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第七章

熱中症にはご用心

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熱い。

いや違う、暑いだ。

ちょっと待って今何月?

え、種期?

それじゃわからないよ。

え、7月も終わりでもうすぐ8月?

それならわかる。

なるほど暑いわけだ。

太陽は真上に上りジリジリと肌を焦がす。

何でこんなに暑いんだ?

そうか、風が無いんだ。

いつもなら涼しい風が吹いてくるのに今日に限って風が無い。

外回りをする日に限ってこの気候とか勘弁してください。

朝からネムリの店にみんなで押しかけてお目当ての物をいただいてきた。

次いでウェリス達と別れて冒険者ギルドと魔術師ギルドへのお礼行脚。

主要な所を回ればもうお昼だ。

行く先々で飲み物を頂戴するも全て汗となって流れ出てしまう。

あぁ、プールがあったら飛び込みたい。

そういえばこの世界にプールってあるんだろうか。

川遊びぐらいならあるだろうけど人工的な物はさすがに無いだろう。

塩素もないし衛生管理が難しそうだ。

え、魔法があるじゃないかって?

そんなに便利なものがあるかなぁ。

「シュウイチ、シュウイチ大丈夫か?」

「え、あぁ、大丈夫です。」

「ご主人様一度日陰で休まれてはいかがですか?」

「そうですよ、お顔色が随分と悪いです。」

「顔が悪いのは昔からですので大丈夫です。」

うん、もとからだから大丈夫。

何が大丈夫かわからないけど大丈夫ったら大丈夫。

あー、アイス食べたい。

キンキンに冷えたかき氷でもオッケー。

とりあえずこの暑さを忘れられるなら何でもいい。

「エミリアこの後の予定はどうなっている?」

「主要な所へのご挨拶は終わりましたので、後はウェリスさんが突き止めた相手の調査ですね。」

「ならば少し休む時間は取れそうだな。昼食もかねてどこかへ入ろう。」

「それがいいと思います。シュウイチさんもそろそろ限界に来ていますから・・・。」

まだいけますよ!

元気をアピールするために手を動かすもまるでタコのようだ。

「ご主人様が良くわからない動きをしています、早急に休憩するべきかと。」

「イナバ様もうすぐ休めますから頑張ってくださいね!」

美女四人に応援されながら真夏の街をさ迷い歩く。

絶対元の世界の方が暑いのにこのモヤシ人間ときたら。

今までどれだけクーラーに助けられてきたか良くわかるな。

文明の利器マジ最高。

「あ、あそこに入りましょう。」

エミリアが空いているであろう飲食店を発見した。

そこに吸い寄せられるように建物の中へと入っていく。

日陰に入るだけでもこれだけ楽なのか。

帽子ぐらいかぶるべきだったなぁ。

後でいい感じのヤツを皆の分も購入しよう。

「いらっしゃい。」

「すみません五人なんですが空いていますか?」

「今でしたらすぐにご案内できますよ。」

「それは助かる。外を歩いてきてフラフラだったのだ。」

どうもフラフラですみません。

受け付けてくれた店員さんに案内されて店の奥へと向かう。

丁度5人座れる円形のテーブルがあった。

あそこでいいや、早く座ろう。

椅子を引いて座ろうとしたその時だった。

奥から大慌てで男の人が出てくる。

なんだ、うちの美人を見にきたのか?

