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941.転売屋はカブトムシを追いかける
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「あの~。」
「ん?」
「つかぬ事をお聞きしますが、ここに冒険者ギルドはありますでしょうか。」
夏の日差しにも負けずいつものように露店を構えていると、申し訳なさそうな感じで青年が声をかけてきた。
手には大きな虫取り網、それと斜めにかけられているのは虫かごだろうか。
麦藁帽子がよく似合うTHE虫取りスタイルだ。
「もちろんあるぞ、大通りをまっすぐダンジョンのほうに行けば看板がぶら下がってるぞ。」
「ありがとうございます。それで、もう一つお聞きしたいんですけど。」
「なんだよ。」
「ここのダンジョンに虫は居ますでしょうか。」
そりゃいるだろ、虫ぐらい。
ついこの間だって巨大なセミと格闘してきたところだし、魔物ではない普通の虫もたくさん生息しているはずだ。
地上とは若干生態が違うそうだが、その辺はまったく興味が無いので詳しくないんだよな。
「むしろ居ない場所が合ったら教えて欲しい」
「あはは、ですよね。」
「わざわざダンジョンで昆虫採集するのか?」
「どうしても見つけたい虫が居るのでその為ならどんな場所にでも足を運ぶつもり、だったんですけど私の想像以上に危険な場所だといわれまして、仕方なく護衛を雇うことにしたんです。」
「そこまでして捕まえたいのはどんな虫なんだ?」
「良くぞ聞いてくださいました!私が探しているのはゴールデンルカーノといいまして、ルカーの種の中でも唯一本物の金を角に宿す本当に珍しい虫なんです!地上では決してお目にかかれない魔素の強いダンジョンの中にしか存在しないといわれており、残念ながら私はまだその姿を見たことはありません。しかしながら私は必ず見つけだし、標本に加えると誓ったのです!」
突然大きな声で熱弁をふるうものだから周りに居た客達が一気に離れていってしまった。
まったく、営業妨害もいいところだが彼の気持ちもわからなくは無い。
こうみえて子供の頃は彼のように虫取り網と虫かごを持って山や川辺を歩いては虫を取って回っていたタイプだ。
虫取りって一度始めるとつい夢中になってしまうんだよなぁ。
田舎じゃごく当たり前に居る虫も別の場所では珍しいって言われたり、物によっては高値で取引されるものもあったりする。
たかが虫、されど虫。
その世界も素人には分からない世界があるんだよなぁ。
「少し落ち着け。」
「は!申し訳ありません、つい熱くなってしまいました。」
「その虫は高く売れるのか?」
「あまり売買することはありませんが、もし手に入るのであればそれなりの値段は出すつもりです。」
「ふむ、他の虫はどうだ?俺は専門家じゃないからわからないが、珍しい奴とかが居たら売れたりするのか?」
「綺麗な状態であれば高値で売れる虫も居ます。え、もしかして探してくださるんですか?」
何かを期待しているようだが、残念ながら俺がその期待にこたえることは無い。
が、金になるかもしれないと聞いてスルーするのももったいない。
俺は優しいのでおっちゃんに店を任せて彼を冒険者ギルドへと連れて行くことにした。
もちろんそれだけじゃなくちゃんと職員に引継ぎ、事情を説明することも忘れない。
