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第十六章
会議は踊り二転三転する
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サンサトローズに戻ってきた俺達を待っていたのは思いもしない知らせだった。
馬車は停車することなく城門を抜け騎士団の前で停車する。
急かされるまま騎士団に駆け込み作戦室に入るとそこにはカムリ騎士団長の他ププト様までが俺達の帰りを待ちわびていた。
「遅くなりました。」
「いや、いい時に帰ってきてくれた。知らせはもう聞いたな?」
「街道に魔物が溢れ多数の死傷者が出ているという事までは。」
「集団暴走なのか?」
「そこまでは何とも・・・。」
「戻ってきて忙しくなるぞとは言われましたが、まさかこんなことになっているとは思いませんでした。」
「それを言うな。事態は一刻を争う、すまないがこのまま参加してくれ。」
参加するのは構わないんですけど、俺は魔物と戦えませんよ?
その辺わかっておいでです?
「先ほど第二報が入ってきましたので合わせてご報告します。魔物はサンサトローズと隣村のちょうど中間付近で街道を進んでいた人々に襲い掛かりました。種類まではわかりませんが、こちらに逃げ込んできた怪我人の話から推測するとジャイアントアラーニャもしくはクリムゾンアラーニャのどちらかかと思われます。街道を進んでいた集団には多数の死傷者が出ており、近隣の村に逃げ込んだとの情報もありますが詳細はわかっておりません。」
席に着くやいなや早速作戦会議が始まった。
どうやら魔物が一般人に襲い掛かる大惨事になっているようだ。
アラーニャってなんだ?
「アラーニャは蜘蛛の魔物ですよ。」
「蜘蛛ですか。」
「アラーニャ種は秋節に産卵しそのまま越冬、春に卵が孵り餌を求めて活動を開始します。おそらくその活動に一般人が巻き込まれたのではと推測されます。」
なるほどなぁ。
昨年は蟻、今年は蜘蛛。
春になると虫が湧くというけれどこちらの世界でも同じなんだなぁ。
そしてそれに巻き込まれる俺。
これを呪いと言わず何と言う!
「街道を進んでいたのはここで騒ぎを起こしていた連中のようだ。しかしアラーニャ種が街道まで出るなど今まで無かったと記憶しているが・・・。」
「現場付近の村より発生の情報は上がっておりましたが、被害が無い為緊急性が無いと判断しておりました。申し訳ありません。」
「これまでは各村々が冒険者に依頼をして発見後すぐに駆除していたようです。今回の一件で駆除が追い付かずこのような事態になったのかと。」
「まさに自分の首を自分で絞めたわけですか・・・。」
自業自得とはこのことだ。
普通であれば街道を一般人が進む場合は冒険者に護衛を頼むものだが、今回はそれの役目を担う冒険者を自分で追い出したためにそのまま移動していた。
さらに本来であれば駆除できていた魔物が駆除される事無く放置されていた。
その原因は彼らだ。
不謹慎ではあるがまさに起きるべくして起きた事故と言えるだろう。
「アラーニャ種に限らず他の魔物でも同様の状況になっている可能性が高いと思われます。現場を確認に行った部隊が戻れば詳しくわかるのですがまだ帰還しておりません。」
「騎士団にはどのぐらいの報告が上がっていたのだ?」
「現在四件の報告が上がっております。」
「大至急報告のあった村に遣いを出せ、今すぐにだ。」
「ハッ!大至急隊を編成し現場に向かいます!」
ププト様の指示を受けて同席していた騎士団員全員が部屋を飛び出していった。
同様の状況が起きているのであれば報告のあった村も魔物に襲われている可能性が有る。
そりゃあ領主としてそれを見逃すことはできないよな。
「冒険者を追い出した弊害が出始めているわけだな。」
「どれだけ冒険者が人々の生活に関わっていたかわかりますね。」
