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第七章
俺のプライドは砕けない
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悪いものは裁かれる。
それはどの世界においても同じ事だ。
あ、言い過ぎか。
法治国家であれば当然だ。
そして今回もそうであるべきなのだ。
「ウチは何も悪いことしてへん、虐待やってこの子が勝手に言うだけや、ウチが捕まる事なんて絶対ありえへん!」
今回裁かれるべき対象は何故か自分が裁かれないつもりでいるらしい。
そんなこと神様が許しても俺が許すわけ無いじゃないか。
悔やむんなら自分のやってきた罪を数えなおしてから悔やんでくれ。
「それはどうでしょうか。」
俺は後ろに控えるエミリアに指で合図を送る。
するとすぐに扉が開き、外に控えていたシルビア様が中に入ってきた。
あれ、ガスターシャ氏もいるぞ?
「サンサトローズ騎士団騎士団長シルビアだ。商業ギルド所属、マッカ=リモウカーノ。奴隷への虐待行為ならびに不正取引の疑いで逮捕する。」
「な、何でこんな所に騎士団長がおんねん!」
「元老院副参謀ガスターシャです、貴女には過去の奴隷取引ならびに賄賂、策謀に対して伺いたいことが多数あります。こちらが元老院より発行された召喚状ですがお時間いただけますか?」
「げ、元老院まで・・・。」
「これはこれは皆様、どうされたんですか?」
「イナバ様ではありませんか。このマッカという者に先ほどの嫌疑がかけられておりまして元老院より捜査に参った所です。イナバ様こそどうされました?」
「マッカ様の所有する奴隷を発見いたしまして、見つけるといただけるということでお連れしたんです。」
もちろん嘘だ。
突入の合図をエミリアから貰い、外で待っていたシルビア様に突入してもらっただけだ。
ガスターシャ氏がいるのは予想外だったが、まぁいっか。
「おのれら全員グルなんやろ、そうやないと、そうやないとおかしいやないか!」
「私達がグル?それは何の冗談かしら。私は元老院より貴女の不正について調査を命じられてここに来たの。そしたら別件で捜査をされていたシルビア様がいるじゃない?それも奴隷への虐待だなんて、それを証明できるなにかがあるのかしら。」
ガスターシャ氏のしゃべり方が先ほどと違いいつものオネェ口調になっている。
「虐待の証拠はここにおります白狐人のトリシャが証明いたします。本人が実際に何をされたのか語ってくれる事でしょう。」
「この子はイナバ様の奴隷かしら。」
「マッカ様の所有奴隷という事でしたが、契約の末私が頂戴いたしました。しかし、前所有者との譲渡に何か不備があったのであれば前所有者のものになるかと思います。私はマッカ様の奴隷をいただくというお話をしておりましたので、他人様の奴隷をいただくわけには参りません。」
「その件についても私達で調べる事としましょう。シルビア様、共同捜査を御提案いたしますが受理いただけますか?」
「元老院副参謀殿のお力がお借りできるのであれば心強い、こちらからお願いさせていただきます。」
何も知りませんという設定で全員話を進めていく。
ガスターシャ氏の思惑は不明だが、俺達のやり方に異議を唱えるようなものでは無いらしい。
もしかすると、正式に元老院から命令を受けているのかもしれない。
最初にあったときも不正を調査する為にここに来ているって話だったし。
詳しくは後で聞けばいいだろう。
「そんな、ウチが、ウチがこんな奴に引っかかって捕まるやなんて。」
「言い訳は取り調べで聞かせてもらおう、来い。」
呆然とした表情でシルビア様に捕縛され、部屋を後にするマッカ氏。
「終わったの・・・?」
「えぇ、無事に終わりました。この先はシルビア様とガスターシャ様が調べてくれるはずです。」
「じゃあもうあの女の人のところに行かなくてもいい?」
「もう何処に行く必要もありません、この流れで行けばトリシャさんは自由になれるでしょう。」
「本当に?」
「所有者が死亡した場合、所有奴隷は解放されるという法律がありますから。ジルダ氏に借金が無い事が証明されれば近いうちにそういう流れになると思っています。」
