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第十六章

大ボス襲来

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デモが始まって二日目。

聖日になってもデモは収まる様子を見せなかった。

さすがに市場では行われなかったようだがデモ隊と騎士団員がにらみ合う事もあり、サンサトローズ中が物々しい雰囲気に包まれているのがわかる。

俺達はというと、館から一歩も出ることなくカムリやメルクリア女史、ジルさんから入ってくる情報に耳を傾けながらいつか来るかもしれない反撃の一手を待ち続けた。

「失礼します。」

「カムリではないか、いいのかこんな所に来て。」

「直接お話した方がいいと思い報告に参りました。」

「街の様子は、住民達の様子はどうだ?」

「いいのか悪いのか、この二日でだいぶ慣れたようです。彼らが声を上げる以外の悪事を働かない事を理解してからは普通に出歩く住民も増えてきました。しかしながら不要不急の外出を控えるよう通告していることも有り半数ほどは家に籠っているのではないでしょうか。」

「病人などには対応出来ているのか?」

「教会と連携して対応しておりますので今の所この騒動で問題は発生しておりません。」

騒動そのものが問題というツッコミはしてはいけないお約束だ。

カムリの言うようにデモ隊は非常に行儀がよく、大声で練り歩く以外の悪さは行っていない。

この二日間、ただひたすらに冒険者を追放しろ!イナバシュウイチを追い出せ!と叫び続けている。

悪さをしてないとはいえ住民からすればいい迷惑だろう。

何度も叫ぶことでシュリアン商店ならびに俺への印象がどんどん悪くなっていくとわかっているんだろうな。

あれもこれもと論点をずらさず、一貫して叫び続けることで否が応でも人の心に刻み込まれていく。

まるで地震の時に流れたあのCMみたいだ。

「彼らの素性はわかりましたか?」

「何人か密偵として送り込み抗議に参加させておりますが、なかなかこれというような情報は流れてきませんね。」

「お金で雇われたわけではなくあくまでも自主的に参加していると?」

「冒険者はいなくなるべきだ、イナバシュウイチを許してはいけない。まるで洗脳されているかのように同じような返事をするそうです。」

「二日間同じ文言を繰り返しながら街中を歩き回る、洗脳されていないとしてそんなことがあり得るのか?」

「でもこれだけの人数を洗脳するなんて聞いたことありません。」

エミリアの言う通りだ。

これだけの人間を洗脳するなんて普通では考えられない。

某宗教のように時間を掛ければできなくはないかもしれないけど、それでも多少の誤差は出るはずだ。

一体どうやっているんだろうか。

「どこから来ているかはわかりましたか?」

「隣町、王都等場所は様々で共通点はありません。ここで自分たちの声を叫ぶことが出来ると聞いてやってきたと言っています。」

「それをどこから聞きつけたんだ?」

「風の噂、友人から、天の声これも様々です。」

「天の声って・・・。」

どうも~お~はようございま~す!

