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#3 別れと転生

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 ピーッ ピーッ


「ん? なに、この音?」


 匠真達が思い出話などに花を咲かせていると、突然匠真達が存在する空間にタイマー音のようなものが鳴り響いた。


「これは、もうすぐで一時間ですよっていうお知らせね。 女神さんが言ってたわ」


 匠真の疑問に母が答えをくれた。


(そうか…… 話に夢中で忘れかけていたけど、元々両親に会えるのは一時間が限界なんだった……)
 

 そのことを思い出した途端、今までの晴れやかな気持ちが悲しみや寂しさで埋め尽くされていく。
 
 二人と、もっと話していたい。
 
 初めての家族三人での時間を過ごして、匠真は初めて、両親の愛というものをこの身に受けた。

 その時間がこんなにも早く終わってしまうと考えると、どうしようもなく悲しい気持ちになってくる。


「そんな顔すんじゃねぇよ」


 父さんが笑いながら匠真の頭を撫でた。


「そうよ。 もう二度と会えないと思っていたのに、会うだけじゃなくこんなに沢山のことを話せたんだから」


 母もそう言って僕の頭を撫でる。

 二人は、同じように笑っていた。
 
 二度と会えないと思っていた息子との再会を本当に喜んでいる。
 
 たとえ、その時間が限られたものであったとしても。


(……そうだ、せっかく会えたのに、最後に二人を不安にさせるわけにはいかないよね)


 そう思った匠真は、二人をしっかりと見据え、改めて思いをぶつけることにする。


「父さん、母さん、さっきも言ったけどありがとう。 本当に色々なことに感謝したいと思う。 産んでくれたこと、育ててくれたこと、見守っていてくれたこと、そして、どこまでも、深く、深く、愛してくれてありがとう。 僕も…… 父さんと母さんのことが…… だ、大好きだよ…… 二人の子供で僕は…… 本当に…… ほん……とに…… 幸せだよ……」

 匠真は、涙は流しながらも笑顔で二人にそう告げた。

 最後の方の言葉は涙を堪えられなくて、途切れ途切れになってしまったが、この涙は別れの悲しみから来るものじゃなく、二人が、沢山の愛をくれたことへの感謝から来るものだ。

 もう悲しみはない。

 あるのは、二人への感謝だけ。

 母は匠真の言葉を聞いて、涙を流していた。

 そのまま匠真のことを、しっかりと抱きしめる。

 父は、少し目を潤ませながら、匠真のことを母ごと優しく抱きしめた。

 少しの間、3人はそのままでいた。

 言葉はなく、ただただ家族同士の愛を感じながら。
 
 空間が光に包まれ、今までいた実家のリビングの風景が少しずつ薄れていく。

 それと同時に、父と母の体も、少しずつ薄れていく。

 約束の一時間が終わろうとしている。

 父と母は匠真の体からゆっくりと体を離すと、おそらく最後になるであろう言葉を紡いでゆく。


「匠真。 とても…… とても嬉しい言葉だった。 こちらこそありがとう。 母さんが死んで二人で暮らしていた頃、色々と家のことやってくれたこと、感謝している。 お前は俺達に貰ってばかりだと思っていたみたいだが、そんなことはない。 俺も母さんも、お前には沢山のものを貰ったよ。 本当にありがとう。
 この先、何があってもお前は自分の意思で生きればいい。 お前がしっかりと悩み、考えて選ぶ人生なら、それがお前にとって、一番良い選択だろう。 だから…… 強く生きろよ。 これからの匠真の未来が、幸せであることを、心の底から願っている」

「私も、お父さんと同じ気持ちよ。 本当にありがとう。 匠真が私のお腹の中にいるって分かった時は、本当に嬉しかったの。 生まれてくる時が本当に楽しみでしょうがなかった。病院で、無事に生まれて、声を聞いて、抱きしめたことは、今でも鮮明に憶えているわ。
 一緒に生きることは出来なかったけど、ここから匠真を見守っていた時に、強く、健やかに生きている匠真を見て、とても嬉しかった。 私たちの子として生まれてきてくれてありがとう。 私たちはいつでも、匠真の心の中にいる。 そして見守ってるから、幸せになりなさい。 匠真の生きる世界の全てに、幸せが溢れることを願っているわ」


