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第十四章
精霊様の事情
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いつものように魔術師ギルドの門を抜けてユグドラシルの幹にあるギルド内部を進んでいく。
サンサトローズ周辺は随分と寒かったけれどこちらはまるで春のような陽気だ。
そう言えばここはいつ来てもこんな気候だな。
そういう場所なのかな?
「フェリス様の呼び出しってアナタいったい何したのよ。」
「え?さっき理由は言わなくてもわかるって言いませんでしたっけ。」
「私はただあなたを連れてくるように言われただけよ。理由は本人が一番分かっているはずだってフェリス様は仰ってたわ。」
「あぁそういう事ですか。」
「で、何したの?まさかエミリアに手を出したんじゃないでしょうね!」
手を出したなんて人聞きの悪い。
夫婦なんですから何の問題もないじゃありませんか。
「そんな事でフェリス様はお呼びにならないだろう。それにだ、夫婦なのだからそう言った事をして当たり前だと思うのだが。」
「アンタまさかシルビア様にまで!」
「シルビアの言うように夫婦であれば当然の事です。何か問題がありますでしょうか。」
今までの俺ならすぐに反論するところだが、そうじゃない。
何も悪い事をしているわけではないのだから堂々としていればいい。
そうすればほら。
「べ、別に問題はないけど・・・。」
こんな感じで思っていた反応が返ってこなかったことで、リュカさんは攻め手を欠いてしまった。
どんなもんだい。
「特に悪い事をしたわけではありません、事情があって連絡がおろそかになってしまいましたのでその確認をされたいんだと思います。」
「そうなの?私はてっきり何かとんでもない事をやらかしたんだと思ったわ。」
「あはは、そんなはずないじゃありませんか。」
「そういう事ならすぐ終わるでしょ。さっさと行くわよ。」
リュカさんの先導でいつものらせん階段を上り、見えない壁も通過してギルド長の部屋に入る。
あれ?
いつもなら例の壁の前で名前を言うはずなのに今日は言わなくていいんだ。
故障だろうか。
「フェリス様例の二人をお連れしました。」
「二人?私は一人だけ連れて来いって言ったはずだけどどういうことだい?」
「これはフェリス様お久しぶりでございます。夫のシュウイチがこちらに呼ばれたとのことで同行いたしました、同席を認めていただけますでしょうか。」
「なんだい、今日も嫁のおんぶに抱っこかい。ミドの坊やと言い最近の男どもは軟弱だねぇ。」
「私一人では何もできませんので耳が痛いです。」
「まぁ嫁なら事情も知っているだろうし問題ないよ。」
「ありがとうございます。」
よかった、どうやらシルビア様も同席していいようだ。
ここまで来て外で待っててっていうのも申し訳ないしね。
「お久しぶりですフェリス様。その節は色々とお世話になりました、ご挨拶が遅れ申し訳ありません。」
「私は別に何もしちゃいないよ、急ぎ署名してほしい書類があると言われて名前を書いただけだ。それに忙しかったのは私も同じだからね。やっと手が空いたと思ったらちょうどいい具合にアンタが来たってわけだ。」
「そうでしたか。」
「単刀直入に聞くけど三個目の祝福を授かったってのは本当かい?」
「ありがたい事に雪の精霊様より頂戴いたしました、間違いございません。」
「その微弱な精霊波導、間違いないようだね。」
「ちょ、ちょっとどういうことよ!」
突然横で話を聞いていたリュカさんが不思議な声を上げる。
さも当たり前という感じで事後報告を行っていただけなんだけどどうしたんだろうか。
「何だいうるさいね、ちょっと静かにしておくれ。」
「静かにって二つの祝福ってだけで前代未聞なのにそれに加えて三つ目ってどういう事よ!それに雪の精霊なんてそんなの聞いた事ないわ!」
