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第十七章

ギルド長曰く『素っ頓狂で頭の悪い作戦』

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準備を終え二人を追ってギルドへの道を走る。

勝手知ったるなんとやら。

王都に来て約二週間、どこをどう行けばどこにつくのか、大体の道は把握できるようになった。

と言ってもまだまだ大通りばかりで、細い道や路地なんかはほぼノータッチだ。

レイハーン家を出てまず周りを確認したが、怪しい馬車や人物は発見できなかった。

恐らく俺が確認できなかっただけで監視はされているだろう。

出来るだけ大通りを通っていけば問題ない、はずだ。

そういえばホンクリー家から脱出した時も良くわからない集団に追われていたんだっけ。

結局どこぞの貴族がアベルさんを破滅させるべく刺客を送ったって結論になったけど、最後まで誰が犯人かわからなかったんだよなぁ。

もしかしてあれも例の団体だったりして・・・。

いや、今更それを言っても意味ないか。

もしそうだとしたら再びここに戻ってきた時にもう襲われているだろうし。

坂道を駆け下り大通りに到着。

今の所ここにも怪しい人物は無し。

陰日だからか心無し歩いている人も少ない。

まあ、お店は閉まっているし仕方ないだろう。

職人さんとかは陰日の方が集中できるっていってたっけな。

そのまま人の流れに沿ってギルドまでの道を進んでいた時だった。

「あの、すみません。」

突然後ろから声を掛けられ、慌てて腰の短剣に手を伸ばし振り返った。

だが、そこにいたのはシャルちゃんぐらいの少年。

俺が慌てて振り返ったものだからびっくりした顔で固まっていた。

「驚かせてゴメンね、どうしました?」

短剣から手を放し緊張を緩める。

流石にこの子が刺客って事は無いだろう。

「市場に行きたいんですけど、どう行けばいいですか?」

「市場?今日は陰日だからお休みだと思うよ。」

「どうしよう、お母さんに頼まれたのに。」

「何を頼まれたの?」

「妹の調子が悪いから市場で薬草を勝ってくるように言われたんです。」

「そっか。市場や休みだけど冒険者ギルドでなら販売していると思うよ。今から行くんだけど一緒に行く?」

なるほどおつかいをお願いされたのか。

妹の一大事ならお兄ちゃんが頑張らないといけないよな。

だが、冒険者ギルドという単語を聞いた瞬間に少年の表情にスッと影がさした。

「どうしたの?」

「冒険者ギルドは危ないから近づいちゃいけないってお母さんが・・・。」

なるほど、まぁ言いたいことはわかる。

荒くれ者ばかりの場所に行かせて何か起きたらって思うのが親心ってものだ。

「でも市場は開いていないよ?」

「お兄さんは持ってないですか?お金ならあります!」

そう言いながら少年がポケットから銅貨を取り出し掌に広げる。

えーっと、ちゅうちゅうたこかいなっと。

全部で13枚。

値段が下がっているからギリギリ買える・・・かな?

「お母さんから渡されたのはこれだけ?」

「うん・・・。うち貧乏だから。」

「そっか。」

「お願いします!妹が待ってるんです!」

いくら往来が少ないとはいえ怪訝そうな顔で俺達の横を人が通り過ぎていく。

パッとみカツアゲしているように見えないだろうか。

「とりあえずお金は仕舞おうか。」

「はい・・・。」

そんなしょんぼりした顔しないでほしいなぁ。

とはいえ俺も市場の状況を把握しているわけじゃないし、むしろ市場に連れていって何かあっても困る。

だが俺にも予定というものがあってだね。

はてさてどうするべきか・・・。

「じゃあこうしようか。冒険者ギルドまで一緒に来てくれたらお兄ちゃんが買ってきてあげよう。中に入らなければ怒られないとおもうよ?」

「でも・・・。」

「ごめんね、それしか方法が見つからないんだ。もし市場に行くなら他の人にお願いしてもらえるかな。」

少年の前にしゃがみ、顔を見ながら諭すように伝える。

何かお願いする時は見下ろしちゃいけない。

ちゃんと同じ目線に立つと説得しやすいと何かの本で読んだ気がする。

「・・・・・・。」

少年は俯き無言で何かを考えているようだった。

まぁ随分と年の離れたオッサンに他所に行けと言われてどうしようかと悩んでいるのかもしれない。

まぁそうなるよな。

先を急いでいるとはいえいたいけな少年をホッポリ出してどこかに行くわけにも・・・。

参ったなぁと大きく息を吐いたその時だった。

俯いた少年の口元がニヤリと笑ったように見えた。

それを見た瞬間にゾクリと背中に寒気を感じ、慌ててその場から後ずさる。

次の瞬間。

さっきまで俺がいた地面に小さな何かが突き刺さったのが見えた。

これは・・・小さい矢か?

