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第四章

ワナワナ脱出大作戦

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 我々の目標はただ一つ、彼らを捕縛しニケさんを買い取るための資金を回収する。

 こんな言い方をすると犯罪者のようだが、犯罪者に容赦する必要はないと言うギルド長のありがたいお言葉も頂戴しているので今回は遠慮なくいかせてもらう。

 彼らが持参した契約金ならびに第一回目の納品用魔石を強奪する。

 まるで義賊のようだな。

 悪者からしかお金は取りませんというあれだ。

 犯罪には手を染めないと宣言しつつもやろうとしている所が犯罪すれすれのあたりなんともいえないが、まぁここには騎士団分団長様もいることだし行為を正当化できなくもない。

 やるといった以上やるだけだ。

 悪は滅びるのだ。

 フハハハハハ!

 おほん。

「策は二つ考えています。一つは非公式ながら彼らを魔術師ギルドに呼びその場で偽の契約を交わす。出てきたところを騎士団に捕縛して貰おうというもの。魔術師ギルドで行うことで彼らの心象は良くなり、誘い込むことはほぼ間違いなく出来るでしょう。問題は、彼らの捕縛が失敗してしまうと偽の契約書を持ち帰られてしまい魔石研究所との契約が完了したという事実が公表されてしまう。そうなれば魔石はお墨付きを得たという事になり我々の知らないところで世に出回ることでしょう。」

「魔術師ギルドが場所を貸してくれるかどうかという部分にも問題があるな。犯罪者だと分かっていながら魔石を買い取っていたというあらぬ噂を立てられる可能性もある。」

「出入り口は決まっていますから捕縛に失敗することは無いかもしれませんが、出てきてすぐ捕縛するとなると魔術師ギルドに対する一般の方々の心象も良くありません。言い辛いですが、魔術師ギルドに対する一般の方々の心象は余りよくないんです。」

何をしてるか分からない印象は確かにあるな。

 魔女って言えば昔から悪者って言う印象があるから、もしこの世界でも同じような感じであれば確かに良くないだろう。

「騎士団と魔術師ギルドが敵対していると思われても困りますしね。」

 となればだ、次は場所を変えるという方法だな。

「では魔術師ギルドではなくウェリス達の作った盗賊団のアジトなどはどうでしょう。確かあそこは騎士団の管轄でしたよね。」

「その通りだ。またよからぬ輩が集まるとも限らんのでな、あそこは現在我々騎士団が責任を持って監視している。それにあの門は敵ながらなかなか良い造りをしていてな、騎士団の演習所にしようとも考えているのだ。」

 そんなことになっているのか。

「その場所を一時的に貸していただくことは可能でしょうか。彼らには私が騎士団に通じており秘密裏に活動しているような印象を与えていますので、そこを上手く利用できるのではないかと思っているのですが。」

「それは難しいだろう。いくら騎士団の管轄とはいえ、あの場所全てを無人にすることはいくら私といえども難しい。それにあの土地はもともと領主様のものだからな、使用するには騎士団ではなく領主様に願い出る必要があるだろう。」

「仮にお願いをしたとして、いつ頃お答えをいただけるのでしょうか。」

「そうだな半期はかかるだろうな。」

 それでは遅すぎる。

 なんせ相手には2日後には場所を知らせるといっているのだ。

 そんなに長い事彼らは待ってくれないだろう。

 今ですら遅いと怒っているのに。

「そうですか。となると、ひとつ目の策はむずかしそうですね。」

「我々だけであれば問題ないが、やはりギルドや騎士団となるとすぐに動かすことは難しい。組織とはそういうものなのだ。」

「フェリス様でしたらお力を貸してくださるでしょうが、それ以外の部分で待ったをかけられると思います。特に魔術師ギルドの皆さんはあまり他の人が入ってくるのを嫌う傾向がありますので。」

「組織とはそうあるべきですから気にしないでください。一番上の人間にあれこれ自由にされては暴走の原因になります。組織は何事にも動じずどっしりと構えているべきなのです。」

 社長の鶴の一声で営業方針や休日や待遇までころころと変わってしまうと下で働いている人間は堪ったものではない。

 やはり社長のやり方に異議を唱えてしっかりと精査できるような組織で無いと駄目なのだ。

 そうでないと元居たブラック企業のようになってしまう。

 あの社長、今でも俺は許してないからな。

 ぐぬぬ。

「ではどうする。そもそもやつらとは次いつ会うことになっているんだ?」

「彼らには2日後までにコッペンを通じて取引場所を伝えるように話してあります。そして取引日は私が自由に動ける聖日、つまり三日後ですね。」

「今回もまた時間がないと言うわけか。」

「それに関してはなんとお詫びをしていいのやら。ただ、時間をかければかけるほど裏に潜んでいる巨大な組織が出てきてしまいそうでしたので時間をかけていられなかったんです。彼らが魔石を用意する時はまちがいなく組織の連中と再び接触するでしょう。その時に要らぬ知恵を与えられてはさすがの私でも太刀打ちできない可能性があります。そうならない為にも時間をかけるわけには行かなかったのです。」

