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第十六章
小事は大事を生む
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水路の開通を見届け、ウェリスからも情報を仕入れる。
労働者の皆さんからは聞き出せたのは最初と同じく役人のような男が定期便の使用を断っていたということだけだった。
予想はしていたけど収穫無しはちょっと残念だ。
「冒険者が来ないのはお前んとこにとって死活問題だろ?」
「定期便が無い日は皆さん歩いてきてくださっていますし、大きな問題が起きているわけではありません。でも、定期便目当てに来てくださっていた人もいますから今後も継続するようであれば多かれ少なかれ問題は出てくるでしょう。」
「お前の所だけじゃねえ、村の宿やシャルの店にも影響が出る。開始早々失敗しましたじゃ話にならないぞ?」
「そうなんですよねぇ・・・。情報収集は行っていますので一先ず今週様子をみて対応を考えようと思います。」
「俺の方でも何かわかったら連絡してやる。」
「よろしくお願いします。」
街の様子は冒険者が、労働者の様子はウェリスが教えてくれる。
何事も情報がすべて、昨日の今日で判断するのは時期尚早という奴だろう。
出来れば何もなければいいんだけど・・・。
「騎士団にも連絡しておくか?」
「いえ、村に害をなすかどうかもわかりませんからそこまでは大丈夫です。ですが、何か圧をかけるような様子が見られれば力を借りてもいいですか?ウェリスが言うようにこれは私だけではなくシャルちゃんや村にも影響が出る話ですから。」
「村とお前を守るためにも私は出来ることをしよう。」
「何もないのが一番ですけど。」
「冒険者を悪く言うやつは確かにいるが、それでも定期便に口出しするのはやりすぎだ。」
「一応ププト様の命で行われている定期便ですし、サンサトローズの人なら皆さん知っていると思うんですけどねぇ。」
「街の役人ではないと考えているのか?」
「いえ、それに関しては見当もついていません。あくまでも可能性の話です。」
こういうのはあれだけど、サンサトローズにおける俺の評価は決して悪くないと思っている。
村との関係は良好だし、街の人とも各ギルドともそれなりに良い付き合いをさせてもらっている。
決して自分の利益だけを求めてきたわけではない。
村や街そこにいる人たちが幸せになるように行動してきたつもりだ。
それを知っている人ならば、俺が絡んでいる定期便に口出しすることはないと思うんだよね。
シルビアが言うように例え冒険者を嫌っているとしても、ここまで大それたことはしない・・・はずだ。
じゃあ誰がしたのか。
話の流れからするとそれ以外の人間という事になる。
王都から新しく来た役人か、それとも貴族か。
どちらにしても領主に黙ってするような無いようじゃないよなぁ。
まったくわからん。
「お、馬車が来たぞ?」
「ニッカさんにお客さんが来ると言っていましたからその人じゃないですか?」
「父の昔馴染みか。挨拶しておいた方がいいだろう。」
「そうですね。挨拶ついでに家まで連れて行ってあげるのがいいと思います。」
娘が挨拶する分には問題ないだろう。
だが義理の息子だとどうなるんだ?
『どうも新しい息子です』って挨拶するとか?
