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第十一章

小さな可能性

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 なんだかよく分からないが上機嫌になったニケさんと共に魔術師ギルドへと向う。

 その道中ずーーーっと腕を絡めてくるんだがなぜだろうか。

 エミリア達がいないから今のうちにという事なのかもしれないが、違ったら恥ずかしいしなぁ。

 いや、そもそもニケさんが好意を持っている事前提の考えがおかしい。

 あくまでも奴隷と主人、雇用主と従業員の関係であってそれ以上の深い関係でもなんでもない。

 っていうか奥さんともそういう関係になっていないわけで。

 はい、恒例のチキン発言ありがとうございます。

 わかってるんですよ!

 分かってるからそれ以上は言わないでください!

 え?わかっている分たちが悪い?

 煩いなぁ。

「イナバ様どうかされましたか?」

「いえ、何でもありません。」

 そこまで身長差は無いのだが、下から見上げられるのには弱い。

 なにこのあざとい感じ!

 やっているのがニケさんだけに計算ずくなんだろうけど、分かっていてもドキドキしてしまう。

 ニケさん、恐ろしい子!

「ニケさんの方は終わりましたのでこちらが一段落するまで自由時間でも構いませんが・・・。」

「いえ、奥様方にも言われていますので御一緒します。」

「フェリス様の話を聞くだけですし別に危ない事はありませんよ?」

「危なくなくても一緒に居るように言われていますので御一緒します。不都合があるのであれば遠慮しますが・・・。」

「別に不都合なんてないですよ。せっかくサンサトローズに来たので一人であれこれしたいかなと思っただけです。いつも用事ばかりお願いしていましたから。」

 ユーリとニケさんにはいつも雑用をお願いしてしまう。

 この街に来る時はいつも時間がないとか大変な事をやっているとかだからなぁ。

 悪いとは思いつつもついついお願いしてしまうんだ。

「イナバ様のお手伝いをするのが私達の仕事ですから。ユーリ様の文句も聞いたことありません。」

「本当ですか?」

「もちろんです。あそこにいた事を考えたら何をしていても夢のようです。」

「先程の方も言っていましたが解放しましたら自由になるので、別に商店に拘る必要は無いんですよ?ニケさんにはニケさんの人生があるんですから、好きにして下さって構いません。」

「もちろんです。好きにするのでこれからも雇ってくださいね。」

 こんな言い方をされて断る奴はいるだろうか、いやいない!(反語法)

「もちろんです、どうぞ宜しくお願いします。」

 とまぁ、そんなやり取りが合ってからのいつもの魔術師ギルドなわけですが・・・。

「なによ、今日はエミリアいないの?」

 魔術師ギルド入ってすぐのイベントといえばやはりこの人ですよね。

「今日は店番をお願いしています、たいした用でもありませんので。」

「それでいて自分は美人を連れていい気なものね。」

「美人だなんてそんな・・・。」

 ニケさんそこ拾いますか。

 今日はなんだか絶好調ですね。

「たいした用ではありませんが私達にとっては重要な事なので、決して遊びじゃないですよ。」

「重要なのかたいした事ないのかどっちなのよ。まぁいいわ、今日もフェリス様なのね?」

「お願いします。」

 なんだかんだ言いながらも先導してくれる辺りリュカさんは優しいんです。

 なんてエミリアなら言うんだろう。

 事実ブツブツ文句を言いながらもフェリス様のところまで案内してくれる辺り、仕事熱心ではあるんだと思う。

 あそこに居る理由が良い男を探す事じゃなければの話しだが。

「アンタぐらいなものよ、事あるごとにフェリス様に会いたがるのは。」

「普通はしないんですか?」

「あのねぇ、あの方はこのギルドで一番偉い人なのよ?普通はこんな簡単に会ったりしないんだから。」

「確かにそうですね。」

「精霊の祝福を二つも持っているから特別扱いされてるだけなんだから、そこをちゃんと理解しておくことね!」

 大企業の社長にアポなしで会いに行って許してもらえるわけがない。

 普通はそうだよなぁ。

 そういう部分では俺はものすごく恵まれているんだろう。

 もしかしてこれが俺のチート能力なのか!?