「クソ、失敗か!」

俺に刺さるはずだった矢を睨み、そう吐き捨てると少年は突然走り出す。

「ちょ、待て!」

慌てて追いかけようとしたが再び襲われる可能性もあるので仕方なく物陰に移動する事しかできなかった。

嘘だろ、この往来のある中ガチで狙ってきやがった。

俺を狙った狙撃。

突然走り出した少年。

母親に市場に行けと言われた?

よく考えれば王都に住んでいて陰日に市場がやっていない事を知らないはずがないじゃないか。

間違いなく俺を誘い出すための罠、だったんだろう。

俺がお人好しなのを知って市場についてくると踏んで呼び出そうとした。

でも、失敗した時の事も考えて狙撃手まで準備していた。

結局作戦は失敗したわけだけど・・・こりゃ、マジでヤバいぞ。

路地から辺りを警戒するも狙撃手らしき人物は見当たらない。

俺は用心しながら先ほどまで自分の立っていた場所へ移動すると、地面にはまだ矢らしきものが刺さったままだった。

ポケットからハンカチ代わりにしていた布を取り出し矢を包む。

とりあえず証拠は確保した。

だけど再びの襲撃が無いとも限らないし、急いでギルドまで向かって・・・。

「イナバ様、どうしました?」

と、前から再び声を掛けられたので再び短剣に手をかけ引き抜こうとする。

「ちょっとまって!私です!ネーヤです!」

抜き切る寸前、慌てた様子でネーヤさんが止めてくれた。

見上げると間違いなくネーヤさんとジュリアさんがいる。

良かった、本物だ。

「どうしたんですか、急に抜こうとするなんて普通じゃありません。」

「先程何者かに命を狙われました。事情は後で説明しますので急ぎギルドまで護衛して下さい。」

「え、命って!?」

「わかりました、ネーヤ行くよ!」

ただならぬ雰囲気にジュリアさんが素早く俺の横に回りあたりを警戒し始める。

「ちょっとどういう事よ!」

状況を把握できていないものの、ジュリアさんに従って反対側に回るあたりネーヤさんも順応性が高いよな。

二人に挟まれるようにして足早にギルドへと向かったわけだが、つくまでの時間はいつもの何倍にも感じた。

驚き恐怖する自分の中に冷静に状況を把握しようとする自分まで現れて、まるでTPSのゲームをしているようだ。

こう、第三者が上から見ていると言えばわかるだろうか。

そのまま不思議な感覚のままギルドへと駆け込んだところで、TPSの視点がFPSへと切り替わる。

少し落ち着いただろうか。

陰日で人の少ないギルドに冒険者二人に挟まれながらなだれ込むようにして入ってきた俺達を見て、カウンターにいた職員さんが全員こちらを見るのが分かった。

その中にオーリンさんとマッチさんもいる。

そうか、会議をするって言ってたんだもん当然だよな。

「どうしたんですか!?」

「イナバ様が何者かに狙われたらしく、急ぎ護衛してきました。」

「えぇ、命を!?」

「ちょっと、どういうことですか?」

「詳しくは後で説明します。会議には彼らも参加してもらいますが構いませんよね?」

「構いませんよねと言われましても・・・。」

いつもと違う雰囲気にたじろぐマッチさんと悩むオーリンさん。

そこに何事かという感じでジンさんが奥から顔を出した。

「随分と物騒な単語が聞こえてきたんだが、こいつらにも関係があるのか?」

「直接的には関係ありませんが、別件で彼らの力が必要になります。場合によっては手の空いている冒険者全員の力を借りなければなりません。」

「それはずいぶんじゃねぇか。この二人はあれだろ?陰日にダンジョンに入ったバカの仲間だろ?じゃあ参加させても問題ねぇ、どうせ何が起きてるかバレてるんだからな。」

「そうですけど、出来るだけ部外者は排除したいというか・・・。」

「だから部外者じゃねぇって言ってんだ。おい、急ぎ会議始めるぞ!」

「は、はい!」

ジンさんの掛け声でギルド内が一気に慌ただしくなる。

俺はというとギルドに到着したという安心感からか、ふらふらと近くの椅子にへたり込んだのだった。


「つまり、例の連中が実力行使に出てきたわけだな。」

「おそらくは。」

「おい、急いでこの矢の成分を確認しろ。」

「わかりました!」

俺の拾った矢を持って職員が会議室を出ていく。

今いるのはこの前のような小さな部屋・・・ではなく30人ぐらいは入れる大きな会議室だ。

