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第十二章

正しい妖精との話し方?

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悪い何かが襲って来る。

悪い何かってなんだ?

恐ろしいとかじゃないのか?

恐怖のとかならまぁわかるけど、何故『悪い』なんだろうか。

感覚の問題?

妖精には善悪しかないから、『悪い』と表現したとか。

現状では推測しかできないな。

「他には何か書いていませんか?」

「それしか書いてねぇ。」

「うーむ、それでは全くわからんな。」

「そうですね。せめて他に情報があれば色々と考える事も出来るのですが、何かが襲って来るから逃げろだけでは何とも。」

「逃げろ馬鹿、です御主人様。」

いや、わかってますって。

誰がバカだ誰が。

「これは妖精文字で間違いないんだな?」

「オラが間違えるはずねぇ、これは妖精文字だ。」

「となるとこれを描いたのは妖精という事になりますよね。」

「そうですね。」

「本当に要るんですね、妖精って。」

ニケさん、目の前にいるのも妖精ですよ。

オッサンの見た目ですけど妖精なんですよ!

「ニケ様私も一応ダンジョン妖精なのですが。」

「あ、そうでした!ユーリ様は妖精というよりも家族みたいな感じだったのでつい・・・。」

「ありがとうございますニケ様。」

そういえばそうか。

人造生命体ホムンクルスでもありダンジョン妖精でもあったな。

そして魂を持った人間でもある。

ユーリの定義は何かと難しい。

「せめてこれを描いた本人に直接話を聞く事が出来れば詳しい事もわかったんでしょうけど・・・。」

「妖精なんていったいどこにいるんでしょうね。」

精霊『様』ならすぐに呼び出せるが残念ながら妖精に知り合いはいない。

「妖精ならここにいるべ。」

「いや、バッチさんじゃなくてですね。」

「オラじゃなくて、これを書いたやつも今ここにいるみたいだで。」

はい?

妖精がいる?

この店に?

うっそだー。

「バッチ殿詳しく聞かせてもらえないか?」

「力が弱くてオラみたいに実体化はできないけんど、ダンジョンにもここにもたくさんの妖精がいる。」

「ここにもいるんですか?」

「いるからさっきみたいに文字を書いて知らせてきたんだべ。ここは精霊様の祝福が濃いから、実体化はできなくても文字ぐらいは書けるんだ。」

マジか!

妖精ってそんなに大安売りしていいものなのか?

いや、今はそんなことどうでもいい。

妖精がいるなら直接話を聞けばいいんじゃないだろうか。

いや、まてよ?

「ここにもいるってことは村にもいるんですよね?」

「もちろんだ。」

「エミリア、今すぐ村に人を出して例の材木を借りてきてください。バッチさんになんて書いてあるか確認してもらいましょう。」

「わかりました!」

あの材木は何かを伝えようとして妖精が描いたんじゃないだろうか。

あれだけびっしり書き込まれているんだ、ここに書いて無い情報があるに違いない。

色々やりたいことはあるけれど、とりあえず情報を集めるほうが先決だ。

エミリアが休んでいる冒険者数人に声をかけ彼らと共に村へと向かう。

戻って来るまで往復一刻程。

その間に出来る事を済ませておこう。

「バッチさん、妖精について聞きたいんですけど彼らは悪戯とかしますか?」

「悪戯?」

「例えば蝋燭の火を消したりとか、水をひっくり返したりとか、物を勝手に動かしたりとかです。」

「力のある妖精なら出来ないことねぇな。」

「その、力のある妖精とは何だ?」

「生まれたばかりの妖精はなーんにもできないぐらいに弱いんだけんど、長い事生きて魔力を蓄えると少しずつ力がついてくる。精霊様のお手伝いをしたり人間の手助けをしてると、少しずつ力が貯まってオラみたいに物を触ったり動かしたりできるようになるんだ。」

