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第六章
正しいお金の回し方?
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出来すぎなぐらい状況は整いつつある。
あとはそれを上手くコントロールしてこそ一流の指揮官と言えるだろう。
机上の空論は簡単だ。
考えるだけで責任がない。
現場で実際に動かしてみてはじめて言葉に重さが出る。
恐らく考えている通りに話は進まないだろう。
それを臨機応変に動かせるだけの力量が俺にあるのか。
ゲームで培った力が今試される。
これはゲームではない、リセットのない現実なのだから。
とか何とかかっこいい事考えちゃうけど、現実はどったんばったん大騒ぎって奴ですよ。
まぁ気楽にいこうぜ気楽に。
「という事で改めて、今回の作戦総指揮をププト様より委譲されましたイナバです宜しくお願いします。」
「「よろしくおねがいします!」」
ダンジョン発見の一報後、ギルド内の会議室を拝借して対策本部らしきものを設置する。
向こうは総合本部、こっちは個別本部という感じだ。
気楽にいこうと思っていたのだが、自己紹介後に俺を見る会議参加者の視線が眩しい。
やめてくれ、そんな羨望の眼差しで俺を見ないでくれ!
俺はそんな尊敬されるような男じゃない、穢れたオタクなんだ!
穢れちまったのさ・・・。
フフフ。
「現時点で分かっている情報を全員で共有した後、各自に仕事を振り分け行動を開始していただきます。適正業務についてはティナギルド長補佐にお願いしたいのですがよろしいですか?」
「お任せ下さい。」
「では現時点で分かっている情報をお願いします。」
会議室の一番奥。
つまりは一番偉い人が座る席に俺が陣取り、俺の後ろにはモア君、右前にはティナさんが待機している。
俺の指示を受けて別の人が立ち上がり手に持った書類を見ながら報告を開始する。
「昨日の探索依頼を受けて9組の冒険者が3班に別れて探索を続けております。先ほど入った情報によるとそのうちの1班がダンジョンを発見、即座にのろしを上げて他の2班と合流しております。その後ダンジョン内に2班が突入、発見した班はこちらへの連絡と周辺警戒の任に分かれて活動中です。」
「周辺状況についてわかりますか?」
「ダンジョン入口付近に多数の魔物の足跡を発見、その中に人と思われる足跡も含まれておりました。内部に失踪者が居る可能性は非常に高いと思われます。」
「魔物の種類は特定できていますか?」
「足跡から小型~中型の魔物と推測されますが正確な種類については判別できておりません。」
失踪者がその魔物に襲われた後どうなったかはあまり考えたくは無い。
食われたか、犯されたか、どちらにしろいい状況ではないだろう。
問題はどの種類の魔物かという事だ。
「ゴブリンやオークの連中がやらかしたんじゃないのか?」
「そうだ、奴らならこれぐらいやらかすだけの知能はある。俺達を恨んでやらかしたんじゃないのか!」
会議室のいたるところから聞き覚えのある単語が聞こえてくる。
でも彼らって亜人種扱いで魔物じゃなかったと思うんだけど。
分からなかったら聞いたらいいか。
ちょうど後ろにモア君がいるんだし。
「確かゴブリンやオークなどは比較的友好的な種族だと聞いた覚えがあるんですが・・・。」
「確かに友好的な種族ではありますが全てというワケではありません。過去の迫害から今だに我々を恨んでいる一部の過激的な連中も居ます。」
まぁ、それに関していえば彼らが全部悪いわけじゃないよな。
元の世界でも同じような理由でドンパチやってるわけだし。
「それに関して言えば我々も同じようなものですから、その理由だけで亜人種を含め彼らを憎む理由にはなりませんよね。」
「その通りです。悪いのは過激的な連中であって他の大多数は友好的な種族ですから。」
