり憤っていた。
「メロンだなんて、弥生の時にはそんな気遣いなかったろ!?」
親友と恋人では、扱いがこんなに違うのか。
スミレの奴、浮かれやがって。
「でも、レイが来て浮かれてるって事は、喜んでくれてるって事だよな」
かく言う俺も、コートの下は、浮かれてストライプのロングシャツに細いベルトなんかまわして、まだ肌寒い春先に黒のホットパンツなんかも履いちゃってて、気張り過ぎてる事この上ない。
街でこんな格好をしたらまたスミレに不用心だと怒られるから、今日は露出できるいい機会だってんで(※露出狂ではない)生の太腿丸出しで来ちゃったけど、体育の授業で短パンを履きなれているせいか、どうってことないな。寧ろスカートより楽でリラックス出来る。
俺が体育座りをしてスミレを待っていると、彼は俺のそんな姿を見るなり、テーブルに飲み物を置き、クローゼットから茶色いブランケットを取り出して脚に掛けてくれた。
「あ、ありがとう」
この部屋はエアコンも効いているし、別に寒くはなかったのだが、せっかくスミレが気を回してくれたので、甘んじてそれを受け入れた。
「映画でも観ますか?」
「いいね、せっかく2人でいるんだから、怖いの観よう」
スミレは俺の向かい側に座り、リモコンでテレビを着けると、映画の一覧画面を表示させる。俺はその中から、気になってはいたが、1人では怖くて観れなかったやつを指差した。
「コレコレ、前からスミレと観たいなって思ってたんだよ。せっかくだからカーテン閉めて暗くして観よう」
「暗くしてって、他のにしませんか?」
俺がウキウキはしゃいでいるのに対し、スミレはどこか浮かない表情だ。
「なんで?」
スミレ、ホラー苦手だったか?
弥生としてよく一緒に観てたのに、スミレはいかなる時も無表情だから、本当は苦手だったのに、俺が気付いてなかったんだろうか?
「なんでって……まぁ、いいか」
スミレの煮えきらない態度は気になったが、部屋を暗くし、俺達はベッドに凭れかかって並んでホラー映画を見始めた。
ガサガサガサガサ……
「はい」
最初は平和なもので、俺はお土産の箱を荒らしてスミレの口にシュークリームを押し込んだり、彼が用意してくれたペットボトルのお茶をゴキュゴキュ喉を鳴らして飲んだりしていた。
弥生でいる時と、やってる事はなんにも変わらないな。
そんな安心感から油断していたが、映画も佳境に入り、バンバンオバケが出始めると、俺は恐怖でスミレの腕にしがみついていた。
ここまでは弥生の時からよくやっていた事だけれど、いかんせん、今の俺はレイであって女の体なのだ、一旦落ち着いて我に返ると、物凄く変な空気が流れている事に気付き、映画が頭に入ってこなくなる。
「ごめん、怖くて、隣に人がいると、つい抱きついちゃうよね」
俺はバツが悪くてソロソロとスミレから離れた。
「レイさん、絶対に俺以外の男とホラー映画観ちゃ駄目ですよ」
「あ、はい」
俺は恐縮して小さくなる。
「どうぞ」
「え、うん」
スミレが前を見たまま俺に腕を差し出し、俺はそれに躊躇いつつもしがみついてみた。
細いのに程良く筋肉質で、頼り甲斐のある腕だ。
俺は何を意識しているんだろう?
スミレは優しくて、未だにキスすら迫ってこない紳士なのに、変に意識して気まずくしちゃって、恋人同士なら腕を組むくらい普通なのに。
それにスミレとは、一緒にいられるだけで幸せだと思っていたけど、こうして腕を組んでいると、凄く温かい気持ちになる。ずっとこのまま、こうしていたいな。
スミレはどう思ってるのかな?