イヤイヤ、さすがにない。
「お、いたいた!おーい、イナバ様ちょっといいですか!?」
と、どうしようか悩んでいると後ろから誰かに呼ばれた。
たしかあの人は男衆の一人だったはず。
ドリスのおっさんではなく俺を呼ぶって事は宿で何かあったんだろうか。
「挨拶は私だけで行くとしよう、シュウイチは話を聞いてやってくれ。」
「すみませんお願いします。」
シルビアと別れると同時にその人は息を切らしてやって来た。
村中を探し回っていたんだろうか。
「どうしました?」
「帳簿なんだが数字がうまく合わないんだ。言われた通りお金は前金でもらってるんだが、見てくれないか?」
「すぐにいきます。」
「任されてすぐだというのに面目ない。」
「いえいえ、初めての事ですから気にしないでください。むしろ問題が起きないほうがびっくりしますよ。」
シャルちゃんもそうだけど初めての仕事でミスしない方がおかしい。
解らないこと、知らないことばかりなんだ。
それをミスをしたからって怒るのもお門違い。
やったことない事は出来なくて仕方ない。
それをできるようにするのが今いる人間のすることだ。
しっかりフォローして、同じ間違いをしなくなればそれが成長となる。
人を育てるのは大変なんだぞ。
宿に向かい受付に入らせてもらって帳簿を確認する。
昨日はほぼ満室。
空いていたのは二人部屋一室のみか。
有難い話だなぁ。
「これとは別に追加の食事と酒、お湯の注文も受けています。それはこっちの帳簿に書いておきました。」
「有難うございます、確認しておきますので皆さんはご自身の仕事をしてもらって大丈夫ですよ。お客様はもう出られたんですよね?」
「さっき最後の二人が出発されました。」
「後片付けに今日の分の仕込みと色々大変だと思いますがよろしくお願いします。」
奥の方では忙しそうに後片付けが行われていた。
商店と違い宿は後片付けが大変なのだ。
部屋の掃除に毛布の交換、料理やお酒の仕込みに在庫確認、流石に元の世界の旅館やホテルのレベルまでは無理でもそれに近い所まではやってみたい。
部屋が多いという事はそれだけしなければいけない仕事量も多いが、手を抜きたくないというのが本音だ。
最初という事もあって今は人手を多くしているが、今後は畑の仕事も出てくるので今ほどは望めないんだよな。
村長の話では来週ぐらいに作付けだって話だったし、今週中に何とか流れだけでも把握してもらえるようにフォローしていこう。
それとも現場とは会計担当を別に一人二人育成して、責任者にした方がいいだろうか。
俺もこの辺は手探りだからなぁ・・・。
皆だけでなく俺も日々勉強だ。
一緒に頑張ろう。
さて、帳簿の確認だったな。
お金は前金でもらっているのに金額が合わないって事だったけど・・・。
食事つき希望が5室、食事なしが3室。
うち大部屋はどちらも食事つきか。
あれ、お湯を使ったって言ってたけどどの部屋が利用したんだろう。
代金の帳簿はあるからそこから手繰ればいいんだけど、出来るなら性別とか年代とか把握したいなぁ。
この辺エクセルがあればちょちょいのちょいでデータを抽出できるんだけど・・・。
うちもそうだけど今後はそういったプラスαの売上を取っていきたいんだよね。
その為にはデータが必要だ。
お湯を希望したのが女性なのか男性なのか、二人部屋なのか大部屋なのか。
追加の毛布は?
お酒の注文、種類は?
今後調べなければいけない物がたくさんある。
そうだ!アンケートを取って冒険者の求めている物を聞くって手もあるな。
ただ書くだけは皆嫌だけど、物がもらえるってなると大抵書いてくれるんだよね。
俺も含めてさ。
っと、違う違う。
今はお金の確認をしないと。
つい別の事を考えちゃうんだから毎度のことながら困ったものだ。
それからしばらく帳簿と睨めっこをしていると突然周りが暗くなり、慌てて顔を上げた。
また例の試練に連れていかれたのかと思ったが、そこにいたのは村長の家に行ったシルビアだった。
なんだろう随分と疲れた顔をしているけど何かあったんだろうか。
「すみません気づきませんでした。」
「お前が帰ったって話を聞かなかったのでもしやと思ったのだが、どうだわかったか?」
「前金制ですので貰った金額は合っているとすると、おそらく大部屋利用のお客様の分を誤って計算してしまったんだと思います。むしろそれぐらいしか見当たらなかったので、十中八九これですね。初日でこれしかミスしないのはすごいですよ。」
「皆、それだけ真剣に仕事をしてくれている証拠だろう。」