 偉い人にいつでも会える能力!

 ごめん、全然いらないです。

 いつものように螺旋階段を上りフェリス様の部屋まで向う。

 見えない壁の前でリュカさんが立ち止まり・・・。

「あ、ダメだわ。」

 何とも気の抜けた声で会えない事を伝えてきた。

「お留守ですか?」

「居るのは居るんだけど、来客中だから無理ね。今日一日は無理なんじゃないかしら。」

「来客なら仕方ありません。」

 アポ無しで来たこっちが悪い。

 あの時エミリアに確認してもらわなかった俺のせいだ。

 少し待つぐらいなら構わないが、今日一日となるとさすがに待てない。

 仕方ない、別の用を済ますとしよう。

「あら、随分あっけないわね。」

「飛び込みで来たのはこちらですから。代わりといっては何ですがミド博士にはお会いできますか?」

「ミド博士?たぶん研究所に居ると思うけど・・・。」

「そちらも無理なようでしたら諦めて帰ります、お願いできますか?」

「仕方ないわね、ついてきなさい。」

 なんだかんだで面倒見の良い姉御肌。

 リュカさんにはそういうキャラ紹介が付きそうだな。

「ねぇ、さっきから気になってたんだけどアンタ新しい精霊と知り合ったりしてないわよね。」

「新しい精霊ですか?」

「ものすごく薄いんだけどそんな匂いがするのよ。妖精にしたら強すぎるし精霊にしては弱すぎる。そもそもそんな微妙な状況で人前に出るはずないから気のせいだとは思うんだけど・・・。」

「さぁ、どうでしょうか。」

 さすが精霊使い。

 ルシウス君の気配をうすうす感じ取ったようだ。

 答えても良かったんだけどなんとなくはぐらかすことにした。

「いくらアンタでも三精霊の祝福なんてもらえるはずないし、気のせいよね。」

「質問なのですが、精霊とはどういう風に生まれるんですか?」

「精霊が生まれる?精霊ははじめから精霊に決まっているじゃない。」

 精霊ははじめから精霊である。

 なるほど。

 つまり、ルシウス君のケースはかなり珍しいということか。

 というか、そもそも精霊の生まれすら解き明かされていない?

「風の精霊もそうなんでしょうか。」

「当たり前よ。何なら聞いてみる?」

「よろしいのですか?」

「この前久々に暴れさせてもらったしね、シルフィー出てきて!」

 前回同様腕を真上に掲げ、精霊を召喚するリュカさん。

 召喚って言うか呼び出しって言うか。

 この世界に来るまでは長ったらしい詠唱をしないと呼び出せないものだと、某島の戦記で学んだタイプなんですが・・・。

 まぁ、色んな形がありますよね。

「ちょっと、折角気持ちよく寝てたのに一体何なのよ!」

 呼び出されたワンピース姿の少女。

 この間も昼寝をしていたような気がするけど、気のせいだろうか。

「お呼び出しして申し訳ありません。」

「あれ、また君なんだ。この間は久々に暴れさせてもらって気持ちよかったよ、ありがとう。」

「いえいえ、こちらこそ大変助かりました。」

「ひとつ聞きたいんだけどさ、精霊ってどうやって生まれるの?」

「呼んで早々哲学的な話しは苦手なんだけどなぁ。」

 人は何処から生まれ何処に行くのか。

 確かに哲学的な話か。

「そうじゃなくて、どうやって生まれるかを知りたいの。」

「精霊が?」

「シルフィーはどうやって生まれたの?」

「さぁ、気付いたらこんな感じだし。別に精霊がどう生まれようが別に関係ないじゃない?」

「それは全ての精霊にも言えることなんでしょうか。」

「う~ん、全部って言われると困るなぁ。私はそうだったけど、そうじゃない子も居るかもしれない。元々精霊ってあまり干渉しあわないから別の精霊の事あんまり知らないんだよね。君の所が珍しいんだよ、まぁあの二人は親和性が高いから仕方ないかもしれないけどね。」

 なるほどなぁ。

 気付いたら生まれていましたのパターンか。

 本気で調べたいのならこの世界を作った神様にでも会わないとダメなのかも知れないなぁ。

 でも待てよ、じゃあなんでディーちゃんはルシウス君が精霊の卵だって知ってたんだ?

