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706.転売屋はメガネをかける
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「マリーさんは大丈夫か?」
「おかげさまで悪阻も軽くなり、今はお店に立てるようになりました。」
「それは何よりだ。なんていうか、何もできずに申し訳ない。」
「シロウ様が気に病むことはございません、マリー様の事はどうぞこのアニエスにお任せください。その分私を可愛がってくだされば。」
「・・・来た時と随分キャラが違わないか?」
ここに来てすぐのアニエスさんは、なんていうか凛々しくてキビキビしていて、監査官という立場もあったからかもしれないから真面目な感じだった。
それがここ最近はデレがすごい。
事あるごとに触れて来るし、エリザ曰く発情期という事もあるのかもしれないが夜のお相手も増えた。
そして回数が増えれば増えるほど、さらにデレに拍車がかかる。
最近ではエリザに匹敵するデレを感じるようになってきた。
流石に駄犬とまでは行かないが、忠犬が飼い犬になった感じだ。
別にそれが嫌なわけじゃないけれど、なんていうか不思議なもんだ。
「何のことでしょう。」
「まぁいいけど。とりあえず次の便で来る化粧品の方は任せた、今度カーラがこっちに来るそうだから相手してやってくれ。マリーさんの事を随分と心配していたから。」
「かしこまりました。」
「それと、そのメガネ似合ってるぞ。」
「そう言って下さると思っていました。」
そう言って満面の笑みを浮かべて自分のメガネをクイッと上げる。
普段メガネなんてしないのに、今日メガネをつけているのには何か理由があるんだろう。
メガネっていうかモノクルだな、単眼のタイプ。
恐らく拡大する感じの度が入っているようだ。
目が大きくなっていたし。
この世界に来る前は老眼の気が出ていたので拡大鏡のお世話になっていたものだが、若くなるとそれもいらないのが嬉しいよな。
馬車に乗るときはアーロイのサングラスを着けているが、日常でも欲しくなる。
でもなぁ、調光レンズが入った奴は重たいんだよなぁ。
なんていうかもっと手軽に駆けれるようなのがあればいいんだけど。
「ちなみにそれはどこで買ったんだ?」
「グラスホルダーの骨が手に入りましたので、アーロイ様にお願いをしてレンズを入れてもらいました。」
「確か大きな目をした魔物だよな。」
「その中にも大小ありまして、これは小型のタイプです。」
「ふむ、でも単眼(モノクル)しかないと。」
「両眼の方がよろしいのですか?」
「気分の問題なんだけどな、その方がしっくりくる。」
「それであればグラスカイマンの骨はどうですか?アレを削り出してツルをつければご希望の物に近づくと思いますが。」
グラスカイマンと言えば体は小型ながら大きな目をしたワニの魔物だ。
まるでメガネザルのようにクリクリとした目をしていて、レンズは320度ぐらいの視野を持ち、水中からでも外がくっきりと見えているらしい。
そいつの骨がメガネに使われていると聞いたことはあったが、なるほど削るのか。
「後は何のレンズを入れるかだなぁ。度数はいらないんだが出来れば少し色を入れたい。」
「そのあたりは専門ではないので何とも。」
「気にしないでくれ、その辺はキキにでも聞いてくる。」
「でしたら途中までご一緒しましょう。」
屋敷での打ち合わせを終えアニエスさんと共に店に移動する。
右腕にしっかりと自分の左腕を絡め、強く胸を押し付けてくる。
露骨といえば露骨だが本人にその自覚はない。
うーむ、何が彼女をここまで変えてしまったのか。
店の前で別れ店に入る。
どうやらさっきまで客が来ていたらしくキキがてきぱきと片付けをしていた。
「色つきのレンズですか。」
「それか染色できるレンズなら問題ない。今のサングラス程濃い色はいらないんだ。」
「染色できるかどうかまでは私もわかりませんが、パトロールアイは絶命時の色がレンズに残りますのでそれで調整できるかもしれません。」
「調整できるものなのか?」
「確か警告が赤、注意は黄色、攻撃は青、逃走は緑に変化しますから、そのタイミングで倒すことが出来れば何とか。さほど強い魔物でもありませんし依頼すれば手に入ると思います。」
倒すタイミングで色が変わるのか。
あれだよな、攻撃してくる魔物っていうか警戒して他の魔物を呼ぶ魔物だったはずだ。