 母さんも、父さんも優しさと子を想う温かな表情で、気持ちを伝えてくれた。


(二人は、僕の中にいる。そして、ずっと見守ってくれている)


 そう思うと、不思議と悲しくは無かった。


「父さん、母さん、ありがとう。 いってきます」

「「いってらっしゃい」」


 その言葉と共に、父さんと母さんは、空間と共に光の粒子となって消えていった。

 さようならは言わない。
 
 死んでからまた会って話すことが出来たんだから。

 きっといつかまた会えると思う。

 そうしたら、今度は忘れずに最初に言おう。


 「ただいま」と。




 *




「両親との再会はどうでしたか?」


 気付いたら匠真は最初の空間にいた。
 
 後ろから声が聞こえ、振り返るとそこにはいつの間かフォルティが立っていた。


「……その表情を見る限り、とても有意義な時間だったみたいですね」

「うん、かけがえのない時間になったよ。 ありがとう、フォルティ。 あ、協力してくれた神様にもお礼言ってたって伝えて欲しいな」

「ふふっ、分かりました。 必ず伝えますね」


 出来れば、直接お礼を言いたいところだが、会えないものはしょうがないので匠真はフォルティに頼んでおくことにした。

 彼女ならしっかり伝えてくれるだろう。


「それで、母さん達と話してて、ちょっと気になることがあったんだけど…」

「はい、なんでしょうか?」

「この後、僕ってどうなるの?」


 父も母も何やら意味深なことを言っていたが、実際どうなるかはまだ分かっていなかった。

 
「そのことについてはしっかりと説明させて貰います。 お父様とお母様と会う前に話すか迷ったのですが、一時間という短い時間だったので、教えることで本来話したかった事が話せなくなるかもしれないと思い、後回しにさせていただきました」

「なるほど。 確かにそっちの方が良かったかな」

「はい。 それでですね、匠真さんの今後の道としては、選択肢が二つあります」

「二つ?」

「そうです。 一つ目としては、地球とは別の世界に転生して、新たな人生を歩んでもらうことです。 転生といっても、匠真さんの記憶を残したまま、姿形もそのままなので転生というより転移に近いかもしれません」


(……これってアレかな、異世界転移ってやつかな? ラノベでよくあったやつ)


「匠真さん、生前そのような題材の物語、よく見てましたよね。 イメージとしてはそれで合っています」

「ちょっと待って。 なんで知ってんの?」

「見てましたから。 お父様、お母様も見てましたよ」


(マジかよ。 プライバシーとはいったい?)


「……えっと、もう一つは?」


 なんとなくそれ以上突っ込んだらやぶ蛇な気がするので話を逸らした。


「もう一つは、匠真さんに我々と同じ神になっていただくという選択肢です」

「転生でお願いします」


 即答した。

 するとフォルティは怒るでもなく、クスっと笑って、「断られると思っていました」と言う。

 
(僕が神なんて、悪い冗談だ。 なにが悲しくて自分から神になろうと思うだろうか)


「一応、理由があってですね? 匠真さんの魂というか心は、神に求められるものをしっかりと満たしていて、相応しいと私と私以外の最高神達が判断したんですよ」

「そもそも、そんな簡単に神になれるもんなの?」

「いえいえ、決して簡単ではないんですよ? 死んでしまった人の魂の転生先は、生前どんな事をしてきたかをある程度考慮するので、色々と審査のような事をするんです。 その時に神に相応しいと判断されたら神になることもあります。 ですが、私が憶えている限りだと、最後に地上から神になったのは数千万年くらい前だったと思いますし、神々の歴史の中でも、両手の指で数えられるくらいしかいないと思います」


(……神々の歴史って。 それを遡るとどれくらいになるんだろうか?)