『彼がダンジョンで珍しい虫を探しているから協力してやって欲しい』ってね。
「で、こんな大騒ぎにしてくれたわけね。」
「ダメだったか?」
「そうは言ってないけど、せめてもう少し相談してくれてもよかったんじゃないかしら。」
「まぁいいじゃないか。冒険者は金を得られて彼は目的の虫を探し出せる。誰も損をしてないだろ?」
横で溜息をつくニアを横目に、いつも以上の賑わいを見せているダンジョン休憩所を見回す。
休憩所の横に設けられた特設ブースには冒険者が五人ほど並び、自分の番を今か今かとまっていた。
その先にいるのは先ほどの虫取り青年ことファブルさんだ。
目をキラキラと輝かせながら冒険者が持ち込んでくる虫を確認している。
「確かにそうだけどそのおかげでダンジョン内は大騒ぎよ。」
「そうか?」
「えぇ、そこらじゅう虫取り網を持った冒険者ばっかり。ほんとうにいるの?そのゴールデン・・・なんだっけ。」
「ゴールデンルカーノ。」
「そうそれ。金色に光るカブトムシなんて聞いたこと無いんだけど。」
俺だって聞いたこと無いさ。
だからこうやって探してもらっているんじゃないか。
俺じゃなくて冒険者にな。
当初は護衛を雇ってファブルさんがダンジョン内を回ることになっていたのだが、それだと魔物に襲われる可能性がある上に非効率すぎる。
それなら彼にはダンジョンの中心部で待機してもらって、戦える冒険者に獲物を持ってきてもらえばいいじゃないかということにしたんだ。
名づけて虫取り大会。
ルールは簡単、最初にゴールデンルカーノを見つけた冒険者にはファブルさんから賞金が支払われる。
賞金はズバリ銀貨30枚。
てっきりこの前のセミみたいな大きさを想像していたのだが、今回は普通のサイズらしい。
だからこそ見つけるのが大変なんだけども、臆することなくダンジョン内を動き回れる賞金に目のくらんだ冒険者ならもしかしたらみつけられるかも知れない。
だが、今の所持ち込まれているのは別の虫ばかりのようだ。
じゃあそれ以外の虫はどうなるのか。
「コレは珍しいですね、瑠璃蝶の中でも深い藍色をしたこれは愛好家が多いんです。」
「ってことは!?」
「銀貨3枚というところでしょうか。」
「やったぁぁぁ!」
「報酬は冒険者ギルドの出張所で受け取ってください。それじゃあ次の人!」
「よっしゃ、先生こいつはどうだ!」
ってな感じで、目的のルカーノでなくても金になりそうな珍しい虫には彼ではなく俺から報酬が支払われる事になっている。
たかが虫と侮るなかれ、話によれば金貨で取引される超珍しい虫なんかがいるらしい。
それが見つかればまさに一攫千金。
もちろんそれも冒険者には伝えてあるので、俄然やる気あふれた冒険者が網を手にダンジョン内をゾンビの如く徘徊しまくっているというわけだ。
とはいえ見つけた虫を何でも買い取っていたら意味がない。
利益が出ないとには話にならないので、彼には相場から銀貨5枚値引きするようにと伝えておいた。
それが出来ない場合は相場の半値、買い取るのは銀貨5枚以上の価値がある虫でとお願いしてある。
彼は珍しい虫を見つけてウキウキ、俺は金になる虫を手に入れてホクホク。
それだけじゃない。
「キラーマンティスが出たぞ!」
「こっちはパラライバタフライの群体だ!燐粉に気をつけろ!」
ってな感じで、虫系の魔物がダンジョンの奥底から現れはじめたようだ。
せっかくの虫取り、別に小さい虫ばかりじゃなくてもいいよな?