最初に声を荒げた二人はこの流れを聞いて小さくなってしまった。
その思考が悪いわけではない。
どんな生き物も10のうち1つでも悪い事を経験すると他の9つも悪いように感じてしまうものだ。
怖いのは何一つ悪い事を経験していないのに10悪いと思ってしまう思考の人たちだな。
「続いてギルド長率いる後続冒険者集団についてお願いします。」
「後続集団はギルド長の独断で招集された階級不問の混合集団になります。実力者はあまり含まれておりませんので初心者~中級冒険者と考えるのがよろしいかと思います。」
「現在ギルド内に滞留している彼らも同じような感じですか?」
「実力で言えば中級冒険者が多いですね、初心者冒険者は昨日のコボレート討伐に参加しており今日来る元気は無いでしょう。」
そういえばそうだった。
という事はそれなりに実力のあるメンバーが集まっているという事か。
「救助後の対応についてはどうなっていますか?」
「協会より癒し手を複数人手配しており、準備が出来次第こちらに合流する予定です。」
「では合流次第ここにいる冒険者を雇い、護衛をして現地に派遣してください。また、物資の輸送、けが人の護送用の道具についてはどうですか?」
「申し訳ありませんそこまではまだ準備できておりません。」
まぁそうだよな。
探索とダンジョン攻略に重きを置いていたわけだし、その後どうするかまで頭の回るようなギルド長ではないか。
「私のほうで多少は手配しておりますがまだまだ数は足りませんね。」
さすがティナさん気配り上手!
「では至急物資を確保ならびに輸送し、現地に対策本部を仮設してください。陰日で一般の店は使えませんがネムリ商店に私の名前を出せば無理を聞いてくれるでしょう。」
「大規模輸送となるとそれなりに人手が必要になりますが・・・。」
「そのための冒険者です、護衛・輸送使い道はいくらでもあります。」
「資金はいかがされるおつもりですか?」
「ププト様より依頼料を貰っていますね、アレはまだ手付かずですか?」
「先行部隊が戻っておりませんのでまだこちらで保管しています。」
何をするにしても金がかかる。
信頼があればツケで買い物も出来るだろうけどそれを使いすぎるのも良くない話だ。
商売をする上で一番ありがたいのはいつもニコニコ現金払い。
後払いなんてシステムなくなってしまえばいいんだ。
なんていうと大型投資などが出来なくなるのでそれはそれでダメなんだけど、一般的な買い物では自分の支払い能力=手元にある資金で買い物するのが望ましい。
ほら、リボ地獄とかクレジット地獄とか言うじゃない?
キャッシュが一番ですよ。
「先行班への支払いはダンジョンが発見されたので銀貨20枚×9組で180枚。成功報酬は金貨1枚でしたよね。」
「はい。それもあわせて金貨を11枚預かっております。」
「ダンジョン発見分の支払いを引いた残りを今回の支払いに当ててください。」
「そんな事をしては成功報酬を支払えなくなってしまいます!」
まぁ普通に考えればそうだ。
「この成功報酬は先発班がダンジョンを攻略したときに支払われる金額です。では、それ以外の冒険者がダンジョンを攻略した場合はどうなりますか?」
「後続部隊の場合はギルド長が決めた金額が支払われます。」
「その資金はどこから?」
「あの馬鹿上司はププト様の資金を流用する気です。」
あ、バカって言った。
しかも会議の場で。
周りを見ても誰も驚かない所を見ると、本人のいないところでよく言っているんだろうな。
というかここにいる全員がそう思って居そう。
かという俺もそうだ。
ちなみに俺はクソ上司だけどね。
でも今回はそんな人と同じやり方で行くとしよう。
「ギルド長の決めた金額は攻略すれば銀貨40枚。ダンジョン発見分の支払いはありませんからこれだけで先行部隊の資金が半分以上浮きますね。」
「確かに後続部隊が攻略した場合はそうなります。」