 それにあと100年は眠っているはずとか・・・。

 今度詳しく聞いたほうが良いかもしれない。

「妖精ならいたるところで生まれて勝手に消えていくんだけど・・・。あれ、君変な気配がするね。」

「あ、やっぱりそう思う!?」

「なんだろう水の精霊みたいな気配だけどちょっと違う。それにものすごく弱い。ねぇ、一体何処で誰と知り合ったの?」

「思い当たる節は無いのですが。」

「ふーん・・・。まぁ、そういうことにしてあげるよ。誰と知り合おうが君が祝福を増やそうが関係ないしね!」

「えぇ、それでいいの?何かあるんでしょ!?」

「本人が知らないっていってるし、別に良いんじゃない?用がないなら昼寝の続きするから起こさないでね!」

 早口でそう言い切ると出てきた時同様にパッと消えてしまった。

 去り際に何ともいえない視線を感じたので間違いなくルシウス君の存在はバレているだろう。

 だが、本当に関係ないから気にしないのかもしれない。

 これはフェリス様に使う為のカードにしたいのでもう少し黙っていてもらおうかな。

「リュカさんありがとうございました。」

「もぅ、勝手に帰っちゃうし一体何なのよ。」

「眠たかったとか?」

「あの子が眠たいのはいつものことよ。」

「そうですか。」

「アンタが何を隠していたとしてもシルフィーが問題ないって言ってるんだからもういいわ。」

 それでいいんだ。

 いや、俺としては非常にありがたいんだけど。

 その後はお互い無言のままミド博士の研究室へ向う。

 石塔の前にはいつものように警備の人が立っていた。

「これはリュカ様、今日はどうされました?」

「ミド博士に面会よ、商人のイナバといえばわかると思うけど。」

「イナバ様ですね、どうぞお入り下さい。」

「確認しなくて良いの?」

「ミド博士よりイナバ様は通して良いといわれておりますので。」

「フェリス様に続いてミド博士まで、面白くないわ。」

 面白くないといわれましても。

 これも日ごろの行いの結果といいますか何と言いますか。

 石の扉を抜け石塔を地下へと降りていく。

 研究室に入るとすぐにイラーナ助手がこちらに気付いてくれた。

「これはイナバ様!今日はどうされました?」

「お久しぶりですイラーナさん、お変わりありませんか?」

「おかげ様で順調です。」

 ゆったりとした服を着ていても分かるぐらいにお腹は随分と目立つようになってきた。

 セレンさんもいずれこんな風になるんだろう。

「今日はお願いがあって来たんですけど、博士は不在ですか?」

 辺りを見渡すもミド博士の姿は無い。

 おかしいな、案内されたって事は居ると思うんだけど。

「今ちょうど実験の最中なんです。」

「なるほど。」

「今度は何の実験をしてるの?」

「それはですねぇ・・・。」

 イラーナ助手が答えようとしたその時、ドカンという低い音が研究室に響き渡った。

 なんだなんだ、爆撃か?

 それとも爆発か?