「騎士団だけで領内を全て守ることは出来ん。そんな私達の代わりに冒険者は人々を守ってくれていたわけだが、彼らを追い出した後の事すら想像できないような輩が元老院にのさばっているのはいったいどうなんだ?」
「シルビア殿それを言うな。今は街道にはびこる魔物と怪我人をどうにかするのが先決だ。」
「遺体を放置すれば人の味を覚えた魔物が村々を襲う・・・か。まったく迷惑ばかりかける。」
死人が出ている状況でこの発言、シルビア様はかなりご立腹のようだ。
まぁ俺も同じ気持ちだけどね。
迷惑かけるだけかけて自業自得だと、言い切りたい気持ちはある。
でも人の命が危険にさらされているのもまた事実。
彼ら以外の人たちに危険が及ぶ前に何とかしなければいけない、というのが我々の置かれている状況のようだ。
「それでどうするんですか?彼らが出て言った事により予定通り城壁は封鎖。その維持にあたる人に加えて調査並びに討伐が出来る人員を四班放出したわけですが、人的余裕はどうなんですかねカムリ騎士団長。」
「各班五名として二十名を一気に放出しましたから、街道封鎖を解除しさらに現在調査に出ている団員が戻ってくることを考えても正直に言って余裕は全くありませんね。」
「では、誰が彼らを助けに行きます?頼りの冒険者はおらず人的余裕もない。城壁の封鎖は今後を考えて継続する必要がありますし、各村から人員を調達するにも時間的余裕はない上に今はちょうど陰日です、正直に言って難しいのではないでしょうか。」
「我々もまた冒険者の力に頼り切っていたという事か・・・。」
万事休すとはまさにこの事。
どうにかしたくても解決にあたる人員がいないのであれば、手を打つ事も出来ない。
人手は無限ではないからね。
「さすがにお前の力で・・・とは言えんな。」
「いくら頭を使えてもさすがに人を増やすことはできませんよ。」
「うぅむ。事態は急を要すというのに・・・。」
「城壁の封鎖を解除すればいいのではないか?」
「それが一番手っ取り早いですが、この騒ぎに乗じて別の人間が入ってこないとも限りません。こんな時に!と思うのが普通ですがこんな時だからこそ手段を選ばず行動する、あの人はそう言うたぐいの人間です。」
「イナバの言う通りだ。せっかく追い出したというのにこれ以上奴らの好きにさせるわけにはいかん。城壁の封鎖は絶対だ。」
「領民が危険にさらされてもか?」
「そもそも我々に迷惑をかけた以上連中を助ける義理はない、というのが私個人の考えだ。」
命は平等だ。
領民がとか領民じゃないとかいうのがおかしいというのは皆わかっている。
分かっているがこの領地を預かる身として譲れない所もあるわけだ。
人の上に立つって大変だわ、俺には絶対にできないな。
「ここにきて全冒険者を外に出したことが裏目に出たか・・・。せめて半分、いや四分の一でも残しておけばどうにかなったかもしれんのに。」
「ですがその残された四分の一はあの抗議の声にさらされ疲弊していたでしょう。それどころか冒険者と知れれば何をされていたかわかったものではありませんよ。」
「どちらにせよタラレバであるわけか。」
「至急助けに行かなければならない、でもそれに当てる人員がいない。このまま顔を合わせていても平行線ではないか?」
「精霊の力を借りるのはどうだ?」
「何とかなるかもしれませんがお願いに答えてくれるかどうか。それに精霊にお願いをするとそれ相応の対価を求められますし、私が危険ならまだしもそれ以外の事となると動いてくれるかはわかりません。」
「そうですね。いくらシュウイチさんの頼みとはいえ、事情が事情ですから。」
頼めば力をかしてくれるとは思う。
でも、精霊にお願いをするという事はそれなりの対価を支払わないといけない。
それは祝福を授かっても同じことだ。
唯一違うのは俺の命が危険にさらされている時。
俺を守る為なら何とかしてくれるかもしれないけど・・・。
それってつまり俺が現場に行ってしかも危険に晒されるとってことですよね?
