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第七・五章
揉むのか揉まないのかそこが問題だ
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頭が痛い。
吐き気がする。
全身が重い。
熱は・・・無さそうだ。
えっと、今は何時だ?
重たい瞼を何とかこじ開けると凶悪なほどの陽の光が目に飛び込んできた。
目が~目が~。
この角度で俺の目を焼いてくると言う事は日の出すぐだろう。
という事はもう少し寝れる。
いや、これ以上寝るのはムリだ。
吐き気がヤバイ。
ヤバイが喉が渇いて仕方が無い。
うーむ、どうするべきか。
とりあえず体を起こさなければ話にならないな。
なけなしの気合で上半身を起こし、大きくため息をつく。
あぁ、これで体力ゲージはエンプティーだ。
もう一歩も動けません。
そもそもなんでこんなにしんどいんだっけ。
ボーっとする頭で昨日の記憶を呼び起こす。
確か昨日は会議の後ウェリス達に付き合って、メルクリア様が差し入れに持ってきたお酒を皆で飲んだんだよな。
村長の家でドンちゃん騒ぎして、ウェリスがセレンさん迎えに行くとか言うからドリスさんの家で飲みなおして、そして・・・。
そしてどうしたんだ?
改めて周りを確認してみる。
自分の部屋で間違いない。
と、言う事はドリスさんの家からここに帰ってきたわけだ。
でもどうやって?
思い出せない。
というか、思い出したくても頭が痛くてそれ所じゃない。
まずはこの吐き気と頭痛を何とかしなければ。
確か戸棚に吐き気止めの薬があったはずだからそれを使わせてもらう。
ふらつく足で何とか立ち上がり、静かにドアを開ける。
廊下に人影なし、左右のドアが開く感じも無い。
まだ寝てるよな。
足音を立てないようにゆっくりと廊下を抜け、階段を下りていく。
抜き足差し足忍び足。
えっと、戸棚の何処だったかな。
まるで盗人のように音を立てないように戸棚を漁る。
一番上、なーし。
真ん中、なーし。
一番下、あった!
吐き気止めの丸薬、名前は書いてないけどこれで間違いない。
さすがに毒になる物をこんな所に置く事は無いだろう。
いくら二日酔いが酷いからってこれを見間違える事は無い。
大丈夫だ。
たぶん。
大きさはチョコボールぐらい。
これを水無しで飲むのはさすがにムリだ。
顔洗うついでに井戸で飲むか。
そろりそろりと勝手口を出て井戸へ向かう。
早朝なのもあって風はまだ冷たい。
空は抜けるように青い。
今日も良い天気だなぁ。
太陽が目にしみるぜ。
これからどんどん暑くなるんだろうな。
そして忙しい1日が始まるんだ。
「おはようございますご主人様。」
「あぁ、おはようユーリ。」
ユーリは相変らず早起きだなぁ。
そんなことよりはやく薬を飲まないと。
「薬ですか?昨夜は随分と飲んでおられましたね。」
ん、まてよ?
ユーリ?
「ず、随分と早起きですね。」
「最近は冒険者の方がたくさんこられていますのでメンテナンスに手を抜けません。早急に階層を増やさなければ魔物枯れの可能性も出てきます。」
「それに関しては催し終了後早急に行う予定です。当日の会場設営は何とかなりそうですか?」
「配置図は出来上がっておりますので一晩あれば問題なく完了できるでしょう。」
「前日夜は手伝えないかもしれません、その場合はお願いします。」
「こちらに関してはお任せ下さい。それより、薬を飲まなくて大丈夫ですか?」
おっとそうだった。
薬を口に含んでから井戸水を流し込む。
よく冷えた水は喉を通るのが良くわかるなぁ。
水と共に薬が胃に落ちた途端に吐き気が引いていくのがわかった。
即効性ありすぎだろ。
キャベ○ンもびっくりの効き目だ。
「はぁ、スッキリしました。」
「泥酔されたご主人様を見るのは初めてでした。」
「正直ここに帰ってきた記憶が無いんですけど、どうやって帰ってきたんですか?」
「昨夜はウェリス様に引きずられるような形で家に戻ってこられました。」
なるほど、引きずってね。
連れてきてもらっただけでもありがたいし、後でお礼を言っておこう。
「その後は?」
「玄関先で預かりニケ様とリア奥様と共に三人でお部屋に運ばせていただきました。酔っていて覚えておられないかとは思いますが、順番に胸を揉んでいくのはどうかと思います。」
「どういうことですか!」
何それ、っていうかなんて事してくれてんの自分!
