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第四章
1日の終わり
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村人全員の同意を得た後、村長の家で細部の打ち合わせをすることになった。
具体的にはどのような支援をするべきかどうか。
まだ上の許可を得ていないので仮の打ち合わせになるのだが、先に話をつめておけばいざ実行するとなったときに動きが早くなる。
こっちの猶予は丸1年あるのでのんびりと必要な支援を行っていくという事で意見がまとまった。
最初に支援を行うならば住宅支援。
次に移住後の就労支援なども計画している。
「とりあえずはこの辺でいいでしょう。」
「そうですね、実際に動くのはまだ先になりますし領主様の了承も必要になりますから。」
「そちらに関しては私のほうから息子に手紙を出しておきましょう。参加の是非についても意見をいただくべきだと思います。」
領主様と商店連合本部どちらの了承も必要となるわけだから、村人の賛同があるからといって楽観視はできない。
外堀から埋めていき、少しずつ前進していくべきなのだろう。
そのほうが何かあったときにも対応がしやすい。
何事も石橋を叩いてわたるべきなんだよな。
そういう意味では今回の横流し騒動は少々根回しが足りないので不安なところが多い。
出来るだけ情報を集めたいところではあるが、今回の相手はそれが出来ないのが悔しいな。
まぁ魔術師ギルドのほうに話を通してあるだけでも良しとするべきか。
後は明後日相手がどういう風に出てくるかだ。
後はのとなれ山となれ、なんていいたいけど。
それが出来る性格じゃないんだよね。
「貴重な時間をいただきありがとうございました。ではよろしくお願いいたします。」
「こちらこそ開店初日に来ていただいてありがとうございます。この話が通るのであれば我々としても非常に助かりますからね、良い方向に話しが進むことを祈っています。」
「私の立場としてはどちらでも構わないのですが、村の人を敵に回すわけには行きませんわ。彼にはその信頼にしっかりとこたえてもらわなければなりませんね。」
「そうなった場合にはどちらも頑張らせて頂きますよ。」
いったい何足のわらじを履いているのやら。
でもその全てが一つの目標に繋がっているのだから、一つたりとも欠けるわけにはいかない。
そこはまぁ、頼りになる仲間の力を借りながら頑張ろう。
「では私は店に戻りますね。」
「私も一緒に行きますわ、エミリアにもらわなければならない書類があるの。」
「私のほうも何か進展がありましたらご連絡させて頂きます。」
席を立ちお互いに挨拶を済ませるとメルクリアが転移魔法を唱え始める。
「これが転移魔法ですか。」
「便利なものであっという間に目的の場所についてしまいます。」
「さすがに知らない場所や遠い場所はいくら私でも無理ですわ。」
知らない場所は無理なのか。
なるほど、それで村の入り口に転移したんだな。
村長の家の前じゃない理由がこれでわかった。
っと、そうだ思い出した!
「そうだ、ニッカさん大切なことを言い忘れていました。」
「どうかされましたか?」
「明後日に私の店に来客があるのですが、少々素性のよろしくない連中でして。悪さはしないと思いますが念のために警戒しておいてもらえますでしょうか。」
「わかりました、ウェリス達にそのように伝えておきましょう。」
「騎士団にも事情は伝わっていますので、当日シルビアも来る手はずとなっていますから大丈夫だとは思いますが・・・。」
「あの子がいるならば大丈夫でしょう。イナバ様をよく守るよう言いつけておいてください。」
守られてばかりでどうもすみません。
「では、失礼します。」
「お気をつけて。」
気をつけるのはメルクリアなので大丈夫です。
いつもの黒い壁を通り過ぎると商店の前に立っていた。
何とまぁ便利だ事。
俺も覚えられたらいいのにな。
「残念ながら貴方では転移魔法を使えませんわ。そもそも魔術のセンスが無いんですもの。」
「センスの問題ですか。」
今日も心も声はだだ漏れしているようだ。
でもセンスで片付けられるのって何か釈然としないなぁ。
「貴方には魔法を扱うだけの魔力が無いんですもの。それにいくら魔力があったからといって誰もがこの魔法を使えるわけではない事を覚えておくことね、私だって精霊の力がなければこんな簡単に使えたりしないわ。」
メルクリアには火の精霊の祝福があるんだっけ。
その力を上手く利用することで高等魔法である転移魔法を使っているんだろうな。
まてよ、精霊の祝福があったら俺にも出来る?
