転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

文字の大きさ
上 下
254 / 1,366

253.転売屋は春服を作る

しおりを挟む
春が来た。

といってもまだ風は冷たく、気温もそこまで上がってこない。

でも春は春だ。

その証拠に、太陽はいつも以上に暖かな光を注いでくれる。

マフラーが要らなくなったようにコートもすぐに要らなくなるだろう。

ここに来て二度目の春。

最初に買った服もそろそろ傷んできたし、気分を新しくするためにも新調してもいいかもしれない。

そんな時にお世話になるのが、お隣の服屋だ。

ローザさんとローザさんが大好きな旦那さん、二人で切り盛りしている。

腕は確かで、毎日ひっきりなしに客が来ては新しい服を仕立ててもらったり受け取ったりしており忙しそうだ。

うちもそれなりに客は来ているけど、客層が全然違うもんなぁ。

うちは冒険者で向こうは住民や貴族が相手だ。

「で、春服を作ろうと思うんだが・・・。」

「いいのではないでしょうか。暖かくなる前ですし、今ならまだ空いているかと。」

「折角だから三人も一緒に作るか?」

「え、いいの!?」

「折角だしな。ついでに余所行きの服も新調するといい、なんとなく嫌な予感がする。」

「新しい服を作るのにですか?」

三人が不思議そうに首をかしげる。

こういう時の勘は当たるんだよ。

ここ数ヶ月で普段関わらないような相手と知り合ってしまったからなぁ・・・。

出来ればもう会いたくないが、そう言うわけにはいかないだろう。

というか俺が拒んでも向こうが来るに違いない。

まったく、面倒事は嫌いだというのに。

「では早速何時が空いているか聞いてきます。」

「あぁ、よろしく頼む。」

ミラが小走りで店を出て・・・すぐに戻って来た。

いや、早いな。

「休みだったか?」

「いえ今なら空いているそうです、いかがなさいますか?」

「なら行くか。」

「え、私どんなやつにするか決めてない!」

「ローザさんに聞きながら決めたほうが良いぞ、自分で考えたやつは大抵失敗する。」

前にこんな服が良いとお願いして作ってもらったが、散々な評価だった。

『元の世界での常識はこの世界での非常識でもある』

これを理解するにはピッタリの事件だった。

正直あまり思い出したくない。

それ以降は全てローザさんのお任せだ。

開店前なので急ぎ隣へ移動する。

「ローザさん、おはようございます。」

「はい、おはよう。」

「全員分の春服を頼みたいんだが、そうだな上下二着ずつそれとよそ行きの服も一着ずつ頼む。」

「まぁまぁ大盤振る舞いだねぇ。」

「折角だしな。」

「じゃあ存分に腕を振るわないと、さぁどんなのにするか決めておくれよ。」

「俺はいつもの通りお任せで。」

「相変わらずだねぇ。」

「ローザさんに任せれば外れはないからな。」

っていうか、いちいち服を考えるのがめんどくさい。

餅は餅屋、プロに任せておけばそれなりに良い感じに仕上げてくれるだろう。

もちろん、絶対に着ないような服も時々用意されるがそれはそれだ。

何時かは着るだろう。

そんな服がうちのタンスにも増えてきた気がする。

「ではシロウ様行ってまいります。」

「あの、本当にいいんでしょうか。」

「いいのいいの、シロウのおごりなんだからさ。」

「ミラとアネットはともかく何で俺がお前の服を買うんだ?」

「可愛いのとかっこいいのどっちが好き?」

「・・・似合う奴。」

「ふふ、わかった。じゃあまた後でね。」

女達の服選びには時間がかかる。

ってことで俺は店に戻って大人しく店番だ。

開店の札を出し、棚の掃除をしていると早速客がやってきた。

「おはようございますシロウ様。」

と思ったらハーシェさんだった。

「どうした、朝から来るなんて珍しいな。」

「近くに来たので顔が見たくなって・・・。」

「ったく、三日前にあったばかりだろ?」

「もう三日もお顔を見ていません、明日からまた買い付けですし元気を分けてくださいませんか?」

そう言いながらズンズン俺に近づいて来て、小鳥のように唇を突き出す。

一度抱いてからというもの、ハーシェさんのアピールが一段と強くなった。

ミラ曰く今まで我慢していたのが爆発しているのだとか。

その様子にエリザが怒りだすかと思ったがそう言うわけでもないらしい。

むしろ前以上に女達と話している姿を見かけるようになった。

仲が良いのは良い事だ。

突き出された唇に軽く唇を重ねると同時に、強く抱きしめ尻を揉む。

この、何とも言えないボリューム。

たまらんなぁ。

「それ以上されると、もっと欲しくなってしまいます。」

「じゃあこれで終わりだな。」

「・・・シロウ様のいけず。」

「元気を補充してしっかり買い付けして来い、戻ってきたらまた抱いてやる。」

「はい!」

「で、なんでこっちに来たんだ?買い付け準備なら取引所やギルドだろ?」

