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569.転売屋は盗人を捕まえる
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ある夜の事。
寝息を立てるミラを起こさないようにベッドから抜け出し、静かに食堂へと向かった。
ぶっちゃけかなり激しかったのでのどが渇いたわけですよ。
枕元のベルを鳴らせば夜中でもグレイスが飛んでくるのだが、流石にそんなことはしない。
だってそんな事したら小腹を満たせないじゃないか。
抜き足差し足忍び足ってな感じで音を立てずに階段を降り食堂へ。
水差しの水をコップに移しつつ、戸棚から干し肉を見つけ出した。
夜中に食べるにはちと塩辛いが、まぁいいか。
月明かりが食堂の窓から差込み、明かりを点けていないのに影を作っている。
今日は満月か。
そりゃ明るいわけだ。
そんな事を考えつつ、干し肉を齧っていたそのときだった。
サッと黒い何かの影が窓を横切っていく。
窓の高さから犬や猫のような小動物ではなさそうだ。
となると人しか考えられないわけで。
屋敷のすぐ横も3m程は俺の敷地なので誰かが通るということは不法侵入しているのと同じこと。
こんな夜更けに一体誰だろうか。
動いた先には食堂裏の勝手口があるのだがそこから入ってくる様子はない。
となると、屋敷の裏口かアネットの搬入口が怪しいな。
裏口は鍵をかけてあるはずだしグレイス達の部屋がすぐ近くにある。
扉を開けようものならすぐに気づくだろう。
なら残る選択肢は後一つ。
地下の製薬室へとつながっている搬入口だ。
さすがのアネットもこの時間は寝ているはず。
えーっと、地下室はっと。
食堂を少し行ったところが地下室への階段になっている。
備え付けの魔灯を外して明かりにしつつ地下への階段を下りていった。
本来であれば誰か呼ぶべきなんだろうけど、搬入口にはアネットお手製の罠が仕掛けられているので直接の危険はないはずだ。
恐怖よりも興味の方が勝っている。
あの罠に引っかかったらどうなってしまうのだろうか。
ダンジョンでベッキーが見つけたスマイルマッシュルーム、通称笑い茸の粉末がセンサー代わりの糸が切れると落ちてくるという単純な罠。
単純だからこそ引っかかりやすいとフールが言ってたっけか。
地下室へと降りると案の定、俺以外の何者かが搬入口から降りてくる音がする。
無人なのをいいことに足音を立てるとは、ちょっと間抜けすぎないか?
明かりを消し、身を屈める様にして薬棚に隠れて様子を見る。
何者かが最後の階段を下りようとした、そのとき。
「あっ!」
可愛らしい声が地下室に響いた。
それと同時に何かが落ちる音がする。
罠が発動し粉末が落下。
ゴホゴホとむせる声が聞こえたと思ったら、しばらくしてそれは笑い声に変わっていった。
「あはは、なんで、笑っちゃうの、あはは、お腹いたいよぉ、あははは。」
何度か咽ながら女性が笑い続けている。
もちろん笑い茸しか罠がないわけじゃない。
最初の罠と連動するように別の罠が発動し、作動者の足をストロンググラスの蔦が絡みつく。
一度発動すれば至る所から蔦が発射され、あっという間に拘束されるという中々に凶悪な罠。
笑い声は絶え間なく地下室に響き渡り、そして聞こえなくなった。
「ご主人様!」
「アネットか、よくわかったな。」
「罠が作動すると部屋に知らせが来るようにしてあったんです。」
「いつの間に。」
「捕まえましたか?」
「そのようだ、さっきまで随分と可愛らしい笑い声が聞こえていたしな。」
「ということは女性ですか。一体何をしに来たんでしょう。」
それは俺にもわからないのでご本人に聞くしかないだろう。
間抜けにも罠に引っかかるような相手だし、盗みか何かじゃないかなぁ。
「それは本人に聞けばいいさ。他の皆には知らせたのか?」
「同じ連絡が使用人の部屋にも行っているはずです、もうすぐこられるんじゃないでしょうか。」
「おい、誰かが侵入したって?」
「ハワードが一番のりか。グレイスは?」