「申し訳ございません、皆様にお出しできる料理は当店には御座いませんのでどうぞお引取り下さい。」

「何だって!」

「すみません何とかなりませんでしょうか、この通り疲れている人間もいるんです。」

すみません、疲れている人間です。

「申し訳御座いません、私どもも何とかしたいのですがお相手がイナバ様となると・・・。本当に申し訳御座いません。」

膝に頭がつくぐらいに頭を下げる店主。

なんだか昨日も同じような光景を見た気がする。

「みんな行きましょう。」

「だが!」

「これ以上ここにいてはここの人に迷惑がかかります。私は大丈夫ですから。」

机の上に手を置いて重たい腰を持ち上げる。

しかし、座ったことで緊張の糸が切れたのか再びドスンと腰を落としてしまった。

あれ、おかしいな。

立ち上がったはずなのに。

「ご主人様どうぞ私の肩におつかまりください。」

「イナバ様お手をどうぞ。」

「すみません二人とも助かります。」

ユーリとニケさんの手を借りてなんとか席から立ち上がる。

この体中が火照る感じ。

これは間違いなく熱中症だ。

やばいな、ここにはポカ〇もアク〇リもないぞ。

そんなときどうするんだっけ、塩と水分を同時に摂取するんだっけ。

でもとりあえずここから出なきゃ。

よろよろとした足取りで店の外へと出る。

後ろは振り返らなかった。

申し訳そうに頭を下げる店の主人の気持ちはわかっているから。

「一度白鷺亭へ戻るとしよう。」

「それが良いと思います。」

「御主人様もう少しの辛抱ですので頑張ってください。」

「ありがとうみんな。」

「私、先に支配人様に知らせてきます。」

ニケさんが走っていくのが見える。

あれ、二人いるように見えるのは暑さで陽炎が見えているからだろうか。

ニケさんの代わりにシルビア様が俺の肩を持つ。

まるで連行されるエイリアンの様に俺達は宿への道を急いだ。

中央の噴水が見える。

あそこに入れてくれてもいいんですよ。

回らない頭でそんなことを考えている時だった、前方からニケさんが走ってくるのが見えた。

その横にいるのは支配人か?

なるほど呼んできてくれたのか。

「大丈夫ですかイナバ様!」

「すみません、ちょっと暑さにやられてしまって。」

「すぐに宿へ、と言いたいところなのですが少々ややこしいことになっておりまして。」

「どうかしたんですか?」

「商業ギルドより再度の通告が来たんです。これ以上イナバ様を相手にすると法的な手段に出ると・・・。」

法的な手段て。

俺がいったい何をしたっていうんだろうか。

っていうかコッペンはどうした。

あいつが昨日話を付けに行ったんじゃなかったのか?

「とりあえず宿の中へだけでも入れませんか?」

「入り口を面倒な相手が監視しています、私は別に構わないのですがこれ以上は働いている従業員までもが危険な目にあってしまいます。彼らの安全を守るのも雇用主の役目、ふがいない私をお許しください。」

