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第二章 福郡太守
ある女騎士の戦い 二
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ロゼの腹心ザーマはゲンキの率いるロイ軍を完膚無きまでに叩き潰した。ザーマが夜中に密かに敵陣に忍び込み、暴れて敵陣を混乱させてから一気に仲間の兵士達を雪崩込ませたのである。ロイ軍もまさかザーマが一人で奇襲するとは夢にも思わず、またザーマの力が想像を遥かに超えていたために為す術も無く総崩れとなったのである。
「ふん、ロイ軍など所詮この程度よ」
ザーマはロゼと同じ妖鬼族。真紅の肌に筋骨隆々の肉体、頭に二本の角を生やしていて更に細長い尻尾も持っている。肌着の上に鎧を纏い剣を帯びた姿はまさに勇猛な武将と言えた。
ザーマは身長二メートル。ロゼには敵わないが大柄な大男である。その戦闘力はロゼ軍でロゼに次ぐ実力を誇っていた。ロイ軍に油断があったわけでは無かったが、単騎奇襲という信じられない行動を誰も予想出来なかったのである。
妖鬼族はとても戦闘力が高く、一人で万の敵に匹敵すると呼ばれる実力者だ。それでも単騎で敵陣に突っ込むなんて誰もが考えられなかった。ロゼとザーマの二人を除いては。この二人は単騎敵軍に突っ込み圧倒する程の実力を備えていた。ロイ軍やその指揮官ゲンキは油断していたわけではない。ただ、敵の力を見誤ったのである。
逃げ惑うロイ軍の兵士達。月が照らす闇夜の中、陣中は火の手が上がり、兵士達は火だるまになりながら喚き散らして逃げていた。ザーマの合図でロゼ軍の兵士達が矢の先に火をつけて敵陣のテントや兵糧などの燃える物に向かって射ったのだ。
なんとか体制を整えようとロイ軍の兵士長やそれに準ずる者が声を上げるが、既にロイ軍は総崩れとなっており統率など取れようが無かった。それに追い討ちをかけるようにザーマがロイ軍兵士を無惨に殺していく。万人敵と呼ぶに相応しい剛力で兵士の頭を片手で掴み背骨ごと胴体から抜き取るという荒業をやってのけた。炎に包まれながら背骨の垂れた頭蓋を手にしたその姿はまさに悪魔。ロイ軍兵士は恐れ慄き、助けてと叫びながら逃げ惑う。それをザーマは容赦しない。拳の一振りで兵士数人の胴体を貫き、頭蓋を潰す。まるで肉の大砲と呼ぶべき威力だった。
「どうした!? ロイ軍には腰抜けしかいないのかぁ!?」
ロイ軍の兵士長は矢に当たり戦死。ロイ軍は五万の精鋭だったが一夜にしてほぼ全滅した。
ロゼとゲンキがまだ戦っている最中だった。しかし既に勝負は着いたと言えるだろう。ロイ軍は精鋭を全て失った。拠点も後方の異水という城のみだった。しかも残る手勢は二万のみ。ゲンキの大敗だった。
ロゼとゲンキは激しく拳と剣をぶつけ合っていた。ロゼのパンチをゲンキは剣で受ける。そして全身に気を纏わせて強化された体で剣を一刀両断。ロゼの腕を落とすまではいかずとも深い傷を負わせることに成功していた。ロゼも警戒してゲンキの剣を受けないようにしているが、やはりロゼは体が大きく鈍重のため、ゲンキの素早い身のこなしに、反応するのがやっとであった。
ゲンキはここでロゼを殺し、少しでも敵を弱くする事を至上命題と思って動いていた。気を感知する力で味方がほぼ壊滅状態なのは分かっていた。今この場にはロゼと自分と数人の兵士がいるのみでそれぞれの本隊は別の場所にいる。今がロゼを殺す絶好の機会なのである。
「ぬあああ!!」
