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第八章
計画には計画が重要
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青空の下、ただ何事も無い日々を祈ったそのすぐ後に。
恐ろしい形相でこちらを睨む夜叉が一人。
え、誰かって?
うちの奥さんです。
「エミリア誤解です、話せばわかります。」
「是非納得の行くご説明をお願いします。」
「私も是非聞かせて欲しいわ。」
「ご主人様、逢引をするのであればちゃんと説明しておかないからこんな事になるんです。」
「「逢引!?」」
ちょっとユーリさん、話がややこしくなるので変なこと言うのはやめなさい。
「私というものがありながらフィフティーヌ様にまで手を出すなんて・・・。」
「あら、私手を出されたの?」
「出してませんよ!」
「じゃあどうしてフィフティーヌ様のイヤリングを持っているんですか!」
「それは倉庫の奥で拾ったからです。」
「そんなばれる様な嘘どうしてつくんですか!」
「嘘はばれないようにつくんですよ、ご主人様。」
よしユーリ黙れ。
「そもそも忙しくてそんなことする暇が無かったのはエミリアが一番知っているんじゃないですか?」
「・・・確かにシュウイチさんはここ最近ずっと忙しくされていました。」
「そうでしょう。エミリアとシルビアがいるのにこれ以上手を出すなんて器用なこと私には出来ませんよ。」
いや、そもそも誰にも手を出していないんですけどね?
一応念のために弁解しておきます。
ヘタレといいたきゃ言えばいいさ!
「つまり私には手を出す価値も無いというワケね?」
「いや、そういうわけじゃなくてですね。」
「じゃあ出すの?」
「・・・これ以上は話がややこしくなるので止めませんか?」
「あら残念、ここからが面白いのに。でも久々にエミリアの怒った顔も見れたしこれぐらいで許してあげるわ。」
「ありがとうございます。」
まったく、突然現れたと思ったら面倒な事起こすんだから。
自分の上司じゃなかったらキレてる所だ。
「えっと、つまりシュウイチさんはフィフティーヌ様に手を出していない?」
「精霊様に誓って手を出していません。」
「じゃあどうして逢引だなんて。」
「それはそこにいるユーリが・・・っていないし!」
「そこにたダンジョン妖精ならさっき商店に戻って行ったわよ。」
おのれ裏切り者、話しをややこしくするだけややこしくして逃げるとは。
あとで覚悟しておけよ。
「とりあえず落ち着いて話しをしましょう。はい深呼吸、吸って~吐いて~また吸って~はいて~。」
「す~は~、す~は~。はい、落ち着きました。」
「では改めて説明しますからちゃんと聞いてくださいね?」
「はい。」
「仕方ないわね、聞いてあげるわ。」
相変らず上から目線だなこの人は。
まったく根っからのお貴族様というのは困ったものだ。
「私があのイヤリングを拾ったのは先ほどエミリアに頼まれた倉庫の片づけをしている時です。棚と棚の隙間に落ちて埃が積もっていました。メルクリア様、そのイヤリングを無くしたのはいつ頃ですか?」
「夏が始まる前かしら。ちょうどこの店の改装をしている頃ね。」
「あの倉庫に棚が置かれたのが丁度その頃、埃のつもり具合から同時期にその場に取り残された事が推測されます。もし仮に夏節になってから落としたのであればあそこには荷物が置かれていますので隙間に入ることは無いでしょう。」
「でもメルクリア様と黙って逢引していたら・・・。」
この娘はまだ言うか!
