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第一章

人は見かけによらない、そして怒らせると怖い

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理想の上司で想定していたのとは明らかに真逆の姿。

 ホビットとかドワーフ等と表現したほうがいいかもしれない。

 エルフ娘のと比べると非常にわかりやすい。

 120~30ぐらいだろうか、小学生のようだ。

 身長もさることながら顔立ちも非常に幼い。

 現実世界で声をかけたら間違いなく不審者案件で通報されるレベルだ。

 エルフ娘とはこれまた対極の漆黒の髪が耳の辺りでうちまきになっている。

 これなんていうんだっけ、ボブ?ショート?

 そして同じスーツを着ていても明らかに違う胸のふくらみ。

 慎ましいとかそういうレベルではない。

 ない。

 性別が男性で無いと断言できるのは顔立ちと服装そして体のラインであり、胸だけに限定して言えば判別不能である。

 当の本人に言えば間違いなく死を見るであろう。

「何か非常に不愉快な視線を感じますが、眼をつむりましょう。はじめまして、ダンジョンスマート商店連合所属人事総括部ならびに採用本部部長メルクリア・フィフティーヌと申します。この度は当商店連合の求人にご応募いただき、まことにありがとうございます。」

 速攻ばれていたし、危なく不採用どころか死を見るところだった。

 気をつけよう。非常に気をつけよう。

 しかし、まさか人事部長じきじきに来るとは思っていなかった。

 普通は採用部長とかちょっと上の係長クラスぐらいのものだが、まさかの大ボス登場。

 言い換えればこれはそれぐらいに重要な採用だということが採用されている身分でもわかる。

 いっぱしの平社員をつかまえて人事部長様とは非常に光栄だ。非常に光栄なのだが、その姿からか大物に見えない。お姉ちゃんの就職試験についてきた妹といわれてもおかしくないぐらいのアンバランスさだ。

 人は見かけによらない。もしかしたらあのボディーの下は非常に着痩せして見えるだけで実は・・・!

 いや、それはない。

 うん、ない。

「メルクリア様、改めてこちらがイナバシュウイチ様です。経歴はご覧いただきました履歴書、経歴書に記載している通りの方です。」

 非常に失礼なことを考えていたら話が先に進んでいた。

 あれだな、履歴書経歴書まではわかるが、攻略データと基礎パラメーターとはなんだ。

 やはりゲームのように攻撃力防御力と数値化されて実は伝説の勇者バリに優秀なステータス保持者とか書いてあるのだろうか。

 見たい。

 非常に興味がある。後で見せてもらえないだろうか。

「はじめまして、イナバシュウイチと申します。この度はご足労いただきありがとうございます。」

 ここはまじめに、そして今まで以上に慎重に行くべきだろう。

 準備不足の状態でボスとのエンカウントだ。

 通常であればひねりつぶされてはい終了!の流れをこちらから引き寄せたわけだ。

 逆を言えば同点ホームランからの逆転満塁ホームランもまだ残されている。

 相手が人事部長であれ、幼女であれ、負けるわけにはいかない。

「資料を拝見する限りではかなり優秀なようですわね、それにのみ込みも頭の回転も早い。異世界に召喚されるという非現実的な状況にも順応されている。それに先ほどの提案。聞いていただけですがよく切り返されています。仰る通りの部分もございますが、こちらとしても全てを受け入れるわけにはまいりませんわ。そこも踏まえて話を続けましょう。」

 なんだろう、宣言したものの早くも負けそうだ。

 なんなんだ、この幼女。

 見た目は子供、頭脳は大人。

 名探偵もびっくりだな。

 俗に言うロリババアという奴だろうか。

 中身は100歳を超える超高齢幼女。

 異世界なわけだし、長寿族代表格のエルフ娘もいるわけだ。十分あり得るだろう。

 フィフティーヌだったか。

 名前もなにかカッコいい。

 くそう、人は見た目によらないとはこういうことか。

「私としては先ほどお話しさせていただいた通りです。ハードルを設け、最低限の部分をクリアした暁には生命の保証をしてくださればいい。命の保証がない不安な状態で、本来の能力を発揮できるとは思えません。」

「いかにも、そちらの言い分ももっともです。しかし逆を言えば、危機感?なくして本当に本来の能力を発揮できるのでしょうか。命を懸けてこそ出てくる才能もございましょう。それに、こちらとしては時間だけかけて成果が見込めないのであれば、この提案そのものに乗る意味がない。せめて納期を決めていただけるのであれば別ですが。」

「こちらとしても期限を設けていただくことには賛同します。ダラダラと続くよりもノルマと期限を設けて取り組むほうが効率がいい。これは、どの世界でも同じことだとは思いますが。ただ、私の言い分はただ一つです。命の保証がないのであればこの話はなかったこととさせていただきたい。」

