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第九章
小さな小さな篭城戦
しおりを挟む声を潜め向こうの様子を音だけで伺う。
顔を出すわけには行かない。
全ては聞こえてくる音が頼りだ。
リュカさんからの情報をエミリアを介して聞きながらその時を待つ。
パリンと小さな音が響いた。
そして間髪開けずガタガタという音がする。
予想通り窓を破り侵入してきたようだ。
窓が開く音からしばらくして、カチャカチャ、パリンという音がする。
侵入して来た敵がまいた破片を踏んだらしい。
「ん?これは・・・。」
「どうした、すぐに奥の様子を確認してこい。」
「足元に食器の破片がまいてある。」
「破片がどうした、速やかにレティシャ王女を発見し息の根を止めねば、時間が無いぞ。」
「わかっている、だが、どうも様子がおかしいぞ。」
敵の声が聞こえる。
やはり目的は王女様の暗殺か。
そのメンバーの中にストリさんがいる時点で犯人確定だ。
言い逃れはできないぞ。
「確かに、私が来た時にはこのような事にはなっていなかった。」
「あの荷物はなんだ、まるで勝手口をふさいでいるみたいじゃないか。」
「塞いでいるからどうなのだ。ただ逃げ道をふさいでいるだけで、むしろ我々には好都合ではないか。」
「ストリ、本当に王女はいるのか?」
「先ほどこの窓から姿を確認した、向こうの作戦通り馬車を囮にしたのは間違いない。」
「中は先ほど聞いた通りだな?」
「王女の部屋は二階の中ほど、二つの花瓶にはさまれた部屋がそうだ。」
ふむふむ。
残念ながらそこにもいないんだよな。
でもあれだな、随分と声の印象が違うんだけどもしかしてキャラを作っていたのか?
「シュウイチさん、ニケさんが来ました。」
向こうの会話に意識を集中している間にニケさんが俺の横にしゃがみ込んでいた。
「私はどうすればいいですか?」
「相手の動きを見ながら合図押したら二階へ走って向かってください。後ろは振り返らず、一番奥の部屋にお願いします。」
「わかりました。」
「あ、誰か来ます。」
っと、いよいよか。
「頭、全員中に入りました。」
「よし、ここを抜けたら二手に分かれて行動するぞ。お前達は1階を、お前達は二階だ。」
「「おぅ。」」
二手に分かれるにしろこの廊下を通らなければ先には進めない。
さぁ、はじめますかね。
複数の足音がこちらに向かって来る。
屋敷中の窓という窓には布を垂らしてあるので全体が暗い。
暗いがまだ日中なので、よく目を凝らせば奥が見える状況だ。
食堂をでて俺達が隠れている階段手前までの距離は20mぐらい。
その間に4つの家具を配置している。
それぞれに罠を仕掛けているわけだが、三つ目の家具に相手が到着した時が撤退のタイミングになる。
その時を逃せば襲われる可能性が格段に上がってくる。
相手は人を殺しに来ているプロだ、邪魔をして捕まったら間違いなく殺されるだろう。
まったく、いつものことながら危険と隣り合わせの選択肢しか選ばないよね、おれって。
「なんだこれは・・・。」
「おい、ストリどういうことだ!」
小声ながらも強い語気が伝わってくる。
そりゃそうだよな、廊下に出たらバリケードが作られているんだもん。
「まさか私が来ることがバレている?」
「これを見ても本当に大丈夫だと言えるのか?どう考えても俺達の侵入が読まれているぞ」
「だがこれを逃せば次はない。失敗すれば私達の命が危なくなる。」
「俺達に三度目はない、やるしかないんだ。」
揉めてますなぁ。
だが、向こうは向こうで尻に火がついているのか撤退する感じはない。
「念の為退路は確保しておけ、何かあった場合はすぐに知らせろ。わかったな。」
「了解しました。」
おや、一名食堂で待機ですか。
逃げたとしてもリュカさんに追ってもらえば何とかなるだろう。
残るは7人。
またパリンという破片を踏んだ音が聞こえ来た。
どうやら一つ目の家具に到着したようだな。
こそっと顔を出してみたいところだがまだ我慢だ。
乗り越える時に家具がメキメキとしなる音がする。
どうやら先頭の人物はそこそこの体重のようだ。
「こんな物を置いてどうするつもりなんだ?」
「わからん、だが慎重に行け。」
「わかってるって。」
乗り越えた男がそう軽口を叩いた時だった。
ギシッという音と共にたたらを踏む音が聞こえる。
どうやら紐罠に引っかかったらしい。
「大丈夫か!」
「あ、あぁただの紐だけみたいだ。周りに何もない。」
暗さで足元の紐罠に気づかなかったんだろう。
だがここにはそれ以外に何も置いていない。
これはブラフだ。
敵を警戒させるための大事なフラグでもある。
「家具といい紐といい、どう考えても俺達を狙っているぞ。」
「だが向こうは王女さんとちっこい執事だけなんだろ?」
「たった二人でこんなものを準備できるのか?」
「協力者がいたところで俺達の敵じゃねぇよ。」
「うぅむ、彼らが出て行ったのは確かに確認しました。残されたのはあの二人のはず、もしや彼が直前に用意したのか?」
「なんだストリ、気になる事でもあるのか?」
「あ、いや何でもない。さっさと終わらせて御主人様に報告しなければと思っただけだ。」
ん?