それがいつになるかはわからない。
わからないが、遠い事も無いだろう。
「トリシャ様と仰いましたね、具体的な話を聞きたいから証人として御同行いただきたいんだけど、いいかしら。」
「え、私?」
「マッカの悪事を突き止めたのはトリシャさんです、申し訳ありませんが最後の一仕事をお願いできますか?」
「・・・うん、私頑張るよ。」
「アーシャ様どうか彼女を宜しくお願いいたします。」
「任せておいて。」
トリシャさんの肩をガスターシャ氏が優しく抱いていく。
見た目には女性同士の仲睦ましい感じだが、横の美人、中身は男なんで。
そこん所お間違えなく。
そんな内心を知ってかしらずか、ガスターシャ氏がこちらを向いてニコっと笑い、トリシャさんと共にシルビア様の後ろを追いかけていった。
「シュウイチさんお疲れ様でした。」
「エミリアもずっと念話状態で疲れたでしょう、お疲れ様でした。」
「さすがに常時二方向は挑戦したことが無かったので疲れました。でも、シュウイチさんが言うように何とかなるものですね。」
「それも全てエミリアの頑張りがあったからですよ、ありがとう御座います。」
先ほどの長丁場、後ろに控えていたエミリアが何をしていたのか疑問に思っていた人もいるだろう。
実はエミリアには中の状況をそのままシルビア様に念話してもらっていたのだ。
出来るだけ間違えないように同時に通話するのは非常に精神を消耗する。
簡単に言えば携帯電話の中継を人間がやっているようなものだ。
おかげで外で待機していたシルビア様に状況が伝わり、スムーズに捕縛できた。
取調べの時にも俺達しか知らない情報をシルビア様が知っている事に驚くことだろう。
本当にお疲れ様。
「さて、このまま帰りたい所ですがもう一仕事あるんですよね・・・。」
「マッカ、お前どないしましたんや。この状況はいったい・・・。」
「デン兄さん、ウチ嵌められたんです!あいつに、あの男に!」
「あの男・・・?」
連行されていくマッカを見送りながらデン氏がこちらを振り向く。
丁度いいところにもう一仕事する相手がやってきた。
今回のもう一つの戦い。
そう、俺の商人としてのプライドをかけた戦いを始めようじゃないか。
「これはデン様、お忙しいということでしたが如何してこちらに?」
「どうしても何も、マッカが連行されるいうて聞いたから慌てて飛んできたんや。おのれ、ウチのマッカに何かしたんか!?」
「何かしたとは人聞きの悪い。少々悪さが過ぎましたので御退場いただこうと思ったんです。」
「退場てお前何様のつもりやねん!」
「デンよ、これは一体何事だ?」
「これはルシルク様、確かガスターシャ様とお話をされていたのでは。」
「おぉ、イナバ様。急にガスターシャ様が席を外されたので慌てて追いかけてきましたらこの有様で。一体何があったんですか?」
丁度いいところに丁度いい人が集まってきたな。
ナイスタイミングですよ皆さん。
「実はマッカ様に不正取引と奴隷虐待の嫌疑がかけられておりまして、騎士団長シルビアと元老院ガスターシャ様に共同捜査という名の元連行されていった所でございます。」
「なんだと、ウチのマッカがそんなことを・・・。」
「それはウソや!こいつがこの男が何かしたに決まっとる!」
「デンよ口を慎め!イナバ様といえば今やププト様やガスターシャ様と共に仕事をなさるような立派なお方、お前のような男がそのような口をきいてはならぬ相手だぞ!」
「プ、プロンプト様と仕事を・・・。」
「私はププト様の要望にお答えしただけで御座います。御一緒にお仕事をしたなどそんな大層な事はしておりません。」
「何を仰います、先日起きた失踪事件も魔物の集団暴走も全てイナバ様のお力があって解決したようなもの。ププト様自らご助力を頼まれるような方が謙遜されるものではございません。」
そう、この男は知らないのだ。
俺をただの商人と見くびり、後ろにどんな人間がいるのかを。
そして今気付いたはずだ。
喧嘩を売った相手が悪かったという事に。
「大切なお言葉ありがとう御座います。これからは自信を持って商売させていただこうと思います。」
