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第十三章

リベンジ!脱出大作戦

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 翌朝。

 かなりの大ダメージを受けたはずの二人だったが、いつもと変わらず食堂に顔を出した。

 だがその表情に覇気はない。

 大丈夫そうに見えても精神的なダメージはかなり蓄積されているようだな。

 それでもここに来るということはまだまだ余裕があるということだ。

 これで俺が逃げ出したとなったらいったいどういう反応を見せるんだろうか。

 興味はあるが正直怖いなぁ。

「おはようございます。」

「あぁ。」

「おはようございますイナバさん。」

「大丈夫ですか?」

「これが大丈夫なように見えるのか?ここまでひどいのはうちのが死んだ時以来だ。」

「早く寝ないとと思ってはみたもののなかなか眠れなくて。マオ、そんなにひどい顔しているかしら。」

「失礼ながら今までで一番ひどい顔をしておられます。」

 オブラートに包むこともなくバッサリと切り捨てるマオさん。

 相変わらず容赦ありませんな。

「ジュニア、あの女はあれからどうした?」

「ラナス様でしたらあの後教会へ戻られました。残念ながらヤーナ様の様子は確認できておりません。」

「まっすぐ戻ったんだな?」

「はい。教会付近に怪しい馬車はありませんでしたので反対派の人間が来ていた様子もございません。」

「宣言通りヤーナの件を弱みに使うつもりはないとみるべきか。」

「おそらくは。」

 アベルさんはヤーナさんの出家が世間に漏れることを恐れているんだろうか。

 でも、昨日の話では別に珍しいことでも何でもないということだったと思うんだけど。

 何か別の事情でもあるのかな?

「何人か警戒に当たらせておけ、今日は忙しくなるからな。」

「かしこまりました。」

「ラーマ、お前も昼までにその顔を何とかしておけ。夕刻日暮れとともに城へ行くぞ。」

「わかってますわ。」

 ぶっきらぼうに答えるラーマ様だったがアベルさんは全く気にする様子はない。

 ほんとこの二人の関係ってどうなってるの?

 わからんなぁ。

「私はどうすればよろしいですか?」

「聞いての通りだ、夕刻出発前までに準備をして城へ向かい食事会でラーマとの関係を披露する。となるとそれなりの格好をしてもらう必要があるな。ジュニア、衣装屋に連絡しておけ。」

「手配は完了しております。昼頃には衣装を持って参上するそうです。」

「仕事が早いな。」

「恐れ入ります。」

 相変わらずジュニアさんには絶対の信頼をおているようだ。

 その人間が大きなポカをしてしまったとしたら・・・。

 いったいどうなってしまうのだろうか。

「ラーマ様の衣装も準備できております、昼前までに化粧を済ませてしまいましょう。」

「こんな顔じゃ化粧ノリが最悪よ。」

「とっておきの化粧水を用意しておりますのでどうぞご安心ください。」

 そしてこちらも絶大な信頼関係で結ばれている。

 小さい頃からの付き合いで相手が何を望んでいるのかが手に取るようにわかるのだろう。

 俺もエミリアたちとこんな風になれるといいなぁ。

 そのためにも作戦第二弾をしっかりと成功させねば。

「今回の件でかなり圧力をかけられてはいるが、この披露が成功すれば文句を言う輩も少なくなるだろう。ヤーナがいなくなった以上この家の未来はお前たち二人にかかっている、しっかり頼むぞ。」