御主人様?
当たり前だけどレティシャ王女の事じゃないよな。
つまりはストリさんも誰かに雇われている?
ストリさんも誰かの依頼を受けたという事も考えられるのか。
全く勘弁してよ。
複数の靴音が廊下に反響する。
その足跡の中で一番近い音。
先頭を歩く足音は先程よりもゆっくりとこちらに近づいてくる。
残るバリケードは後三つ。
そしてここからが紐罠の本領発揮だ。
再び破片の割れる音がする。
二つ目の家具に到着したらしい。
「降りた先にまた何か置いてあるかもしれん、気を付けろ。」
「だから大丈夫だって。」
ギシッという音がする。
廊下は暗いがそろそろ目が慣れてきたころだろう。
「お、やっぱり同じ奴があるな。」
「紐か?」
「あぁ、降りた先に仕掛けてやがる。おんなじ罠に二回もはまる馬鹿がいるかって・・・。」
男の声が急に途切れる。
そして次の瞬間、グラスの割れる音が廊下中に響きわたった。
「この臭い、油か!」
「だから言っただろうが、油断するなって。」
「だから油断しないで紐を先に確認しただろ!」
「別の罠にひっかかってたら世話ねぇよ。」
予想通り太い紐の方にばかり気を取られて手前の細い紐には気づかなかったようだ。
自分で二回引っかからないと言っておきながら残念なやつである。
「くそ!」
だが、その人物の受難はそれだけではなかった。
怒りで冷静になれなかったのか、それとも油が優秀だったのか。
次に聞こえてきたのは大きな何かが落下する音、それと男の悲鳴だった。
「あぁぁぁぁ!!俺の、俺の手がぁぁぁ!」
「どうした!」
「畜生、こんな所にこんな物置きやがってぇぇぇ!」
どうやら家具から落ち、下に設置していたナイフがどうかしたらしい。
男の叫び声が館中に響き渡る。
これじゃあ隠密もくそもないよな。
「くそ、これは巧妙な罠だ!明らかにこっちの動きが読まれている、逃げるぞ!」
「ここまで来て逃げるのかよ!」
「こつの声で俺たちの事がバレた、どう考えても成功しない。」
「待て、失敗すれば私たちに次はないぞ!中には王女とガキ一人だ、急ぎ始末すれば!」
「ここでは俺の命令に従ってもらう約束だ、わざわざ失敗する作戦に足を突っ込む必要はない。」
どうやら相手のリーダーはかなり冷静に物事を判断できるようだ。
仲間が罠にかかったと知りすぐに撤退を進言する。
だが逃げられたらまずい。
裏の裏をかいたことがばれれば敵の動きはより慎重になるだろう。
彼らに二度目はないかもしれないが、彼らの依頼主が別の誰かを雇えばまた王女の命は狙われることになる。
それだけは避けなければならない。
ってことでだ。
「ニケさん、今です。」
逃げ出しそうな相手にはとっておきのエサを用意してあげよう。
俺の合図を受けてニケさんが立ち上がる。
その姿を罠に引っかかった張本人がバッチリと見つけた。
「このアマぁ、逃げるんじゃねぇぇぇ!」
「もしや王女か!」
「バカヤロウ!この家で女って言えば一人しかいないだろ!」
「今すぐ追いかけろ!」
はい、バッチリエサに喰いつきました。
撤退しようといってたのが嘘のように男達の敵意がニケさんに向けられる。
「ニケさん今すぐ二階へ!」
「はい!」
先程までと違い、男達が荒々しくこちらへ向ってくる。
顔を出して確認すると顔を真っ赤にした大男が三つ目の家具に到着する所だった。
「エミリア、衝撃魔法いけますか?」
「いつでも大丈夫です。」
顔を出してもニケさんのほうしか見ていないのか気付く様子もない。
怒りで我を忘れているようだ。
鎮めてやらないとな。
男は家具の上に飛び乗り、そのままこちらに向ってその巨体を翻した。