「それがよろしいかと思います。間違いを起こしたマッカはこちらが責任を持って処罰致します故、どうかこれからも我が商業ギルドを宜しくお願いいたします。」
「それは大変有り難いお話です。ですが、少々申しあげにくいことが御座いまして・・・。」
「どうかされましたか?」
デン氏の顔が真っ青を通り越して真っ白になっている。
これは自分のまいた種だ。
熱中症になった分の恨みを含めてしっかりと晴らさせてもらおう。
「デン様、こちらの書類をお読みいただけますでしょうか。」
真っ白な顔をしているデン氏にエミリアから手渡された書類の束を差し出す。
震える手で受け取ろうとするも中々掴む事ができない。
その手を強く掴み、無理やり握らせることにした。
「イナバ様この書類は・・・?」
「実は、先日デン様が商業ギルド名義で加入者に強制しておりました指示が御座いまして、それに対する加入者様のご意見を纏めてあります。どうか御確認ください。」
ルシルク様が呆然としているデン氏から書類を取り上げ一枚一枚確認していく。
見る見るうちにその顔が鬼の形相へと変わっていった。
「デンよ、これは一体どういうことだ!」
「こ、これはその・・・。」
「イナバ氏相手に商売するなと加盟者に強制するなど前代未聞、これは重大な越権行為だぞ!」
「失礼ながら商業ギルドに在籍しております知人から指示書を頂戴し読ませていただきました。また、指示書を頂いた加入者の皆様に意見を頂戴し、今後このような指示があるのであれば商業ギルドを脱退させていただくとのお言葉も頂戴しております。現時点で脱退を表明され我が商店連合に加入される商店の表もお作りしてありますので、そちらは一番最後の書類を御確認下さい。」
ルシルク様が大急ぎで書類をめくり、最後の書類に目を通す。
怒りの顔がどんどんと驚きの顔に変わっていく。
デン氏はというともう放心状態だ。
「白鷺亭に今話題のネムリ商店、猫目館まであるではないか!こんな大口の加盟者にそっぽ向かれるなど我がギルドにどれだけの損害を及ぼすのかわかっているのか貴様は!」
デン氏の胸元を掴み、ガクガクとゆするも反応は無い。
足元に書類が散らばるのにも気付かず、ルシルク様の叱咤が響き渡った。
この書類を集めてくれたのは、ユーリやニケさんそれに商店連合のエミリアの後輩ノアさんだ。
それだけじゃない、ネムリやハスラーさん達も加入者の皆さんに連絡網のような形で意見を聞いて回ってくれた。
彼等の力が無ければ1日でこれだけの情報を集めることはできなかっただろう。
え、ノアっていう子が誰か思い出せない?
随分と昔に俺を見た瞬間に恐ろしい目を向けた後輩さんですよ。
詳しくは初めてサンサトローズの商店連合に行った第二章を探し見てくれ。
「今回の件について私個人が商業ギルドに対して何か賠償を請求する事はございません。要望はただ一つ、ルシルク様の手で商業ギルドを正していただくだけで十分です。」
「寛容な御判断痛み入ります。私が責任を持って関係者を処罰いたしますので、どうか、どうかこれからも商業ギルドを宜しくお願いいたします。」
「こちらこそ、よい商売が出来ますよう宜しくお願いいたします。」
ルシルク様が腰が折れるんじゃないかというぐらいに頭を下げてきた。
横にいるデン氏はその場にへたり込んでしまい動かない。
俺を敵に回すとどうなるか、身をもって知った事だろう。
それに別に商業ギルドと喧嘩がしたいわけではない。
俺のプライドを賭けた戦いはデン氏との戦いだ。
この戦いは俺の勝利で間違いないだろう。
俺のプライドは砕かせはしない。
トリシャさんの戦いも俺の戦いも無事に勝利を勝ち取ることが出来た。
俺はそれで十分だ。
「ではここはお任せいたします。」
「イナバ様このたびは真に申し訳御座いませんでした。」
頭を下げるルシルク様に見送られてエミリアと共に商業ギルドを出る。
ギルドの外には暑い中ユーリ達が待っていてくれた。
「お帰りなさいませご主人様。」
「おかえりなさいイナバ様。」
「ただいま戻りました。暑い中お待たせして申し訳ありません。」
「ちゃんと勝ったんだろうな。」