「お姉様の為にも必ずや成功させて見せますわ!」

 気合十分な二人とは別の意味で俺も気合十分だった。

 何としてでもこの家から逃げ出して見せる。

 お披露目など絶対にさせるものか!ってな感じだ。

 その為にも逃走後の入念な打ち合わせが必要なわけなんだけど・・・。

 そろそろメルクリア女史が来る時間か。

 念の為早めに部屋に戻っておくかな。

「それでは衣装屋が来るまで部屋で待機しています。」

「食事会の席で何を話すべきかよく考えておくんだな。」

 アベルさんの脅しを軽く受け流して何事もなかったかのように食堂を後にする。

 いつもはマオさんが部屋まで送ってくれるけど今日はラーマさんにつきっきりのようだ。

 かわりにジュニアさんが送ってくれるみたいだが、どこで誰が話を聞いているかわからないのでお互いに無言のまま部屋へと戻った。

「ひとまずは順調のようですね。」

「だが思っていた以上に切り替えが早い、もう少し落ち込んでいると思ったんだが思うようにいかないものだな。」

「仮にも商家五皇の当主ですから一筋縄ではいかないことはジュニアさんがよくご存じなのではありませんか?」

「まったく旦那様には恐れ入るよ。それにラーマ様もその血をしっかりと受け継いでいるようだな。」

「ラーマ様こそ落ち込んでいると思っていたのですが・・・。作戦に支障が出ないことを祈ります。」

 予定では出発までに裏口から脱出することになっているのだが、それもあの二人がおとなしくしていることが前提だ。

 元気でいればいる程、部屋から出てくる可能性が高くなる。

 もし仮に脱出とバッティングするようなことがあれば全てが水の泡だ。

 それだけじゃない。

 警備の数が微妙に増えているのも気になる。

 いつもならジュニアさんとに三人ぐらいしかいないはずの警備が、今日に限っていつもの倍以上居る。

 警備担当はジュニアさんのはずなんだけど、どうやら本人も知らなかったようでさっき部屋に戻る時に偶然目の前を通り過ぎた警備を見て目を丸くしていた。

 なにやら雲行きが怪しいなぁ。

「警備の件どう思いますか?」

「さっき通り過ぎたのは俺の管轄とはまた違う奴らだった。俺の知らない所で別の命令が出ていると考えるべきだろう。」

「アベルさんが手配したと思います?」

「むしろそれしか考えられないな。でも何故だ?あいつもいないし夕刻にはここを出るんだ、警備を置いていく意味が分からない。」

「まるで隠している何かを留守のうちにとられないようにしているみたいですね。」

「隠している何か・・・か。ともかく警備が厳重になっている以上脱出にもそれなりに影響が出る。逃げた後については頭に叩き込んだのか?」

「おかげ様で詰め込み暗記は得意なんです。」

 学校の試験も一夜漬けで何とか出来てしまったタイプの人間だ。

 知識が定着しないからあまりよろしくないのだが、試験前に新作ゲームが発売するのが悪い。

「そのセリフ本当でしょうね。」

「さすがメルクリアさん、時間ぴったりです。」

 ほんと毎度の事ながらいいタイミングです。

 あれか?

 とっくの昔に転移してきていて出て来るのを待っていただなんじゃないか?

 そうじゃないと毎度毎度こんなにタイミングよく出てこれないと思うんだけど。

 そこがメルクリアクオリティという奴なんだろうか。

「そっちの準備はどうなんだ?」

「こちらはすべて終わったわ、後は貴方が無事に出て来るだけよ。」

「お任せ下さいと言いたい所なんですが、ちょっと状況が良くないんですよね。」

「あら、いつもの事じゃないの。貴方が関わって大丈夫だったことがあったかしら。」

「それを言われると何とも言えないのですが・・・。」

 確かに状況が良かったためしは無い。

 いつも行き当たりばったりで危なかった事も多々ある。

 酷いときなんかは両手に穴を空けられたりもした。

 まったく、この世界に来てから大変な事ばかりだ。

 でも、それを上回るぐらいに良いことが起きているので悪い印象は無い。

 これまで何とかやってこれた。

 だから今回も何とかなる。

 そんな気持ちすら浮かんでくるぐらいだ。

 あれだよ、ネガティブに考えすぎても良いことなんて無い。

 多少ポジティブで居るほうが物事は上手くいくって事だ。

「それで、具体的にどうよくないの?」

「当初の予定に無い警備が増えているんです。いつもならジュニアさんの指示で動いている警備ですが今日に限って管轄外の部署からの警備が巡回しているみたいで・・・、こんな偶然あると思いますか?」