俺と同じ気持ちだったらいいな。
俺はボンヤリそんな事を考えながらスミレの肩に頭を凭れかけ、映画のエンディングロールをウトウトと眺めていた。
「レイさん、寝ちゃいましたか?」
コソッとスミレが俺に耳打ちし、俺は夢うつつのままコクリと頷く。
「ぅん……ベッドで寝たい」
俺は弥生でいる時の気持ちで、スミレのベッドに潜り込んでゆっくり休みたかった。
「ベッドは駄目だって」
「いつもは寝かせてくれんじゃん」
「は?」
俺はこの時少々寝ぼけていて、自分が何を言っているのか全く自覚していなかった。だからその発言でスミレがちょっとムッとしているのもに全然気が付かない。
「レイさん、浮気とかしてないですよね?」
「……するわけない。だってスミレの事が……」
昨日、服選びで夜更ししすぎたな……眠過ぎる。
「が?」
もう瞼も完全に落ち、眠いのに先を促され、俺は寝かせてほしくて素直に答えた。
「好き……だから?」
「良かった。でも前の彼氏の家と間違えるのはやめて下さい」
「ぅ……ん」
俺は否定するのも面倒で、適当に返事をしてスミレの肩から腿の上へ頭をずり落とす。
「ちょっと、レイさん?」
「あっつ……」
ブランケットのモコモコが煩わしくて、俺はそれを腿で挟むように片脚を出した。
「まいったな……」
気配で、スミレがいつものように後頭部を掻いたのが解る。スミレは困った時いつもこうするのだ。
俺が気にせず身動ぐと、スミレは切羽詰まったように熱い吐息を吐く。
「っ……レイさん、わざとですか?」
『なにが?』と思ったが、俺はスミレの腹に向けて寝返りをうった。
「絶対わざとですよね」
俺が『だからなにが?』とうっすら思いながら寝息をたて始めると、急に体が宙に浮いた感覚がして、驚いて重い瞼を半分開けると、自分はスミレに抱かれ、ちょうどベッドに下ろされたところだった。
俺は自分が女であった事も忘れ『男子高校生をこんなに軽々と持ち上げるなんて、やっぱりスミレって意外と逞しいんだよな』なんて呑気に思っていた。
「ぁ……ベッド、いいの?」
そう言えば、さっきまでスミレはベッドに上がるなと言っていたはず。
俺はスミレの胸に掴まり、上目遣いで問うた。
「駄目ですよ。だって今日は、そこまでするつもりはなかったんですから」
「ん?」
よく解らないけれど、俺はフカフカのベッドの誘惑に負け、再度瞼を閉じようとした。
そんな時──
「レイさん」
スミレが俺に跨り、ゆっくり顔を近付けると、彼は俺に啄むように唇を合わせてきた。
「なっ!」
生々しいぷっくりとした感触が唇に触れ、俺はびっくりして飛び起きようとしたが、スミレに両肩を押さえられて身動きがとれなくなる。そうするとスミレはエンジンでもかかったように、最初は軽く、徐々に激しく俺の口内を舌で侵していった。
うわうわうわうわっ、俺、最近ファーストキスを済ませたばっかりなのに、こんな、こんな激しいキスをされたら、心臓発作で死んじゃうよ、と思う程、俺の心臓はバクバクと鼓動を打つ。
俺の未熟で臆病な舌はスミレの器用な舌に絡め取られ、呆気なくスミレの口中へ吸い出される。俺は呼吸もままならず、ただただだらしなく口の端から唾液を垂れ流した。
「ぁっ、はぁ……」
俺は脳髄まで侵されているような感覚に襲われ、アダルト動画みたいに卑猥な声が止められなくなっていた。
俺、男なのに、キスされたくらいでこんなにも息を乱して、恥ずかしい!!