「おかげ様でトリシャさんの件も私の件も無事に決着が付きました。」
「これで心置きなく商店に戻れますね。」
これで心置きなく商店に戻れる。
あれ、戻るのはいいんだけどそもそもなんで俺はサンサトローズに来たんだっけ。
お礼を言いに来たって言うのが第一だけど、他にも何かあったよね。
なんだったかなぁ。
「シルビアにはガスターシャ様と一緒に捜査をお願いしなければなりませんが、私達はこれにてお役御免です。せっかくの休息日なのに、いつもの事ながらゆっくり出来ませんでしたね。」
「シュウイチさんと一緒のお休みでゆっくりできた事はありませんから。ですが、素敵なものも頂きましたし気分転換も出来ました。また明日から頑張りましょう。」
「やれやれ、やっと帰れるのか。」
「明日から草期ですから畑の方も大忙しです、ウェリス様も頑張ってくださいね。」
「畑だけならいいが、こいつのせいで森の開拓も進めなきゃならねぇ。暑さで倒れたらお前のせいだからな。」
「その分美味しいお酒を差し上げたはずですが?」
「あれっぽっちで足りるわけ無いだろうが。」
そこそこいいお酒のはずなんだけどなぁ。
でもまぁ、精のつくものぐらい提供してもいいかもしれない。
ユーリに森の罠を増やしてもらって村に提供する事も考えよう。
となると、罠じゃなくて畜産とかに手を出す方がいいのか?
でもその為には村をまた開拓しないといけないわけで・・・。
なかなか村づくりも難しいなぁ。
今度の催しの時にも冒険者の宿を提供してもらわないとだし。
催し?
「そうだ、大変な事を思い出しました!」
「そんな大きな声を出してどうされましたかご主人様。」
「そもそもここにきたのは今度の催しの協賛企業を募る為だったんです!」
「そういえば、そんなこともありましたね。」
「次の陰日には開催ですからこの休息日までにめぼしを付けておかないと開催すら難しくなってしまいます。」
明日からまた商店で仕事の毎日だ。
ということは、時間をとってサンサトローズにこれるのは実質後二回。
その二回で全てを決めるなんてのは物理的に無理な話だ。
やばいな、どうしよう。
俺の商店人生を賭けた一世一代の催しなのにすっかり忘れていたよ。
「イナバ様、後何をしないといけなかったんですか?」
「今回の催しに賛同していただける商店に賞品の提供をお願いしたいんです。その他にも冒険者ギルドで開催の告知と参加者の選定、そもそもルール作りなども手付かずですからやらなければならないことばかりです。」
「おいおい、そんなので間に合うのかよ。」
「間に合うも何も間に合わせないといけないんです。」
「と、なればやる事は一つですね。」
「そうですね、リア奥様の言うとおりです。」
あたふたする俺を他所に、エミリアとユーリはとても冷静だ。
えっと、何でそんなに冷静なんでしょうか。
「ニケ様、今日の最終馬車の予約をお願いします。」
「お任せ下さい。」
「シュウイチさんはこの後冒険者ギルドへ向かって催しの説明をお願いします。セレンさんとウェリスさんは私と一緒に昨日と今日お話をしたギルド加盟店へ協賛のお願いに行きます。」
「おいおい、一体何の話だ?」
「ウェリスさん私についてきてくだされば大丈夫です。その、怖い人が出てきたら助けてくださると嬉しいです。」
「それは当たり前だが・・・。」
当たり前なんだ。
もう、さっさと結婚しちゃえよ!
「最終馬車出発半刻前には戻るようにお願いします、遅れたら置いていきますので各自御注意を。」
エミリアとユーリがセレンさん達に指示を出していく。
俺は俺で役目が決まっているようだ。
「ほら、シュウイチさん時間が無いですよ。」
「は、はい!」
「休息日が休息日でないのはいつもの事です、お疲れのご主人様の分まで働きましょう。」
「働いた分はしっかり返してもらうからな!」
文句を言いながらも手助けしてくれる仲間達。
みんな、本当にありがとう。
「では時間いっぱいまで宜しくお願いします!」
「「「「「はい!」」」」」
まだ陽は高いままだ。
その後最終馬車が出るギリギリまで、俺達は休息しない休息日を満喫するのだった。
え、その後どうなったのかって?