「どういう事と言われましてもそれが事実です。雪の精霊様誕生の場に立ち会い、その場で祝福を授かりました。」
「ちなみにいうと精霊の誕生に立ち会うなんてのも前代未聞だよ。遥か昔の文献には確かに載っていたけれど、この時代にそれを見る人間がいるなんてねぇ。それもこんな身近な人間ときたもんだ。」
「そんなに珍しい事だったんですね。」
「当り前よ!精霊に会うだけでも一生に一度あるかないかだってのに、その誕生に立ち会うだなんて、そもそも何でアンタなのよ!」
「さぁ、なんでと言われましても。」
それは俺が聞きたい所だ。
別に俺が何かしたわけじゃないし、もちろん選ばれたのも偶然だ。
まぁディーちゃんの後輩?っていうのもあったかもしれないけどそれが直接的な理由ではないだろう。
「それでどういう風に誕生するのか報告してくれるんだろ?」
「書面の方がよろしいですか?」
「そんな肩苦しいもの要らないよ、口頭で十分さね。」
「えぇ!精霊の誕生なんて誰も知らない大発見ですよ!?それを口頭なんて、本当にいいの!?」
「リュカはちょっと黙ってな、質問なら後でいくらでも聞いてやるから。」
まだまだしゃべり足りなさそうなリュカさんを眼光一つで抑えてしまうフェリス様、さすがです。
「妖精が精霊の卵となり、大量の魔力を長い年月かけて摂取する事で少しずつ精霊として形作られていくようです。卵の選別基準は分かりませんが妖精が精霊になるという事は間違いありません。」
「なるほどねぇ妖精が精霊に。確かに似通った存在ではあるけれど今までは全く別のモノだと考えられていたわけだから、これは今までの定説が全部ひっくり返っちまうね。」
「そんなにですか。」
「そりゃそうさ。精霊と妖精は似て非なるもので、神様によって作られたっていうのが定説だ。その精霊の下にたくさんの妖精が仕えていると考えているのにそいつが精霊になっちまったらそもそも神様はどこから出てきたんだって話になる。でも、私は神様なんてものが作ったなんて信じちゃいなかったからアンタの話を聞いてすごく納得したよ。」
「本当は精霊本人をお呼びして言質を取りたい所ではあるのですが・・・。」
「フィフィから聞いてるよ、呼びかけても返事がないんだろ?」
そこまで話が通っていましたか。
リレーションが良く取れているようで素晴らしい。
ホウレンソウは大切です。
「呼びかけてはいるのですが返事がない状況なのです、申し訳ありません。」
「申し訳ありませんってアンタの精霊でしょ?なんで返事がないのよ!それって祝福を破棄されたんじゃないの?」
「それだったらこんな所に呼ぶはずないだろ。祝福が継続しているのもフィフィが確認済みだよ。」
「でもそれだったら何で・・・。」
「そもそも精霊なんて存在は私達とは考え方そのものが違うんだ、私達がいくら考えた所で答えなんて出るはずないさ。」
そうなんですよね。
人とは全く違う時間軸で過ごしている精霊『様』の考えていることを理解しようとするのが無理な話だ。
最近は多少マシになってきたけれど、やっぱりドリちゃんとディーちゃん二人の考えに時々ついていけなくなる。
その点ルシウス君はどっちかっていうとまだこっち寄りなのか話しやすい印象だ。
それでも彼もまた精霊である事に変わりはなくこれから何百年も生きていくんだろう。
そうなったら考え方も変わるんだろうな。
「幸いお力を借りる事はあまりないので困ってはいないのですが、どうしたものか。」
「何かきっかけみたいなのはないのかい?」
「それが全く。先日ディヒーアの大群に襲われた時にはもうすでにドリアルド様の反応はありませんでした。その後ウンディーヌ様、ルシウス様と連絡が取れない次第です。」
「ルシウス、雪の精霊の名だね。」
「あ、お伝えしていませんでしたね。」
「構わないよ。それにしてもきっかけもなしに返事が無くなるのも妙な話だ、本当に何も知らないのかい?」
「そう言われましても。」
「どんな事でもいい、何か周りで変わったことはないかい。」
変わった事ねぇ・・・。
ん?
待てよ?