「あるわけ無いでしょ、どう考えても警戒されているじゃない。」

「ですよねぇ。」

「でも昨日の今日でしょ?告知したのが夕刻としても少し手が早すぎるわね。」

「そこなんです、そんな短時間で手配できるとは思えないんですよね。」

「ともかくそのせいで作戦の成功確立は五分五分だ、失敗した時も想定して動いて貰えるとありがたい。」

 屋敷の外に出れば何とかなる。

 問題は外に出れなかった時なわけで。

 いや、失敗したときなんて考えない。

 成功させるぐらいの気持ちでいないといけないよな。

「わかったわ、それに関してはこっちに任せておきなさい。」

「宜しくお願いします。」

「それと、エミリアから伝言よ『絶対に助けに行きます。』だって。」

「助けに行く?」

「詳しく聞き返したんだけど返事がないのよ。恐らく私が助けに行くって事だと思うんだけど、まったく私を何だと思っているのかしら。」

「それぐらいメルクリアさんのことを信頼しているんですよ。」

「そういう事にしてあげるわ。」

 相変らずエミリアには優しいんだから。

 その優しさを少しは分けて欲しい所だけど、そんな事言ったら氷のような目で睨まれてしまうので黙っておこう。

「ともかく俺達は予定通りにやるだけだ、お前が成功しない事には俺がこの家から出る事はできないからな。」

「わかっています。ヤーナさんに約束しましたからね。」

「全く頼むぜ。」

「それじゃあ私も行くわね。」

「では後ほど。」

「始める前に窓に目印置いておくの忘れないでよ?」

「あ、そうでした。」

「もぅ、本当に大丈夫なの?」

 そんな事言われてもやることに覚えることが多くてですね。

 え、暗記は任せろって言った?

 そうだったかなぁ。

 メルクリア女史が転移したのを確認してジュニアさんと目を合わせる。

「お前も大変だな。」

「言い方ですよ、ちょっと言い方がきついだけです。」

「そうか?俺には絶対に無理だ。」

「あはは、慣れですよ。」

 俺だって最初こそ大丈夫かなって思ったけど、今ではしっかり信頼している。

 あぁ見えて結構情にもろいんです。

「それじゃあ俺は警備をもう一度確認してくる、作戦開始は昼過ぎだ。」

「その時間は貸衣装が来るのでは?」

「だからいいんだよ、外部の人間がくればイヤでも意識は向こうに向く、その隙を付いて裏から逃げるんだ。」

「上手くいきますでしょうか。」

「最悪別の警備は俺がひきつける、その間にお前一人で逃げろよ。」

「ばれたらダメですからね、あくまでも過失で逃げたことにしないといけないんですから。」

「分かってるって。」

 本当に分かっているんだろうか。

 とりあえず作戦開始まではすることが無いので怪しまれない程度にゆっくりさせてもらうとしよう。

 出来ればどういう意図があって警備が増えたのかまで確認したかったけどそんな時間は無さそうだしなぁ。

 やれやれ、いつものことながら行き当たりばったりだ。

 その後は特に誰かが部屋に来ることもないまま昼の鐘が鳴った。

 お昼か。

 今日であの美味しい食事ともお別れだな。

 攫われてきて良かったことなんてほとんど無かったけど、あの食事だけは唯一の楽しみだった。

 でも帰ったら皆の御飯をまた食べられる。

 それで良いじゃないか。

「失礼します、イナバ様お昼の準備が出来ました。」

 お、マオさんが迎えに来てくれたようだ。

 いよいよ最後の食事が来たみたいだな。

 ってこんな言い方すると死ぬみたいだからやめておこう。

 あぶないあぶない。

「すまないが食事は後回しにしてもらおう、衣装屋が少し早く来たようだ。」

 ドアを開けてさぁ食堂へ!と思ったらジュニアさんが横からカットインしてきた。

 まさかのバッティング。

 確かに昼ごろって言ってたけどさぁ、時間ピッタリ過ぎない?

 折角の食事が・・・。

 いや、まてよ?