右にはネーヤさん左にはジュリアさんが座っている。

「でも、手紙を出しておいて翌日いきなり狙ってくるとか、ちょっと早すぎません?」

「それは思いましたが、モア君が動いたことを私が指示をしたのだと勘違いした可能性が有ります。この二人がレイハーン家に情報を伝えに来たと誤認したとか。」

「それはあり得るかもしれませんが・・・。」

「そんなのはどうだっていいじゃねぇか。狙われた、その事実さえあれば十分だ。おい、動ける連中集めるぞ!」

「イヤイヤ良くないですよ!もし間違いだったら一般市民に冒険者が襲い掛かったって話になるんですよ?それこそ連中の思うつぼじゃないですか。」

「それはそうだが・・・めんどくせぇなぁ。」

バンと机を叩き生き良い良く立ち上がったジンさんだが、マッチさんの指摘にポリポリと後頭部を掻いて再び座る。

マッチさんの言うとりだ。

連中はまた『冒険者は悪い存在だ』というデマを人々の心に植え付けたいんだと思う。

そうすることで冒険者の立場を危うくし、さらに俺という存在を抹消したい。

直接狙ってくるあたりそれはかなり顕著になっていると考えてもいいだろう。

迷惑な話だ。

「ともかく、会議を続けましょう。イナバ様には昨日ダンジョンの見取り図をお渡ししましたが、進捗はいかがですか?」

「20階層までのおおよその目星はつきました。特に初心者が多い10階層までは念入りに確認しています。」

「え、もうですか?」

「量が量だけに持参してはいませんが、各場所にメモを挟んでいますのでご確認いただければと思います。」

「じゃあどこに潜んでいるのかも?」

「あくまでも予測ですが、そこ以外に潜むのは難しいと思っています。もっとも、現場に出てみないとわからない部分もあると思いますが確実性は高いかと。」

なんせ徹夜して作った力作だ。

その疲れも命を狙われたせいでアドレナリンが出てどこかに行ってしまった。

人間命の危険を感じると疲れなんて感じてられないんだな。

「おい、急ぎレイハーン家に行って資料を取りに行ってこい。一人で行くなよ、三人だ三人で行け。」

「はい!」

話の途中ながらジンさんが再び職員に指示を出す。

俺がギルドに入ったのもやつらは確認しているだろうし、その俺がいたレイハーン家から職員が何かを持ち出したとなれば狙われる可能性は高い。

それを見越して三人で行けと指示を出したのか。

流石だな。

「で、それをもとにどうする?さっきは冒険者を総動員するような言い方をしていたと思うが?」

「出来るならば総動員して各場所に冒険者を配置、悪事を働ける場所をなくすというのが理想です。」

「どう考えても無理だよな。」

「金額的にも時期的にも無理ですね。」

「じゃあどうする?」

「まずは他の冒険者への注意喚起を行いたい所ですが、先に少数精鋭で犯人を捕まえたいと考えています。それが失敗したら、注意喚起を行いましょう。」

理想は冒険者を大量集め、ダンジョンに派遣。

先ほど言ったように奴らが初心者を狙えないようにする。

人の少ないタイミングを見計らって初心者を狙っているようだから、人が少ない状況を作らなければいい。

木を隠すなら森という感じだ。

でも、現状がそれを許さない。

まず人手がない。

仮に人手が確保できても元手がない。

さらに、陰日という冒険者に嫌われている時期でもある。

魔物が凶暴化するかもしれない時期にわざわざ危険に晒す冒険者はいないだろう。

自分の事ならばまだしも全く関係ない初心者の為に命をかけるのはモア君ぐらいなものだ。

「犯人を捕まえる、簡単に言うじゃねぇか。」

「いくら場所が絞れたとはいえ流石に難しいのではないでしょうか。」

「もちろん普通にやれば難しいでしょう。どこに潜んでいるかもわからないダンジョンをただウロウロするわけですから。」

「だがお前にはできるんだろ?」

「出来るといいますか、やると言いますか。」

「もったいぶるなよ、今もお隣にいる二人の仲間がダンジョンにいるんだぜ。」

いや、別にもったいぶっているわけじゃないんだけども・・・。

でも、ギルド長の言う通りだ。

今もモア君は一人でダンジョンの中をさまよっている。

そこにいるかもわからない相手を探して神経をすり減らしながら。