なるほどなぁ。

だだの小さいオッサンじゃんかったのか。

それなりに善行を積んできたというわけだな。

そう言えばそんなオッサン冒険者がいたようないなかったような・・・。

「じゃあ悪い事はしないんですね?」

「しないわけじゃ無いけど、理由もなく人様に迷惑をかける妖精はいねぇ。」

「つまり悪戯するにも理由がある?」

「気を引きたいとか、何かを伝えたい時にはするかもしれねぇな。」

これで全部わかった。

村で起きた不可解な現象の数々。

その犯人は間違いなく妖精だろう。

何でそんなことをしたかはまだ分からないけど、それもエミリアがあの木材を持って帰って来てくれたら判明するはずだ。

最初は森で見つかった影とあの不可解な現象に同一性があると思っていたけど、実際は随分と違ったみたいだな。

影の犯人はメッシュさんだったし、別に悪さはしてなかった。

うちに出た影は悪さをしていたわけだけど、それも善行をしようとしただけの話だ。

影の犯人が分かってからも悪戯が続いていたのは、妖精が何かを伝えようとしていたから。

でも伝えようとした割にはやることが悪質だったなぁ。

特に来年の麦に穴を開けたのは遣りすぎだ。

もしネズミに食べられでもしたら来年の作付が出来なくなる。

そうなったらせっかく入植してきてくれたのに全員で出稼ぎに出なければならない所だった。

実体を伴っていたらお灸を据えてやるところだけど残念ながらそれはできそうにない。

「御主人様が何やら悪い顔をしています。」

「シュウイチ、そんな顔をするとせっかく何かを知らせようとしてくれている妖精が逃げてしまうぞ。」

「すみません気を付けます。」

「妖精さんはいったい何を教えようとしてくれたんでしょうね。」

「本当だな。話ができれば簡単なんだが・・・。」

「そんなら直接話をすればいいんじゃないか?」

「「「「え?」」」」

このオッサン今なんて言った?

話せばいいって?

何そのパンが無ければケーキを食べれば的なノリは。

それが出来ればこんな苦労は・・・。

「そうか!ここに居るという事はこの話も聞こえているわけですよね?なら質問をして答えをバッチさんに解読してもらえば!」

「会話ができるというわけだな。」

何ですぐに思いつかなかったんだろう。

会話できるじゃないか!

この小さいオッサンを通訳にすれば何の問題もない。

「この店ならどこでも書き込めるんですよね?」

「何処でも大丈夫だ。」

「でしたら他のお客様が来て邪魔にならないところが良いですね。」

「となると、机の上はあれですから・・・そうだ!紙に書いてもらうことはできますか?」

「出来ると思うけんど・・・。」

紙ならすぐ捨てれるし、別の使い方もできる。

とりあえずいらない紙をたくさん準備して店の裏に移動した。

「では始めましょう。」

「どうする?」

「まずは意思疎通ができるかの確認です。初めまして、シュリアン商店のイナバと申しますよろしくお願いします。」

何処にいるかわからないのでとりあえず頭を下げてみる。

と、しばらくすると目の前に置いた紙の上にうっすらと不思議な模様が浮かび上がって来た。

「よろしく、だそうです!」

「おぉ、返事が返って来たぞ。」

「すごいです!」

「まさか精霊様に続き妖精とも会話ができるとは、さすが御主人様ですね。」

「話は聞いていたと思いますが改めて質問です、何かが襲って来るとのことですが詳しく教えてもらうことはできますか?」

よし、とりあえずファーストコンタクトは成功だ。

しかし目に見えないとはいえそこら中にいるんならあまり悪口も言えないなぁ。

いや、悪口言う予定はないけどつい口から出た言葉を聞かれてそれを文字にされたらとか・・・。

今はそんなこと心配している場合じゃないか。

それからしばし返事を待つと、先ほどよりも長い模様が別の紙に浮かび上がって来た。

「えぇっと・・・『怖い生き物が来るよ』だな。」

「怖い生き物?」

「最初は悪いだったが、今度は怖いか。」

「でもそれが生き物だってことはわかりましたね。」

「それが襲って来るという事でしょうか。」

怖い生き物・・・。

悪い生き物・・・。

わざわざそういう言い方をするということはただの生き物じゃない。

なにか害があるからそう言うんだろう。

妖精に害がある生き物。

実体がないのに何かされるんだろうか。

それとも別の誰かが害されるんだろうか。

例えば、俺たちとか。

「もしかすると魔物かもしれませんね。」

「魔物?」

「いや、襲って来るものと言えばそれぐらいしか思いつかなくて。最初は悪い人間が襲って来るのかと思ったんですけど、それなら人間って書きますよね?でも生き物って書くってことは名前がわからないのかなって思いまして。」