「実はうちのダンジョンが急に制御不能になりまして、どうやらダンジョンマスターの権限が無くなってしまったようなんです。」
「それは妙な話だね。ダンジョンとの契約は血を介した強固なものだ、いとも簡単に無くなるもんじゃないんだけど本当に何もしてないのかい?」
「前日までは普通に整備で来ていたはずなのに昨日になって急に反応しなくなったんです。誰かがのっとったという状況もあり得ないので、本当に何のきっかけもなく無くなってしまいました。」
「それが精霊と連絡が取れなくなった事と何か関係あるの?」
「さぁ、それに関しては何とも。」
「さぁってアンタねぇ。祝福の喪失は今までの自分を全否定されることなのよ?精霊を呼べなくてどうやって精霊士を名乗るつもりなのよ。」
「私はあくまで商人ですから別に困るという程では・・・。」
リュカさんにとっては生活がかかった一大事だろうけど、俺は別に問題ないわけで。
だって商人だし。
ドンパチやりあうのは苦手です。
「そもそも精霊の祝福を三つも貰っておきながら魔力がそれっぽっちしかないのがおかしいんだ。普通ならこの国を簡単に滅ぼせるぐらいの魔力を持っていてもおかしくないんだよ。」
「え!そんなにですか!?」
「当たり前さ、雪の精霊はともかく水の精霊は四大精霊の一角。森の精霊もそれに次ぐ実力の持ち主だ。そんな精霊に祝福を授かったら転移魔法どころか消滅魔法が使えてもおかしくないよ。」
「随分物騒な単語ですね。」
「そういう意味ではアンタが魔法を使えなくてよかったと思ってるよ。頭の弱い人間が力を持つのは良いけど、アンタみたいなのに力を持たすと碌な事にならないからね。」
「それに関しては何も言えません。」
確かにそんな力があれば俺TUEEE!ができるのでチートスキル万歳!とか言いながら好き放題していたかもしれない。
過剰な力は身を亡ぼす。
祝福を貰ってもそれが出来ないってことは俺にはそんな力要らないって事だな。
そういう事にしておこう。
「しかし困ったね。事情が分からないんじゃ手の施しようがないよ。」
「そうなんですよね・・・。一応ダンジョンに関しては明日冒険者と共にダンジョンに潜り制御できるようにするつもりです。」
「でも解決になってない、だろ?」
「原因がわからない以上もう一度なるかもしれないのが困りどころなんです。フェリス様ならもしかして何かご存じなのではと思ったのですが、残念ながらご存じないようですね。」
「ダンジョンなんて専門外の事聞かれても答え様が無いよ。」
「ごもっとも。」
餅は餅屋。
でも、その専門家であるダンジョン妖精に聞いても答えは出なかったんだよね。
ほんとどうしたもんか。
「精霊が反応しないだなんて、何か大量に魔力を使ってるとかじゃないの?シルフィも偶に魔力不足で返事しないときあるし。まぁ、一日したらすぐ戻って来るけど・・・。」
「魔力の大量使用ですか。」
「心当たりはあるかい?」
「いいえ、魔力を必要とするようなことは何もしていない筈なんですけど・・・。」
そう言いながら俺はふとある事を思い出した。
随分昔。
それこそこの世界に来て商店を開店した頃の話だっただろうか。
魔力を大量に消費するような事案が一つだけ起きていた。
「どうしたんだい?」
「フェリス様はフォレストドラゴンってご存知ですか?」
「そりゃもちろんさ。ドラゴン種の中でも抜群の知恵を蓄えた魔術師と縁の深いドラゴンだからね。それがどうしたんだい?」
「森の奥、精霊『様』が聖域と呼ぶその場所にその方がおられるそうなのですが・・・どうやら代替わりをするらしく一度大量の魔石を求められたんです。」
「「なんだって!」ですって!」
突然二人が大声を出すもんだから思わずたじろいでしまった。
そんなに驚く事なのか?