「お、いい感じに効果が出てきたみたいだな。」
「本当に効果があるのね。」
「そりゃあ天才調香師アロマの力作だからな、だろ?」
「天才はちょっと言いすぎです。虫除けと逆の効果を出しただけですから。」
急に褒められてニアの横に居たアロマが顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
それは褒められたからか、それともニアのたわわな果実を見たからかは定かではないが。
彼からゴールデンルカーノが臆病で中々出てこないと聞いた俺は、虫取り大会を円滑に進めるべくアロマに依頼をして特別な虫寄せを作ってもらった。
これでわざわざ虫を探しに奥へ行かなくても、向こうから出てきてくれる。
魔物の素材も手に入り、さらには金になる虫も手に入る。
まさに一石二鳥というやつだな。
「うわぁぁぁ!ブラッドスカラベの群れがでたぞぉぉぉ!」
「畜生、手がまわらねぇ!ドラゴンフライまで飛んできやがった!」
「燃やせ燃やせ!」
「バカヤロウ!羽まで燃えちまうだろうが!」
「そうだ!ルカーノが燃えたらどうしてくれる!死ぬ気で戦え!」
と、そのはずだったのだがこれはちょっと想定外、だな。
「これは、あれだな。」
「ちょっと効果ありすぎたみたいね。」
至る所から聞こえてくる虫の羽音や魔法の炸裂音。
アロマに依頼した虫寄せはどうやら昆虫だけでなく昆虫系の『魔物』にもかなりの効果があったようだ。
流石にここまで押し寄せてくることは無いと思うが、流石の冒険者も虫取り網を捨てて自分の得物で魔物と戦い始めている。
ひとまずはコレが収まるまで虫取りは中止だな。
「ニア、援軍は?」
「もうすぐ来るはずよ。それまでは何とか持ちこたえないと。ほら、シロウさんも。」
「そうなるよなぁ。」
「自分が撒いた種なんだからちゃんと責任取ってよね!」
「へいへい、了解しましたよ。」
アロマをファブルさんのほうに避難させつつ、俺も腰にぶら下げたスリングを手にニアの後ろを追いかける。
恐らくは簡易城壁に魔物が迫っているはず。
こういうときに役に立つのが遠距離攻撃武器だよなぁ。
魔法もいいけど誰でも使える遠距離武器は防衛戦にうってつけだ。
もっとも、俺が装備に頼りっぱなしなのですごいのは俺じゃなくて装備だけど、結果が出れば何でもいい。
アロマの作った虫寄せは本当に効果があったようで、その後もひっきりなしに休憩所へ向かって虫系の魔物が押し寄せてきた。
巨大なだんご虫にトンボ、アリやバッタなんかもいた気がする。
そんなすごい状況でも動じることなく戦う冒険者達。
普通は逃げ出しそうなものだが、一体どれだけの修羅場を越えてきたんだろうか。
そんなこんなで虫寄せの効果が切れるまで戦闘は続いたのだが、そのおかげもあってか大量の虫系素材を確保することが出来た。
いつもは結構な確率で焼き払われるのだが、今日は別の目的があるので物理的に頑張ってくれたようだ。
「あ!」
そのときだった。
休憩所に避難していたファブルさんが、ダンジョン中に響くような大きな声を出して目にも留まらぬ速さで近くの壁に張り付いた。
いや、張り付いたんではなく手で押さえた?
「網!網持ってきてください!」
「網?」
「虫取り網です!かごも!あぁ、あそこにも!」
左手で抑えつつ、右手は別の場所に向かって手を伸ばしていた。
俺は足元に転がっていた虫取り網を手にその場に急ぎ、右手の先に向かって網を下ろした。
地面に抑えつけた網の中で何かが動いているのが見える。
それは魔灯の光を受けて金色に輝いていた。
「もしかしてこれが?」
「はい!ゴールデンルカーノです!それもこんなにたくさん!あぁ、向こうに雌がいます!シロウさんはやく!」
「分かったからせかすな!」
「せかしますよ!ペアで見つかるなんてどうしよう、夢みたいです。」
「いいからその手を離すなよ。おい、網もう一個もってこい!」
一匹二匹ならここまでの騒ぎにはならなかっただろう。
だがその場に居たのは10を越える個体。
慌てて近づいたものだからそのうちの何匹かは壁から離れ、ダンジョンの中を飛んでいってしまった。
それを大騒ぎしながら追いかけ走り回る冒険者達。
まさかこんなに出てくるとは思わなかったがこの場合賞金はどうなるだろうか。
ま、全部捕まえてから考えるか!
