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#18 報告

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「……ショーマ!」


 匠真が一息ついていると、向こうの戦闘も終わったのか、ノアルが駆け寄ってきた。

 
(結局、取り巻きの2匹はノアルに任せる形になっちゃったな。 申し訳ない)


「ノアル、お疲れ様。 怪我はない?」

「……ん、問題ない。 ショーマは大丈夫?」

「MPをかなり使ったからちょっと気怠いけど、それ以外には問題はないよ。 ノアルは…… 怪我は無さそうだけど、ちょっと汚れちゃった?」

「……そう、せっかくショーマにもらった服なのに」


 ノアルは悲しそうに俯いた。

 尻尾や耳もへにょんと下を向いている。


「そんな悲しい顔しないで? ちょっと魔法使うよ」


 匠真はそう言ってノアルの体にクリーンの魔法をかけた。

 すると、汚れていたノアルの服の汚れが綺麗に取れ、新品同然の綺麗さを取り戻した。


「……おー。 ショーマすごい。 ありがとう」

「どういたしまして。 自分にもかけとこうかな」


 自分の体にもクリーンをかけておく。


「……生活魔法も使えるんだ」

「生活魔法って言うんだこれ。 珍しかったりする?」

「……それなりにいる」

「そっか」


 恐らく今後も重宝することになるので、珍しい魔法とかじゃ無くて一安心した。


「それで、ノアルの方はどんな感じだった?」

「……少し違和感があった」

「違和感?」

「……ゴブリンにしては考えて戦ってた気がする」


 ノアルの考えが気になったので、どういった戦闘だったのか、あと本来のゴブリンの動きなどを教えてもらう。

 ついでに匠真の戦闘がどういったものだったかも話した。

 そこでは、ウィンドの魔法を使った戦闘方法に驚かれた。 

 なんでも、そこまで細かい魔力コントロールが出来るのかという事らしい。 

 恐らく匠真が魔力をコントロールできるのは魔導師の職業で補正がかかっているだからだろう。

 今後慣れればもっと凄いことも出来るかもしれないと思うとちょっとワクワクした匠真であった。

 話が脱線したが、とにかく匠真の話を聞いてノアルは更におかしいと思ったらしく、少し考え込んでいた。

 その間、匠真はノアルが倒したソルジャーの大剣を鑑定してみる。


『グレートソード』
    ↓
・鉄製の大剣

・効果付与:物理攻撃力上昇


 見てみると、こんな感じだった。 

 なんとこれにも効果付与がされていた。


(こいつらはどこでこんな装備を手に入れたんだろうか? 冒険者から奪ったとかなのかな?)


 とりあえず武器やら死骸やらをまとめて回収する。

 武器は後々作り直したり、死骸は素材として売る用である。


「ノアル、そろそろ帰ろうか?」

「……ん、今行く」


 色々と考えていたらしいノアルが匠真の声に気付き、駆け寄ってくる。 

 ノアルが考えていた事は帰りながら聞く事にしよう。



     *



 街に戻ってきた匠真たちは、解体場にゴブリンの死体を預けてからギルドに報告に来ていた。

 ここへ来るまでにノアルから聞いた今回の事でおかしいと思った点は、依頼達成報告のついでに話しておくつもりである


「依頼の達成報告良いですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「この依頼を解決して来ました」

「そうですか、ではギルドカードをお出しください」


 どうやらギルドカードには魔物を討伐した事が自動的に記録されるらしく、討伐依頼の時はそれを見せる事で証明とするシステムがある。

 ギルドカードに自動で記録される仕組みはこの前ゲイルさんとチラッと話したのだが、なんでも魔物を倒した時に発生する魔物固有のエネルギーをギルドカードが感知して記録するらしい。