 時間が経てば経つほどにこちらの状況は不利になっていく。

 そうならないようにするためには最短の時間で最高の結果を出さなければならない。

 もちろん時間をかければ良い結果は付いてくる。

 だが、今はそれをしている暇が無いのだ。

「ほかの組織に助力を頼むことも出来ず、かといって時間があるわけでもない。まるで、アリに襲われるときのようですね。」

「そうですね、あの時も助けを呼ぶ時間も人も足りませんでした。」

「でもシュウイチさんは何とかしてしまわれました。」

「あれはエミリアや村の人みんなの頑張りのおかげですよ。」

「その人を動かしたのはシュウイチの力だ。実際盗賊団討伐の時も私たちを動かしたのはお前なのだからな。」

 まぁそうなんですけどね。

 みんな良い人だからですよ。

 この世界の人は心が綺麗なんです。

 きっとそうです。

「では今回も同様に足りない人と時間の中で頑張りたいと思うわけですが、そこで出てくるのが二つ目の策です。」

「つまりは我々だけで捕縛してしまおうというわけだな。」

「簡単に言えばそうですね、私たちだけと言ってもシルビアや博士にもご助力賜るので結果を言えば組織の人間も噛んでくるのですが・・・。」

「なんだ、結局は私の力が無いと駄目というわけではないか。」

「そこに関しては無理強いいたしませんのでご安心を。」

 博士がこっちの会話に来たという事は終わったのかな?

「お疲れ様ですミド博士、鑑定のほうは終わられたんですか?」

「今で半分といったところか。とりあえず選別はしているから後はイラーナが分類してくれるだろう。」

 後ろではせっせと仕分けをするイラーナ助手が見える。

 つまりは博士だけ休憩というわけか。

「それで、私の力が必要というのは具体的にどうすればいいんだ?」

「博士には彼らとの偽の契約をする際に、契約書へのサインと契約金の受け取りをお願いしたいのです。」

「なんだそれだけか。」

「本物の魔石研究所職員、しかもそのトップであるミド博士が相手となれば彼らも契約するのに何の疑いも持たないでしょうから。」

 本物のハリウッドスターが眼の前でサインしているのにそれを疑うバカはいないだろう。

 それと一緒だ。

「だが、私に頼みたいのはそれだけではないのだろう?」

「もちろんです。」

 そう、ただの契約であればサインするだけで良い。

 だが、それを彼らが許すとは到底思えない。

 当初の予定と違いお金にも困っているようだから、この契約金を大人しく渡すともおもえない。

 なにより、博士を人質にしようと考える可能性だってある。

 そういう意味では博士の役割は非常に危険なのだ。

「博士は急流滑りや高所からの滑走などの経験はありますか?」

「なんだそれは。」

「子供の頃に水辺や岩場でそういった遊びをしたことは?」

「いや、ないな。」

「ではそういった行為は苦手ですか?」

「いったい何をさせようというのだい君は。」

 ふむ、滑り台の経験はなしか。

 でもまぁ高所恐怖症ではないみたいだし。

「シュウイチ、私たちにも分かるように説明してくれないか?」

「そうですね失礼しました。」

「一応断っておくがそういったものへの恐怖は無い、ただ経験が無いだけだ。」

「偽の契約を締結した時ですが、正直に言って彼らがそのまま帰るとは思っていません。おそらくですが身分が判明した博士を捕縛もしくは誘拐しようとするでしょう。」

 あくまでも仮定の話だ。

 だが、そうなる可能性は0ではない。

 むしろそうなる可能性のほうが高いかもしれない。

「確かに、私が研究所のトップであるとわかればそれを利用しようとする可能性はあるな。」

「そうです。そこで彼らに捕まり博士を危険な目に合わせるというのは私の本位ではありません。そこで、博士にはわざと罠にはまって頂こうと思っています。」

「罠に・・・?」

「正確に言えば我々の管理するダンジョンに設置された落とし罠にわざとはまって頂き、その場から脱出して頂きます。彼らからすれば捕まえようとした相手が眼の前で消えるわけですからさぞビックリすることでしょう。」

「なるほど、自前のダンジョンであれば準備に時間もかからず好きなように手を加えることが出来るというわけか。」

 その通り。

 場所が無いなら自分で用意してしまえばいいのだ。

 博士には申し訳ないが一種の脱出装置のつもりで落とし罠にはまって頂きその場から逃走して頂く。

 あとは最下層の秘密部屋までにげるか、それまでに騎士団に介入して貰って捕まえるのが先か。

 入り口が一つ出口は無い。

 入ってしまえば袋のねずみというわけだ。

 問題はそこを気にして入ってくれるかどうかが分からないというところだが、そこは上手く誘導するしかないだろう。

「ダンジョンの中に大量の罠を用意し、博士にはそれを上手く利用しながら彼らからの脱出を図って頂きます。落ちた先には我々がいますから後はその誘導に従って一緒に逃げていただくだけで大丈夫ですよ。」

「それは面白い!奴らがどんな顔をするのかを拝むことが出来ないのは残念だが、そういう内容であれば喜んで手をかそう。一度ダンジョンというものがどんな物か経験してみたかったところだ。」

「私と一緒であれば魔物が襲ってくる心配はありません。ただ、はぐれてしまうと大変ですので、そのあたりだけご注意ください。」

「自分の体ぐらい自分で守れる。これでもそれなりの鍛錬は行ってきたつもりだ。」

 さすがに年齢分の鍛錬はしているよな。

 ひたすら引きこもりというわけでもないわけか。

「ちなみに位を聞いてもよろしいですか?」

「まだ30を越えたぐらいだかな。年の数といいたいところだがそんな暇はあいにく無くてね。」

 まって、俺の10倍ですか。

 むしろ一人でチンピラ相手に戦えるんじゃないですか?

