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第二章 福郡太守

四 勢力拡大

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 諸郡との戦いに勝利した福郡。福郡首府ではレイが宴会を開いていた。新たなに仲間に加わったリュウキを招いて勝利を宴を催した。みんな鎧を脱いで私服の状態(レイはパンツ一丁)となり酒を飲み、肉を食していた。女官達が酒を注ぎ、剣を持って踊りを披露する。それを見て大いに賑わっていた。

「リュウキよ久しいな。前の主君はお前が仕えるに値しなかったのか?」

 リュウユウがリュウキに問いかける。二人がこうして話すのは十年ぶりであった。リュウキは酒を飲みながら頷いた。

「木曜郡の太守はガルの言いなりで大志など無い。そんなヤツに仕えるよりは、福郡のレイのように大志を抱く君主の方が良い」
「お前こそ大志など無かった男だ。単に強い方に付いただけでは無いのか?」

 リュウユウが更に続ける。リュウキは少し俯いた後大笑いを始めた。

「流石ですな先生! 全くのその通りです。しかしレイの方が仕えるに相応しいと感じたのは本当です。ようやく仕えるべき主を見つけたような気がします」

 リュウキは立ち上がるとレイの席にやってきて盃を見せた。そしてゴクリの一気に飲み干す。

「我が君は勇猛果敢でその小さな胸には大志を抱いている。ローリーへの手紙の話は耳に届いてますよ。一国の長になりたいようですね? もしや、皇帝の座をお望みかな?」

 レイは微笑むと立ち上がった。レイは思うがままを口にすることにした。天下を平定し皇帝として世界に君臨するという大志を。

「その通りです。私はこの天下を平定し、皇帝として君臨したいのです」

 するとリュウキは笑い出した。バギーがよく言ったとレイを褒め称える。クライムもリュウユウも笑みを浮かべていた。

「聞いた所では天上も乱れているとか。神々が天から降りてきて天下に君臨しているそうですよ。我が君よ、いっそのこと、天下と言わず天上も平定なされよ。皇帝と言わず、天帝に――この世界の最高神となったらいかがかな?」

 天上――人間達が住む世界天下と対を成す神々が住まう世界。そこは最高神である天帝を筆頭に、天下の国家を率いる皇帝のように天帝が天上の全てを統率している。しかしこの天下の大乱が天上にも伝わったのか、昨今の天上も乱れに乱れているらしい。妖怪や天人、神々等が天帝に背き、天上は乱れ戦争が相次いでいるとか。しかも天帝はそれを平定出来ないでいる。天下と違って天上は絶対的な実力主義にも関わらずだ。天帝が一番力があるはずなのに、その天帝が乱を平定出来ないでいるのだ。天帝の信用は失墜したようで天上は乱れた。
 そして神々の中には天下りして、天下に降臨し、乱世に覇を唱えているという。幽州の周りにはそんな神はいないが中原では神々が割拠しているそうだ。そして驚くべきなのは天下の人間さえ、天上に昇り、天帝を倒そうと目論んでいるらしい。妖怪や反目した神々から力を貰い、神的な力を手に入れるのが主な目的だそうだが。つまり今、天上天下は大混乱状態なのであった。

「天上か……。確かに今は神の世界すら乱れている。ほんと、大変な乱世です」

 レイは天下を平定し、皇帝として君臨する事を考えていたがよく考えると天上の事はあまり頭に無かった。神々の世界をどうにかするなんて、人間の手に余るからだ。しかし神々が天下に下り、覇を唱えている以上、無視は出来ない。この世界を平定するには神とも戦うしか無いのである。天上を平定し新たな天帝となる。そんな事は前代未聞の大事である。天帝も何度か交代しているらしいが、全て継ぐのは神の身分であった。
 人間が天帝の座に付くなど考えられない。しかし昨今の天下では天帝の座を狙う人間がごまんといるのである。彼らはきっと人間の範疇を超えて神になろうとしている者達である。レイも考えを改めて、天帝の座を狙う事を視野にいれる事にした。人間を超えて神になる。人間が神になった事例をレイはいくつか聞いたことがあった。気の質を神の域に達するまで極める。それで神に等しい力を得られるのだ。それだけでは神になれない。神と人から認められる事が重要なのである。それさえ叶えば神となれる。もちろん非力では人間が神になる事など出来ないが。他にも死んで霊となって神になる方法もあるが、レイは死ぬ気が無いのでそれは論外だ。
 リュウキは席に座るとこの世界の情勢について語り始めた。