ゲンキは剣に気の力を込める。剣は通常よりも硬く鋭利となって威力は倍増している。鉄をも両断する威力でロゼの体に傷を与えていく。しかし決定打に欠けていた。ロゼの体の強度は想像以上であり、深い傷を中々与えられないでいた。ゲンキは時折素手による突きや蹴りでロゼを怯ませようとするが素手では歯が立たなかった。武器があってようやく五分の戦いだ。ロゼの拳はまるで大砲のように強烈で大きく見えた。視界いっぱいに広がるロゼの拳を剣でなんとか受け止める。その度にゲンキの動きが止まる。その隙を攻撃されまいと即座に距離を取る。まるで一撃くらえば死という極限状態での戦いといえた。近くにいた兵士達は二人の戦いに割って入る事も出来ず、それぞれの指揮官の勝ちを祈って手を合わせるのみであった。
「ぬぅ……すばしっこいネズミめ!」
ロゼとゲンキが組み合った時、ロゼが突如大口を開く。すると口から気の光線、気波が放たれた。ゲンキは慌てて咄嗟に身をかわし回避する。そこにロゼの回し蹴りをもろに受けてしまった。左腕があらぬ方向に折れて鈍い音が響く。ゲンキはそのまま数メートル吹き飛ばされて倒れた。ゲンキは右手に剣を持ちながら、左腕を抑える。左腕は折れて曲がっており、多量の血が流れてしまっていた。
「うぐぅ……く、くそ――」
そこにロゼのパンチが打ち込まれる。ゲンキは腕を気にして反応に遅れたのだろう。ゲンキが反応するよりもそれは早くゲンキの腹を打った。そのままロゼは地面を崩す音と共に突進し、ゲンキの体ごと拳を地面に向けて打った。ゲンキは地面に倒れて、拳に腹を打ち込まれた。内臓が潰れたと錯覚しそうな激痛。口から大量に血を吐いてゲンキは痛みのあまり叫ぶ。
ゲンキは動けなくなった。二度、まともに攻撃を受けて既に体力は切れてしまった。ゲンキがひ弱なわけで無い。これでも何人もの妖鬼族を葬ってきたのだ。ロゼが強すぎたのだ。
動けないでいるゲンキ。その豊満な胸を、ロゼは足で踏み付けた。ゲンキは叫ぶ。まだ動く右手で抵抗するも何の解決にもならない。ゲンキの仲間の兵士達はとっくに逃げ出してしまった。ロゼは勝利を確信して笑みを浮かべていた。
「ふん。わしも警戒し過ぎたようだな。お前の力がこの程度ならもっと早く仕留めるべきだった」
そこにザーマが馬に乗って駆けてきた。ロゼの前で片膝を地につけて頭を下げる。
「我が君、ロイ軍は壊滅させました。投降した兵士も多数。我が軍の勝利です」
「そうか。よくやってくれたぞザーマ。ではこの女を連れて我が城に戻ろうでは無いか。ロイなど、最早死んだも同然」
ロゼは兵士に命じ、動けないでいるゲンキを縄で縛らせた後、自分の城に退却した。
ロゼの城でゲンキは牢獄に縛られた。ロゼの城はロゼの身長に合わせて、巨大な建造物となっていた。天井がとにかく高い。扉も大きい。まるで都の宮殿のような大きさだった。
そして牢獄もそれなりに大きかった。部屋は狭いが天井が高い。そんな牢獄の一室に、ゲンキはたった一人で閉じ込められた。鎖で腕を吊るされて自由は無く、食事も排泄も、見張り兵士によって手伝ってもらう有様だった。ゲンキは屈辱この上無かったが、それでも耐えた。
そして数ヶ月の月日が経った。ゲンキのもとにはロイが戦いに負けて自害したという報告が入ってきた。ロイ軍は壊滅、武将も投降したという。ゲンキは仕える主君を失ったのだ。ゲンキは悔しくてやるせなかった。
そこにロゼがやってくる。幾人もの獣人達を連れて。ゲンキは黙ったまま顔を俯いていた。ロゼは笑いながらその顔を掴んでこちらに視線を向けさせる。
「お前達、この女を好きにせよ」
「はっ! ありがとうございます。へへへ――」
ロゼが下がり、牢は獣人達とゲンキのみとなった。すると獣人達は力に任せてゲンキを襲い始めた。縄で縛られているゲンキでは抵抗する事も出来なかった。
「や、やめろ! 私に触れるな! ケダモノ共め!」
「主君の命だ。好きにさせてもらうぜー!」