 逆に言えば俺ってどれだけ弱いの。

 もしかして最弱?

「でしたら大丈夫だと思います。」

 うん、大丈夫だ。

 現在のダンジョン深度から計算して適性位は10~15ぐらいだしその倍あれば問題ないだろう。

 すみません、もっと弱いとなめてました。

 許してください。

「だがシュウイチ、奥に逃げるとして最下層まで行けばさすがに逃げ道は無いぞ。」

「博士が脱出を図ったタイミングで騎士団にはダンジョンに突入して頂ければと思います。出口は入り口と同じですからそこを抑えてしまえば後は袋のネズミです。出来れば我々が最下層に着くまでに全員捕縛して頂けると助かります。」

「もし間に合わなかった場合は?」

「その場合は緊急避難先に逃げますからご安心を。」

 白骨死体と一緒なのは許して貰おう。

 そこまでかかることはおそらく無い。

 脱出装置以外の場所には大量の非殺傷系の罠を配置するのでそれで時間を稼げるだろう。

 ついでに来期の障害物競走の良いモデルとなって貰えば良い。

 どんな風に動き、何に引っかかりやすいか良いデータが取れるはずだ。

 騎士団員の皆さんには申し訳ないが、データの役に立って貰おう。

「人手と時間のなさは自前の物で代用します。シルビアにはダンジョン窃盗犯確保の名目かなにかで騎士団を動かして頂ければ、横流しグループやさっきの連中に感づかれるという事もないでしょう。エミリアには外の騎士団に突入のタイミングを知らせる係を、ユーリはダンジョンの罠の管理を、博士にはエサの役目を、そして私は博士の誘導とその全ての責任を負います。」

 自分の庭なら最小限の人員で最高の結果を導き出すことも可能だ。

「相変わらず面白い策を考え出すな、シュウイチは。」

「もともと私がここに呼ばれた理由はこうやってダンジョンを有効利用するためですから。意地の悪い罠の配置はお任せください。」

「シュウイチさんは元の世界でとっても有名なダンジョン攻略家だったんですよ。」

「それはすごい、今度是非面白いダンジョンの話を聞かせてもらいたいものだね。」

 面白いダンジョンって何だよ。

 なくはないけどさ。

「この策はあくまでも先ほどの連中を捕縛するためだけのものです。魔石横流しの解決には全くといっていいほど関係ありません。ですが、この小さな成功が後の大きな解決に繋がると思っています。時間は少なく、十分な用意も出来ませんがどうか力を貸してください、おねがいします」

 一人ではどうにもならないので、今回も他力本願100%でいかせてもらいましょう。

 全員に向かって深々と頭を下げる。

「なんとしてでも成功させましょうねシュウイチさん。」

「夫を全力で支えるのが妻の役目だ。」

「たまには仕事以外のことをしてもバチは当たらないでしょう。」

 それぞれが俺の意見に賛同してくれる。

 いつもほんとうにありがとう。

「博士、完了分の仕分け終了しました。」

「助かった、では残りの鑑定もさっさと済ませてしまおうか。」

「はい!」

 ナイスタイミングでイラーナ助手がやってきた。

 そして博士は再び鑑定へと戻っていく。

「では我々は詳しい策でも練るとしよう。」

「罠の配置はユーリと一緒の方がいいですね。」

「そうですね、騎士団の突入についてはシルビアにお任せするとして罠の種類についてはユーリの意見を聞く方がいいでしょう。」

「出来れば罠の配置など貰えると助かるのだがな。」

「情報流出の危険を考えて当日にお渡しする形になりますが大丈夫ですか?」

 先に渡してしまうと騎士団に横流し本体の関係者がいた場合に情報が流出してしまう危険がある。

 当日参加者のみに教えるぐらいなら問題はないだろう。

「命に危険のあるような罠ではないのだろう?」

「非殺傷型の罠であくまでも時間稼ぎを目的としていますから。」

「騎士団員にはダンジョンでの罠対策とでもいえば問題あるまい。」

 それでいいんだ。

 まぁそっちがそれで行けるなら心強いです。

 よろしくおねがいします。

「あとは、相手がこの策にのってくれるかですね。」

「それは私の役目ですから、何が何でも引っ張ってきますよ。」

 言い出しっぺは俺だからね。

 何を言われようが来てもらわなければならない。

「頼りにしているぞ。」

「お任せください。」

 さぁ、やることは決まった。

 あとはそれに向かって突き進むだけだ。

 作戦名『ワナワナ脱出大作戦』始動です!
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