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第四章

お酒の後は〆の厄介事

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メルクリアが横に座ってからみだしてからそろそろ1刻程。

その間もアルコールの摂取は止まらず、俺が注文したエールもメルクリアの腹に消えていった。

喉渇いたなぁ・・・。

「ちょっと、聞いてるの~?」

「はい、すみません聞いています。」

このやり取りも何度目だろうか。

視線をそらせば怒られ、相槌を忘れれば怒られ、意見を言えば怒られる。

これを理不尽といわずして何といおう。

世の中にはアルハラという言葉がありましてですね。

これはどう考えてもそれに相当す事案なわけですが、残念ながら訴え出る場所が無い。

「メルクリア様も大分溜まっていたんですねぇ。」

「いっそ、シュウイチが娶ってあげるしかないのではないだろうか。」

なにその看取ってあげるしかないみたいな言い方。

シルビア様は良い感じに出来上がってるし言動も視線も定まっていない。

メルクリアもシルビア様も呑みすぎではないでしょうか。

ユーリは相変わらず戦闘不能状態。

唯一顔色一つ変わっていないのは以外にもエミリアだけだった。

おかしなぁ、さっきからシルビア様と同じペースで呑んでいるはずなのにまったく変化が無い。

あれか俗にいうザルという奴か。

「だ~れが、こんなたらし男に、娶って貰うものですか。」

「そうですね、すみません。」

「なによ、娶るほどの価値もないっていうの?」

だから何でそうなるかなぁ。

この絡みに絡んでグダグダになっているのが商店連合人事部長のメルクリアとは到底思えない。

普段のあのキリッとした姿や振る舞いはどこに行ってしまったんだろうか。

それともこっちが本当のメルクリアなんだろうか。

だとしてもこの絡み方はちょっと。

「そんなこと無いですよ、素敵だと思います。」

「じゃあその素敵なところ言ってみなさいよ!」

あーもう。

酔いつぶれるなら酔いつぶれるでさっさとノックダウンされてくれれば話が早いのに。

「そうですねぇ・・・。真面目に仕事されるところとか、後輩の面倒見がいい所だとか、頭の回転が速くて話が合いそうなところとかでしょうか。」

正直に言って直接話をした時間は限りなく少ない。

最初の面談のときと、商店が廃屋だったときと、アリの巣を潰して貰ったときぐらいだろうか。

今日の会議で久々に会ったので数える回しかない。

その数少ない仲で素敵なところを探せといっても情報があまりにも少なすぎるのだ。

これぐらいで許してくれないかなぁ。

「なによ、ちゃんと私のこと、みてくれてるじゃないの。」

メルクリアはボソボソと言いながら下をむいてしまった。

よかった納得してくれた。

「ちょっと店員さんに飲み物の追加をお願いしてきますね。」

「あ、私はもう一杯同じのをお願いします。」

まだ呑むの?

