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第二話 悪魔襲来
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ゲートを通って日本に足を踏み入れた俺。そこは茨城県水戸市にある水戸駅の外側にある広場。
休日なのか、優しい日差しに照らされながら多くの人々で賑わっている。
「懐かしいな……」
懐かしい気分を味わい、思わず立ち尽くしてしまう。
駅の広場に造られた納豆の像、飲食店とビッグカメラが併設された巨大な建物、そして日本人。
どれもこれも数十年ぶりかのような懐かしさを覚え、開いた口が塞がらないほどに感傷に浸ってしまう自分がいた。
そんなとき、なにやら慌てた様子でどこかへと向かう大勢の人達。
「おい千波湖だってよ! 早く行こうぜ!」
「ああ! 魔術師が悪魔と戦っているところ、近くで見てみたいわー!」
(なにっ? 悪魔だと!?)
物騒な話を耳にした俺に緊張が走る。
『魔術師』というのも気になるが、それよりも、俺以外に悪魔が人間界に来ているということの衝撃のほうが大きかった。
(千波湖で魔術師が悪魔と戦っている……!?)
ゲートを使うことが許されているは『魔王』、もしくは『魔王候補』のみ。つまり––––––。
「嘘だろ……」
絶望に近い危機を感じた俺は、ここにいる誰よりも急いで千波湖へと向かった。
★
「うわああああッ!」
小さな爆発をくらい、悲鳴をあげながら吹っ飛ぶ少女。
いま千波湖では魔術師と悪魔による一対一のバトルが繰り広げられていた。
赤茶髪のポニーテールが特徴の少女に、黒い装束に不気味な笑みを浮かべた白い仮面を付けた人型の悪魔。
「くっ!」
先程の爆発で足に傷を負い、立つのが精一杯の少女は窮地に立たされていた。
(複数の爆発で全然相手に近づけない……。おかげで魔術を発動させる隙もないし……一体どうすれば!?)
少女は右手に持った杖を強く握りしめる。
(でも、戦うしかない。私がここで倒さなければ、多くの人の命が奪われる!)
少女は杖の先端を悪魔のほうに向けるのと同時に、キリッとした強い瞳に覚悟の炎を宿した。
「私はここで終わるわけにはいかない! あんた達悪魔を殲滅させるまで、死ぬわけにはいかないのよ!」
悪魔も杖の先端を少女に向ける。すると、杖の先端に大きめの光の玉を出現させた。
(さっきよりも二回り大きい……っ! とどめをさす気ね!)
くらえば体全体がバラバラに吹っ飛ぶことぐらいは容易に想像がつく。
威力が分散されやすい複数の攻撃をやめ、その分の威力を一発に集約している。どうやら悪魔はこの戦いに勝利を確信したようだ。
そして、光の玉は容赦無く放たれる。
「【吸収(インヘル)】!」
そう唱えたのは少女。
杖の先端が光だし、悪魔が放った光の玉を大きく包み消失させた。
「!?」
なにが起こったのか分からず困惑気味の悪魔。
「よしっ! ここから反撃––––––え」
少女は魔術を発動して防いだかと思えば、突然膝から地面に崩れ落ちるように倒れ込んでしまう。
それはまるで、全身の力が一気に抜けたかのように。
(……うそ!? 魔力を使いすぎた!?)
その解釈は間違っていた。なぜなら彼女がここまで使用した魔術は【吸収(インヘル)】の一回のみで、使用する前まで魔力量はMAX状態であったから。
原因は単純。魔力コントロールが下手なだけ。
敵の攻撃に警戒しすぎて必要以上に魔力を練り込み、一回でほぼ使い果たしてしまったのだ。
魔力を使い果たしたものは、体がまともに動くことはない。
(え、嫌だ……。私ここで死んじゃうの? 嫌だ、そんなの嫌だよっ!)