それは家に帰ったらね。
それはどの世界においても同じ事だ。
あ、言い過ぎか。
法治国家であれば当然だ。
そして今回もそうであるべきなのだ。
「ウチは何も悪いことしてへん、虐待やってこの子が勝手に言うだけや、ウチが捕まる事なんて絶対ありえへん!」
今回裁かれるべき対象は何故か自分が裁かれないつもりでいるらしい。
そんなこと神様が許しても俺が許すわけ無いじゃないか。
悔やむんなら自分のやってきた罪を数えなおしてから悔やんでくれ。
「それはどうでしょうか。」
俺は後ろに控えるエミリアに指で合図を送る。
するとすぐに扉が開き、外に控えていたシルビア様が中に入ってきた。
あれ、ガスターシャ氏もいるぞ?
「サンサトローズ騎士団騎士団長シルビアだ。商業ギルド所属、マッカ=リモウカーノ。奴隷への虐待行為ならびに不正取引の疑いで逮捕する。」
「な、何でこんな所に騎士団長がおんねん!」
「元老院副参謀ガスターシャです、貴女には過去の奴隷取引ならびに賄賂、策謀に対して伺いたいことが多数あります。こちらが元老院より発行された召喚状ですがお時間いただけますか?」
「げ、元老院まで・・・。」
「これはこれは皆様、どうされたんですか?」
「イナバ様ではありませんか。このマッカという者に先ほどの嫌疑がかけられておりまして元老院より捜査に参った所です。イナバ様こそどうされました?」
「マッカ様の所有する奴隷を発見いたしまして、見つけるといただけるということでお連れしたんです。」
もちろん嘘だ。
突入の合図をエミリアから貰い、外で待っていたシルビア様に突入してもらっただけだ。
ガスターシャ氏がいるのは予想外だったが、まぁいっか。
「おのれら全員グルなんやろ、そうやないと、そうやないとおかしいやないか!」
「私達がグル?それは何の冗談かしら。私は元老院より貴女の不正について調査を命じられてここに来たの。そしたら別件で捜査をされていたシルビア様がいるじゃない?それも奴隷への虐待だなんて、それを証明できるなにかがあるのかしら。」
ガスターシャ氏のしゃべり方が先ほどと違いいつものオネェ口調になっている。
「虐待の証拠はここにおります白狐人のトリシャが証明いたします。本人が実際に何をされたのか語ってくれる事でしょう。」
「この子はイナバ様の奴隷かしら。」
「マッカ様の所有奴隷という事でしたが、契約の末私が頂戴いたしました。しかし、前所有者との譲渡に何か不備があったのであれば前所有者のものになるかと思います。私はマッカ様の奴隷をいただくというお話をしておりましたので、他人様の奴隷をいただくわけには参りません。」
「その件についても私達で調べる事としましょう。シルビア様、共同捜査を御提案いたしますが受理いただけますか?」
「元老院副参謀殿のお力がお借りできるのであれば心強い、こちらからお願いさせていただきます。」
何も知りませんという設定で全員話を進めていく。
ガスターシャ氏の思惑は不明だが、俺達のやり方に異議を唱えるようなものでは無いらしい。
もしかすると、正式に元老院から命令を受けているのかもしれない。
最初にあったときも不正を調査する為にここに来ているって話だったし。
詳しくは後で聞けばいいだろう。
「そんな、ウチが、ウチがこんな奴に引っかかって捕まるやなんて。」
「言い訳は取り調べで聞かせてもらおう、来い。」
呆然とした表情でシルビア様に捕縛され、部屋を後にするマッカ氏。
「終わったの・・・?」
「えぇ、無事に終わりました。この先はシルビア様とガスターシャ様が調べてくれるはずです。」
「じゃあもうあの女の人のところに行かなくてもいい?」
「もう何処に行く必要もありません、この流れで行けばトリシャさんは自由になれるでしょう。」
「本当に?」
「所有者が死亡した場合、所有奴隷は解放されるという法律がありますから。ジルダ氏に借金が無い事が証明されれば近いうちにそういう流れになると思っています。」
それがいつになるかはわからない。
わからないが、遠い事も無いだろう。
「トリシャ様と仰いましたね、具体的な話を聞きたいから証人として御同行いただきたいんだけど、いいかしら。」