「くそ、いったいシュウイチが何をしたというのだ。」

「とりあえず日陰へ行きましょう、このままでは御主人様の頭が溶けてしまいます。」

もう半分ぐらいは溶けていそうだけど、まだ原形はとどめております。

道のど真ん中で行く当てもなく立ち止まる一行。

誰もが見て見ぬふりをしているのはよほどの事情があるのだろう。

「とりあえず騎士団だ、あそこならば誰にも邪魔はさせん。」

「ですがここからでは遠すぎます。」

「馬車を使えばどうだ。」

「今から手配するには時間がかかりすぎます。」

シルビア様のイライラが肩越しに伝わってくる。

そんなに怒ると可愛い声が台無しですよ。

そんな時だった。

「みんなこっち!」

どこかで聞いた声が耳に飛び込んでくる。

はて、いったい誰だろう。

「トリシャさん!」

トリシャさん、あぁ昨日の彼女だ。

「こっちに良い場所があるよ!」

「すまない助かる。」

「シュウイチさんもう少しの辛抱ですよ。」

「頑張ってください御主人様。」

どこへでも行きますよ。

というか引っ張ってもらいますよ。

路地裏へと連れていかれるのだけはわかったが、そこで俺の意識はぷつりと途切れた。


次に目を覚ました時、そこは古びた建物の中だった。

頭痛はするが吐き気はない。

体のほてりも幾分かましだ。

ゆっくりと体を落とすとお腹の上に冷たい布が落ちてきた。

どうやら頭にのせてくれたみたいだ。

「シュウイチさん気分はいかがですか?」

声をした方を見上げるとエミリアが上からのぞき込んでいた。

お腹に落ちた布を再び頭の上にのせてくれる。

「おかげ様で随分とましになりました、ありがとうございます。」

辺りをキョロキョロと見回す。

古いが廃屋という感じはしない。

つい最近まで人が住んでいたような気配がある。

「ここは・・・?」

「トリシャさんに連れて来ていただいたお家です。」

「他のみんなは?」

「シルビア様とユーリはウェリスさんが突き止めた場所を確認しに行かれました。ニケさんとトリシャさんは別室でお話をしておられます。」

「エミリアはわざわざ残ってくれたんですね。」

「起きた時に誰もいないのはさみしいじゃないですか。」

確かに状況もわからず不安な気分になっただろう。

「というのは建前で、本当は心配で心配で仕方がなかったんです。」

「すみません、まさかこの程度の暑さで参るとは思っていなくて。」

「今日は特別暑いですから。」

「種期でこんなに暑いとなると草期はどうなってしまうんでしょう。」

「いつもはこんなに暑くなることはないんですけど、少し不安ですね。」

少しどころかかなり不安だが、未来の話なんて何も分からない。

「失礼しますお目覚めになられましたか?」

ノックする音とニケさんの声がする。

ドアが開いたその向こうにはニケさんとトリシャさんが立っていた。

「お目覚めになられたようですね、すぐに飲み物をとってきます!」

俺が起きていることを確認するとニケさんがそのままどこかへ行ってしまった。

残されたトリシャさんがじっとこちらを見ている。

なんだろう何かしただろうか。

「トリシャさんこの度はありがとうございました、おかげで助かりました。」

「だって昨日助けてくれたから、今日は私の番。」

「ここはトリシャさんのお家・・・ではなさそうですね。」

「うん、ここは元御主人様の家。」

ということは今年の冬に亡くなったという前の主人の家という事か。

え、ちょっと待って。

遺体とかないよね?

ある意味事故物件なんじゃないのこれ。

「今は誰も住んでいないんですね。」

「何度か見知らぬ人が来たけど最近は誰も来なくなった。雨の日はここで寝泊まりしているの。」

「あそこの肖像画、トリシャさんの主人はジルダさんだったんですね。」

「エミリア知っているんですか?」

「サンサトローズでは有名な商隊主です。いい意味でも悪い意味でも有名な、ですけど。」

「いい意味でも悪い意味でもですか・・・。」

表ではまともな商品を扱いつつ裏では非合法の商売に手を染めて、なんてやつだろうか。

麻薬とかじゃないよね。

「そんなに有名な方でしたら跡取りとかいそうなものですけど、誰も管理していないというのは妙ですね。」

「遊び人でもありましたが最後まで天涯孤独を貫いたそうです。確か何人かの奴隷がいたという話は聞いていましたが、まさかその中の一人がトリシャさんだったなんて。」

「つまりは遺産を受け継ぐ人間は誰もいなかったという事ですか。では残された他の奴隷の方々はどうされたんでしょう。」

「みんな他の街に売られていった。」

「売られた?奴隷は主人の死後手続きを踏めば解放されるのではありませんでしたか?」

「恐らく借金か何かがあって、債権の回収分として売られたんだと思います。」

「そのあたりも詳しく調べたほうがいいですね。」

もし仮に借金があって他人に分配されたとしたらトリシャさんを自由にすることは不可能だ。

他人の奴隷を俺たちの権限で自由にすることなどできはしない。

というか、他人の所有物を連れまわすとそれこそ犯罪になってしまう。

なかなか思うようにはいかないようだ。

「イナバ様お水をお持ちしました。」

「ありがとうございます。」

帰ってきたニケさんから水を貰いゆっくりと飲み込んでいく。

塩分も摂取したいところだが生憎とそんなものは持ち歩いていない。

無理せずいけば何とかなるだろう。

「しかし、宿に戻れないというのは些か困りましたね。」

「そうですね。シルビア様にお願いして騎士団の一室をお借りするのが良いかもしれません。」

「あと、イナバ様がお休みになられている間に近くのお店で話を聞いてきました。商業ギルドは全ての商店に対して一切の取引をしないように強制しているそうです。」

「コッペンがしくじったと考えるべきでしょう。」

「それにしてもあまりにも強硬すぎます。商店連合は商業ギルドとは独立した組織ですので直接的な影響はありませんが、シュウイチさん一人にこれほどの仕打ちというのは大げさすぎませんか?」