 ゲイルさんも「詳しくは知らん! そういうものだと俺は割り切ってる!」と言っていたので匠真も詳しく考えるのはやめた。

 とにかく出さなくては証明にならないので素直に職員の人に渡す。 

 もちろんノアルも一緒にだ。

「えーっと、ゴブリン5匹の討伐ですね…… って2人で13匹も討伐してるじゃないですか! しかも、ゴブリンメイジとゴブリンソルジャーも討伐したんですか?」

「はい、間違いないです。 普通にゴブリンを探していたら集落を見つけたので、そこにいたゴブリンは全部倒しました」

「すごいですね…… 緑ランクと白ランクが出来る事じゃないですよ?」

「相方にかなり助けられましたから。 それと、戦っていて不審だった点がいくつかあったので報告しても大丈夫ですか?」

「はい、もちろんです。 なんでしょうか?」

「実はですね……」


 ノアルから聞いたことや、ゴブリン達がかなり上等な装備をしていた事などを話す。 

 匠真だけでは説明出来ないところは、ノアルが報告をしてくれた。

 それを聞いた職員の人は、報告をまとめた紙を見て口を開く。


「確かに少し不自然ですね…… 戦いの中での違和感に関しては判断出来かねますが、ゴブリンが付与をされた装備を複数所持していたというのは気になります。 この事は上に報告しても大丈夫ですか?」

「もちろん、そのつもりで報告したのでそうしてください」

「ありがとうございます。 この頃、森で異変が相次いでるみたいなので、近い内にギルドでも調査する予定です。 今回提供してもらった情報もギルド内で共有させていただきますね」

「そうですか、役立ててくれるとこちらとしても嬉しいです」

「なにはともあれ、お疲れ様でした。 報酬は上乗せさせてもらって金貨4枚となります。 ゴブリンソルジャーとメイジも倒したということですので、ランクも上がると思いますよ」

「え、この前上がったばかりですよ?」

「実績は十分ですし、素行も良いので上がると思います。 強い力を持つ人にはなるべく難しい依頼を解決していただきたいので、ショーマさん達はすぐに上がれるんじゃないですかね」


(もうランクが上がるのか。 昨日緑ランクになったばかりなのに、こんなトントン拍子でいいのだろうか? まぁ、クラウスさん達にもランクを早く上げた方がいいと言われたし、上がる分には喜ぶべきかな)


 報酬の金貨4枚をもらった匠真達はギルドを後にした。

 その後すぐ、解体場に向かってゴブリンの素材代をもらいに行く。

 普通のゴブリンの素材はそこまでの値段にならないが、体内にある魔石がまぁまぁ売れるらしい。

 魔石とは魔物の心臓のような部位で、魔力を蓄えたり放出したりする性質があり、魔道具の核などに使われたりする事が多いそうだ。

 魔石をもらうかどうかは迷ったが、一応価値が高いらしいソルジャーとメイジの魔石はもらっておく事にした。 

 使えるかもしれないものは取っておいた方がいいだろう。 


(自分で試してみて駄目だったらまた売りに来ればいいしね)


 その他の素材代は全部で金貨1枚になった。
 
 解体場を出ると、外は夕方になっていた。 

 このまま帰るべきかもしれないが、今日は少し寄りたい場所がある。


「ノアル?」

「……ん?」

「僕これから行きたいところあるんだけど、先に宿に戻っておく? 僕が帰るまでは僕の部屋にいて構わないけど」

「……ショーマについて行く」

「分かった、じゃあ行こうか」

「……どこに行くの?」


 今から行くのは匠真にとって、とても重要な場所だ。 

 今も、少しドキドキしている。

 その事を悟られないよう気をつけながら、ノアルに行き先を告げる。


「教会だよ」

「……ショーマは教会の信者なの?」

「んー、信者かどうかは分からないけど、神様の事は信じてるよ」

「……そうなんだ」

「ノアルはそういう宗教とかには無関係なの?」

「……ん、ノアルは宗教とか分からない」


(そうなのか、どの国にも宗教的なものはあるもんだと思ってたけど、獣人国はそういったものはないのかな?)