「……僕がそんな大層な人間だとは思えないけど」

「ふふ、匠真さんがそう思ってなくてもいいんです。 大事なのは周りがどう感じるかですから」


 自分が素晴らしい人間だと言われて、はい、そうですかと受け入れられる程、匠真は図太く無かった。

 むしろ、どちらかと言えば小心者のカテゴリー入るだろう。


「まぁ、改めて言うけど、神様になるっていうのは遠慮するよ」

「そうですか。 匠真さんと同じ立場になるというのも少し楽しそうだと思ったんですけどね」


 フォルティはそう言って悪戯っぽく笑った。

 どうやらダメ元ではあったようなので、特に気にしてる様子もなかった。


「そうなると、転生ですね。 匠真さんの転生先は匠真さんが楽しんで暮らせるようにこちらで選びました。 具体的に言うと魔法などがあって、人は自分の技能を使って冒険をしたり、何かを生み出したりしています。 匠真さんが好きそうだと思ってこの世界を選んだんですけど、どうでしょうか?」


 なんだその夢の世界は。


(どうしよう、話を聞いていて、めちゃくちゃ楽しみにしている自分がいる)


 異世界もののラノベとかを読んでいて、その中の世界観が好きで憧れていた匠真にとっては夢のような話だった。


「うん。 とても楽しそうな世界だね。 ちょっと楽しみになってきたよ!」

「それは選んだ甲斐があったというものです。 それでこの転生は匠真さんの人生を壊してしまった謝罪の意味を込めているのでなるべく楽しんで欲しいし、何より幸せになって欲しいんです。 あ! もちろん、匠真さんの不幸体質は改善されての転生になるので安心してください」


 それを聞いて匠真はとても安心した。 


(また、あの不幸体質に困ることになるのは勘弁して欲しいからね)


「それで、匠真さんからなにか転生してしたい事とか、こういう技能が欲しいとかの希望はありますか?」


 もし、したい事ができるならずっと憧れていた事がある。


「フォルティも知っているかもしれないけど、僕の父さんは刀匠…… 鍛冶師だったんだ。 僕もそれに憧れていたから、父さんが生きていたら仕事を教えてもらいたくて…… だから、転生したらそういう物作りができる力が欲しいな」

「なるほど…… とってもいいと思います! じゃあ、匠真さんのスキルなんですけど、鍛冶師ってことでどうでしょうか?」

「スキル?」

「はい! 匠真さんだけのユニークスキルです。 やっぱり、謝罪の意味も込めてるので、他の人と同じ職業では面白くないですし!」

「どういう力があるの?」

「それは、私が言ったら面白くないと思うので、向こうに行ったらご自身で試行錯誤してみてください!」


(まぁ、確かに全部分かった状態からだと面白くないか)


「分かったよ」

「それで、他に希望あります?」

「魔法があるってことは、使う必要があるということだよね? 戦わないといけない理由でもあるの?」

「そうですね、もちろん戦わなくても生きてはいけますよ? ただ、匠真さんが分かりやすいように言うと、向こうの世界には生活を脅かす魔物という脅威がいるので、それを討伐なりすることで生計を立てている者もいます」


 どうやら本当にファンタジーの世界のようだ。

 そうなると少しは戦える力も欲しいなと匠真は思った。


「ちなみに、スキルは一つとは限りません。複数持っている者も沢山います。 ですが、沢山のジョブを持っていたからといって、必ず戦闘能力とかが上がるわけではありません。 そのスキルがどのようなものかを理解し、使いこなす事が出来れば一つのスキルしか持っていなくても、強い人は十分すぎるくらいに強いです」

「なるほど…… 肝に銘じておくよ」


 確かにあまり多くの力をもらっても使いこなせないと意味はないだろう。


「ちなみにフォルティ?」

「はい? なんでしょう?」

「僕にも魔法って使える?」

「はい! もちろんです! ふふっ、匠真さんも男の子なんですね。 使う事ができるようなスキルもいりますか?」

「うん、出来れば使ってみたいな。 ちょっと憧れてるのは否定しないよ」


(男の子は魔法とかには憧れを抱いちゃうんです)


「じゃあ、魔法が使えるようになるジョブも追加しますね。 他にもなにか希望ありますか? 遠慮しないでどんどん言ってください!」

「いやいや、結構わがまま言ったつもりなんだけど?」

「こんなもんじゃ全然謝罪になってませんよ! ほら、他にも何かないですか?」

 
 食い気味にそうフォルティが聞いてくる。 


「うーん、向こうでの強さの判断って、やっぱりスキルの強さとかで決まるの?」

「スキルの強さというより、いかにそれを使いこなすかの練度の高さで決まりますね。 使い込めば使い込むほどスキルレベルが上がって出来ることが増えたりもします!」

「レベル上げか、楽しそうだね」


(うん、とにかく楽しみになってきた。 聞きたいことは聞けたし、後は向こうで色々と試してみよう)