今まで呑んだお酒はいったいどこに消えたんでしょうか。

エミリアのおなかの中はブラックホールにでもなっているのかな。

注文ついでにトイレに行き、部屋に戻ると俺の席をふさぐようにメルクリアが倒れていた。

やっと落ちたか。

もう二度とこんな飲み会は御免被りたい。

踏まないように気をつけながらエミリアの隣に座る。

シルビア様もダウンしてしまったようだ。

机にうつぶせになって寝ているのにかっこよく見えるのは何故だろうか。

これもカリスマのなせるわざという奴なのかな。

「お疲れ様でしたシュウイチさん。」

「やっと開放して貰えましたよ。」

「普段気を張ってお仕事されていますからお酒を飲んで気が緩んでしまったんだと思います。許してあげてください。」

呑みつぶれたメルクリアに店から借りていたひざ掛けを掛けてあげるエミリア。

えらいなぁ。

俺ならそのまま部屋の隅に転がしてしまうけどな。

「普段から大事な仕事を多くこなしておられますから仕方ないのかもしれませんね。」

「お休みの日のメルクリア様は良く知っていますが、こんなになるまで呑んでしまうとは思いませんでした。」

「メルクリアさんもシルビアも普段が気を張る仕事ですから、たまにはこんな日があって言いと思います。」

たまにと言いながら二度とないほうがいいけど。

「私は普段から楽しく仕事をさせていただいているのであまり差が無いかもしれません。」

「いや、あれだけ呑んでいるのに顔色一つ変わらないのはすごいと思いますよ。」

「そうですか?」

そうです。

俺なら間違いなくトイレで全部リバースしている量です。

エミリア恐るべし。

「俺が相手でよかったんですかね、エミリアと話しているほうが楽しそうでしたが。」

「そんなことないですよ、シュウイチさんはいやな顔せず付き合ってあげていたじゃありませんか。」

いやな顔なんてしたらどんな目に合うか。

恐ろしくて考えたくも無い。

「まぁ、私にもこうやって愚痴を言いたくなる日がまったく無かったわけではないですからね。」

「愚痴を言いたくなったらいつでも言って下さいね。シュウイチさんは私たちになかなか本心を打ち明けてくださらないのでちょっと寂しいです。」

「なかなかそういう事は苦手なもので。でも、少しずつ変わっていきますからのんびりお付き合いください。」

「もちろんです、だって夫婦なんですから。」

エミリアがそういいながらこちらを見つめてくる。

そっと手を握ると握り返してきた。

お互いの目を見つめていると、エミリアがそっと目をつぶる。

少しだけ握っている手に力を入れて顔を近づけて行き、唇と唇の距離がどんどんと近づいていく。

そして、距離が0になろうかというその瞬間だった。

「御主人様、私のエダマーメが見当たらないのですがご存知ありませんでしょうか。」

驚いて目を開けるとユーリがエダマーメの残骸を手にこちらをのぞきこんでいた。

慌てて手を離しエミリアとの距離を開ける。

別にやましい関係とかそういうわけじゃないんだけどさ、タイミングって言う物があるでしょうユーリさん。

「最後のエダマーメはメルクリア様が食べてしまわれましたよ。」

「私が気持ちよく意識を手放しているときになんていう事を。再度注文してもよろしいでしょうか。」

「そろそろお店をでますから一つだけにしてくださいね。」

「もちろんです。どうぞそのまま続きをなさってくださいませ、私は気にしませんので。」

続きって出来るわけないじゃないか。

お酒を飲んでも赤くならなかったエミリアが真っ赤な顔で下を向いてしまっていた。

それを不思議そうな顔で見つめるユーリ。

止めてあげなさい。

結局覚醒したユーリがエダマーメを食べ終わっても寝てしまった二人が起きる事は無かった。

仕方が無いのでシルビア様を俺が、メルクリアをエミリアが背負ってお店を出ることになった。

背は高いけどやっぱり女性だな、思っていたよりも軽かった。

「シュウイチさん大丈夫ですか?」

「村に戻ってから少しだけですけど鍛えていましたので、これぐらいは大丈夫ですよ。エミリアは大丈夫ですか?」

「メルクリア様は軽いですから。それに、疲れたらユーリが代わってくれるそうですので。」

「シア奥様でも問題ありませんので遠慮なくお声掛けください。」

いや、ユーリだと難しいんじゃないかなぁ。

引きずったりしちゃだめだよ。

大分長いこと店にいたようで外は真っ暗になっていた。

明かりが少ないので見上げると星が良く見える。

星があるという事は宇宙があるわけで、朝晩があるという事は太陽の周りを公転と自転しながら回っているわけで。

異世界と言っても地球と変わらないなぁ。

正確に言えば地球の異世界ということになるんだろうな。

月が二個見えたりするとまた違う異世界物になるんだな。