「しかも後続全員に払うのではなくあくまでも攻略した部隊に支払うのであれば支払額は銀貨40枚になります。」
「全員に支払うという報酬ではありませんでした・・・。」
「ならば先行部隊よりも多くの冒険者が攻略に参加した場合、先発部隊が攻略する可能性はどうなりますか?」
答えは簡単だ。
後続冒険者の数を増やせば増やすだけ、先発部隊が攻略する可能性は低くなっていく。
「それでは先発部隊から不満が出やしませんか?」
「我々は失踪者の捜索を命じられ、冒険者もそれに従っています。今回の目的はダンジョンの攻略ではなく失踪者の発見救助です。探索者が増えれば増えるほど救助の可能性が上がるというものではありませんか?」
「・・・その通りです。」
「御理解いただけて何よりです。ではこれより出発する冒険者の報酬は後続部隊と同様に支払います。ですが出遅れている分可能性は下がりますのでその分を物資の輸送ならびに護衛に参加すれば先払いで銀貨1枚、失踪者を救助すれば銀貨10枚の報酬を追加してください。救助者のサンサトローズへの護衛にも銀貨1枚を出します。そうすれば中に入れず不満を漏らすような奴は減らせるでしょう。」
何もダンジョンに潜るだけが冒険者の仕事じゃない。
魔物から人々を護衛し、物資を安全に輸送する。
こういった縁の下の力持ちの仕事も冒険者の仕事なのだ。
ギルド内に集まっている冒険者の熱量を放置するなんて事は愚の骨頂だ。
せっかく火にガソリンを注いでもらっているならばもっと注ぎ込んでやればいい。
天を焦がすような炎はどんな強大な敵を倒す事もできるだろう。
お金を使うならそういう部分に使ってあげるべきだ。
官製企業にお金を回すなら冒険者に回した方がよっぽど経済が回る。
なぜなら今日稼いだお金は間違いなく使われる。
それも、この街でね。
「では、ティナさん後はお願いしますね。」
「おまかせください!」
その瞬間から冒険者ギルドは一気にあわただしくなった。
ティナさんの的確な指示により、物資、輸送手段の確保、護衛の人選、冒険者への指示といくつもの班が形成され、それぞれが自身の最善を尽くして業務に当たり始める。
また、依頼を受注した冒険者達が自らの仕事を全うする為に準備を始める。
現地に行くだけでなく、ダンジョンに入らなくてもお金をもらえるとあって俄然やる気が上がっているのだろう。
ダンジョンの攻略に精を出すもよし、搬入や警護に精を出すもよし、稼ぎ方は人それぞれだ。
問題は先発部隊がダンジョンを攻略してしまった場合だが、そこはププト様に気前よく出してもらうとしよう。
別に無駄遣いをしているわけではない、これは必要経費なのだ。
「イナバ様どちらへ?」
「騎士団に顔を出してから一度ププト様のところに戻ります。情報を共有してから物資輸送班と共に現地に向かうとしましょう。」
「了解しました!」
ギルドはティナさんにお任せして俺は俺の用事を済ませてしまおう。
これだけの人数が投入されるんだ、今日中にダンジョンは攻略されると思っている。
こっちの憂いが無くなればププト様も心置きなく南方で戦えるに違いない。
慌しくなりだした冒険者ギルドを出て向かうは騎士団詰所と行きたいところだがちょっと寄り道だ。
「こっちは騎士団じゃないですよ?」
「すぐに済みますから。」
不思議そうなモア君を横目に用事を済ませ、今度こそ目的地へ向かう。
騎士団は冒険者ギルド同様人の出入りが増え、物々しい雰囲気を出していた。
「さすがに皆さん殺気立っていますね。」
「ただの魔物討伐ではなく集団暴走ですから気を抜けないんです。それに今回はププト様も来られているそうで。」
「御本人がですか?」
「イナバ様同様あそこでじっとしていられなかったそうですよ。」
俺もそうだったし気持ちはわからなくは無いけど、現場の兵士諸君の心労を察すると何もいえないな。
いわば市長の表敬訪問だ。
いや、政治介入か?