「ありがたい事です。それと、いくつか改善点が見つかったのでかえってエミリアとニケさんに相談してみようと思います。
「帳簿を合わせるだけでなく改善点まで見つけたのか。相変わらず仕事熱心だなお前は。」
「思いついただけですよ。それに出来ればさぼりたい方の人間なので別に仕事熱心っていうわけではありません。」
「そうか?さぼりたい人間がわざわざ他人のために働くとは思えんがな。」
それはそれ、これはこれです。
さぼりたいけど自分のしたことを放っておくのは好みません。
なんてめんどくさい性格なんだと自分でも思うけれど、性格はすぐに変えれないんだよなぁ。
「シルビアの方はどうでしたか?なんだか疲れたような顔をしていますが・・・。」
「やっぱりそう見えるか?」
「えぇ。」
「精神的に疲れるというのはこういう事を言うのだろうな。今までの仕事柄色々な人間と話をしてきたが、あそこまで話の通じない人間がいるとは思いもしなかった。父上もよく笑顔を絶やさず話を聞けたものだよ。」
シルビア様の感じからするとよっぽどの相手だったんだろう。
なんていうかやつれているような感じだ。
俺も仕事柄色々な人と話をしてきたが、いるんだよね今までどうやってそこまで生きてこれたのってぐらいにズレた人。
そういう人に限って周りに迷惑かけてないみたいな顔をして迷惑かけまくるんだよ。
自覚もしないし、何を言っても暖簾に腕押しなしのつぶて。
結論は相手にしないに限るってね。
「お疲れさまでした。」
「あの場にお前がいなくて本当に良かった。見送るまでお前と遭遇しないかヒヤヒヤしたものだ。」
「そんなにですか?」
「あぁ、お前の天敵と言ってもいいだろう。」
俺の天敵ねぇ・・・。
あんまり想像できないんだけど。
むしろこの世界に来て天敵と呼ぶような相手を作った覚えはない。
でもシルビア様が言うぐらいだからよっぽどの相手なんだろう。
「一緒に行かなくて正解でした。」
「父上のあの感じだともう来ることはないと思うが・・・、面倒なことにならなければいいのだがな。」
「ニッカさんが何かしたんですか?」
「したというかなんというか。表情を変えずに怒る父上を見るのは昔大切にしていた食器を割った時以来だ。」
「それってかなり怒っていますよね。」
「だからこうしてあの場から逃げ出したのだ。今日はもう家には戻らんぞ。」
実の娘が家に戻りたくないってかなりの状況ですよね?
詳しく聞きたい所だけどわざわざ自分の首を絞めることも無い。
家に帰ってからゆっくり聞くとしよう。
「じゃあ伝票の件を伝えたら帰りましょうか。ちょっと待っていてください。」
とりあえず頼まれていた仕事は終わった。
その後伝票の間違いを伝えてフォローをして商店への道を急いだ。
さぁこれで仕事終わり!と言いたい所だがまだまだやらないといけないことが多い。
今日見つけた改善点をまとめないといけないし、新しく仕入れた情報をみんなで共有する必要もある。
店も任せっぱなしだから自分の店の帳簿もチェックしてそれから・・・。
仕事があることはありがたい事だけどありすぎるのも困ったものだ。
いや、今はあるだけありがたいと思うべきか。
銅貨1枚でも多く稼がないといけないんだし、仕事があればそれが直接収入につながる。
よく考えたらさぼっている暇なんてないんでした。
すみません。
「ただいま戻りました。」
「遅くなってすまない、何か変わりはなかったか?」
「お帰りなさい。特にこれといったことはありませんでした。」
「今日は初心者の方が多かったぐらいで昨日と比べると全体的にお客様は少なめでした。でも定期便が無い事を考えるといつも通りですね。」
店に入ってすぐカウンター付近で作業していたエミリアとニケさんが俺達に気づいてくれた。
よかった、こっちに変わりはないようだ。
変なことが起きると連鎖して起きるからなぁ。
宿の方ではガンドさんの周りに冒険者が四人いるぐらいで買取り待ちも無し。
平和と言えば平和だけど・・・。
でもやっぱり少ないのかな?
「あれ?ユーリの姿が見えませんね。」
「ユーリ様でしたらダンジョンに潜っておられます。」
「ユーリが?」
「なんでもバッチ様の手におえない量のゴミが出ているとかで。」
ゴミが?
確かに冒険者が潜ればゴミや排せつ物が出るのでそれを処理するのもダンジョン妖精の仕事だ。
と言ってもブラシでこするとかではなくダンジョンに吸収される感じなのでそこまで手間ではないと言っていたはずなんだけど。
しかも今日はそんなに冒険者は来ていないはず。
まさか商店で何もなくてダンジョンで何か起きているとか?