しかも俺は二人の精霊の祝福があるわけで・・・。
「いくら貴方が精霊の祝福を二つ授かっているとしても、そもそもの魔力が無ければ魔法なんて使えるわけが無いんですから誤解しないことね。」
あ、やっぱりダメですか。
ですよねー。
仕方が無い、チートスキルなしでこれからも頑張るとしますか。
「ただいま戻りました。」
「お帰りなさいシュウイチさん!」
商店のほうにいたはずのエミリアが真っ先にこちらに気付いてくれた。
さすがですエミリアさん。
「お帰りなさいませ御主人様、首尾はいかがでしたか?」
「おかげ様で無事に村長と村の人の賛同を取り付けることが出来ました。」
「さすが御主人様です。」
さすがかどうかは別として、ありがとうユーリ。
「お疲れ様でした、お茶入れますのでかけてお待ちください。」
パタパタと厨房のほうへ向かうセレンさん。
良い奥さんって言うのはあんな感じなんだろうか。
こう、後ろから見たときのお尻のラインがなんともいえなくてですね
「御主人様より不穏な空気を検知いたしました、リア奥様に報告いたします。」
「ユーリさん、ちょっとそこに座りなさい。」
この子はいったい何を言い出すのやら。
そんな事したらまた夜叉エミリアが降臨するじゃないですか。
おやめなさい。
「これだから男って奴は・・・わ、私だって腰から下のラインは負けてないですのに・・・。」
「何か仰いましたか?メルクリアさん。」
「何でもありませんわ!」
なんだろう怒らせるようなことをしただろうか。
「シュウイチさんメルクリア様お疲れ様でした。」
カウンターからこちら側にエミリアがやってきた。
外側に出ているカウンターには離席中の札でも置いているんだろう。
大丈夫だ、だれもきやしないさ。
「エミリアも店番お疲れ様でした。」
どれだけ来たかは聞いてはいけない。
おそらくお察しの通りだ。
「それで村長はなんて仰っておられましたか?」
「村人全員の賛同と共にご協力いただけるそうです。」
「良かった!あとはメルクリア様にお願いするだけですね。」
「貴女にも見せたかったわ、彼が全員の前で頭を下げて嬉し泣きしているところを。」
ちょ、今それを言う?
泣いてないし、別に泣いてなんかないし!
「嬉し泣きですか?」
「それは村長が私がどう思われているか理解してないと言い出してですね。」
「御主人様が慕われているのは当たり前です。」
「その通りです。私も含めイナバ様は本当に良くしてくださっているではありませんか。」
人数分のお茶を用意しながらセレンさんが力強くユーリに同意した。
そうかセレンさんも村人なわけでして、全員の賛同といいながら入っていなかった。
でももう商店の人間だし、はじめから賛成と考えても良い訳で。
「シュウイチさんが皆さんのために頑張ってくださった当然の結果だと思いますよ。」
自分のことのように嬉しそうなエミリア。
エミリアのおかげでもあると思うんだけどなぁ。
「私が思っている以上に貴方は慕われているのね。」
「皆が私に優しいからだと思いますよ。」
「あら、私は優しくした覚えはないのだけれど。」
直接的にはありませんねぇ。
でもさっきのように何だかんだ言って手助けしてくれるあたり、メルクリアは優しいと思う。
「あとはメルクリアさんと領主様の了承が取れ次第目標に対するめどが立ちそうですね。」
「そうですね、でもダンジョンと商店はあまり良い滑り出しとはいえません。」
「ダンジョンのほうは今だ魔力回収0ですので。」
客数は来ずダンジョンにも侵入なしか。
そんなに慌てなくても想定の範囲内です。
「初日はこんなもんですよ。」
「ですが私が今まで携わっていた店はあんなにお客さんが来ていたのに・・・。」
「それははじめから売れる場所に商店を出しているからよ?」
しっかり情報収集して商店を出せば初日の売上を想像することは案外たやすい。
しかしこの店のように宣伝が少なく魅力的なダンジョンでもない場合はそうなることは少ない。
これが普通なのだ。
「この前言いましたようにこれが今の現状です。ですがそれを変えていくために来期の企画を考えているのですからまずはそれを成功させるために頑張っていきましょう。」
「そうですよね、まだまだこれからですよね。」
まだ始まって1日たっていないんだから。
今日1日の売上で全てが決まるわけじゃないんだよ。
「エミリアは多忙な店の経験はあってもこういう店ので経験はありませんから、そういう意味でもこういう現実をしっかりと受け止めて勉強しなさい。」
「どうもすみませんね、暇な店でして。」
「店主がこれじゃあ仕方ないわね。」
やれやれと肩をすくめるメルクリア。
それを見たエミリアにも笑みがこぼれる。
後輩のフォローご苦労様です。
「それじゃあ私は帰ってさっきの件を報告しようかしら。」
「どうかよろしくお願いします。」
「上もバカじゃないんだからおそらく大丈夫でしょう。もし駄目そうならあなたのその頭で説き伏せて御覧なさい。」
入社二ヶ月の新人が経営陣に啖呵切るとかどんな失職案件ですか。