     *



 ノアルと一緒に歩き、色々と話している内に街の教会に着いた。


(おぉ…… なんか、the教会って感じの見た目してるなぁ。 決して華美な訳ではないんだけど、なんとなく安心するような感じだ)


 ノアルも何か感じるものがあったのか「……おー」と言って見入っている。


「それじゃ、中に入ろうか」

「……ん」


 中に入っても教会はとても綺麗で、外観と変わらず美しかった。 

 真ん中の通路の左右には木製の長椅子がいくつも置かれていて、通路の奥には、女神を模した大きな像が置いてあった。


(これ、フォルティだよね? かなりの再現度だな。 すごい細かいところまで作り込まれている…… けど、やっぱり実際に会ったフォルティの方が綺麗だったと思う)


 その女神像に向かって今は僧侶の服装をした桃色の髪の女性が祈っていた。

 その女の人は膝立ちのような姿勢から立ち上がり、最後に女神像をじっと見つめて、やがてその場から回れ右をしてこちらに歩いて来たが、その人を見ていた匠真の視線に気づいて足を止めた。


(あ、やばいちょっと見過ぎてたかな。 なんか一連の所作というか動きが洗練されていて思わず眺めてしまった)


 匠真が謝ろうと思っていたら、すぐそこで止まった女性の表情は驚きというか喜びというか、なにやらよく分からない表情に変化していった。 

 そしてそのまま匠真の方へとまっすぐ近づいてくる。 


「み、御使い様ですか!?」

「は、はい?」

「あなたからとても大きい神聖な力が見えます! 教会の人達などより全然大きいです!」


(ど、どうしたんだろうこの人は? 僕は御使いなんかじゃないんだけど、なにを勘違いしてるんだろう?)


「えーっと、すいません。 僕は御使いなどではなくて、普通の冒険者なんですけど……」

「え、そ、そうなんですか? 私も冒険者ですけど、貴方程の神聖な力を持った人は見たことありませんよ?」

「それは僕が新人だからじゃないですかね? あ、僕の名前はショーマって言います」

「ショ、ショーマさん? 貴方が? クラウスさん達が言っていた?」

「クラウスさん達が? あっ、という事はあなたは……」

「あ、はい、私はマイヤと申します。 クラウスさん達のパーティーで活動させてもらっている者です」


(これは驚いた。 まさかこんな所で会うなんて思ってなったな。 いや、この人は僧侶らしいし教会にはよく来るんだろう)


「そ、それで、ショーマさんは何でそんなに大きな神聖な力を持っているんですか?」

「いや、分からないです。 そもそも神聖な力があるってどうやって判断しているんですか? 僕には全く自覚がないんですが……」

「えっと、それはですね、私のスキルの一つに神聖眼というものがあって、そのスキルを使って人を見ると、その人が良い人か悪い人かみたいなものが見えるんです。 あと、その人の神聖力というか、敬虔な神の信者かどうかもなんとなく分かるんです」


(なるほど、そんなスキルがあるのか。 でも、何で僕にそこまでの神聖な力があるんだろう? 光魔法は使えるけど、それだけじゃないよね)


「とにかく、僕は御使いなどではないですよ? 身に余る力を持っていたりはしますが」

「そ、そうですか……」

「えっと、じゃあ僕は少し祈りを捧げてきますね」

「あ、はい! ごゆっくり!」

「……いってらっしゃい」


 このまま話してもよく分からなそうな気がしたので、ここでフォルティに会えたら聞いてみることにした。

 彼女なら多分、この事についても知ってるだろう。

 2人と離れた匠真は女神像の前で片膝をつき、祈りの姿勢を取った。

 そのまま、頭の中でフォルティの事を思い描き、呼びかけていく。


(フォルティ、聞こえてる?)

「はい、聞こえていますよ、匠真さん」


 呼びかけると、すぐさま返事が返ってきた。

 そこで目を開けると、いつの間にか匠真は前にフォルティと話していた空間にいた。


「久しぶり、フォルティ。 なんか、少ししか経っていないのに、凄く久しぶりのような気がするよ」

「ふふ、お久しぶりです匠真さん。 それだけこの世界を楽しんでくれているという事でしょうか?」

「うん、とても楽しいよ。 いい人達とも沢山出会えて凄く充実してる」

「それは良かったです」

「それで、フォルティに会ったら聞きたいと思っていた事があるんだ」

「はい、なんでしょうか?」

「えーっと、まずは今さっきの事なんだけど、僕に大きな神聖な力が見えたって言っている、神聖眼っていうスキルを持っている人がいたんだけど、神聖な力ってなんのことか分かる?」