異世界だしどっちでもいいか。
「では行くとしますか。」
「分団長は奥の作戦本部でお待ちです。」
入口で挨拶を済ませて詰め所内へと入る。
ただでさえピリピリしている詰所内が一触即発の雰囲気に変わっていた。
「・・・ここで、空気の入った袋を爆発させたら面白そうだな。」
「お願いですからおやめ下さい。」
「冗談ですよ。」
さすがにそんな事はしないよ。
したいけど。
奥へと案内されている途中で、目的の場所から見慣れた顔が走ってきた。
赤いハーフプレート、シルビア様だ。
「シュウイチ!」
「シルビア、ご苦労様です。」
「シュウイチこそ大変な事になっているな。」
「私は前線ではなく後方待機ですからそこまで大変ではないですよ。」
嘘だ。
ププト様からは前線に出て指揮を取ってくれといわれている。
だがそれをシルビア様に言うと必要以上に心配するのでそれだけはいえない。
世の中には必要な嘘というものがあるのだよ。
「モア、くれぐれもシュウイチを頼んだぞ。」
「命に代えましてもお守りいたします。」
「斥候から何か情報はつかめましたか?」
「ちょうど第一報が入ってきた所だ、是非シュウイチの意見が聞きたい。」
「そのために来ましたから。」
ププト様に冒険者の方を任された以上、俺が騎士団の事に口を出すのは間違いなのだが助言を求められるのであれば致し方ない。
それに自分の大事な奥さんが危険な場所に行くんだ、どんな状況下か知りたいじゃないか。
シルビア様に先導されて向かった作戦本部は、情報が入ってきたばかりという事もありお祭り騒ぎの状況だった。
それぞが情報を共有し、それを上長に報告、上長が情報を取捨選択し更に上へと上げていく縦割り構造だ。
情報の取捨選択が出来る反面、必要な情報が捨てられている場合もあるからこれが絶対正しいとは言いにくいんだけど、組織が大きくなると必然的にそうなるんだよな。
俺はそのままププト様の居る一番奥へと案内されるのだった。
「ここに来たという事はそちらは片付いたのか?」
「情報が来ましたので指示を出し終わりました。こちらが終わり次第現場に向かいます。」
「こちらは今からだがもちろん参加するのであろう?」
「そのつもりです。」
そっちも元からその気だったんかーい。
まぁありがたいけどね。
「では対策会議を開始します!」
議長らしき騎士団が高い所から声かけをする。
第二回戦の始まりだ。
あとはそれを上手くコントロールしてこそ一流の指揮官と言えるだろう。
机上の空論は簡単だ。
考えるだけで責任がない。
現場で実際に動かしてみてはじめて言葉に重さが出る。
恐らく考えている通りに話は進まないだろう。
それを臨機応変に動かせるだけの力量が俺にあるのか。
ゲームで培った力が今試される。
これはゲームではない、リセットのない現実なのだから。
とか何とかかっこいい事考えちゃうけど、現実はどったんばったん大騒ぎって奴ですよ。
まぁ気楽にいこうぜ気楽に。
「という事で改めて、今回の作戦総指揮をププト様より委譲されましたイナバです宜しくお願いします。」
「「よろしくおねがいします!」」
ダンジョン発見の一報後、ギルド内の会議室を拝借して対策本部らしきものを設置する。
向こうは総合本部、こっちは個別本部という感じだ。
気楽にいこうと思っていたのだが、自己紹介後に俺を見る会議参加者の視線が眩しい。
やめてくれ、そんな羨望の眼差しで俺を見ないでくれ!
俺はそんな尊敬されるような男じゃない、穢れたオタクなんだ!
