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第五章

迎えに行くための準備

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あれから三日経った。

元の世界に当てはめると現在7月第2週目の水曜日です。

日にちで言うと9日です。

どうもこんにちは。

当日夜はひどい目にあったので割愛するが、とりあえず無事に次の日を迎えることが出来た。

せっかく解決したのだから次の日ぐらいゆっくり寝たいところなのだが、残念ながら雇われ店主にそんな自由はなくいつもの通り出勤するのだった。

まぁ昔みたいに満員電車に揺られてとかないし、いやな上司も居ない。

職場は徒歩一分で同僚は自分の奥さんも含め美人ぞろいと来たものだ。

この職場に文句があるかって?

あるわけがない。

あ、美人のうち一人は先約がいるので手は出してないよ。

ミド博士は魔術師ギルドからの迎えが来たので朝早く魔石研究所へと帰っていった。

本当はついていって報告やら何やらしたいところではあったが、店をほったらかしにするわけにはいかない。

俺の城は俺がしっかり管理しないとね。

名残惜しそうに精霊の結晶を手放す博士を見ていると子供からおもちゃを取り上げるような気分になったが、よく考えればあの人55歳なんですよ。

俺よりも年上なんですよ。

問答無用で引っぺがして何が問題あるというのだろうか。

というか、もともと俺のものだし。

博士のひじょーーーーーーーーーーに長い説明を受けて、この結晶がいかにすごい物なのかという事は伝わった。

伝わったのだが、それを今後どう扱っていくかは正直まだ決めていない。

店のお守りはこのまま残すとして、失敗作のほうは手放しても問題ないんだよな。

ご本人の許可もあるし。

問題があるとしたら手放す先をどうするか。

話によれば世界に二つとないとても珍しい精霊結晶であり、普通は国家の宝物庫か博物館のような場所に保管されるべきものなのだそうだ。

ただの商人がポケットに入れて持ち歩いていいモノではないと怒られてしまったのだが、そんな大事な物を家に置きっぱなしにするわけにも行かないので結局はポケットに入れてうろうろしているというね。

因みに店のお守りのほうは見えない場所に隠しつつ置かせて貰っている。

存在を知っているのは店の人間だけだし、口外するような人達でもない。

何かあったとしたら俺達じゃなくて精霊のお二人がお仕置きしに行ってくれそうだから別にいいかなって思っている。

むしろ国家の宝物庫に置かれるぐらいなら黙って俺の店においておきたい。

だって、せっかくあの二人が頑張って作ってくれたんだから。

それで、だ。

もう一つをどうするかという話に戻ろう。

選択肢は現在三つある。

一つ目はこのまま持っておく。

二つ目はミド博士が個人的に買い取る。

三つ目は国もしくは魔術師ギルドに譲渡もしくは売却。

以上の三つだ。

一つ目は現状維持。

二つ目は昨日博士が自分の全財産をなげうってでも欲しいと懇願してきた。

最初金貨5枚から始まった価値はどんどんと上昇を続け、最後には自分の保有する土地の半分と財産の半分、今後作成する最上級の魔装具の無償譲渡まで上り詰めた。

爵位を譲渡するまで言い出したのでさすがにそれは止めたのだが、本人曰くそれを手放しても惜しくないほどの一品だそうだ。

マニアの考えは分からん。

そして最後の三つ目。

二つ目の価値を踏まえた上でしかるべき場所に保管するべきではないかという考えに至った。

最初は譲渡することも考えたのだが、事情が事情だけに譲渡ではなく売却するつもりでいる。

問題はいくらで売却するのかというところだ。

博士の提示した金額にはマニア補正がかかっていると思っているのだが、それを除いてもかなりの高額になることは間違いない。

だが、それを要求してもおそらく支払ってくれるだろう。

それどころか譲ってくれと向こうから博士のように値を上げてくるに違いない。

お金が欲しくないわけじゃない。

むしろ欲しい。

欲しいが、それで今の生活や環境が変わるのは困る。

せっかく手に入れた異世界での新生活を簡単に手放せるほど思い切りは良くない。

え、自分の命なら簡単に手放すくせに?

