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青い瞳の原石
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俺が初めて翡翠に会ったのは今から6年前の事、彼女がまだ10にも満たない頃の話──
ここは年がら年中枯渇した不毛の砂漠、南部国。南部国はその土地柄、これと言った特産物も無く、他の3つの国、北部国、東部国、西部国の中でも最も廃れ、没落していた。見渡す限りの黄金色の砂、崩れかけ、砂に埋もれたコンクリート建築、辛うじて人が集まるのは数多くのテントが軒を連ねる闇市。そこでは連日奴隷売買が開催され、今日も、まだ幼い少年少女が劣悪な環境で売りに出されていた。
そんな所に、翡翠はいた。
翡翠は、北部国との戦争に敗れ植民地となった南部国王の末娘で、王族である家族を殺され、自身はその見目の可憐さから命ばかりは救われ、この奴隷市で売られる事となる。
彼女は人の往来でごった返す通り、数多並べられたケージの1つ、自分の背丈の半分しかない小さな入れ物の中、衣服と呼ぶにはあまりにボロい布を頭から被って小さくなり、希望を失い、虚ろな目で脱け殻の様に力無く自身の膝に顔を突っ伏していた。
──そこに、俺はやって来た。
「こいつは生きているのか?」
俺は、違うケージの上で呑気にパイプを吹かしていたガマガエル似の奴隷商人に尋ねた。商人は翡翠の入ったケージに手を伸ばし『中身』がひっくり返る程激しく揺さぶり翡翠の生存を確認する。
「あぁっ!」
『中身』の翡翠は体勢を崩し、上体を後ろへ反らせた。
「ああ、生きてます」
商人はパイプの灰を道端に落とし、手を揉んで接客モードに入る。
「こいつは体が丈夫なのが取り柄なんでしょう。女だが、雑用や畑仕事くらないなら難なくこなすかと」
そう言いながら商人はパイプの先で翡翠の頭を小突く。
こいつが『商品』にしても、随分とぞんざいな扱いだ。ここではいかに元王族の末娘と言えど、没落した王族は平民以下になるらしい。しかしそれにしたって……
「随分と痩せている。皮膚が日焼けで焼けただれている。顔も腫れて──」
元の体勢に戻ろうとする翡翠と目が合い、俺は一瞬だけ見えたその瞳に目を奪われた。
驚いた。
露出した手足は日焼けで爛れ、奴隷として捕獲される際に殴られたであろう顔は原形を留める事なく腫れ上がっていたが、その土偶の様になった瞼の隙間からホープダイヤのごとき美しい輝きがその魅力を放った。まるでそこ深い湖底に射す陽の光。ホープダイヤは、その怪しいまでの妖艶な輝きから不吉とされているが、それでも人々を惹き付けて止まない。そんな瞳を持つ翡翠に、俺は賭けてみたいと思った。
「おい、お前は処女か?」
俺が屈んで翡翠に尋ねると、元々の言い方がぶっきらぼうだったせいなのか、それとも子供ながらにその質問が低俗であると理解していたのか、彼女はホタテ貝の様にまた顔を伏せ、自分の殻に閉じ籠る。
「ガマ──商人、こいつは処女か?」
俺はフッと短く息を吐き、体を起こして商人に尋ねると、彼は下卑た笑いを浮かべながら聞き返す。
「ハハー、勿論勿論。旦那さんも若くて色男なのにお好きですねぇ。ってことは用途は──」
「枕だ」
俺は言われる前にキッパリと言い切った。回りくどい話は好きじゃあない。何より時間の無駄だ。
「それでしたら、少し歳はいきますが、こちらの少女の方が器量もいいですし、人慣れしてますので存分に楽しめるかと。何より、その労力要員のガキと違ってお年頃で胸も膨らんでますし」
と商人は近くにいた少女のケージを俺の前に引っ張り出し、自身のだらしない胸板の前で両手で大きく弧をえがき下衆な笑みを浮かべる。
確かに、引き合いに出された少女は万人受けする様な可愛らしい見た目をしていて、胸も歳の割りにたわわで『買って買って』と媚びてケージの中から俺の太腿を撫でてきたが、今日、俺がここに来たのはこいつを買うのが目的ではない。俺はその少女をスルーして翡翠のかごを手にした。
商人は驚いて『枕要員に、こんなぶっ細工なガキでいいんですか?』と客の俺に聞き返してきたが、俺はただ首を縦に振って翡翠の価値以上の金を渡すと『旦那さん、マニアックですね』と俺を肘でつつきながらも翡翠を譲り渡してくれた。
物好きな客と思われたか。
帰り道、俺は歩きながらヒョイと片手でケージを目の高さまで上げ、まじまじと翡翠を観察すると、成る程、そう言われても仕方がないかと自嘲した。
相変わらず顔を伏せているが、こんなに軽くて、小さくて、棒切れみたいで、手負いの野生動物みたいに汚くて、怯えて、王族の末娘で眼があれ程綺麗ではなかったら歯牙にもかけないところだ。この原石がどこまで輝けるか、女としてどこまで花開けるか、俺次第だろう。
