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第一章

異世界いってみたらこんなところだった~種族編~

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 黒い壁にエルフ娘が消えること5分ほど、暇をもてあましてペンを回していたらお盆にカップを二つ載せて戻ってきた。

 香りからすると紅茶か何かだろうか。

「お口に合うかわかりませんが。こちらの世界では香茶《こうちゃ 》と呼ぶ少し香りのいいお茶です。お砂糖かはちみつを入れて飲むとおいしいそうですよ。」

「香茶ですか、私たちの世界でも同じ読み方をしますね。味も香りも近い物があります。案外似ているのかもしれませんね。」

 ハーブティーまではいかないが少し香りが強い。しかしながら不快な香りではなく、鼻からさっと消えあとに甘い香りが残る。女性が好みそうな味だ。普段からブラックコーヒーしか飲まないのでよけいにそう感じるのかもしれない。

「イナバ様の世界にもあるのですね。それでは、どこからお話しましょうか。」

「そうですね、まずはどんな種族がいるか。それと政治についてもお聞きしたいですね。国が複数ある場合は私が行く場所についてだけでも結構です。」

 種族、国、言語、文化、金融、地理、聞きたいこと知りたいことはたくさんある。

 それをすべて知っているに越したことは無いだろうが、まずは最低限の知識だけ覚えればいいだろう。

 細かい部分は必要になったら聞いていけばいい。

 その為にエルフ娘がついているのだろうから。

「種族に関しては大きく三つの種族に分かれます。人型種族、亜人種族、魔物種族。人型種族の中には、エルフィー、ドワーダ、ホビルト、ヒューリンの4種類が属します。本当はもう少しいるんですけれど一般的なのがこの4種です。」

 聞いたことのある名前ばかりだ。

 さきほどの異世界から帰ってきた人がつけたというのもあながち間違いではないだろう。

 エルフ、ドワーフ、ホビット、ヒューマンというところだろうか。

「エルフィーはエミリアさんのような方でドワーダがずんぐりむっくり、ホビルトが小さくて、ヒューリンが私のようなタイプですかね。」

「その通りです。おそらく名前は違えど似たイメージかと思います。私はエルフィーですね、エルフィーはあまり外見が変わりません。6歳ほどになると大人と同じ外見になります。後は死ぬまでその姿のままといわれていますが、長寿ではないんです。もともと魔力を扱うのに長けているので魔力でもって外見を維持しているだけで、寿命となるのと同時に急速に老化します。」

 こちらのエルフは長寿ではないのか。

 ということは、死ぬときは大体同じように死ねるということなのだろう。

 残されたエルフがという美談は創作なのかもしれないな。

「やはり、魔力に長けているんですね。」

「はい。生まれた時に両親から半分を、そしてエルフィーの聖地奥にある精霊樹に成人の儀を行ったときにもう半分をいただきます。両親の魔力が強ければ強いほど良い魔術師になれます。ごく稀に精霊樹《ユグドラシル 》より大きな魔力をいただく方がいらっしゃいますが、最近ではあまり見かけません。平和になると少なくなるとは聞いたことがあります。」

 エルフィーは魔法が得意だというところも同じか。

 しかし面白いな、両親からはともかく精霊樹から魔力をもらうというのは聞いたことが無い。幼い時に力を持ちすぎない為なのか、はたまたそうすることで世界がブレーキをかけているのか。強大すぎる力は抑止力になるか恐怖になるかそのどちらかだからなぁ。

「ドワーダはエルフィーやヒューリンよりも少し背の低い、体のがっしりとした種族です。魔力はあまり持ち合わせていませんが、どの種族よりも筋力が強く気の優しい人が多いです。細かい作業も得意な人が多いので、アクセサリーや服なども作ったりする職人の方が多い種族でもあります。」

 金槌かついで髭もじゃのイメージはあながち間違いではないか。もしくは白〇姫にでてくる7人の小人がそうだろう。たしか設定ではドワーダだったはずだ。いや、ノームか?