魔法騎士がロボットに乗る作品はあれぐらいな物だろう。

ゆっくりと白鷺亭に戻ると入り口で支配人が待っていてくれた。

「お帰りなさいませ皆様。」

「遅くなりましたがただいま戻りました。」

「ご紹介したお店はいかがでしたでしょうか。」

「元の世界を思い出すなかなか素敵なお店でした。」

素敵なお店なのは間違いないんだけどさ、俺支配人に異世界から来たって言ったことあったかなぁ。

何で知っているんだろう。

「それは何よりでございました。よろしければお部屋まで私がお連れいたしましょうか。」

「大丈夫です、自分の妻ですので背負っていくのが夫の役目ですから。」

「でしたら今度は私を背負ってくださいね。」

「酔いつぶれてしまったときは背負ってあげますよ。」

たぶん酔いつぶれることは無いんだろうけど。

「イナバ様、お部屋に戻られましたらお耳に入れたいことがございますので一度下までご足労願えますでしょうか。」

なんだろう。

エミリアたちには聞かれたくない話だろうか。

「わかりました、二人を寝かせましたら伺います。」

とりあえずはこの二人を部屋まで連れて行くことが先決だ。

メルクリアは別に部屋を手配したはずだが、寝ている人間をおいておくわけにもいかないので俺たちの部屋に連れて行くことにする。

でもさ、食後にこの階段はさ、地獄だよね。

見上げると最上階の部屋まで続く階段がある。

強がって自分で連れて行くなんて言わなければよかったかもしれない。

ちょっと後悔。

フラフラとした足取りで何とか最上階まで上りきり、部屋へと向かう。

いつもならなんとも思わない一番奥の部屋が今日は恨めしい。

小鹿のように震える膝に活を入れてなんとか部屋までたどり着いた。

シルビア様は昨日寝ていた部屋に、メルクリアはエミリアの部屋に連れて行く。

もう無理。

足上がらない。

次からは寝ないぐらいの飲酒量になるようにお願いしよう。

それかユーリのように起きるまで待つ。

もしユーリが寝ていたらどうやって連れて帰ればよかったんだろうか。

さすがに二人はどう考えても無理です。

「シュウイチさん、メルクリア様は起きそうに無いですね。」

「シルビアもぐっすり寝ていますのでこのまま二人も休んでください。」

今日はもういい時間だし明日もあるからゆっくりして貰おう。

「シュウイチさんにだけ伝えたいことがあるみたいですね。」

「そうみたいですね。お願いしていたことは何もありませんしいったいなんでしょうか。」

「もし危ないことだったら一度戻ってきてください。」

「さすがにそれは無いと思いますよ。」

もし危険なことだとしても戻るわけにはいかない。

お酒を飲んだ嫁さんを連れて危険な場所なんかにいけるわけが無い。

危険なことは俺一人で十分です。

「御主人様、私がついていきましょうか。」

「ユーリはシルビア様の側にいてあげてください。私では服を脱がせてあげることはできませんので後お願いします。」

自分の奥さんとはいえ意識の無い女性の服を脱がすのはさすがに抵抗がある。

同性であれば問題ないだろう。

ユーリはエミリアの気持ちを汲んでくれたようだけど行くならやっぱり一人がいい。

「それでは行ってきます。遅くなるようでしたら先に寝ていても構いませんので。」

「わかりました。くれぐれも気をつけて。」

「ありがとう二人とも。」

まだ足はプルプルしているけど呼ばれたからには行かねばなるまい。

壁を伝うようにして階段を下り、いつもの倍ぐらいの時間をかけて下へ降りた。

するとそれを見た支配人が笑いながら近づいてくる。

「ですから私が連れて行きましょうかといいましたのに。」

「男のプライドがそれを許さなかったんですが、今となっては後悔しています。」

「次からは遠慮せず仰ってくださいね。」

「そうさせてもらいます。」

この前よりも少し気さくな支配人。

人と人のつながりって大事だよね。

「それで、お伝えしたいことなのですがここでは少し問題がありまして。」

「どこかへ行けば良いんですね。」

「その通りです。コッペンがさきほど参りましてここまで来て欲しいとメモをいただいております。」

そう言って渡されたのは一枚の地図だった。

白鷺亭からそんなに遠くないな。

でもどこだろう。

わざわざ呼び出すという事はそれなりの内容という事だろうな。

早くも魔石横流しのグループが動き出したのかもしれない。

「ここがどんな場所かご存知ですか?」

「ここは確か非合法の賭場があったと記憶しています。」

まさにそれ関係の呼び出しじゃないですか。

裏の世界とは関わりたくないって伝えたはずなんだけど、どうしてこうなった。

「私がご一緒してもよろしいのですよ。」

「特に危ない事をしているつもりありませんので大丈夫でしょう。ただ、一刻して戻らない場合は人をよこして貰えますか?もちろんうちの四人以外で。」