穢れちまったのさ・・・。
フフフ。
「現時点で分かっている情報を全員で共有した後、各自に仕事を振り分け行動を開始していただきます。適正業務についてはティナギルド長補佐にお願いしたいのですがよろしいですか?」
「お任せ下さい。」
「では現時点で分かっている情報をお願いします。」
会議室の一番奥。
つまりは一番偉い人が座る席に俺が陣取り、俺の後ろにはモア君、右前にはティナさんが待機している。
俺の指示を受けて別の人が立ち上がり手に持った書類を見ながら報告を開始する。
「昨日の探索依頼を受けて9組の冒険者が3班に別れて探索を続けております。先ほど入った情報によるとそのうちの1班がダンジョンを発見、即座にのろしを上げて他の2班と合流しております。その後ダンジョン内に2班が突入、発見した班はこちらへの連絡と周辺警戒の任に分かれて活動中です。」
「周辺状況についてわかりますか?」
「ダンジョン入口付近に多数の魔物の足跡を発見、その中に人と思われる足跡も含まれておりました。内部に失踪者が居る可能性は非常に高いと思われます。」
「魔物の種類は特定できていますか?」
「足跡から小型~中型の魔物と推測されますが正確な種類については判別できておりません。」
失踪者がその魔物に襲われた後どうなったかはあまり考えたくは無い。
食われたか、犯されたか、どちらにしろいい状況ではないだろう。
問題はどの種類の魔物かという事だ。
「ゴブリンやオークの連中がやらかしたんじゃないのか?」
「そうだ、奴らならこれぐらいやらかすだけの知能はある。俺達を恨んでやらかしたんじゃないのか!」
会議室のいたるところから聞き覚えのある単語が聞こえてくる。
でも彼らって亜人種扱いで魔物じゃなかったと思うんだけど。
分からなかったら聞いたらいいか。
ちょうど後ろにモア君がいるんだし。
「確かゴブリンやオークなどは比較的友好的な種族だと聞いた覚えがあるんですが・・・。」
「確かに友好的な種族ではありますが全てというワケではありません。過去の迫害から今だに我々を恨んでいる一部の過激的な連中も居ます。」
まぁ、それに関していえば彼らが全部悪いわけじゃないよな。
元の世界でも同じような理由でドンパチやってるわけだし。
「それに関して言えば我々も同じようなものですから、その理由だけで亜人種を含め彼らを憎む理由にはなりませんよね。」
「その通りです。悪いのは過激的な連中であって他の大多数は友好的な種族ですから。」
最初に声を荒げた二人はこの流れを聞いて小さくなってしまった。
その思考が悪いわけではない。
どんな生き物も10のうち1つでも悪い事を経験すると他の9つも悪いように感じてしまうものだ。
怖いのは何一つ悪い事を経験していないのに10悪いと思ってしまう思考の人たちだな。
「続いてギルド長率いる後続冒険者集団についてお願いします。」
「後続集団はギルド長の独断で招集された階級不問の混合集団になります。実力者はあまり含まれておりませんので初心者~中級冒険者と考えるのがよろしいかと思います。」
「現在ギルド内に滞留している彼らも同じような感じですか?」
「実力で言えば中級冒険者が多いですね、初心者冒険者は昨日のコボレート討伐に参加しており今日来る元気は無いでしょう。」
そういえばそうだった。
という事はそれなりに実力のあるメンバーが集まっているという事か。
「救助後の対応についてはどうなっていますか?」
「協会より癒し手を複数人手配しており、準備が出来次第こちらに合流する予定です。」
「では合流次第ここにいる冒険者を雇い、護衛をして現地に派遣してください。また、物資の輸送、けが人の護送用の道具についてはどうですか?」
「申し訳ありませんそこまではまだ準備できておりません。」
まぁそうだよな。
探索とダンジョン攻略に重きを置いていたわけだし、その後どうするかまで頭の回るようなギルド長ではないか。
「私のほうで多少は手配しておりますがまだまだ数は足りませんね。」
さすがティナさん気配り上手!
「では至急物資を確保ならびに輸送し、現地に対策本部を仮設してください。陰日で一般の店は使えませんがネムリ商店に私の名前を出せば無理を聞いてくれるでしょう。」
「大規模輸送となるとそれなりに人手が必要になりますが・・・。」
「そのための冒険者です、護衛・輸送使い道はいくらでもあります。」
「資金はいかがされるおつもりですか?」
「ププト様より依頼料を貰っていますね、アレはまだ手付かずですか?」
「先行部隊が戻っておりませんのでまだこちらで保管しています。」
何をするにしても金がかかる。
信頼があればツケで買い物も出来るだろうけどそれを使いすぎるのも良くない話だ。
商売をする上で一番ありがたいのはいつもニコニコ現金払い。
後払いなんてシステムなくなってしまえばいいんだ。
なんていうと大型投資などが出来なくなるのでそれはそれでダメなんだけど、一般的な買い物では自分の支払い能力=手元にある資金で買い物するのが望ましい。
ほら、リボ地獄とかクレジット地獄とか言うじゃない?