「え、私?」
「マッカの悪事を突き止めたのはトリシャさんです、申し訳ありませんが最後の一仕事をお願いできますか?」
「・・・うん、私頑張るよ。」
「アーシャ様どうか彼女を宜しくお願いいたします。」
「任せておいて。」
トリシャさんの肩をガスターシャ氏が優しく抱いていく。
見た目には女性同士の仲睦ましい感じだが、横の美人、中身は男なんで。
そこん所お間違えなく。
そんな内心を知ってかしらずか、ガスターシャ氏がこちらを向いてニコっと笑い、トリシャさんと共にシルビア様の後ろを追いかけていった。
「シュウイチさんお疲れ様でした。」
「エミリアもずっと念話状態で疲れたでしょう、お疲れ様でした。」
「さすがに常時二方向は挑戦したことが無かったので疲れました。でも、シュウイチさんが言うように何とかなるものですね。」
「それも全てエミリアの頑張りがあったからですよ、ありがとう御座います。」
先ほどの長丁場、後ろに控えていたエミリアが何をしていたのか疑問に思っていた人もいるだろう。
実はエミリアには中の状況をそのままシルビア様に念話してもらっていたのだ。
出来るだけ間違えないように同時に通話するのは非常に精神を消耗する。
簡単に言えば携帯電話の中継を人間がやっているようなものだ。
おかげで外で待機していたシルビア様に状況が伝わり、スムーズに捕縛できた。
取調べの時にも俺達しか知らない情報をシルビア様が知っている事に驚くことだろう。
本当にお疲れ様。
「さて、このまま帰りたい所ですがもう一仕事あるんですよね・・・。」
「マッカ、お前どないしましたんや。この状況はいったい・・・。」
「デン兄さん、ウチ嵌められたんです!あいつに、あの男に!」
「あの男・・・?」
連行されていくマッカを見送りながらデン氏がこちらを振り向く。
丁度いいところにもう一仕事する相手がやってきた。
今回のもう一つの戦い。
そう、俺の商人としてのプライドをかけた戦いを始めようじゃないか。
「これはデン様、お忙しいということでしたが如何してこちらに?」
「どうしても何も、マッカが連行されるいうて聞いたから慌てて飛んできたんや。おのれ、ウチのマッカに何かしたんか!?」
「何かしたとは人聞きの悪い。少々悪さが過ぎましたので御退場いただこうと思ったんです。」
「退場てお前何様のつもりやねん!」
「デンよ、これは一体何事だ?」
「これはルシルク様、確かガスターシャ様とお話をされていたのでは。」
「おぉ、イナバ様。急にガスターシャ様が席を外されたので慌てて追いかけてきましたらこの有様で。一体何があったんですか?」
丁度いいところに丁度いい人が集まってきたな。
ナイスタイミングですよ皆さん。
「実はマッカ様に不正取引と奴隷虐待の嫌疑がかけられておりまして、騎士団長シルビアと元老院ガスターシャ様に共同捜査という名の元連行されていった所でございます。」
「なんだと、ウチのマッカがそんなことを・・・。」
「それはウソや!こいつがこの男が何かしたに決まっとる!」
「デンよ口を慎め!イナバ様といえば今やププト様やガスターシャ様と共に仕事をなさるような立派なお方、お前のような男がそのような口をきいてはならぬ相手だぞ!」
「プ、プロンプト様と仕事を・・・。」
「私はププト様の要望にお答えしただけで御座います。御一緒にお仕事をしたなどそんな大層な事はしておりません。」
「何を仰います、先日起きた失踪事件も魔物の集団暴走も全てイナバ様のお力があって解決したようなもの。ププト様自らご助力を頼まれるような方が謙遜されるものではございません。」
そう、この男は知らないのだ。
俺をただの商人と見くびり、後ろにどんな人間がいるのかを。
そして今気付いたはずだ。
喧嘩を売った相手が悪かったという事に。
「大切なお言葉ありがとう御座います。これからは自信を持って商売させていただこうと思います。」
「それがよろしいかと思います。間違いを起こしたマッカはこちらが責任を持って処罰致します故、どうかこれからも我が商業ギルドを宜しくお願いいたします。」