俺は自分がレイである事もすっかり忘れ、文字通り顔から火が出る思いでシーツを握り締めて羞恥に耐えた。
「レイさん、俺が男優になったような気持ちになるから、あんま、イヤらしくしないで下さい」
なんのこっちゃ。
少しだけ唇を離したスミレは軽く息を乱し、頬をピンクに染めていて、俺の目にはそんな彼の様子が淫猥で、新鮮に映った。
完全無欠のスミレでも、乱れる事があるんだ。
恥ずかしいけれど、俺はちょっとだけ興奮する。
「はぁっ、はぁっ、えっ?えっ?」
それにしても、勝手に1人で盛り上がっておいて、とんだ言いがかりだ。というか一体誰のせいでこんなに喘がされていると思ってるんだ。しかも股の辺りが発熱した懐中電灯でも押し付けられてるみたいに痛い。
そこをそんなにして、どうするんだよ。
俺は恨みがましく下から彼を軽く睨む。
「スミレ、なんか、あすこになんか当たって、痛い」
「はい」
あわよくば退いてくれという意味で言ったが、スミレは俺のおでこに自分のおでこを乗せたまま目を閉じて退いてくれない。
人の上で瞑想すな。
「スミレ」
「ちょっと待って」
「……」
同じ男だから気持ちは解るが、男同士でこれ以上どうしろと言うんだ。
「スミ──」
「すいません、やっぱ駄目です」
「え?」
突然、今度は首に舌を這わされ、俺はくすぐったくて笑い出し、スミレの胸板を両手で押し返す。当然、俺の力ではその厚い胸板はびくともしないのだが、スミレは拗ねたようにジト目で顔を上げた。
「じゃれてるつもりないんですけど」
「だって、ごめんて」
俺はすっかり目が覚めて、ベッドヘッドの目覚ましに目をやる。
エビフライを食べてから約2時間40分、そろそろ帰り支度を始めてもいい頃合いだった。
「そろそろ帰る支度しなきゃ」
俺はモゾモゾと蠕動運動しながら枕元にずり上がる。
「今日はまだ帰せません」
スミレに真剣な顔で肩を掴まれ、俺は目を丸くした。
「え、でも、帰らないと」
そろそろ男の体に戻──
「あっ、あーーーーーーーっ!!」
俺はそこでようやく思い出した。俺は今レイの姿で、女体で、スミレの恋人である事を──
そしてスミレは多分、今まさに俺を抱こうとしている。
「今日はそんな大声を出しても誰も居ませんから、大丈夫です」
「なにがっ!?」
自覚した途端、俺は大パニックに陥り、ジタバタと手足を動かして暴れた。
そうだった、そうだった、スミレは紳士だけど健全な男子高校生で、本当は年相応にちゃんとアッチの方にも興味があって、当然、恋人のレイ相手に欲情する事だってあるんだ。俺は長くスミレと親友同士だったからその事をすっかり失念していた。
「駄目だって、ヤバいって、時間が……」
スミレの下半身事情が大変なのも解るが、今は俺の沽券がかかっているのだ、何が何でもここを脱出しないと、スミレの目の前で弥生に戻ってしまう。
「レイさんはいつもそうやって俺と長くいたがらないじゃないですか。今日くらい、俺を不安にさせないで下さい」
スミレに切なく囁かれても、今の俺はそれどころではない。
「い、今は駄目なんだって、明日ならいいから」
それはそれでどうかと思うが、とにかく俺は一刻も早くここから逃れたくてしどろもどろになった。
「レイさん、危ないから」
スミレは暴れる俺の腰に体重をかけ、俺の左手首を掴むと、枕の下からロープを取り出してヘッドのフレームに縛り付ける。
「え……冗談でしょ……」
俺の声は震えていた。
スミレが事前に枕の下にロープを忍ばせていた事よりも、俺は逃げ場を失った事の方に絶望した。
「一応用意しておいて良かった」
はいぃ?