巨体が宙を舞う。
タイミングは今しかない。
「エミリア!」
「はい!」
男からしたら何が起きたのか理解できなかっただろう。
王女の姿を見つけて飛び出したら、いきなり目の前に別の女が出てきたんだから。
そして気付いた時には反対側へと吹き飛ばされている。
激しい衝撃音が屋敷の窓をビリビリと震わす。
ゆらゆらと揺れるカーテンから、一つ目の家具まで飛ばされて意識を失っている男の姿が優しく照らし出された。
飛んでくる巨体をボールに例えるならばエミリアの衝撃魔法はバットになるだろうか。
ものの見事に打ち返されたそれは放物線を描くように他の仲間を巻き込みながら吹き飛んでいった。
「何だ!」
「くそ、仲間か!」
「魔術師がいるぞ!」
残念、全員巻き込む事はできなかったようだ。
こちらの存在がバレた以上隠れている必要は無い。
俺は立ち上がり用意してあったナイフを棒手裏剣のように投げ始める。
「エミリアは撃ち続けてください。」
「わかりました!」
相手を狙う必要は全くない。
近づかないようにすれば良いだけだ。
それからしばらくは一方的に攻撃を仕掛け、向こうの動揺につけいる事が出来た。
「くそ、一体何なんだ!」
「ストリ!お前のせいだからな、お前が行けよ!」
「王女はすぐそこだ、怯んでないでさっさといけ!」
「援護する!」
「なめるんじゃねぇ!」
5人分の声がする。
ということはさっきのに巻き込まれたのは一人だけか。
大きな図体の割には被害は少なかったな。
文句を言い合うだけで中々こっちに攻め込んでこない。
だが、そんな時間もずっと続くわけではないようだ。
「シュウイチさん、向こうにも魔術師がいます。」
「わかるの?」
「魔力が乱れて上手く魔法を練れません、恐らく向こうの魔術師のほうが位が上みたいです。」
まじか。
エミリアの援護をもらえないのはちょっとまずい。
俺のナイフ投げなんて素人も同然だ。
このままでは・・・と考えていると突然俺の上を何かが通り過ぎた。
通り過ぎてすぐ冷気を感じる。
「シュウイチさん伏せて!」
エミリアに頭を抱きかかえられ柔らかい胸に顔をつっこむ。
あぁ、ここは天国か。
って今はそれ所じゃない。
「撃て撃て!向こうのほうが格下だ!」
「そんな攻撃で俺達とやろうってのか!?」
「行け!援護は任せろ!」
向こうも魔力の感じからエミリアの実力を把握したようだ。
隠れている家具に向って激しく攻撃される。
このままだと家具を貫通してくるかもしれない。
予定よりも大分早いが逃げないとまずいな。
「合図をしたら天井に魔法をお願いします。そのまま一気に逃げますよ。」
返事の代わりにエミリアが小さく頷く。
「なんだ、静かになったぞ。」
「ビビったんじゃねぇか?」
「良いから今のうちに攻め込め!」
俺達の攻撃が止んだのをいい事に向こうの勢いが一気に増す。
もう音では相手が何処にいるのかは分からない。
少しだけ顔を出し状況を確認。
あ、こりゃまずい。
もうすぐそこまで来てるじゃないか。
「3、2、1、今です!」
俺の合図と同時にエミリアの魔法が天井に向って放たれる。
衝撃で天井にぶら下がっていたシャンデリアが落下する所までは確認した。
だが、そんな物を悠長に見ている時間なんてない。
落下を確認する前にエミリアの手を掴んで俺は階段へと駆け出した。
背後で甲高い音が響き渡る。
「畜生逃げたぞ。」
「追え追え!」
「敵は二人だ、なんとかなる!」
あ、ストリさんの声も聞こえた。
残念まだ健在のようだ。
こけそうになりながら階段を二つ飛ばしで駆けあがる。
ちょうど二階部分に顔が出た時に、上で待機していたニケさん達と目が合った。