とか言っていたんだろうか。

どう考えてもまともじゃない。

あー、異世界だし天の声が聞こえる人もいるのかもしれないけど・・・。

でも普通じゃないよね。

「どこからか聞きつけた噂話を信じてここに来たというのか?信じられん。」

「この街に向かう人達を実際に見て決断した、そんな感じでしょうか。」

「誰か一人が動き出しそれを見て自分も行こうと思うのか?」

「思うかどうかは別にして最初の一人が出ればそれに続こうと思うのが人の心理です。もしかするとそれを利用して人を増やしたのかもしれません。」

「つまり最初の一人は奴らが準備して、それに続いた人は本当にそう思っていた人だと言いたいのか?」

「あくまでも可能性の話です。そんな理由でみんなが同じことを言い続けるのかはわかりませんけど・・・。」

でもなくはない話だとは思う。

元の世界でもネットの呼びかけに全く関係のない人たちが集まって抗議の声を上げていた。

某政権を許すな!とか、領土を返せ!とか。

そう思うとネットってすごいよなぁ。

縁もゆかりも全くない人が同じ信念で集まるんだから、いい意味でも悪い意味でも凄い物だと思うよ。

「一ついい話があります、いかがです?」

「いい話か、期待していいんだな?」

「是非聞かせてください!」

良い話か。

この状況で何がいいかはわからないけどつい期待してしまうな。

もしそうじゃなかったらシルビア様に絞めてもらおう。

「彼らを受け入れている宿が明日以降の受け入れを拒否しました。元々の契約が今日までだったというのもありますが、住民たちに配慮してとの事です。」

「つまり彼らがいるのも明日までか。」

「移動を考えると明日のお昼過ぎには街からいなくなるのではないでしょうか。」

「でもどうやって参加者だと把握するんですか?」

「すべてのお客を受け入れないとの事です。幸い冒険者はいませんし、この騒ぎで他の商人も街には来ておりません。」

「受け入れる準備が出来ないという事か。」

「この騒ぎで物流は大きく滞っております、物不足になるのも仕方ないかと。」

街に人が溢れ始めた日から逆算すると今日で三日。

物流が滞りだしたのが翌日からなので丸二日まともな仕入れを行えていないことになる。

しかも宿はこの三日フル稼働、そりゃ物不足にもなるよ。

市場にもあまり品が入ってきていないみたいだし、デモの影響がじわじわ出え来ているようだ。

「確かにいい話です、でも物資が復活すればまた戻ってくるのでは?」

「その可能性は否定できません。」

「むしろ間違いなく戻ってくるだろう。」

「つまりそれまでの間に何か対策を考えないといけないわけですね。」

入場を規制するのが一番手っ取り早いけどそれではサンサトローズにかかる負担が大きすぎる。

物流も滞るだろうしなにより自由がない。

今でも全く関係ない人達に迷惑かけてるんだから、これ以上迷惑をかけるのはさすがにねぇ・・・。

「ププト様はなんといってる?」

「いなくなり次第一度門を閉じると。その後に関してはまたイナバ様と相談されるとの事です。」

そうなりますよねー。

って事は今日はププト様と一日睨めっこかな?

それに加えて気になることがもう一つ。

「冒険者がいなくなって三日、魔物討伐の依頼とかってどうなっていますか?」

「緊急性の高いものに関しては対応するようにしていますが、今の所出動はありません。」

「では魔物が出たとの報告は?」

「いくつか報告に上がっていますが、発見したにとどまっています。」

それってつまり対応していないって事だよね?

今までなら魔物を発見→冒険者もしくは騎士団に依頼→討伐って流れが出来ていたけれど、今はその流れが機能していない。

発見した所で何もされず放置されている。

それってさ、時期的にかなりまずくないですか?

「彼らがいなくなった後、他の街に誘導した冒険者には声をかけるんでしょうか。」

「そこまでは何も伺っておりません。ですがまた戻ってくると仮定するのならば、冒険者を呼び戻すのは時期尚早かと。」

「それは私も同意見だ。戻ってきてもまた逃げなければならないのであれば意味がない、今回の件が片付いてからになるのではないか?」

「それはそうなんですけど・・・。」

「シュウイチさんは何か気になるんですか?」

「いえ、気にしすぎもいけませんね。まずはあの人たちがいなくなってからの事を考えましょう。」

気になるけど何も問題が起きていないことを考えても仕方がない。

今は目の前にそびえる壁をどうにかしないと。

「では、いい話をお伝え出来たという事でこの辺で失礼します。」

「非常にいい話だった、次に会う時も同じような話が聞けるといいのだがな。」

「いい話をお持ちできるよう努力いたします。」

「気を付けてお帰り下さい、カムリ様。」

「皆様も決して無茶だけはされませんようお願い致します。」

「聞いたかシュウイチ。」

「あはは、善処します。」

別にいつも無茶をしているわけじゃないんですよ?

ちゃんと石橋をたたいて準備してから対処することも有りますし・・・。

そんなに危なっかしいように見えるかなぁ。

見えるんだろうなぁ。

その後カムリが部屋を出ていきしばらくしてから予想通りププト様に呼び出された。

やっぱりと思ったのだが、呼ばれたのは何故か俺だけ。

エミリアとシルビアは部屋に残るように言われている。

何故だろう。

「イナバ様が参られました。」

テナンさんに連れられて呼び出されたのはいつもの会議室・・・ではなく応接用の部屋だった。

「入れ。」

「失礼します。」

親しき中にも礼儀あり、一応しっかりとお辞儀をしてから部屋に入る。

顔を上げ室内に一歩踏み込んだその時、信じられない人物がいることに気が付いた。

「これはイナバさん、お久しぶりになりますかね。」

「ザキウス様、どうしてここに?」

「ほぉ、敵である私の名前を憶えていただいているとは思いませんでした。ここに来た理由は貴方の顔を見に来た、という事にしておきましょうか。」

「よくここにいるとわかりましたね。」

「隠れるのであればもう少し部下の動きに気を付けるべきです。騎士団長だけならまだしも教会の人間が出入りしていればここにいると言っているのも同じですよ。」

「それは気づきませんでした。ご忠告感謝いたします。」

まさに一触即発。

なんせ敵のトップがいきなり目の前に出てきたらこうもなるだろう。

居場所が分かったとして普通自分から出てきたりするか?

命のやり取りをしていないまでもココは俺達の本丸だぞ?

「まぁまぁ落ち着け、イナバお前は私の隣だ。」

「かしこまりました。」

「随分とあっさり引き下がりましたね、まぁいいでしょう。領主が一商人を囲い込んでいるという事実に関しては引き下がれませんが・・・。」

「イナバは私の友人だ。それにこいつを囲い込もうにも商店連合の仕事を終わらせなければ無理というのは貴族の中でも有名な話のはず、何か言われた所で何の問題もないだろう。」