 鍛冶職人はわかるが、アクセサリーや服飾などは力が強いと逆に難しい気がする。そこは職人の腕とやらで何とかするのだろう。

「男性も女性も似たような感じなのですか?」

「女性のほうが男性よりも背が高くその分筋力は少し落ちます。アクセサリーや服などは主に女性のドワーダの方が作ってることが多いですね。私が今つけているアクセサリーも知り合いのドワーダさんに作ってもらったんです。」

 そういって、耳を動かすと、耳の先についていた小さなイヤリングがゆれた。

 先端についているほうがより動いて綺麗に見えるな。

「ちなみにそのアクセサリーを作られたのは?」

「男性のドワーダさんなんです。フィフティーヌ様に教えて頂いて二人で買いにいったんですよ。あんなに太い指なのにこんな小さいものを綺麗に作られて。そこは奥様もお洋服などを作られているご夫婦の工房なんです。」

 今度会った時こそっと見てみよう。

 そして褒めておこう。

 そのほうがいい。

 褒めて損は無い。

「ホビルトは一番背が低く秀でた部分はあまりありませんので、この世界ではほとんどの方が商人として働いておられます。口達者で頭の回転も速く、動きも早いので荷物の運搬業もホビルトの方が多いですね。ちなみに、フィフティーヌ様もホビルト族になります。その中でも上位に当たる商家五皇《ペンティギュラ》のトップに就いているのが現メルクリア家当主様になります。」

 鬼はホビルトだったのか。なるほど、あの背の小ささは納得だ。

 そして未来の商売No1の立場でもある。

 体の小ささと見た目の幼さにだまされること無かれ。

 あの小さい体にはたくさんの夢と希望と覇気がつめられている。

 そしてそれがいつも漏れ出している。

 怖い。

 やっぱり喧嘩売るんじゃなかった。

「商売をする上ではこれから非常にお世話になる種族ということですね。皆さん幼く見えるのですか。」

「幼いと言うとフィフティーヌ様に言うと殺されちゃいますよ。けどそうですね、エルフィーと一緒でホビルトはあの容姿が大人の状態です。エルフィーと違うのは、少しずつ老けていきます。ただ、元が幼いので年配の方だからわかりやすいということはないですね。」

 殺されるって、この子さらりと怖い事言ったよ。

「見た目にだまされること無く商売人同士良い仕事が出来るといいですが。」

 商売をする上でなめられ無いこと。そして見下さないことは重要だ。

 常に対等な立場で、大儲けしすぎず大損しすぎず。

 しかし確実に財を成していくのが1番の方法だ。だがそれが1番難しい。

 やはり皆大儲けしたいし大損はしたくない。

 その不均衡が今で言う資本主義の不平等につながり最終的に貧困が生まれていく。

「最後になりますがイナバ様のヒューリンになります。人間という言い方になるでしょうか魔力や技術で秀でた能力はございませんが1番人口の多い種族です。主に農業や酪農、冒険者で多いのもヒューリンの方々ですね。人数が多いということは労働力としても多いということで奴隷の中で一番多いのがヒューリンとなります。」

 数で勝るヒューリンは貴重な労働力でもある。

 資本主義経済という感じでもないだろうしやはり奴隷として扱われるのもある種の劣等種族であるが故なのだろう。特殊技能が無いということはほかの種族に比べて劣っているということだ。

 しかしながら数で勝るヒューリンが奴隷だけの種族でなく一般に扱われているというのは非常にいい状況だ。

 数は力なり。

 おそらく過去を紐解けばヒューリンとほかの種族との戦争も十分あっただろう。

 それを経ての今の状況と考えるのが筋なのだろう。

 仮に奴隷種族であれば、そもそも店長などという仕事すら回ってこなかっただろうから。

「ほかの種族にも奴隷はいるんですか。」

「はい、ヒューリンほどではございませんが、売られたり犯罪を犯して追放されたりして身分を落とした物がいます。たいていは同族が労働力として買っていきますのであまり市場に出ることはございません。ヒューリン以外の種族はあまり自らの種族が奴隷になることを好まないんです。特にエルフィーに関しては過去、愛玩用に所有されていた歴史がございますので奴隷に落ちる場合には命を絶つケースが多いです。」

 死すれどもエルフィーは死なず。

 弄ばれる位であれば死んでしまおうということか。

 旧日本帝国じゃないんだから。

 でもまぁ、生殺与奪権が自分にあるうちにどうにかしてしまいたいのかもしれない。

 プライドが高いというのはファンタジーの知識とあまり変わらないということか。

「以上が人型種族の説明になります。続いて、亜人種族は先ほどの4種族と比べて動物よりの体格をしておりますが私達と同じように生活されており、猫人族、犬人族、熊人族、魚人族、鳥人族と主要亜人はこの5種類になります。