「束縛は嫌いなんですけど、レイさんが俺から離れて行きそうで」
だからって物理攻撃すな。
「スミレ、怒るよ!」
俺は毅然とした態度でスミレに鋭い視線を投げかけたが、逆にもっと鋭い視線で見下され、怖くて肩をすぼめた。
なんか、いつものスミレと様子が違う。
「ご、ごめん。お願いだから今日は帰らせて」
スミレの不穏なオーラが怖くて、俺は押して駄目なら引いてみろとばかりに下手に出る。
「ご主人様、どうかお願いですから帰らせて下さい、は?」
スミレから強めに復唱を促され、俺は訳も解らず棒読みでその台詞を口付さんだ。
「ご、ご主人様、どうかお願いですから帰らせて下さい」
俺はこれで帰れるのなら安いものだとプライドを捨てて懇願したが、残念ながらそんな事ではスミレは満足してくれなかった。
「ご主人様、どうかこの至らない私にお仕置きして下さい」
「ご主人様、どうかこの至らない私にお仕置きして下さい……て、違ーうっ!!」
もし俺の目の前にちゃぶ台があったなら、俺は今頃盛大にひっくり返していただろう。
「冗談だよ、レイ」
こんな時なのに、俺はスミレからタメ口で呼び捨てにされ、不覚にもそのギャップに萌えてしまった。
「レイ、本当に、やりたいからこうして縛ってるんじゃなくて、好きだから縛ってるし、やりたいんだ」
無茶苦茶だな、おい。
でもスミレが嘘を言っていないのは、目を見たらすぐにわかった。だからこそ怖い。
「でも、スミレ……」
チラッと目覚まし時計に目をやると、残りの猶予はあと10分しかなくて、俺は大いに焦る。
「レイ、好きなんだ。好き過ぎて、おかしくなりそうだ」
狂おしくスミレに吐露され、俺は自分の体質を呪った。
あまり深く考えてなかったけれど、そりゃあ、レイの体に時間制限さえなければ、俺は今スミレと結ばれても構わなかったと思う。
でも今は緊急事態で、そうも言っていられないのだ。
「スミレ、駄目だってば」
俺はのしかかるスミレの上体を片手で必死に押し返したが、その手を彼に押さえつけられ、身動きがとれなくなる。
「レイ、暴れるな」
俺が往生際悪く体を左右に揺すっていると、スミレにシャツの前ボタンを外され、インナーの裾から直に手を差し入れられた。
「冷たっ」
スミレの冷たい指先が胸に触れ、早く帰らなければならないのに俺の体は歓喜する。
「ヤバッ」
俺が快感に流されそうになっていると、スミレは何かを探すように俺の胸や背中を手でさすり、驚愕した。
「レイさん、ノーブラなの!?」
「え、うん」
俺は勢いに圧され、引きつりながら頷く。
何を言うのかと思ったら、そんな事気にするんだ。
「ちょっと警戒心なさ過ぎなんじゃないの?」
「え、うん。ごめん、なさい」
俺は女物のパンツはネットで何枚か購入したが、ブラジャーまではちょっと勇気がなくて手が出せなかったのだ(過去に母親のブラジャーを活用した事はあったが……)
「俺は嬉しいけど、絶対駄目だ」
どっちだよ。
「ノーブラで男の部屋に来るとかどういう神経してんの?」
そうしてスミレにインナーの裾を思い切りたくし上げられ、俺の両胸がプリンと全て露わになった。
「え?え?や、ちょっとやめてやめてやめて、恥ずかしいっ!」
男の時は何とも思わなかったけれど、女体でそのたわわな胸が揺れるのを見ていると自分でも恥ずかしくなる。しかもそれをスミレの大きな手によって鷲掴みにされると、まさに間近でエロ動画でも観ている気分だ。
「お願い止めてって言ったらやめてやるよ」
スミレに低い声でニヒルに微笑され、俺は恥も外聞もなくその言葉に縋る。
「お願い止めて下さい!」
多分、あと5分くらいしか時間がない!
俺はマジで祈るような気持ちでスミレに懇願した。
「スミレお兄ちゃん、止めて下さい、は?」
「スミレお兄ちゃん、止めて下さ……は?」
今は俺のが年上だし、ご主人様設定何処行ったよ!?
もうね、プレイが難読過ぎてついてけない。
「上手に言えたから、舐めてやるよ」
そうしてスミレはご褒美とばかりに俺の乳首を舌で転がし始めた。
「くっ……」
何故、そうなる!?