捕まえた個体をかごに入れ、再び網を振り回して逃げた奴を追いかける。
これぞ虫取り大会の醍醐味・・・ではないか。
「ん?」
「つかぬ事をお聞きしますが、ここに冒険者ギルドはありますでしょうか。」
夏の日差しにも負けずいつものように露店を構えていると、申し訳なさそうな感じで青年が声をかけてきた。
手には大きな虫取り網、それと斜めにかけられているのは虫かごだろうか。
麦藁帽子がよく似合うTHE虫取りスタイルだ。
「もちろんあるぞ、大通りをまっすぐダンジョンのほうに行けば看板がぶら下がってるぞ。」
「ありがとうございます。それで、もう一つお聞きしたいんですけど。」
「なんだよ。」
「ここのダンジョンに虫は居ますでしょうか。」
そりゃいるだろ、虫ぐらい。
ついこの間だって巨大なセミと格闘してきたところだし、魔物ではない普通の虫もたくさん生息しているはずだ。
地上とは若干生態が違うそうだが、その辺はまったく興味が無いので詳しくないんだよな。
「むしろ居ない場所が合ったら教えて欲しい」
「あはは、ですよね。」
「わざわざダンジョンで昆虫採集するのか?」
「どうしても見つけたい虫が居るのでその為ならどんな場所にでも足を運ぶつもり、だったんですけど私の想像以上に危険な場所だといわれまして、仕方なく護衛を雇うことにしたんです。」
「そこまでして捕まえたいのはどんな虫なんだ?」
「良くぞ聞いてくださいました!私が探しているのはゴールデンルカーノといいまして、ルカーの種の中でも唯一本物の金を角に宿す本当に珍しい虫なんです!地上では決してお目にかかれない魔素の強いダンジョンの中にしか存在しないといわれており、残念ながら私はまだその姿を見たことはありません。しかしながら私は必ず見つけだし、標本に加えると誓ったのです!」
突然大きな声で熱弁をふるうものだから周りに居た客達が一気に離れていってしまった。
まったく、営業妨害もいいところだが彼の気持ちもわからなくは無い。
こうみえて子供の頃は彼のように虫取り網と虫かごを持って山や川辺を歩いては虫を取って回っていたタイプだ。
虫取りって一度始めるとつい夢中になってしまうんだよなぁ。
田舎じゃごく当たり前に居る虫も別の場所では珍しいって言われたり、物によっては高値で取引されるものもあったりする。
たかが虫、されど虫。
その世界も素人には分からない世界があるんだよなぁ。
「少し落ち着け。」
「は!申し訳ありません、つい熱くなってしまいました。」
「その虫は高く売れるのか?」
「あまり売買することはありませんが、もし手に入るのであればそれなりの値段は出すつもりです。」
「ふむ、他の虫はどうだ?俺は専門家じゃないからわからないが、珍しい奴とかが居たら売れたりするのか?」
「綺麗な状態であれば高値で売れる虫も居ます。え、もしかして探してくださるんですか?」
何かを期待しているようだが、残念ながら俺がその期待にこたえることは無い。
が、金になるかもしれないと聞いてスルーするのももったいない。
俺は優しいのでおっちゃんに店を任せて彼を冒険者ギルドへと連れて行くことにした。
もちろんそれだけじゃなくちゃんと職員に引継ぎ、事情を説明することも忘れない。
『彼がダンジョンで珍しい虫を探しているから協力してやって欲しい』ってね。