「ちょっと様子をみてきます。」
「でしたら私も行こう。」
「すみません疲れているのに。」
「なに、イライラするから体を動かしたいだけだ。」
そういう事なら止める理由はない。
「すみませんガンドさん、またちょっと出ます!」
「なんだ戻ってきた早々大変だな。後で耳に入れたいことがある、戻って来たら来てくれ。」
「わかりました!」
昨日の今日だけど何か情報があったのかもしれない。
でもそれなら先にエミリアたちに知らせてると思うけど・・・。
ともかくダンジョンに行くとしよう。
再び商店を出てダンジョンまでの道を急ぐ。
この辺には特にごみは無くいつもと変わらない感じだ。
森の中も変わりなかったと朝ユーリが言っていたっけ。
なら問題があるのはやはりダンジョンの中。
いつもの黒い壁を抜けダンジョンの中に入ると・・・。
別にいつもと変わらない感じだなぁ。
「特に汚れている感じはないな。」
「もしかしたらユーリが掃除してくれたのかもしれません。それか別の場所にゴミがあったとか。」
「ひとまず進んでみるか。」
俺がいるので魔物の心配はないし、この辺には罠も少ない。
駆け足ぐらいの速度で三階層まで駆け抜けたが特に変化はなかった。
うーむ、もっと深層になると帰ると夜になっちゃうなぁ。
「一応問題はありませんし、そろそろ戻りましょうか。」
「そうだな。大方ユーリが掃除してくれたのだろう。」
「詳しくは戻ってから聞けますしね。すみませんつき合わせて。」
「言っただろ体を動かしたかっただけだ。ん?シュウイチあれを見てみろ。」
さぁ戻ろうかとした時、シルビア様が通路の奥を指さした。
目を凝らすと壁に何やら白いものが引っかかっている。
小走りでそこまで行くと壁に引っかかっていたのは一枚の紙。
いや、引っかかっていたというか貼ってあったが正しいか。
「何だこれは!」
シルビア様が怒るのは無理もない。
そこにあったのは一枚の紙、A3ぐらいのその紙には大きくこう書かれていた。
『冒険者はこの国から出ていけ!』
労働者の皆さんからは聞き出せたのは最初と同じく役人のような男が定期便の使用を断っていたということだけだった。
予想はしていたけど収穫無しはちょっと残念だ。
「冒険者が来ないのはお前んとこにとって死活問題だろ?」
「定期便が無い日は皆さん歩いてきてくださっていますし、大きな問題が起きているわけではありません。でも、定期便目当てに来てくださっていた人もいますから今後も継続するようであれば多かれ少なかれ問題は出てくるでしょう。」
「お前の所だけじゃねえ、村の宿やシャルの店にも影響が出る。開始早々失敗しましたじゃ話にならないぞ?」
「そうなんですよねぇ・・・。情報収集は行っていますので一先ず今週様子をみて対応を考えようと思います。」
「俺の方でも何かわかったら連絡してやる。」
「よろしくお願いします。」
街の様子は冒険者が、労働者の様子はウェリスが教えてくれる。
何事も情報がすべて、昨日の今日で判断するのは時期尚早という奴だろう。
出来れば何もなければいいんだけど・・・。
「騎士団にも連絡しておくか?」
「いえ、村に害をなすかどうかもわかりませんからそこまでは大丈夫です。ですが、何か圧をかけるような様子が見られれば力を借りてもいいですか?ウェリスが言うようにこれは私だけではなくシャルちゃんや村にも影響が出る話ですから。」
「村とお前を守るためにも私は出来ることをしよう。」
「何もないのが一番ですけど。」
「冒険者を悪く言うやつは確かにいるが、それでも定期便に口出しするのはやりすぎだ。」
「一応ププト様の命で行われている定期便ですし、サンサトローズの人なら皆さん知っていると思うんですけどねぇ。」
「街の役人ではないと考えているのか?」
「いえ、それに関しては見当もついていません。あくまでも可能性の話です。」
こういうのはあれだけど、サンサトローズにおける俺の評価は決して悪くないと思っている。
村との関係は良好だし、街の人とも各ギルドともそれなりに良い付き合いをさせてもらっている。
決して自分の利益だけを求めてきたわけではない。
村や街そこにいる人たちが幸せになるように行動してきたつもりだ。
それを知っている人ならば、俺が絡んでいる定期便に口出しすることはないと思うんだよね。
シルビアが言うように例え冒険者を嫌っているとしても、ここまで大それたことはしない・・・はずだ。
じゃあ誰がしたのか。
話の流れからするとそれ以外の人間という事になる。
王都から新しく来た役人か、それとも貴族か。
どちらにしても領主に黙ってするような無いようじゃないよなぁ。
まったくわからん。
「お、馬車が来たぞ?」
「ニッカさんにお客さんが来ると言っていましたからその人じゃないですか?」
「父の昔馴染みか。挨拶しておいた方がいいだろう。」
「そうですね。挨拶ついでに家まで連れて行ってあげるのがいいと思います。」
娘が挨拶する分には問題ないだろう。
だが義理の息子だとどうなるんだ?