「失礼ですがメルクリア様そんなことしている暇ありました?」
「あるわけないじゃない。こっちは毎日毎日くだらない会議に食事会に挨拶に大忙しよ。一緒に仕事をした貴女ならわかるんじゃない?」
「確かにフィフティーヌ様は毎年この時期非常にお忙しいです。」
「と、言う事で私もこの夏はバタバタとしていましたし物理的にそのような事を行なう時間は無かったんです。つまり私は無実という事ですね。」
「誰がそれを証明するのかしら?」
「この夏私が忙しくしていたことに関わった全ての人が証明してくれるでしょう。エミリアも含めてね。」
逢引している暇がむしろ欲しかった。
そんな暇も無いぐらいに忙しかったんだから。
これ以上大変なのは勘弁していただきたい。
「と、言う事よ、よかったわねエミリア。」
「はい、私の勘違いだったようです。」
「無実が証明されてホッとしました。」
「私はお気に入りのイヤリングが戻って感謝しているわ。」
俺があそこでイヤリングを拾わなかったらここまで話がややこしくなる事はなかったわけだけど・・・。
でもまぁ丸く収まったしいいか。
それよりも。
「今日来られるという事は聞いていませんでしたが、どうされたんですかメルクリアさん。」
この人が来た理由がわからない。
いや、上司だから来てもいいんだけどさ。
催しも終わったし今更来る理由は何だ?
「上司が部下の様子を見に来ちゃいけないの?」
「そういうワケではありませんが、お忙しい中『ワザワザ』来られた位ですから何かあるのかと思ってしまうわけです。」
「確かにそうね。」
「そうですねこういう場合上司に報告する内容としましては、先日の催しが成功したおかげで売上は順調に伸びています。ダンジョンも10階層まで広がり、秋頃には15階層に広げられるでしょう。」
「それに関してはエミリアから報告を受けているわ。貴方の首を狙っている身としては些か残念ではあるけれど、商店連合の人間としてはここまで短期間で売上を回復させた手腕を認めざるを得ない。」
認めてもらえるのは純粋に嬉しい話だ。
一応会社に所属して給料を貰ってるわけだし、自分の頑張りを評価される事に慣れていない元ブラック企業社員としては少々こそばゆい。
「これもひとえにエミリアを含め手伝ってくださっているみんなのおかげです。」
「自分の手柄にしないところもいやらしいわね。」
「事実ですから。」
「そんな、シュウイチさんが頑張ったおかげですよ。私なんて何にも・・・。」
「エミリア、ここは大人しく褒められておくものよ。」
「はい、すみませんでした。」
「別に怒っているわけじゃないの。むしろこんな男の下でこれだけの結果を出している貴女の事を商店連合としても高く買っているんだから。」
「ありがとうございます!」
こんな男でどうもすみません。
というかさ、何このエミリアと俺に対する態度の違い。
ひどくない?
「問題があるとすれば街づくりが滞っている所でしょうか。」
「あら、あれだけ開拓してまだ足りないの?」
「これから収穫期に入りますので開拓は一旦中断します。再開できるとしたら冬に入ってからですので、それまでに具体的な入植方法と開発構想を立ち上げなければなりません。」
「入植方法はわかるけど開発構想っていうのは良くわからないわね。」
「闇雲に村を拓くだけでは人は増えません。これから何を軸にして村を大きくしていくかをしっかりと考えておかなければ計画は頓挫するでしょう。」
シムシティ系のゲームでは何をコンセプトに街を作って行くかでやり方が変わって行く。
ただ適当に家や工場を建てれば渋滞や公害の問題ですぐに積んでしまう。
仮に考えたとしても予期せぬ問題で詰まってしまうわけだが、主軸がしっかりしていればそれを念頭において再開発を行なえるのでブレが少なくなる。
最近やったシティーズ〇カイラインとかは渋滞問題の解決だけじゃなく死体の問題でも頭を悩ませた。
奴等どんどん死んでいくんだもん!
霊柩車増やしても増やしても追いつかないしさ。
これも全て渋滞が悪いんだ。
一方通行万歳!
地下鉄万歳!
高速道路万歳!
