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第十章

問題発生

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疲れた。

マジで疲れた。

自分で仕事振っといてなんだけど短時間での選別ってこんなに疲れるんだ。

ニッカさんの所で入植者の選定を行い何とか40人まで絞り込む事が出来た。

後は精査して少しずつ候補を絞っていくそうだ。

そして俺の手元には選定に漏れたが仮住まいのほうに適した人のリストが握られている。

該当は10人。

もちろんその全てというワケには行かないが、どれも捨てがたい人材ではある。

俺の思っている以上に冒険者や騎士団を引退した後の受け皿が無いんだな。

「ただいま戻りました。」

「あ、シュウイチさんお帰りなさい。」

「随分と疲れた顔をしているな、大丈夫か?」

商店に戻るとエミリアとシルビア様が迎えてくれた。

え、この美人誰かって?

俺の奥さん。

「入植者の選定と別件の選定と二つ終わらせきました。少し休んだらまた会議に戻りますが、何か変わった事はなかったですか?」

「お客さんが少ないほかは特に何もありません。」

「定期便が出ているというのに珍しいな、何かあったのか?」

「村で聞いたのは労働者の皆さんが多く乗り込んでいたので冒険者が少なかったという事だけです。」

「それならば良いのだが、何かの理由で冒険者が減ったのでは困る。」

それは確かにそうだ。

うちみたいな離れた場所にあるダンジョンは一旦冒険者が離れてしまうとそこから挽回するのが難しい。

初心者が減ったという理由ならまだしも、悪い噂で減ったとなったら大事だ。

「一応後でモア君に聞いておきます。」

「そうしてくれ。」

俺は冒険者達がいつも使っているテーブルに腰掛け一息つく。

「御主人様お茶をどうぞ。」

「ありがとうユーリ。」

「昼食を取られておられないようでしたので今セレン様が簡単な物を作ってくださっています。食べてからお戻り下さい。」

「なにからなにまですまないねぇ。」

「それは言わないお約束です。」

うぉ、まさかこの返しを使ってくるとは。

一体どこで覚えてきたんだ?

「もちろんご主人様の知識の中からです。」

「心の声だけでなく知識まで、もう隠し事は出来ませんね。」

「何か隠すようなことがあるのですか?」

「いや、別にありませんけど。」

浮気でもしようものならすぐにばれる状況だが、ありがたい事にそんな事を思う必要が無いくらい美人に囲まれている。

まぁ、その先には全く進んでないけどね!

「はぁ、こんな事で本当に大丈夫なのでしょうか。」

「余計なお世話です。」

「お待たせしました、今日は食材が余ったのでいっぱい食べてくださいね。」

と、そこにセレンさんが大きなお皿を持って登場した。

えっと、これは何の冗談でしょう。

「凄い量ですね。」

「定期便の日なので沢山仕込んだんですが余ってしまいました、皆さんの夕食分もありますので良かったら食べてください。」

「ウェリス達の分ももって帰って良いですよ?」

「それはもういただきました。」

そうか、それを抜いてもこの量なのか。

大皿いっぱいに乗せられたお肉や野菜、冒険者相手の料理なのでボリューム満点だ。

某国民的アニメ制作会社が作る美味しそうな料理に引けを取らない構図だな。

巨大なステーキに添えられた大量の葉野菜。

それにこれまた大量のトポテをマッシュしたサラダ。

いつもならここにチーズとかが添えられているが、日持ちする食べ物なので今日はお預けだ。

「レミナさんはもう食べられましたよね?」

「もちろんです、3回もおかわりしてくださって助かりました。」

ちょ、この量を三回って。

彼女の胃袋は異世界に繋がっているんでしょうか。

もしくはブラックホール?