少女は死の恐怖を感じ始める。体は小刻みに震え、自然と涙が溢れだす。死を迎える体験は初めてなのだろう。
だが、どんなに泣いたところで戦況が変わることはない。
ひれ伏すように倒れてこんでいる少女に対し、悪魔は慈悲のかけらも感じさせないほどに、容赦無く光の玉を創り出した。
「いや……やめて……っ」
光の玉は徐々に大きくなっていき、確実に殺せる大きさまで膨張させる。
そして、狙いを定めるように杖の先端を少女に向けた。
「誰か……助けてッ……!」
「ッ!?」
悪魔の顔面が突然なにものかによって蹴り飛ばされる。
「––––––え?」
殺される覚悟をしていた少女は、自分がまだ生きていることを実感。
少女は見上げた。
後ろ姿ではあるが、そこには白いシャツに黒のズボンを身につけた若そうな男性が。
どこかで戦ってきた後なのか、全体的に傷や汚れが目立つ。
だが、いまはそんなことはどうでもいい。
自分を助けてくれた。その事実だけで心も救われていた。
「そこの君」
「あっ、はい!」
「いきなりで悪いが、一つだけ確認させて欲しい」
俺は振り返らず、悪魔を警戒しながら続ける。
「ここに来る前、千波湖で魔術師と悪魔が戦っているという噂を聞いた。さっき俺が蹴り飛ばしたやつが悪魔で間違いないか?」
「はい! 間違いありません!」
「分かった。ありがとう。後は俺に任せてくれ」
俺はそれだけ確認をし終えると、先程蹴り飛ばした悪魔に勢いよく向かって走って行く。
悪魔は殴られた勢いで背中を強く木に強打し、怯んでいる。
悪魔は最後の悪あがきであるかのように、向かってくる俺に対して光の玉を創り出そうと––––––。
「ッ!?」
「悪いが、魔術は使わせない」
悪魔の首部分を鷲掴みにし、動きを抑える。
強く握られた俺の握力に抵抗しようと、悪魔は杖を握るのを諦め、俺の手を引き剥がさそうと必死になる。
「お前、悪魔なら俺が誰だか分かるな?」
「っ!!」
「ゲートを使って人間界へ行っていいのは魔王か魔王候補のみ。だがたったいま、一つだけ疑問が生じた」
「……」
「もしお前がそのどちらかであるならば、さっきの俺の攻撃は簡単に防げたはず」
「……」
「お前、本当に悪魔なのか?」
「……」
「……まぁいい。俺は魔王候補の一人だ。悪魔族の全員の顔ぐらい覚えている。その仮面を外して真実を確かめさせてもらうぞ」
仮面に手を伸ばそうとした、そのときだった。
「我ハ悪魔。日本ヲ侵略スル者ナリ」
「!?」
悪魔が杖を拾い、その先端を自分の心臓部分に突き刺し始める。すると、悪魔の体から輝かしい光が帯びたかと思えば––––––。
「逃げてください!! そいつ自爆する気ですッ!!」
「なにッ!?」
俺は正体を探るのを諦め、身の安全を優先し少女を抱えてこの場から急いで離れる。
爆発は光を帯び始めてから三秒後には起こり、辺り一面を爆風と共に消滅させた。
木は燃え盛り、建物は崩れ落ち、地面には深いくぼみが。
幸いなことに人の被害はなかったが、もし近くにでもいたら爆発に巻き込まれ肉片はその辺に飛び散っていたことだろう。
遠くへ避難し、なんとか被害を免れた俺は抱えていた少女から身を離す。
「大丈夫か?」
「……一つ、確認させてください」
「なんだ?」
「あなたは……悪魔なの?」
「ああ、そうだ」
「––––––動かないでくださいッッ!!」
「!」
少女が俺の額に杖の先端を突きつける。
少女の顔には、憎しみと怒りをはらんでいそうな感情がハッキリと浮かんでいる。
「申し訳ないですが、あんたにはここで死んでもらいます」
「…………どういうことだ?」
「とぼけないで!! あんた達悪魔がこの国を侵略しようとしていることぐらい知っているんだから!」
「侵略? もしかしてさっきの黒の装束の奴か?」
「まだとぼけるつもり!? 自分の手下でしょ!?」
「早とちりだな」
「なっ、どこがよ! あんたさっき魔王候補の一人だって言っていたじゃない!」
「仮に俺があの黒の装束とグルだとしよう。すると、おかしな点が四つほど挙げられると思わないか?」
「おかしな点……?」
「一つ目は俺が君を助けたこと。二つ目は手下を攻撃したこと。三つ目は手下の自爆に気づかなかった俺を君が逃げるよう助言してくれたこと。最後の四つ目は……」
俺は少女の杖に指をさす。
「君がすぐに俺を殺そうとしないことだ」
「!!」
「俺を本当に敵とみなしているならば、殺せる隙はいくらでもあったはず」
天使族との戦いで疲弊し、敵か味方も分からない少女に隙を与えすぎたのは俺の落ち度だった。が、少女の立場からすればそれは絶好のチャンス。
「この状況は言ってしまえば銃を突きつけられた絶体絶命の場面。君はいますぐにでも俺を殺すことだって可能なわけだ」
「っ」