ドラゴンだっていずれは死ぬ。
そう言うもんだと勝手に思っていたんだけど。
違うんだろうか。
「ドリアルド様には秘密にするようにと言われている内容ですのでどうかご内密にお願いできますか?」
「当たり前だろ!こんな事口外出来るはずないじゃないか・・・、わかったねリュカ!」
「わかってます!」
「ありがとうございます。でも、これと何か関係あるんでしょうか。」
「そんなもん精霊にわからないんだったら私達にわかるはずないじゃないか。でも、アンタが思っている以上に面倒な事になるかもしれないよ。」
「できれば勘弁していただきたいのですが・・・。」
「それがアンタの宿命だ、あきらめるんだね。」
諦めるんだねって、そう言われてもなぁ。
出来れば何事もなく穏便に終わればそれでいいんだけど、困ったもんだ。
「・・・さて聞きたかったのはこれぐらいだね、もう帰っていいよ。」
それからしばしフェリス様の事情聴取を受けることになった。
マシンガンの如く浴びせられる質問をただひたすら打ち返すだけだったけどかなりの体力を消耗させられた。
うぅ、早く家に帰って休みたい。
「帰り道はわかるわよね。」
「あぁ問題ない。」
「何言ってんだい、入り口まで送るんだよ。」
「えぇぇ、別に私が行かなくても・・・。」
「アンタはそうやってすぐサボるんだから、偶にはしっかり働きな!」
「はーい。」
渋々と言った感じでリュカさんが返事をする。
別に送ってもらわなくても何とかなるんだけど、フェリス様がそう言うんだからおとなしく従っておこう。
「ずいぶん時間を食ってしまったな。」
「まだお昼過ぎでしょうし急いで用事を済ませれば暗くなるまでには戻れると思います。」
「アンタ達まだ何かするの?」
「色々とやらなきゃいけないことがあるんです。」
「相変わらず忙しいわね、偶には休まないとくたびれちゃうわよ。」
「私も出来れば休みたいんですけどね。」
でもなかなかそうさせてくれないんだよな。
困ったもんだ。
でも好きでやってるんだし文句は言わない。
だって自分からやりたいって言いだしたんだから。
リュカさんに見送られて戻ってきたサンサトローズは予想とは裏腹にもう陽が傾こうかという時間だった。
ちょっと早すぎませんかねぇ。
「もうこんな時間か。」
「あまりゆっくりしていられませんね。」
「そうだな、今日は下見ぐらいにしてまた次回探すとしよう。」
「いいんですか?」
「何時でも来れるからな。」
近くて若干遠いサンサトローズ。
でも来ようと思えば何時でも来れる案外近い街。
「では急ぎ武器屋に向かい商店にもどりましょうか。」
「あぁ。」
若干トラブル?はあったものの何とか無事にサンサトローズを出ることができそうだ。
明日はいよいよダンジョン体験ツアー当日。
はてさてどれぐらいの人が来るのだろうか。
楽しみだなぁ。
サンサトローズ周辺は随分と寒かったけれどこちらはまるで春のような陽気だ。
そう言えばここはいつ来てもこんな気候だな。
そういう場所なのかな?
「フェリス様の呼び出しってアナタいったい何したのよ。」
「え?さっき理由は言わなくてもわかるって言いませんでしたっけ。」
「私はただあなたを連れてくるように言われただけよ。理由は本人が一番分かっているはずだってフェリス様は仰ってたわ。」
「あぁそういう事ですか。」
「で、何したの?まさかエミリアに手を出したんじゃないでしょうね!」
手を出したなんて人聞きの悪い。
夫婦なんですから何の問題もないじゃありませんか。
「そんな事でフェリス様はお呼びにならないだろう。それにだ、夫婦なのだからそう言った事をして当たり前だと思うのだが。」
「アンタまさかシルビア様にまで!」
「シルビアの言うように夫婦であれば当然の事です。何か問題がありますでしょうか。」
今までの俺ならすぐに反論するところだが、そうじゃない。
何も悪い事をしているわけではないのだから堂々としていればいい。
そうすればほら。
「べ、別に問題はないけど・・・。」
こんな感じで思っていた反応が返ってこなかったことで、リュカさんは攻め手を欠いてしまった。
どんなもんだい。
「特に悪い事をしたわけではありません、事情があって連絡がおろそかになってしまいましたのでその確認をされたいんだと思います。」
「そうなの?私はてっきり何かとんでもない事をやらかしたんだと思ったわ。」
「あはは、そんなはずないじゃありませんか。」
「そういう事ならすぐ終わるでしょ。さっさと行くわよ。」
リュカさんの先導でいつものらせん階段を上り、見えない壁も通過してギルド長の部屋に入る。
あれ?