おほん。
「なによ、これからについて何か助言がいるかと思って来たのに杞憂だったみたいね。」
「いえ、来てくださってよかった。この手の話には上司の許可が必要になりますから。」
「具体的な話も決まっているわけね?」
「ここで話すのもなんですし、よろしければ商店のほうへどうぞ。最近いい茶葉が手に入ったんです。」
「仕方ないわね、呼ばれてあげようじゃない。」
「と、いうことですのでメルクリアさんを応接室までおねがいできますか?」
「お任せください。」
「貴方はどうするの?」
「大切な話しをするには些か汚れすぎましたので。」
水を運んでいた時に何度もこぼしてしまい足元はどろどろだ。
上司と大事な話しをするのにこの格好はまずい。
ちゃちゃっと着替えて商店へ戻る。
「イナバ様、丁度お茶がはいったところです。」
「ありがとうございますセレンさん、エミリアはお店に戻りました?」
「いえ、応接室だと思いますが・・・。」
「ありがとうございます。」
セレンさんからお盆を受け取り三人分のお茶を運ぶ。
この前仕入れたミントのような香りのするお茶だ。
暑い日はさっぱりとした飲み物に限るよね。
「あとで甘いものもお持ちしますね、丁度パイを焼いているんです。」
「それは楽しみです。」
美味しいお茶には美味しいお菓子がよく合う。
セレンさんのパイなら申し分ないな。
応接室からはなにやら楽しげな声が聞こえてきた。
そういえば二人は上司と部下であると同時に仲のいい友人だったな。
下の名前で呼ぶ事を許されているわけだし。
メルクリア女史。
本名メルクリア=フィフティーヌ。
名門メルクリア家の長女にして次期当主。
元老院に所属する名門中の名門の一人娘となれば普通はおいそれと下の名前で呼ぶようなことは無いはずだけど・・・。
よっぽど仲がいいんだろうな。
「失礼しますお茶をお持ちしました。」
「どうぞ!」
たまには俺がお茶を運んでもいいだろう。
いつも運んでもらってばかりだし。
ドアを開けると楽しそうな二人の姿が見えた。
エミリアが俺の顔を見るなりニコッと笑う。
それを見てメルクリア女史がこちらに振り返った。
「あら、あなたがお茶を運ぶなんて殊勝な心がけじゃない。」
「いつも運んでもらってばかりですから。」
「そうやって言いながら女にお茶くみばかりさせる馬鹿な奴がいるのよ。」
「シュウイチさんはそんな事しませんよ?ご自身で美味しいお茶を入れてくださいます。」
「今日はセレンさんに淹れてもらいましたけどね。あ、後で美味しいパイを持って来てくださるそうです。」
「セレンさんのパイはお店に出せるぐらい美味しいんですよ。」
「それは楽しみね。」
二人の前にお茶を並べてエミリアの横に座る。
ふぅ、やっと腰を落ち着けられた。
なんだかんだやってゆっくり休んでなかったな。
「それで、話しを聞かせてもらおうじゃない。」
「ある程度構想はまとまっていますが、それを実現するに至っての具体的な情報が揃っていませんのであくまでも一つの考えと思って聞いてください。」
「貴方の事だから全部決まっていると思っていたけどそうじゃないのね。」
「私がいつも完全な答えを持っているわけじゃ有りませんよ。」
「それを聞いて安心したわ。」
別に天才でも賢者でもない。
俺はただの商人だ。
今までもこれからもそれは変わらない。
「収穫が終わるまでは定期便でやってくる労働力を含めて使うことは出来ませんので、具体的に動くのは収穫後寒くなってからと考えています。エミリア、このあたりに雪は降りましたか?」
「たまに降りますが積もるほどではありません。」
「水路の造成計画は同じ時期でしたね?」
「予定では冬の間に終わらせて来年の種まきに間に合わせる予定です。」
「つまり労働力の大半はそっちに持っていかれるわけね。残った労働力で一体何をするつもりなのかしら。」
「この冬の間に残った労働力でこの土地を検地しようと思っています。具体的には今後開拓できる場所と範囲、農地の広さ、想定される収穫量等です。農地だけでなく居住地や商業地の決定も同時に行ないます。」
まずは地図を作る。
何処に何を作るのか。
それはどれぐらい大きくなるのか。
計画の計画をするわけだな。
「確かにそれなら少ない労働力でも出来るけど、それでどうするの?」
「居住地が決まれば入植出来る人間の数がわかります。住む人間の数がわかれば必要な建物の数が決まります。建物の数が決まればそれに必要な労働力資材資金の計画が立ちます。そして出た答えの数だけ入植者を募集しその人たちに建物を作ってもらえばいいんです。来年の夏までに入植できれば労働力も人口も増えて一石二鳥です。」
「それなら早いほうがいいんじゃないの?」
「いくら早くても労働者の手が開くのは冬ですから、それまでは準備をするしかありません。」
「それで入植計画は完璧というわけね。それじゃあ次は開発構想かしら?」
入植計画は次の夏までに完了させる必要がある。
そうじゃないと俺の首が飛ぶからね!