「まったく昼食時に来るとは非常識な衣装屋ですね。」

「そういうな、こっちが無理いって来てもらっているんだ。今日は食事会だろ?衣装を待ってる貴族が多いんだよ。」

「なるほど、それならば仕方ありません。イナバ様それでは後ほど。」

「お二人には先に食べるよう伝えてください。」

「かしこまりました。」

 マオさんが廊下の角を曲がりきるのをジュニアさんと二人で見送る。

 いよいよだな。

「もしかして貸衣装の時間もジュニアさんが?」

「いや俺は手配しただけだ、お前の上司じゃないか?」

 うーん気持ち悪いなぁ。

 でもまぁ今はどっちでも良いか。

 あの二人が食事に言っているという事はそっちに人間も移っているから屋敷内の人が少なくなっている。

 この機を逃すわけにはいかない。

「そうだといいんですけど。」

「とりあえず俺が様子を見てくる、今のうちに例のブツを置いて来い。」

「宜しくお願いします。」

 ジュニアさんが様子を見に行っている間にメルクリア女史から念押しされていた例のブツを置いておく。

 赤い花を生けた花瓶だ。

 これでよしっと。

 後はジュニアさんが戻ってきたらだけど・・・。

「失礼します、こちらにイナバ様はおられるでしょうか。」

 準備をして待つことしばし。

 コンコンというノックの音に続いてドアの外から男性の声が聞こえてきた。

 あれ、衣装屋はジュニアさんが相手をしているはずなんだけど。

 それにこの家の使用人はほぼ女性で男性は警備の人以外居ないはずだ。

 その警備の人が俺に会いに来る事はジュニアさんが居る以上まずありえない。

 ということは、今部屋の外に居るのは誰だ?

「イナバ様そこにおられるのは分かっています、ドアを開けていただけませんでしょうか。」

 コンコンというノックに続き再び男が呼びかけてくる。

 さっきは尋ねる感じだったのに今度は断定してきやがった。

 完全に俺がここにいるのを知っている。

 それに、屋敷の人間ならこんな聞き方をするはずが無い。

 どう考えても真っ黒だ。

 どうする。

 逃げ場は無いぞ。

 慌ててドアに近づき鍵をかける。

 それとほぼ同タイミングでドアノブが回り、扉が引っ張られた。

 ガン!という音が部屋に響く。

「逃げ道はありません、事を荒立てる前に早く開けてください。」

 危なかった。

 気付くのが後数秒遅かったら部屋に押し入られる所だった。

 ってそうじゃない。

 逃げ道が無いんだ。

 隠れるにしてもいるのばれてるしむしろこの部屋の何処に隠れるんだ。

 某鋏男から逃げる作戦か?

 それとも某天空の城のように窓枠にしがみつくか?

 どっちも現実的じゃないなぁ。

 くそ、どうする。

 どうすればいい。

 さっきからドンドンと扉を叩く音が強くなっている。

 その度にドアがギシギシと悲鳴を上げる。

 やばい時間が無い。

 向こうもいつジュニアさんが戻ってくるか分からない以上あまり時間をかけていられないのは同じはずだ。

 となると強硬手段でつっこんでくるだろう。

 こうなればいっそベッドの下に・・・おや?

 慌ててベッドの下に隠れようとした時、俺の視界にある物が飛び込んできた。

 これだ!

 大急ぎでそれを取り出し脱出の準備をする。

 俺が部屋から逃げ出したのと同時にドアが破られる音が聞こえてきた。

「くそ!居ないぞ!」

「そんなはずは無い!目印は出ていたんだ、探せ!」

 ドタバタという音が頭上から聞こえてくる。

 目印?

 あれはメルクリア女史しか知らないはずだ。

 なのになんでそれを知っているんだ?

