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第五章

念願の?冒険者

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ドタバタした開店前だったが無事に開店には間に合わせることが出来た。

もっとも、開店してすぐお客さんが来るわけではないので多少遅れたところで何の問題もないのだが、まぁそこは気持ちの問題ということで。

時計があるわけではないので開店時間も適当である。

いつもは太陽が見えるので時間を把握できるのだが、今日はこの天気なので時間の目安に成るものがない。

しいて言えば自分の腹時計ぐらいだろうか。

こんな日は焦らずゆっくり仕事をするに限る。

横着をすると朝のような結果になると言う事は身を持って体験した。

今日は何事にも注意を払って仕事をするとしよう。

「シュウイチさんお体は大丈夫ですか?」

「おかげさまで問題なさそうです。ぶつけた所も青くなっているだけで特に血が出ているわけではありませんから。」

「それなら良かったです。片付けも急がずゆっくりお願いしますね。」

「ご心配おかけします。」

倉庫で片づけをしていると体感的に30分に1度の割合でエミリアが声を掛けてくれる。

よっぽど心配なのだろう。

というか普段から俺が無茶ばかりするからか。

いつも心配ばかりかけてどうもすみません。

先日も無茶したばかりですので当分は大人しくしているつもりです。

それを世間が許してくれるのであれば。

どうも今日は嫌な予感がするんだよな。

あ、朝のアクシデントとは別にね。

天気のせいだとはおもうんだけど、なんだかなぁ。

因みに太陽にはセロトニンという心を前向きにしてくれる素晴らしい成分を作り出してくれる効果があるので、今日のように太陽が出ていない日は鬱になったり気分が重たくなったりするそうです。

冬場に気持ちがふさぎ気味になるのも太陽の光が降り注ぐ時間が少ないからだとか。

つまりは梅雨時期の憂鬱もそれに当てはまるわけですね。

逆に太陽サンサンの夏はセロトニンたっぷりなので精神的に安定しているので楽しいことばかりに感じるという説もあるんだとか。

とりあえず人間太陽がないとしんどいよという豆知識でした。

以上!

話を戻そう。

とりあえず今は倉庫の片づけだ。

オッケーグー〇ル、倉庫の最適な片付け方を教えてくれ。

そもそもこれは何の道具なんだい?

え、わからない?

