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夏休みが終わった。
ほとんどのクラスメイトとは会うのが終業式以来だけど、その全てがぼくの存在など気にもせず、いつものように日常が始まっていく。
「おはよう」
「久しぶりねえ、やけた?」
そのような会話が教室中でされていた。
平凡な公立の中学校なので、始業式の日はすぐに学校が終わる。
教室では「せっかく集まったのだから、これから遊びに行こう」といった会話が至る所でされていた。
ぼくはそんな会話を聞きながしながら、さっさと帰り支度をして廊下に出ようとしていた。
「トヨジ、お前もいかないか。みんなでカラオケに行くんだ」
そんなぼくに松川君が背中から声をかけてくる。
振り返るとそばのクラスメイトたちが、不思議そうな表情を浮かべていた。
単純にぼくの名前が豊司だと、初めて知ったからかもしれない。
「き、今日はよじ、用事があるんだ。誘ってくれてありがとう」
相変わらずどもってしまいながらも、なんとかそれだけを伝える。
松川君は「そう、残念だな」と言うと、クラスメイト達の方に振り向いた。
ぼくは逃げるように。廊下へと飛び出していた。
松川君はぼくの事を誘ってくれたのだ。
クラスの子と仲良くしてくれるきっかけをくれたのだろう。
だけどそれにこたえられなかった。
ぼくと松川君がライトという女の子と夏休みをすごしたことは、クラスメイトの誰も知らない。
一緒に映画を撮ったり、かなりのSF好きな事を誰も知らない。
それはぼくらだけの話しで、彼らとは共有できない。
そしてぼくは彼らとは過ごせない。
彼らには彼らの輪があり、決まりがある。
ぼくはそれに組み込まれておらず、話題に入りこむ自信なんかまるでない。
みんなが楽しそうにすごしている中、ぼくだけがぽつんと一人彼らの後を歩いてついていくことになるのが、眼に見えていた。
孤独には耐えられても、楽しそうな輪の中に入って一人でいるのは、さすがにぼくでも辛すぎる。
九月になったとはいえ、まだまだ日差しが強くて家に帰る頃には身体じゅうに汗をかいていた。
シャワーを浴びて着替えると、冷凍庫にうどんを見つけたので、それをゆがいてざるうどんにして食べた。
夏休みはあれからしばらくライトと三人で、映画の続きを撮っていた。
こちらにくる頻度が多くて、最後には宿題をやっていないと慌てていた。
そんな彼女も今日はおそらく、学校の友達とどこか遊びに行っているだろう。
今日も一人だけど、一人の過ごし方には慣れている。
図書館でカメラの使い方についての本を借りていたので、返しにいくことした。
映画の撮り方を自分で少しは勉強しようと思って、最近はそういった本を読むようにしているのだ。
自転車をこいでやってくると、人はまばらだった。夏休み明けだからだろう。
松川君の影響で読むようになった海外のSFと、画像編集の本を借りた。
そのまま涼しい図書館で過ごそうかなとも考えたけど、そのまま帰ることにした。
太陽が雲に覆われていて、少し気温が下がった気がする。帰りに駅前によった。
ぼくは駐輪場に自転車を止めると、そこにあるベンチに腰をかける。
夏の日差しを浴びたベンチは少し熱かったけど、すぐにぼくの体温にあわされていく。
図書館から借りた本を開いた。
何ページか読むが内容が頭に入ってこない。
学校でのことが思い起こされた。
ぼくは何が駄目なのだろう。
いつも自分が、みんなと何かが違うって思っていた。
人としゃべるとどもり、意志疎通がうまくできない。
みんなの話しを聞いても、その人が望むような答えを用意できなかった。
みんなの輪に、自然に入ることができなかった。
なんとかしようとクラスが変わるたびに思うのだけれども、結局いつもうまくいかず、一週間もたつと一人だった。
今日のように手を差し伸べられ、そばに招かれても、ぼくにはまぶしくて近くに寄るのも恐れ多くて、結局自分から離れてしまうのだ。
よそう。
最近ライトや松川君と、まぶしい時間を一緒に過ごしているからそんな気持ちになるんだ。
確かに二人と一緒の時間は楽しいけど、一人じゃないことが当たり前に思ってしまうと、今度一人になったら耐えられなくなってしまう。
そうだ演劇のシナリオのことをかんがえよう。
今度のは、椅子取りゲームを中心に話しが進むのはどうだろう。
椅子が減って、人が減っていくにつれて隠れた人間関係が明るみになっていくような展開。
コミカルな話かと思えば、一気に重くなっていく。
照明と音楽もそれに合わせて、段々暗く深刻になっていくのだ。
そんなふうに考えていたから、ぼくは自分を覆う影にまったく気付いていなかった。
何気に顔をあげると、腰を曲げた姿勢でこちらを覗き込んでいる顔と眼が合い、思わず声をあげた。
「驚き過ぎ。そんなに集中していたの?」