「死にたいわけじゃないがなぜ殺さない? ……いや、質問を変えよう。この状況は君が有利なはずなのに、どうしてそんなに震えている?」
「ッ!」
よく見れば、少女の杖を握っている手がガタガタと震えている。それは寒さで震えているのではない。どちらかというと、殺すことをためらっているかのような感じ。
もしくは、殺す覚悟が決められないとも表現できる。
けど、ギシギシと歯軋りを鳴らす音からは怒りと憎しみが伝わって来るのは確か。
まるで、思考と感情が混乱しているかのようだ。
「なんでよ……なんで私を助けたのよ……。おかげで、あんたを殺しづらくなっちゃったじゃない……!」
少女は全身の力が抜けたかのようにペタンと座り込んでしまう。先程の戦いの疲れもあるのだろう。
俺に向けていた杖もいまは取り下げてくれた。少女の敵意も先ほどよりは薄まったようにも感じる。
助けて欲しい場面であったのに助けられたことを悔やんでいる少女は、別の誰かに助けを求めていたに違いない。悪魔以外の誰かに。
「……ひとまず、ここから離れた方がいいわ。さっきの爆発で防衛隊の人達が向かって来るかもしれない」
「防衛隊?」
「悪魔を殲滅するために創られた国家公認の組織よ。私も明日から防衛隊の一員になるんだけど、なかには次期エンペラーシックス候補の凄腕魔術師もいるみたいだから用心した方がいいわ」
専門用語を連発されたかのように知らない単語が出てきて理解が追いつかない。
「ごめん、なにを言っているのかさっぱり分からない」
「……本当になにも知らないのね。エンペラーシックスを知らないなんて、いまの総理大臣を知らないぐらいやばいわよ!?」
「そんなこと言われても、俺はこれまで魔界に住んでいたから分からないよ」
本当になにも分からない。防衛隊も、エンペラーシックスも、そしてなぜ悪魔がすでに日本を侵略しようとしているのかも。
「魔界って悪魔が住んでいる世界のことよね? あんた本当に悪魔なのね……」
「意外と驚かないんだな」
「いや、内心めっちゃ驚いているわよ! さっきの攻撃だって蹴りの一撃であそこまで追い込めるなんて考えられない! あんためちゃくちゃ強いでしょ!?」
「いや、どうだろう。自分ではそんな風に思ったことはないけど」
「……それに意外だったのが、魔王ってもっとこう……ツノとか翼の生えたのを想像していたからさ。あんた見た目は普通の人間と変わらないんだもん」
「まぁ、とりあえず見た目が平気そうで良かった。ついでに言うと、俺以外の悪魔族も見た目は人間と変わらないぞ?」
「へぇ~、そうなんだ!」
さっきの黒の装束を思い出す。奴も同じように服越しではあるが、見た目は俺達人間の姿と変わらなかった。であれば、本当に悪魔の可能性があるということ。
それに、奴は自爆するときこう言っていた。
『我ハ悪魔。日本ヲ侵略スル者ナリ』
自分では悪魔と名乗っていた。が、実際のところは不明だ。あのとき仮面を外して顔を視認できれば本当か嘘か見破れたのだが。
それでも、仮面を着けて正体を隠している部分は気になるし、怪しいことだけは確かだ。
「おい、あそこだ! あそこに戦った形跡があるぞ!」
遠くから聞こえてくる杖を持った複数の大人達。全員紺色を基調とした制服を身に付けていることから、なにかの組織のものだろうか。
「わっ、大変! 防衛隊がこっちに向かって来ている!」
どうやらあれが防衛隊のようだ。杖も持っていることから魔術も扱えるのだろう。いまの俺ではこの少女を庇いながら戦うのはハンデが大きすぎた。天使族との戦いで魔力もそんなにない。
相手の実力次第では負けることだって十分にあり得る。
「ひとまず逃げるぞ」
「え、ちょっ、私も!?」
「君には色々聞きたいことがある。どうか頼む」
「う、うそぉ!?」
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前は真瀬(まなせ)・デスブリンガー。真瀬って呼んでくれ。君は?」
「あっ、私は綾瀬フリル!」
「そうか。よろしくな、フリル」
「う、うん!」
俺は緊張気味な少女を抱え、すぐさまこの場から避難した。
休日なのか、優しい日差しに照らされながら多くの人々で賑わっている。
「懐かしいな……」
懐かしい気分を味わい、思わず立ち尽くしてしまう。
駅の広場に造られた納豆の像、飲食店とビッグカメラが併設された巨大な建物、そして日本人。
どれもこれも数十年ぶりかのような懐かしさを覚え、開いた口が塞がらないほどに感傷に浸ってしまう自分がいた。
そんなとき、なにやら慌てた様子でどこかへと向かう大勢の人達。
「おい千波湖だってよ! 早く行こうぜ!」
「ああ! 魔術師が悪魔と戦っているところ、近くで見てみたいわー!」
(なにっ? 悪魔だと!?)