HAHAHA

ですよねー。

俺にもわからん。

とりあえず似た奴をまとめて箱に入れていこう。

その後それをさらに同じような物と一緒の箱に入れて仕分けしておく。

詳しくはエミリアに聞きながらやればいいだろう。

ここにあるという事は普段はあまり使わない道具という事になる。

あ、灯り用の魔石は一番下の分かる場所にしよう。

同じ失敗は二度しないのだよ。

文字が読めないというのはやはり不便だなぁ。

もうちょっと真剣に勉強するか。

ゲームに出てくる文字とかはすぐ解読できるんだから、勉強と思うのがいけないんだよな。

そう、これはゲームだ。

攻略するために重要なものなのだ。

そう思って取り組めば何とかなるかもしれない。

よし、やる気が出てきた。

がんばろう。

「シュウイチさん、そろそろお昼にしませんか?」

「あれもうそんな時間ですか。」

そんなに長いこと倉庫にいただろうか。

でもエミリアが言うのであれば間違いないだろう。

心なしか空腹になってきた気もする。

「セレンさんのリズムだとちょうどお昼のようです。」

なるほど、出勤してから準備を終えるまでの作業が一定の人だと時間の目安になるな。

セレンさんの仕込が終わるのがいつも同じ時間だからちょうどいい時計代わりになるわけか。

「すぐに行きますので先に食べていてください。」

「わかりました。」

今日は商店も開店休業だ。

今にも崩れそうな天気の中わざわざ買い物に来るような人は居ない。

こんな日は家で大人しくしているのが一番だ。

もしお客さんが来るとしたらよっぽど緊急の用事か、それとも変人か。

あ、冒険者だったありえるかもしれないがそれはさすがにないだろう。

勝手口から外に出て手を洗う。

空は朝よりも分厚い雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうだ。

風も強くなっているし遠くのほうは白くかすんできている。

おそらく雨が降っているのだろう。

もうすぐこっちにもくるな。

「お待たせしました。」

テーブルには二人分の食事が準備されていた。

そうか、ユーリは家だったな。

「ではいただきましょうか。」

「「いただきます。」」

今日のメインは珍しく魚か。

いつも肉系だったからちょっと新鮮だな。

「この魚はどうされたんですか?」

「昨日村の若い人が魚釣りに行ったそうでおすそ分けをいただいたんです。私一人では食べきれないのでよかったらとおもいまして。お嫌いでしたか?」

「魚は久々なので嬉しいです。」

魚なんていつ振りだろう。

こっちの世界に来てからは基本肉食だったし、魚というものの存在を忘れていたかもしれない。

そうだよな、魚いるよな。

「エミリアこの世界に海はあるんですか?」

「海ですか。この近くにはありませんが二つほど国を通過した先にありますね。」

随分と遠いようだ。

という事はお寿司を食べる機会はおそらくないだろう。

生魚だし、どれが毒あるとか分からないしな。

ま、そんな贅沢しなくてもおいしい物はたくさんあるし。

「イナバ様は海を見たことがあるんですか?」

「元いた世界では国の周りは全て海でしたので身近な存在でした。」

「水が塩気を含んでいると聞いたことがあるのですが、そこに泳いでいる魚もしょっぱいんですか?」

なるほど。

そういう考え方もあるのか。

確かに塩分を含んだ水で泳いでいるんだからしょっぱくなるって考えるのが普通だよな。

実際は違うけど。

「魚自体に塩気はありません。ですので、普通に塩焼きなどにして食べることもありますよ。」

「そうなんですね。一度でいいから見てみたいと思っているんです。」

「どなたかに連れて行ってもらうといいですよ。」

誰かとは言わんけど。

と、和気藹々と食事を続けていたときだった。

『ドーーーーン!」

という音を立てて雷鳴が商店全体を襲った。

あまりの音にエミリアが悲鳴を上げる。

うんうん、可愛い悲鳴を上げるエミリアも可愛いよ。

って違う。

「ビックリしましたね。」

「近くに落ちたんでしょうか。」

セレンさんと目を合わせて驚く。

あれ、エミリアは?