獣人の男達はゲンキの女を踏みにじったのだ。ゲンキは失意のドン底に落ちた。騎士として、女としての尊厳も誇りも失った。男共に強引に襲われるのは初めての経験だった。ゲンキは彼らに犯された。
それから更に数日が経った。兵士共に定期的に痛めつけられて、ゲンキの体はボロボロだった。手足を落とされた。しかし蒼霊族の特徴により、再生された。その生命力の高さに兵士達は驚いた。するとその力に限界はあるのかと更に酷い仕打ちをしてのける。ゲンキは屈辱の余り、何度も死のうと思った。しかし縄で縛られてその自由は無かったのだ。畜生、畜生とゲンキは涙を流しながら呟いていた。そこにロゼが現れた。ロゼは笑みを浮かべながらゲンキを見下ろす。ゲンキは失意の中、ロゼが来ても特に反応を示さなかった。
「ゲンキよ。この数日間、お前は自分が女である事を実感出来たはずだ。わかるか? 弱き者は虐げられる。強き者こそが正義なのだ。お前の力なぞ、所詮この程度だ」
「……」
「しかし安心せよ。お前を襲わせた男達はみな、不能の輩。子供は作れん者共だ。奴らに襲われたとは言え、子供は生まれん。どうだ、安心したか?」
「……」
ゲンキにとって男達に己を踏み躙られた事はショックだった。戦いに負ければどんな酷い目に会うか、ゲンキは理解していた。こんな目に合う事もかねてより想像出来ていた。しかし頭で理解している事と、実際にその目に会うのとでは雲泥の差があった。敗北感、屈辱感に苛まれ、ゲンキは発狂しそうだった。それに男達には犯され、兵士達には拷問にかけられた。ゲンキはもはや死ぬしか出来ないと思った。かつて、夫や子供に先立たれた時以来の心持ちだ。もはや仕える主君もなく、生きていく気力も失った。
「さて、こうして汚れたお前をわしは愛でてみたいと思う。わしには六人の子供がいる。お前には七人目の子供を産んでもらおう」
「……は?」
「わしも子供の事は愛している。だが、最初から目的の為に生んだ子供なら情も湧かん。お前は蒼霊族。その子供なら生命力も人一倍のはずだ」
「……断る。誰がお前の子供など……」
「ふん。自分の立場を理解していないのか? お前の意思など、どうでも良いのだ。男達に襲わせたのはお前のやる気を呼び起こすためだ。わしもお前の事は何とも思っていない。汚れていようが知った事か」
「ふざけるなっ! 死んでやる! 死んでやるぞ!!」
ゲンキは暴れ出した。涙を流して喚き散らした。それを大好物とばかりに、ロゼはゲンキを襲った。巨大な体、それに備え付けられた巨大な物。それをゲンキの穴に突き入れた。ゲンキは泣き喚く事しか出来なかった。
それから更に数ヶ月が経った。ロゼに犯されてから、ゲンキは誰にも何もされなかった。牢の中で、縛られたまま、ただ飯を食うだけの日々だった。そしていつの間にか自分の腹が膨らんでいることに気付いた。それがロゼとの子供が出来たと悟るのに数日かかった。ロゼはゲンキの腹を見て子供が出来た事を喜んだ。
「ゲンキよ、その子供の名前はレイと名付けよう。男でも、女でも、通用する名前だ。お前は母として、我が妾として、その子を育てれば良い」
「……断ると言ったら?」
するとロゼがゲンキの前に一太刀の短剣を置いた。
「これで縄を切ってどこへでも行くが良い。子供を恨めしいと思うなら殺せ。蒼霊族とはいえ、赤子であれば簡単に殺せるだろう」
「……ふっ――はははは……」
ゲンキは乾いた笑い声を上げた。そしてロゼは牢から出ていった。
それからゲンキは何のやる気も置きず、屍のように固まっていた。更に数日が経ったある夜、ゲンキは短剣を手に取り、縄を切って身の拘束を解いた。そして短剣を握り、膨らんだ自分の腹に剣を突き立てた。