「それは大変有り難いお話です。ですが、少々申しあげにくいことが御座いまして・・・。」
「どうかされましたか?」
デン氏の顔が真っ青を通り越して真っ白になっている。
これは自分のまいた種だ。
熱中症になった分の恨みを含めてしっかりと晴らさせてもらおう。
「デン様、こちらの書類をお読みいただけますでしょうか。」
真っ白な顔をしているデン氏にエミリアから手渡された書類の束を差し出す。
震える手で受け取ろうとするも中々掴む事ができない。
その手を強く掴み、無理やり握らせることにした。
「イナバ様この書類は・・・?」
「実は、先日デン様が商業ギルド名義で加入者に強制しておりました指示が御座いまして、それに対する加入者様のご意見を纏めてあります。どうか御確認ください。」
ルシルク様が呆然としているデン氏から書類を取り上げ一枚一枚確認していく。
見る見るうちにその顔が鬼の形相へと変わっていった。
「デンよ、これは一体どういうことだ!」
「こ、これはその・・・。」
「イナバ氏相手に商売するなと加盟者に強制するなど前代未聞、これは重大な越権行為だぞ!」
「失礼ながら商業ギルドに在籍しております知人から指示書を頂戴し読ませていただきました。また、指示書を頂いた加入者の皆様に意見を頂戴し、今後このような指示があるのであれば商業ギルドを脱退させていただくとのお言葉も頂戴しております。現時点で脱退を表明され我が商店連合に加入される商店の表もお作りしてありますので、そちらは一番最後の書類を御確認下さい。」
ルシルク様が大急ぎで書類をめくり、最後の書類に目を通す。
怒りの顔がどんどんと驚きの顔に変わっていく。
デン氏はというともう放心状態だ。
「白鷺亭に今話題のネムリ商店、猫目館まであるではないか!こんな大口の加盟者にそっぽ向かれるなど我がギルドにどれだけの損害を及ぼすのかわかっているのか貴様は!」
デン氏の胸元を掴み、ガクガクとゆするも反応は無い。
足元に書類が散らばるのにも気付かず、ルシルク様の叱咤が響き渡った。
この書類を集めてくれたのは、ユーリやニケさんそれに商店連合のエミリアの後輩ノアさんだ。
それだけじゃない、ネムリやハスラーさん達も加入者の皆さんに連絡網のような形で意見を聞いて回ってくれた。
彼等の力が無ければ1日でこれだけの情報を集めることはできなかっただろう。
え、ノアっていう子が誰か思い出せない?
随分と昔に俺を見た瞬間に恐ろしい目を向けた後輩さんですよ。
詳しくは初めてサンサトローズの商店連合に行った第二章を探し見てくれ。
「今回の件について私個人が商業ギルドに対して何か賠償を請求する事はございません。要望はただ一つ、ルシルク様の手で商業ギルドを正していただくだけで十分です。」
「寛容な御判断痛み入ります。私が責任を持って関係者を処罰いたしますので、どうか、どうかこれからも商業ギルドを宜しくお願いいたします。」
「こちらこそ、よい商売が出来ますよう宜しくお願いいたします。」
ルシルク様が腰が折れるんじゃないかというぐらいに頭を下げてきた。
横にいるデン氏はその場にへたり込んでしまい動かない。
俺を敵に回すとどうなるか、身をもって知った事だろう。
それに別に商業ギルドと喧嘩がしたいわけではない。
俺のプライドを賭けた戦いはデン氏との戦いだ。
この戦いは俺の勝利で間違いないだろう。
俺のプライドは砕かせはしない。
トリシャさんの戦いも俺の戦いも無事に勝利を勝ち取ることが出来た。
俺はそれで十分だ。
「ではここはお任せいたします。」
「イナバ様このたびは真に申し訳御座いませんでした。」
頭を下げるルシルク様に見送られてエミリアと共に商業ギルドを出る。
ギルドの外には暑い中ユーリ達が待っていてくれた。
「お帰りなさいませご主人様。」
「おかえりなさいイナバ様。」
「ただいま戻りました。暑い中お待たせして申し訳ありません。」
「ちゃんと勝ったんだろうな。」
「おかげ様でトリシャさんの件も私の件も無事に決着が付きました。」
「これで心置きなく商店に戻れますね。」
これで心置きなく商店に戻れる。