 亜人種。

 猫耳娘に犬耳娘、熊娘、人魚、鳥・・・は思いつかないが羽があるのだろう。

 人魚がいるなら、ケンタウルスも、ラミアもいるかもしれない。

 こちらでいうケモナーが喜ぶ人種ということか。

 君は何が得意なフレンズなんだい。

「普通に生活しているということは、町や村にも普通に出入りをしているということですね。」

「あまり自らの集落から出ることはございませんが、行商や冒険者として出歩いておられる方はたくさんいます。それぞれに特殊な文化を持っていますが、容姿も近いといえば近いですのでこの300年は争いもなく平和に共存していますね。」

 また300年前か。

 魔王とやらが出た時分は世の中もだいぶ荒れていたんだろう。

 争いは争いを生んで、見た目の違いは差別を生む。

 ラブ・アンド・ピースの世の中なんて、そんなに簡単なものじゃない。

 この300年がむしろすごいのだ。

 現実世界なんて同じ人間同士で殺しあってるからな。

 見た目おんなじで宗教や文化が違うだけで認め合えず殺しあう。

 もちろん譲れない部分はあるだろう。

 カップリングや掛け算の間違いは即戦争だ。

 なにぃ、受け攻めが違うだと。

 よろしい、ならば戦争だ。

 そういう意味ではこの世の中は非常に平和なのかもしれないな。

「最後になりますが魔物種族です。一般の魔物には種族などは存在せず、あまり知性なども備わっておりません。しかしながら長い年月を過ごした魔物や、ある程度の知能を持つ魔物もいます。オークやゴブリンなどの亜人の流れをくむ魔物は知性こそ少ないものの群れで行動し時に大きな集落も形成します。」

 いるんだ、ゴブリンとオーク。

 小鬼族と大豚族。

 ずるがしこいゴブリンに、貪欲なオーク。

 この世界のどれぐらいの姫騎士が餌食になったのであろうか。

 貴様らの自由にされるなら、く、殺せ!

 とかなんとか言ってるんだろうなぁ。

「ちなみにゴブリン族も、オーク族も人を襲うことは余りありません。むしろ、人との交流を楽しむような種族でもあります。しかしながら人型種族、亜人種族はあまり友好的ではないので昔は小競り合いが絶えませんでした。」

 殺すどころか歓迎しちゃってるよ。

 それでもあまり歓迎されていないようだし、魔物種族とほか種族の壁は案外大きいのかもしれない。

 300年前の争いがどうのとかそういう部分もあるんだろうな。

「魔物種族のごく少数ですがその大部分を統率しているのが吸血族ですね。不老不死の体を持ち、知識も豊富。好戦的な種族ではございませんが、自らの領域を冒されることを非常に嫌います。お会いになる場合にはまず使者を立てて事前にコンタクトを取っていれば問題ありません。」

 飛び込み営業が嫌いな社長さんのようだ。

 やっぱいるんだな、吸血鬼。

 いつかは会ってみたい。やはり太陽とニンニクは嫌いなのだろうか。

 キリスト教がない以上、十字架がどうのこうのというのは迷信だろう。

「以上が主要な種族の説明になります。」

「大変参考になりました。とはいってもまだまだ覚えきれえない部分も多いですので何度も聞くかもしれません。よろしくお願いしますね、エミリアさん。」

「エミリアで結構ですよ。」

 お、もう呼び捨てで呼んじゃってもいいんだ。

 意外にフレンドリーなのかもしれない。

 ギャップ萌えというやつか。

「それでは私もシュウイチで結構です。長いようでしたらシュウとでも適当にお呼びください。」

「そんな、適当になんてできません。シュウイチ様と呼ばせていただきます。」

 下の名前で呼んでもらえるだけでも親密感って上がるものなんだと改めて実感する。

 なんならシュウちゃんでもいいんだよ。

 最終兵器にだけはならないでくれるならね。

「お茶、おかわり入れましょうかシュウイチ様。」

「エミリア、おねがいできますか。」

「なんか、こそばゆいですね。」

 そう言うとはにかんで笑うエミリア。

 くそ、この娘はわざとやっているんじゃないだろうな。

 可愛いじゃないか。

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