その彼を助けたくて横の二人は俺を頼って来たんだ。

「方法は簡単です。私一人でダンジョンに潜って囮となり犯人をおびき出します。」

俺の提案を聞いた全員が『何言ってんだこいつ』って顔をしている。

いや、違うわ。

ジンギルド長だけが『やっぱりな』みたいな顔をしている。

それならば話が早い。

エミリア達がいたら『そんなバカな事やらせるか!』って言われるところだけど幸い?にもここに皆はいない。

事後報告するとまた怒られるんだろうけど、これも仕事を達成する為だ。

安全かつ安心してマリアンナさんをダンジョンに連れていくためにも、何としてでも奴らを捕まえるしかない。

「先ほどの襲撃を聞いて俺もそれしかないと思っていたが、なんだ話に聞いていたよりも度胸のあるやつじゃないか。」

「どんな話を聞かれたのかは存じ上げませんが、聞いている程度の男ですよ。度胸があるのではなくそれしか選択肢が無いだけです。」

「それでもその為に命を掛けれる男は少ない。なるほど綺麗な嫁さんが二人もいるわけだ。ここが違いだぞ、マッチ。」

「何の関係があるんですか!」

「いやな、この間彼女に逃げられたのもこういった部分が違いだと言っているだけだ。」

そして唐突にマッチさんをディスり始めた。

さっきまでの雰囲気はどこへやらそのやり取りに周りの職員もクスクスと笑いだす始末。

「そ、そんなの関係ありません!」

「そうか?俺の聞いた話じゃ魔物にビビって愛想つかされたって聞いたんだがなぁ。」

「ど、どうしてそれを!」

もうやめてあげて、マッチさんのライフはもうゼロよ!

「っとまぁ、冗談はこれぐらいしてっと。お前が囮になれば間違いなくやつらは動くだろうな。」

「私が単独でダンジョンに入ればその知らせを受けて中の連中が準備を始めるでしょう。また、それとは別の部隊が新たに入るかもしれません。こちらとしてはそのどちらも捕獲したいと考えています。」

「どうやって捕獲する?」

「まず11階層よりも奥に先行部隊を投入します。例えば、緊急の討伐指令が出たとかわかりやすい理由を突ければ怪しまれにくいでしょう。先行部隊はそのまま待機、指示があり次第1階層に向けて進行します。怪しい場所を確認しながらになりますが、出来るだけ迅速に行う必要があります。」

「後続はどうする?」

「正直この時期にダンジョンに入るなんておかしな話ですよ。ですから、誰が潜ったかなんて見ればわかりますよね。」

「そうだな。素人ではダンジョンに入れないからな、それなりの実力があればわかるだろう。」

「見られているとわかれば悪さをしにくくなります。後は、先行部隊とは別にモア君を探しに来たという名目で数人うろうろしてもらえれば最高なんですけど・・・。これは怪しまれる可能性が高いんで可能ならですね。」

これしかない。

そう思って考えた作戦をみんなの前で披露する。

完璧な作戦じゃないのはわかっている。

穴はあるし、危険だという事も承知の上だ。

それでも短時間で決着をつけるためにはこうするしかない。

信じられないといった表情で俺を見てくる職員さん・・・ではなく、目を瞑りジッと何かを考えたままのジンギルド長を見続ける。

沈黙が会議室を支配する。

そんな中誰かのゴクリという唾液を飲む音が小さく響いた。

「・・・面白い。」

その音を合図にしたかのようにジンギルド長が声を発した。

「どんな素っ頓狂な作戦を考えてくるかと思ったが、こんなにも頭の悪い作戦だとは思わなかった。」

「お褒めに預かり光栄です。」

「誰も褒めてねぇよ。だが、それが一番ましな作戦だって事もわかる。相手がどういう連中かもわからないんだ、それぐらいバカな作戦じゃないと意味ないよな。おい、他に考えがあるやつはいるか?」

周りの職員に尋ねるも誰も意見を述べることは無い。

「ないなら全員が承諾したって事だよな。暇な陰日に面白い、おい、戦えるやつ全員参加だから覚悟しとけよ!」

ぽかんとした顔で事実を受け入れられない職員とは対照的に、何とも楽しそうな顔をしているギルド長。

その構図が面白くて俺も思わず笑みを浮かべてしまった。

さぁ、言い出しっぺは俺だ。

このハチャメチャな作戦で犯人確保と行きますかね!
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