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第八章

子供はお好きですか?

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「仰っている意味が良く分からないんですが。」

「別に難しい事を言っているわけではない、お前にはこの村の抱えている問題を解決して貰いたい。報酬は酪農を営むのに必要不可欠な情報、それと村との良好な関係だ。」

「なるほど、はじめからそのつもりで私を連れてきたんですね。」

「この問題は春頃から認識されていたんだが適任者が中々見つからなくてな。そこにお前の話が来たものだからあの方が飛びついた、というワケだ。」

「酪農の話は他ではしていないはずなんですが。」

「領内での会話が領主に届くのは当然の事だろう?どうやってかは聞かないのが決まりだ。」

平和な世の中ほど諜報の重要性は高くなる。

もちろんメルクリア氏が話を持っていったという可能性もあるが、そうでないのならば俺も監視対象の一人だということだ。

もちろん、目をつけられているわけではなくあくまでも情報収集としての、だが。

そう考えるとあまりふざけた事もいえないなぁ。

何処で聞かれているかわかったもんじゃない。

「つまり、私はこの話を受けるしかないというワケですね。」

「悪い話では無いだろう?お前は銀よりも価値のある情報を手に入れ、この村は問題を解決出来、そして・・・。

「あの方の領主としての株が上がる。」

「それだけではないぞ。」

それだけじゃない?

名声の為じゃないとしたら他に何がある。

良くあるのは地位か名誉か・・・あぁ、なるほど。

「税金が増えるわけですか。」

「さすが良くわかっている。」

イアンが俺の答えを聞いてニヤリと笑った。

先日そんな話をしたばかりだ。

冒険者の価値を上げるためにはどうするのか。

確かそんな話だった気がする。

そうだよな、地位でも名誉でもなければ金しかない。

領主様個人がお金を欲する事は無いだろうから、領内のお金つまりは税金という事が考えられる。

考えられるのだが、俺が問題を解決すると税金が増える。

そして、解決するべき問題にこのチーズが絡んでいる。

うーむ、わかるようでわからん。

「謎掛けは結構だが、私達にもわかるように説明してくれないか?危ない事をさせようとしているのであれば妻として許容できない事もあるぞ。」

「それについては私から御説明させていただきます。」

選手交代。

今度は村長さんの番のようだ。

「我が村の特産品であるこのチーズが昨年の秋に入ってから急に売れなくなってきたのです。いえ、売れてはいるのですがその量が明らかに少ない。この春頃から特に顕著になり、現在は例年の半分しか販売できておりません。このままでは昨年の税が払えず村が潰れてしまいます。」

「味は皆さんに御納得していただいたとおりです。昨年よりも良い物が出来たにもかかわらずこの有様、一体何がいけないんでしょうか。このままでは産まれて来る子供に満足な食事を与える事もできません。」

「主な販売先はどこになりますか?」

「月に2~3度私が街に売りに行きます。定期で購入してくださっている方は引き続き購入してくださっているのですが、露店での販売が思わしくありません。」

ふむ。

定期購入の数は変わらず、新規顧客の獲得に失敗しているのか。

それに加えて定期購入では無いリピーターの販売減だ。

通常、新規のお客さんって言うのは増えるものじゃない。

よっぽど珍しいものでもない限り購入数は大体同じだ。

じゃあ露店での売上を支えているのは誰か。

それが定期購入はしていないリピーターの皆さんだ。

新規から常連になり毎回買って行ってくれるありがたい存在。

そんな人が減ってしまったのが原因の一つだと考えられる。

問題は『何で減ったのか』。

それがわからない限りは手の施しようが無いぞ。

「これまでの販売を100として現在は50といった感じだそうですが、下見だけの人も少ないんですか?」

「そうですね、今まででしたら話だけでも聞いてくれる方がいましたが最近は少なくなったように感じます。」

「何か対策はされましたか?」

「それはもう!場所を変えてみたりこちらから声をかけたりと出来る限りの事をしました。ですがこの有様です・・・。」

うーむ。

これだけ美味しければ引く手数多だと思うんだけど・・・。

「どうだ何とかなりそうか?」

「正直に言って話を聞いただけでは何とも。出来る事はいくつかありますが、ここで何かするよりも現場の状況を見るほうが良さそうです。」

「という事はサンサトローズに戻るのか?」

「それがいいと思います。次は何時売りに行きますか?」

「次の聖日に行く予定をしていました。」

という事は明日か。

明日行ってすぐ結果を出すのは難しい。

ここは事前に根回しをしておくべきだろう。

しっかし、毎度の事ながら時間がないなぁ。

「この問題は何時までに解決しなければいけないんですか?」

「秋には納税の期日がある、早ければ早いほうがいいだろう。」

「どうか我々をお助け下さい。」

「出来る事は何だってします、もうイナバ様しか頼る人はいないんです。」

とか言われてますけど、ただの商人に何させようとしているんだか。

この村も大変だろうけど、俺達の方も大変なんだぞ?