だけど次は早急に行う必要の無い内容だ。
「先ほども言いましたように闇雲に村を拓くだけでは長期的に人は増えません。農業だけではこの村に成長する未来は無い、村が街になる為には直接お金になる産業が必要だと考えています。」
何をするにしてもまず必要なのがお金だ。
もちろん労働力も必要だが、最悪労働力はお金で買える。
そのお金を増やす事がこの村を発展させる為に必要な条件だ。
ではどうするのか。
農業に変わる外貨を稼ぐ手段を作ればいい。
「産業ねぇ。」
「例をあげられるとすれば、『酪農』や『製紙業』でしょうか。」
「酪農はわかるけど紙をワザワザ産業にするの?」
「現在使われている紙には不純物が多く余り綺麗とはいえません。依頼の張り出しや日常生活で使う分にはそれで構いませんが、公的な書類を扱う皆さんとしては少しでも綺麗な紙のほうが望ましいのではありませんか?」
「確かにそれなりの身分の方に出す紙には気を使うけど、それが産業として成り立つの?」
「それに関しては調べてみないとわかりません。木材の材質、水との相性、それに皮を剥がし煮つめ漉き固める作業も必要です。幸いここは木材と水に困る事はありませんので材料の輸送などに困る事は無いでしょう。産業として成り立つかどうかはそれを調べつつ市場の需要を確認する必要があります。」
「もしそれが可能だとして、貴方はここを工業都市にでもするつもり?」
「残念ながらそれは不可能でしょう。いくら材料があっても物流が悪いので軌道に乗せるにはものすごい時間と労力を必要とします。商業として成り立たせるだけでも5年いえ10年はかかるでしょう。」
物流は血の流れだ。
血の流れは商売で言うお金の流れになる。
いくら産業が発達しても流れが悪ければ発達しない。
それに、このやり方では短期で稼ぐ事はできない。
だが、長い目で見ればお金になるかもしれない。
何かを成す時には短期計画と長期計画二つの計画が必要だ。
短期計画は短時間で目に見える結果を作り上げるもの。
長期計画は長時間で巨大な結果を作り上げるものだ。
短期計画だけでは成長は無いし、長期計画だけでは企画倒れになる場合が多い。
その両方が上手くかみ合う事で初めて物事はうまく行く。
「つまりは将来を見据えて計画を立てる必要がある。」
「さすがメルクリアさん。仮に製紙業を興すのであればその場所を予め準備しなければなりませんし、それを興すだけの資金をためる必要も出てきます。」
「その資金をためる方法が、酪農というわけね。」
「あくまで一つの案ですが、ププト様の計画ではこの村の農地は今後3倍いえ5倍に広がるはずです。そうなってくると人の手では中々追いつかない。そこで必要なのが人の何倍もの力で作業が出来る動物なんです。」
「確かに牛を使えば耕すのは楽になるし、乳を売ればお金も稼げる。だけどその牛をどうやって調達するつもり?結果の出ない事に商店連合はお金を出すつもりは無いわよ。」
それはごもっともな話しだ。
帰ってくる当てのないお金を貸すことなどありえない。
では、どうるすのか。
さっきからどうするのかばっかりだな。
何かを始めるというのは非常に手間がかかる。
終わりの見えない問題に俺は答えを積み上げていく。
一見無駄に見えるその行為。
それが今の俺に出来る唯一の事だ。
「メルクリアさん、イナバシュウイチという男に投資するつもりはありませんか?」
恐ろしい形相でこちらを睨む夜叉が一人。
え、誰かって?