「あの人は奥様方の様子を見に行ってる。他に進入された形跡はなかったからここだけだろう。」
「さすが、仕事が早い。」
「そのために雇われてるしな。そんじゃま盗人の間抜け面を拝むとしますか。」
「相手は女みたいだが気を抜くなよ。」
女か~といやそうな声を漏らしながら、ハワードとアネットが搬入口へと移動する。
何があるかわからないのでこういう時は静かに待つしかない。
「大丈夫、気を失ってます。」
「了解っと。」
どうやらその心配もなさそうだ。
地下室の明かりをつけてから俺は二人の所へと急いだ。
緑色の蔓でぐるぐる巻きにされていた女は、なんとも幸せそうな顔で気を失っていた。
笑いすぎで気を失うとこうなるのか、恐ろしいことだ。
「随分若いですね。」
「こんな簡単な罠に引っかかるなんて、奥にもっと凄いのがあったのに残念です。」
「マジか、まだあるのか?」
「高価な品もありますし、なによりココより上に行かせるわけには。」
「まぁそれもそうか。」
「で、こいつどうしますか?尋問して聞き出しますか?」
見た目は10代後半。
ネコ科のような耳をしている所から亜人のようだ。
素早い身のこなしが売りなのかもしれないが、こうなってしまうと意味ないな。
「何が目的だと思う?」
「そりゃお館様の金でしょう。命を狙うんなら直接部屋に行きますって。」
「それもそうか。」
「最近色々な事に手を出していますから、それを見て犯行に及んだのではないでしょうか。」
「仮にそうだとして、どこに金があるかもわからず忍び込むか?」
「俺なら最低限どこに部屋があるかぐらいは下調べしますね。」
そうだよなぁ。
いきなり忍び込むとかバカのすること。
もしかするとこれがその下調べなのかもしれないが、いかにもという搬入口に罠が仕掛けられてるぐらいは考えるだろう。
いや、考えられないからこうやって倒れているのか。
「金のありかを調べていたら真っ先にその部屋に向かうはず。そりゃ、入りやすい地下から入るってのももっともだが、罠が仕掛けられていることぐらいは素人でもわかるはずだ。そんな危険を冒すぐらいならって普通は思わないか?」
「思わないからこうなっているのでは?」
「いやまぁ、そうなんだが・・・。」
「ご主人様は何かあると考えておられるのですか?」
「何かあるっていうか、こいつは捨て駒で本体は別にいるのかもと思ったんだ。ここで捕まれば普通次はないと思うだろうし、仮に捕まらなかったら警備がザルだということが分かる。隠し場所が分かれば万々歳、ってなわけだ。」
「いやー、いくらなんでもそんなバカみたいなことしますかね。」
分らんから困ってるんだ。
だがもしそうだとしたら?
とりあえず起こして話を聞いてみてからだな。
「アネットとりあえずこいつを起こしてくれ。話を聞いてから考える。」
「分かりました。」
「それじゃ、そこの椅子に縛りますね。」
ハワードが軽々持ち上げ近くの椅子に座らせたのち、残った蔓でぐるぐる巻きにする。
アネットは薬棚から薬を取り出し、女の横に座った。
「いつでも。」
「じゃ、起こしてくれ。」
アネットが棒状の何かを女の鼻の近くにもっていく。
ヒクヒクと無意識に鼻が動いたかと持った次の瞬間、女の目が大きく見開かれた。
「わ!わ!わ!」
「落ち着け、お前はもう捕まってる。逃げられないし騒いでも何の得もない。だが実のある話を聞かせてくれるなら警備に突き出さない事もない。」
「お館様?」
「分かったな、分かったんなら返事しろ。」
「は、はひ。」
「よし。」
パニックになって暴れられるのは避けられたようだ。
状況を把握し、瞳一杯に涙を浮かべながらその女は俺達の顔を順番に見ていく。
忍び込んだうえで捕まったらどうなるかなんて覚悟の上だと思うんだが、どうも変な感じだ。
「名前は。」
「トトリャーナ、です。」
「所属は?」
「所属って、なんですか?」
「白を切ると良い事はないぞ?」
「本当にわからないんです!」
「じゃあ何でこんな所に忍び込んだんだ?」
「それは、街を歩いていたらいい仕事があるぞって言われて。ご飯を食べさせてもらったし断れなくなって、それで。」
まじかよ、そんな軽い気持ちで人の家に忍び込むのか?