そして何でそれを覚えてないの!
俺が、三人の胸を順に揉む?
そんなうらやまけしからん事を覚えていないなんて、イナバシュウイチ一生の不覚!
「お部屋にお連れした際、私達を順番に抱きしめられた後胸を揉んでおられました。その後は満足したようにお眠りになられましたよ。」
「そんなことしたんですか・・・。」
「リア奥様は奥様ですし、私やニケ様は気にしませんので大丈夫ですが、外で飲まれるときは注意されるのがよろしいかと思います。」
「くれぐれも気をつけます。」
「それで、誰の胸が一番気持ちよかったですか?」
そんなの覚えていないよ!
っていうか覚えていてもいえないんですけど!
「申し訳ありませんがまったく覚えておりません。」
「そうですか、それは残念です。なんでしたらもう一度お揉みになりますか?」
じゃあお願いします。
なんていえるわけ無いだろう。
もし言おうものなら間違いなく悪い事が起きる。
賭けても良い。
揉んだ瞬間にエミリアが出てくるとか絶対おきる。
だから俺は揉まない。
揉まないからな!
「丁重に辞退させていただきます。」
「もし揉みたくなった場合は遠慮なく仰ってくださいね。」
いや、揉まないから。
例え揉みたくなっても揉まないから。
そんな葛藤をしていた時だった。
「声が聞こえたと思ったらシュウイチさんとユーリだったんですね。」
勝手口が開きエミリアが出てくる。
ほら、やっぱり出てきた!
危なかった。
もしあそこで誘惑に負けていたら今この場所に立っていることは無かっただろう。
セーフ。
俺の第六感GJ!
「おはようございますリア奥様。」
「お、おはようエミリア。」
覚えていないのだが、なんとなく恥ずかしくてどもってしまった。
俺は悪くねぇ。
悪くねぇからな!
「おはようございますシュウイチさん、お体は大丈夫ですか?」
「先ほど吐き気止めを飲みましたので大丈夫です。頭が痛いのは自業自得ですから。」
「頭痛薬お持ちしましょうか?」
「開店まで残るようでしたらお願いします。」
あえて昨日何があったか言わないでくれるのがエミリアらしい。
ほら、この前揉んだし、初めてじゃないし、酔ってたし、ノーカンということでここはひとつお願いします裁判長。
「わかりましたご飯は食べられそうですか?」
「軽いものなら大丈夫かと。」
「ではあっさりとしたスープにしますね。」
「お手伝いいたしますリア奥様。」
「じゃあユーリは主食をお願いします。」
今日の朝食当番はエミリアだったのか。
ご飯は任せて、今のうちに顔洗ってスッキリしよう。
「そうだ、シュウイチさん。」
勝手口から台所に戻ろうとしていたエミリアがこちらを振り返った。
「どうかしましたか?」
「誰の胸が一番気持ちよかったですか?」
ここで聞いてきますか、しかも直球ストレートで!
エミリアらしいとか思ったのは俺の勘違いだったということか・・・。
「酔って覚えていないとはいえ昨夜は大変失礼な事をしてしまいました、すみません!」
「シュウイチさんになら構いません、そうですか覚えてないんですね・・・。」
「以後十分に気をつけます。」
「もう外で飲みすぎちゃだめですよ。」
「そうします。」
「えっと、その、もう一度揉みます?」
はい?
今なんていいました?
もう一度揉みます?
あ、聞こえてるわ。
じゃなくて、エミリアがそんなストレートに聞いてくるなんて、一体何事?
これ後でドッキリでした!
とかの流れじゃないよね。
「・・きょ、今日は辞めておきます。」
「そうですか。」
何でそんな残念そうな顔するんだよ!
まずいでしょ、まだ太陽登ったばかりだよ?