いつもなら例の壁の前で名前を言うはずなのに今日は言わなくていいんだ。
故障だろうか。
「フェリス様例の二人をお連れしました。」
「二人?私は一人だけ連れて来いって言ったはずだけどどういうことだい?」
「これはフェリス様お久しぶりでございます。夫のシュウイチがこちらに呼ばれたとのことで同行いたしました、同席を認めていただけますでしょうか。」
「なんだい、今日も嫁のおんぶに抱っこかい。ミドの坊やと言い最近の男どもは軟弱だねぇ。」
「私一人では何もできませんので耳が痛いです。」
「まぁ嫁なら事情も知っているだろうし問題ないよ。」
「ありがとうございます。」
よかった、どうやらシルビア様も同席していいようだ。
ここまで来て外で待っててっていうのも申し訳ないしね。
「お久しぶりですフェリス様。その節は色々とお世話になりました、ご挨拶が遅れ申し訳ありません。」
「私は別に何もしちゃいないよ、急ぎ署名してほしい書類があると言われて名前を書いただけだ。それに忙しかったのは私も同じだからね。やっと手が空いたと思ったらちょうどいい具合にアンタが来たってわけだ。」
「そうでしたか。」
「単刀直入に聞くけど三個目の祝福を授かったってのは本当かい?」
「ありがたい事に雪の精霊様より頂戴いたしました、間違いございません。」
「その微弱な精霊波導、間違いないようだね。」
「ちょ、ちょっとどういうことよ!」
突然横で話を聞いていたリュカさんが不思議な声を上げる。
さも当たり前という感じで事後報告を行っていただけなんだけどどうしたんだろうか。
「何だいうるさいね、ちょっと静かにしておくれ。」
「静かにって二つの祝福ってだけで前代未聞なのにそれに加えて三つ目ってどういう事よ!それに雪の精霊なんてそんなの聞いた事ないわ!」
「どういう事と言われましてもそれが事実です。雪の精霊様誕生の場に立ち会い、その場で祝福を授かりました。」
「ちなみにいうと精霊の誕生に立ち会うなんてのも前代未聞だよ。遥か昔の文献には確かに載っていたけれど、この時代にそれを見る人間がいるなんてねぇ。それもこんな身近な人間ときたもんだ。」
「そんなに珍しい事だったんですね。」
「当り前よ!精霊に会うだけでも一生に一度あるかないかだってのに、その誕生に立ち会うだなんて、そもそも何でアンタなのよ!」
「さぁ、なんでと言われましても。」
それは俺が聞きたい所だ。
別に俺が何かしたわけじゃないし、もちろん選ばれたのも偶然だ。
まぁディーちゃんの後輩?っていうのもあったかもしれないけどそれが直接的な理由ではないだろう。
「それでどういう風に誕生するのか報告してくれるんだろ?」
「書面の方がよろしいですか?」
「そんな肩苦しいもの要らないよ、口頭で十分さね。」
「えぇ!精霊の誕生なんて誰も知らない大発見ですよ!?それを口頭なんて、本当にいいの!?」
「リュカはちょっと黙ってな、質問なら後でいくらでも聞いてやるから。」
まだまだしゃべり足りなさそうなリュカさんを眼光一つで抑えてしまうフェリス様、さすがです。
「妖精が精霊の卵となり、大量の魔力を長い年月かけて摂取する事で少しずつ精霊として形作られていくようです。卵の選別基準は分かりませんが妖精が精霊になるという事は間違いありません。」
「なるほどねぇ妖精が精霊に。確かに似通った存在ではあるけれど今までは全く別のモノだと考えられていたわけだから、これは今までの定説が全部ひっくり返っちまうね。」
「そんなにですか。」
「そりゃそうさ。精霊と妖精は似て非なるもので、神様によって作られたっていうのが定説だ。その精霊の下にたくさんの妖精が仕えていると考えているのにそいつが精霊になっちまったらそもそも神様はどこから出てきたんだって話になる。でも、私は神様なんてものが作ったなんて信じちゃいなかったからアンタの話を聞いてすごく納得したよ。」
「本当は精霊本人をお呼びして言質を取りたい所ではあるのですが・・・。」
「フィフィから聞いてるよ、呼びかけても返事がないんだろ?」
そこまで話が通っていましたか。
リレーションが良く取れているようで素晴らしい。
ホウレンソウは大切です。