「シュウイチを危険な目に合わせるわけにはいかんぞ。彼らのせいでどれだけの被害を被っているか・・・。それに加えて危険な目に遭うなど馬鹿げた話だ。」
「それは私も同感だ、変な事を言って済まなかった。」
「いえ、大丈夫です。」
とはいえ、放置できないというのもまた事実。
エミリアとシルビアの力を借りたとして・・・それでもどう考えても人が足りないな。
「ちなみにティナギルド長はどちらに?」
「他の冒険者と共に他の街に避難させてある。」
「魔術師ギルドへの救助要請はどうでしょう。」
「それもすでに頼みましたが、日が悪いとかで受け入れてもらえませんでした。」
「陰日は魔物の動きが活発になるだけでなく魔力の流れも微妙に狂うので、あまり魔法を使いたくないというのが本音だと思います。」
魔術師には魔術師なりの事情があるわけですね。
でもまいったなぁ、そうなると完全に打つ手なしじゃないか。
状況がわからないから何と言えないけど、助かった人が逃げ込んだ村に魔物が押し寄せているとかになったらそれこそ人員が必要になる。
「アラーニャ種はどのぐらいの実力があれば退治できるんでしょうか。」
「一匹一匹はあまり強くありませんが数で来られると中級冒険者でも苦労する魔物です。火に弱く、ダンジョン内で遭遇した場合は松明なんかを武器に戦う事もありますね。」
「初心者では厳しいという事ですね。」
「騎士団員の皆さんでしたら何とかなるのではないでしょうか。」
「アラーニャ種でしたら討伐経験もあります、団員で問題なく対応出来るかと。」
なるほどなるほど。
つまり数で来られると厄介だけど、それ以外はそれなりの実力があれば対処できるわけか。
エミリアは火の魔法を使えるし、シルビア様の実力があれば問題なし。
後は団員を回せるかだな・・・。
「ププト様、ここは城壁の警備を手薄にしてでも助けに行くべきではないでしょうか。」
「せっかく出来たこの機会をみすみす逃すという事か?」
「確かに別部隊が存在しているのであればこの隙に侵入される可能性は高くなります。ですが彼らは迷惑こそかけたものの犯罪を犯したわけではございません。それに、春節になり人々が活発に動き出したこの時期にその動きを妨げるのは商業活動そのものを委縮させてしまいます。今後を見据えても完全に封鎖してしまうのはいかがなものでしょうか。」
「これを言い出したのはお前だぞ?」
「わかっております。ですが人命を優先しなかったとの噂がたてばププト様の印象が悪くなり、それはそのままサンサトローズそのものの印象に繋がります。」
「私はともかく街の印象が悪くなるのは確かにな・・・。」
「それに今彼らに恩を売れば考えを変えてくれるかもしれません。冒険者は邪魔者ではなくむしろ必要な存在だと。」
俺の発言に全員がハァ?という顔をしてきた。
あーうん、こいつはいきなり何言ってるのってのはわかってる。
でも思い出したんだ。
とっておきの人材がいるって。
「冒険者を呼んでくるというのか?」
「おそらくそんな時間はないでしょう。」
「ではお前が出向き自分の店の印象を良くしようというのか?」
「私が出て行っただけでは意味がありません。冒険者が助けてこそ意味があります。」
「だからその冒険者がいないのだと・・・、まさかいるのか?」
「います、たまたまですが数名の中級冒険者をシュリアン商店でかくまっております。彼らに依頼を出し彼らの手でこの危機を乗り越えれば最上の結果を生み出せる、私はそう思っております。」
彼らを店で待機させていたのは全くの偶然だ。
でも今の状況を考えればそれは偶然ではなく必然だったのではないかとすら思えてくる。
世の中どうなるかわからんなぁ。
「だが彼らは手を貸してくれるだろうか。自分達を邪魔だというような連中だぞ?」
「冒険者はそんなことでへこたれませんよ。むしろ鈍った体を動かしてさらにお金がもらえるとなれば喜んで手を上げてくれると思います。なんせ、あの方々はガンドさんの遺志を継いでいるんですから。」
「シュリアン商店と冒険者が手を合わせて救助に向かえば、不要だと言っていた人たちも考えを改めてくれますよ。」
「命の危機を救ってくれたのだ、むしろそうならない方がおかしいそうお前は考えているのだな。」
「死傷者が多いこの状況を利用するというのは少々アレですが、今はそんなことを言っている場合ではありません。使える人手がたまたま冒険者とシュリアン商店の人間だった、そう考えてください。」
「わかった、ギルドが封鎖されている以上私が直接彼らを雇おう。報酬は望むまま・・・とまでは無理だが期待していいと伝えてくれ。」
「ありがとうございます。」
「シュリアン商店の人間が救助に向かうんだ、もちろんお前も行くんだよな?」
え?