物騒な話を耳にした俺に緊張が走る。
『魔術師』というのも気になるが、それよりも、俺以外に悪魔が人間界に来ているということの衝撃のほうが大きかった。
(千波湖で魔術師が悪魔と戦っている……!?)
ゲートを使うことが許されているは『魔王』、もしくは『魔王候補』のみ。つまり––––––。
「嘘だろ……」
絶望に近い危機を感じた俺は、ここにいる誰よりも急いで千波湖へと向かった。
★
「うわああああッ!」
小さな爆発をくらい、悲鳴をあげながら吹っ飛ぶ少女。
いま千波湖では魔術師と悪魔による一対一のバトルが繰り広げられていた。
赤茶髪のポニーテールが特徴の少女に、黒い装束に不気味な笑みを浮かべた白い仮面を付けた人型の悪魔。
「くっ!」
先程の爆発で足に傷を負い、立つのが精一杯の少女は窮地に立たされていた。
(複数の爆発で全然相手に近づけない……。おかげで魔術を発動させる隙もないし……一体どうすれば!?)
少女は右手に持った杖を強く握りしめる。
(でも、戦うしかない。私がここで倒さなければ、多くの人の命が奪われる!)
少女は杖の先端を悪魔のほうに向けるのと同時に、キリッとした強い瞳に覚悟の炎を宿した。
「私はここで終わるわけにはいかない! あんた達悪魔を殲滅させるまで、死ぬわけにはいかないのよ!」
悪魔も杖の先端を少女に向ける。すると、杖の先端に大きめの光の玉を出現させた。
(さっきよりも二回り大きい……っ! とどめをさす気ね!)
くらえば体全体がバラバラに吹っ飛ぶことぐらいは容易に想像がつく。
威力が分散されやすい複数の攻撃をやめ、その分の威力を一発に集約している。どうやら悪魔はこの戦いに勝利を確信したようだ。
そして、光の玉は容赦無く放たれる。
「【吸収(インヘル)】!」
そう唱えたのは少女。
杖の先端が光だし、悪魔が放った光の玉を大きく包み消失させた。
「!?」
なにが起こったのか分からず困惑気味の悪魔。
「よしっ! ここから反撃––––––え」
少女は魔術を発動して防いだかと思えば、突然膝から地面に崩れ落ちるように倒れ込んでしまう。
それはまるで、全身の力が一気に抜けたかのように。
(……うそ!? 魔力を使いすぎた!?)
その解釈は間違っていた。なぜなら彼女がここまで使用した魔術は【吸収(インヘル)】の一回のみで、使用する前まで魔力量はMAX状態であったから。
原因は単純。魔力コントロールが下手なだけ。
敵の攻撃に警戒しすぎて必要以上に魔力を練り込み、一回でほぼ使い果たしてしまったのだ。
魔力を使い果たしたものは、体がまともに動くことはない。
(え、嫌だ……。私ここで死んじゃうの? 嫌だ、そんなの嫌だよっ!)