「我が君。今、この天下の諸侯で勢いがあるのは誰だと思います?」

 諸侯。覇を競う群雄達のことだ。中には霊王朝に真っ向から背き、皇帝や王を名乗り国を開く者もいる。その中で勢いのある者達といえば……、幾人かいるがやはり限られてくるというものである。

「やはり、最も勢いがあるのは霊王朝の魏王ロゼでしょう。ロゼは霊の朝廷を牛耳り、皇帝を支配下に置いて天下に号令を掛けられる。目下、一部の諸侯が独立しているとはいえ、やはり正統な皇帝は霊王朝の皇帝です。それを支配しているロゼはまさに天下一の諸侯かと」
「確かにロゼは天下一の諸侯でしょうな。この男は罪無き民と己の家族――娘を生贄に捧げて神の如き力を得て皇帝を手中に収めた妖鬼族。勢いがあり強いのは確かだが性格は残虐非道でケダモノ同然。だからこそ、他の諸侯は反発していると言っても良い。天下の三分の一を所有している最大の諸侯だが、人としてはクズ野郎ですな。罪無き民、そして実の娘すら生贄に捧げるとは……」

 レイは頷いた。
 魏王ロゼの蛮行は誰もが知っている。ロゼは今から六年前、霊王朝の首都、洛陽の人口の十分の一に当たる三百万の民と、まだ赤子だった己の娘を生贄に捧げて神的力を手に入れた。その力で天下一の武勇となり、当時の皇帝つまり霊帝を殺し、その息子で当時十歳だった皇太子を即位させた。そしてロゼは霊王朝の全てを手に入れた。瞬く間に丞相となり自らを魏王に封じ、王国も手に入れた。諸侯が覇を競い始めたのも、そもそもはロゼの蛮行を許せず、ロゼに従わない故であった。霊帝期から朝廷は力を失い、各地で反乱や独立運動が起きていたが、ロゼの蛮行はそれに拍車をかけた。今では数百の諸侯が争う乱世だが、その中でも魏王ロゼの勢力は依然天下一を維持している。ロゼは天上にも勢力を拡大し、天上の漢中山を占拠しているらしい。
 レイももちろんロゼの蛮行は知っている。三百万の民と娘を生贄に捧げたのは周知の事実だ。しかも今からちょうど六年前に。レイが赤子の頃、川を流れてリュウユウに拾われた頃と合致する。レイは昔からこのロゼこそが自分の実父なのではないかと想像していた。リュウユウはまさかと信じなかった。生贄にされた三百万の民はみんな異界に連れて行かれて死体も残さなかったという。娘だけが川を流れて生きながらえたとは考えにくいと言うのだ。レイも確かにと思っていた。三百万の民が消えたというのに、娘だけこの世に残ったなんて都合の良い話があるわけないと。やはりロゼとの親子関係を想像するのは奇想天外な話であると。しかしロゼには左の頰から首にかけて刀傷があるという。レイが夢で見る父と思わしき姿と合致する。しかも妖鬼族だ。想像してしまうのも無理は無いだろう。

「他には誰が勢いがあると思いますか?」

 リュウキは更に続けた。

「鬼州のエンタンはロゼに次ぐ勢力で領地も広く、兵糧もたくさんある。勢いがあると思います。ロゼ程ではありませんがね」
「更に荊州のリュウケンも神と契約し力をつけている。大志は無いが戦争を行わず自治に努めているので荊州は豊かだ。これも中々ですよ」
「他には呉王国のソンキュウシも海軍が強く度々ロゼの軍と戦っている。これも勢いがあると言えるでしょうな」