 この話の可不可はここにかかっている。

 大ボス相手だ、隠す必要もないだろう。

「なるほど、あくまでそこは譲らないということですね。」

 幼女はこちらの目を見据えたまま目線をそらさない。

 ここは目をそらしたほうの負けだ。

 ヤンキーのメンチ切りもマウンティングの方法の一つだ。

 幼女の見た目に不釣り合いの眼光。

 あきらかにこちらの経験値が不足している。

 勝てる気がしない。

 むしろコワイ。

 ここで目線をそらしたら、負ける以前に殺されるかもしれない。

 あれは人を殺したことがある目だ。

 そうに違いない。

 そんな目見たことはないけれど。

「おそれながらメルクリア様、イナバ様程のお方はなかなかおりません。ここは条件の変更など歩み寄ることはできないのでしょうか。」

 ナイスエルフ娘。

 少なくともこちらの味方だということはわかった。

 いいぞ、もっと言ってやれ。

「控えなさいエミリア、今は貴女の意見を聞いてはいません。この件に関しては私を呼んだ時点で決定権が私に移っています。言葉を慎みなさい。」

「申し訳ございません。」

 あ、一発で負けた。

 ですよねー、あの目で一喝されたらそら引っ込むよね。

 しかし、見た目以上に厳しいな。

「では仮に、命の保証をすることはできないとして。メルクリア様はどのような譲歩をしてくださるのでしょうか。」

 ここはひとつ違うカードを切ってみるか。

「こちらとしては最低条件は曲げたくないというのが本音ですわ。商売の根底は資本です。資本なくして商売は成り立ちません。資本に代わる信頼や経験があるのならば別ですが、今の貴方様にはそのどちらもない。それであれば根底である資本をもって話を進めるのが道理です。資本が尽きること。それは命尽きる事と同じではないかしら。」

 もっともだ。

 経験も信頼もない以上、最後の物差しは資本。つまりお金だ。

 お金がないなら命で償え。

 そういうことが言いたいのだろう。

 まさに極道の世界だな。

 しかしだ、つまりはこちらのカードには乗ってこない。

 あくまでも譲らない。そういうことだな。

「では、そちらとしては譲るつもりがない。そういうことですね。」

「まぁ、そう話を急がなくてもいいでしょう。こちらとしては曲げたくないと言っているのです。ただ、もし仮に貴方がそれを曲げるに足る活躍をしてくださるのであればこちらとしても考えないわけではない。ここまで言えばおわかりになるのでは。」

 つまりはやるだけやって、結果を出せば考えてやらんでもない。

 ずいぶん上からの物言いだな。

 あくまでこっちは採用している立場であって、そっちの条件などいつでもなかったことにできるぞと言っているわけだ。まだ活躍が足りないといえばいつまでも曲げる必要はない。つまりは変えないといっているのと同じだ。

 いいじゃないか。

 これまでもそうやって上から決めてきたのだろう。

 上等だ。

 あちらが喧嘩を売ってくるのであれば、こっちとしては買ってやるのが筋ってもんだ。

 いくらネクラオタクとはいえ、こうもわかりやすく喧嘩を売られたのであれば逃げるわけにはいかない。

 このロリババアをぎゃふんといわせて、あわよくばヒーヒー言うまで組み敷いてやればいい。

 幼女とて容赦はしない。

 そっちの趣味はないが、それぐらいしてやらないと気が済まない。

 エルフ娘と一緒に美味しくいただいてしまえばいい。

 ムフフ。

「なるほど。つまりはやるだけやってみろ、そう言いたいわけですね。」

「行動で示していただければいいのですよ。こちらには、その行動に報いる用意がありますわ。」

 あくまでも自分が上なのは変わらないと、そういうことか。

「そうやってこれまでも上から決めてきたのでしょうね。貴女様のやり方がわかりました。」

「・・・その言い方は引っかかりますわね。何が言いたいのかしら。」

 おっと、少し言い過ぎたか。

 まぁいい、立場をはっきりとさせなければいつまでも下に見られるだけだ。

 これで破談になるならそれで構わない。

 さすがに口が過ぎて殺されることはないだろう。

 たぶん。

「エサをぶら下げるだけでは馬は走らないといっているんです。お互いに、信頼関係を作ることまずはそれが大切なのではないでしょうか。」

「つまりはその信頼関係とやらを見せてくださる。そういうわけですね。」

「こちらにはそれに報いる準備がある。そう言っているんですよ。」

 信頼関係なくして商売はない。

 相手を信じることが、相手を信じさせることが商売の基本だ。

 上にも立たず、下にも降りず。

 同じ土俵で話をするべきなのだ。

 それができない相手なのであれば、しょせんその程度の相手だったそういうことだ。

 これで話が分かれるか、はたまた同じ土俵に降りてくるのか。

 恐らくだが、この手のタイプは口で言い負かしてマウントを取ってくるタイプだ。

 これまでも、立場を利用して常に優位に立ちながら話を進めているのだろう。

 降りてくる確率は30%ぐらいか。

「面白い、非常に面白いわ。この私にここまでハッキリとモノを言ってきた人は他にはいませんわ。いいでしょう、貴方のその信頼関係とやらを見せていただこうではありませんか。見せていただいたその暁には、メルクリア家の名の元に貴方のその条件のんであげましょう。ただし・・・」

 ただし、そういいながら鋭い眼光でこちらを見てくる

 今までにない、冷たく、鋭い眼光だ。

「その信頼関係とやらを見せられないときは、その命を以って償っていただけるのよね。」

 そう言いながら、にこやかに笑った。

 これは、とても恐ろしい人を怒らせてしまったのではないだろうか。

 寝ている獅子を起こすべからず。

 もしかしたら、メルクリア・フィフティーヌという獅子を目覚めさせてしまったのかもしれない。

 まぁ、なるようになるさ。

 たぶん。
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