『どうも新しい息子です』って挨拶するとか?
イヤイヤ、さすがにない。
「お、いたいた!おーい、イナバ様ちょっといいですか!?」
と、どうしようか悩んでいると後ろから誰かに呼ばれた。
たしかあの人は男衆の一人だったはず。
ドリスのおっさんではなく俺を呼ぶって事は宿で何かあったんだろうか。
「挨拶は私だけで行くとしよう、シュウイチは話を聞いてやってくれ。」
「すみませんお願いします。」
シルビアと別れると同時にその人は息を切らしてやって来た。
村中を探し回っていたんだろうか。
「どうしました?」
「帳簿なんだが数字がうまく合わないんだ。言われた通りお金は前金でもらってるんだが、見てくれないか?」
「すぐにいきます。」
「任されてすぐだというのに面目ない。」
「いえいえ、初めての事ですから気にしないでください。むしろ問題が起きないほうがびっくりしますよ。」
シャルちゃんもそうだけど初めての仕事でミスしない方がおかしい。
解らないこと、知らないことばかりなんだ。
それをミスをしたからって怒るのもお門違い。
やったことない事は出来なくて仕方ない。
それをできるようにするのが今いる人間のすることだ。
しっかりフォローして、同じ間違いをしなくなればそれが成長となる。
人を育てるのは大変なんだぞ。
宿に向かい受付に入らせてもらって帳簿を確認する。
昨日はほぼ満室。
空いていたのは二人部屋一室のみか。
有難い話だなぁ。
「これとは別に追加の食事と酒、お湯の注文も受けています。それはこっちの帳簿に書いておきました。」
「有難うございます、確認しておきますので皆さんはご自身の仕事をしてもらって大丈夫ですよ。お客様はもう出られたんですよね?」
「さっき最後の二人が出発されました。」
「後片付けに今日の分の仕込みと色々大変だと思いますがよろしくお願いします。」
奥の方では忙しそうに後片付けが行われていた。
商店と違い宿は後片付けが大変なのだ。
部屋の掃除に毛布の交換、料理やお酒の仕込みに在庫確認、流石に元の世界の旅館やホテルのレベルまでは無理でもそれに近い所まではやってみたい。
部屋が多いという事はそれだけしなければいけない仕事量も多いが、手を抜きたくないというのが本音だ。
最初という事もあって今は人手を多くしているが、今後は畑の仕事も出てくるので今ほどは望めないんだよな。
村長の話では来週ぐらいに作付けだって話だったし、今週中に何とか流れだけでも把握してもらえるようにフォローしていこう。
それとも現場とは会計担当を別に一人二人育成して、責任者にした方がいいだろうか。
俺もこの辺は手探りだからなぁ・・・。
皆だけでなく俺も日々勉強だ。
一緒に頑張ろう。
さて、帳簿の確認だったな。
お金は前金でもらっているのに金額が合わないって事だったけど・・・。
食事つき希望が5室、食事なしが3室。
うち大部屋はどちらも食事つきか。
あれ、お湯を使ったって言ってたけどどの部屋が利用したんだろう。
代金の帳簿はあるからそこから手繰ればいいんだけど、出来るなら性別とか年代とか把握したいなぁ。
この辺エクセルがあればちょちょいのちょいでデータを抽出できるんだけど・・・。
うちもそうだけど今後はそういったプラスαの売上を取っていきたいんだよね。
その為にはデータが必要だ。
お湯を希望したのが女性なのか男性なのか、二人部屋なのか大部屋なのか。
追加の毛布は?