確かにエミリアの言う通りだ。

俺が犯罪者ならともかく一応は少し有名な一般市民という事になっている。

その一般市民一人を狙い撃ちして攻撃するのは、普通の組織としてあまりにも大げさだ。

このようなやり方を続ければ商業ギルドに対する評価はどんどんと悪くなっていくだろう。

今後同じような事をするかもしれない。

そんな恐れのある相手と商売したいと思うだろうか。

これは俺一人の問題ではなく、サンサトローズ全体の商業への悪影響が出てくる問題だ。

ププト様の耳に入る前に何とかしたほうがよさそうだなぁ。

俺は別に放置でもいいんだけど、特例とか作られるのも嫌だし。

あの人の事だから俺への差別は違法だとか、領主としての地位を全力で使ってきそうだ。

「えっと、もしよかったらずっとここに居てもいいんだよ?」

トリシャさんがおずおずと言った感じで提案してくれた。

「それはありがたいですが、勝手に使わせていただくというのはまずいのではないでしょうか。」

「別に誰も使ってないしいいんじゃないの?」

「所有権が他人に移っていた場合は不法占拠となって罰せられますから、トリシャさんお一人でしたらすぐに逃げられるでしょうが私たち全員となると難しいでしょうね。」

「猫目館も商業ギルドに加盟しておりますのでおそらくは難しいかと思います。」

と、なると残されたのはやはり騎士団か。

「すまない、遅くなった。」

「ただいま戻りました。」

と、ナイスタイミングで二人が戻ってきたようだ。

「二人りともお疲れ様でした。」

「シュウイチ目がさめたか。」

「御主人様お加減はいかがですか?」

「おかげ様で随分とましになりました心配をかけて申し訳ありません。それで、そっちはなにかわかりましたか?」

二人にはウェリスの情報を追ってもらっていたはずだ。

「あぁ、なかなか面白いことがわかってきたぞ。」

面白い事?

「詳しく聞かせてもらいましょうか。」

「トリシャ、男とはどういうやり取りをしたのか教えてくれるか?」

「えっと、宿に入っていったところまでは見たって言ったら銀貨を一枚くれたよ。」

「顔は見たか?」

「暗くてよくわからなかったけど、背が高くて鼻の下に髭があった。」

「間違いないようだな。」

ユーリとシルビア様が顔を見て頷き合う。

「シア奥様と現地に向かった所、口髭を生やした男が別の男と話しておりました。」

「内容はこうだ『白鷺亭への妨害は継続、引き続き全ギルド会員に命令文を順守するように指導しろ』だそうだ。」

「つまりトリシャさんを使って私の尾行を命じたのも商業ギルドという事ですね。」

「さらに『手段を選ぶな、なんとしてでも休息日の間にこの街から追い出せ。ギルド長にばれると厄介なことになるぞ。』とも言っておりました。」

「それは面白いですね。」

「あぁ、やはり今回の騒動は商業ギルドとしての行動ではなくその中の一部分が暴走していると考えていいだろうな。」

つまりは俺は商業ギルドという組織に目をつけられているのではなく、その中の一部分に嫌われている。

思い当たる節はばっちりだ。

これで兄妹が裏で俺の邪魔をしている確証が取れた。

しかも相当焦っている。

コッペンが何をしたのかはわからないが、より強硬な手段に出始めたという事はリスクを無視してでも俺をどうにかしたいのだろう。

空気の読める人間としてはその流れに乗ってやらないといけないよな。

俺が出て行かずにこの街にとどまり続けたら奴らはどうするだろう。

さすがに騎士団長の目の前で荒事はしないだろうが、裏であれこれしてくるに違いない。

それを逆手にとって追い詰めてやる。

俺を敵に回すとどうなるか身を持って体験させてやろう。

熱中症の恨みは恐ろしいんだぞ。

「わかりました。皆には申し訳ないですが手分けしてお願いしたいことがあります、お手伝い願えますか?」

「もちろんです、何でも言ってください。」

「やられっぱなしというのは性に合わん。私のシュウイチをこんな目に合わせた罰を受けてもらおうではないか。」

「御主人様の思うままになさってください。」

「私で良ければお手伝いさせていただきます。」

さすがうちの女性陣頼りになります。

でもシルビア様やり過ぎちゃいけませんよ?

「私もお手伝いするよ。」

「トリシャさんにもお願いしたいことがあります、よろしくお願いします。」

「その件なんだが少し待った方がいいかもしれないぞ。」

「どういうことですか?」

トリシャさんには結構大事な仕事があるんだけどなぁ。

「先程の男達が話していた内容に『あの白狐人はまだ見つからないのか。早くみつけないと納品に間に合わないぞ、何としてでも見つけるんだ。』というものがありました。おそらくトリシャさんを探しているのだと思われます。」

それはちょっと想像してなかった。

商業ギルドとトリシャさんがつながっている?

いや、探しているんだからつながっているわけじゃない。

え、でも昨日ギルドの関係者からお金をもらっているわけで。

探しているんならその場で捕まえたらよくない?

なんでだ?

そもそも納品ってなんだ?

全員が彼女の方を見る。

トリシャさんは怯えたように震えていた。

昨日泣いたときと同じ目をしている。

まさか、商業ギルドに何かされた・・・?

「これは大変な事になりそうですね。」

休息日二日目。

事態は思わぬ方向に進み始めたようです。
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