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四章 女王の城
順番待ち
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「今日中には女王さまの城につきそうだよ」
朝食を食べているとき、ふとサギはそんなことを言った。
「……そうだね。今までありがとう」
「ううん。どういたしまして」
そんなやりとりをした後は、一言もしゃべらずにご飯を食べた。
それから二人は歩き続けた。
昨日までうるさいくらいに喋っていたのにサギは今日は静かだった。
それはつばさも同じだ。
二人が口を開いたのは、昼頃になってのことだ。
遠くに大きな樹が見えたのだ。
樹齢何千年なのか。
ここからでも結構な距離があるにも関わらず、周囲のどの木よりもはるかに立派なのが一目でわかった。
「女王さまの城が見えてきたね」
「あれがお城なの?」
つばさはお城といえば西洋のお城を想像していた。
高い塔や立派な門があるような、ああいうお城。
まさか樹そのものがお城だとは。
ヤマのクニはつばさの常識でははかれないことが、まだまだたくさんあるようだ。
しばらく城を眺めた後、二人は昼食を取った。
二人の最後の食事になるかもしれない。
だからしゃべらないとと思ったのに言葉が出てこなかった。
元々社交的でなく会話が得意でない。
それが原因で学校や家で心がつーんと冷えることは今までもあったけど、これほど悔しいと思ったのは初めてだ。
「……女王さまはわたしのお願いも訊いてくれるかな?」
先に口を開いたのはサギだった。
何日も一緒だった彼女の顔をじっと見つめる。
「ぼくで叶えてくれるんだったら、サギだったらきっと大丈夫だよ」
「そうか。えとね、いつかつばさのクニに行ってみたいんだ。だから遊びに行く方法が聞けたらと思って」
「……きっと知っているよ。なんでも知っているんでしょ?」
「へへへ、そうだね」
「遊びに来たら、今度はぼくが案内するね」
サギがはにかむような笑顔を向ける。
心に吹く風がやみ、暖まったような気がした。
それから二人は城に向かって歩き出す。
道中、他の障りをちらほら見かけるようになった。
あるものは走って。
あるものは馬車に乗って。
またあるものはなんと空を飛んでいた。
それは一人だったり、家族と思しき集団だったり様々だった。
ウサギみたいな小柄なのや、蛙のようにもっと小柄な障り。
大きなけむくじゃらだったり、肩だけが異様に盛り上がっているなど種類の障りがいた。
もちろん人間と同じような障りも。
だいたいサギと同じ着物のような前で閉じる服を着ていて、それが唯一の特徴に見えた。
みんな女王さまに願いを叶えて貰うために集まっているのだろうか。
これだけの数の願いを叶える女王さまってどんな人なんだろう、とつばさは想像した。
そんなたくさんの障り達は城に近づくほど多くなっていく。
人間とはかなり姿形が違う障りも多くいるが、つばさはなんだかみな暗い顔をしているように思った。
夕暮れが迫るころ、二人は城の門前にたどり着いた。
その周辺にはキャンプで使うようなテントが無数に建ち並んでいる。
いぶかしく思いながら城へと向かっていく。
テントが進むにつれて増えていき、やがて城の前の扉についた。
「女王さまにごようか?」
扉には武器をもった大きな障りがいた。
クマのように大きい、というよりクマそのものが服を着ている感じだ。
「は、はい」
おっかなびっくり答えると、薄い石を手渡された。
「女王さまはふせっておられる。よって謁見は順番待ちなのだ」
「病気? そんなに重いのですか?」
「安心いたせ。腕のいい医者やシュマリの商人が手に入れた薬で、快復には向かっておられる。だがまだまだ本調子ではない。理解されよ」
「あの、ここにいるつばさはとても大事な用事があって来たのですが」
「もちろんだとも。ここで待っておるものみな大事な用事があって来ている。そして順番を待っているのだ」
周囲を見渡すと暗い顔をした障りたちが、こちらを見ている。
みんながそれぞれの事情を抱えてここにやって来ているのだ。
つばさだけが特別というわけにはいかなかった。
「すみません。順番を待っています」
「うむ、すまんな。代わりと言うわけでは無いがテントの貸し出しと、毎日の食事の配給は行わせてもらっている。どうか順番を待ってもらえるかな」
城の門から犬みたいな障りの兵士が出て来て、テントと食料を手渡される。
つばさはお礼を言うと引き下がった。
「ごめんね、つばさ。こんな状態になっているとは思わなくて」
「サギが謝ることはないよ。病気なんだから仕方がないさ」
「そうだね。順番が来るまでおとなしく待っていようか」
「……サギも一緒に待ってくれるの?」
「当然でしょ。わたしだってお願いがあるんだからね」
