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蜜柑色の彼と好きな物と嫌いな物と
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カリカリ、とよく焼けた香ばしい匂いと食感に唾液が混ざり咀嚼して、呑み下す。
本当に、日本のベーカリーというのはレベルが高いらしく高級店でも何でもない店のようだったのにとても美味しい、クロワッサンなのを僕は認めて、その層が織りなす食感を楽しみながら一口、もう一口と食べた。
パン屋の近くにあったベンチの端に腰掛けて、クロワッサンを咀嚼している横でその隣に少し離れた場所で、腰掛けて食べる芦家がパンを齧る音を耳に捉える。
連れて行かれたパン屋で、先に買った芦家に続いて僕とパンを買おうとしたら「クロワッサンは黒瀬の分も買っておいた」と言われて、手渡されたパンをいらないとも言わずに流されて、こうして共に齧っている事実はまた芦家のペースに飲まれている気がした。
「うめぇな、これ」
「…君、もう少しゆっくり食べた方がいいんじゃないの?」
「腹減ってるから仕方ねぇんだ、味わってはいるぜ」
大きな口でザクザクと、クロワッサンを食べ切った芦家の様子に目を瞬かせる。本当に、前も思ったけど一口が大きい男だ。ペロリと何でも食べてしまい、気持ちが良いほどの食べっぷりだが折角繊細なバターの風味が美味しいクロワッサンなのだから、もう少しゆっくり食べた方がいい気がして、声をかけたが芦家は二個目のロシアのピロシキに少し似てる、カレーパンを齧り初めてその食欲に驚かされる。
いつも食事を共にして、思う事だが本当にその食事の量には目が点になる程だ。
カレーパンを齧っていた芦家が此方を振り向く。
「このカレーパンもすげぇうめぇぞ、黒瀬はカレーパンとかは嫌いなのか?」
「…食べた事ない」
「えっ、まじで?」
「あぁ、見た事はあるが食べた事はないから知らないよ」
「…もしかして、コロッケパンも?」
「見た事はあるけど、食べた事はないな」
「まじかよ」
芦家は今までで一番驚いた顔をして、大きな瞳を見開き信じられないと言わんばかりの表情を晒していた。
僕は、そんなに驚く事なのかと、訝しみクロワッサンを食べながら芦家を見つめると、驚いた表情のまま芦家は少し思案したように、目を瞬かせて、カレーパンが入った半分ほど食べられた紙袋をガサリと音を立てて、此方に差し出してきて僕は、その紙袋と芦家の顔を交互に見る。
「食ってみる?」
「…いや、いらない」
「そう言うなって。食ってみてから不味かった、もう食わなきゃいいじゃん」
「…………」
言い出したら聞かない所があるのは、この短い付き合いの中で、重々承知していた為、僕はこの押し問答を早く終わらせたくて、その差し出されたら紙袋を受け取る。
こうやって、誰かが食べたものを食べると言うのは音楽院まではした事がなかったけれも、音楽院に入った時にこうして食べたクラスメイトが差し出してくれたチョコのパイを思い出して、ピロシキのようなパンを受け取り一口齧る。
「どう?」
「ッ辛いっ」
味の想像は全くつかずに食べたそれは、さまざまなスパイスが複合した香り高い味わいで、辛味が強く僕は舌に痛みが走り、涙が滲む。
油が染みた、その紙袋を芦家へと差し返すと受け取った芦家が僕の様子を心配そうに見つめていて、自分が勧めたくせにと若干、腹が立った。
「辛いのダメなのか?というかこれ、そんな辛いか?」
「…っ、苦手とかじゃ…ッ」
「ちょっと、待ってて」
その辛みに耐えるように僕はこれ以上涙が滲まないように目を閉じて、口元を手で抑えているといきなりベンチから立ち上がった芦家の気配に目で追う事なく、辛みに耐えているとガコンと何かが落ちる音がした後、此方に早足で戻ってきた芦家が僕の前に立つと同時に頬に冷たい感覚が走って、驚いて顔を上げる。
そこにはピンク色の缶を持った芦家が居て、少し慌てた様子で僕の表情を窺っているようだ。
「いちごミルク、これ飲むと辛さ治るぜ」
「ッ」
そんなもの要らない、と言う余裕はなくて僕はその缶を受け取りプルタブを押し込み、そのジュースを飲み込む。
冷たくまろやかな口当たりのいいミルク感が強く、イチゴの風味が感じられる甘さのあるその飲み物は辛さが走る舌を癒すように、美味しくて一口二口三口と飲んで、口を離す。