それはほら、助かる可能性のほうが高いから。

お金は人を変えるっていうし、はてさてどうしたものか。

「シュウイチさん、また眉間にしわがよっていますよ。」

「あれ、そうですかすみません。」

「そんな顔してたらお客さんがビックリしてしまいます。」

「そうですよね、気をつけようとは思っているんですけど。」

「この前の件ですか?」

「えぇ、どうしたものかと思いまして。」

一度エミリアに相談したのだが、好きにすれば良いと言われてしまい良い案はいただけなかった。

まぁ好きにしたらいいんだろうけど。

でもなぁ。

「この前もお話しましたように、シュウイチさんの好きにしていいと思います。あれを誰に渡したからといって怒る人も貶す人も居ません。私は何があってもシュウイチさんについていきますから。」

「ありがとうエミリア。この生活を手放すつもりは毛頭無いんだけど、一番波風が立たないのはどれなのかと思ってね。」

「そうですねぇ、一番無難なのは魔術師ギルドだと思います。精霊結晶は魔石の分類になりますし、魔術師ギルドにお渡しすればミド博士がそれを研究することも出来ますから決して悪い話ではないと思いますよ。」

確かにその通りだ。

魔術師ギルドであれば防犯もバッチリだし、ミド博士も研究できるから一石二鳥になる。

では仮に魔術師ギルドに決めたとして、金額はどうすれば良い。

博士の言うような価値があるのであればものすごい金額になるわけだけど、それを考えずに最小の金額だけもらうというのはもったいない気がする。

欲は尽きない。

お金があれば欲しかった限定BOXも初回限定版のソフトもゲーミングPCも全部手に入ったのに、給料が安いばっかりに泣く泣くあきらめた物があまりにも多い。

その記憶があるからこそ、手に入るはずのお金が手に入らないというのはもどかしい。

でもなぁ、そこで欲を出すのもなぁ。

商売人なのに欲が小さいというかいうか。

「金額が問題なんですよねぇ・・・。」

「確かに博士が提示された金額は正直驚きましたし、それほどの価値があるとは思っていませんでした。せいぜい金貨1~2枚ぐらいかと思っていたんですが。」

「それぐらいだと思いますよね。ですがまさか博士の財産半分と同じとは思いもしませんでした。」

「さすがに魔術師ギルドもそこまでのお金は出せないと思います。」

それはそうだ。

いくら珍しい物だとはいえ、たった一個の石にそこまでのお金は出さないだろう。

でもあの博士の上にあのギルド長アリ。

出そうじゃないか、とか何とか言いそうで怖い。

「ニケさんを買い受けるための資金があればそれで十分なんですけどねぇ・・・。」

贅沢な悩みだ。

現在手元にあるのは奴らからせしめた金貨7.5枚。

それと、証拠品として魔術師ギルドが買い上げてくれた魔石100個分の金貨1枚。

予定通り銅貨50枚で買い上げるという話だったのだが、事情を知っているギルド長が証拠品という事でわざと高めに買い取ってくれた。

ありがたい話だ。

斡旋料はもともと手に入る予定は無かったのでこれで金貨8.5枚。

ニケさんの話によると自分の値段は金貨20枚だっていってたっけ。

となると残りは金貨11.5枚。

でもなぁ、来期の催し用に注文した銅の剣の支払いもあるし、キャッシュは手元においておきたいんだよなぁ。

とか何とか考え出すと、いくらでもお金は欲しいわけで。

就業規則にあったスタッフ購入時に三分の一が経費で出るというのを思い出し、エミリアに聞いてもらったのだが残念ながら今回はスタッフ購入に経費を出せないとの回答だった。

どうやら娼婦というのが引っかかってしまったらしい。

そりゃそうだ。

でも少し当てにしていただけにショックも大きい。

それさえあれば必要な金額はぐっと減ったのになぁ。

どうしたもんか。

正直に言えば当てが無いわけではないんだよな。

手元にある巨大蜜球をコッペンに買い取って貰えば金貨10枚ぐらいにはなるし、この前の情報料を現金でもらうこともできる。

ただこれは本当に最終手段だし、裏世界の手は出来れば借りたくない。

あ、買い取りのほうじゃなくて情報料のほうね。

チンピラからせしめたお金はどうなんだと言われると悩むところではあるが、そこはほら拾ったお金みたいなものだし。

床に投げたお金拾っただけだし。

とか何とか言い訳をしてしまう。

結局は気の持ちようなんだろうけど。

人の気持ちなんていい加減なものだ。

いや、俺が意固地になっているだけか。

「でしたら、一度現物を見てもらうというのはどうでしょうか。」

「それはギルド長にですか?」

「その通りです。一度現物を見てもらい価値を確認して貰った上で値段は改めて相談すればよろしいのではないでしょうか。フェリス様であれば事情は知っておられますし、なにかいい案をくださるかもしれません。」