いくらなんでも早すぎでしょ。
「奥様でもダメでしたか。」
「もう、ユーリったらへんな事を言わせるんですから。」
「私が無理でも奥様ならと思いましたが、やはりお酒の力が無ければ難しいようです。」
「そこまでして私に何をさせたいんですか?」
「昨夜はお酒の力を借りておられましたが、素面の場合何処まですればよいのかと疑問に思いまして。」
「それでさっきのような事をしたわけですね。」
「その通りです。」
自分の好奇心を満たす為に俺を使うとは良い度胸だ。
「なんでしたらお仕置きと称してお揉みいただいても構わないんですが。」
「しませんよ!」
ユーリってこんなキャラだっけ?
最近どんどんお色気路線に入っている気がするんですが大丈夫でしょうか。
終いに俺襲われたりしない?
大丈夫?
「ユーリもシュウイチさんを困らせないであげてください。昨日も日ごろの疲れが出て泥酔してしまっただけなんですから。」
「確かにお疲れでしたから仕方ないのかもしれません。ご主人様朝から失礼致しました。」
「いえ、納得していただけたなら大丈夫です。」
何がどう大丈夫かはわからないが、これ以上話を引きずるのはまずい。
この辺で終わらせておこう。
そうしよう。
「おはようございます、イナバ様、エミリア様、ユーリ様。」
「あ、おはようございますニケさん。」
「ニケ様おはようございます。」
最後の住人ニケさんの登場だ。
うーむ、この胸を俺が揉んだのか。
全く覚えてない。
残念だ。
「おはようございますニケさん。」
「イナバ様お加減いかがですか?」
「おかげ様で薬も飲んで落ち着きました。」
「それは良かったです。」
さすがニケさん、昨日の件を華麗にスルーしてくれるようだ。
「ニケさんお手すきになられたら食器の準備をしてもらっていいですか?」
「わかりました、すぐにお手伝いします。」
パタパタと小走りで井戸へと向かうニケさん。
そうだよな、顔洗ってスッキリしないと1日始まらないよな。
「そうだ、イナバ様。」
「どうしました?」
井戸に向かっていたニケさんがクルリと反転しこちらを向く。
「昨夜は誰が一番気持ちよかったですか?」
前言撤回、この人絶対ワザと言ってる。
「申し訳ありません、全く覚えていないんです。」
「そうでしたか。では、もう一度確かめられます?」
「確かめません。」
二度ある事は三度ある。
ならば三度目の正直で揉んじゃえばいいじゃないとか思ったりしてないからな!
三度目も華麗にスルーしてみせる。
ニケさんのお誘いを笑顔でお断りして家に戻ると、それを見ていた二人がこちらを見てニヤっと笑った。
「と、言う事ですのでこれ以降この話題はおしまいという事でお願いします。」
「ふふふ、わかりました。」
「かしこまりましたご主人様。」
何か言いたそうな二人に先手を打ちいつもの席にドカッと座る。
まったく、三人とも朝から飛ばしすぎだよ。
夜ならほら、言い訳も聞くけどさぁ。
「ならば夜にお誘いすればよろしいですか?」
「ユーリ!」
駄々漏れしている心の声にいち早く反応するのはやめていただきたい。
ってかこれって漏れてるの?
俺の心の声に反応するのってユーリばっかりじゃない?
もしかして彼が俺の魂と同調したから、その魂と同化したユーリにも心の声が伝わっちゃうとか?
まさかそんなこと無いよね。
「さぁ、それはどうでしょう。」
「今白状すれば先ほどの件は忘れましょう。さぁ、真実を話してもらいましょうか。」
「私には何のことかわかりません、あらぬ疑いをかけるのはお辞めいただけませんか?」
確証は無い。
確証は無いが、そうでなければ説明できない部分が多すぎる。
だけどユーリはそれを明かすことは無いだろう。
「わからないというのであればそういうことにしておきましょう。」
わからないのであれば先延ばしにするしかない。
これからは気をつけないといけないなぁ。
「エミリア様お待たせしました。」
「急がせてすみません、こっちはもうすぐ終わりますので。」
「ではお茶も入れておきますね。」
顔を洗ってきたニケさんが合流しいつもの朝の時間が始まる。
なんだか朝から大変だったけど、それ以上に今日も大変なんだろうなぁ。
でも残り時間は今日と明日の聖日、そして聖日明けの明後日だけ。
この三日で全てを終わらせないといけないんだからゆっくりしている時間なんて無い。
さぁ、今日も1日頑張りましょうかね!