ゲンキは敵将ロゼの子供を産みたいとは思っていなかった。ロゼに犯され、無理矢理作らされた望まぬ我が子。殺してやりたい気持ちでいっぱいだった。そしてそれ以上に死んで楽になりたいという気持ちがあった。夫や子供のいる黄泉の国へと旅立ちたいと。……いや、夫も子供も生命力の高い蒼霊族。実はまだ生きている可能性もある。それでも、ゲンキはここで全てを終わりにしたいと思った。
「ふーっ、ふーっ」
ゲンキは呼吸を荒げたまま、剣を己の腹に突き入れた。何度も何度も腹を貫いた。まるで切腹のように。横一文字に腹を割いた。滝のように腹から血が飛び散り、中から内臓がぼとぼとと音を立てて落ちていく。激痛と気持ち悪さにゲンキは吐気を催した。それでも何度も腹を割いた。そして子宮を切り刻んだ。中から赤子を取り出した。赤子は――女の子だった。
赤子は銀髪の、水色の肌をした、角と尻尾を持つ赤子だった。自分と妖鬼族であるロゼの特徴を合わせた、紛れも無い二人の子供なのである。大きさはゲンキの片手の平しかない。彼女は――ロゼがレイと名付けた赤子は、先程剣で体を刻まれてしまい、全身に深い切り傷が出来ていた。全身が血で赤く染まっていた。息はしているが泣きはしない。まだ泣く力も無いのだろう。それもそのはず。剣で切り刻まれた上に、そもそも出産するにはまだ時期が早すぎたのだ。
レイは目を見開いてゲンキの姿を見つめていた。虫の呼吸をしているようで口の中は吐いた血で塗れていた。泣く力も無く、手足も殆ど動かしていなかった。
「……お前がレイか。……我が娘――殺してやるぞ! あんな奴との子供なんて!!」
それからゲンキは何度も赤子レイの体を切り刻んだ。疲れるまで、奇声を上げながら狂ったように。
日が明けた頃、ロゼはゲンキを捕らえていた牢獄にやってきた。そこにゲンキの姿は無く、血だらけの部屋と全身刀傷でいっぱいになった赤子だけが残っていた。ロゼは全てを悟り、その赤子を抱き抱えた。
「――レイ、女の子だったか。中々かわいいではないか。蒼霊族の特徴も持っている。だから生き永らえた。おそらくゲンキも生きているだろう」
ロゼはレイを抱き抱えながらその場を後にした。とある計画遂行の為に。それは十年以上前から計画していた事。神の如き力を得る、神降ろしの儀式だった。
「ふん、ロイ軍など所詮この程度よ」
ザーマはロゼと同じ妖鬼族。真紅の肌に筋骨隆々の肉体、頭に二本の角を生やしていて更に細長い尻尾も持っている。肌着の上に鎧を纏い剣を帯びた姿はまさに勇猛な武将と言えた。
ザーマは身長二メートル。ロゼには敵わないが大柄な大男である。その戦闘力はロゼ軍でロゼに次ぐ実力を誇っていた。ロイ軍に油断があったわけでは無かったが、単騎奇襲という信じられない行動を誰も予想出来なかったのである。
妖鬼族はとても戦闘力が高く、一人で万の敵に匹敵すると呼ばれる実力者だ。それでも単騎で敵陣に突っ込むなんて誰もが考えられなかった。ロゼとザーマの二人を除いては。この二人は単騎敵軍に突っ込み圧倒する程の実力を備えていた。ロイ軍やその指揮官ゲンキは油断していたわけではない。ただ、敵の力を見誤ったのである。
逃げ惑うロイ軍の兵士達。月が照らす闇夜の中、陣中は火の手が上がり、兵士達は火だるまになりながら喚き散らして逃げていた。ザーマの合図でロゼ軍の兵士達が矢の先に火をつけて敵陣のテントや兵糧などの燃える物に向かって射ったのだ。
なんとか体制を整えようとロイ軍の兵士長やそれに準ずる者が声を上げるが、既にロイ軍は総崩れとなっており統率など取れようが無かった。それに追い討ちをかけるようにザーマがロイ軍兵士を無惨に殺していく。万人敵と呼ぶに相応しい剛力で兵士の頭を片手で掴み背骨ごと胴体から抜き取るという荒業をやってのけた。炎に包まれながら背骨の垂れた頭蓋を手にしたその姿はまさに悪魔。ロイ軍兵士は恐れ慄き、助けてと叫びながら逃げ惑う。それをザーマは容赦しない。拳の一振りで兵士数人の胴体を貫き、頭蓋を潰す。まるで肉の大砲と呼ぶべき威力だった。