「メルクリア様どうかよろしくお願いします。」
「そんな顔するんじゃないの。貴女の仕事は彼をフォローすることであって悲しい顔をするのは仕事じゃないのよ。」
「はい、がんばります。」
「あぁそれと、この前話していた従業員雇用の書類一緒に持って帰るわね。」
「すぐに持ってきます!」
そういえばそんなことも言ってたね。
てっきりセレンさんの給与はこっち持ちだと思っていたけど、何から何までありがとうございます。
「ではその間にメルクリア様にはどうかダンジョンのほうにお越しいただければ幸いです。」
「私の魔力は高くつくわよ。」
「そこは御主人様と上手く話し合っていただければと思います、どうぞこちらへ。」
エミリアは書類を取りに家に。
メルクリアはユーリにつれられてダンジョンへと向かった。
残された俺とセレンさんは静かにお茶をいただくことにする。
「イナバ様、先程の小さな女性の方はいったいどなたなのでしょうか。」
本人がいなくて良かった。
けどまぁ小さいよなぁ。
「セレンさんには紹介していませんでしたね、私とエミリアの上司に当たるメルクリア様です。ああ見えて非常に優秀な方なんですよ。」
「そんな偉い方とご一緒して大丈夫だったんでしょうか。」
「大丈夫ですよ。」
彼女の前で小さいって言わなければ大丈夫。
「イナバ様は私のようなものにまで優しくしてくださって、本当に素晴らしい方ですね。」
「私は特にすごくないですよ。私ではなく私の周りに集まってくれた皆さんが素敵なんです。もちろんセレンさんもそのうちの一人ですよ。」
「そんな、私なんてただの役立たずで。」
「セレンさんにはセレンさんにしかできない仕事があります。ユーリを見てください、セレンさんの側で必死に学ぼうとしています。彼女のためにもどうぞ力を貸してください。」
「こんな私でよろしければ何なりと使ってください。」
使ってくださいとか言わないの。
あんな事とかそんな事とかこんな事とか。
色々と想像しちゃう訳でして。
しかも未亡人と二人きりでそんな。
美味しくいただくのかそれとも美味しくいただかれてしまうのか。
え、なにを?
そりゃあお子様には教えられないねぇ。
「あら、また女性をたぶらかしているのかしらこの男は。」
何を仰っておられるのか良く分からないなぁ。
「失礼な、ただの世間話ですよ。」
「どうだか。どうせだれかれ構わず手を出そうとしていたんじゃないの?」
「私になんてもったいないお話です!それにイナバ様にはもう素敵な奥様が二人もおられるじゃないですか。」
ありがたいことに素敵な奥さんがいるんです。
そうです。
自重しよう俺。
落ち着くが良い。
深呼吸だ。
「メルクリア様、此方が書類になります。」
「おかえりなさいエミリア。・・・そうね不備もないし問題ないでしょう。」
「お手間ですが提出よろしくお願いします。」
「エミリア、ちゃんとこの男の手綱握っておくのよ?」
いや握られなくてもおとなしくしてますよ?
大丈夫ですよ?
「よく分かりませんがお任せください。」
「それじゃあしっかりね、明後日の件また詳しく教えて頂戴。」
「またお知らせいたします。メルクリア様も無理しないでくださいね。」
「ありがとうエミリア、またね。」
書類を受け取ったメルクリアはヒラヒラと手を振りながら振り返らずに黒い壁の向こうへと消えていった。
これにてひと段落か。
そろそろ日も暮れるし今日ぐらいは早めに閉店してもいいだろう。
というかもう客こないだろ。
魔物の出る道をわざわざ買いに来るやつなんているのか?
いないだろ。
むしろいたら怖いよ。
帰れよってなるよ。
「皆さんお疲れ様でした。早いですが店じまいにしましょうか。」
「そろそろ日暮れですがもう閉めるんですか?その、売上的なことを考えればもう少しあけておいたほうが。」
「日暮れになればお客さんは来ませんし、今日ぐらいはお祝いの為に早仕舞いしても怒られませんよ。」
そう。
今日は開店のお祝いをするんだ。
と言ってもケーキはないので、大人らしくお酒でお祝いする予定だ。
「セレン様にお祝い用の料理を作っていただきましょう、是非そうしましょう。」
「私の料理なんかでよろしいのでしょうか。」
「何を仰います!お祝いに相応しいではありませんか。」
セレンさんのことになるとユーリが暴走してしまう。
確かに美味しいけど無理強いして作ってもらうわけには行かないしなぁ。
「私からもお願いしたいのですが大丈夫ですか?」
「まだ迎えが来ていないので簡単な物でよければご準備できますが。」
「私からもお願いしす。」
エミリアも賛成のようだ。
そうだよね、せっかく食べるなら美味しい料理が嬉しいよね。
「お祝いと言っても軽くお酒を飲む程度ですのでつまみになるような物で大丈夫ですよ。」
「でしたら何品か作ってみますね。」
「材料はお店のものでも家の物でも何なりとお使いください。」
ユーリさん、店の物は横領になるんじゃないかなぁ。
まぁいいか。
俺が店主だ!