俺も?
いや、俺が現場に行った所で何もできなくてですね・・・。
「そうだな、戦わないまでも現場にはいくべきかもしれん。冒険者同様追い出そうとしていたイナバシュウイチに助けられたとなったら、彼らは何というかな。」
「大丈夫です、シュウイチさんの身は私達が守りますから。」
いや、あのお二人さん?
さっき危険な目には遭わせないって言ってませんでしたっけ?
そりゃあ俺も180度違う事を言っているけれども・・・。
あ、あれ?
「では城壁の完全封鎖はしないという方向でよろしいですね。」
「やむを得まい。南門の開放し出来る限りの身分確認をするのが及第点と行った所か。」
「その規模であれば騎士団からも人員を割けるかと、人選はお任せください。」
「よろしく頼む。」
「後は急ぎ店に戻って状況を伝えるのと・・・。」
「失礼します!現場に向かっておりました調査班が戻って参りました!」
お、ナイスタイミング。
それじゃあ話を聞いた後は店に戻って冒険者の皆さんにお願いをしてそれから準備をして・・・。
なんだか当初の予定からコロコロ変わっちゃったけどそれもまぁいつもの事か。
出来ることをするだけ、それは変わらないしね。
さぁて、現場はどんな感じなのやら。
馬車は停車することなく城門を抜け騎士団の前で停車する。
急かされるまま騎士団に駆け込み作戦室に入るとそこにはカムリ騎士団長の他ププト様までが俺達の帰りを待ちわびていた。
「遅くなりました。」
「いや、いい時に帰ってきてくれた。知らせはもう聞いたな?」
「街道に魔物が溢れ多数の死傷者が出ているという事までは。」
「集団暴走なのか?」
「そこまでは何とも・・・。」
「戻ってきて忙しくなるぞとは言われましたが、まさかこんなことになっているとは思いませんでした。」
「それを言うな。事態は一刻を争う、すまないがこのまま参加してくれ。」
参加するのは構わないんですけど、俺は魔物と戦えませんよ?
その辺わかっておいでです?
「先ほど第二報が入ってきましたので合わせてご報告します。魔物はサンサトローズと隣村のちょうど中間付近で街道を進んでいた人々に襲い掛かりました。種類まではわかりませんが、こちらに逃げ込んできた怪我人の話から推測するとジャイアントアラーニャもしくはクリムゾンアラーニャのどちらかかと思われます。街道を進んでいた集団には多数の死傷者が出ており、近隣の村に逃げ込んだとの情報もありますが詳細はわかっておりません。」
席に着くやいなや早速作戦会議が始まった。
どうやら魔物が一般人に襲い掛かる大惨事になっているようだ。
アラーニャってなんだ?
「アラーニャは蜘蛛の魔物ですよ。」
「蜘蛛ですか。」
「アラーニャ種は秋節に産卵しそのまま越冬、春に卵が孵り餌を求めて活動を開始します。おそらくその活動に一般人が巻き込まれたのではと推測されます。」
なるほどなぁ。
昨年は蟻、今年は蜘蛛。
春になると虫が湧くというけれどこちらの世界でも同じなんだなぁ。
そしてそれに巻き込まれる俺。
これを呪いと言わず何と言う!