「どうした!? ロイ軍には腰抜けしかいないのかぁ!?」
ロイ軍の兵士長は矢に当たり戦死。ロイ軍は五万の精鋭だったが一夜にしてほぼ全滅した。
ロゼとゲンキがまだ戦っている最中だった。しかし既に勝負は着いたと言えるだろう。ロイ軍は精鋭を全て失った。拠点も後方の異水という城のみだった。しかも残る手勢は二万のみ。ゲンキの大敗だった。
ロゼとゲンキは激しく拳と剣をぶつけ合っていた。ロゼのパンチをゲンキは剣で受ける。そして全身に気を纏わせて強化された体で剣を一刀両断。ロゼの腕を落とすまではいかずとも深い傷を負わせることに成功していた。ロゼも警戒してゲンキの剣を受けないようにしているが、やはりロゼは体が大きく鈍重のため、ゲンキの素早い身のこなしに、反応するのがやっとであった。
ゲンキはここでロゼを殺し、少しでも敵を弱くする事を至上命題と思って動いていた。気を感知する力で味方がほぼ壊滅状態なのは分かっていた。今この場にはロゼと自分と数人の兵士がいるのみでそれぞれの本隊は別の場所にいる。今がロゼを殺す絶好の機会なのである。
「ぬあああ!!」
ゲンキは剣に気の力を込める。剣は通常よりも硬く鋭利となって威力は倍増している。鉄をも両断する威力でロゼの体に傷を与えていく。しかし決定打に欠けていた。ロゼの体の強度は想像以上であり、深い傷を中々与えられないでいた。ゲンキは時折素手による突きや蹴りでロゼを怯ませようとするが素手では歯が立たなかった。武器があってようやく五分の戦いだ。ロゼの拳はまるで大砲のように強烈で大きく見えた。視界いっぱいに広がるロゼの拳を剣でなんとか受け止める。その度にゲンキの動きが止まる。その隙を攻撃されまいと即座に距離を取る。まるで一撃くらえば死という極限状態での戦いといえた。近くにいた兵士達は二人の戦いに割って入る事も出来ず、それぞれの指揮官の勝ちを祈って手を合わせるのみであった。
「ぬぅ……すばしっこいネズミめ!」
ロゼとゲンキが組み合った時、ロゼが突如大口を開く。すると口から気の光線、気波が放たれた。ゲンキは慌てて咄嗟に身をかわし回避する。そこにロゼの回し蹴りをもろに受けてしまった。左腕があらぬ方向に折れて鈍い音が響く。ゲンキはそのまま数メートル吹き飛ばされて倒れた。ゲンキは右手に剣を持ちながら、左腕を抑える。左腕は折れて曲がっており、多量の血が流れてしまっていた。
「うぐぅ……く、くそ――」
そこにロゼのパンチが打ち込まれる。ゲンキは腕を気にして反応に遅れたのだろう。ゲンキが反応するよりもそれは早くゲンキの腹を打った。そのままロゼは地面を崩す音と共に突進し、ゲンキの体ごと拳を地面に向けて打った。ゲンキは地面に倒れて、拳に腹を打ち込まれた。内臓が潰れたと錯覚しそうな激痛。口から大量に血を吐いてゲンキは痛みのあまり叫ぶ。
ゲンキは動けなくなった。二度、まともに攻撃を受けて既に体力は切れてしまった。ゲンキがひ弱なわけで無い。これでも何人もの妖鬼族を葬ってきたのだ。ロゼが強すぎたのだ。
動けないでいるゲンキ。その豊満な胸を、ロゼは足で踏み付けた。ゲンキは叫ぶ。まだ動く右手で抵抗するも何の解決にもならない。ゲンキの仲間の兵士達はとっくに逃げ出してしまった。ロゼは勝利を確信して笑みを浮かべていた。
「ふん。わしも警戒し過ぎたようだな。お前の力がこの程度ならもっと早く仕留めるべきだった」
そこにザーマが馬に乗って駆けてきた。ロゼの前で片膝を地につけて頭を下げる。
「我が君、ロイ軍は壊滅させました。投降した兵士も多数。我が軍の勝利です」
「そうか。よくやってくれたぞザーマ。ではこの女を連れて我が城に戻ろうでは無いか。ロイなど、最早死んだも同然」