「んー、それは恐らく、匠真さんの加護に反応したんじゃないですかね?」

「え、加護って隠蔽されてるんじゃなかったの?」

「されてますよ。 ただ、神聖眼のスキルは、私に対して真っ直ぐな気持ちで祈りを捧げたり、信じてくれたりしてくれた一部の人間に私が授けているので、加護とは分からなくとも、とても大きな神聖な力を持っているように見える事はあると思います」


 (フォルティが直接スキルを授けてるのか。  恐らく凄いことなんだろうな)


「加護持ってる人って他にいないの?」

「はい、人間ではいないと思います」

「……それって大丈夫なの?」

「……………………大丈夫です!」


(なんか間があったんだけど)


「……本当に大丈夫なの?」

「……うっ、だ、大丈夫じゃないかもしれないようなないような……」

「……他に加護持ってるのってどんな存在がいるの?」

「……私の眷属の子だけなので、みんな神の立場ですね」

「それだと僕って今、どんな立場になってるの? 人間なの?神様なの?」

「……匠真さんは今は人間で加護を持っている存在なので、半神というべき存在だと言えます…… もしかしたら、その辺の三等神とかよりも神聖な力は多いかもしれません……」

「……聞いてないんだけど?」

「…………………」


 フォルティは匠真から目を逸らし続けている。 


(こら、こっちを見なさい)


「はぁ…… 別に怒ってないから、ちゃんと説明して? 半神になった事でなにが起こるの?」

「……半神といっても、加護を与えられたらほとんど神と同じなので、まず、寿命とかは無くなり、老化もしないと思います。 ほ、本当はもう少し時間が経ったらその事を説明して、匠真さんに新しい神になってもらおうと思っていました……」


 ……とんでもない事を告げられたんだけど。 え、なに、僕もう死なないの?


「なんで、言ってくれなかったの?」

「言ったら絶対、断られると思ったんです…… でも私達、最高神としては是非、匠真さんには新しい神になってもらって、いずれは私達と同じくらいの立場になってもらいたいんです……!」

「……その事はチラッと聞いたけど、そういう思惑があって、加護を授けたなら話しておいて欲しかったなー」

「……すみません、仰る通りです」


(本人の同意なく不老にされるってどうなの?)


「まぁ、一旦それは置いといて、そうなると、地上には、あとどれくらいいられるの?」

「その点に関しては匠真さんにお任せします! 100年でも、1000年でも、もっといてもらってもいいです! 満足するまでいてもらって、それから神になってもらえたらと、こちらとしては考えてたんです……」


(まさかの神になるのか、僕…… 少し前までただの高校生だったのにいきなり神に昇格するってなにが起こればそんなことになるんだろうか)


「……まぁ、フォルティの考えは分かったよ。 でも、答えを出すのは待ってもらっていいかな? それとも、僕が神になるのはもう決定事項?」

「い、いえ! そんな事ないです! あくまで最終的な決定は匠真さんがするので! 加護を与えた1番の目的は、想定外の事態が起きて、匠真さんが死んじゃったりしないよう早めに強くなってもらおうと思ってですから」

「あ、やっぱり寿命はないけど死ぬ事はあるんだ」

「そうですね、流石に完璧な不死の体には出来ないので、心臓が潰れちゃったりしたら死んでしまいます」


 とは言っても、寿命がないってだけでも十分やばいが。


「じゃあ、この話はまた今度にしよう。 今、考えても答えは出なさそうだから」

「はい、ゆっくり考えてください。 こちらから答えを急かす事はないので、決断は匠真さんに委ねます」

「分かったよ。 ちなみに、他に何か隠してたりしてない?」

「ないです! 絶対に! 神に誓います!」

「いや、フォルティも神でしょ。 神が神に誓うってどうなのさ……」


(それにしても、僕が神かぁ…… ちゃんと考えておかないとなぁ……)
 


 
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