「で、こんな大騒ぎにしてくれたわけね。」
「ダメだったか?」
「そうは言ってないけど、せめてもう少し相談してくれてもよかったんじゃないかしら。」
「まぁいいじゃないか。冒険者は金を得られて彼は目的の虫を探し出せる。誰も損をしてないだろ?」
横で溜息をつくニアを横目に、いつも以上の賑わいを見せているダンジョン休憩所を見回す。
休憩所の横に設けられた特設ブースには冒険者が五人ほど並び、自分の番を今か今かとまっていた。
その先にいるのは先ほどの虫取り青年ことファブルさんだ。
目をキラキラと輝かせながら冒険者が持ち込んでくる虫を確認している。
「確かにそうだけどそのおかげでダンジョン内は大騒ぎよ。」
「そうか?」
「えぇ、そこらじゅう虫取り網を持った冒険者ばっかり。ほんとうにいるの?そのゴールデン・・・なんだっけ。」
「ゴールデンルカーノ。」
「そうそれ。金色に光るカブトムシなんて聞いたこと無いんだけど。」
俺だって聞いたこと無いさ。
だからこうやって探してもらっているんじゃないか。
俺じゃなくて冒険者にな。
当初は護衛を雇ってファブルさんがダンジョン内を回ることになっていたのだが、それだと魔物に襲われる可能性がある上に非効率すぎる。
それなら彼にはダンジョンの中心部で待機してもらって、戦える冒険者に獲物を持ってきてもらえばいいじゃないかということにしたんだ。
名づけて虫取り大会。
ルールは簡単、最初にゴールデンルカーノを見つけた冒険者にはファブルさんから賞金が支払われる。
賞金はズバリ銀貨30枚。
てっきりこの前のセミみたいな大きさを想像していたのだが、今回は普通のサイズらしい。
だからこそ見つけるのが大変なんだけども、臆することなくダンジョン内を動き回れる賞金に目のくらんだ冒険者ならもしかしたらみつけられるかも知れない。
だが、今の所持ち込まれているのは別の虫ばかりのようだ。
じゃあそれ以外の虫はどうなるのか。
「コレは珍しいですね、瑠璃蝶の中でも深い藍色をしたこれは愛好家が多いんです。」
「ってことは!?」
「銀貨3枚というところでしょうか。」
「やったぁぁぁ!」
「報酬は冒険者ギルドの出張所で受け取ってください。それじゃあ次の人!」
「よっしゃ、先生こいつはどうだ!」
ってな感じで、目的のルカーノでなくても金になりそうな珍しい虫には彼ではなく俺から報酬が支払われる事になっている。
たかが虫と侮るなかれ、話によれば金貨で取引される超珍しい虫なんかがいるらしい。
それが見つかればまさに一攫千金。
もちろんそれも冒険者には伝えてあるので、俄然やる気あふれた冒険者が網を手にダンジョン内をゾンビの如く徘徊しまくっているというわけだ。
とはいえ見つけた虫を何でも買い取っていたら意味がない。
利益が出ないとには話にならないので、彼には相場から銀貨5枚値引きするようにと伝えておいた。
それが出来ない場合は相場の半値、買い取るのは銀貨5枚以上の価値がある虫でとお願いしてある。
彼は珍しい虫を見つけてウキウキ、俺は金になる虫を手に入れてホクホク。
それだけじゃない。
「キラーマンティスが出たぞ!」
「こっちはパラライバタフライの群体だ!燐粉に気をつけろ!」
ってな感じで、虫系の魔物がダンジョンの奥底から現れはじめたようだ。
せっかくの虫取り、別に小さい虫ばかりじゃなくてもいいよな?