「来ますよ!」
「任せて!」
反対側の階段はリュカさんにお任せだ。
俺達はこっちの階段を死守すればいい。
「お前達は奥の階段から行け!私はこっちから行く!」
「わかった!」
「ストリ、後でたっぷり請求してやるから覚悟しとけよ!」
「金で済むならいくらでも払ってやる!」
廊下を抜けて反対側に向ったのが二人。
という事はこっちは三人か。
階段を使った防衛の場合、防衛側はものすごい有利だ。
攻め手の視野は狭いのに守り手はものすごく広い。
それだけじゃない、重力も味方につけてほぼ無双状態だ。
「見つけた、奴等だ!」
俺達が階段を上りきる前に敵が俺達の姿を捉えた。
だが次の瞬間、見上げた顔めがけてニケさんからとっておきの奴をかけられる。
「ぎゃあぁぁぁ、顔が目がぁぁぁ!」
先程用意したお茶用の熱湯。
それが見事に顔にクリーンヒットする。
顔はともかく目に熱湯かけられた場合って大丈夫なんだろうか。
いや、大丈夫じゃないよね。
「くそ、仲間が他にいるのか!」
「おいストリ先に行けよ!」
もがき苦しむ仲間を助けず階段の下で誰が行くかの押し付け合いだ。
そんな奴には別のプレゼントを差し上げるとしよう。
「これでも食らえ!」
今度はアル君が横から油の入った壷を蹴り飛ばす。
中に入った油が階段中に広がった。
「もういっちょ!」
次に落とされたのは腰の高さぐらいある小さなチェストだ。
ドタバタと激しい音をたてながらチェストが階段を滑り落ちる。
無事な二人は難なくよけれるだろうが、下でもがき苦しんでいる奴はどうにもいかない。
先程まで響いていた叫び声がチェストが一番下まで落ちると同時に聞こえなくなった。
合掌。
「こっちは無理だ、反対側に回れ。」
「お前はどうするんだよ!」
「私はここから様子を伺う。」
「そんな事言っていつもみたいに逃げるんじゃないだろうな!」
あ、いつも逃げてるんだ。
よくいるんだよね、あれこれ口だすわりには何かあった時に現場に責任を押し付ける奴。
そんなやつと一緒に戦わないといけないなんて同情するよ。
ストリさんに文句を言いながらもう一人が廊下を走っていく音が聞こえた。
残るはストリさんのみ。
そのストリさんが大胆にも階段を半分駆け上がり俺を睨みつけた。
見た目はいつもの老人の姿だが、明らかに雰囲気が違う。
「どういうことか説明していただけますかなイナバ様!」
「説明も何も見ての通りですよ。」
「貴方は馬車に乗ってニケ様と行ったはず・・・」
「さぁ、どうでしてでしょうね!」
声が明らかに違う。
何だろういきなり40代ぐらいまで若返ったような感じだ。
見た目がそのままだけにものすごい違和感がある。
っていうか何で俺がいると分かったんだ?
逃げ出す時も顔を晒さなかったはずだし、ばれる要素は無いはず。
ってそうか、さっきエミリアが俺の名前を叫んだからか。
ストリさんならそこで気付くよな。
でもまさかここにいるとは予想していなかっただろう。
焦りの色が見える。
だがその顔もすぐに自身ありげな顔へと変わった。
「しかし、どうするつもりですか?逃げ場はなく向こうからは私の仲間が迫ってきますよ。今王女を差し出せば命は助けて差し上げます。どうです、悪い話では無いでしょう。」
「悪い悪くないではなく逃げるなんて選択肢はありえません。むしろそちらのほうが逃げたいんじゃないですか?」
「私が逃げる?ご冗談を、どうして私が逃げるというのですか。」
「そりゃあ、相手が悪いからですよ。」
「相手が悪い?そちらには素人、こちらは殺しのプロですよ。今すぐにでも貴方達の命を・・・。」
殺しのプロ?