「服を買いに来たんです。今頼んでおけば、戻ってきた頃に受け取れますから。」

「なるほど。」

季節の変わり目は購買意欲を掻き立てるというわけか。

残念ながら冒険者装備に春物はないんだが、それに近い物を何か探してみると良いかもしれない。

春と言えば、新緑の季節になればグリーンスライムの核がまた手に入る。

そろそろ準備しないと。

「では、名残惜しいですが。」

「今エリザ達が服を仕立ててもらっている、一緒に行って頼んで来い。」

「ですが・・・。」

「良い服も仕事の道具だ、経費で買ってやるよ。」

「ありがとうございます!」

ほんと、女って服が好きだなぁ。

俺にはわからん。

もう一度強く唇を重ね、ハーシェさんはスキップしながら店を出て行った。

プレートのおかげで仕事はやりやすくなったし、実入りも良くなった。

今が一番充実しているんだろうなぁ。

ってなことを考えていると、また誰かがやってきた。

今日は朝から客が多い。

「おはようございますシロウさん。」

「げ、来て欲しくないやつが来た。」

やってきたのは羊男。

このタイミングで来るという事は、何かやらせたいんだろう。

「それ、お客さんに向かって言います?」

「お前は客じゃないだろ。」

「でもお仕事は持ってきますよ?」

「俺の仕事は買取屋だよ、仕事をさせたいならまずは品を持ってくるんだな。」

「次からはそうします、で、お願いしたいことがあるんです。」

空気を読まないというか強引というか・・・。

それもまぁいつもの事か。

カウンターまで誘導するが茶は出さない。

こいつは客じゃないからな。

「で?」

「実はですねこういう物を仕入れてほしいんです。」

羊男が取り出したのは白い蔓。

一見すると糸にも見えるが2~3mm程の太さがあり産毛のようなものも見える。

『トレントの白髪。エルダートレントの蔓に極稀に混ざる白い蔓。繊維は細いが強靭であるため加工品だけでなく武具などにも使用される。また、ほぐした繊維を聖水に浸して聖織物として使われる事もある一級品。最近の平均取引価格は銀貨30枚、最安値銀貨25枚、最高値銀貨40枚。最終取引日は22日前と記録されています。』

「トレントの白髪?」

「えぇ、様々な加工品にも使える素材なのですが、なかなか数が集まらなくてですね。」

「何に使うんだ?」

「それは企業秘密です。」

「・・・断る。」

「冗談ですって。」

「もったいぶってないで早く言え。」

「この前の一件で中央にパイプが出来ましてね、国王陛下の生誕祭に贈り物をすることにしたんですよ。エルダートレントは主にダンジョンの中でしかみつかりませんからね、私達の街らしい贈り物になるでしょう。」

つまりごまをすりたいというわけか。

ギルド協会の、いや貴族の考えそうなことだな。

「話は分かるが嫁を通じて集めたほうが早くないか?」

「もちろんそうしますけど、シロウさんを通じた方がより早く集まるんですよねぇ。」

「それってどうなんだ?」

「街としては集まればどこでもいいですし、シロウさんの店だと税金も回収出来るので一石二鳥です。もちろん問題もありますが、ギルドだと機敏に動けないんですよね。」

つまり買取価格などを自由に動かせないので、その辺を自由に出来る俺に動いてほしいと。

「俺の儲けが少なくないか?」

「そんなことありませんよ!それに、送る時はちゃんとシロウさんの名前も出しますから。」

「ちがうな、俺の名前を出した方が受け取ってもらいやすいからだ。」

「・・・なんでそういうのにすぐ気付きますかね。」

「考えが浅はかなんだよ。なにが公平のギルド協会だ、まったく。」

「ちゃんと利益はお渡しします、それに本当にシロウさんの店の方が集まるのが早いんですって。お願いします!」

はぁ、また面倒な事を頼まれてしまった。

街に住んでいる以上ギルド協会のお願いを断るのは得策ではない。

俺は買い取ればいいだけだし、それで金が入るのならばやるしかないだろう。

「その代わり条件がある。」

「なんですか?」

「あの感じだと国王陛下はまたこっちに来る可能性もあるよな?」

「・・・ぶっちゃけ十分あり得ますね。」

「その時用の礼服を作ろうと思うんだが、そっち持ちでいいよな?」

「服でしたらローザさんの店ですね、まぁそれぐらいならいいでしょう。」

よし、言質取ったぞ!

何人分とは言っていないから全員分の代金を請求してやる。

その浅はかな考えを後悔するがいいさ。

「わかった、なら喜んでやらせてもらおう。納期はいつまでだ?」

「16月の頭までで。」

「できるだけギルドでも冒険者に声をかけるよう言っておいてくれ。」

「了解です。では、失礼しますね。」

あーよかったと胸をなでおろしながら羊男は去って行った。

さて、服代も浮いたし、ついでにもう一着ぐらい作ってもらおうかな。

そんなことを考えながら女達の様子を見に、ローザさんの店を覗くのだった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...