僕は浅く息を吐いて、いきなり襲った衝撃に呆然としてしまった。
「…わりぃ、そんなに辛いと思わなかった」
「…ッ、驚いた」
「辛いの苦手だったのか?大丈夫か?」
「苦手ということなのか?初めて辛い食べ物を食べた」
「…え、まじで?」
「あぁ…、幼い頃からコンクール中に身体を壊したら困るから食べさせられた事がなくて、今も出てくる事なんてないから」
駆け巡った衝撃に頭が真っ白になって、素直に自分自身の事を話してしまうと、先ほどカレーパンを食べた事がないと伝えた時と同じ位、驚いた顔をしている芦家の様子は音楽院のクラスメイトに辛いものを食べた事が無いと伝えた時と、全く同じ表情をしているのがやはり一度も食べた事が無いのが、珍しい事なのかと再確認させられた。
「…黒瀬ってすげぇストイックだよな」
「…ストイックな訳じゃないよ、別に我慢してないし」
ストイックというならば、本来それは欲求を抑えて我慢している事を指す言葉だ。別に僕は、特に我慢なんてした事がないからそれに当て嵌まらない気がして、そう伝えると芦家は少し首を傾げて、僕を見つめる。
「ストイックだろ?ピアノの為にそこまでしてたんだから」
「何度も言うけど、別に我慢なんてしてないからね…、別にお腹を壊してピアノが弾けなくなるリスクより辛い食べ物を食べたいという欲求を持った事がなかっただけだよ」
「……ふぅん、そっか」
「…………うん」
舌の痺れが完全に取れてきた頃に、呆然としていた意識も戻ってきて芦家と普通に会話をしていた事に、気恥ずかしさを感じていた。
辛さに気を取られていたからって、何普通に会話をしているんだと、自分自身に呆れてしまう。
息を吐いて、無言を貫き口を閉ざしていると横に座り直して黙っていた芦家が僕の方を徐に見つめいるように感じて、其方を振り返ると、芦家は僕ではなく僕の後ろを見ているようで僕もそっちを振り返ると、その瞬間、芦家が見ていた方に走り出した為、その後ろ姿を捉えて、目を見張る。
何だ?いきなりどうしたんだ。
そう思って、芦家が走る先に視線を移すとそこには財布があって、芦家はそれを拾って走り去る自転車を疾風のように追いかけて行く。
すぐ側にあった芦家の背が、紙に垂らした絵の具の一滴のように滲む位遠くの方でその自転車を捕まえて、戻ってくる様子を僕は目を瞬かせて、見つめていると少し息を乱した芦家がそんなに時間をかけずに、戻ってきて額を手の甲で擦った。
「今の自転車の人、財布落としててな。届けたら給料全額入れてたから助かったって泣きながら、一万くれた」
「…………君、本当すごいね」
「そうか?黒瀬に言われると嬉しいわ」
「…何でそんなに、人を助けるの?」
素朴な疑問だった。
この、短い期間で昼食くらいしか共に過ごしてないけれど芦家の人助けを良くしている。
アニメキャラクターのように、彼は人が困っていると学校でも登校途中も、休みである今日も直ぐに助けに向かうのが、不思議だった。
自分の事じゃないのに、どうしてそこまで熱意があるのかあまりにも不思議な事だ。
「…自分が助けてもらったからかな」
その質問をした後に返ってきたのは、間があってからだった。
「……自分が困っている時に助けてもらえる事が、すげぇ事なんだって知ってから、出来る限り困ってるヤツがいたら助けてやりてぇなって思うようになったんだ」
陽光を受けて、その蜜柑色の髪を煌めかせてそう笑った、芦家は太陽のように眩い笑みを浮かべた。
「だから、お前に助けて貰った時からかもな」
そう気恥ずかしそうに言う彼に、僕は自然と「僕が何をしたの」と聞いたけど彼はそれに「…内緒だ」と笑った姿は少し照れているのか、耳が赤くなっていて、芦家はこの話題を遮るように持っていたカレーパン齧り付いた。
僕はその様子を、静かに見つめ手にした芦家から貰ったピンクの缶に唇を寄せると、耳を赤く染めた芦家が僕の方に振り返る。
「黒瀬の好きなもんと嫌いなもん、今日でもう一つ知れたな、好きなもんはイチゴミルク嫌いなもんはカレーパンだ」
「……別に好きでも嫌いでないけど」
「カレーパンもう一口食いたいか?」
「…いらない」
「じゃ、イチゴミルクは?」
「…まぁ、飲んでもいいけど」
「それならやっぱりそういう事だと思うぜ」