少女は死の恐怖を感じ始める。体は小刻みに震え、自然と涙が溢れだす。死を迎える体験は初めてなのだろう。
だが、どんなに泣いたところで戦況が変わることはない。
ひれ伏すように倒れてこんでいる少女に対し、悪魔は慈悲のかけらも感じさせないほどに、容赦無く光の玉を創り出した。
「いや……やめて……っ」
光の玉は徐々に大きくなっていき、確実に殺せる大きさまで膨張させる。
そして、狙いを定めるように杖の先端を少女に向けた。
「誰か……助けてッ……!」
「ッ!?」
悪魔の顔面が突然なにものかによって蹴り飛ばされる。
「––––––え?」
殺される覚悟をしていた少女は、自分がまだ生きていることを実感。
少女は見上げた。
後ろ姿ではあるが、そこには白いシャツに黒のズボンを身につけた若そうな男性が。
どこかで戦ってきた後なのか、全体的に傷や汚れが目立つ。
だが、いまはそんなことはどうでもいい。
自分を助けてくれた。その事実だけで心も救われていた。
「そこの君」
「あっ、はい!」
「いきなりで悪いが、一つだけ確認させて欲しい」
俺は振り返らず、悪魔を警戒しながら続ける。
「ここに来る前、千波湖で魔術師と悪魔が戦っているという噂を聞いた。さっき俺が蹴り飛ばしたやつが悪魔で間違いないか?」
「はい! 間違いありません!」
「分かった。ありがとう。後は俺に任せてくれ」
俺はそれだけ確認をし終えると、先程蹴り飛ばした悪魔に勢いよく向かって走って行く。
悪魔は殴られた勢いで背中を強く木に強打し、怯んでいる。
悪魔は最後の悪あがきであるかのように、向かってくる俺に対して光の玉を創り出そうと––––––。
「ッ!?」
「悪いが、魔術は使わせない」
悪魔の首部分を鷲掴みにし、動きを抑える。
強く握られた俺の握力に抵抗しようと、悪魔は杖を握るのを諦め、俺の手を引き剥がさそうと必死になる。
「お前、悪魔なら俺が誰だか分かるな?」
「っ!!」
「ゲートを使って人間界へ行っていいのは魔王か魔王候補のみ。だがたったいま、一つだけ疑問が生じた」
「……」
「もしお前がそのどちらかであるならば、さっきの俺の攻撃は簡単に防げたはず」
「……」
「お前、本当に悪魔なのか?」
「……」
「……まぁいい。俺は魔王候補の一人だ。悪魔族の全員の顔ぐらい覚えている。その仮面を外して真実を確かめさせてもらうぞ」
仮面に手を伸ばそうとした、そのときだった。
「我ハ悪魔。日本ヲ侵略スル者ナリ」
「!?」
悪魔が杖を拾い、その先端を自分の心臓部分に突き刺し始める。すると、悪魔の体から輝かしい光が帯びたかと思えば––––––。
「逃げてください!! そいつ自爆する気ですッ!!」
「なにッ!?」
俺は正体を探るのを諦め、身の安全を優先し少女を抱えてこの場から急いで離れる。
爆発は光を帯び始めてから三秒後には起こり、辺り一面を爆風と共に消滅させた。
木は燃え盛り、建物は崩れ落ち、地面には深いくぼみが。
幸いなことに人の被害はなかったが、もし近くにでもいたら爆発に巻き込まれ肉片はその辺に飛び散っていたことだろう。
遠くへ避難し、なんとか被害を免れた俺は抱えていた少女から身を離す。
「大丈夫か?」
「……一つ、確認させてください」
「なんだ?」
「あなたは……悪魔なの?」
「ああ、そうだ」
「––––––動かないでくださいッッ!!」
「!」
少女が俺の額に杖の先端を突きつける。
少女の顔には、憎しみと怒りをはらんでいそうな感情がハッキリと浮かんでいる。
「申し訳ないですが、あんたにはここで死んでもらいます」
「…………どういうことだ?」
「とぼけないで!! あんた達悪魔がこの国を侵略しようとしていることぐらい知っているんだから!」
「侵略? もしかしてさっきの黒の装束の奴か?」
「まだとぼけるつもり!? 自分の手下でしょ!?」
「早とちりだな」
「なっ、どこがよ! あんたさっき魔王候補の一人だって言っていたじゃない!」
「仮に俺があの黒の装束とグルだとしよう。すると、おかしな点が四つほど挙げられると思わないか?」
「おかしな点……?」
「一つ目は俺が君を助けたこと。二つ目は手下を攻撃したこと。三つ目は手下の自爆に気づかなかった俺を君が逃げるよう助言してくれたこと。最後の四つ目は……」
俺は少女の杖に指をさす。
「君がすぐに俺を殺そうとしないことだ」
「!!」
「俺を本当に敵とみなしているならば、殺せる隙はいくらでもあったはず」