巨大な目で辺りを警戒してダンジョン内をフヨフヨ飛び回っているやつ。
「ふむ、個人的には青か緑が欲しい所だ。」
「依頼されますか?」
「そうだな、グラスカイマンの頭も手に入れたいしそのほうが早いか。」
「では後で冒険者ギルドに行くのでその時に依頼を出します。」
「その必要はないわよ。」
キキの発言を即座に否定したのは入り口で仁王立ちするエリザだ。
手には大きな革袋、どうやらダンジョンに潜っていたらしい。
「ということは?」
「さっきうろついていたから倒したんだけど、珍しく反撃してきたから青色になってるわ。」
「タイミングよすぎだろ。」
「ふふん、褒めていいのよ。」
「でかした。」
あまりにも話が出来すぎているがそれはそれ、エリザが袋から取り出したそれは鮮やかな青色をしていた。
水色じゃない、青だなこれは。
「では残りはグラスカイマンの骨ですが・・・。」
「それもあります!」
「今度はメルディか。」
「その素材でしたら北側の倉庫に眠っています、あの目玉の大きい骨ですよね?」
「探す手間が省けたわね、良かったじゃない。」
「後は加工を頼むだけだな。」
ルティエ達に頼めば誰か加工できるだろう。
ってことで早速素材を手にルティエ達の工房を訪ねて回る。
が、ここに来てまさかの失速。
それもそのはず・・・。
『グラスカイマンの骨。巨大な目を持ち水中から獲物を狙う獰猛なワニ型の魔物。見た目の可愛らしさとは裏腹に性格は獰猛で、体は小さくとも自分の何倍もある獲物を水中に引きずり込むこともある。また、その骨は非常に頑丈で鉄程度の武具では骨を貫くことは出来ない。最近の平均取引価格は銀貨3枚。最安値銀貨1枚最高値銀貨5枚最終取引日は三日前と記録されています。』
あまりにも素材が硬く、職人が普段使う道具ではまったく加工できなかった。
大きさ的にも申し分ないんだが、加工できなければ意味がない。
ここにきて素材の優秀さがあだになったか。
「どうします?」
「あまりアーロイの邪魔はしたくなかったんだが、致し方ない。本職に聞くか。」
「それが一番ね。」
「何とかなると思ったんですけど、申し訳ありません。」
「気にするな。悪いなつき合わせて、後は俺とエリザで行って来るから二人は店に戻ってくれ。」
「「はい。」」
いつまでも付き合ってもらうのが申し訳なくなり、エリザと共にアーロイの工房へ向かう。
畑では今日もガキ共が紙飛行機を飛ばしていた。
「シロウだ、アーロイいるか?」
「ちょっと待って欲しいっす!」
「いたわね、私はちょっと休憩してくるから終わったら呼んで。」
「とか言いながらピチュアを食べたいんだろ?」
「さぁ、何のことかしら。」
口ではとぼけているもののお腹は正直なようで、中々に大きな腹の虫もとい子供が鳴いた。
恥ずかしそうにお腹を押さえてエリザが走っていってしまう。
別にダメとは言ってないんだがなぁ。
「すみません、いいところだったんで。」
「悪いな邪魔して。」
「問題ないっす!それで、どうしたんっすか?」
「コレを使って度無しのサングラスを作りたいんだ、何かいい枠もってないか?」
「これは・・・パトロールアイのレンズっすね。この青、中々お目にかかれないんっすよ。」
「そうなのか?」
「普通はすぐに逃げますから。」
ふむ、確かにエリザも珍しく襲ってきたって言ってたし逃げられない理由でもあったんだろうか。
もし簡単に手に入るならとか思っていたんだが少し難しそうだな。
「出来るだけ軽い奴がいい、出来そうか?」
「それなら樹脂を使うといいですね、ちょうど新しい方法を考えてたんでそれ使っていいっすか?」
「むしろ俺のほうがいいのか?」
「大歓迎っすよ。自信作なだけに拡大鏡に使うのはもったいなかったんで、でもこの濃さじゃ眩しくないっすか?」
「炎天下では無理だが、店に入ったときにいちいち外すのが面倒くさくてさ。これならそんなに邪魔にならないだろ?」
「まぁ、そうっすねぇ。」
アーロイ的にはいまいちの感じだが、とりあえず作って貰おう。
レンズは簡単に加工できるようで、いくつかの候補の中から好きな形を選んだらすぐに眼鏡が出来上がった。
「どうっすか?」
「思ったよりもかなり軽いな、これなら耳が痛くなったりしなさそうだ。色も、うんいい感じだ。」
「最初はどうかなって思ったんですけど、はめ込むと案外かっこいいっすね。でも、作業用には物足りなさそうっす。」