うちの奥さんです。
「エミリア誤解です、話せばわかります。」
「是非納得の行くご説明をお願いします。」
「私も是非聞かせて欲しいわ。」
「ご主人様、逢引をするのであればちゃんと説明しておかないからこんな事になるんです。」
「「逢引!?」」
ちょっとユーリさん、話がややこしくなるので変なこと言うのはやめなさい。
「私というものがありながらフィフティーヌ様にまで手を出すなんて・・・。」
「あら、私手を出されたの?」
「出してませんよ!」
「じゃあどうしてフィフティーヌ様のイヤリングを持っているんですか!」
「それは倉庫の奥で拾ったからです。」
「そんなばれる様な嘘どうしてつくんですか!」
「嘘はばれないようにつくんですよ、ご主人様。」
よしユーリ黙れ。
「そもそも忙しくてそんなことする暇が無かったのはエミリアが一番知っているんじゃないですか?」
「・・・確かにシュウイチさんはここ最近ずっと忙しくされていました。」
「そうでしょう。エミリアとシルビアがいるのにこれ以上手を出すなんて器用なこと私には出来ませんよ。」
いや、そもそも誰にも手を出していないんですけどね?
一応念のために弁解しておきます。
ヘタレといいたきゃ言えばいいさ!
「つまり私には手を出す価値も無いというワケね?」
「いや、そういうわけじゃなくてですね。」
「じゃあ出すの?」
「・・・これ以上は話がややこしくなるので止めませんか?」
「あら残念、ここからが面白いのに。でも久々にエミリアの怒った顔も見れたしこれぐらいで許してあげるわ。」
「ありがとうございます。」
まったく、突然現れたと思ったら面倒な事起こすんだから。
自分の上司じゃなかったらキレてる所だ。
「えっと、つまりシュウイチさんはフィフティーヌ様に手を出していない?」
「精霊様に誓って手を出していません。」
「じゃあどうして逢引だなんて。」
「それはそこにいるユーリが・・・っていないし!」
「そこにたダンジョン妖精ならさっき商店に戻って行ったわよ。」
おのれ裏切り者、話しをややこしくするだけややこしくして逃げるとは。
あとで覚悟しておけよ。
「とりあえず落ち着いて話しをしましょう。はい深呼吸、吸って~吐いて~また吸って~はいて~。」
「す~は~、す~は~。はい、落ち着きました。」
「では改めて説明しますからちゃんと聞いてくださいね?」
「はい。」
「仕方ないわね、聞いてあげるわ。」
相変らず上から目線だなこの人は。
まったく根っからのお貴族様というのは困ったものだ。
「私があのイヤリングを拾ったのは先ほどエミリアに頼まれた倉庫の片づけをしている時です。棚と棚の隙間に落ちて埃が積もっていました。メルクリア様、そのイヤリングを無くしたのはいつ頃ですか?」
「夏が始まる前かしら。ちょうどこの店の改装をしている頃ね。」
「あの倉庫に棚が置かれたのが丁度その頃、埃のつもり具合から同時期にその場に取り残された事が推測されます。もし仮に夏節になってから落としたのであればあそこには荷物が置かれていますので隙間に入ることは無いでしょう。」
「でもメルクリア様と黙って逢引していたら・・・。」
この娘はまだ言うか!