「街道を進んでいたのはここで騒ぎを起こしていた連中のようだ。しかしアラーニャ種が街道まで出るなど今まで無かったと記憶しているが・・・。」
「現場付近の村より発生の情報は上がっておりましたが、被害が無い為緊急性が無いと判断しておりました。申し訳ありません。」
「これまでは各村々が冒険者に依頼をして発見後すぐに駆除していたようです。今回の一件で駆除が追い付かずこのような事態になったのかと。」
「まさに自分の首を自分で絞めたわけですか・・・。」
自業自得とはこのことだ。
普通であれば街道を一般人が進む場合は冒険者に護衛を頼むものだが、今回はそれの役目を担う冒険者を自分で追い出したためにそのまま移動していた。
さらに本来であれば駆除できていた魔物が駆除される事無く放置されていた。
その原因は彼らだ。
不謹慎ではあるがまさに起きるべくして起きた事故と言えるだろう。
「アラーニャ種に限らず他の魔物でも同様の状況になっている可能性が高いと思われます。現場を確認に行った部隊が戻れば詳しくわかるのですがまだ帰還しておりません。」
「騎士団にはどのぐらいの報告が上がっていたのだ?」
「現在四件の報告が上がっております。」
「大至急報告のあった村に遣いを出せ、今すぐにだ。」
「ハッ!大至急隊を編成し現場に向かいます!」
ププト様の指示を受けて同席していた騎士団員全員が部屋を飛び出していった。
同様の状況が起きているのであれば報告のあった村も魔物に襲われている可能性が有る。
そりゃあ領主としてそれを見逃すことはできないよな。
「冒険者を追い出した弊害が出始めているわけだな。」
「どれだけ冒険者が人々の生活に関わっていたかわかりますね。」
「騎士団だけで領内を全て守ることは出来ん。そんな私達の代わりに冒険者は人々を守ってくれていたわけだが、彼らを追い出した後の事すら想像できないような輩が元老院にのさばっているのはいったいどうなんだ?」
「シルビア殿それを言うな。今は街道にはびこる魔物と怪我人をどうにかするのが先決だ。」
「遺体を放置すれば人の味を覚えた魔物が村々を襲う・・・か。まったく迷惑ばかりかける。」
死人が出ている状況でこの発言、シルビア様はかなりご立腹のようだ。
まぁ俺も同じ気持ちだけどね。
迷惑かけるだけかけて自業自得だと、言い切りたい気持ちはある。
でも人の命が危険にさらされているのもまた事実。
彼ら以外の人たちに危険が及ぶ前に何とかしなければいけない、というのが我々の置かれている状況のようだ。
「それでどうするんですか?彼らが出て言った事により予定通り城壁は封鎖。その維持にあたる人に加えて調査並びに討伐が出来る人員を四班放出したわけですが、人的余裕はどうなんですかねカムリ騎士団長。」
「各班五名として二十名を一気に放出しましたから、街道封鎖を解除しさらに現在調査に出ている団員が戻ってくることを考えても正直に言って余裕は全くありませんね。」
「では、誰が彼らを助けに行きます?頼りの冒険者はおらず人的余裕もない。城壁の封鎖は今後を考えて継続する必要がありますし、各村から人員を調達するにも時間的余裕はない上に今はちょうど陰日です、正直に言って難しいのではないでしょうか。」
「我々もまた冒険者の力に頼り切っていたという事か・・・。」
万事休すとはまさにこの事。
どうにかしたくても解決にあたる人員がいないのであれば、手を打つ事も出来ない。
人手は無限ではないからね。
「さすがにお前の力で・・・とは言えんな。」
「いくら頭を使えてもさすがに人を増やすことはできませんよ。」
「うぅむ。事態は急を要すというのに・・・。」
「城壁の封鎖を解除すればいいのではないか?」
「それが一番手っ取り早いですが、この騒ぎに乗じて別の人間が入ってこないとも限りません。こんな時に!と思うのが普通ですがこんな時だからこそ手段を選ばず行動する、あの人はそう言うたぐいの人間です。」