 呉王国は荊州の東に位置する広大な国家だ。領地の広さなら天下一。更にソンキュウシは猿の妖怪孫悟空と契約を交わして神的な力を得ている。まさに強大な諸侯である。

「他にも蜀帝国の皇帝リュウシュウ、涼州のバトツ、東和帝国の皇帝ジンム、欧州のエイコクキ、米州のワシントンなどは勢いがあるでしょう。そのうち半分以上が神や妖怪から力を得ている」
「それに天下りした神々も含めると――みんな強豪ですな」
「我が君……これからあなたが戦う相手ですぞ? 勝てますか?」

 レイは酒を飲んで頷いた。

「敵は強者ばかり。それでも最後には私が勝ちます。まぁ、苦労しそうですが」
「今挙げた諸侯のいくらかは妖鬼族。同族のあなたなら行けますよ」

 レイとリュウキは共に酒を飲み交わした。その後リュウキはある提案を行った。レイも神や妖怪の加護を受けるべきではないかと。レイは考えた。誰かの支配下には入りたくない。しかし加護を受ける事は支配されるわけではない。諸侯の多くは加護を受け力を増している。それに対抗するには加護を受けるしかないと。

「まぁ全ては主君の考え次第ですが……。ところで今後はどうするべきと考えてますか?」
「ん? ああ。勢力拡大。まずは幽州を平らげねばいけないと思っています」 
「善は急げです。先日破った各郡を平定してしまいましょう。そしてゆくゆくはガルを下し、幽州の全てをその手に!」
「わかった」

 その後レイはリュウキの言に従い、各郡を平定しに向かった。ガルの支配下として戦争もろくにせず、厭戦気分があった各郡は簡単に撃ち破られた。こうしてレイは幽州の半分を手中に収めた。同時にガルとは明確な敵対関係となった。

 ガルはこの状況に心底怒っていた。各郡の軟弱さに怒り、レイの蛮行に怒った。しかし何度か進軍したものの、レイの軍には敵わなかった。クライム、バギー、リュウキの三人の勇猛さに尽く敗戦していったのである。バギーはいよいよ盤石だったはずの己の地位が揺らぎ始めた事に動揺を隠せない。すると配下の者から進言があった。鬼州のエンタンに援軍を頼むというのだ。

「しかしエンタンとは仲が悪い。援軍をよこすだろうか?」
「いえ、実際に援軍など出さぬでしょう。しかしここで吉報がございます」

 するとガルの目が変わった。

「申してみよ! 早う!」

 ガルにとってレイの勢力拡大はとても危険な事だった。これまで凶報ばかり。吉報とやらがとても気になっていた。

「猿妖怪、孫悟空が我が領地に訪れています。孫悟空と契約し、我が君が力を得るのです。更に孫悟空に共にレイを倒そうと持ちかけるのです」

 孫悟空は天帝に歯向かった妖怪の一人。今は天下に降りてきて自身のしもべを契約して増やしているという。孫悟空は気性が荒いが仁義に厚い男。そして力も強い。黄土、赤鳳、青龍に変身する力を持ち、その力は絶大。ガルはこの男の力があればレイを倒せると思った。

「しかし孫悟空がただで我が望みを叶えると思うか? 契約するだけならまだしも共にレイを倒すなど……孫悟空に何のメリットがある?」
「こう申せば良いのです。レイが、孫悟空は天帝に背いた逆賊、非道な矮小猿と言っていた、と。孫悟空は単純な男。簡単に信じて怒り心頭に走り、レイを倒そうとするでしょう」

 ガルは考えた。孫悟空が気性が荒く単純な男である事は知っている。しかし会った事が無い。人となりはよくわからない。本当に上手く行くのだろうかと。しかしレイを倒すにはそれしか無いだろうと思った。一対一でレイに勝つ姿が考えられない。ガルは妖鬼族としては平凡で気も小さいのだ。だからこそ幽州牧として霊王朝に服属しながらも半独立する程度の位置に甘んじていた。レイと戦って勝てるとしても、更にクライム、バギー、リュウキを相手して勝てるかどうか……。ガルは確実に勝てる方を取る。ガルは孫悟空と会う事に決めた。

「よし。明日、俺が自ら孫悟空に会いに行こう」
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