芦家がカレーパンを齧りながら、そんな事を言うのを僕はイチゴミルクを缶を傾けて、もう一口飲み「そうなのかな」と呟く声が人通りのない外気の空気に溶けて消えた。
本当に、日本のベーカリーというのはレベルが高いらしく高級店でも何でもない店のようだったのにとても美味しい、クロワッサンなのを僕は認めて、その層が織りなす食感を楽しみながら一口、もう一口と食べた。
パン屋の近くにあったベンチの端に腰掛けて、クロワッサンを咀嚼している横でその隣に少し離れた場所で、腰掛けて食べる芦家がパンを齧る音を耳に捉える。
連れて行かれたパン屋で、先に買った芦家に続いて僕とパンを買おうとしたら「クロワッサンは黒瀬の分も買っておいた」と言われて、手渡されたパンをいらないとも言わずに流されて、こうして共に齧っている事実はまた芦家のペースに飲まれている気がした。
「うめぇな、これ」
「…君、もう少しゆっくり食べた方がいいんじゃないの?」
「腹減ってるから仕方ねぇんだ、味わってはいるぜ」
大きな口でザクザクと、クロワッサンを食べ切った芦家の様子に目を瞬かせる。本当に、前も思ったけど一口が大きい男だ。ペロリと何でも食べてしまい、気持ちが良いほどの食べっぷりだが折角繊細なバターの風味が美味しいクロワッサンなのだから、もう少しゆっくり食べた方がいい気がして、声をかけたが芦家は二個目のロシアのピロシキに少し似てる、カレーパンを齧り初めてその食欲に驚かされる。
いつも食事を共にして、思う事だが本当にその食事の量には目が点になる程だ。
カレーパンを齧っていた芦家が此方を振り向く。
「このカレーパンもすげぇうめぇぞ、黒瀬はカレーパンとかは嫌いなのか?」
「…食べた事ない」
「えっ、まじで?」
「あぁ、見た事はあるが食べた事はないから知らないよ」
「…もしかして、コロッケパンも?」
「見た事はあるけど、食べた事はないな」
「まじかよ」
芦家は今までで一番驚いた顔をして、大きな瞳を見開き信じられないと言わんばかりの表情を晒していた。
僕は、そんなに驚く事なのかと、訝しみクロワッサンを食べながら芦家を見つめると、驚いた表情のまま芦家は少し思案したように、目を瞬かせて、カレーパンが入った半分ほど食べられた紙袋をガサリと音を立てて、此方に差し出してきて僕は、その紙袋と芦家の顔を交互に見る。
「食ってみる?」
「…いや、いらない」
「そう言うなって。食ってみてから不味かった、もう食わなきゃいいじゃん」
「…………」
言い出したら聞かない所があるのは、この短い付き合いの中で、重々承知していた為、僕はこの押し問答を早く終わらせたくて、その差し出されたら紙袋を受け取る。
こうやって、誰かが食べたものを食べると言うのは音楽院まではした事がなかったけれも、音楽院に入った時にこうして食べたクラスメイトが差し出してくれたチョコのパイを思い出して、ピロシキのようなパンを受け取り一口齧る。
「どう?」
「ッ辛いっ」
味の想像は全くつかずに食べたそれは、さまざまなスパイスが複合した香り高い味わいで、辛味が強く僕は舌に痛みが走り、涙が滲む。
油が染みた、その紙袋を芦家へと差し返すと受け取った芦家が僕の様子を心配そうに見つめていて、自分が勧めたくせにと若干、腹が立った。
「辛いのダメなのか?というかこれ、そんな辛いか?」
「…っ、苦手とかじゃ…ッ」
「ちょっと、待ってて」
その辛みに耐えるように僕はこれ以上涙が滲まないように目を閉じて、口元を手で抑えているといきなりベンチから立ち上がった芦家の気配に目で追う事なく、辛みに耐えているとガコンと何かが落ちる音がした後、此方に早足で戻ってきた芦家が僕の前に立つと同時に頬に冷たい感覚が走って、驚いて顔を上げる。
そこにはピンク色の缶を持った芦家が居て、少し慌てた様子で僕の表情を窺っているようだ。
「いちごミルク、これ飲むと辛さ治るぜ」
「ッ」
そんなもの要らない、と言う余裕はなくて僕はその缶を受け取りプルタブを押し込み、そのジュースを飲み込む。
冷たくまろやかな口当たりのいいミルク感が強く、イチゴの風味が感じられる甘さのあるその飲み物は辛さが走る舌を癒すように、美味しくて一口二口三口と飲んで、口を離す。
僕は浅く息を吐いて、いきなり襲った衝撃に呆然としてしまった。
「…わりぃ、そんなに辛いと思わなかった」
「…ッ、驚いた」
「辛いの苦手だったのか?大丈夫か?」