え、盗みってそんなに簡単にしていいんだっけ。
確かに元の世界に比べると道徳観や倫理観が違う部分も多いが、それでもやっちゃいけないことの線引きはあるだろう。
頼まれたから人を殺しましたみたいな言い方をされるとは思わなかった。
「誰に言われたんだ?」
「名前は知らないんですけど、私と同じ猫の亜人です。大きな屋敷に金がたんまりあるかさぐってこいって。盗むのはこっちがやるからお前は見て来るだけでいい、猫族なら忍び込むのは簡単だろって。それで・・・。」
「忍び込んだと。」
「悪い事ってわかってるんですけど、ここはもっと悪い人の家だからって。」
「たったそれだけで忍び込んだのか?無謀すぎるだろ。」
「ハワード。」
「すいやせん。」
俺が言いたいことを言ってくれたのは感謝する。
まさにその通りだ。
たったそれだけで屋敷に忍び込むとか無謀すぎる。
アネットの罠があの程度だったからよかったものの、致死性の高いやつだったらどうするつもりだったんだろうか。
覚悟もなしに忍び込んで死にましたなんて、いくらなんでも自分の命が軽すぎる。
え、マジで言ってんの?
「死んだらどうするつもりだったんだ?」
「そ、それは・・・。」
「そんな事も考えなかったのか?」
「考えはしたけど、どうせこのまま生きてても・・・。」
「借金でもあるのか?」
返事はしなかったが、無言で首を横に振った。
うぅむ、そんな返答されると困るじゃないか。
忍び込んできた以上盗人であることに変わりはない。
だが、それだから突き出して終わりってのもちょっと違う気がする。
お人好しとエリザに言われるんだろうなぁ、絶対に。
とりあえず仕入れた情報をもとに色々と考えてみよう。
ハワードとアネットが難しい顔をして俺を見てくる。
いや、その顔をしたいのは俺だっての。
それぞれが無言のまま、俯き涙を流す彼女を見守ることしかできなかった。
寝息を立てるミラを起こさないようにベッドから抜け出し、静かに食堂へと向かった。
ぶっちゃけかなり激しかったのでのどが渇いたわけですよ。
枕元のベルを鳴らせば夜中でもグレイスが飛んでくるのだが、流石にそんなことはしない。
だってそんな事したら小腹を満たせないじゃないか。
抜き足差し足忍び足ってな感じで音を立てずに階段を降り食堂へ。
水差しの水をコップに移しつつ、戸棚から干し肉を見つけ出した。
夜中に食べるにはちと塩辛いが、まぁいいか。
月明かりが食堂の窓から差込み、明かりを点けていないのに影を作っている。
今日は満月か。
そりゃ明るいわけだ。
そんな事を考えつつ、干し肉を齧っていたそのときだった。
サッと黒い何かの影が窓を横切っていく。
窓の高さから犬や猫のような小動物ではなさそうだ。
となると人しか考えられないわけで。
屋敷のすぐ横も3m程は俺の敷地なので誰かが通るということは不法侵入しているのと同じこと。
こんな夜更けに一体誰だろうか。
動いた先には食堂裏の勝手口があるのだがそこから入ってくる様子はない。
となると、屋敷の裏口かアネットの搬入口が怪しいな。
裏口は鍵をかけてあるはずだしグレイス達の部屋がすぐ近くにある。
扉を開けようものならすぐに気づくだろう。
なら残る選択肢は後一つ。
地下の製薬室へとつながっている搬入口だ。
さすがのアネットもこの時間は寝ているはず。
えーっと、地下室はっと。
食堂を少し行ったところが地下室への階段になっている。
備え付けの魔灯を外して明かりにしつつ地下への階段を下りていった。
本来であれば誰か呼ぶべきなんだろうけど、搬入口にはアネットお手製の罠が仕掛けられているので直接の危険はないはずだ。
恐怖よりも興味の方が勝っている。
あの罠に引っかかったらどうなってしまうのだろうか。
ダンジョンでベッキーが見つけたスマイルマッシュルーム、通称笑い茸の粉末がセンサー代わりの糸が切れると落ちてくるという単純な罠。
単純だからこそ引っかかりやすいとフールが言ってたっけか。
地下室へと降りると案の定、俺以外の何者かが搬入口から降りてくる音がする。
無人なのをいいことに足音を立てるとは、ちょっと間抜けすぎないか?