「お、いい感じに効果が出てきたみたいだな。」
「本当に効果があるのね。」
「そりゃあ天才調香師アロマの力作だからな、だろ?」
「天才はちょっと言いすぎです。虫除けと逆の効果を出しただけですから。」
急に褒められてニアの横に居たアロマが顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
それは褒められたからか、それともニアのたわわな果実を見たからかは定かではないが。
彼からゴールデンルカーノが臆病で中々出てこないと聞いた俺は、虫取り大会を円滑に進めるべくアロマに依頼をして特別な虫寄せを作ってもらった。
これでわざわざ虫を探しに奥へ行かなくても、向こうから出てきてくれる。
魔物の素材も手に入り、さらには金になる虫も手に入る。
まさに一石二鳥というやつだな。
「うわぁぁぁ!ブラッドスカラベの群れがでたぞぉぉぉ!」
「畜生、手がまわらねぇ!ドラゴンフライまで飛んできやがった!」
「燃やせ燃やせ!」
「バカヤロウ!羽まで燃えちまうだろうが!」
「そうだ!ルカーノが燃えたらどうしてくれる!死ぬ気で戦え!」
と、そのはずだったのだがこれはちょっと想定外、だな。
「これは、あれだな。」
「ちょっと効果ありすぎたみたいね。」
至る所から聞こえてくる虫の羽音や魔法の炸裂音。
アロマに依頼した虫寄せはどうやら昆虫だけでなく昆虫系の『魔物』にもかなりの効果があったようだ。
流石にここまで押し寄せてくることは無いと思うが、流石の冒険者も虫取り網を捨てて自分の得物で魔物と戦い始めている。
ひとまずはコレが収まるまで虫取りは中止だな。
「ニア、援軍は?」
「もうすぐ来るはずよ。それまでは何とか持ちこたえないと。ほら、シロウさんも。」
「そうなるよなぁ。」
「自分が撒いた種なんだからちゃんと責任取ってよね!」
「へいへい、了解しましたよ。」
アロマをファブルさんのほうに避難させつつ、俺も腰にぶら下げたスリングを手にニアの後ろを追いかける。
恐らくは簡易城壁に魔物が迫っているはず。
こういうときに役に立つのが遠距離攻撃武器だよなぁ。
魔法もいいけど誰でも使える遠距離武器は防衛戦にうってつけだ。
もっとも、俺が装備に頼りっぱなしなのですごいのは俺じゃなくて装備だけど、結果が出れば何でもいい。
アロマの作った虫寄せは本当に効果があったようで、その後もひっきりなしに休憩所へ向かって虫系の魔物が押し寄せてきた。
巨大なだんご虫にトンボ、アリやバッタなんかもいた気がする。
そんなすごい状況でも動じることなく戦う冒険者達。
普通は逃げ出しそうなものだが、一体どれだけの修羅場を越えてきたんだろうか。
そんなこんなで虫寄せの効果が切れるまで戦闘は続いたのだが、そのおかげもあってか大量の虫系素材を確保することが出来た。
いつもは結構な確率で焼き払われるのだが、今日は別の目的があるので物理的に頑張ってくれたようだ。
「あ!」
そのときだった。
休憩所に避難していたファブルさんが、ダンジョン中に響くような大きな声を出して目にも留まらぬ速さで近くの壁に張り付いた。
いや、張り付いたんではなく手で押さえた?
「網!網持ってきてください!」
「網?」
「虫取り網です!かごも!あぁ、あそこにも!」
左手で抑えつつ、右手は別の場所に向かって手を伸ばしていた。
俺は足元に転がっていた虫取り網を手にその場に急ぎ、右手の先に向かって網を下ろした。
地面に抑えつけた網の中で何かが動いているのが見える。
それは魔灯の光を受けて金色に輝いていた。
「もしかしてこれが?」
「はい!ゴールデンルカーノです!それもこんなにたくさん!あぁ、向こうに雌がいます!シロウさんはやく!」
「分かったからせかすな!」
「せかしますよ!ペアで見つかるなんてどうしよう、夢みたいです。」
「いいからその手を離すなよ。おい、網もう一個もってこい!」
一匹二匹ならここまでの騒ぎにはならなかっただろう。
だがその場に居たのは10を越える個体。
慌てて近づいたものだからそのうちの何匹かは壁から離れ、ダンジョンの中を飛んでいってしまった。
それを大騒ぎしながら追いかけ走り回る冒険者達。
まさかこんなに出てくるとは思わなかったがこの場合賞金はどうなるだろうか。
ま、全部捕まえてから考えるか!
捕まえた個体をかごに入れ、再び網を振り回して逃げた奴を追いかける。
これぞ虫取り大会の醍醐味・・・ではないか。
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※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
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