「ではいただきます。」

「どうぞ召し上がれ。」

この時間まで何も食べていなかったので美味しくいただく事は出来る。

だが夕食は少し少なめにしよう。

そうしよう。

「食べながらで良いんだが、企画の方は順調に進んでいるのか?」

「今の所は何とかなりそうです。大きな問題もありませんし、なにより向こうであれこれ動いてくれる人が優秀なので助かってます。」

「それはなによりだ。すまんな、何も手伝ってやれなくて。」

「店を見てもらえるだけ助かります。冬以降はシルビアにも無理をかけますから、今は久々の自由な時間を堪能してください。」

「そうですよ、これまで騎士団長として頑張っておられたんですから。」

ニケさんの言うとおりだ。

久々の休暇だと思ってゆっくりすれば良い。

まさかシルビアの口から定年したお父さんみたいな発言が出るとは思っていなかったなぁ。

休む時は休む、これが大切ですよ。

「そうは言ってもな、何もすることが無いというのも案外暇なのだ。」

「身体を鍛えるとか?」

「それはもう日課だ。それとは別に私も何か仕事を手伝いたいのだが、何分知識が無いものだから店を手伝うわけにもいかん。」

「その分お料理を手伝ってくださっているではありませんか。」

「シルビア様が来てくださってから随分と楽になりました。」

「本当か?」

「もちろんです。」

セレンさんの言葉を聴いてホッとした顔をするシルビア様。

なるほど。

自分だけサボっているようで負い目を感じていたのか。

それって重度のワーカホリックですよ。

「重たい素材なんかを倉庫に運んでもらえるだけでもありがたいです。」

「しつこい冒険者を追い払えるのはシルビア様だけです。」

「さすがシア奥様です。」

何がさすがなのかはわからないが、とりあえず皆シルビア様の手伝いに感謝している。

ちゃんと口に出さないと伝わらない事ってあるよね。

「いつもありがとうございます。」

「そうか、少しでも役に立てていたか。」

「もちろんです、これからも頼りにしていますよ。」

「任せておけ。」

嬉しそうに頷くシルビア様に全員の顔がほころんだ。

笑った顔も素敵ですよ、シルビア様。

その笑顔で御飯がもりもりと進みます。

最後のサラダを食べて水を飲んでっと。

「ご馳走様でした。」

「もうよろしいんですか?」

「あまり食べると眠たくなってしまいますから。」

「そうですね。」

「では下は任せます、何かあったら呼んでください。」

「わかりました。」

お腹も満たされたし二回戦も頑張りましょうかね。

残された時間は少ない。

悔いが残らないようにしっかりと準備しないと。

気合十分、俺は俺の戦場で頑張るとしますかね。


「イナバ様緊急事態です!」

そして再び舞い戻った場所は本当に戦場となってしまったようだ。

「何事ですか。」

通信を繋いだ瞬間開口一番モア君の悲壮な声が飛び込んでくる。

表情は伺えないがかなり切迫しているような声だ。

「近くに新しいダンジョンが発見されたみたいで、冒険者がそこに殺到した為ジュエルジェリーの核が必要数集まっていません!」

なるほど、冒険者が少なかった理由はこれか。

そりゃわざわざ遠いダンジョンに行かずに近くのダンジョンに行くよねぇ。

「イナバ様こちらも少し問題が出ております。瓦版にて参加者へ告知を出しましたが出店場所を巡っていざこざが起きています。ごく少数の者が出店場所が悪いと言っているだけですが、このまま広がれば同様の事を言い出す人が増えかねません。抽選である旨は最初に告知していますが、お金が絡んでいる以上中々聞き入れてもらえていない状況です。」

「イナバ様大変ッス!王都から運ばれてくる予定だった商店ギルドの荷が途中で行方不明になったッス!あれには街の各商店へ卸されるはずの荷が入っていて、このままでは参加予定の商店が出店できなくなるッス!」

「大変な状況でこんな事を申し上げるのは心苦しいのですが、ププト様や貴族の皆さんからお預かりしている荷を保管する場所が早くもいっぱいになりそうです。追加で確保しようにも倉庫を貸してくれる方がおらず、このままでは大量の荷が路上に溢れてしまいます。」

「仮住まいの件だがなププト様より詳しい説明をするようにとのお達しが出たぞ、貧困対策に寄付金を出すのは構わないが入植の件と混同するのは話が違うそうだ。俺が説明しても埒が明かなくてな、一度しっかり話し合ってくれないか?」

えっと、何事?

お昼までは特に問題なく行ってたよね?

それが何で急にこんな事になってるんでしょうか。

そりゃあ、全く問題なくスムーズに行ってたわけじゃないよ?