ロゼは兵士に命じ、動けないでいるゲンキを縄で縛らせた後、自分の城に退却した。
ロゼの城でゲンキは牢獄に縛られた。ロゼの城はロゼの身長に合わせて、巨大な建造物となっていた。天井がとにかく高い。扉も大きい。まるで都の宮殿のような大きさだった。
そして牢獄もそれなりに大きかった。部屋は狭いが天井が高い。そんな牢獄の一室に、ゲンキはたった一人で閉じ込められた。鎖で腕を吊るされて自由は無く、食事も排泄も、見張り兵士によって手伝ってもらう有様だった。ゲンキは屈辱この上無かったが、それでも耐えた。
そして数ヶ月の月日が経った。ゲンキのもとにはロイが戦いに負けて自害したという報告が入ってきた。ロイ軍は壊滅、武将も投降したという。ゲンキは仕える主君を失ったのだ。ゲンキは悔しくてやるせなかった。
そこにロゼがやってくる。幾人もの獣人達を連れて。ゲンキは黙ったまま顔を俯いていた。ロゼは笑いながらその顔を掴んでこちらに視線を向けさせる。
「お前達、この女を好きにせよ」
「はっ! ありがとうございます。へへへ――」
ロゼが下がり、牢は獣人達とゲンキのみとなった。すると獣人達は力に任せてゲンキを襲い始めた。縄で縛られているゲンキでは抵抗する事も出来なかった。
「や、やめろ! 私に触れるな! ケダモノ共め!」
「主君の命だ。好きにさせてもらうぜー!」
獣人の男達はゲンキの女を踏みにじったのだ。ゲンキは失意のドン底に落ちた。騎士として、女としての尊厳も誇りも失った。男共に強引に襲われるのは初めての経験だった。ゲンキは彼らに犯された。
それから更に数日が経った。兵士共に定期的に痛めつけられて、ゲンキの体はボロボロだった。手足を落とされた。しかし蒼霊族の特徴により、再生された。その生命力の高さに兵士達は驚いた。するとその力に限界はあるのかと更に酷い仕打ちをしてのける。ゲンキは屈辱の余り、何度も死のうと思った。しかし縄で縛られてその自由は無かったのだ。畜生、畜生とゲンキは涙を流しながら呟いていた。そこにロゼが現れた。ロゼは笑みを浮かべながらゲンキを見下ろす。ゲンキは失意の中、ロゼが来ても特に反応を示さなかった。
「ゲンキよ。この数日間、お前は自分が女である事を実感出来たはずだ。わかるか? 弱き者は虐げられる。強き者こそが正義なのだ。お前の力なぞ、所詮この程度だ」
「……」
「しかし安心せよ。お前を襲わせた男達はみな、不能の輩。子供は作れん者共だ。奴らに襲われたとは言え、子供は生まれん。どうだ、安心したか?」
「……」
ゲンキにとって男達に己を踏み躙られた事はショックだった。戦いに負ければどんな酷い目に会うか、ゲンキは理解していた。こんな目に合う事もかねてより想像出来ていた。しかし頭で理解している事と、実際にその目に会うのとでは雲泥の差があった。敗北感、屈辱感に苛まれ、ゲンキは発狂しそうだった。それに男達には犯され、兵士達には拷問にかけられた。ゲンキはもはや死ぬしか出来ないと思った。かつて、夫や子供に先立たれた時以来の心持ちだ。もはや仕える主君もなく、生きていく気力も失った。
「さて、こうして汚れたお前をわしは愛でてみたいと思う。わしには六人の子供がいる。お前には七人目の子供を産んでもらおう」
「……は?」
「わしも子供の事は愛している。だが、最初から目的の為に生んだ子供なら情も湧かん。お前は蒼霊族。その子供なら生命力も人一倍のはずだ」
「……断る。誰がお前の子供など……」
「ふん。自分の立場を理解していないのか? お前の意思など、どうでも良いのだ。男達に襲わせたのはお前のやる気を呼び起こすためだ。わしもお前の事は何とも思っていない。汚れていようが知った事か」