「イナバの言う通りだ。せっかく追い出したというのにこれ以上奴らの好きにさせるわけにはいかん。城壁の封鎖は絶対だ。」
「領民が危険にさらされてもか?」
「そもそも我々に迷惑をかけた以上連中を助ける義理はない、というのが私個人の考えだ。」
命は平等だ。
領民がとか領民じゃないとかいうのがおかしいというのは皆わかっている。
分かっているがこの領地を預かる身として譲れない所もあるわけだ。
人の上に立つって大変だわ、俺には絶対にできないな。
「ここにきて全冒険者を外に出したことが裏目に出たか・・・。せめて半分、いや四分の一でも残しておけばどうにかなったかもしれんのに。」
「ですがその残された四分の一はあの抗議の声にさらされ疲弊していたでしょう。それどころか冒険者と知れれば何をされていたかわかったものではありませんよ。」
「どちらにせよタラレバであるわけか。」
「至急助けに行かなければならない、でもそれに当てる人員がいない。このまま顔を合わせていても平行線ではないか?」
「精霊の力を借りるのはどうだ?」
「何とかなるかもしれませんがお願いに答えてくれるかどうか。それに精霊にお願いをするとそれ相応の対価を求められますし、私が危険ならまだしもそれ以外の事となると動いてくれるかはわかりません。」
「そうですね。いくらシュウイチさんの頼みとはいえ、事情が事情ですから。」
頼めば力をかしてくれるとは思う。
でも、精霊にお願いをするという事はそれなりの対価を支払わないといけない。
それは祝福を授かっても同じことだ。
唯一違うのは俺の命が危険にさらされている時。
俺を守る為なら何とかしてくれるかもしれないけど・・・。
それってつまり俺が現場に行ってしかも危険に晒されるとってことですよね?
「シュウイチを危険な目に合わせるわけにはいかんぞ。彼らのせいでどれだけの被害を被っているか・・・。それに加えて危険な目に遭うなど馬鹿げた話だ。」
「それは私も同感だ、変な事を言って済まなかった。」
「いえ、大丈夫です。」
とはいえ、放置できないというのもまた事実。
エミリアとシルビアの力を借りたとして・・・それでもどう考えても人が足りないな。
「ちなみにティナギルド長はどちらに?」
「他の冒険者と共に他の街に避難させてある。」
「魔術師ギルドへの救助要請はどうでしょう。」
「それもすでに頼みましたが、日が悪いとかで受け入れてもらえませんでした。」
「陰日は魔物の動きが活発になるだけでなく魔力の流れも微妙に狂うので、あまり魔法を使いたくないというのが本音だと思います。」
魔術師には魔術師なりの事情があるわけですね。
でもまいったなぁ、そうなると完全に打つ手なしじゃないか。
状況がわからないから何と言えないけど、助かった人が逃げ込んだ村に魔物が押し寄せているとかになったらそれこそ人員が必要になる。
「アラーニャ種はどのぐらいの実力があれば退治できるんでしょうか。」
「一匹一匹はあまり強くありませんが数で来られると中級冒険者でも苦労する魔物です。火に弱く、ダンジョン内で遭遇した場合は松明なんかを武器に戦う事もありますね。」
「初心者では厳しいという事ですね。」
「騎士団員の皆さんでしたら何とかなるのではないでしょうか。」
「アラーニャ種でしたら討伐経験もあります、団員で問題なく対応出来るかと。」
なるほどなるほど。
つまり数で来られると厄介だけど、それ以外はそれなりの実力があれば対処できるわけか。
エミリアは火の魔法を使えるし、シルビア様の実力があれば問題なし。
後は団員を回せるかだな・・・。
「ププト様、ここは城壁の警備を手薄にしてでも助けに行くべきではないでしょうか。」
「せっかく出来たこの機会をみすみす逃すという事か?」
「確かに別部隊が存在しているのであればこの隙に侵入される可能性は高くなります。ですが彼らは迷惑こそかけたものの犯罪を犯したわけではございません。それに、春節になり人々が活発に動き出したこの時期にその動きを妨げるのは商業活動そのものを委縮させてしまいます。今後を見据えても完全に封鎖してしまうのはいかがなものでしょうか。」