お酒の注文、種類は?
今後調べなければいけない物がたくさんある。
そうだ!アンケートを取って冒険者の求めている物を聞くって手もあるな。
ただ書くだけは皆嫌だけど、物がもらえるってなると大抵書いてくれるんだよね。
俺も含めてさ。
っと、違う違う。
今はお金の確認をしないと。
つい別の事を考えちゃうんだから毎度のことながら困ったものだ。
それからしばらく帳簿と睨めっこをしていると突然周りが暗くなり、慌てて顔を上げた。
また例の試練に連れていかれたのかと思ったが、そこにいたのは村長の家に行ったシルビアだった。
なんだろう随分と疲れた顔をしているけど何かあったんだろうか。
「すみません気づきませんでした。」
「お前が帰ったって話を聞かなかったのでもしやと思ったのだが、どうだわかったか?」
「前金制ですので貰った金額は合っているとすると、おそらく大部屋利用のお客様の分を誤って計算してしまったんだと思います。むしろそれぐらいしか見当たらなかったので、十中八九これですね。初日でこれしかミスしないのはすごいですよ。」
「皆、それだけ真剣に仕事をしてくれている証拠だろう。」
「ありがたい事です。それと、いくつか改善点が見つかったのでかえってエミリアとニケさんに相談してみようと思います。
「帳簿を合わせるだけでなく改善点まで見つけたのか。相変わらず仕事熱心だなお前は。」
「思いついただけですよ。それに出来ればさぼりたい方の人間なので別に仕事熱心っていうわけではありません。」
「そうか?さぼりたい人間がわざわざ他人のために働くとは思えんがな。」
それはそれ、これはこれです。
さぼりたいけど自分のしたことを放っておくのは好みません。
なんてめんどくさい性格なんだと自分でも思うけれど、性格はすぐに変えれないんだよなぁ。
「シルビアの方はどうでしたか?なんだか疲れたような顔をしていますが・・・。」
「やっぱりそう見えるか?」
「えぇ。」
「精神的に疲れるというのはこういう事を言うのだろうな。今までの仕事柄色々な人間と話をしてきたが、あそこまで話の通じない人間がいるとは思いもしなかった。父上もよく笑顔を絶やさず話を聞けたものだよ。」
シルビア様の感じからするとよっぽどの相手だったんだろう。
なんていうかやつれているような感じだ。
俺も仕事柄色々な人と話をしてきたが、いるんだよね今までどうやってそこまで生きてこれたのってぐらいにズレた人。
そういう人に限って周りに迷惑かけてないみたいな顔をして迷惑かけまくるんだよ。
自覚もしないし、何を言っても暖簾に腕押しなしのつぶて。
結論は相手にしないに限るってね。
「お疲れさまでした。」
「あの場にお前がいなくて本当に良かった。見送るまでお前と遭遇しないかヒヤヒヤしたものだ。」
「そんなにですか?」
「あぁ、お前の天敵と言ってもいいだろう。」
俺の天敵ねぇ・・・。
あんまり想像できないんだけど。
むしろこの世界に来て天敵と呼ぶような相手を作った覚えはない。
でもシルビア様が言うぐらいだからよっぽどの相手なんだろう。
「一緒に行かなくて正解でした。」
「父上のあの感じだともう来ることはないと思うが・・・、面倒なことにならなければいいのだがな。」
「ニッカさんが何かしたんですか?」
「したというかなんというか。表情を変えずに怒る父上を見るのは昔大切にしていた食器を割った時以来だ。」
「それってかなり怒っていますよね。」
「だからこうしてあの場から逃げ出したのだ。今日はもう家には戻らんぞ。」
実の娘が家に戻りたくないってかなりの状況ですよね?
