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断食系男子

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「なあ、この中で言ったらどれが好みだ?」

窓際のオイルヒーターが眠気を誘う昼休み、茶髪の緩い顔がトレードマークの砂山が、俺の机にビキニ姿のアイドル達が載った青年雑誌を叩きつけてきた。
「俺はこれ」
俺はすぐさまツインテールが可愛らしいロリ顔美少女を指す。
「お前、それ、顔はまあいいけど、まな板じゃんかよ。総合的に判断しろ、総合的に」
斜め前の席にいた狐顔の関谷に突っ込まれ、俺は口を尖らせた。
「見たよ!俺は身長差も念頭に入れて総合的に判断したんだ」
顔はどうあれ、170あるかないかの瀬戸際である俺にとってはそこが一番の選択ポイントだ。
「ヒール履かれたら終わりだろ」
俺よりちょっとしか違わない関谷が腹を抱えて馬鹿にし、身長問題に過敏な俺はカチンとくる。
「そんなもん、俺もインソールしこめばいけんだろ」
「悲しいからヤメロ笑」
砂山にまで馬鹿にされ、俺はむくれて頬杖を着いた。
「俺はこのお姉さんぽいやつかな、胸もEくらいありそうだし、色々挟んでもらえそうじゃん」
関谷が黒いビキニのグラマーなお姉さんを指差し、パイオツカイデージェスチャーをしてみせる。
「お前のだったらAカップでも挟めんだろ」
砂山に馬鹿にされ、今度は関谷がむくれ出した。
「てめ、俺の膨張率知らねーだろが」
「元が小さいからねぇ、なんとも。てかダチの膨張率とか知りたかねーわ」
「てめ、表出ろ」
「まあまあ、そう目くじら立てずに」
やいのやいのかしましい2人を仲裁し、男子高校生あるあるを再開する。
「んで俺はだな、こいつと、こいつと、こいつ」
「さすが砂山、チャラい。そのチャラさをうちの朴念仁にも9割がた分けてくれよ」
俺は、隣で黙って弁当を食うスミレの肩をポンと叩いた。
「弁当に集中させてくれよ」
スミレはビキニ姿のアイドルには目もくれず、つまんだエビフライを口に含む。
「男ならオカズに集中しろよ」
と関谷。
「……」
返事は無い。
「スミレならどの子?」
真面目で女っ気の無いスミレがどんな娘を選ぶのかとても興味深かった。
「……その中にはいない」
スミレが真顔でボソッと呟き、その場の青臭いテンションはだだ下がりした。
やっぱそうきたか。
スミレは真面目過ぎるのか、この手の話題には絶対に乗ってこない。彼は品行方正で、下ネタのシの字も言わない、お年頃だと言うのに大変変わった奴なのだ。
「モテる奴は日本のトップアイドルですら相手にしないのか、憎たらしい」
関谷はその吊り目が災いして女子から距離をおかれている可哀想な奴なのだ。それはそれは妬ましいだろうに。でも、豆柴系男子の俺としても、スミレの凛とした鼻筋や輪郭は羨望の的だ。
「逆に誰ならいいんだよ?」
俺はかねがね、この真人間がどんな娘になら興味を示すのかとても気になっていた。
「別に興味ない」
おお、聖人!
スミレは雑誌に目もくれず、唐揚げを食べながら単語帳を捲る。
「まじ賢者だな、スミレ」
なんなら仙人だ!
いっそ尊敬するが、俺はスミレの将来が心配だ。
もしかして不能なのか?
「スミレ、朝はちゃんと元気になるのか?」
「は?」
俺が至極真面目な顔をして尋ねると、スミレは目を丸くして首を傾げた。
「いや、なんでも」
そうだった、スミレは下ネタ耐性が無いんだった。
「お前、本当に、顔はいいのに持ち腐れてるよなぁ。なんで彼女作んないの?こないだも告白されてたじゃん。あれ、ここのミスの娘だよ?」
俺は爪楊枝でスミレの弁当から柴漬けを強奪する。
「別に、話した事もないのにオッケーするなんて寧ろその人に失礼だろ。それにミスなんてその人の肩書きですらないんだから関係ないよ」
「いやだなこの男、こないだ、友達からでもって食い下がってた1年生すらフッてたろ」
関谷が僻み全開でスミレの机を指でトントン叩いた。
「友達なら弥生がいるからいい」
重っ……
「いつまでも、あると思うな親と弥生」
字余り。
砂山が川柳(俳句?)を読み、俺はガチでスミレの行く末が心配になる。
こいつ、マジで携帯のメモリに家の人と俺くらいしか入れてないし、他に仲のいい友達もいないし、俺が事故かなんかで居なくなったらどうするつもりなんだか。
「ほら」
スミレに唐揚げを差し出され、俺は餌付けされるままにそれをパクつく。
なまじスミレは紳士で俺にレディファースト(?)してくれる優男だけに、尚更彼には幸せになってほしいんだけどなぁ。
「今日、追試あるから先帰ってて」
俺がこんな風に気を遣っても──
「いいよ、付き合う」
「いいって、何時に終わるかわかんねーし」
「それなら尚更待ってる。帰り道、通り魔事件が多発してるとこ通るだろ?俺が弥生を一人で帰らせたくないんだ」
「それはまぁ、そうだけど……」
スミレはいつもこんな風に気を遣い返してくれる。寡黙で不器用だけど、昔からこうして俺を守ってくれていたっけ。
「おい、そこ、ラブラブすんな」
時々こうして関谷に突っ込まれるが、これが俺とスミレの日常だ。
「してねーし」
ちなみにひやかされるのも日常。
「弥生に彼女が出来ないのはスミレの責任だと思うな」
砂山が雑誌を捲りながら呟き、俺も内心同感してしまう。
確かに、こうも優等生のお目付け役にべったり身辺警護をされては、合コンに興じる隙もない(スミレは真面目過ぎて合コンとかカラオケが嫌いだ)

ヴッヴッ

突如机に出していた俺のスマホが唸り、俺より先にスミレがそれを取り上げた。
「弥生、最近迷惑メールが多いけど、変なサイトでも見てる?」
スミレは見出しだけ確認し、俺にスマホを返す。
「えっ?いや、健全なやつだよ。グラビア」
このようにスミレは俺のスマホまで確認する程の過保護な為、俺はクラスの女の子にうかうか浮ついたメールすら送れない始末なのだ(勿論、そんな事をするつもりもないけど)
「弥生、ほどほどにな」
「うーん」
スミレは昔から俺に干渉したがったし、俺は俺でそれに慣れてしまい、今ではそんなスミレの束縛を結構受け入れている。
まあ、とにかくなんて言うか、スミレは俺にとって母ちゃんみたいな存在だ。
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