やべー、スミレの奴、マジで屈折してる。ムッツリを拗らせてる。しかも舐め方がゾッとする程上手い。無関心そうにしておいて、何処でこんな超絶技巧を覚えたんだか。
駄目だ、俺にはこの変態を止められない。そもそも力で敵わないものを、片手を縛り付けられた状態でどうやって切り抜けろと言うんだ。
「レイ、縛り付けられたくなかったら、自分から脚を開け」
スミレの手は、堅く閉ざされた俺の膝に掛けられ、俺はもう万事休すだった。
「やめてやめてやめてやめて、お願いだからやめて、お兄ちゃん、ご主人様、スミレーーーーー!!!」
俺は声の限り叫んだ。
ヤラれてる最中に男に戻ったら、接続部はどうなるんだ!?
俺はパニックでアホな事を想像したが、それと同時にある事を思い出してホットパンツのポケットに手を突っ込む。
俺の頭がくらくらしだし、目の前が
歪み始め、俺はいよいよピンチに直面する。
これは変身の前兆だ。
ヤバい、もう1分もない。
俺は意を決し、ポケットから取り出したそれをスミレの脇腹に押し当てた。
「うっ!!」
「ファッ!?」
スミレの体に電流が流れ、その体を伝って俺にまで衝撃が走った。スミレはそのまま俺の胸に顔を埋めて意識を失ったが、俺は逆に頭がハッキリとして事なきを得る。
スミレから護身の為に簡易式のスタンガンを貰って良かった。もっとも、スミレ本人はそれを自分に使われるとは夢にも思わなかっただろうけど。全く、皮肉な話だ。
「ハァ、ハァ、ハァ……間一髪……」
たわわだったレイの丘は見る影もなく、俺の体は完全に弥生に戻っていた。
「あっぶね……」
俺は一瞬胸を撫でおろしかけたが、かた結びにされたロープが刃物でないと取れそうにない事に気付くと、再度窮地に追い込まれる。
「やべー、このままだとスミレが目を覚ますのは時間の問題だ」
この状況じゃあ、誤魔化すにも誤魔化せないぞ。問題が先送りになっただけで、まだ何も解決してなかった。
もういっそ、腕を千切り落としてこの場を凌ぐかと思っていた時、聞いた事のある男の声がして部屋のドアが開けられる。

「スミレーいるのかぁ?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

親友だと思っていた男にメス調教をされ理想の彼女になった途端、友人だと思っていた男達に回されてる男の娘彼女

湊戸アサギリ
BL
相変わらずの内容です。他の作品もよろしくお願いします。 親友だった男に犯されています。こんなんばっかです。

弱みを握られた僕が、毎日女装して男に奉仕する話

あおい
BL
高校3年間を男子校で過ごした僕は、可愛い彼女と過ごすキャンパスライフを夢見て猛勉強した。 現役合格を勝ち取ったが、僕の大学生活は、僕が夢見たものとは全く異なるものとなってしまった。

『ルームメイトの服を着てナニしているのを見られちゃいました。』他、見られちゃった短編集

雨月 良夜
BL
「見られちゃった」のをキッカケに始まるBL短編集です。 ①『ルームメイトの服を着てナニしているのを見られちゃいました。』 スポーツ男子高校生(イケメン)×文学美少年(無自覚) ②『ゲイバーにいるのを生徒に見られちゃいました。』 腹黒メガネ高校生×高校教師 ③『兄の部屋で電マ使ってるの見られちゃいました。』 大学生義兄×高校生義弟(アホな子) ④『幽霊が姿を見られちゃいました。(ついでに身体も触られちゃいました。)』 男子大学生×地縛霊 ⑤『ご主人様に専属執事を辞める、異動届けを見られちゃいました。』 ご主人様×専属執事 ⑥『同級生に女装コスプレしてたのを見られちゃいました。』 同級生(ちょっとヤンキー)×高校生(気弱) R18的な話には※をつけるようにしました。よろしくお願いします。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

処理中です...