キャッシュが一番ですよ。
「先行班への支払いはダンジョンが発見されたので銀貨20枚×9組で180枚。成功報酬は金貨1枚でしたよね。」
「はい。それもあわせて金貨を11枚預かっております。」
「ダンジョン発見分の支払いを引いた残りを今回の支払いに当ててください。」
「そんな事をしては成功報酬を支払えなくなってしまいます!」
まぁ普通に考えればそうだ。
「この成功報酬は先発班がダンジョンを攻略したときに支払われる金額です。では、それ以外の冒険者がダンジョンを攻略した場合はどうなりますか?」
「後続部隊の場合はギルド長が決めた金額が支払われます。」
「その資金はどこから?」
「あの馬鹿上司はププト様の資金を流用する気です。」
あ、バカって言った。
しかも会議の場で。
周りを見ても誰も驚かない所を見ると、本人のいないところでよく言っているんだろうな。
というかここにいる全員がそう思って居そう。
かという俺もそうだ。
ちなみに俺はクソ上司だけどね。
でも今回はそんな人と同じやり方で行くとしよう。
「ギルド長の決めた金額は攻略すれば銀貨40枚。ダンジョン発見分の支払いはありませんからこれだけで先行部隊の資金が半分以上浮きますね。」
「確かに後続部隊が攻略した場合はそうなります。」
「しかも後続全員に払うのではなくあくまでも攻略した部隊に支払うのであれば支払額は銀貨40枚になります。」
「全員に支払うという報酬ではありませんでした・・・。」
「ならば先行部隊よりも多くの冒険者が攻略に参加した場合、先発部隊が攻略する可能性はどうなりますか?」
答えは簡単だ。
後続冒険者の数を増やせば増やすだけ、先発部隊が攻略する可能性は低くなっていく。
「それでは先発部隊から不満が出やしませんか?」
「我々は失踪者の捜索を命じられ、冒険者もそれに従っています。今回の目的はダンジョンの攻略ではなく失踪者の発見救助です。探索者が増えれば増えるほど救助の可能性が上がるというものではありませんか?」
「・・・その通りです。」
「御理解いただけて何よりです。ではこれより出発する冒険者の報酬は後続部隊と同様に支払います。ですが出遅れている分可能性は下がりますのでその分を物資の輸送ならびに護衛に参加すれば先払いで銀貨1枚、失踪者を救助すれば銀貨10枚の報酬を追加してください。救助者のサンサトローズへの護衛にも銀貨1枚を出します。そうすれば中に入れず不満を漏らすような奴は減らせるでしょう。」
何もダンジョンに潜るだけが冒険者の仕事じゃない。
魔物から人々を護衛し、物資を安全に輸送する。
こういった縁の下の力持ちの仕事も冒険者の仕事なのだ。
ギルド内に集まっている冒険者の熱量を放置するなんて事は愚の骨頂だ。
せっかく火にガソリンを注いでもらっているならばもっと注ぎ込んでやればいい。
天を焦がすような炎はどんな強大な敵を倒す事もできるだろう。
お金を使うならそういう部分に使ってあげるべきだ。
官製企業にお金を回すなら冒険者に回した方がよっぽど経済が回る。
なぜなら今日稼いだお金は間違いなく使われる。
それも、この街でね。
「では、ティナさん後はお願いしますね。」
「おまかせください!」
その瞬間から冒険者ギルドは一気にあわただしくなった。
ティナさんの的確な指示により、物資、輸送手段の確保、護衛の人選、冒険者への指示といくつもの班が形成され、それぞれが自身の最善を尽くして業務に当たり始める。
また、依頼を受注した冒険者達が自らの仕事を全うする為に準備を始める。
現地に行くだけでなく、ダンジョンに入らなくてもお金をもらえるとあって俄然やる気が上がっているのだろう。
ダンジョンの攻略に精を出すもよし、搬入や警護に精を出すもよし、稼ぎ方は人それぞれだ。
問題は先発部隊がダンジョンを攻略してしまった場合だが、そこはププト様に気前よく出してもらうとしよう。
別に無駄遣いをしているわけではない、これは必要経費なのだ。
「イナバ様どちらへ?」