躓いた所もあったけどさ、それでもここまで酷い状況じゃなかったよね。

悔いが残らないように準備しようってさっき言ったけど、前言撤回。

悔いが残るとか言ってられない状況だわ。

「とりあえず落ち着きましょう、まだ三日あります各自出来る限りの対応をして・・・。」

「どうするんですか、冒険者全員出払っちゃってますよ!?」

「場所だけでなく売り物に関しての苦情も出ておりまして、その辺りも含めて一度統一見解を出すべきだと思うのですが私一人では・・・。」

「マジでヤバイっスよ!荷物の中には結構高額な奴もあるから、あれがなくなったらギルドは破産ッス!」

「まさか倉庫がいっぱいになるとは思っていなかったのでこのままでは本業のほうにも支障が出てしまいます。屋外保管できないものも多いですし、あぁどうしたら良いんでしょう。」

「虫の居所が悪かったのか結構お怒りだ、今すぐにでも来てくれ。」

ダメだ、一個一個の問題は小さくても同時連鎖的に起きた事で収拾がつかなくなってる。

どうする。

今から行くのか?

でも行った所で俺一人じゃ捌き切れない。

マジか。

こんな所で躓くのか。

せっかく上手く行くと思ったのに。

その場にいないはずなのに向こうの焦りが俺に伝わってきて、俺もパニックを起こしそうだ。

雰囲気に飲み込まれるな。

飲み込まれたら最後、冷静な判断が出来なくなるぞ。

俺が司令塔なんだから俺が何とかしなきゃ・・・。

「モア君、冒険者は誰もいないんですか?」

「初心者は何人か残ってましたけど、他の奴等は競い合うようにダンジョンに行ってます!」

「ならギルドに掛け合って買取金額の増額とジュエルジェリーの討伐依頼をお願いしてください。討伐報酬と買取金額の両取りでしたら動く冒険者もいると思います。」

「わ、わかりました。」

同時に捌く必要ない。

一個ずつ潰していけば大丈夫だ。

「次はえーっと、アヴィーさんはギルドに戻って荷物がどこまで来ていたのかを確認してください。紛失なのかそれとも問題が起きたのか、場所さえ分かれば打つ手はあります。輸送は自前でしたか?」

「輸送ギルドに頼んでいたはずッス!」

「バスタさん、担当者は誰か分かりますか?」

「王都でしたら中央管轄部が担当です。」

「では至急輸送ギルドに向かって担当者に確認してください、渋るようであれば私の名前を出しても構いません。」

「了解っス!」

ドタバタという音が聞こえたような気がする。

おそらくアヴィーさんは飛び出して行ったんだろう。

ともかく問題を各個撃破するのが先決だ。

「次、出店場所に関してでしたね。とりあえず文句を言っている人には毅然とした態度で抽選の結果であるとお伝えしてください。ここで受け入れてしまえば他の人もそれに同調し事態が収拾できなくなってしまいます。再度瓦版に厳正な抽選の結果である旨とお金儲けではなく『チャリティ』であるという事を明記して発行し直してください。また、説明しに行く時は騎士団員も同行させるようにお願いします。モア君、まだいますか?」

「います!」

「冒険者ギルドに行く前にリガードさんと一緒に騎士団へ向かってください。ついでに巡回計画の再度の確認もお願いします。いけますか?」

「大丈夫です!」

二か所兼任は大変だが任せるしかない。

「ではリガードさんお願いします。後はバスタさんの倉庫の件でしたね。」

「お願いします。」

倉庫、倉庫なぁ。

貴重な品が多いし、適当な場所に置くわけにはいかない。

ギルドのどこかを間借りするかとかが一番なんだろうけど、そもそも何で倉庫がないんだ?

「追加で倉庫を貸してくれるところはなかったんですか?」

「貸倉庫を当たってみたんですがどこも別の方が借りてしまって空きがなかったんです。なんでも大量の資材を買い漁っているとか。」

ここにきて国王陛下に頼んだ報酬があだになったか。

何処で聞きつけてきたかはわからないが、鼻が良いのは良い商人の必須条件だ。

それを咎めることはできない。

だが高値で売りつけようとかそう言うのであれば願い下げだ、大損してもらうとしよう。

って今はそうじゃない。

「わかりました。では貴族の中に倉庫を貸してくださる方がいないか聞いてください。この企画に参加し損ねて機会をうかがっている人が絶対にいるはずです、その人に手を貸す機会を与えてあげるんです。恩を売るのではなくこちらから下手に出れば喜んで手を貸してくださるでしょう。ただし、倉庫の番には冒険者か騎士団員を派遣してください。」