「これを言い出したのはお前だぞ?」
「わかっております。ですが人命を優先しなかったとの噂がたてばププト様の印象が悪くなり、それはそのままサンサトローズそのものの印象に繋がります。」
「私はともかく街の印象が悪くなるのは確かにな・・・。」
「それに今彼らに恩を売れば考えを変えてくれるかもしれません。冒険者は邪魔者ではなくむしろ必要な存在だと。」
俺の発言に全員がハァ?という顔をしてきた。
あーうん、こいつはいきなり何言ってるのってのはわかってる。
でも思い出したんだ。
とっておきの人材がいるって。
「冒険者を呼んでくるというのか?」
「おそらくそんな時間はないでしょう。」
「ではお前が出向き自分の店の印象を良くしようというのか?」
「私が出て行っただけでは意味がありません。冒険者が助けてこそ意味があります。」
「だからその冒険者がいないのだと・・・、まさかいるのか?」
「います、たまたまですが数名の中級冒険者をシュリアン商店でかくまっております。彼らに依頼を出し彼らの手でこの危機を乗り越えれば最上の結果を生み出せる、私はそう思っております。」
彼らを店で待機させていたのは全くの偶然だ。
でも今の状況を考えればそれは偶然ではなく必然だったのではないかとすら思えてくる。
世の中どうなるかわからんなぁ。
「だが彼らは手を貸してくれるだろうか。自分達を邪魔だというような連中だぞ?」
「冒険者はそんなことでへこたれませんよ。むしろ鈍った体を動かしてさらにお金がもらえるとなれば喜んで手を上げてくれると思います。なんせ、あの方々はガンドさんの遺志を継いでいるんですから。」
「シュリアン商店と冒険者が手を合わせて救助に向かえば、不要だと言っていた人たちも考えを改めてくれますよ。」
「命の危機を救ってくれたのだ、むしろそうならない方がおかしいそうお前は考えているのだな。」
「死傷者が多いこの状況を利用するというのは少々アレですが、今はそんなことを言っている場合ではありません。使える人手がたまたま冒険者とシュリアン商店の人間だった、そう考えてください。」
「わかった、ギルドが封鎖されている以上私が直接彼らを雇おう。報酬は望むまま・・・とまでは無理だが期待していいと伝えてくれ。」
「ありがとうございます。」
「シュリアン商店の人間が救助に向かうんだ、もちろんお前も行くんだよな?」
え?
俺も?
いや、俺が現場に行った所で何もできなくてですね・・・。
「そうだな、戦わないまでも現場にはいくべきかもしれん。冒険者同様追い出そうとしていたイナバシュウイチに助けられたとなったら、彼らは何というかな。」
「大丈夫です、シュウイチさんの身は私達が守りますから。」
いや、あのお二人さん?
さっき危険な目には遭わせないって言ってませんでしたっけ?
そりゃあ俺も180度違う事を言っているけれども・・・。
あ、あれ?
「では城壁の完全封鎖はしないという方向でよろしいですね。」
「やむを得まい。南門の開放し出来る限りの身分確認をするのが及第点と行った所か。」
「その規模であれば騎士団からも人員を割けるかと、人選はお任せください。」
「よろしく頼む。」
「後は急ぎ店に戻って状況を伝えるのと・・・。」
「失礼します!現場に向かっておりました調査班が戻って参りました!」
お、ナイスタイミング。
それじゃあ話を聞いた後は店に戻って冒険者の皆さんにお願いをしてそれから準備をして・・・。
なんだか当初の予定からコロコロ変わっちゃったけどそれもまぁいつもの事か。
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さぁて、現場はどんな感じなのやら。
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