 まさか・・・いや、そんなはずはない。

 俺の知っているメルクリア女史ならば俺を売るような事は絶対にしないはずだ。

 あの人なら正々堂々俺を潰しに来る。

 となると・・・。

「おい、お前ら何してやがる!」

「くそ!もう来やがった!」

「仕方ないずらかるぞ!」

 ボンという音と同時に窓から白煙が噴き出した。

 それを見ながら何とか地上に着地すると煙を吸い込んだジュニアさんが咽ながら窓から顔を出す。

 そう、例の装置を使って脱出したのだ。

 まさかこんな所で再び使う時がくるとは思わなかったけど残しておいて良かった。

 さすがに二度の利用で布は裂けてしまいもう使う事は出来ない。

 咽ながら地上にいる俺を確認したジュニアさんは驚いた顔をしたと同時に目で合図をしてきた。

『今のうちに逃げろ。』

 言葉では確認出来なかったがそう言っているに違いない。

 俺は大きく頷くとこの前と同様に裏門のほうへと走り出した。

 騒ぎのおかげで隠れる必要は無ない。

 裏口は開けっ放しだし、後ろのほうでは怒鳴り声や叫び声が聞こえて来るけれどそんな事は関係ない。

 部屋に乱入してきた奴が何なのか。

 それだけが気になる所だが今は脱出することに専念しよう。

 裏門を抜けて屋敷の外に飛び出し予定通り目の前の下り坂を駆け抜ける。

 坂を下りだしたら三本目の角を右に、そのまま家の裏手を抜けて大きな甕が重なった十字路があるのでそこを左に。

 追っ手が来る事を考えて何度も何度もシュミレーションした通りに街の中を駆け抜けていく。

 文字で見るのと実際に走るのでは勝手が違うが、目印さえ覚えていたらどうにかなるものだ。

 無我夢中で走っていたそのときだった。

 次に出てくるはずの目印が見当たらない。

 おかしい、道を間違えたか?

 でも予定通り青い屋根の家は通り過ぎた。

 その先には案内板があるはずなんだけどどうして無いんだろうか。

 まさか撤去されたとか?

 いやいや街の案内板がそんな簡単に撤去されたらダメでしょ。

 じゃあなんでないんだ?

 パニックになりそうな思考をぐっと抑えてその場に立ち止まり、呼吸を整えながら次の行動を再検討する。

 1、このままいく。

 2、道を戻る。

 3、わき道にそれてみる。

 4、いっそ大通りに抜けて・・・。

 いくつも浮かんでくる選択肢の中から最善を選び出さなければならない。

 後ろを振り返っていないので追っ手がいるかすらわからないが、もし来ていたらこの時間が命取りになる。

 くそ、予定通りいったためしがないよな!

 そんな自分の状況に悪態をつきながら俺は最後に閃いた選択肢をパッと選び、再び走り出した。

 これしかない。

 わき道にそれてから俺は大きく深呼吸をする。

 そして。

「私はここです!」

 走りながら俺は大声で叫んだ。

 え、そんなことしたら追っ手にばれるって?

 そんな事は分かっている。

 でも今はそんな事を言っていられない。

 俺の存在が何処にいるかが分かるのは別に追っ手だけじゃない。

 俺を探している別の人たちにもそれが伝わるわけで・・・。

「ちょっと貴方なに考えてるのよ!」

 ほら、こんな風に良いほうに転ぶ事もあるんですよ。

 俺の声を聞きつけて正面に黒い壁が突然現れる。

 その壁にぶつからないように慌てて急停止した。

「非常事態の為です許してください。」

「目印が出たって連絡を受けて行ってみたら白煙は上がってるし中は大変なことになってるし、一体何があったのよ。」

「とりあえずその辺は後でゆっくり話しますから、何処に逃げたら良いんですか?」

「ついてきなさい。」

 黒い壁から現れた幼女、もといメルクリア女史が俺の前を走り出す。

 その小さな背中を見ただけなのにとても重たい物がごそりと落ちるのを感じた。

 あぁ、助かった。

 まだ助かっても居ないのにそう感じるのは、それだけ俺がメルクリア女史の事を信頼しているからだろう。

 こうして、ドタバタの脱出作戦(二回目)は今度こそ無事に成功したのだった。
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