明かりを消し、身を屈める様にして薬棚に隠れて様子を見る。
何者かが最後の階段を下りようとした、そのとき。
「あっ!」
可愛らしい声が地下室に響いた。
それと同時に何かが落ちる音がする。
罠が発動し粉末が落下。
ゴホゴホとむせる声が聞こえたと思ったら、しばらくしてそれは笑い声に変わっていった。
「あはは、なんで、笑っちゃうの、あはは、お腹いたいよぉ、あははは。」
何度か咽ながら女性が笑い続けている。
もちろん笑い茸しか罠がないわけじゃない。
最初の罠と連動するように別の罠が発動し、作動者の足をストロンググラスの蔦が絡みつく。
一度発動すれば至る所から蔦が発射され、あっという間に拘束されるという中々に凶悪な罠。
笑い声は絶え間なく地下室に響き渡り、そして聞こえなくなった。
「ご主人様!」
「アネットか、よくわかったな。」
「罠が作動すると部屋に知らせが来るようにしてあったんです。」
「いつの間に。」
「捕まえましたか?」
「そのようだ、さっきまで随分と可愛らしい笑い声が聞こえていたしな。」
「ということは女性ですか。一体何をしに来たんでしょう。」
それは俺にもわからないのでご本人に聞くしかないだろう。
間抜けにも罠に引っかかるような相手だし、盗みか何かじゃないかなぁ。
「それは本人に聞けばいいさ。他の皆には知らせたのか?」
「同じ連絡が使用人の部屋にも行っているはずです、もうすぐこられるんじゃないでしょうか。」
「おい、誰かが侵入したって?」
「ハワードが一番のりか。グレイスは?」
「あの人は奥様方の様子を見に行ってる。他に進入された形跡はなかったからここだけだろう。」
「さすが、仕事が早い。」
「そのために雇われてるしな。そんじゃま盗人の間抜け面を拝むとしますか。」
「相手は女みたいだが気を抜くなよ。」
女か~といやそうな声を漏らしながら、ハワードとアネットが搬入口へと移動する。
何があるかわからないのでこういう時は静かに待つしかない。
「大丈夫、気を失ってます。」
「了解っと。」
どうやらその心配もなさそうだ。
地下室の明かりをつけてから俺は二人の所へと急いだ。
緑色の蔓でぐるぐる巻きにされていた女は、なんとも幸せそうな顔で気を失っていた。
笑いすぎで気を失うとこうなるのか、恐ろしいことだ。
「随分若いですね。」
「こんな簡単な罠に引っかかるなんて、奥にもっと凄いのがあったのに残念です。」
「マジか、まだあるのか?」
「高価な品もありますし、なによりココより上に行かせるわけには。」
「まぁそれもそうか。」
「で、こいつどうしますか?尋問して聞き出しますか?」
見た目は10代後半。
ネコ科のような耳をしている所から亜人のようだ。
素早い身のこなしが売りなのかもしれないが、こうなってしまうと意味ないな。
「何が目的だと思う?」
「そりゃお館様の金でしょう。命を狙うんなら直接部屋に行きますって。」
「それもそうか。」
「最近色々な事に手を出していますから、それを見て犯行に及んだのではないでしょうか。」
「仮にそうだとして、どこに金があるかもわからず忍び込むか?」
「俺なら最低限どこに部屋があるかぐらいは下調べしますね。」
そうだよなぁ。
いきなり忍び込むとかバカのすること。
もしかするとこれがその下調べなのかもしれないが、いかにもという搬入口に罠が仕掛けられてるぐらいは考えるだろう。
いや、考えられないからこうやって倒れているのか。
「金のありかを調べていたら真っ先にその部屋に向かうはず。そりゃ、入りやすい地下から入るってのももっともだが、罠が仕掛けられていることぐらいは素人でもわかるはずだ。そんな危険を冒すぐらいならって普通は思わないか?」
「思わないからこうなっているのでは?」
「いやまぁ、そうなんだが・・・。」
「ご主人様は何かあると考えておられるのですか?」
「何かあるっていうか、こいつは捨て駒で本体は別にいるのかもと思ったんだ。ここで捕まれば普通次はないと思うだろうし、仮に捕まらなかったら警備がザルだということが分かる。隠し場所が分かれば万々歳、ってなわけだ。」
「いやー、いくらなんでもそんなバカみたいなことしますかね。」
分らんから困ってるんだ。
だがもしそうだとしたら?