的なのりでいけば。
女性陣三人が料理を作っている間に閉店作業を進める。
どれどれ今日のそう客数はっと・・・8人か思ったより来たな。
てっきり片手で足りるぐらいだと思っていたけど、それでもまぁ両手で余るか。
売上金はっと銅貨203枚か。
という事は銀貨2枚だけど、利益で考えたら半分の1枚か。
やっぱり売り上げ目標を店で確保するのは無理でゲーだわ。
何か別の商売考えないといけないなぁ。
とりあえずまぁ、横流しを何とかしてからだな。
あれこれ考えられるほど俺の脳味噌の容量は多くないようだ。
今でもうパンパンです。
んじゃま店閉めて、かぎかけて、お金しまって。
ダンジョンは放置でオッケーっと。
増えた魔力は俺たちの分とメルクリアで終了。
それでも俺の27倍ですからご馳走様です。
これだけのために毎日来てくれないかな、マジで。
あとは正面玄関の鍵をかければ終了だな。
なんか良い匂いしてきたしあー、おなかすいた。
玄関の鍵を閉めようと扉に手を書けた瞬間、外から扉が開けられ手が空を掴んでしまう。
「誰かと思ったらお前か、こんな所で何やってるんだ。」
「ウェリスじゃないですか、店は閉めましたが何か用ですか?」
入ってきたのは村で土木作業中のはずのウェリスだった。
この時間だから終了しててもおかしくは無いか。
でも何でわざわざこんなところに。
開店祝いって感じでもなさそうだけど。
「あぁ、セレンさんの迎えを頼まれているんだがいないのか?」
そういえば村から迎えがあるって言ってたけどまさかウェリスだとは思わなかった。
という事は毎日くるのか。
「ウェリスさん!」
その声で後ろを振り返ると、先程まで大人の女性の顔をしていたセレンさんがまるで乙女のように明るい顔でウェリスの名前を呼んだ。
おやおやこれは・・・。
もしかして?
「迎えに来ましたがまだ仕事中でしたか。」
「もうすぐ終わりますので、すみませんそこでお待ちいただいてもいいですか?」
「適当にしてますのでゆっくり準備してください。」
ウェリスは特に変わった感じないんだけど、明らかにセレンさんのテンションが変わった。
淑女が乙女になった。
これはあれか。
恋っていうやつか。
なるほどね、それでお迎えが嬉しかったのね。
「ウェリスさんが迎えに来てくださったんですね。」
「仕事の後だから他のやつをって言ったんですが、何故か他の連中が行きたがらないもので。」
エミリアには丁寧なしゃべり方なんだよな。
まぁ別に構わないけど。
「なにか呑んでいきますか?」
「いや止めておこう、一応仕事中だ。」
あくまで仕事ね。
さてさて、セレンさんの恋は実るのやら。
あのお尻がウェリスのものになるのならあまり見るのも失礼だな。
人のものには手を出さない主義です。
「お待たせしました!」
「ぜんぜん待っていませんよ。」
「ではイナバ様みなさん、失礼します。あ、先程の料理は最後にレモーンをかけると美味しいですよ。」
「試してみます。どうぞお気をつけてお帰りください。」
「それじゃあまたな。」
さりげなくセレンさんの荷物を持ってあげるあたりがなかなか好印象だ。
以外にたらし男だったのかもしれない。
「セレンさんってもしかして・・・。」
二人が出て行った扉を見送ってふとエミリアが呟く。
「それは今後のお楽しみという事で。」
「よく分かりませんがセレンさんはどうしてあんなに嬉しそうだったんでしょうか。」
ユーリにはこの恋のときめきはまだ理解できないか。
って恋のときめきって少女マンガかよ。
「そこはこっそりセレンさんに聞いてあげてください。」
「こっそりですか。」
そういうのは女性同士でこっそりやってくれればいいよ。
うちは恋愛関係でとやかく言う決まりはありません。
「それじゃあ料理も出来たみたいですから、私たちは私たちでお祝いしましょうか。」
扉に鍵をかけてこれにて開店初日終了です。
「セレンさんのお祝いもですね。」
「そこは正式に発表があってからですね。」
「よく分かりませんがお祝いですのでいいことなのでしょう。」
「それでは料理を持って帰りましょうか。」
「「はい。」」
温かい料理を持って商店の裏口へ向かう。
戸締りは確認済みだ。
後は明かりを消して裏口の鍵を閉めれば完璧っと。
「二人とも今日はお疲れ様でした。」
「何も疲れてなどおりませんので、明日も大丈夫です。」
「何事も無くてよかったです。」
俺は何事も無かったわけじゃないんだけど、嬉しいことはあったかな。
「では着替えたら食事にしましょうか。」
すぐ裏の家に入り明かりをつける。
我が家ってやっぱりいいな。
「それじゃあシュウイチさん、またあとで。」