天使族との戦いで疲弊し、敵か味方も分からない少女に隙を与えすぎたのは俺の落ち度だった。が、少女の立場からすればそれは絶好のチャンス。
「この状況は言ってしまえば銃を突きつけられた絶体絶命の場面。君はいますぐにでも俺を殺すことだって可能なわけだ」
「っ」
「死にたいわけじゃないがなぜ殺さない? ……いや、質問を変えよう。この状況は君が有利なはずなのに、どうしてそんなに震えている?」
「ッ!」
よく見れば、少女の杖を握っている手がガタガタと震えている。それは寒さで震えているのではない。どちらかというと、殺すことをためらっているかのような感じ。
もしくは、殺す覚悟が決められないとも表現できる。
けど、ギシギシと歯軋りを鳴らす音からは怒りと憎しみが伝わって来るのは確か。
まるで、思考と感情が混乱しているかのようだ。
「なんでよ……なんで私を助けたのよ……。おかげで、あんたを殺しづらくなっちゃったじゃない……!」
少女は全身の力が抜けたかのようにペタンと座り込んでしまう。先程の戦いの疲れもあるのだろう。
俺に向けていた杖もいまは取り下げてくれた。少女の敵意も先ほどよりは薄まったようにも感じる。
助けて欲しい場面であったのに助けられたことを悔やんでいる少女は、別の誰かに助けを求めていたに違いない。悪魔以外の誰かに。
「……ひとまず、ここから離れた方がいいわ。さっきの爆発で防衛隊の人達が向かって来るかもしれない」
「防衛隊?」
「悪魔を殲滅するために創られた国家公認の組織よ。私も明日から防衛隊の一員になるんだけど、なかには次期エンペラーシックス候補の凄腕魔術師もいるみたいだから用心した方がいいわ」
専門用語を連発されたかのように知らない単語が出てきて理解が追いつかない。
「ごめん、なにを言っているのかさっぱり分からない」
「……本当になにも知らないのね。エンペラーシックスを知らないなんて、いまの総理大臣を知らないぐらいやばいわよ!?」
「そんなこと言われても、俺はこれまで魔界に住んでいたから分からないよ」
本当になにも分からない。防衛隊も、エンペラーシックスも、そしてなぜ悪魔がすでに日本を侵略しようとしているのかも。
「魔界って悪魔が住んでいる世界のことよね? あんた本当に悪魔なのね……」
「意外と驚かないんだな」
「いや、内心めっちゃ驚いているわよ! さっきの攻撃だって蹴りの一撃であそこまで追い込めるなんて考えられない! あんためちゃくちゃ強いでしょ!?」
「いや、どうだろう。自分ではそんな風に思ったことはないけど」
「……それに意外だったのが、魔王ってもっとこう……ツノとか翼の生えたのを想像していたからさ。あんた見た目は普通の人間と変わらないんだもん」
「まぁ、とりあえず見た目が平気そうで良かった。ついでに言うと、俺以外の悪魔族も見た目は人間と変わらないぞ?」
「へぇ~、そうなんだ!」
さっきの黒の装束を思い出す。奴も同じように服越しではあるが、見た目は俺達人間の姿と変わらなかった。であれば、本当に悪魔の可能性があるということ。
それに、奴は自爆するときこう言っていた。
『我ハ悪魔。日本ヲ侵略スル者ナリ』
自分では悪魔と名乗っていた。が、実際のところは不明だ。あのとき仮面を外して顔を視認できれば本当か嘘か見破れたのだが。
それでも、仮面を着けて正体を隠している部分は気になるし、怪しいことだけは確かだ。
「おい、あそこだ! あそこに戦った形跡があるぞ!」
遠くから聞こえてくる杖を持った複数の大人達。全員紺色を基調とした制服を身に付けていることから、なにかの組織のものだろうか。
「わっ、大変! 防衛隊がこっちに向かって来ている!」
どうやらあれが防衛隊のようだ。杖も持っていることから魔術も扱えるのだろう。いまの俺ではこの少女を庇いながら戦うのはハンデが大きすぎた。天使族との戦いで魔力もそんなにない。
相手の実力次第では負けることだって十分にあり得る。
「ひとまず逃げるぞ」
「え、ちょっ、私も!?」
「君には色々聞きたいことがある。どうか頼む」
「う、うそぉ!?」
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前は真瀬(まなせ)・デスブリンガー。真瀬って呼んでくれ。君は?」
「あっ、私は綾瀬フリル!」
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