「失礼ですがメルクリア様そんなことしている暇ありました?」
「あるわけないじゃない。こっちは毎日毎日くだらない会議に食事会に挨拶に大忙しよ。一緒に仕事をした貴女ならわかるんじゃない?」
「確かにフィフティーヌ様は毎年この時期非常にお忙しいです。」
「と、言う事で私もこの夏はバタバタとしていましたし物理的にそのような事を行なう時間は無かったんです。つまり私は無実という事ですね。」
「誰がそれを証明するのかしら?」
「この夏私が忙しくしていたことに関わった全ての人が証明してくれるでしょう。エミリアも含めてね。」
逢引している暇がむしろ欲しかった。
そんな暇も無いぐらいに忙しかったんだから。
これ以上大変なのは勘弁していただきたい。
「と、言う事よ、よかったわねエミリア。」
「はい、私の勘違いだったようです。」
「無実が証明されてホッとしました。」
「私はお気に入りのイヤリングが戻って感謝しているわ。」
俺があそこでイヤリングを拾わなかったらここまで話がややこしくなる事はなかったわけだけど・・・。
でもまぁ丸く収まったしいいか。
それよりも。
「今日来られるという事は聞いていませんでしたが、どうされたんですかメルクリアさん。」
この人が来た理由がわからない。
いや、上司だから来てもいいんだけどさ。
催しも終わったし今更来る理由は何だ?
「上司が部下の様子を見に来ちゃいけないの?」
「そういうワケではありませんが、お忙しい中『ワザワザ』来られた位ですから何かあるのかと思ってしまうわけです。」
「確かにそうね。」
「そうですねこういう場合上司に報告する内容としましては、先日の催しが成功したおかげで売上は順調に伸びています。ダンジョンも10階層まで広がり、秋頃には15階層に広げられるでしょう。」
「それに関してはエミリアから報告を受けているわ。貴方の首を狙っている身としては些か残念ではあるけれど、商店連合の人間としてはここまで短期間で売上を回復させた手腕を認めざるを得ない。」
認めてもらえるのは純粋に嬉しい話だ。
一応会社に所属して給料を貰ってるわけだし、自分の頑張りを評価される事に慣れていない元ブラック企業社員としては少々こそばゆい。
「これもひとえにエミリアを含め手伝ってくださっているみんなのおかげです。」
「自分の手柄にしないところもいやらしいわね。」
「事実ですから。」
「そんな、シュウイチさんが頑張ったおかげですよ。私なんて何にも・・・。」
「エミリア、ここは大人しく褒められておくものよ。」
「はい、すみませんでした。」
「別に怒っているわけじゃないの。むしろこんな男の下でこれだけの結果を出している貴女の事を商店連合としても高く買っているんだから。」
「ありがとうございます!」
こんな男でどうもすみません。
というかさ、何このエミリアと俺に対する態度の違い。
ひどくない?
「問題があるとすれば街づくりが滞っている所でしょうか。」
「あら、あれだけ開拓してまだ足りないの?」
「これから収穫期に入りますので開拓は一旦中断します。再開できるとしたら冬に入ってからですので、それまでに具体的な入植方法と開発構想を立ち上げなければなりません。」
「入植方法はわかるけど開発構想っていうのは良くわからないわね。」
「闇雲に村を拓くだけでは人は増えません。これから何を軸にして村を大きくしていくかをしっかりと考えておかなければ計画は頓挫するでしょう。」
シムシティ系のゲームでは何をコンセプトに街を作って行くかでやり方が変わって行く。
ただ適当に家や工場を建てれば渋滞や公害の問題ですぐに積んでしまう。
仮に考えたとしても予期せぬ問題で詰まってしまうわけだが、主軸がしっかりしていればそれを念頭において再開発を行なえるのでブレが少なくなる。
最近やったシティーズ〇カイラインとかは渋滞問題の解決だけじゃなく死体の問題でも頭を悩ませた。
奴等どんどん死んでいくんだもん!
霊柩車増やしても増やしても追いつかないしさ。
これも全て渋滞が悪いんだ。
一方通行万歳!
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高速道路万歳!