「御主人様はお酒の準備をお願いいたします。」
はいはい了解ですよっと。
こうして商店最初の一日は幕を降ろしたのだった。
ここからが俺の新しい始まりだ。
がんばろう。
自分だけじゃなくみんなの為に。
そう決意した1日だった。
具体的にはどのような支援をするべきかどうか。
まだ上の許可を得ていないので仮の打ち合わせになるのだが、先に話をつめておけばいざ実行するとなったときに動きが早くなる。
こっちの猶予は丸1年あるのでのんびりと必要な支援を行っていくという事で意見がまとまった。
最初に支援を行うならば住宅支援。
次に移住後の就労支援なども計画している。
「とりあえずはこの辺でいいでしょう。」
「そうですね、実際に動くのはまだ先になりますし領主様の了承も必要になりますから。」
「そちらに関しては私のほうから息子に手紙を出しておきましょう。参加の是非についても意見をいただくべきだと思います。」
領主様と商店連合本部どちらの了承も必要となるわけだから、村人の賛同があるからといって楽観視はできない。
外堀から埋めていき、少しずつ前進していくべきなのだろう。
そのほうが何かあったときにも対応がしやすい。
何事も石橋を叩いてわたるべきなんだよな。
そういう意味では今回の横流し騒動は少々根回しが足りないので不安なところが多い。
出来るだけ情報を集めたいところではあるが、今回の相手はそれが出来ないのが悔しいな。
まぁ魔術師ギルドのほうに話を通してあるだけでも良しとするべきか。
後は明後日相手がどういう風に出てくるかだ。
後はのとなれ山となれ、なんていいたいけど。
それが出来る性格じゃないんだよね。
「貴重な時間をいただきありがとうございました。ではよろしくお願いいたします。」
「こちらこそ開店初日に来ていただいてありがとうございます。この話が通るのであれば我々としても非常に助かりますからね、良い方向に話しが進むことを祈っています。」
「私の立場としてはどちらでも構わないのですが、村の人を敵に回すわけには行きませんわ。彼にはその信頼にしっかりとこたえてもらわなければなりませんね。」
「そうなった場合にはどちらも頑張らせて頂きますよ。」
いったい何足のわらじを履いているのやら。
でもその全てが一つの目標に繋がっているのだから、一つたりとも欠けるわけにはいかない。
そこはまぁ、頼りになる仲間の力を借りながら頑張ろう。
「では私は店に戻りますね。」
「私も一緒に行きますわ、エミリアにもらわなければならない書類があるの。」
「私のほうも何か進展がありましたらご連絡させて頂きます。」
席を立ちお互いに挨拶を済ませるとメルクリアが転移魔法を唱え始める。
「これが転移魔法ですか。」
「便利なものであっという間に目的の場所についてしまいます。」
「さすがに知らない場所や遠い場所はいくら私でも無理ですわ。」
知らない場所は無理なのか。
なるほど、それで村の入り口に転移したんだな。
村長の家の前じゃない理由がこれでわかった。
っと、そうだ思い出した!
「そうだ、ニッカさん大切なことを言い忘れていました。」
「どうかされましたか?」
「明後日に私の店に来客があるのですが、少々素性のよろしくない連中でして。悪さはしないと思いますが念のために警戒しておいてもらえますでしょうか。」
「わかりました、ウェリス達にそのように伝えておきましょう。」
「騎士団にも事情は伝わっていますので、当日シルビアも来る手はずとなっていますから大丈夫だとは思いますが・・・。」
「あの子がいるならば大丈夫でしょう。イナバ様をよく守るよう言いつけておいてください。」
守られてばかりでどうもすみません。
「では、失礼します。」
「お気をつけて。」
気をつけるのはメルクリアなので大丈夫です。
いつもの黒い壁を通り過ぎると商店の前に立っていた。
何とまぁ便利だ事。
俺も覚えられたらいいのにな。
「残念ながら貴方では転移魔法を使えませんわ。そもそも魔術のセンスが無いんですもの。」
「センスの問題ですか。」
今日も心も声はだだ漏れしているようだ。
でもセンスで片付けられるのって何か釈然としないなぁ。
「貴方には魔法を扱うだけの魔力が無いんですもの。それにいくら魔力があったからといって誰もがこの魔法を使えるわけではない事を覚えておくことね、私だって精霊の力がなければこんな簡単に使えたりしないわ。」
メルクリアには火の精霊の祝福があるんだっけ。
その力を上手く利用することで高等魔法である転移魔法を使っているんだろうな。
まてよ、精霊の祝福があったら俺にも出来る?