「どっちかって言うと趣味扱いだ、実用向きじゃないのは分かってる。」
「とりあえずまだ試作品があるんで、作りたいレンズがあったら言って欲しいっす。」
「了解、いくらだ?」
「持込なんでいいっすよ。」
ここで無理やり代金を渡してもいいのだが、好意は遠慮なく受け取っておこう。
代わりに後でピチュアでも差し入れれば問題ない。
アーロイの言うように工房の外はサングラスをかけていてもやはり眩しかったが、それでもないよりかは随分とマシだ。
世界が青いのはなんだか不思議な感じがする。
次第に気にならなくなるんだろうが、まぁ慣れる。
「わ、すっごい色!」
「似合うか?」
「うん、似合う。でもどんな見え方なの?」
「ほれ。」
倉庫の横に張られたタープでピチュアを頬張っていたエリザが、目をまん丸にして此方を見てくる。
せっかくのサングラスがピチュアだらけの手で汚れるのはアレだったので、俺が代わりにかけてやった。
「うわ、青い!」
「そらそうだろ。」
「綺麗、でもご飯は美味しくなさそうね。」
「あー、そういえばそんなの聞いたことあるかもしれない。」
「他人が使っているのを見る分にはいいけど、私はちょっと要らないかな。」
「別にお前のじゃないから大丈夫だ。」
確か、青色のレンズを通して食事をすると食欲が減衰して食べすぎを防止できるとか何とか。
ふむ、普通に使うよりもそっちの線で作ってみるとかどうだろう。
ダイエットにお勧め、とか言ったら食いつくかもしれない。
とはいえ、俺は普通に使いたいのでしばらくは様子見でいこう。
量産するにもレンズをたくさん集めることが出来なければ意味がない。
「でも、シロウによく似合うわ。」
「そりゃよかった。」
「私も薄いピンクとかあったらかけるのになぁ。」
「そういう魔物いないのか?」
「わかんないけど。」
「じゃあキキ大先生にきいてみるとするか、材料はまだあるみたいだから頼めばつくってくれそうだし。」
エリザもメガネをかければ少しは知的に、いや、むりか。
そんな俺の心が読めたのかエリザが鋭い目付きで俺をにらんでくる。
イメチェンもたまにはいいだろう。
そんなことを考えながら、店へとゆっくり戻るのだった。
「おかげさまで悪阻も軽くなり、今はお店に立てるようになりました。」
「それは何よりだ。なんていうか、何もできずに申し訳ない。」
「シロウ様が気に病むことはございません、マリー様の事はどうぞこのアニエスにお任せください。その分私を可愛がってくだされば。」
「・・・来た時と随分キャラが違わないか?」
ここに来てすぐのアニエスさんは、なんていうか凛々しくてキビキビしていて、監査官という立場もあったからかもしれないから真面目な感じだった。
それがここ最近はデレがすごい。
事あるごとに触れて来るし、エリザ曰く発情期という事もあるのかもしれないが夜のお相手も増えた。
そして回数が増えれば増えるほど、さらにデレに拍車がかかる。
最近ではエリザに匹敵するデレを感じるようになってきた。
流石に駄犬とまでは行かないが、忠犬が飼い犬になった感じだ。
別にそれが嫌なわけじゃないけれど、なんていうか不思議なもんだ。
「何のことでしょう。」
「まぁいいけど。とりあえず次の便で来る化粧品の方は任せた、今度カーラがこっちに来るそうだから相手してやってくれ。マリーさんの事を随分と心配していたから。」
「かしこまりました。」
「それと、そのメガネ似合ってるぞ。」
「そう言って下さると思っていました。」
そう言って満面の笑みを浮かべて自分のメガネをクイッと上げる。
普段メガネなんてしないのに、今日メガネをつけているのには何か理由があるんだろう。
メガネっていうかモノクルだな、単眼のタイプ。
恐らく拡大する感じの度が入っているようだ。
目が大きくなっていたし。
この世界に来る前は老眼の気が出ていたので拡大鏡のお世話になっていたものだが、若くなるとそれもいらないのが嬉しいよな。
馬車に乗るときはアーロイのサングラスを着けているが、日常でも欲しくなる。
でもなぁ、調光レンズが入った奴は重たいんだよなぁ。
なんていうかもっと手軽に駆けれるようなのがあればいいんだけど。
「ちなみにそれはどこで買ったんだ?」
「グラスホルダーの骨が手に入りましたので、アーロイ様にお願いをしてレンズを入れてもらいました。」
「確か大きな目をした魔物だよな。」
「その中にも大小ありまして、これは小型のタイプです。」