おほん。
「なによ、これからについて何か助言がいるかと思って来たのに杞憂だったみたいね。」
「いえ、来てくださってよかった。この手の話には上司の許可が必要になりますから。」
「具体的な話も決まっているわけね?」
「ここで話すのもなんですし、よろしければ商店のほうへどうぞ。最近いい茶葉が手に入ったんです。」
「仕方ないわね、呼ばれてあげようじゃない。」
「と、いうことですのでメルクリアさんを応接室までおねがいできますか?」
「お任せください。」
「貴方はどうするの?」
「大切な話しをするには些か汚れすぎましたので。」
水を運んでいた時に何度もこぼしてしまい足元はどろどろだ。
上司と大事な話しをするのにこの格好はまずい。
ちゃちゃっと着替えて商店へ戻る。
「イナバ様、丁度お茶がはいったところです。」
「ありがとうございますセレンさん、エミリアはお店に戻りました?」
「いえ、応接室だと思いますが・・・。」
「ありがとうございます。」
セレンさんからお盆を受け取り三人分のお茶を運ぶ。
この前仕入れたミントのような香りのするお茶だ。
暑い日はさっぱりとした飲み物に限るよね。
「あとで甘いものもお持ちしますね、丁度パイを焼いているんです。」
「それは楽しみです。」
美味しいお茶には美味しいお菓子がよく合う。
セレンさんのパイなら申し分ないな。
応接室からはなにやら楽しげな声が聞こえてきた。
そういえば二人は上司と部下であると同時に仲のいい友人だったな。
下の名前で呼ぶ事を許されているわけだし。
メルクリア女史。
本名メルクリア=フィフティーヌ。
名門メルクリア家の長女にして次期当主。
元老院に所属する名門中の名門の一人娘となれば普通はおいそれと下の名前で呼ぶようなことは無いはずだけど・・・。
よっぽど仲がいいんだろうな。
「失礼しますお茶をお持ちしました。」
「どうぞ!」
たまには俺がお茶を運んでもいいだろう。
いつも運んでもらってばかりだし。
ドアを開けると楽しそうな二人の姿が見えた。
エミリアが俺の顔を見るなりニコッと笑う。
それを見てメルクリア女史がこちらに振り返った。
「あら、あなたがお茶を運ぶなんて殊勝な心がけじゃない。」
「いつも運んでもらってばかりですから。」
「そうやって言いながら女にお茶くみばかりさせる馬鹿な奴がいるのよ。」
「シュウイチさんはそんな事しませんよ?ご自身で美味しいお茶を入れてくださいます。」
「今日はセレンさんに淹れてもらいましたけどね。あ、後で美味しいパイを持って来てくださるそうです。」
「セレンさんのパイはお店に出せるぐらい美味しいんですよ。」
「それは楽しみね。」
二人の前にお茶を並べてエミリアの横に座る。
ふぅ、やっと腰を落ち着けられた。
なんだかんだやってゆっくり休んでなかったな。
「それで、話しを聞かせてもらおうじゃない。」
「ある程度構想はまとまっていますが、それを実現するに至っての具体的な情報が揃っていませんのであくまでも一つの考えと思って聞いてください。」
「貴方の事だから全部決まっていると思っていたけどそうじゃないのね。」
「私がいつも完全な答えを持っているわけじゃ有りませんよ。」
「それを聞いて安心したわ。」
別に天才でも賢者でもない。
俺はただの商人だ。
今までもこれからもそれは変わらない。
「収穫が終わるまでは定期便でやってくる労働力を含めて使うことは出来ませんので、具体的に動くのは収穫後寒くなってからと考えています。エミリア、このあたりに雪は降りましたか?」
「たまに降りますが積もるほどではありません。」
「水路の造成計画は同じ時期でしたね?」
「予定では冬の間に終わらせて来年の種まきに間に合わせる予定です。」
「つまり労働力の大半はそっちに持っていかれるわけね。残った労働力で一体何をするつもりなのかしら。」
「この冬の間に残った労働力でこの土地を検地しようと思っています。具体的には今後開拓できる場所と範囲、農地の広さ、想定される収穫量等です。農地だけでなく居住地や商業地の決定も同時に行ないます。」
まずは地図を作る。
何処に何を作るのか。
それはどれぐらい大きくなるのか。
計画の計画をするわけだな。
「確かにそれなら少ない労働力でも出来るけど、それでどうするの?」
「居住地が決まれば入植出来る人間の数がわかります。住む人間の数がわかれば必要な建物の数が決まります。建物の数が決まればそれに必要な労働力資材資金の計画が立ちます。そして出た答えの数だけ入植者を募集しその人たちに建物を作ってもらえばいいんです。来年の夏までに入植できれば労働力も人口も増えて一石二鳥です。」
「それなら早いほうがいいんじゃないの?」
「いくら早くても労働者の手が開くのは冬ですから、それまでは準備をするしかありません。」
「それで入植計画は完璧というわけね。それじゃあ次は開発構想かしら?」
入植計画は次の夏までに完了させる必要がある。
そうじゃないと俺の首が飛ぶからね!