あれ、戻るのはいいんだけどそもそもなんで俺はサンサトローズに来たんだっけ。
お礼を言いに来たって言うのが第一だけど、他にも何かあったよね。
なんだったかなぁ。
「シルビアにはガスターシャ様と一緒に捜査をお願いしなければなりませんが、私達はこれにてお役御免です。せっかくの休息日なのに、いつもの事ながらゆっくり出来ませんでしたね。」
「シュウイチさんと一緒のお休みでゆっくりできた事はありませんから。ですが、素敵なものも頂きましたし気分転換も出来ました。また明日から頑張りましょう。」
「やれやれ、やっと帰れるのか。」
「明日から草期ですから畑の方も大忙しです、ウェリス様も頑張ってくださいね。」
「畑だけならいいが、こいつのせいで森の開拓も進めなきゃならねぇ。暑さで倒れたらお前のせいだからな。」
「その分美味しいお酒を差し上げたはずですが?」
「あれっぽっちで足りるわけ無いだろうが。」
そこそこいいお酒のはずなんだけどなぁ。
でもまぁ、精のつくものぐらい提供してもいいかもしれない。
ユーリに森の罠を増やしてもらって村に提供する事も考えよう。
となると、罠じゃなくて畜産とかに手を出す方がいいのか?
でもその為には村をまた開拓しないといけないわけで・・・。
なかなか村づくりも難しいなぁ。
今度の催しの時にも冒険者の宿を提供してもらわないとだし。
催し?
「そうだ、大変な事を思い出しました!」
「そんな大きな声を出してどうされましたかご主人様。」
「そもそもここにきたのは今度の催しの協賛企業を募る為だったんです!」
「そういえば、そんなこともありましたね。」
「次の陰日には開催ですからこの休息日までにめぼしを付けておかないと開催すら難しくなってしまいます。」
明日からまた商店で仕事の毎日だ。
ということは、時間をとってサンサトローズにこれるのは実質後二回。
その二回で全てを決めるなんてのは物理的に無理な話だ。
やばいな、どうしよう。
俺の商店人生を賭けた一世一代の催しなのにすっかり忘れていたよ。
「イナバ様、後何をしないといけなかったんですか?」
「今回の催しに賛同していただける商店に賞品の提供をお願いしたいんです。その他にも冒険者ギルドで開催の告知と参加者の選定、そもそもルール作りなども手付かずですからやらなければならないことばかりです。」
「おいおい、そんなので間に合うのかよ。」
「間に合うも何も間に合わせないといけないんです。」
「と、なればやる事は一つですね。」
「そうですね、リア奥様の言うとおりです。」
あたふたする俺を他所に、エミリアとユーリはとても冷静だ。
えっと、何でそんなに冷静なんでしょうか。
「ニケ様、今日の最終馬車の予約をお願いします。」
「お任せ下さい。」
「シュウイチさんはこの後冒険者ギルドへ向かって催しの説明をお願いします。セレンさんとウェリスさんは私と一緒に昨日と今日お話をしたギルド加盟店へ協賛のお願いに行きます。」
「おいおい、一体何の話だ?」
「ウェリスさん私についてきてくだされば大丈夫です。その、怖い人が出てきたら助けてくださると嬉しいです。」
「それは当たり前だが・・・。」
当たり前なんだ。
もう、さっさと結婚しちゃえよ!
「最終馬車出発半刻前には戻るようにお願いします、遅れたら置いていきますので各自御注意を。」
エミリアとユーリがセレンさん達に指示を出していく。
俺は俺で役目が決まっているようだ。
「ほら、シュウイチさん時間が無いですよ。」
「は、はい!」
「休息日が休息日でないのはいつもの事です、お疲れのご主人様の分まで働きましょう。」
「働いた分はしっかり返してもらうからな!」
文句を言いながらも手助けしてくれる仲間達。
みんな、本当にありがとう。
「では時間いっぱいまで宜しくお願いします!」
「「「「「はい!」」」」」
まだ陽は高いままだ。
その後最終馬車が出るギリギリまで、俺達は休息しない休息日を満喫するのだった。
え、その後どうなったのかって?
それは家に帰ったらね。
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