とりあえず起こして話を聞いてみてからだな。
「アネットとりあえずこいつを起こしてくれ。話を聞いてから考える。」
「分かりました。」
「それじゃ、そこの椅子に縛りますね。」
ハワードが軽々持ち上げ近くの椅子に座らせたのち、残った蔓でぐるぐる巻きにする。
アネットは薬棚から薬を取り出し、女の横に座った。
「いつでも。」
「じゃ、起こしてくれ。」
アネットが棒状の何かを女の鼻の近くにもっていく。
ヒクヒクと無意識に鼻が動いたかと持った次の瞬間、女の目が大きく見開かれた。
「わ!わ!わ!」
「落ち着け、お前はもう捕まってる。逃げられないし騒いでも何の得もない。だが実のある話を聞かせてくれるなら警備に突き出さない事もない。」
「お館様?」
「分かったな、分かったんなら返事しろ。」
「は、はひ。」
「よし。」
パニックになって暴れられるのは避けられたようだ。
状況を把握し、瞳一杯に涙を浮かべながらその女は俺達の顔を順番に見ていく。
忍び込んだうえで捕まったらどうなるかなんて覚悟の上だと思うんだが、どうも変な感じだ。
「名前は。」
「トトリャーナ、です。」
「所属は?」
「所属って、なんですか?」
「白を切ると良い事はないぞ?」
「本当にわからないんです!」
「じゃあ何でこんな所に忍び込んだんだ?」
「それは、街を歩いていたらいい仕事があるぞって言われて。ご飯を食べさせてもらったし断れなくなって、それで。」
まじかよ、そんな軽い気持ちで人の家に忍び込むのか?
え、盗みってそんなに簡単にしていいんだっけ。
確かに元の世界に比べると道徳観や倫理観が違う部分も多いが、それでもやっちゃいけないことの線引きはあるだろう。
頼まれたから人を殺しましたみたいな言い方をされるとは思わなかった。
「誰に言われたんだ?」
「名前は知らないんですけど、私と同じ猫の亜人です。大きな屋敷に金がたんまりあるかさぐってこいって。盗むのはこっちがやるからお前は見て来るだけでいい、猫族なら忍び込むのは簡単だろって。それで・・・。」
「忍び込んだと。」
「悪い事ってわかってるんですけど、ここはもっと悪い人の家だからって。」
「たったそれだけで忍び込んだのか?無謀すぎるだろ。」
「ハワード。」
「すいやせん。」
俺が言いたいことを言ってくれたのは感謝する。
まさにその通りだ。
たったそれだけで屋敷に忍び込むとか無謀すぎる。
アネットの罠があの程度だったからよかったものの、致死性の高いやつだったらどうするつもりだったんだろうか。
覚悟もなしに忍び込んで死にましたなんて、いくらなんでも自分の命が軽すぎる。
え、マジで言ってんの?
「死んだらどうするつもりだったんだ?」
「そ、それは・・・。」
「そんな事も考えなかったのか?」
「考えはしたけど、どうせこのまま生きてても・・・。」
「借金でもあるのか?」
返事はしなかったが、無言で首を横に振った。
うぅむ、そんな返答されると困るじゃないか。
忍び込んできた以上盗人であることに変わりはない。
だが、それだから突き出して終わりってのもちょっと違う気がする。
お人好しとエリザに言われるんだろうなぁ、絶対に。
とりあえず仕入れた情報をもとに色々と考えてみよう。
ハワードとアネットが難しい顔をして俺を見てくる。
いや、その顔をしたいのは俺だっての。
それぞれが無言のまま、俯き涙を流す彼女を見守ることしかできなかった。
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