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 教室に入ると、空気が変わったことを実感する。
 ひそひそ話が所々で行われ、ちらちらとわたしを見ては薄笑いを浮かべていた。
 視線を向けるとにやにや笑いが大きくなり、ときどき肘や手で小突いては合図し合っては、嘲笑の浮いた目をこちらに向けてくる。
 ついに来たかと思った。
 学校で『仲間』を続けるためには、いくつかの約束事がある。
 グループメールを読んだらすぐに返すというのは、必須と言って良かった。
 向こうの世界では電波が届かないので、その間は当然グループメールには不参加だ。
 すぐに返事できなければ『ごめん、お風呂に入っていた』等といいわけと、謝罪をしながら遅れて参加するのがルールだ。
 夏休みであれば多少は仕方が無いと見逃されるのだが、学校が始まるとそういう訳にはいかない。
 それにわたしは夏休み明け前から、みんなと距離を置いている自覚があった。
 どこかに遊びに行ったり、例えばバスケ部の練習が終わるのを教室でただしゃべって待つというのを断っていた。
 そんなことをするよりも、向こうで映画を撮ったり、牽制などなにもない彼らと話す方がはるかに楽しい。
 だからこうなることを予感はしていた。
 主犯はリノか。
 いや彼女は小心者なので人に追随することは嬉々として行っても、自分からは行動しないだろう。
 主犯の心当たりに視線を向けると目が合った。
 嫌らしい笑みを顔に貼り付けると、何をいうでもなくただにやにやとする。
 完全に無視することに決めて、自分の席へと向かう。

「おはよう」
「よう、おはよう」

 隣でよくしゃべる男子に挨拶すると、普通にかえって来た。
 男子はこの辺り女子に比べて非常に鈍感だ。
 教室の空気が微妙に変わったことに、気づいていないのだろう。

「おまえ、昨日のアレ見た?」
「最後の方だけね。でもそれで良かったのかも」

 互いにどんなことを話したか、「あれ」だけで伝わる程度にはよく話す相手だ。
 アレが何を刺すのか瞬時に察することができる。

「そりゃ正解だ。俺もチャンネルいろいろ変えてたもん。最後の方は結構面白かったんだけどさ」

 そんな風にテレビのことを話していたら、入り口の方に突然視線を変えた。
 いつも一緒の友達が登校してきたらしい。
 「じゃあな」というと、すぐに手を挙げてそっちへと移動していく。
 いつもならわたしも、ここから仲のいいクラスメイト達と過ごす。
 昨日の宿題のことやストミングした音楽。
 スマホのアプリから手に入る、芸能情報などの他愛ない会話。
 そんな日常からわたしがはじき出されているのは、彼女らの嘲笑を見なくても充分承知している。
 さて、これからは長い休み時間をどうやってすごそうか。
 聞こえよがしの笑い声を背中に感じながら、カバンの中から教科書をわざと時間をかけてゆっくりと取り出した。
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