「呼びかけてはいるのですが返事がない状況なのです、申し訳ありません。」
「申し訳ありませんってアンタの精霊でしょ?なんで返事がないのよ!それって祝福を破棄されたんじゃないの?」
「それだったらこんな所に呼ぶはずないだろ。祝福が継続しているのもフィフィが確認済みだよ。」
「でもそれだったら何で・・・。」
「そもそも精霊なんて存在は私達とは考え方そのものが違うんだ、私達がいくら考えた所で答えなんて出るはずないさ。」
そうなんですよね。
人とは全く違う時間軸で過ごしている精霊『様』の考えていることを理解しようとするのが無理な話だ。
最近は多少マシになってきたけれど、やっぱりドリちゃんとディーちゃん二人の考えに時々ついていけなくなる。
その点ルシウス君はどっちかっていうとまだこっち寄りなのか話しやすい印象だ。
それでも彼もまた精霊である事に変わりはなくこれから何百年も生きていくんだろう。
そうなったら考え方も変わるんだろうな。
「幸いお力を借りる事はあまりないので困ってはいないのですが、どうしたものか。」
「何かきっかけみたいなのはないのかい?」
「それが全く。先日ディヒーアの大群に襲われた時にはもうすでにドリアルド様の反応はありませんでした。その後ウンディーヌ様、ルシウス様と連絡が取れない次第です。」
「ルシウス、雪の精霊の名だね。」
「あ、お伝えしていませんでしたね。」
「構わないよ。それにしてもきっかけもなしに返事が無くなるのも妙な話だ、本当に何も知らないのかい?」
「そう言われましても。」
「どんな事でもいい、何か周りで変わったことはないかい。」
変わった事ねぇ・・・。
ん?
待てよ?
「実はうちのダンジョンが急に制御不能になりまして、どうやらダンジョンマスターの権限が無くなってしまったようなんです。」
「それは妙な話だね。ダンジョンとの契約は血を介した強固なものだ、いとも簡単に無くなるもんじゃないんだけど本当に何もしてないのかい?」
「前日までは普通に整備で来ていたはずなのに昨日になって急に反応しなくなったんです。誰かがのっとったという状況もあり得ないので、本当に何のきっかけもなく無くなってしまいました。」
「それが精霊と連絡が取れなくなった事と何か関係あるの?」
「さぁ、それに関しては何とも。」
「さぁってアンタねぇ。祝福の喪失は今までの自分を全否定されることなのよ?精霊を呼べなくてどうやって精霊士を名乗るつもりなのよ。」
「私はあくまで商人ですから別に困るという程では・・・。」
リュカさんにとっては生活がかかった一大事だろうけど、俺は別に問題ないわけで。
だって商人だし。
ドンパチやりあうのは苦手です。
「そもそも精霊の祝福を三つも貰っておきながら魔力がそれっぽっちしかないのがおかしいんだ。普通ならこの国を簡単に滅ぼせるぐらいの魔力を持っていてもおかしくないんだよ。」
「え!そんなにですか!?」
「当たり前さ、雪の精霊はともかく水の精霊は四大精霊の一角。森の精霊もそれに次ぐ実力の持ち主だ。そんな精霊に祝福を授かったら転移魔法どころか消滅魔法が使えてもおかしくないよ。」
「随分物騒な単語ですね。」
「そういう意味ではアンタが魔法を使えなくてよかったと思ってるよ。頭の弱い人間が力を持つのは良いけど、アンタみたいなのに力を持たすと碌な事にならないからね。」
「それに関しては何も言えません。」
確かにそんな力があれば俺TUEEE!ができるのでチートスキル万歳!とか言いながら好き放題していたかもしれない。
過剰な力は身を亡ぼす。
祝福を貰ってもそれが出来ないってことは俺にはそんな力要らないって事だな。
そういう事にしておこう。
「しかし困ったね。事情が分からないんじゃ手の施しようがないよ。」
「そうなんですよね・・・。一応ダンジョンに関しては明日冒険者と共にダンジョンに潜り制御できるようにするつもりです。」
「でも解決になってない、だろ?」
「原因がわからない以上もう一度なるかもしれないのが困りどころなんです。フェリス様ならもしかして何かご存じなのではと思ったのですが、残念ながらご存じないようですね。」
「ダンジョンなんて専門外の事聞かれても答え様が無いよ。」
「ごもっとも。」