「何故です?」

「もしそこで物がなくなったら誰が疑われますか?」

「貸してくださった方です。」

「その通り、いらぬ嫌疑をかけられぬようにするのも借りている側の礼儀です。」

「わかりました!すぐに聞いて回ります。」

よし、これで全部かな。

結果はまだわからないが何もせず手をこまねいているよりも何かした方が何倍もいい。

もしそれでだめなら次の手段を考えるまでだ。

あと三日しかないと思うよりもまだ三日あると考えるほうが前向きでいい。

大丈夫、何とかなる。

俺は一人じゃない、みんなでやればなんとかなるさ。

「では各自よろしくお願いします!」

「「「はい!」」」

やれることはやった。

後はみんなにお願いするだけだ。

俺はこの場で待機だけど致し方ないよね。

「ちょっと待てよ!」

って、あれ?

イアンが何か言ってるぞ。

「どうしました?」

「俺の方はどうするんだ?ププト様を俺一人で説得しろってか?」

そう言えばそんなことも言ってた気がする。

すっかり忘れてたよ。

「来てくれと言われましてもこの時間からは流石に無理です。それにお怒りなのであれば今行くのはむしろ火に油を注ぐ様なもの、少し時間をおいたほうがいいとおもいませんか?」

「その間誰が相手すると思ってるんだよ。」

「そういうのは得意では?」

「そんなわけないだろうが!」

イアンまで怒り出しちゃったよ。

どうにかしろって言われてもなぁ。

「ひとまずププト様への説明はイアンに任せます、仮住まいの件は確かに説明する必要がありますから改めて私から報告するという事で話しておいてもらえませんか?」

「それは構わんがいつ来るつもりだ?今日は無理でも明日は来れるだろう。」

突然イアンの声が別人に変わった。

この声は・・・!

「ププト様!」

「お前が言う仮住まいの件確かに面白いとは思う、だが入植の件とは別問題のはずだ。今回の企画はあくまでも貧困者救済のはず、そこに入植者を加えるのはおかしな話ではないか?」

「確かにこの話は別々の場所から始まりここまでやってきました。しかしながらその本質は同じ所にあります。」

「同じ所?」

「貧しさから新たな希望を夢見て新しい土地に未来を託しているんです。もちろん今の生活が嫌で名乗りを上げた者もいますが、そういった人は先の選定で外されています。しかしながらその未来を夢見た人も狭き門の為に省かれている状況、そんな人の受け皿になるのが今回の仮住まいなのです。」

「お前の言い分はわかる。だが仮住まいを与えたとしてそこでどうやって生きていくつもりだ?食料を支給され、何もせずにそれを食べて生きるだけの無能はこの地に必要ないぞ。」

すごい辛辣な言い方だがププト様の意見ももっともだ。

元の世界でも生活保護を食い物にしている人はたくさんいた。

俺達が支払っている税金を貪り、好き勝手にふるまう人たち。

そんな人を増やしたくないのだろう。

「ププト様の心配ももっともです。ですが、保護施設を作る以上彼女達を守る場所が必要なのも事実。そして彼女たち以外にも困っている人がいるのもまた事実なのです。そう言った人にも手を差し伸べるのが今回の『チャリティ』なんです。」

「確かに女性だけを優遇するわけにはいかんか。」

「街の南は先日の集団暴走以降不安定な状況が続いているとか、襲い来る魔物に対処するためにも自らが戦える人が必要なんです。これを適切に処理しなければいずれ仮住まいは不穏分子の温床になりかねません。そうならない為にもこちらでしっかりと管理する必要があるんです。」

「お前が言うと本当にそうなりそうで困る。」

「なりそうではなく、なるのです。」

「どちらにせよ何か手を打つ必要はあるか。わかった、好きなようにしてみろ。」

「ありがとうございます!」

「ただし、仮住まいへの恒常的な支援は無しだ。教会と共に恒常的に支援するのは保護施設のみ、もう一方はお前の方で何とかして見せろ。」

えぇぇぇ・・・。

これまた面倒な事を頼まれたような気がするんですけど。

まいったなぁ。

他のどの問題よりもこの問題が大変な気がする。

「まぁそう言う事だ、頑張れ。」

イアンの慰めにもならないような応援が悲しく響いた。
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