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「ショウが来るまで撮影はどうしようか?」

 二作目の映画を、ぼくたちは撮り始めている。
 だけど夏休みと違って平日はみんな学校や部活、塾に友達と遊ぶなどいろいろ忙しい。
 友達の他にいないぼくと違って、松川君とはそんなにスケジュールが合うわけじゃ無い。
 自然ほとんど毎日顔をだしているライトと、ぼくが二人きりで過ごすことが多くなっていた。

「またライトのパートだけ進めていってもいいけど」

 最初から彼女が主役なのだ。
 最初から彼女だけのパートを多く想定して書いている。

「それもいいね。でもあまり二人で進めすぎるとショウが怒らないかな」
「じゃあ家でまだ脚本を読む?」
「おー女の子にうちに来いだなんて、トヨジもいう様になったね」
「知らない仲でもないし」

 最近彼女と話すと自然に言葉が出てくる。
 詰まることも無く、何をしゃべればいいのかわからなくて頭が真っ白になることもない。
 こんな軽口が、自分の口から出てくるなんて想像もしたこと無かった。
 ライトは眼を大きく開くと、ころころと笑い出す。

「そりゃそうだよね。君の家にはわたしが書かれたノートが一杯だ」

 よほどつぼにはまったらしく、おなかを抱えて「ちょっと待って」と横を向いて笑い続けた。
 彼女は本当に笑うときも、怒るときも感情がストレートに表情に出て飽きない。
 見ていて楽しいけど、同時になんだか胸が苦しくなる。
 心臓の奥の方から鼓動がはやまり、とにかく切なくて痛かった。
 人を羨む、嫉妬の感情とはまた別のものだった。

「どうしたの、トヨジ」

 ぼくがじっと見ているのに気付いて、ライトは涙を少し浮かべたまま顔を向ける。
 ふわふわした髪の毛が頬にさらりと流れた。
 この苦しさも、彼女がこっちを見てふとはにかむそれだけで胸のつっかえが和らいで、なんだか安らぐような、暖かい気持ちになった。
 その感情のことをなんというのか、ぼくにもわかっている。

「もしかして熱でもあるの? また傷が痛み出したとか」

  よほど様子がおかしかったのか、笑うのを止めると心配そうにのぞき込んでくる。
 顔が近い。
 彼女の瞳にぼくの顔が映っている。
 彼女に触れられないはずなのに、なぜか息がかかっているような錯覚を覚えた。
 これもぼくの妄想だとでもいうのか。
 話していても平気なはずなのに、なんだか頭がくらくらして目が回りそうだった。

「おーい、ライト、トヨジ!」

 松川君の声だ。
 自分でも不自然なほど首を大きく向けると、こちらに手を上げていた。
 あっという間に、ぼくらの側に駆け寄ってくる。

「よう、まだ撮影には間に合ったか」
「今日はサッカーの練習だったんじゃあなかったの」
「明日が試合だから軽めのアップとミーティングで終わった。それからすぐに来たんだ」
「明日試合なのに、こっちに来て大丈夫なの」
「サッカーはサッカー。これはこれだ」
「えらいぞショウ」

 ライトが胸を小突くような仕草を取ると、松川君は「だろう」と笑う。
 三人がそろったのだからもうやることは決まっている。
 二人とも自分の台詞の台本はしっかり読み込んでいるし、それぞれのパートの練習をしているはずだった。

「じゃあ始めようか」

 撮影現場に移動してから声をかけると、二人は元気に返してくれた。
 デジタルカメラのレンズを通して別の世界へと誘われるのを感じた。
 こんな時間がいつまでも続けばいいのに。
 レンズ越しに二人を眺めながら、ぼくは心のそこから思ったんだ。
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