「どうやら失敗したみたいです。」

 イラーナ助手の視線の先を見ると、ちょうど研究室にある別の部屋から髪の毛がぼさぼさになったミド博士が出てきた。

 先程の音はあそこが発生源のようだ。

「くそ、また失敗だ。」

「やっぱりダメでしたか。」

「現物が手元にある以上融合結晶は空想のものではないはずなんだ。だが何をどうやっても融合する前に反発しあってしまう。一体何が悪いのか、検討もつかない。」

「そんなに焦らなくてもじっくりやっていけば大丈夫ですよ。」

「ダメだダメだ、その子が産まれてくるまでに結果を残すと宣言したのだからな!」

 どうやらミド博士は魔石の融合に取り組んでいるようだ。

 今までは机上の空論でしかなかった魔石の融合だが、俺がドリちゃん達からもらった融合結晶をこの研究所に提供してからそれは空論ではなく実現できるものへと変わった。

 だが、手元にあるのは自分で作ったものではない。

 魔石研究の第一人者として実現できるのであれば自分の手でそれを証明したいのだろう。

「ミド博士、御無沙汰しております。」

「なんだ君か。恥ずかしい所を見られてしまったな。」

「いえ、お忙しいところお邪魔しまして申し訳ありません。」

「今日はボインちゃんと一緒ではいないのか。代わりに横には別の・・・イタイイタイ冗談だ!耳を引っ張るな!」

「この子の前でへんな事を言うのはやめてください。」

「まだ生まれてないでは無いか。」

「お腹の中に居ても聞こえてるんです。」

「そうなのか?」

「聞いて下されば分かります。」

 イラーナ助手に耳を引っ張られて窘められたミド博士だったが、恐る恐るお腹に手を当てている姿は幸せそうな父親の顔をしている。

「聞こえているのか?聞こえていたら返事をしろ。」

「そんな言い方ではダメですよ。」

「ならどういえば良いのだ。」

「もっと優しく言わないと。」

「私だ、ミドだ、聞こえていたら返事をしてくれないか?」

 そ、それで優しくなっているのか?

「おぉ、動いたぞ!」

「ちゃんと聞こえているんです。だから発言には気を付けてくださいね。」

「う、うむ。」

 って、子供も反応しちゃうんだ。

 お腹の中に居ても誰が話しかけているか分かるんだろうなぁ。

「あ、すみません!つい、いつものクセで・・・。」

「いえいえ、良いものを見せてもらいました。あのミド博士が随分と変わるものですね。」

「うるさいな、べつにいいではないか!それで何のようだ?こうみえても忙しいんだぞ。」

 ここで機嫌を損ねると時間をロスしてしまう。

 フェリス様の助言を得られない以上、頼みの綱はミド博士だけだ。

 魔石研究の第一人者。

 専門家としてこれ以上の人材は居ないだろう。

「申し訳ありません。今日来ましたのは『魔石から魔力を抽出する最適な方法』を教えていただきたく参りました。」

「魔石から魔力を抽出する?」

「色々ありまして現在私のダンジョンでは魔力が不足しております。現在は水の精霊様から頂戴しています魔力の塊を使用して維持しているのですが、魔石から魔力を取り出す際に無駄が多く出てしまい上手く行きません。そこで第一人者であるミド博士のご助力を賜りたく参りました。」

「水の精霊から魔力の塊をもらっているだと?なんていう贅沢をしているんだ君は。」

「贅沢ですか?」

「当たり前だ!精霊が直接練り上げた魔力だぞ、そこいらに転がっている魔石の何十倍もの魔力が込められている。それをダンジョン維持にしか使わないなんて、一体何を考えているんだ!」

 いや、そんなに怒られましても。

 しかしあの塊一つで通常の魔石の何十倍もあるのか。

 こりゃ、魔石から魔力を抽出するって言うレベルの話しじゃないな。

「では普通に取り出すのは難しいですか?」

「今私が何に苦労していると思う?」

「おそらく魔石を融合しようとなさっている?」

「その通り、通常の魔石から魔力を取り出しそれを別の魔石に融合しようとしている。だが、結果はこの有様だ。普通の魔石からも取り出せないのに何十倍もある魔石から取り出せるはずがないだろう。」