「ふむ、でも単眼(モノクル)しかないと。」
「両眼の方がよろしいのですか?」
「気分の問題なんだけどな、その方がしっくりくる。」
「それであればグラスカイマンの骨はどうですか?アレを削り出してツルをつければご希望の物に近づくと思いますが。」
グラスカイマンと言えば体は小型ながら大きな目をしたワニの魔物だ。
まるでメガネザルのようにクリクリとした目をしていて、レンズは320度ぐらいの視野を持ち、水中からでも外がくっきりと見えているらしい。
そいつの骨がメガネに使われていると聞いたことはあったが、なるほど削るのか。
「後は何のレンズを入れるかだなぁ。度数はいらないんだが出来れば少し色を入れたい。」
「そのあたりは専門ではないので何とも。」
「気にしないでくれ、その辺はキキにでも聞いてくる。」
「でしたら途中までご一緒しましょう。」
屋敷での打ち合わせを終えアニエスさんと共に店に移動する。
右腕にしっかりと自分の左腕を絡め、強く胸を押し付けてくる。
露骨といえば露骨だが本人にその自覚はない。
うーむ、何が彼女をここまで変えてしまったのか。
店の前で別れ店に入る。
どうやらさっきまで客が来ていたらしくキキがてきぱきと片付けをしていた。
「色つきのレンズですか。」
「それか染色できるレンズなら問題ない。今のサングラス程濃い色はいらないんだ。」
「染色できるかどうかまでは私もわかりませんが、パトロールアイは絶命時の色がレンズに残りますのでそれで調整できるかもしれません。」
「調整できるものなのか?」
「確か警告が赤、注意は黄色、攻撃は青、逃走は緑に変化しますから、そのタイミングで倒すことが出来れば何とか。さほど強い魔物でもありませんし依頼すれば手に入ると思います。」
倒すタイミングで色が変わるのか。
あれだよな、攻撃してくる魔物っていうか警戒して他の魔物を呼ぶ魔物だったはずだ。
巨大な目で辺りを警戒してダンジョン内をフヨフヨ飛び回っているやつ。
「ふむ、個人的には青か緑が欲しい所だ。」
「依頼されますか?」
「そうだな、グラスカイマンの頭も手に入れたいしそのほうが早いか。」
「では後で冒険者ギルドに行くのでその時に依頼を出します。」
「その必要はないわよ。」
キキの発言を即座に否定したのは入り口で仁王立ちするエリザだ。
手には大きな革袋、どうやらダンジョンに潜っていたらしい。
「ということは?」
「さっきうろついていたから倒したんだけど、珍しく反撃してきたから青色になってるわ。」
「タイミングよすぎだろ。」
「ふふん、褒めていいのよ。」
「でかした。」
あまりにも話が出来すぎているがそれはそれ、エリザが袋から取り出したそれは鮮やかな青色をしていた。
水色じゃない、青だなこれは。
「では残りはグラスカイマンの骨ですが・・・。」
「それもあります!」
「今度はメルディか。」
「その素材でしたら北側の倉庫に眠っています、あの目玉の大きい骨ですよね?」
「探す手間が省けたわね、良かったじゃない。」
「後は加工を頼むだけだな。」
ルティエ達に頼めば誰か加工できるだろう。
ってことで早速素材を手にルティエ達の工房を訪ねて回る。
が、ここに来てまさかの失速。
それもそのはず・・・。
『グラスカイマンの骨。巨大な目を持ち水中から獲物を狙う獰猛なワニ型の魔物。見た目の可愛らしさとは裏腹に性格は獰猛で、体は小さくとも自分の何倍もある獲物を水中に引きずり込むこともある。また、その骨は非常に頑丈で鉄程度の武具では骨を貫くことは出来ない。最近の平均取引価格は銀貨3枚。最安値銀貨1枚最高値銀貨5枚最終取引日は三日前と記録されています。』
あまりにも素材が硬く、職人が普段使う道具ではまったく加工できなかった。
大きさ的にも申し分ないんだが、加工できなければ意味がない。
ここにきて素材の優秀さがあだになったか。
「どうします?」
「あまりアーロイの邪魔はしたくなかったんだが、致し方ない。本職に聞くか。」
「それが一番ね。」
「何とかなると思ったんですけど、申し訳ありません。」
「気にするな。悪いなつき合わせて、後は俺とエリザで行って来るから二人は店に戻ってくれ。」
「「はい。」」
いつまでも付き合ってもらうのが申し訳なくなり、エリザと共にアーロイの工房へ向かう。
畑では今日もガキ共が紙飛行機を飛ばしていた。
「シロウだ、アーロイいるか?」
「ちょっと待って欲しいっす!」