「他に要望とか質問とかは大丈夫ですか?」

「そうだね…… あ、じゃああと一つだけいい?」

「はい! 一つでも百個でもいいですよ!」

「いや、一つでいいから…… それでね、戦う手段がいるみたいだし、魔法だけだとちょっと不安だから近接戦闘用のスキルもつけておいてくれない? 具体的なイメージはないんだけど、それなりに戦えればいいから形はフォルティに任せるよ」

「分かりました! じゃあ、近接戦闘用のスキルも付けときますね! 他にはもうないんですか? まだまだなんでもできますよ?」

「うん、もう十分過ぎるほどだよ。 後は自分で頑張ってみる」

「こちらとしてはもっと要求してくれていいんですけど……、匠真さんは欲がないというか謙虚というか…」

「いやいや、もう十分だって!」

「そうですか? まぁ、なにか向こうで分からなくなったりしたら教会に行ってお祈りしてみてください! いつでも私が会いますので! そのために私の加護を匠真さんにつけときますね」

「なんか至れり尽くせりで申し訳なくなってくるんだけど……?」

「いいんです! これは私がしたいことなので! むしろ受け取ってくれないと困ります!」

「そ、そっか……」

「ほ、ほら! 神様からの加護なんですから、逆に受け取らないと、神罰が当たっちゃいますよ?!」

「なにそれ!? 怖いからやめてくんない?!」

「じゃあ、受け取ってください!」

 
 匠真は半ば強引にフォルティの加護を貰うことになった。


「よし! じゃあ色々と説明もしたので、そろそろ行きましょうか! 匠真さんも早く行って色々確かめたいですよね?」

「まぁそうだね、正直すごいワクワクしてるよ」

「いいことです! じゃあ、向こうの世界に送りますね? 匠真さんを送る先はファルゼイン王国のハゾットという街の近くのウロナの森というところに送ります。 匠真さんの魔法スキルの一つにアイテムボックスという収納魔法がありますから、その中に少しのお金と、鍛冶師のスキルに必要な物をいくつか入れておきますね!」

「ありがとう、フォルティ」

「いえいえ! それじゃあ、向こうの世界にいよいよ転生ですね! 着いたらまず、『ステータス』って唱えてみてください。 そうしたら自分のスキルとかを見れるので。 それと…… 気が向いたらでいいので教会に来てくださいね? なるべく見守っていますけど、出来れば匠真さんから直接、楽しいかどうかとかを聞きたいので…… あ、ほんとにたまにでいいですよ!? 絶対に来いとかそういうわけじゃないです!」

「いやいや、ちゃんと行くから! こんなにしてもらったのに、それでさよならなんて僕としても嫌だし、魔法とかスキル使ってみた感想とかも言いたいし、なるべくこまめに来るようにするよ。 だから待ってて?」

「匠真さん…… ありがとうございます! ぜひまた来てください! 私も匠真さんと、またお話ししたいです!」

 フォルティはそう言って、満面の笑顔で匠真の手を両手で握ってきた。


(そういうことされると、ちょっとドキッとしちゃうんですけども……)


 そんな匠真の心境を知ってか知らずか、フォルティは手を離して、少し目を閉じ集中し始めた。


「それでは、匠真さんを向こうの世界に送ります!」

「分かった。 本当にありがとう、フォルティ。 死んでから転生出来るなんて思ってなかったよ。 それに、父さんと母さんにも会わせてくれてありがとう。 二人に会うことが出来たから、僕は前を向いて生きることが出来る。 それも全てフォルティのおかげだ。 本当に感謝してる。  向こうに着いて教会を見つけたら、また会いにくるよ」

「匠真さんが前を向けたのは、匠真さんが元々強かったからです! 私は少しだけ手助けしただけですよ。 向こうの世界で幸せに過ごせることを祈っていますね!」


 フォルティがそう言ったのを皮切りに、視界が光に包まれていく。


(ついに異世界に行くことになるのか…… 異世界で、幸せになるため、頑張らなきゃな!)
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