だけど次は早急に行う必要の無い内容だ。
「先ほども言いましたように闇雲に村を拓くだけでは長期的に人は増えません。農業だけではこの村に成長する未来は無い、村が街になる為には直接お金になる産業が必要だと考えています。」
何をするにしてもまず必要なのがお金だ。
もちろん労働力も必要だが、最悪労働力はお金で買える。
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ではどうするのか。
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「産業ねぇ。」
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「酪農はわかるけど紙をワザワザ産業にするの?」
「現在使われている紙には不純物が多く余り綺麗とはいえません。依頼の張り出しや日常生活で使う分にはそれで構いませんが、公的な書類を扱う皆さんとしては少しでも綺麗な紙のほうが望ましいのではありませんか?」
「確かにそれなりの身分の方に出す紙には気を使うけど、それが産業として成り立つの?」
「それに関しては調べてみないとわかりません。木材の材質、水との相性、それに皮を剥がし煮つめ漉き固める作業も必要です。幸いここは木材と水に困る事はありませんので材料の輸送などに困る事は無いでしょう。産業として成り立つかどうかはそれを調べつつ市場の需要を確認する必要があります。」
「もしそれが可能だとして、貴方はここを工業都市にでもするつもり?」
「残念ながらそれは不可能でしょう。いくら材料があっても物流が悪いので軌道に乗せるにはものすごい時間と労力を必要とします。商業として成り立たせるだけでも5年いえ10年はかかるでしょう。」
物流は血の流れだ。
血の流れは商売で言うお金の流れになる。
いくら産業が発達しても流れが悪ければ発達しない。
それに、このやり方では短期で稼ぐ事はできない。
だが、長い目で見ればお金になるかもしれない。
何かを成す時には短期計画と長期計画二つの計画が必要だ。
短期計画は短時間で目に見える結果を作り上げるもの。
長期計画は長時間で巨大な結果を作り上げるものだ。
短期計画だけでは成長は無いし、長期計画だけでは企画倒れになる場合が多い。
その両方が上手くかみ合う事で初めて物事はうまく行く。
「つまりは将来を見据えて計画を立てる必要がある。」
「さすがメルクリアさん。仮に製紙業を興すのであればその場所を予め準備しなければなりませんし、それを興すだけの資金をためる必要も出てきます。」
「その資金をためる方法が、酪農というわけね。」
「あくまで一つの案ですが、ププト様の計画ではこの村の農地は今後3倍いえ5倍に広がるはずです。そうなってくると人の手では中々追いつかない。そこで必要なのが人の何倍もの力で作業が出来る動物なんです。」
「確かに牛を使えば耕すのは楽になるし、乳を売ればお金も稼げる。だけどその牛をどうやって調達するつもり?結果の出ない事に商店連合はお金を出すつもりは無いわよ。」
それはごもっともな話しだ。
帰ってくる当てのないお金を貸すことなどありえない。
では、どうるすのか。
さっきからどうするのかばっかりだな。
何かを始めるというのは非常に手間がかかる。
終わりの見えない問題に俺は答えを積み上げていく。
一見無駄に見えるその行為。
それが今の俺に出来る唯一の事だ。
「メルクリアさん、イナバシュウイチという男に投資するつもりはありませんか?」
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なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
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そんな言葉から始まった異世界召喚。
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そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界転生!俺はここで生きていく
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それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
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