しかも俺は二人の精霊の祝福があるわけで・・・。
「いくら貴方が精霊の祝福を二つ授かっているとしても、そもそもの魔力が無ければ魔法なんて使えるわけが無いんですから誤解しないことね。」
あ、やっぱりダメですか。
ですよねー。
仕方が無い、チートスキルなしでこれからも頑張るとしますか。
「ただいま戻りました。」
「お帰りなさいシュウイチさん!」
商店のほうにいたはずのエミリアが真っ先にこちらに気付いてくれた。
さすがですエミリアさん。
「お帰りなさいませ御主人様、首尾はいかがでしたか?」
「おかげ様で無事に村長と村の人の賛同を取り付けることが出来ました。」
「さすが御主人様です。」
さすがかどうかは別として、ありがとうユーリ。
「お疲れ様でした、お茶入れますのでかけてお待ちください。」
パタパタと厨房のほうへ向かうセレンさん。
良い奥さんって言うのはあんな感じなんだろうか。
こう、後ろから見たときのお尻のラインがなんともいえなくてですね
「御主人様より不穏な空気を検知いたしました、リア奥様に報告いたします。」
「ユーリさん、ちょっとそこに座りなさい。」
この子はいったい何を言い出すのやら。
そんな事したらまた夜叉エミリアが降臨するじゃないですか。
おやめなさい。
「これだから男って奴は・・・わ、私だって腰から下のラインは負けてないですのに・・・。」
「何か仰いましたか?メルクリアさん。」
「何でもありませんわ!」
なんだろう怒らせるようなことをしただろうか。
「シュウイチさんメルクリア様お疲れ様でした。」
カウンターからこちら側にエミリアがやってきた。
外側に出ているカウンターには離席中の札でも置いているんだろう。
大丈夫だ、だれもきやしないさ。
「エミリアも店番お疲れ様でした。」
どれだけ来たかは聞いてはいけない。
おそらくお察しの通りだ。
「それで村長はなんて仰っておられましたか?」
「村人全員の賛同と共にご協力いただけるそうです。」
「良かった!あとはメルクリア様にお願いするだけですね。」
「貴女にも見せたかったわ、彼が全員の前で頭を下げて嬉し泣きしているところを。」
ちょ、今それを言う?
泣いてないし、別に泣いてなんかないし!
「嬉し泣きですか?」
「それは村長が私がどう思われているか理解してないと言い出してですね。」
「御主人様が慕われているのは当たり前です。」
「その通りです。私も含めイナバ様は本当に良くしてくださっているではありませんか。」
人数分のお茶を用意しながらセレンさんが力強くユーリに同意した。
そうかセレンさんも村人なわけでして、全員の賛同といいながら入っていなかった。
でももう商店の人間だし、はじめから賛成と考えても良い訳で。
「シュウイチさんが皆さんのために頑張ってくださった当然の結果だと思いますよ。」
自分のことのように嬉しそうなエミリア。
エミリアのおかげでもあると思うんだけどなぁ。
「私が思っている以上に貴方は慕われているのね。」
「皆が私に優しいからだと思いますよ。」
「あら、私は優しくした覚えはないのだけれど。」
直接的にはありませんねぇ。
でもさっきのように何だかんだ言って手助けしてくれるあたり、メルクリアは優しいと思う。
「あとはメルクリアさんと領主様の了承が取れ次第目標に対するめどが立ちそうですね。」
「そうですね、でもダンジョンと商店はあまり良い滑り出しとはいえません。」
「ダンジョンのほうは今だ魔力回収0ですので。」
客数は来ずダンジョンにも侵入なしか。
そんなに慌てなくても想定の範囲内です。
「初日はこんなもんですよ。」
「ですが私が今まで携わっていた店はあんなにお客さんが来ていたのに・・・。」
「それははじめから売れる場所に商店を出しているからよ?」
しっかり情報収集して商店を出せば初日の売上を想像することは案外たやすい。
しかしこの店のように宣伝が少なく魅力的なダンジョンでもない場合はそうなることは少ない。
これが普通なのだ。
「この前言いましたようにこれが今の現状です。ですがそれを変えていくために来期の企画を考えているのですからまずはそれを成功させるために頑張っていきましょう。」
「そうですよね、まだまだこれからですよね。」
まだ始まって1日たっていないんだから。
今日1日の売上で全てが決まるわけじゃないんだよ。
「エミリアは多忙な店の経験はあってもこういう店ので経験はありませんから、そういう意味でもこういう現実をしっかりと受け止めて勉強しなさい。」
「どうもすみませんね、暇な店でして。」
「店主がこれじゃあ仕方ないわね。」
やれやれと肩をすくめるメルクリア。
それを見たエミリアにも笑みがこぼれる。
後輩のフォローご苦労様です。
「それじゃあ私は帰ってさっきの件を報告しようかしら。」
「どうかよろしくお願いします。」
「上もバカじゃないんだからおそらく大丈夫でしょう。もし駄目そうならあなたのその頭で説き伏せて御覧なさい。」
入社二ヶ月の新人が経営陣に啖呵切るとかどんな失職案件ですか。