本番まで後三日。
忙しい一日の始まりだ。
吐き気がする。
全身が重い。
熱は・・・無さそうだ。
えっと、今は何時だ?
重たい瞼を何とかこじ開けると凶悪なほどの陽の光が目に飛び込んできた。
目が~目が~。
この角度で俺の目を焼いてくると言う事は日の出すぐだろう。
という事はもう少し寝れる。
いや、これ以上寝るのはムリだ。
吐き気がヤバイ。
ヤバイが喉が渇いて仕方が無い。
うーむ、どうするべきか。
とりあえず体を起こさなければ話にならないな。
なけなしの気合で上半身を起こし、大きくため息をつく。
あぁ、これで体力ゲージはエンプティーだ。
もう一歩も動けません。
そもそもなんでこんなにしんどいんだっけ。
ボーっとする頭で昨日の記憶を呼び起こす。
確か昨日は会議の後ウェリス達に付き合って、メルクリア様が差し入れに持ってきたお酒を皆で飲んだんだよな。
村長の家でドンちゃん騒ぎして、ウェリスがセレンさん迎えに行くとか言うからドリスさんの家で飲みなおして、そして・・・。
そしてどうしたんだ?
改めて周りを確認してみる。
自分の部屋で間違いない。
と、言う事はドリスさんの家からここに帰ってきたわけだ。
でもどうやって?
思い出せない。
というか、思い出したくても頭が痛くてそれ所じゃない。
まずはこの吐き気と頭痛を何とかしなければ。
確か戸棚に吐き気止めの薬があったはずだからそれを使わせてもらう。
ふらつく足で何とか立ち上がり、静かにドアを開ける。
廊下に人影なし、左右のドアが開く感じも無い。
まだ寝てるよな。
足音を立てないようにゆっくりと廊下を抜け、階段を下りていく。
抜き足差し足忍び足。
えっと、戸棚の何処だったかな。
まるで盗人のように音を立てないように戸棚を漁る。
一番上、なーし。
真ん中、なーし。
一番下、あった!
吐き気止めの丸薬、名前は書いてないけどこれで間違いない。
さすがに毒になる物をこんな所に置く事は無いだろう。
いくら二日酔いが酷いからってこれを見間違える事は無い。
大丈夫だ。
たぶん。
大きさはチョコボールぐらい。
これを水無しで飲むのはさすがにムリだ。
顔洗うついでに井戸で飲むか。
そろりそろりと勝手口を出て井戸へ向かう。
早朝なのもあって風はまだ冷たい。
空は抜けるように青い。
今日も良い天気だなぁ。
太陽が目にしみるぜ。
これからどんどん暑くなるんだろうな。
そして忙しい1日が始まるんだ。
「おはようございますご主人様。」
「あぁ、おはようユーリ。」
ユーリは相変らず早起きだなぁ。
そんなことよりはやく薬を飲まないと。
「薬ですか?昨夜は随分と飲んでおられましたね。」
ん、まてよ?
ユーリ?
「ず、随分と早起きですね。」
「最近は冒険者の方がたくさんこられていますのでメンテナンスに手を抜けません。早急に階層を増やさなければ魔物枯れの可能性も出てきます。」
「それに関しては催し終了後早急に行う予定です。当日の会場設営は何とかなりそうですか?」
「配置図は出来上がっておりますので一晩あれば問題なく完了できるでしょう。」
「前日夜は手伝えないかもしれません、その場合はお願いします。」
「こちらに関してはお任せ下さい。それより、薬を飲まなくて大丈夫ですか?」
おっとそうだった。
薬を口に含んでから井戸水を流し込む。
よく冷えた水は喉を通るのが良くわかるなぁ。
水と共に薬が胃に落ちた途端に吐き気が引いていくのがわかった。
即効性ありすぎだろ。
キャベ○ンもびっくりの効き目だ。
「はぁ、スッキリしました。」
「泥酔されたご主人様を見るのは初めてでした。」
「正直ここに帰ってきた記憶が無いんですけど、どうやって帰ってきたんですか?」
「昨夜はウェリス様に引きずられるような形で家に戻ってこられました。」
なるほど、引きずってね。
連れてきてもらっただけでもありがたいし、後でお礼を言っておこう。
「その後は?」
「玄関先で預かりニケ様とリア奥様と共に三人でお部屋に運ばせていただきました。酔っていて覚えておられないかとは思いますが、順番に胸を揉んでいくのはどうかと思います。」
「どういうことですか!」
何それ、っていうかなんて事してくれてんの自分!