「確かに私達だけで頭を悩ませるよりかは別の人間に意見を聞いたほうがいいかもしれませんね。」

「次の聖日でしたらお店もお休みですし、ご一緒できますよ。」

そうだ、忘れてた。

先日は休日にわざと店を開けたので別の日を代休にしなければならなかったんだ。

就業規則で休日遵守が厳しく定められているので本当はこの前の聖日は商店を閉めなければならなかった。

しかし事情が事情だけにメルクリアの許可の下、代休を取るという条件で聖日に営業していたのだ。

それなら明後日を代休にしてしまえば聖日とあわせて連休になるな。

その時に上手く行けば買受も一緒に出来るかもしれない。

よし、そうしよう。

「では先日の聖日営業分の代休を明後日にしましょうか。そしたら泊りがけで行くこともできますから。」

「そうですね、それがいいと思います!」

心なしかエミリアも嬉しそうだ。

この二ヶ月まともに休み取れてないし、たまにはゆっくりしても罰は当たらない。

きまりだ。

「でしたらユーリたちにもその旨をお伝えください。あ、商店連合にも申請をしなければなりませんね。」

「それでしたら私が連絡しておきます、念話で済む話ですから。」

「では私が伝えてきましょう。」

ユーリは付いてくるって言うだろうけどセレンさんにはゆっくり休んで貰おう。

毎日ここに来てもらっているし、休みなしというのは非常に申し訳ない。

出勤し始めて10連勤とかブラックかよ。

本当に申し訳ありません。

そのあと二人に事情を説明すると予想通りの返事が返ってきた。

ユーリは同行し、セレンさんは家の片づけをするそうだ。

なんでも台所が壊れてしまったのでウェリスが修理に来るとか。

もうそのまま泊まっちゃえよ。

「エミリア、そっちはどうでしたか?」

「商店連合の許可はいただけました。フェリス様にも明後日伺うとお伝えしましたので問題ありません。」

さすがエミリア仕事が速い。

「では明後日は朝から魔術師ギルドへ向かい、横流しの進歩状況も一緒に行くことにしましょう。」

「シルビア様には別に連絡を入れておきますね。」

「そうですね、聖日ではありませんから朝から合流するのは難しいと思いますが夜には合流できるでしょう。」

これで久々に三人でゆっくりできる。

「御主人様私もおりますよ。」

「ユーリは家族だから問題ありません。」

ごめん、4人でした。

「ニケさんの件も上手く行くといいですね。」

「そうですね、今回はそれが目的ですから。」

心配事が無いわけではない。

長期間脱走しているわけだからニケさんに対する制裁があるのではないかという事。

良く言われるのは折檻だが、心配なのは借金の増額だ。

娼館としては借金を増やせばそれだけ長期間働いてくれるわけだし、その分売上が入ってくることになる。

また買受金額が上がればそれだけお金が入る。

つまりは肉体的に痛めつけるぐらいなら金銭を吊り上げるほうが効率的というわけだ。

予定していた金額よりも高くなっていないかというのが心配だな。

予定金額はあくまでも逃走前のニケさんの金額であって、現在の価格は不明だ。

一度猫目館によって確認したほうがいいかもしれないな。

それかコッペンに聞いてみるという手もあるか。

随分と贔屓にしているみたいだし、何か知っているかもしれない。

となると、休みのつもりが結局は休めず終わる可能性もあるなぁ。

いつも何かしら用事があるし、暇だったことなんて無いしなぁ。

願わくば面倒ごとがやってきませんように。

いつもあの街でトラブルに巻き込まれるんだから・・・。

呪われているんだろうか。

それとも領主様に面倒ごとを押し付けられているんだろうか。

盗賊団といい、横流しといい、サンサトローズって治安悪い?

それとも俺が不運なだけ?

まぁいっか。

行けば分かるさ。

横流しの件は丸投げしてるし、俺は来期の催しのことだけ考えておけばいい。

そうだ、それでいい。

余計なことは考えない。

ニケさんの買受と催しの打ち合わせだけしに行くんだ。

それ以外はしないぞ。

しないからな!

「御主人様、眉間にしわがよってますよ。」

「すみません考え事をしていまして。」

「そんなに悩まずとも私やリア奥様、シア奥様、セレン様がおります。私たちに何なりとお申し付けください。」

「いつもお手伝い有難うございます。」

悩んでばかりいてもしょうがない。

ケ・セラ・セラでいこう。

俺は一人じゃない。

みんな居る。

「では明後日の予定も決まりましたし、お休みに向かって今は頑張って働くとしましょう。」

「「はい!」」

まだまだ陽は高い。

やることはたくさんある。

今は自分の仕事をこなすとしよう。

さぁ、今日も元気に働きますよ!
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