それがどうした。
こっちにはもっと強い味方がいるんだよ!
ストリさんの自信ありげな顔が、突如聞こえてきた轟音と共に引きつっていく。
あーあ、壊しても良いとは聞いていたけどそこまでやっても良いとは言ってないんだけどなぁ。
もう一箇所の階段側からモクモクと土埃が漂ってくる。
うめき声や悲鳴さえ聞こえない。
向こう側から攻め込んだ人がどうなったかは想像する必要すらないだろう。
「それで、私達の命をどうするんですか?」
顔を引きつらせたストリさんを上から見下ろす。
裏をかいたつもりだっただろう。
レティシャ王女を殺せる、そう思って自ら実行犯と共にやってきた。
だが蓋を開けてみればどうだ。
仲間は皆倒され、残されたのは自分一人。
積み上げてきた自信はもろくも崩れ去ってしまった。
それじゃあ最後の仕上げといきますか。
「レティシャ王女を殺すつもりでやってきたようですが、そんなストリさんに残念なお知らせをしなければなりません。」
「これ以上残念な事がまだあると?」
「えぇ、命がけでやってきた皆さんには申し訳ありませんが、ここにレティシャ王女はいません。」
「王女がいない?そんなはずは無い。私は確かにこの目で王女を見ている。」
「それはこの人のことですか?」
俺の手招きでニケさんがゆっくり歩いてくる。
まるで本当の王女様のように。
階段半ばで中身が飛び出るんじゃないかというほど目を見開いたストリさんに向って、ニケさんが優雅にお辞儀をした。
「ここにいるのは囮になったニケさんだけですよ?」
「そんな・・・そんな・・・。」
最後の望みすら絶たれ、ストリさんはその場に座り込んでしまった。
そうだよな、レティシャ王女がここにいると信じて乗り込んできたんだもんな。
残念だったね!
「さて、洗いざらい白状してもらいましょうか。」
「やっほ~、こっちは終ったよ!」
「あ、お疲れ様ですリュカさん。」
「エミリアもお疲れ様。いや~、久々に悪者と戦うと気分が昂ぶるね!ついついやりすぎちゃった。あれ?こっちはまだお取り込み中?」
「やりすぎないでくださいねと言った筈ですが・・・まぁ終りよければ全てよしです。」
かっこよく決めようとした所に能天気なリュカさんが帰ってきた。
ほんと、この人は加減というものを知らないんだろうか。
請求書が来たら全部向こうに回してやる。
「終りよければ・・・?ハ、ハハ、アハハハハ!そうだ、その通りだ!終わりさえ辻褄が合えばそれでいいのだ!」
突然座り込んでいたストリさんが壊れた玩具のように笑い出す。
「レティシャ王女さえ死ねばそれで良い、それは別に本人でなくても構わない!」
「危ない!」
一瞬の出来事だった。
まるでバネ人形のように突然飛び上がったストリさんがニケさんめがけて何かを発射する。
考えている余裕はなかった。
でも、考えずに体だけは動いた。
スローモーションで世界が動いている。
そういえば前回もこんな感じだったんだっけ?
ニケさんめがけて飛んでくる何かに向って腕を伸ばす。
鈍い衝撃と共に俺は思った。
また右腕か。
消え行く意識の中、俺は・・・。
「い!ったくない・・・?」
不思議と痛みはなかった。
もちろん意識も消えなかった。
最後に放たれたのはどこかに仕込んであった飛びナイフだったようだ。
だがそれは、俺の肩に刺さる何かによってはじかれたしまったらしい。
同じ場所に傷を負いそうになるなんて運がいいのか悪いのか。
でもまぁ無事だしまぁいっか。
最後の一手すら防がれ、本当に崩れ落ちるストリさん。
それと、何かを言いながら俺に向って走ってくるエミリア。
そんな二人を交互に見ながら俺は何故か笑っていた。
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