そして何でそれを覚えてないの!
俺が、三人の胸を順に揉む?
そんなうらやまけしからん事を覚えていないなんて、イナバシュウイチ一生の不覚!
「お部屋にお連れした際、私達を順番に抱きしめられた後胸を揉んでおられました。その後は満足したようにお眠りになられましたよ。」
「そんなことしたんですか・・・。」
「リア奥様は奥様ですし、私やニケ様は気にしませんので大丈夫ですが、外で飲まれるときは注意されるのがよろしいかと思います。」
「くれぐれも気をつけます。」
「それで、誰の胸が一番気持ちよかったですか?」
そんなの覚えていないよ!
っていうか覚えていてもいえないんですけど!
「申し訳ありませんがまったく覚えておりません。」
「そうですか、それは残念です。なんでしたらもう一度お揉みになりますか?」
じゃあお願いします。
なんていえるわけ無いだろう。
もし言おうものなら間違いなく悪い事が起きる。
賭けても良い。
揉んだ瞬間にエミリアが出てくるとか絶対おきる。
だから俺は揉まない。
揉まないからな!
「丁重に辞退させていただきます。」
「もし揉みたくなった場合は遠慮なく仰ってくださいね。」
いや、揉まないから。
例え揉みたくなっても揉まないから。
そんな葛藤をしていた時だった。
「声が聞こえたと思ったらシュウイチさんとユーリだったんですね。」
勝手口が開きエミリアが出てくる。
ほら、やっぱり出てきた!
危なかった。
もしあそこで誘惑に負けていたら今この場所に立っていることは無かっただろう。
セーフ。
俺の第六感GJ!
「おはようございますリア奥様。」
「お、おはようエミリア。」
覚えていないのだが、なんとなく恥ずかしくてどもってしまった。
俺は悪くねぇ。
悪くねぇからな!
「おはようございますシュウイチさん、お体は大丈夫ですか?」
「先ほど吐き気止めを飲みましたので大丈夫です。頭が痛いのは自業自得ですから。」
「頭痛薬お持ちしましょうか?」
「開店まで残るようでしたらお願いします。」
あえて昨日何があったか言わないでくれるのがエミリアらしい。
ほら、この前揉んだし、初めてじゃないし、酔ってたし、ノーカンということでここはひとつお願いします裁判長。
「わかりましたご飯は食べられそうですか?」
「軽いものなら大丈夫かと。」
「ではあっさりとしたスープにしますね。」
「お手伝いいたしますリア奥様。」
「じゃあユーリは主食をお願いします。」
今日の朝食当番はエミリアだったのか。
ご飯は任せて、今のうちに顔洗ってスッキリしよう。
「そうだ、シュウイチさん。」
勝手口から台所に戻ろうとしていたエミリアがこちらを振り返った。
「どうかしましたか?」
「誰の胸が一番気持ちよかったですか?」
ここで聞いてきますか、しかも直球ストレートで!
エミリアらしいとか思ったのは俺の勘違いだったということか・・・。
「酔って覚えていないとはいえ昨夜は大変失礼な事をしてしまいました、すみません!」
「シュウイチさんになら構いません、そうですか覚えてないんですね・・・。」
「以後十分に気をつけます。」
「もう外で飲みすぎちゃだめですよ。」
「そうします。」
「えっと、その、もう一度揉みます?」
はい?
今なんていいました?
もう一度揉みます?
あ、聞こえてるわ。
じゃなくて、エミリアがそんなストレートに聞いてくるなんて、一体何事?
これ後でドッキリでした!
とかの流れじゃないよね。
「・・きょ、今日は辞めておきます。」
「そうですか。」
何でそんな残念そうな顔するんだよ!
まずいでしょ、まだ太陽登ったばかりだよ?