「そうですか・・・。」

 困ったなぁ。

 ミド博士に聞けば何とかなると思ったんだけど、そう上手く行かないようだ。

「ダンジョンに魔力がないの?」

「色々ありましてほぼ空っぽなんです。」

「増やせば良いじゃない。」

「増やそうとしているんですが、増やす為には冒険者に来てもらわないとダメなんです。」

「ダンジョンなんだし来るんじゃないの?」

「サンサトローズの近くに急にダンジョンが出来たらしく、みなさんそこに行ってしまって・・・。」

 増やせるものなら増やしたい。

 でも増やせないからココにきているわけで。

 やっぱり冒険者を雇ってでも無理やり増やさないとダメなのかなぁ。

「急にダンジョンが出来たんですか?」

 話しを聞いていたイラーナ助手が会話に加わってきた。

「出来たというよりも埋もれていた奴が発見されまして、ほぼ攻略されているそうなんですがこれが片付くまでは冒険者は増えないでしょうねぇ。」

「あの、そのダンジョンはずっと眠っていたんですよね?」

「そうみたいですね。」

「それと、魔石があればひとまず魔力は増やせるんですよね?」

「無駄は多いですが増やせています。」

「恐らく無駄が多いのはダンジョンと波長が合わないからだと思うんです。」

「「「「波長が合わない?」」」」

 ミド博士を含め全員が頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

 いや、待てよ。

 確かイラーナ助手の専攻は・・・。

「そうか、イラーナさんは確か魔石の波長から産地を特定できるんでしたね。」

「魔石にも波長があって、それが上手くかみ合わない場合は力を発揮できないと考えています。」

「君はそう言うが今の所それを証明できる実験結果は上がってきていないぞ?」

「博士は産地の違う魔石同士を融合させようとしておられますよね?」

「産地?確かにこだわってはいないが・・・まさか!」

「もう少し失敗してからと思っていたんですが、次は産地を合わせて融合してみてください。」

「わかったやってみよう!」

 何かを閃いたようにミド博士は再び実験室に戻ってしまった。

「もぅ、まだイナバ様がおられるのに。研究のことになったらいつもこうなんです。」

「ミド博士らしいです。それで、無駄が多いのはダンジョンの波長と合わないからということですが。」

「あくまで仮定ですけど、ダンジョンにはダンジョンの波長が合ってそれと精霊様の魔力とが上手くかみ合わない為に無駄が多いと考えられます。」

「ではどうすれば良いと思いますか?」

「簡単です、ダンジョン産の魔石を使えば良いんですよ。」

 ダンジョン産の魔石?

 そんなの聞いたことないぞ?

「あぁ、聞いたことあるわ。ダンジョンの奥深くに巨大な魔石が眠っているって話よね?」

「リュカさん御存知なんですか?」

「聞いたことあるだけよ。ダンジョンの奥深く、それこそ最下層にはダンジョンが喰らい続けた魔力が溜めてあるって。でも聞いたことあるだけで実際最下層には何もなかったって話よ。」

「でもそれは作られたダンジョンですよね?」

「そうね、アンタの所みたいにダンジョン商店が後ろに居るようなダンジョンね。」

 つまり・・・?

「新しく見つかったダンジョンであればその奥深くに巨大な魔石が眠っているかもしれません。」

「そしてその魔石はダンジョンで生まれたので、ダンジョンとの親和性が高い?」

「私の研究によればですけど、でもそれはまだ証明されてなくて・・・。」

 そう言いながらイラーナ助手の顔は自信に満ち溢れていた。

 それは何故かって?

「見てくれ出来たぞ!融合結晶は机上の空論じゃなかったんだ!」

 旦那であるミド博士が嬉しそうに証明を持って研究室から飛び出してきたからだ。

 波長が合えば融合は成功する。

 それはつまり、ダンジョン産の魔石であれば豊富な魔力をそのまま還元できるという事。

 面白いことになってきたな。

 思わぬところで見つかった小さな可能性に俺は思わず笑みがこぼれてしまった。
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