「メルクリア様どうかよろしくお願いします。」
「そんな顔するんじゃないの。貴女の仕事は彼をフォローすることであって悲しい顔をするのは仕事じゃないのよ。」
「はい、がんばります。」
「あぁそれと、この前話していた従業員雇用の書類一緒に持って帰るわね。」
「すぐに持ってきます!」
そういえばそんなことも言ってたね。
てっきりセレンさんの給与はこっち持ちだと思っていたけど、何から何までありがとうございます。
「ではその間にメルクリア様にはどうかダンジョンのほうにお越しいただければ幸いです。」
「私の魔力は高くつくわよ。」
「そこは御主人様と上手く話し合っていただければと思います、どうぞこちらへ。」
エミリアは書類を取りに家に。
メルクリアはユーリにつれられてダンジョンへと向かった。
残された俺とセレンさんは静かにお茶をいただくことにする。
「イナバ様、先程の小さな女性の方はいったいどなたなのでしょうか。」
本人がいなくて良かった。
けどまぁ小さいよなぁ。
「セレンさんには紹介していませんでしたね、私とエミリアの上司に当たるメルクリア様です。ああ見えて非常に優秀な方なんですよ。」
「そんな偉い方とご一緒して大丈夫だったんでしょうか。」
「大丈夫ですよ。」
彼女の前で小さいって言わなければ大丈夫。
「イナバ様は私のようなものにまで優しくしてくださって、本当に素晴らしい方ですね。」
「私は特にすごくないですよ。私ではなく私の周りに集まってくれた皆さんが素敵なんです。もちろんセレンさんもそのうちの一人ですよ。」
「そんな、私なんてただの役立たずで。」
「セレンさんにはセレンさんにしかできない仕事があります。ユーリを見てください、セレンさんの側で必死に学ぼうとしています。彼女のためにもどうぞ力を貸してください。」
「こんな私でよろしければ何なりと使ってください。」
使ってくださいとか言わないの。
あんな事とかそんな事とかこんな事とか。
色々と想像しちゃう訳でして。
しかも未亡人と二人きりでそんな。
美味しくいただくのかそれとも美味しくいただかれてしまうのか。
え、なにを?
そりゃあお子様には教えられないねぇ。
「あら、また女性をたぶらかしているのかしらこの男は。」
何を仰っておられるのか良く分からないなぁ。
「失礼な、ただの世間話ですよ。」
「どうだか。どうせだれかれ構わず手を出そうとしていたんじゃないの?」
「私になんてもったいないお話です!それにイナバ様にはもう素敵な奥様が二人もおられるじゃないですか。」
ありがたいことに素敵な奥さんがいるんです。
そうです。
自重しよう俺。
落ち着くが良い。
深呼吸だ。
「メルクリア様、此方が書類になります。」
「おかえりなさいエミリア。・・・そうね不備もないし問題ないでしょう。」
「お手間ですが提出よろしくお願いします。」
「エミリア、ちゃんとこの男の手綱握っておくのよ?」
いや握られなくてもおとなしくしてますよ?
大丈夫ですよ?
「よく分かりませんがお任せください。」
「それじゃあしっかりね、明後日の件また詳しく教えて頂戴。」
「またお知らせいたします。メルクリア様も無理しないでくださいね。」
「ありがとうエミリア、またね。」
書類を受け取ったメルクリアはヒラヒラと手を振りながら振り返らずに黒い壁の向こうへと消えていった。
これにてひと段落か。
そろそろ日も暮れるし今日ぐらいは早めに閉店してもいいだろう。
というかもう客こないだろ。
魔物の出る道をわざわざ買いに来るやつなんているのか?
いないだろ。
むしろいたら怖いよ。
帰れよってなるよ。
「皆さんお疲れ様でした。早いですが店じまいにしましょうか。」
「そろそろ日暮れですがもう閉めるんですか?その、売上的なことを考えればもう少しあけておいたほうが。」
「日暮れになればお客さんは来ませんし、今日ぐらいはお祝いの為に早仕舞いしても怒られませんよ。」
そう。
今日は開店のお祝いをするんだ。
と言ってもケーキはないので、大人らしくお酒でお祝いする予定だ。
「セレン様にお祝い用の料理を作っていただきましょう、是非そうしましょう。」
「私の料理なんかでよろしいのでしょうか。」
「何を仰います!お祝いに相応しいではありませんか。」
セレンさんのことになるとユーリが暴走してしまう。
確かに美味しいけど無理強いして作ってもらうわけには行かないしなぁ。
「私からもお願いしたいのですが大丈夫ですか?」
「まだ迎えが来ていないので簡単な物でよければご準備できますが。」
「私からもお願いしす。」
エミリアも賛成のようだ。
そうだよね、せっかく食べるなら美味しい料理が嬉しいよね。
「お祝いと言っても軽くお酒を飲む程度ですのでつまみになるような物で大丈夫ですよ。」
「でしたら何品か作ってみますね。」
「材料はお店のものでも家の物でも何なりとお使いください。」
ユーリさん、店の物は横領になるんじゃないかなぁ。
まぁいいか。
俺が店主だ!