商店だって何時までも任せておくわけにも行かないしだなぁ・・・。

「村長殿、シュウイチはああ見えてやるときはやる男だ、安心して待っているがいい。」

「本当は我々が何とかしなければならないのですが、情けない限りです。」

「領民の救済はプロンプト様の務めだ。あの方が出来ると判断したのだから大船に乗ったつもりでいればいいだろう。」

「シュウイチさんはいつも何とかしてしまいますから。」

みなさん好き勝手に行ってハードルあげるの辞めてくれませんかね。

特にうちの奥様二人!

俺の味方じゃなかったんですか?

「とりあえず明日の販売には私も同席します。ですが、行ってすぐに結果を出すのはなかなか難しいので一足先に状況を確認しておこうと思います。調べておきたい事もありますので。」

「明日は何処に行けばいいのでしょう。」

「いつも通りにお店を準備しておいてください、こちらで探します。」

「わかりました、お待ちしています。」

とりあえず現場を確認しない事には始まらない。

それに加えてどういう状況なのかも確認しておかないと。

大変な目にあったけど、商業ギルドとコネが出来たのはこういうとき助かるな。

それとは別に彼にも話を聞いておこう。

何か知っているはずだ。

「と、いう事ですので申し訳ありませんがサンサトローズに戻ります。バスタさん超特急でお願いできますか?」

「お任せ下さい!」

「イアンさん、構いませんよね?」

一応引率者の意見も聞いておかないとまずいだろう。

「解決してくれるのであればなんでもいいぞ。」

「それと、街に戻ったら調べて欲しい事があるんですがお願いできますか?」

「極秘事項で無ければ問題ない。」

「シュウイチ、私達にも手伝える事はあるか?」

「もちろん二人にも協力してもらいます。」

手伝ってもらわないと間に合わない。

時間が無いので今回も人海戦術でいくとしよう。

「メザン様ゴーダさん、今日はありがとうございました。乗りかかった舟です、何処までできるかわかりませんが頑張らせていただきます。」

「急なお願いで本当に申し訳ありません、どうぞ宜しくお願いいたします。」

「どうか宜しくお願いします。」

二人が深々と頭を下げる。

ここまで言われてやっぱやりませんとは言えない。

押し付けられた感はあるけどこれもなにかの縁だ。

ここで恩を売っておけばこの後色々といい事があるかもしれない。

人の苦労は買ってでもしろ。

それが自分に戻ってくるのであればやらない理由は無いよな。

「では行きましょうか。」

善は急げだ。

今から戻れば夕刻までには到着できるだろう。

二人に見送られ俺達は村を後にする。

っと、そのまえに・・・。

「ゴーダさん!」

全員が馬車に残り込んだ所でやり忘れていた事を思い出した。

「どうされましたか?」

「申し訳ありませんがこれをギルドに持って行ってもらえますか?」

「そういえばそういうお約束でしたね。」

皮袋から討伐したフォールフィッシュの残骸を取り出す。

ちなみに中身はスタッフが美味しくいただきました。

「お手間ですが手続きをお願いします。」

「お任せ下さい。」

「報奨金はどうぞそのままお持ちください、私達からの出産祝いです。」

「そんなそこまでしていただくわけには・・・。」

「お願いしましたからね!」

返事を聞かずに俺は馬車に乗り込みバスタさんに出発を指示する。

シートベルトは無いので近くの紐を掴んで出発のGに耐える仕様だ。

「と、いう事でお渡ししてしまいました。」

「シュウイチがそれでいいのなら私達は別に構わないぞ。」

「元気なお子さんが生まれるといいですね。」

「急な話でしたがお子さんの為にも何とかしてあげなければなりませんね。」

「その通りだ、しっかり頼むぞ。」

「貴方はププト様の為ですよね?」

「何を言う、領民の平穏の為だ。」

どの口がそれを言うか。

イアンはププト様の忠実な部下、あの人の命令を遂行するためには手段は選ばない男だ。

口ではああいっているが、内心はうまく行けば何でもいいと思っているに違いない。

これまで何度も打ち合わせをしているが、よっぽどの理由が無ければこの男を納得させるのは難しい。

逆を言えばしっかりとした根拠があれば、受け入れてくれる。

理不尽に前例が無いからというような理由だけで全て断ってくるお役人様とはそこが違うな。

「生まれたら是非顔を見てみたいものだ。」

「可愛いお子さんが生まれるんでしょうね。」

「二人で触らせてもらったのだ、近いうちに私達も同じようになる。」

「そうですよね。」

ちょっとお二人とも、真昼間から家族計画について話すのはやめてくれませんか?

エミリアさんチラチラとこっちを見るのは辞めなさい。

シルビア様も堂々とこっちを見ない。

他の人の目もあるんですよ!