先ほどまで眼の前で食事をしていたエミリアが机の下に隠れるようにしゃがんでいた。

もしかして、雷怖いタイプですか。

「エミリア大丈夫?」

「雷だけはダメなんです・・・。」

小さく震えた声が机の下から聞こえてくる。

「横にマナの木がありますからここに落ちてくることはありませんよ、大丈夫です。」

「音もそうですが、光もにがて・・・キャァァ!」

雷光が先に届き、すぐさま『ゴロゴロゴロ』という音がきこえてくる。

うん。よっぽど怖いようだ。

「エミリアこっちに来ますか?」

「お願いします。」

エミリアが俺の横に座り、服の裾を持って震えている。

まるで小動物だな。

可愛い可愛い。

ゴロゴロという音が続いたかと思うと今度はザーーーっという音を立てて強い雨が降り出した。

「雨も降ってきましたから今日はもうお客さんは来ないですねぇ。」

「残念ですが難しそうですね。」

「料理の仕込みしてしまったんでしたっけ。」

「朝からあの天気でしたので少なめにしていました。皆さんの晩御飯分ぐらいはありますよ。」

「それは助かります。ウェリスが気を利かせて早く迎えに来てくれればいいですが、この雨では難しいかもしれませんね。」

この雨が長いこと続くようであればウェリスが迎えに来ることは難しい。

明かりもなく強い雨でぬかるんだ道を来ることはできても、セレンさんを連れて帰るのは難しいだろう。

元いた世界ならともかく魔物の出るこの世界では危険極まりない。

「その場合はこちらに泊めていただいてもよろしいですか?」

「こちらではなくどうぞ我が家にお越しください。」

客間を使って頂けば問題ないだろう。

「ユーリは大丈夫でしょうか・・・。」

「おそらく大丈夫だとは思いますが念のためこっちに呼んでおきましょうか。」

そう言って立ち上がろうとするもエミリアが袖を強くつかんでいる為立ち上がれない。

あのー、エミリアさん手を離していただけますでしょうか。

「でしたら私が行ってきますね。」

それを見たセレンさんが優しく微笑みながら名乗り出てくれた。

「すみませんお願いします。」

「ちょうどご飯ができたことを伝えに行こうと思っていましたから。」

「裏口に外套をかけてありますのでそれを使ってください。」

「助かります。」

外套、フードつきのマントだ。

撥水性に優れた革を使っており、元の世界で言うカッパ的な位置づけになる。

残念ながらナイロン製ではないので非常に重いのがネックだ。

セレンさんがユーリを呼びにいっている間エミリアと二人きりになる。

二人きりだから何かするわけではないのだが、震えるエミリアを見ると守ってあげたい気分になる。

「一緒にいますから大丈夫ですよ。」

「すみませんシュウイチさん、こればっかりはどうしてもダメなんです。」

「人には苦手な物の一つや二つありますから。」

「シュウイチさんにもあるんですか?」

「もちろんありますよ。」

牡蠣や海胆は苦手だ。

「嫌いにならないでくださいね。」

「そんな事で嫌いになんてなりませんよ。」

面白いことを言うなぁ。

むしろもっと好きになったというのに。

といい雰囲気になりかけたときだった。

再び大きな雷鳴が轟き、その音にエミリアが身を硬くする。

と同時に宿の扉が開き誰かが中に駆け込んできた。

「いらっしゃいませ。」

反射的に声をかける。

ずぶ濡れの来客者は驚いたように顔を上げた。

「すみません、雨宿りさせてください!」

「シュリアン商店へようこそ、どうぞ中にお入りください。」

「ですが汚れてしまいます。」

「そんな事を気にしては冒険者相手に商売は出来ませんよ。」

「冒険者だって分かるんですか!?」

分からないはずがないだろう。

腰にぶら下がったショートソード。

外套で見えにくいが革の靴に小手、おそらくはブレストプレートぐらいは身につけているのだろう。

こんな場所にそんな格好で来るのは冒険者しかいない。

村の人は革の小手とか装備してないしね。

「この場所にその格好でこられて冒険者じゃありませんといわれるほうが驚きます。どうぞ手前の机が空いていますからそちらにおかけください、今お茶を入れましょう。」

この商店の初めてのお客様になる。

丁重におもてなししないとな。

「では私が入れてきますね。」

先ほどまで震えていたエミリアがいつものエミリアに戻っていた。

仕事モードに切り替わったらしい。

エミリアさんさすがです。

「失礼します。」

「外套は入り口横の出っ張りにかけられるようになっていますのでお使いください。」

外套を脱いで現れたのはまだ10代のような若い男性だった。

思っていたよりも若いな。

声の感じからまだそんなに年をとっていない感じはするが、この世界にはミド博士のように見た目と中身が一致しないケースが多々あるので見た目や雰囲気で決め付けるわけにはいかない。

「この天気の中大変だったでしょう。今日はどちらからこられたんですか?」

「サンサトローズからきました。ここなら出来て間もない若いダンジョンがあるから腕試しにはちょうどいいって。」

おや、もしかしてダンジョン初心者か?

まぁ俺も人のことは言えないけど。

サンサトローズで紹介を受けてきたってことは、冒険者ギルドか何かかだろうか。

一応このダンジョンも認知されていると喜ぶべきところなのだろうな。

「そうでしたか。確かにこのダンジョンは若く階層も深くありません、腕試しにはちょうどいいかもしれませんね。」

「ダンジョンに潜るのは初めてなのでちょっと緊張します。」

ガチ初心者ですか。

誰もが最初は初心者だし、別におかしいことではない。

ないのだが本当に大丈夫だろうか。

「普段はどこか別の所で魔物の討伐などをされていたんですか?」

「いえ、前まではサンサトローズで靴屋をしていました。といっても見習いのうちに工房が潰れてしまって、冒険者になったのはつい先日なんです。」

「そうでしたか。」

どう考えても大丈夫じゃないだろう。

冒険者という名の一般人じゃないか。

おそらく魔物と戦ったこともなければ武器も使ったことないんじゃないか?

別に冒険者が中に入って死のうが自己責任だから構わないんだけどさ。

これはちょっと・・・。

「道中魔物に襲われたりはしなかったのですか?」

「おかげ様で野宿はしましたが襲われることはありませんでした。ギルドの方が親切にもこの武器と防具を貸してくださったのでいざ戦いとなっても何とかなると思います。」

なんとかなると思いますじゃないでしょ。

明らかに成り行きでここにきてるじゃないか。

おそらく食い扶持に困って冒険者ギルドに入ったけれど、先方も扱いに困ったんだろうな。

それでとりあえずの武器と防具を貸し出して修行の一環としてこのダンジョンを紹介したんだろう。

それは構わない。

むしろ歓迎だ。

だが、中にいるのは本物の魔物だ。

本気で命を狙って来るだろう。

罠だって前回みたいな非殺傷系だけでなくがっつり殺傷系の罠も用意している。

その中に何の覚悟もない奴が入ってどうなるのか。

答えは目に見えている。

遊びでやっているんじゃないんだよ!

初めての冒険者がこれとか。

ちょっと前途多難じゃないでしょうか・・・。

「中には魔物も罠もたくさんありますし、命を落とすことだってあります。その覚悟があってここに来られたんですよね。」

「え、そんなに大変なんですか。」

大変なんですかじゃないだろ!

ピクニックに来たんじゃないんだぞ?

ガチの戦場なんだよこの先は。

そんな軽い気持ちで入っちゃいけない所なんだよ。

どうしよう、止めるべきか?

止めるべきなのか?

だがここで止めてしまえばサンサトローズに戻った時になんて言われるか。

誰も来ていないのに一発目から悪い口コミが広がるとか最悪だろ。

ならばどうする。

みすみす殺すのか?

それはまずいだろう。

「低階層のダンジョンとはいえ他のダンジョンと何も変わりません。命を賭して戦いに行く場所です。危険が多い分見返りもあります。皆さんその覚悟があってダンジョンにやってこられるんですよ。」

「でしたら私にも覚悟はあります。ダンジョンに入って強くなれば美味しいご飯にもありつけますし、よりよい生活を営むことだってできます。その為にはこの命惜しくはありません、大丈夫ですここに来る途中でいっぱい薬草摘んできましたから!」

薬草摘んできましたから!じゃないんだよ。

美味しいご飯の為にダンジョンに入って死ぬってどうなのよ。

ご飯食べれてないやん。

死んじゃってるやん。

もういい、知らない。

好きにしたらいい。

こんなのでも冒険者の端くれだ。

冒険者は冒険者らしくダンジョンで戦って、生きて帰るならよし。

死んだのならそこまでだ。

好きにしろ。

「でしたら頑張ってきてくださいね。」

「はい、ありがとうございます頑張ります!」

大荒れの天気と共にやってきたこの冒険者がいったいどうなるのか。

俺の知ったこっちゃない!
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