「ふざけるなっ! 死んでやる! 死んでやるぞ!!」
ゲンキは暴れ出した。涙を流して喚き散らした。それを大好物とばかりに、ロゼはゲンキを襲った。巨大な体、それに備え付けられた巨大な物。それをゲンキの穴に突き入れた。ゲンキは泣き喚く事しか出来なかった。
それから更に数ヶ月が経った。ロゼに犯されてから、ゲンキは誰にも何もされなかった。牢の中で、縛られたまま、ただ飯を食うだけの日々だった。そしていつの間にか自分の腹が膨らんでいることに気付いた。それがロゼとの子供が出来たと悟るのに数日かかった。ロゼはゲンキの腹を見て子供が出来た事を喜んだ。
「ゲンキよ、その子供の名前はレイと名付けよう。男でも、女でも、通用する名前だ。お前は母として、我が妾として、その子を育てれば良い」
「……断ると言ったら?」
するとロゼがゲンキの前に一太刀の短剣を置いた。
「これで縄を切ってどこへでも行くが良い。子供を恨めしいと思うなら殺せ。蒼霊族とはいえ、赤子であれば簡単に殺せるだろう」
「……ふっ――はははは……」
ゲンキは乾いた笑い声を上げた。そしてロゼは牢から出ていった。
それからゲンキは何のやる気も置きず、屍のように固まっていた。更に数日が経ったある夜、ゲンキは短剣を手に取り、縄を切って身の拘束を解いた。そして短剣を握り、膨らんだ自分の腹に剣を突き立てた。
ゲンキは敵将ロゼの子供を産みたいとは思っていなかった。ロゼに犯され、無理矢理作らされた望まぬ我が子。殺してやりたい気持ちでいっぱいだった。そしてそれ以上に死んで楽になりたいという気持ちがあった。夫や子供のいる黄泉の国へと旅立ちたいと。……いや、夫も子供も生命力の高い蒼霊族。実はまだ生きている可能性もある。それでも、ゲンキはここで全てを終わりにしたいと思った。
「ふーっ、ふーっ」
ゲンキは呼吸を荒げたまま、剣を己の腹に突き入れた。何度も何度も腹を貫いた。まるで切腹のように。横一文字に腹を割いた。滝のように腹から血が飛び散り、中から内臓がぼとぼとと音を立てて落ちていく。激痛と気持ち悪さにゲンキは吐気を催した。それでも何度も腹を割いた。そして子宮を切り刻んだ。中から赤子を取り出した。赤子は――女の子だった。
赤子は銀髪の、水色の肌をした、角と尻尾を持つ赤子だった。自分と妖鬼族であるロゼの特徴を合わせた、紛れも無い二人の子供なのである。大きさはゲンキの片手の平しかない。彼女は――ロゼがレイと名付けた赤子は、先程剣で体を刻まれてしまい、全身に深い切り傷が出来ていた。全身が血で赤く染まっていた。息はしているが泣きはしない。まだ泣く力も無いのだろう。それもそのはず。剣で切り刻まれた上に、そもそも出産するにはまだ時期が早すぎたのだ。
レイは目を見開いてゲンキの姿を見つめていた。虫の呼吸をしているようで口の中は吐いた血で塗れていた。泣く力も無く、手足も殆ど動かしていなかった。
「……お前がレイか。……我が娘――殺してやるぞ! あんな奴との子供なんて!!」
それからゲンキは何度も赤子レイの体を切り刻んだ。疲れるまで、奇声を上げながら狂ったように。
日が明けた頃、ロゼはゲンキを捕らえていた牢獄にやってきた。そこにゲンキの姿は無く、血だらけの部屋と全身刀傷でいっぱいになった赤子だけが残っていた。ロゼは全てを悟り、その赤子を抱き抱えた。
「――レイ、女の子だったか。中々かわいいではないか。蒼霊族の特徴も持っている。だから生き永らえた。おそらくゲンキも生きているだろう」
ロゼはレイを抱き抱えながらその場を後にした。とある計画遂行の為に。それは十年以上前から計画していた事。神の如き力を得る、神降ろしの儀式だった。
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