「畏まりました。」

とりあえず行けばわかる。

動きがあったならむしろ好都合だ。

時間がかかると思っていたからあまり策は考えていないけど何とかなるだろう。

うん。

なんとかしよう。

帰る場所あるんだから。

「では行ってきます。」

「いってらっしゃいませ。」

支配人に見送られて颯爽と白鷺亭を後にする。

わけにもいかず、お年寄りのようによぼよぼと白鷺亭を出て目的の場所へと向かうのだった。

この世界は夜にほとんど人が出歩かない。

それは明かりが少ないからというのも関係しているのだろう。

警察が睨んでいるわけでもないし。不必要に危険な場所に行かないようにしているんだろうな。

目的の場所は色町と一本筋を違えたところにあるみたいだ。

向こう側から怪しげな光が屋根を照らしている。

ピンクとも紫ともいえない光だ。

この辺は絶対に住みたくないよな。

あたりに人気は無く薄明かりが足元を照らしてくれる。

あえて明かりを持っていかなかったのはそれを目印にする強盗などを避けるためだ。

無差別に襲ってくる連中に襲われるのは御免だからね。

夜目は聞くほうだし、慣れれば暗闇でも見えるものは見える。

地図に有った目的の場所からは薄明かりが漏れていた。

非合法なのに明かり漏れてるってこれってどうよ。

薄明かりの漏れるドアの前に立ち軽くノックをする。

「だれだ。」

中から野太い男の声が聞こえてきた。

合言葉とか必要な奴だったら俺は知らんぞ。

「コッペンに呼ばれてきたイナバだ。」

こういう所では畏まった言葉だとなめられるので少し口調を変えておく。

「話は聞いている入ってくれ。」

ドアを開けたのは屈強な剣士だった。

大きな剣を背負っている。

こんな狭い場所で振り回したり出来るんだろうか。

男の先導で建物の中を進んでいくと大きなホールに出た。

そこではいかにもな皆さんがチップをかけてみたことの無い賭け事をしている。

バニーガールではないけどきわどい格好のお姉さんがお酒をついで回っているなぁ。

お尻がエロイ。

「あの尻に触ると高くつくから気をつけろよ。」

不意に後ろからコッペンが声を掛けてきた。

「嫁のお尻で我慢することにしますよ。」

「せっかく良い店に連れて行ってやったのに楽しまなかったって話じゃないか。嫁に操でも立ててるのか?」

「一応新婚ですからね、そのあたりはわきまえています。」

「もったいない奴だ。こっちだ付いてきてくれ。」

賭け事に興じる皆様の間を通り抜け、人気の無い奥のテーブルに腰掛ける。

「飲み物はどうする、なんでもあるぞ。」

「さっきたくさん呑んできましたから一杯だけ。せっかくなので飛び切りのエールをお願いします。」

さっき呑めなかったしね。

「エールを選ぶ奴は初めてだ、あれは旨いのか?」

「あの飲物は味ではなく喉越しを楽しむ物ですよ。特にこれからの季節は良く冷やした奴を渇いたのどに流し込むのが最高です。」

「それは良い事を聞いたな、面白いエールを手に入れたんだが扱いに困っていたんだ。今度一杯おごってやるよ。」

「一杯といわず何杯でも歓迎ですよ。」

「こういうところに来たがらねぇやつがよく言うぜ。」

非合法な場所にはご縁が無い人生だからね。

こんな強面の皆さんと一緒の空間はできれば今すぐにでもご遠慮したい。

だが呼び出された以上話が終わる前に帰るわけには行かない。

なんせコッペンはこれからの商店を左右する大切な広告主様だからな。

「お待たせしましたエールになります。」

「まってました。」

二人分のエールをコッペンが受け取る。

グラスは冷えていないが中身は良く冷えているみたいだ。

「出来ればグラスも冷やしておくといいですよ。」

「そうか、冷蔵庫を増やしておかないといけないな。」

グラスを軽く当てると良い音がした。

一気に流し込むと麦の良い香りがのどの奥を通り過ぎていった。

なかなかに旨いな。

「なるほど、味ではなく喉ごしか。」

「そういうことです。それで、私が嫌いなこんな場所にわざわざ呼び出した理由を聞かせてもらいましょうか。」

アルコールも入りもう肝は据わっている。

これからは大人の時間だ。

「単刀直入に聞く。魔術師ギルドが流した魔石買取の知らせ、あれはお前が噛んでるって事で間違いないな?」

思っていた以上にストレートな問いかけだった。

「そうだとしたらどうしようって言うんです?」

「もしお前が噛んでいるのなら、良い事と悪いことその両方が今から起きることになるぞ。」

良い事と悪いこと。

大抵こういう話は悪いほうが大事になる。

さて、どんなことがおこるのやら。

休息日2日目の夜はまだ終わらなさそうだ。
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