まだそういうことすらしてないじゃないですか。

つい勢いで胸までは揉みましたけど、そんなその先までは・・・。

「こんな美人に迫られるとは贅沢な男だな。」

「傍から見るとそうなるんでしょうか。」

「そうなるな。だが、子供はいいぞ可愛いし見ていて飽きない。」

と、いつもはヤのつく自由業の方のように怖い顔をしたイアンが突然表情を崩した。

「子供が居るのか?」

「あぁ、王都に2人。」

「おいくつなんですか?」

「8つと3つ、いやこの秋で4つか。」

結婚はしていると思っていたがまさか子持ちとは。

強面で仕事をこなすイアンも子供の前では普通の親か。

この感じ子供好きと見える。

人は見かけによらないな。

王都から出てきているという事は単身赴任になるのか。

俺には子供が居ないからわからないが、近くで成長を見れないというのは寂しいものだろう。

「王都という事はププト様に仕えているとあまりお会いできないんですね。」

「そうでもないぞ月に何度かは所用で王都へ出向くし、定期的に長期の休みを貰っている。私は構わないのだがあのお方が休まないとうるさいのだ。」

「プロンプト様も子煩悩だからな、気を使っているのだろう。」

「俺としては早く王都に上がってもらうと助かるのだが、残念ながらそんな野心は無いようだ。それに、あの方はここの領主である事に誇りを持っている、自分の跡継ぎが見つかるまでは治め続けるだろう。」

何というホワイト企業。

元の世界では有給使うな休日出勤しろとうるさい上司しか居なかったのに。

まさか早く休め出てくるなという上司が居るとは思いもしなかった。

王都に上がるというのは出世して貴族院か元老院に入る事を指すのだろうが、その気無しというのはなんだか分かる気がする。

あの方は現場で仕事をしていたいタイプの人間だ。

もっとも、それに振り回されて大変な目にあっている身としては其れがいい事だとはいえないけれど。

「私にも12になる息子が居ますが大きくなっても可愛いですよ。」

え、ちょっとまって。

バスタさんにも子供?

しかも12歳ってバスタさん一体いくつよ。

もしかして結構年上だったりする?

「12か、その頃には上の子は騎士団にでも入っているだろう。」

「王都の騎士団には良い人材が多い、イアン殿の御子息ならばきっと良い団員になることだろう。」

「あのもやしっ子が立派になれればいいが。」

「子供は親の背中を追いかけて大きくなる、イアン殿の背中であれば追いかけ甲斐もあるだろう。」

「そうだといいが。」

こんなこと言うと失礼だが、いつも難しい顔をしているイアンが優しい父親の顔をしている。

子供が出来ると人は変わるというが、なるほど間違いないようだ。

「下のお子さんも男の子ですか?」

「いや、下は女だ。」

「女の子!可愛いんでしょうね。」

「親が言うとあれだが可愛いぞ、将来は妻に似て美人になるだろう。」

「ふふふ、お父さんとしては複雑ですね。」

「俺も義父上とは何度もやりあった、それぐらいの男であればむしろ楽しみだ。」

子を持つと一人の人として生きるほかに親として生きる道が増える。

どちらも大変な道だが後者には楽しみが多い。

イアンの顔を見ていると子供を持つのも悪くないと思えるな。

なんだかんだ言って俺も30だ。

この冬が来れば31になる。

もっとも、正式なカレンダーが無いので適当だけど。

子供なぁ・・・。

この二人の子なら絶対に可愛いだろう。

遠縁の親戚に子沢山の人が居たっけ。

大変そうだったけどいつも嬉しそうな顔をしていた。

「私は女の子がいいです。」

「私はやはり男だな。立派な男に育て上げてみせよう。」

「シュウイチさんはどっちがいいですか?」

「え、私ですか?」

「お前以外の誰が居るんだ。」

「そうですねぇ、何人でも構わないです。」

「こんな美人だったら何人でも欲しいか、さすがだな!」

ちが、そういう意味じゃなくて。

エミリアは顔を赤くしない!

シルビア様も満更でもない顔をしない!

そしてバスタさん前で笑わない、聞こえてますよ!

っていうか誤解を生むような解釈しない!

「まったく、勘弁してくださいよ。」

「お前もいい年だろ、老ける前に頑張る事だな。」

「将来の身の安全を確保できたら考えますよ。」

「なるほど目標を達成すれば考えるんだな。やるぞ、エミリア。」

「はい頑張ります!」

「いや、そうじゃなくてですね・・・。」

よくわからないが二人が異様に盛り上がっている。

俺だって来年の命が保障されているのなら考えてもいい。

だが今のままでは来年は保証されていない。

自分の為にも、いや二人の為にも、『今』を頑張るしかない。

「がんばりましょうねシュウイチさん。」

「私達がついている、任せておけ。」

「ついでに今回の件もしっかり頼むぞ、これが終われば俺も休暇だ。」

本音はそれかよ!

でもこれが終わったら子供に合えるといわれるとイアンの為にも頑張らないわけにはいかなくなった。

まだ陽は高い。

四人を乗せた馬車は超特急でサンサトローズへの道を進んでいく。

今の頑張りが今後の未来につながると信じて。

男イナバシュウイチ、頑張らせていただきます!

あ、とりあえず仕事をね。
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