そう言うとライトは姿勢を元に戻した。
ほとんどのクラスメイトとは会うのが終業式以来だけど、その全てがぼくの存在など気にもせず、いつものように日常が始まっていく。
「おはよう」
「久しぶりねえ、やけた?」
そのような会話が教室中でされていた。
平凡な公立の中学校なので、始業式の日はすぐに学校が終わる。
教室では「せっかく集まったのだから、これから遊びに行こう」といった会話が至る所でされていた。
ぼくはそんな会話を聞きながしながら、さっさと帰り支度をして廊下に出ようとしていた。
「トヨジ、お前もいかないか。みんなでカラオケに行くんだ」
そんなぼくに松川君が背中から声をかけてくる。
振り返るとそばのクラスメイトたちが、不思議そうな表情を浮かべていた。
単純にぼくの名前が豊司だと、初めて知ったからかもしれない。
「き、今日はよじ、用事があるんだ。誘ってくれてありがとう」
相変わらずどもってしまいながらも、なんとかそれだけを伝える。
松川君は「そう、残念だな」と言うと、クラスメイト達の方に振り向いた。
ぼくは逃げるように。廊下へと飛び出していた。
松川君はぼくの事を誘ってくれたのだ。
クラスの子と仲良くしてくれるきっかけをくれたのだろう。
だけどそれにこたえられなかった。
ぼくと松川君がライトという女の子と夏休みをすごしたことは、クラスメイトの誰も知らない。
一緒に映画を撮ったり、かなりのSF好きな事を誰も知らない。
それはぼくらだけの話しで、彼らとは共有できない。
そしてぼくは彼らとは過ごせない。
彼らには彼らの輪があり、決まりがある。
ぼくはそれに組み込まれておらず、話題に入りこむ自信なんかまるでない。
みんなが楽しそうにすごしている中、ぼくだけがぽつんと一人彼らの後を歩いてついていくことになるのが、眼に見えていた。
孤独には耐えられても、楽しそうな輪の中に入って一人でいるのは、さすがにぼくでも辛すぎる。
九月になったとはいえ、まだまだ日差しが強くて家に帰る頃には身体じゅうに汗をかいていた。
シャワーを浴びて着替えると、冷凍庫にうどんを見つけたので、それをゆがいてざるうどんにして食べた。
夏休みはあれからしばらくライトと三人で、映画の続きを撮っていた。
こちらにくる頻度が多くて、最後には宿題をやっていないと慌てていた。
そんな彼女も今日はおそらく、学校の友達とどこか遊びに行っているだろう。
今日も一人だけど、一人の過ごし方には慣れている。
図書館でカメラの使い方についての本を借りていたので、返しにいくことした。
映画の撮り方を自分で少しは勉強しようと思って、最近はそういった本を読むようにしているのだ。
自転車をこいでやってくると、人はまばらだった。夏休み明けだからだろう。
松川君の影響で読むようになった海外のSFと、画像編集の本を借りた。
そのまま涼しい図書館で過ごそうかなとも考えたけど、そのまま帰ることにした。
太陽が雲に覆われていて、少し気温が下がった気がする。帰りに駅前によった。
ぼくは駐輪場に自転車を止めると、そこにあるベンチに腰をかける。
夏の日差しを浴びたベンチは少し熱かったけど、すぐにぼくの体温にあわされていく。
図書館から借りた本を開いた。
何ページか読むが内容が頭に入ってこない。
学校でのことが思い起こされた。
ぼくは何が駄目なのだろう。
いつも自分が、みんなと何かが違うって思っていた。
人としゃべるとどもり、意志疎通がうまくできない。
みんなの話しを聞いても、その人が望むような答えを用意できなかった。
みんなの輪に、自然に入ることができなかった。
なんとかしようとクラスが変わるたびに思うのだけれども、結局いつもうまくいかず、一週間もたつと一人だった。
今日のように手を差し伸べられ、そばに招かれても、ぼくにはまぶしくて近くに寄るのも恐れ多くて、結局自分から離れてしまうのだ。
よそう。
最近ライトや松川君と、まぶしい時間を一緒に過ごしているからそんな気持ちになるんだ。
確かに二人と一緒の時間は楽しいけど、一人じゃないことが当たり前に思ってしまうと、今度一人になったら耐えられなくなってしまう。
そうだ演劇のシナリオのことをかんがえよう。
今度のは、椅子取りゲームを中心に話しが進むのはどうだろう。
椅子が減って、人が減っていくにつれて隠れた人間関係が明るみになっていくような展開。
コミカルな話かと思えば、一気に重くなっていく。
照明と音楽もそれに合わせて、段々暗く深刻になっていくのだ。
そんなふうに考えていたから、ぼくは自分を覆う影にまったく気付いていなかった。
何気に顔をあげると、腰を曲げた姿勢でこちらを覗き込んでいる顔と眼が合い、思わず声をあげた。
「驚き過ぎ。そんなに集中していたの?」
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