落ち着けと言いながらも喧嘩腰のププト様に思わず笑ってしまいそうになる。

ププト様自身もまさか本人が来るとは思っていなかったんだろうな。

「こんな男を手元に置きたいなど信じられません。多少口が達者なだけではありませんか。」

「そう侮っているといつか痛い目を見るのでは?」

「痛い目に合わせて頂けるのであれば喜んで受けて差し上げましょう。」

「まぁまぁお二人とも落ち着いて下さい。」

「お前が言うな。」「貴方が言わないでください。」

うぉ、二人同時に睨まれてしまった静かにしておこう。

「それで、ここに来た理由はなんだ?」

「街中に溢れる声はもうお聞きになっていると思います、これだけの人数が冒険者や貴方を不要と叫んでいる。そのことについてはどう思われますか?」

「随分と手の込んだ茶番だと認識しています。随分お金がかかっていますが、まさか税金で賄われているという事はありませんよね?」

「これが茶番?どうしてそう思うんです?」

「皆が皆同じことを言いすぎているんです。これだけの人が集まれば違う意見が出るのが普通ですが、まるで操られているかのように二日間同じ事ばかり叫んでいる。これじゃヤラセだってすぐわかりますよ。」

「本気でそう思っているんですか?貴方には彼らの真摯な思いが伝わらないと?」

真摯な思い?

同じことを叫んでいるのが真摯な思いだって?

この人バカなのかな。

「真摯に思いを伝えたいのであればそもそもこんな手段取りませんよ。」

「彼らは声を出す場所を求めてここに集まったんです。直接貴方に声を伝えるためにね。」

「金で買われた人に呼ばれての間違いではないですか?それならば店に来ればいいだけの話ですし、それが出来ないのであれば領主様に直訴すればいい。幸いうちの領主様は領民の声をよく聞いて下さる素晴らしい方ですから、私への文句があればしっかりと届けてくださいますよ。」

「そうだな、苦情が出れば正直に伝えるだろう。」

「そちらの茶番も結構です。彼らの本当の声に耳を傾けられないのであれば別の手段をとるしかありませんね。この手段だけは取りたくないと思っていたのですが・・・残念です。」

ワザとらしく首を振る様子に思わず顔をそらして笑ってしまう。

これだけは使いたくなかった。

どうせその手段を選ぶんだからさっさとしてしまえばいいのに。

それで態度を変えるとか本当に思っているんだろうか。

「宿の期限が明日で切れ再契約が出来なかったから街で声を上げることが出来なくなったと正直に言えばいいじゃありませんか。どこに行くのか存じませんがどこに行っても結果は同じです。廃業する気はありませんし冒険者がいなくなることも有りません。遥か昔から冒険者が人々の生活に溶け込んでいるように我が商店も人々の生活になくてはならない店になりましょう。」

「相変わらず口だけは達者ですね。」

「お褒めに預かり光栄です。」

「話はそれだけか?」

「今日はそちらの意思を確認しに来ただけですのでこれで失礼します。」

なんだ随分とあっけないな。

もっとグイグイ来るかと思ったんだけど何か裏があるんだろう。

なんせ相手は元老院の半分近くを動かせるんだ、舐めてかかると痛い目を見る。

「どうぞ気を付けてお帰り下さい。」

「貴方も後ろにはよく気を付けた方がいいですよ。」

「それは脅しか?」

「いえ、年寄りの経験から基づく助言です。」

「ありがたく受け取っておきます。街を離れる皆さんにもどうかよろしくお伝えください。冒険者がいないので護衛できませんから。」

「冒険者の護衛など不要です、こちらには王都騎士団も・・・。」

ん?騎士団だって?

しかも王都の?

まじかよそこまで腐ってるのか?

「何でもありません、失礼します。」

露骨にしまったという顔をするのはワザとなのかそれとも本当なのか。

騎士団が後ろにいるんだぞとにおわせたいだけなのかもしれない、この男ならやりかねない。

そうププト様も思っているはずだ。

慌てた感じを出しながら立ち上がり無言で部屋を出ていく。

テナンさんが誘導する声はパタンと閉まるとの音でかき消えてしまった。

「イナバ、今のはどっちだと思っている?」

「七割がた嘘だと思っています。」

「やはりそのぐらいか。」

「元老院の半分近くを牛耳っていることを考えれば王都騎士団にもその影響がないとは言い切れません。ですが流石にここまで引っ張ってくることは・・・無理じゃないですかねぇ。」

「演習と称して引っ張ってくる線はどうだ?」

「それであれば事前に連絡があるのが普通では?同じ国民とはいえ他の領地に軍に近い存在が近づくんですよ?」

「ふむ、それもそうか。」

可能性が絶対にないと言い切れないのが悔しいが、ほぼ無いと考えるしか今は出来ない。

一応王国騎士団に動きがないかカムリに聞いてもらう方がいいかもしれないな。

「問題は奴が次にどんな手段を取ってくるかだが・・・。」

「それも明日街の人達がいなくなってからですね。」

「いい案を聞かせてもらえるんだろうな。」

「そんなすぐはでませんよ・・・、まぁいくつかありますけど。」

「それでこそ私が認めた男だ。」

何時認められたかはよくわからないけど誉められたようだ。

相手がどう出てくるかはわからないけれど、出来る手は打っておこう。

今日も長い一日になりそうだなぁ。

無邪気に笑うププト様の顔を見ながらそう覚悟した。
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