「いたわね、私はちょっと休憩してくるから終わったら呼んで。」
「とか言いながらピチュアを食べたいんだろ?」
「さぁ、何のことかしら。」
口ではとぼけているもののお腹は正直なようで、中々に大きな腹の虫もとい子供が鳴いた。
恥ずかしそうにお腹を押さえてエリザが走っていってしまう。
別にダメとは言ってないんだがなぁ。
「すみません、いいところだったんで。」
「悪いな邪魔して。」
「問題ないっす!それで、どうしたんっすか?」
「コレを使って度無しのサングラスを作りたいんだ、何かいい枠もってないか?」
「これは・・・パトロールアイのレンズっすね。この青、中々お目にかかれないんっすよ。」
「そうなのか?」
「普通はすぐに逃げますから。」
ふむ、確かにエリザも珍しく襲ってきたって言ってたし逃げられない理由でもあったんだろうか。
もし簡単に手に入るならとか思っていたんだが少し難しそうだな。
「出来るだけ軽い奴がいい、出来そうか?」
「それなら樹脂を使うといいですね、ちょうど新しい方法を考えてたんでそれ使っていいっすか?」
「むしろ俺のほうがいいのか?」
「大歓迎っすよ。自信作なだけに拡大鏡に使うのはもったいなかったんで、でもこの濃さじゃ眩しくないっすか?」
「炎天下では無理だが、店に入ったときにいちいち外すのが面倒くさくてさ。これならそんなに邪魔にならないだろ?」
「まぁ、そうっすねぇ。」
アーロイ的にはいまいちの感じだが、とりあえず作って貰おう。
レンズは簡単に加工できるようで、いくつかの候補の中から好きな形を選んだらすぐに眼鏡が出来上がった。
「どうっすか?」
「思ったよりもかなり軽いな、これなら耳が痛くなったりしなさそうだ。色も、うんいい感じだ。」
「最初はどうかなって思ったんですけど、はめ込むと案外かっこいいっすね。でも、作業用には物足りなさそうっす。」
「どっちかって言うと趣味扱いだ、実用向きじゃないのは分かってる。」
「とりあえずまだ試作品があるんで、作りたいレンズがあったら言って欲しいっす。」
「了解、いくらだ?」
「持込なんでいいっすよ。」
ここで無理やり代金を渡してもいいのだが、好意は遠慮なく受け取っておこう。
代わりに後でピチュアでも差し入れれば問題ない。
アーロイの言うように工房の外はサングラスをかけていてもやはり眩しかったが、それでもないよりかは随分とマシだ。
世界が青いのはなんだか不思議な感じがする。
次第に気にならなくなるんだろうが、まぁ慣れる。
「わ、すっごい色!」
「似合うか?」
「うん、似合う。でもどんな見え方なの?」
「ほれ。」
倉庫の横に張られたタープでピチュアを頬張っていたエリザが、目をまん丸にして此方を見てくる。
せっかくのサングラスがピチュアだらけの手で汚れるのはアレだったので、俺が代わりにかけてやった。
「うわ、青い!」
「そらそうだろ。」
「綺麗、でもご飯は美味しくなさそうね。」
「あー、そういえばそんなの聞いたことあるかもしれない。」
「他人が使っているのを見る分にはいいけど、私はちょっと要らないかな。」
「別にお前のじゃないから大丈夫だ。」
確か、青色のレンズを通して食事をすると食欲が減衰して食べすぎを防止できるとか何とか。
ふむ、普通に使うよりもそっちの線で作ってみるとかどうだろう。
ダイエットにお勧め、とか言ったら食いつくかもしれない。
とはいえ、俺は普通に使いたいのでしばらくは様子見でいこう。
量産するにもレンズをたくさん集めることが出来なければ意味がない。
「でも、シロウによく似合うわ。」
「そりゃよかった。」
「私も薄いピンクとかあったらかけるのになぁ。」
「そういう魔物いないのか?」
「わかんないけど。」
「じゃあキキ大先生にきいてみるとするか、材料はまだあるみたいだから頼めばつくってくれそうだし。」
エリザもメガネをかければ少しは知的に、いや、むりか。
そんな俺の心が読めたのかエリザが鋭い目付きで俺をにらんでくる。
イメチェンもたまにはいいだろう。
そんなことを考えながら、店へとゆっくり戻るのだった。
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※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
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