俺達は魔物の名前を把握している。

把握しているというよりかは分類分けしているというほうが正しいだろう。

どんな魔物なのかをしっかりと認識することで個別に対応することができるからだ。

理由は簡単だ、魔物に襲われると害が出るから。

でも、妖精は違う。

実体がないという事は害が出ないという事だ。

それなら別に詳しく分類分けする必要はない。

怖い生き物。

悪い生き物。

そんな風に分けるだけで十分というわけだな。

良い生き物が普通の動物で悪い生き物が魔物、そんな分け方なのかもしれない。

「魔物か、確かにそれはあり得るな。」

「でも、それだったら大変な事ですよ!」

ニケさんが慌てるのも無理はない。

魔物が襲って来るってことは集団暴走スタンビートが起きている可能性があるという事だ。

この前の様にアリの巣から蜜玉をかっぱらってきたって話も聞かない。

にもかかわらず魔物が人里を襲うというのはよっぽどの理由がなければありえないことだ。

何か良くない事が起きている。

それがわかっただけでも大きな収穫と言えるだろう。

それからしばらくやり取りをしてわかったのは二つ。

魔物と思われる何かが迫ってきているという事。

そいつは寒さに弱いのか暖かい所を目指しているようだ。

そして二つ目、それはかなり切迫しているという事。

「ちなみにいつ頃かわかるか?」

やり取りを重ねるうちに文字が浮かび上がってくる時間もどんどん短くなってきて、今はほぼタイムラグなしに返事が帰って来るようになった。

「『日が暮れてまた登ったら』だな。」

「日が暮れてってまさか明日か!?」

「いやまさかそんな。」

「ですが今日の陽はまだ沈んでいません。沈んで登るとなると明日の朝と考えるのが妥当でしょう。」

いやいやいや。

明日の朝とかあと半日もないんですけど。

それでどうやって魔物から身を守れっていうんだ?

種類も数もわからないんだ。

少数なら迎え撃てるけど、この前みたいに何千もの魔物だったりしたら太刀打ちできないじゃないか。

いくら冒険者がいるとはいえ死ぬとわかっているのに彼らの力を借りるわけにもいかない。

っていうかそんな状況なら早く逃げたほうがいいんじゃないでしょうか。

そうだとしたら急いで村に知らせて全員で逃げる用意をさせなければ!

そうだ馬車を大量に手配してそれから仮住まいと荷物の保管場所の手配と食事とギルドへの連絡とそれから・・・

「ただいま戻りました!」

パニックになりかけていたその時、入り口の方からエミリアの声が聞こえてきた。

どうやら戻ってきたみたいだ。

とりあえずエミリアにも事態を伝えてだな・・・。

「おかえりなさい。」

「シュウイチさん大変です!文字が増えていました!」

カウンターに身をのりだしてエミリアが興奮したように報告してくれる。

その際たわわに実った二つの果実が押し潰されるように形を変えるのも見えた。

うん、落ち着いたわ。

乳は偉大なり。

「皆さんお疲れ様でした、向こうでゆっくり休んでください。」

「あ、依頼料は後でお支払いしますので休憩されたら来てくださいね。」

「ありがとうございます!」

なるほど依頼を出したからすぐ人が集まったのか。

カウンターに立てかけられた材木を見てみると確かに下半分にしか書かれてなかった模様が上半分にも描かれていた。

なんだろう、上半分は文字というか絵のように見えるんだけど。

「これは、絵でしょうか。」

「ニケ殿にもそう見えるか?」

「はい。下は文字みたいですけど上は文字を使った絵に見えます。」

どうやら絵に見えるのは俺だけじゃなかったようだ。

「バッチさん、解読お願いします。」

「これは・・・ちょっと時間かかりそうだべ。」

「そこを何とかお願いします、事態は急を要するんです。」

「どうかしたんですか?」

「解読結果次第なんですが、少々厄介な事になっているみたいなんです。」

妖精による一連の悪戯騒動。

その現場に残されたこの文字の内容次第では次の行動が大きく変わる。

逃げるのか。

それとも戦うのか。

そもそも戦えるような相手なのかすらもわかっていない。

なにはともあれまずは情報共有だ。

不思議そうにしているエミリアの顔が、話を聞いてどうなるのか。

たぶんものすごい驚いた顔をするんだろう。

もしかしたら慌てふためき泣きそうになるのかもしれない。

まぁどっちにせよ可愛いんですけどね。

なんて事を考える余裕のある自分に思わず笑ってしまうのだった。
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