「苦手ということなのか?初めて辛い食べ物を食べた」
「…え、まじで?」
「あぁ…、幼い頃からコンクール中に身体を壊したら困るから食べさせられた事がなくて、今も出てくる事なんてないから」
駆け巡った衝撃に頭が真っ白になって、素直に自分自身の事を話してしまうと、先ほどカレーパンを食べた事がないと伝えた時と同じ位、驚いた顔をしている芦家の様子は音楽院のクラスメイトに辛いものを食べた事が無いと伝えた時と、全く同じ表情をしているのがやはり一度も食べた事が無いのが、珍しい事なのかと再確認させられた。
「…黒瀬ってすげぇストイックだよな」
「…ストイックな訳じゃないよ、別に我慢してないし」
ストイックというならば、本来それは欲求を抑えて我慢している事を指す言葉だ。別に僕は、特に我慢なんてした事がないからそれに当て嵌まらない気がして、そう伝えると芦家は少し首を傾げて、僕を見つめる。
「ストイックだろ?ピアノの為にそこまでしてたんだから」
「何度も言うけど、別に我慢なんてしてないからね…、別にお腹を壊してピアノが弾けなくなるリスクより辛い食べ物を食べたいという欲求を持った事がなかっただけだよ」
「……ふぅん、そっか」
「…………うん」
舌の痺れが完全に取れてきた頃に、呆然としていた意識も戻ってきて芦家と普通に会話をしていた事に、気恥ずかしさを感じていた。
辛さに気を取られていたからって、何普通に会話をしているんだと、自分自身に呆れてしまう。
息を吐いて、無言を貫き口を閉ざしていると横に座り直して黙っていた芦家が僕の方を徐に見つめいるように感じて、其方を振り返ると、芦家は僕ではなく僕の後ろを見ているようで僕もそっちを振り返ると、その瞬間、芦家が見ていた方に走り出した為、その後ろ姿を捉えて、目を見張る。
何だ?いきなりどうしたんだ。
そう思って、芦家が走る先に視線を移すとそこには財布があって、芦家はそれを拾って走り去る自転車を疾風のように追いかけて行く。
すぐ側にあった芦家の背が、紙に垂らした絵の具の一滴のように滲む位遠くの方でその自転車を捕まえて、戻ってくる様子を僕は目を瞬かせて、見つめていると少し息を乱した芦家がそんなに時間をかけずに、戻ってきて額を手の甲で擦った。
「今の自転車の人、財布落としててな。届けたら給料全額入れてたから助かったって泣きながら、一万くれた」
「…………君、本当すごいね」
「そうか?黒瀬に言われると嬉しいわ」
「…何でそんなに、人を助けるの?」
素朴な疑問だった。
この、短い期間で昼食くらいしか共に過ごしてないけれど芦家の人助けを良くしている。
アニメキャラクターのように、彼は人が困っていると学校でも登校途中も、休みである今日も直ぐに助けに向かうのが、不思議だった。
自分の事じゃないのに、どうしてそこまで熱意があるのかあまりにも不思議な事だ。
「…自分が助けてもらったからかな」
その質問をした後に返ってきたのは、間があってからだった。
「……自分が困っている時に助けてもらえる事が、すげぇ事なんだって知ってから、出来る限り困ってるヤツがいたら助けてやりてぇなって思うようになったんだ」
陽光を受けて、その蜜柑色の髪を煌めかせてそう笑った、芦家は太陽のように眩い笑みを浮かべた。
「だから、お前に助けて貰った時からかもな」
そう気恥ずかしそうに言う彼に、僕は自然と「僕が何をしたの」と聞いたけど彼はそれに「…内緒だ」と笑った姿は少し照れているのか、耳が赤くなっていて、芦家はこの話題を遮るように持っていたカレーパン齧り付いた。
僕はその様子を、静かに見つめ手にした芦家から貰ったピンクの缶に唇を寄せると、耳を赤く染めた芦家が僕の方に振り返る。
「黒瀬の好きなもんと嫌いなもん、今日でもう一つ知れたな、好きなもんはイチゴミルク嫌いなもんはカレーパンだ」
「……別に好きでも嫌いでないけど」
「カレーパンもう一口食いたいか?」
「…いらない」
「じゃ、イチゴミルクは?」
「…まぁ、飲んでもいいけど」
「それならやっぱりそういう事だと思うぜ」
芦家がカレーパンを齧りながら、そんな事を言うのを僕はイチゴミルクを缶を傾けて、もう一口飲み「そうなのかな」と呟く声が人通りのない外気の空気に溶けて消えた。
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