──そう、翡翠は俺が仕える北部国の王への献上品。そして俺はその献上品を育てる調教師(ブリーダー)だ。
ここは年がら年中枯渇した不毛の砂漠、南部国。南部国はその土地柄、これと言った特産物も無く、他の3つの国、北部国、東部国、西部国の中でも最も廃れ、没落していた。見渡す限りの黄金色の砂、崩れかけ、砂に埋もれたコンクリート建築、辛うじて人が集まるのは数多くのテントが軒を連ねる闇市。そこでは連日奴隷売買が開催され、今日も、まだ幼い少年少女が劣悪な環境で売りに出されていた。
そんな所に、翡翠はいた。
翡翠は、北部国との戦争に敗れ植民地となった南部国王の末娘で、王族である家族を殺され、自身はその見目の可憐さから命ばかりは救われ、この奴隷市で売られる事となる。
彼女は人の往来でごった返す通り、数多並べられたケージの1つ、自分の背丈の半分しかない小さな入れ物の中、衣服と呼ぶにはあまりにボロい布を頭から被って小さくなり、希望を失い、虚ろな目で脱け殻の様に力無く自身の膝に顔を突っ伏していた。
──そこに、俺はやって来た。
「こいつは生きているのか?」
俺は、違うケージの上で呑気にパイプを吹かしていたガマガエル似の奴隷商人に尋ねた。商人は翡翠の入ったケージに手を伸ばし『中身』がひっくり返る程激しく揺さぶり翡翠の生存を確認する。
「あぁっ!」
『中身』の翡翠は体勢を崩し、上体を後ろへ反らせた。
「ああ、生きてます」
商人はパイプの灰を道端に落とし、手を揉んで接客モードに入る。
「こいつは体が丈夫なのが取り柄なんでしょう。女だが、雑用や畑仕事くらないなら難なくこなすかと」
そう言いながら商人はパイプの先で翡翠の頭を小突く。
こいつが『商品』にしても、随分とぞんざいな扱いだ。ここではいかに元王族の末娘と言えど、没落した王族は平民以下になるらしい。しかしそれにしたって……
「随分と痩せている。皮膚が日焼けで焼けただれている。顔も腫れて──」
元の体勢に戻ろうとする翡翠と目が合い、俺は一瞬だけ見えたその瞳に目を奪われた。
驚いた。
露出した手足は日焼けで爛れ、奴隷として捕獲される際に殴られたであろう顔は原形を留める事なく腫れ上がっていたが、その土偶の様になった瞼の隙間からホープダイヤのごとき美しい輝きがその魅力を放った。まるでそこ深い湖底に射す陽の光。ホープダイヤは、その怪しいまでの妖艶な輝きから不吉とされているが、それでも人々を惹き付けて止まない。そんな瞳を持つ翡翠に、俺は賭けてみたいと思った。
「おい、お前は処女か?」
俺が屈んで翡翠に尋ねると、元々の言い方がぶっきらぼうだったせいなのか、それとも子供ながらにその質問が低俗であると理解していたのか、彼女はホタテ貝の様にまた顔を伏せ、自分の殻に閉じ籠る。
「ガマ──商人、こいつは処女か?」
俺はフッと短く息を吐き、体を起こして商人に尋ねると、彼は下卑た笑いを浮かべながら聞き返す。
「ハハー、勿論勿論。旦那さんも若くて色男なのにお好きですねぇ。ってことは用途は──」
「枕だ」
俺は言われる前にキッパリと言い切った。回りくどい話は好きじゃあない。何より時間の無駄だ。
「それでしたら、少し歳はいきますが、こちらの少女の方が器量もいいですし、人慣れしてますので存分に楽しめるかと。何より、その労力要員のガキと違ってお年頃で胸も膨らんでますし」
と商人は近くにいた少女のケージを俺の前に引っ張り出し、自身のだらしない胸板の前で両手で大きく弧をえがき下衆な笑みを浮かべる。
確かに、引き合いに出された少女は万人受けする様な可愛らしい見た目をしていて、胸も歳の割りにたわわで『買って買って』と媚びてケージの中から俺の太腿を撫でてきたが、今日、俺がここに来たのはこいつを買うのが目的ではない。俺はその少女をスルーして翡翠のかごを手にした。
商人は驚いて『枕要員に、こんなぶっ細工なガキでいいんですか?』と客の俺に聞き返してきたが、俺はただ首を縦に振って翡翠の価値以上の金を渡すと『旦那さん、マニアックですね』と俺を肘でつつきながらも翡翠を譲り渡してくれた。
物好きな客と思われたか。
帰り道、俺は歩きながらヒョイと片手でケージを目の高さまで上げ、まじまじと翡翠を観察すると、成る程、そう言われても仕方がないかと自嘲した。
相変わらず顔を伏せているが、こんなに軽くて、小さくて、棒切れみたいで、手負いの野生動物みたいに汚くて、怯えて、王族の末娘で眼があれ程綺麗ではなかったら歯牙にもかけないところだ。この原石がどこまで輝けるか、女としてどこまで花開けるか、俺次第だろう。
──そう、翡翠は俺が仕える北部国の王への献上品。そして俺はその献上品を育てる調教師(ブリーダー)だ。
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