いくらなんでも早すぎでしょ。
「奥様でもダメでしたか。」
「もう、ユーリったらへんな事を言わせるんですから。」
「私が無理でも奥様ならと思いましたが、やはりお酒の力が無ければ難しいようです。」
「そこまでして私に何をさせたいんですか?」
「昨夜はお酒の力を借りておられましたが、素面の場合何処まですればよいのかと疑問に思いまして。」
「それでさっきのような事をしたわけですね。」
「その通りです。」
自分の好奇心を満たす為に俺を使うとは良い度胸だ。
「なんでしたらお仕置きと称してお揉みいただいても構わないんですが。」
「しませんよ!」
ユーリってこんなキャラだっけ?
最近どんどんお色気路線に入っている気がするんですが大丈夫でしょうか。
終いに俺襲われたりしない?
大丈夫?
「ユーリもシュウイチさんを困らせないであげてください。昨日も日ごろの疲れが出て泥酔してしまっただけなんですから。」
「確かにお疲れでしたから仕方ないのかもしれません。ご主人様朝から失礼致しました。」
「いえ、納得していただけたなら大丈夫です。」
何がどう大丈夫かはわからないが、これ以上話を引きずるのはまずい。
この辺で終わらせておこう。
そうしよう。
「おはようございます、イナバ様、エミリア様、ユーリ様。」
「あ、おはようございますニケさん。」
「ニケ様おはようございます。」
最後の住人ニケさんの登場だ。
うーむ、この胸を俺が揉んだのか。
全く覚えてない。
残念だ。
「おはようございますニケさん。」
「イナバ様お加減いかがですか?」
「おかげ様で薬も飲んで落ち着きました。」
「それは良かったです。」
さすがニケさん、昨日の件を華麗にスルーしてくれるようだ。
「ニケさんお手すきになられたら食器の準備をしてもらっていいですか?」
「わかりました、すぐにお手伝いします。」
パタパタと小走りで井戸へと向かうニケさん。
そうだよな、顔洗ってスッキリしないと1日始まらないよな。
「そうだ、イナバ様。」
「どうしました?」
井戸に向かっていたニケさんがクルリと反転しこちらを向く。
「昨夜は誰が一番気持ちよかったですか?」
前言撤回、この人絶対ワザと言ってる。
「申し訳ありません、全く覚えていないんです。」
「そうでしたか。では、もう一度確かめられます?」
「確かめません。」
二度ある事は三度ある。
ならば三度目の正直で揉んじゃえばいいじゃないとか思ったりしてないからな!
三度目も華麗にスルーしてみせる。
ニケさんのお誘いを笑顔でお断りして家に戻ると、それを見ていた二人がこちらを見てニヤっと笑った。
「と、言う事ですのでこれ以降この話題はおしまいという事でお願いします。」
「ふふふ、わかりました。」
「かしこまりましたご主人様。」
何か言いたそうな二人に先手を打ちいつもの席にドカッと座る。
まったく、三人とも朝から飛ばしすぎだよ。
夜ならほら、言い訳も聞くけどさぁ。
「ならば夜にお誘いすればよろしいですか?」
「ユーリ!」
駄々漏れしている心の声にいち早く反応するのはやめていただきたい。
ってかこれって漏れてるの?
俺の心の声に反応するのってユーリばっかりじゃない?
もしかして彼が俺の魂と同調したから、その魂と同化したユーリにも心の声が伝わっちゃうとか?
まさかそんなこと無いよね。
「さぁ、それはどうでしょう。」
「今白状すれば先ほどの件は忘れましょう。さぁ、真実を話してもらいましょうか。」
「私には何のことかわかりません、あらぬ疑いをかけるのはお辞めいただけませんか?」
確証は無い。
確証は無いが、そうでなければ説明できない部分が多すぎる。
だけどユーリはそれを明かすことは無いだろう。
「わからないというのであればそういうことにしておきましょう。」
わからないのであれば先延ばしにするしかない。
これからは気をつけないといけないなぁ。
「エミリア様お待たせしました。」
「急がせてすみません、こっちはもうすぐ終わりますので。」
「ではお茶も入れておきますね。」
顔を洗ってきたニケさんが合流しいつもの朝の時間が始まる。
なんだか朝から大変だったけど、それ以上に今日も大変なんだろうなぁ。
でも残り時間は今日と明日の聖日、そして聖日明けの明後日だけ。
この三日で全てを終わらせないといけないんだからゆっくりしている時間なんて無い。
さぁ、今日も1日頑張りましょうかね!
本番まで後三日。
忙しい一日の始まりだ。
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