詳しく聞きたい所だけどわざわざ自分の首を絞めることも無い。
家に帰ってからゆっくり聞くとしよう。
「じゃあ伝票の件を伝えたら帰りましょうか。ちょっと待っていてください。」
とりあえず頼まれていた仕事は終わった。
その後伝票の間違いを伝えてフォローをして商店への道を急いだ。
さぁこれで仕事終わり!と言いたい所だがまだまだやらないといけないことが多い。
今日見つけた改善点をまとめないといけないし、新しく仕入れた情報をみんなで共有する必要もある。
店も任せっぱなしだから自分の店の帳簿もチェックしてそれから・・・。
仕事があることはありがたい事だけどありすぎるのも困ったものだ。
いや、今はあるだけありがたいと思うべきか。
銅貨1枚でも多く稼がないといけないんだし、仕事があればそれが直接収入につながる。
よく考えたらさぼっている暇なんてないんでした。
すみません。
「ただいま戻りました。」
「遅くなってすまない、何か変わりはなかったか?」
「お帰りなさい。特にこれといったことはありませんでした。」
「今日は初心者の方が多かったぐらいで昨日と比べると全体的にお客様は少なめでした。でも定期便が無い事を考えるといつも通りですね。」
店に入ってすぐカウンター付近で作業していたエミリアとニケさんが俺達に気づいてくれた。
よかった、こっちに変わりはないようだ。
変なことが起きると連鎖して起きるからなぁ。
宿の方ではガンドさんの周りに冒険者が四人いるぐらいで買取り待ちも無し。
平和と言えば平和だけど・・・。
でもやっぱり少ないのかな?
「あれ?ユーリの姿が見えませんね。」
「ユーリ様でしたらダンジョンに潜っておられます。」
「ユーリが?」
「なんでもバッチ様の手におえない量のゴミが出ているとかで。」
ゴミが?
確かに冒険者が潜ればゴミや排せつ物が出るのでそれを処理するのもダンジョン妖精の仕事だ。
と言ってもブラシでこするとかではなくダンジョンに吸収される感じなのでそこまで手間ではないと言っていたはずなんだけど。
しかも今日はそんなに冒険者は来ていないはず。
まさか商店で何もなくてダンジョンで何か起きているとか?
「ちょっと様子をみてきます。」
「でしたら私も行こう。」
「すみません疲れているのに。」
「なに、イライラするから体を動かしたいだけだ。」
そういう事なら止める理由はない。
「すみませんガンドさん、またちょっと出ます!」
「なんだ戻ってきた早々大変だな。後で耳に入れたいことがある、戻って来たら来てくれ。」
「わかりました!」
昨日の今日だけど何か情報があったのかもしれない。
でもそれなら先にエミリアたちに知らせてると思うけど・・・。
ともかくダンジョンに行くとしよう。
再び商店を出てダンジョンまでの道を急ぐ。
この辺には特にごみは無くいつもと変わらない感じだ。
森の中も変わりなかったと朝ユーリが言っていたっけ。
なら問題があるのはやはりダンジョンの中。
いつもの黒い壁を抜けダンジョンの中に入ると・・・。
別にいつもと変わらない感じだなぁ。
「特に汚れている感じはないな。」
「もしかしたらユーリが掃除してくれたのかもしれません。それか別の場所にゴミがあったとか。」
「ひとまず進んでみるか。」
俺がいるので魔物の心配はないし、この辺には罠も少ない。
駆け足ぐらいの速度で三階層まで駆け抜けたが特に変化はなかった。
うーむ、もっと深層になると帰ると夜になっちゃうなぁ。
「一応問題はありませんし、そろそろ戻りましょうか。」
「そうだな。大方ユーリが掃除してくれたのだろう。」
「詳しくは戻ってから聞けますしね。すみませんつき合わせて。」
「言っただろ体を動かしたかっただけだ。ん?シュウイチあれを見てみろ。」
さぁ戻ろうかとした時、シルビア様が通路の奥を指さした。
目を凝らすと壁に何やら白いものが引っかかっている。
小走りでそこまで行くと壁に引っかかっていたのは一枚の紙。
いや、引っかかっていたというか貼ってあったが正しいか。
「何だこれは!」
シルビア様が怒るのは無理もない。
そこにあったのは一枚の紙、A3ぐらいのその紙には大きくこう書かれていた。
『冒険者はこの国から出ていけ!』
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それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
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