「騎士団に顔を出してから一度ププト様のところに戻ります。情報を共有してから物資輸送班と共に現地に向かうとしましょう。」
「了解しました!」
ギルドはティナさんにお任せして俺は俺の用事を済ませてしまおう。
これだけの人数が投入されるんだ、今日中にダンジョンは攻略されると思っている。
こっちの憂いが無くなればププト様も心置きなく南方で戦えるに違いない。
慌しくなりだした冒険者ギルドを出て向かうは騎士団詰所と行きたいところだがちょっと寄り道だ。
「こっちは騎士団じゃないですよ?」
「すぐに済みますから。」
不思議そうなモア君を横目に用事を済ませ、今度こそ目的地へ向かう。
騎士団は冒険者ギルド同様人の出入りが増え、物々しい雰囲気を出していた。
「さすがに皆さん殺気立っていますね。」
「ただの魔物討伐ではなく集団暴走ですから気を抜けないんです。それに今回はププト様も来られているそうで。」
「御本人がですか?」
「イナバ様同様あそこでじっとしていられなかったそうですよ。」
俺もそうだったし気持ちはわからなくは無いけど、現場の兵士諸君の心労を察すると何もいえないな。
いわば市長の表敬訪問だ。
いや、政治介入か?
異世界だしどっちでもいいか。
「では行くとしますか。」
「分団長は奥の作戦本部でお待ちです。」
入口で挨拶を済ませて詰め所内へと入る。
ただでさえピリピリしている詰所内が一触即発の雰囲気に変わっていた。
「・・・ここで、空気の入った袋を爆発させたら面白そうだな。」
「お願いですからおやめ下さい。」
「冗談ですよ。」
さすがにそんな事はしないよ。
したいけど。
奥へと案内されている途中で、目的の場所から見慣れた顔が走ってきた。
赤いハーフプレート、シルビア様だ。
「シュウイチ!」
「シルビア、ご苦労様です。」
「シュウイチこそ大変な事になっているな。」
「私は前線ではなく後方待機ですからそこまで大変ではないですよ。」
嘘だ。
ププト様からは前線に出て指揮を取ってくれといわれている。
だがそれをシルビア様に言うと必要以上に心配するのでそれだけはいえない。
世の中には必要な嘘というものがあるのだよ。
「モア、くれぐれもシュウイチを頼んだぞ。」
「命に代えましてもお守りいたします。」
「斥候から何か情報はつかめましたか?」
「ちょうど第一報が入ってきた所だ、是非シュウイチの意見が聞きたい。」
「そのために来ましたから。」
ププト様に冒険者の方を任された以上、俺が騎士団の事に口を出すのは間違いなのだが助言を求められるのであれば致し方ない。
それに自分の大事な奥さんが危険な場所に行くんだ、どんな状況下か知りたいじゃないか。
シルビア様に先導されて向かった作戦本部は、情報が入ってきたばかりという事もありお祭り騒ぎの状況だった。
それぞが情報を共有し、それを上長に報告、上長が情報を取捨選択し更に上へと上げていく縦割り構造だ。
情報の取捨選択が出来る反面、必要な情報が捨てられている場合もあるからこれが絶対正しいとは言いにくいんだけど、組織が大きくなると必然的にそうなるんだよな。
俺はそのままププト様の居る一番奥へと案内されるのだった。
「ここに来たという事はそちらは片付いたのか?」
「情報が来ましたので指示を出し終わりました。こちらが終わり次第現場に向かいます。」
「こちらは今からだがもちろん参加するのであろう?」
「そのつもりです。」
そっちも元からその気だったんかーい。
まぁありがたいけどね。
「では対策会議を開始します!」
議長らしき騎士団が高い所から声かけをする。
第二回戦の始まりだ。
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男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
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