的なのりでいけば。
女性陣三人が料理を作っている間に閉店作業を進める。
どれどれ今日のそう客数はっと・・・8人か思ったより来たな。
てっきり片手で足りるぐらいだと思っていたけど、それでもまぁ両手で余るか。
売上金はっと銅貨203枚か。
という事は銀貨2枚だけど、利益で考えたら半分の1枚か。
やっぱり売り上げ目標を店で確保するのは無理でゲーだわ。
何か別の商売考えないといけないなぁ。
とりあえずまぁ、横流しを何とかしてからだな。
あれこれ考えられるほど俺の脳味噌の容量は多くないようだ。
今でもうパンパンです。
んじゃま店閉めて、かぎかけて、お金しまって。
ダンジョンは放置でオッケーっと。
増えた魔力は俺たちの分とメルクリアで終了。
それでも俺の27倍ですからご馳走様です。
これだけのために毎日来てくれないかな、マジで。
あとは正面玄関の鍵をかければ終了だな。
なんか良い匂いしてきたしあー、おなかすいた。
玄関の鍵を閉めようと扉に手を書けた瞬間、外から扉が開けられ手が空を掴んでしまう。
「誰かと思ったらお前か、こんな所で何やってるんだ。」
「ウェリスじゃないですか、店は閉めましたが何か用ですか?」
入ってきたのは村で土木作業中のはずのウェリスだった。
この時間だから終了しててもおかしくは無いか。
でも何でわざわざこんなところに。
開店祝いって感じでもなさそうだけど。
「あぁ、セレンさんの迎えを頼まれているんだがいないのか?」
そういえば村から迎えがあるって言ってたけどまさかウェリスだとは思わなかった。
という事は毎日くるのか。
「ウェリスさん!」
その声で後ろを振り返ると、先程まで大人の女性の顔をしていたセレンさんがまるで乙女のように明るい顔でウェリスの名前を呼んだ。
おやおやこれは・・・。
もしかして?
「迎えに来ましたがまだ仕事中でしたか。」
「もうすぐ終わりますので、すみませんそこでお待ちいただいてもいいですか?」
「適当にしてますのでゆっくり準備してください。」
ウェリスは特に変わった感じないんだけど、明らかにセレンさんのテンションが変わった。
淑女が乙女になった。
これはあれか。
恋っていうやつか。
なるほどね、それでお迎えが嬉しかったのね。
「ウェリスさんが迎えに来てくださったんですね。」
「仕事の後だから他のやつをって言ったんですが、何故か他の連中が行きたがらないもので。」
エミリアには丁寧なしゃべり方なんだよな。
まぁ別に構わないけど。
「なにか呑んでいきますか?」
「いや止めておこう、一応仕事中だ。」
あくまで仕事ね。
さてさて、セレンさんの恋は実るのやら。
あのお尻がウェリスのものになるのならあまり見るのも失礼だな。
人のものには手を出さない主義です。
「お待たせしました!」
「ぜんぜん待っていませんよ。」
「ではイナバ様みなさん、失礼します。あ、先程の料理は最後にレモーンをかけると美味しいですよ。」
「試してみます。どうぞお気をつけてお帰りください。」
「それじゃあまたな。」
さりげなくセレンさんの荷物を持ってあげるあたりがなかなか好印象だ。
以外にたらし男だったのかもしれない。
「セレンさんってもしかして・・・。」
二人が出て行った扉を見送ってふとエミリアが呟く。
「それは今後のお楽しみという事で。」
「よく分かりませんがセレンさんはどうしてあんなに嬉しそうだったんでしょうか。」
ユーリにはこの恋のときめきはまだ理解できないか。
って恋のときめきって少女マンガかよ。
「そこはこっそりセレンさんに聞いてあげてください。」
「こっそりですか。」
そういうのは女性同士でこっそりやってくれればいいよ。
うちは恋愛関係でとやかく言う決まりはありません。
「それじゃあ料理も出来たみたいですから、私たちは私たちでお祝いしましょうか。」
扉に鍵をかけてこれにて開店初日終了です。
「セレンさんのお祝いもですね。」
「そこは正式に発表があってからですね。」
「よく分かりませんがお祝いですのでいいことなのでしょう。」
「それでは料理を持って帰りましょうか。」
「「はい。」」
温かい料理を持って商店の裏口へ向かう。
戸締りは確認済みだ。
後は明かりを消して裏口の鍵を閉めれば完璧っと。
「二人とも今日はお疲れ様でした。」
「何も疲れてなどおりませんので、明日も大丈夫です。」
「何事も無くてよかったです。」
俺は何事も無かったわけじゃないんだけど、嬉しいことはあったかな。
「では着替えたら食事にしましょうか。」
すぐ裏の家に入り明かりをつける。
我が家ってやっぱりいいな。
「それじゃあシュウイチさん、またあとで。」
「御主人様はお酒の準備をお願いいたします。」
はいはい了解ですよっと。
こうして商店最初の一日は幕を降ろしたのだった。
ここからが俺の新しい始まりだ。
がんばろう。
自分だけじゃなくみんなの為に。
そう決意した1日だった。
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