「そうだったね」
「ありがとう」
と心の中でつぶやく。
帰れなくて残念な筈なのに、なぜかほっとした。
朝食を食べているとき、ふとサギはそんなことを言った。
「……そうだね。今までありがとう」
「ううん。どういたしまして」
そんなやりとりをした後は、一言もしゃべらずにご飯を食べた。
それから二人は歩き続けた。
昨日までうるさいくらいに喋っていたのにサギは今日は静かだった。
それはつばさも同じだ。
二人が口を開いたのは、昼頃になってのことだ。
遠くに大きな樹が見えたのだ。
樹齢何千年なのか。
ここからでも結構な距離があるにも関わらず、周囲のどの木よりもはるかに立派なのが一目でわかった。
「女王さまの城が見えてきたね」
「あれがお城なの?」
つばさはお城といえば西洋のお城を想像していた。
高い塔や立派な門があるような、ああいうお城。
まさか樹そのものがお城だとは。
ヤマのクニはつばさの常識でははかれないことが、まだまだたくさんあるようだ。
しばらく城を眺めた後、二人は昼食を取った。
二人の最後の食事になるかもしれない。
だからしゃべらないとと思ったのに言葉が出てこなかった。
元々社交的でなく会話が得意でない。
それが原因で学校や家で心がつーんと冷えることは今までもあったけど、これほど悔しいと思ったのは初めてだ。
「……女王さまはわたしのお願いも訊いてくれるかな?」
先に口を開いたのはサギだった。
何日も一緒だった彼女の顔をじっと見つめる。
「ぼくで叶えてくれるんだったら、サギだったらきっと大丈夫だよ」
「そうか。えとね、いつかつばさのクニに行ってみたいんだ。だから遊びに行く方法が聞けたらと思って」
「……きっと知っているよ。なんでも知っているんでしょ?」
「へへへ、そうだね」
「遊びに来たら、今度はぼくが案内するね」
サギがはにかむような笑顔を向ける。
心に吹く風がやみ、暖まったような気がした。
それから二人は城に向かって歩き出す。
道中、他の障りをちらほら見かけるようになった。
あるものは走って。
あるものは馬車に乗って。
またあるものはなんと空を飛んでいた。
それは一人だったり、家族と思しき集団だったり様々だった。
ウサギみたいな小柄なのや、蛙のようにもっと小柄な障り。
大きなけむくじゃらだったり、肩だけが異様に盛り上がっているなど種類の障りがいた。
もちろん人間と同じような障りも。
だいたいサギと同じ着物のような前で閉じる服を着ていて、それが唯一の特徴に見えた。
みんな女王さまに願いを叶えて貰うために集まっているのだろうか。
これだけの数の願いを叶える女王さまってどんな人なんだろう、とつばさは想像した。
そんなたくさんの障り達は城に近づくほど多くなっていく。
人間とはかなり姿形が違う障りも多くいるが、つばさはなんだかみな暗い顔をしているように思った。
夕暮れが迫るころ、二人は城の門前にたどり着いた。
その周辺にはキャンプで使うようなテントが無数に建ち並んでいる。
いぶかしく思いながら城へと向かっていく。
テントが進むにつれて増えていき、やがて城の前の扉についた。
「女王さまにごようか?」
扉には武器をもった大きな障りがいた。
クマのように大きい、というよりクマそのものが服を着ている感じだ。
「は、はい」
おっかなびっくり答えると、薄い石を手渡された。
「女王さまはふせっておられる。よって謁見は順番待ちなのだ」
「病気? そんなに重いのですか?」
「安心いたせ。腕のいい医者やシュマリの商人が手に入れた薬で、快復には向かっておられる。だがまだまだ本調子ではない。理解されよ」
「あの、ここにいるつばさはとても大事な用事があって来たのですが」
「もちろんだとも。ここで待っておるものみな大事な用事があって来ている。そして順番を待っているのだ」
周囲を見渡すと暗い顔をした障りたちが、こちらを見ている。
みんながそれぞれの事情を抱えてここにやって来ているのだ。
つばさだけが特別というわけにはいかなかった。
「すみません。順番を待っています」
「うむ、すまんな。代わりと言うわけでは無いがテントの貸し出しと、毎日の食事の配給は行わせてもらっている。どうか順番を待ってもらえるかな」
城の門から犬みたいな障りの兵士が出て来て、テントと食料を手渡される。
つばさはお礼を言うと引き下がった。
「ごめんね、つばさ。こんな状態になっているとは思わなくて」
「サギが謝ることはないよ。病気なんだから仕方がないさ」
「そうだね。順番が来るまでおとなしく待っていようか」
「……サギも一緒に待ってくれるの?」
「当然でしょ。わたしだってお願いがあるんだからね」
「そうだったね」
「ありがとう」
と心の中でつぶやく。
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