餅は餅屋。
でも、その専門家であるダンジョン妖精に聞いても答えは出なかったんだよね。
ほんとどうしたもんか。
「精霊が反応しないだなんて、何か大量に魔力を使ってるとかじゃないの?シルフィも偶に魔力不足で返事しないときあるし。まぁ、一日したらすぐ戻って来るけど・・・。」
「魔力の大量使用ですか。」
「心当たりはあるかい?」
「いいえ、魔力を必要とするようなことは何もしていない筈なんですけど・・・。」
そう言いながら俺はふとある事を思い出した。
随分昔。
それこそこの世界に来て商店を開店した頃の話だっただろうか。
魔力を大量に消費するような事案が一つだけ起きていた。
「どうしたんだい?」
「フェリス様はフォレストドラゴンってご存知ですか?」
「そりゃもちろんさ。ドラゴン種の中でも抜群の知恵を蓄えた魔術師と縁の深いドラゴンだからね。それがどうしたんだい?」
「森の奥、精霊『様』が聖域と呼ぶその場所にその方がおられるそうなのですが・・・どうやら代替わりをするらしく一度大量の魔石を求められたんです。」
「「なんだって!」ですって!」
突然二人が大声を出すもんだから思わずたじろいでしまった。
そんなに驚く事なのか?
ドラゴンだっていずれは死ぬ。
そう言うもんだと勝手に思っていたんだけど。
違うんだろうか。
「ドリアルド様には秘密にするようにと言われている内容ですのでどうかご内密にお願いできますか?」
「当たり前だろ!こんな事口外出来るはずないじゃないか・・・、わかったねリュカ!」
「わかってます!」
「ありがとうございます。でも、これと何か関係あるんでしょうか。」
「そんなもん精霊にわからないんだったら私達にわかるはずないじゃないか。でも、アンタが思っている以上に面倒な事になるかもしれないよ。」
「できれば勘弁していただきたいのですが・・・。」
「それがアンタの宿命だ、あきらめるんだね。」
諦めるんだねって、そう言われてもなぁ。
出来れば何事もなく穏便に終わればそれでいいんだけど、困ったもんだ。
「・・・さて聞きたかったのはこれぐらいだね、もう帰っていいよ。」
それからしばしフェリス様の事情聴取を受けることになった。
マシンガンの如く浴びせられる質問をただひたすら打ち返すだけだったけどかなりの体力を消耗させられた。
うぅ、早く家に帰って休みたい。
「帰り道はわかるわよね。」
「あぁ問題ない。」
「何言ってんだい、入り口まで送るんだよ。」
「えぇぇ、別に私が行かなくても・・・。」
「アンタはそうやってすぐサボるんだから、偶にはしっかり働きな!」
「はーい。」
渋々と言った感じでリュカさんが返事をする。
別に送ってもらわなくても何とかなるんだけど、フェリス様がそう言うんだからおとなしく従っておこう。
「ずいぶん時間を食ってしまったな。」
「まだお昼過ぎでしょうし急いで用事を済ませれば暗くなるまでには戻れると思います。」
「アンタ達まだ何かするの?」
「色々とやらなきゃいけないことがあるんです。」
「相変わらず忙しいわね、偶には休まないとくたびれちゃうわよ。」
「私も出来れば休みたいんですけどね。」
でもなかなかそうさせてくれないんだよな。
困ったもんだ。
でも好きでやってるんだし文句は言わない。
だって自分からやりたいって言いだしたんだから。
リュカさんに見送られて戻ってきたサンサトローズは予想とは裏腹にもう陽が傾こうかという時間だった。
ちょっと早すぎませんかねぇ。
「もうこんな時間か。」
「あまりゆっくりしていられませんね。」
「そうだな、今日は下見ぐらいにしてまた次回探すとしよう。」
「いいんですか?」
「何時でも来れるからな。」
近くて若干遠いサンサトローズ。
でも来ようと思えば何時でも来れる案外近い街。
「では急ぎ武器屋に向かい商店にもどりましょうか。」
「あぁ。」
若干トラブル?はあったものの何とか無事にサンサトローズを出ることができそうだ。
明日はいよいよダンジョン体験ツアー当日。
はてさてどれぐらいの人が来るのだろうか。
楽しみだなぁ。
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