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二章 ナクラの集落
輪の中心で彼女はわらい
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二人はバスと電車の話をしながら、道沿いに歩く。
しばらく歩くとだんだんお互いに話さなくなってくる。
家や学校では沈黙に気まずさをかんじることもあったが、これは気にならない沈黙だった。
互いに歩いたり周りをみることに集中するからだ。
時折何かをみつけては、一言二言しゃべってはまた歩くのだ。
道は進むにつれてだんだん足元が固く、広くなっていった。
お昼を前にしたあたりで、ずいぶんと開けたところにやってきた。
集落が近い、とサギがぽつりと言った。
やがて木の家が前方に現れた。
木で出来ているのではない。
木がそのまま家になっていたり、小さな木の上に立てられている感じだった。
「あの家はナクラの集落みたいだね」
そのナクラはすぐにつばさたちの前に姿を現した。
身長は二人よりだいぶ低い。
リスのような顔と体毛をしていて、それが人間のように服を来て二本足で歩いている。
刺繍はないものの、サギが来ているような感じの服だ。
どんな障りだろうと思っていたつばさはほっと胸をなでおろした。
これなら怖くないどころかむしろ可愛らしい。
そんな小柄な障りたちが次々に家から、森から現れて二人の前に集まってきた。
「ようこそ。旅人、歓迎。なに、したい?」
「こんにちは。わたしはナーナイのサギ。こっちはつばさだよ」
愛らしい姿の障りたちは、自己紹介すると大きな歓声をあげた。
「ナーナイ大歓迎。お仕事。ある」
「そうなんだ。じゃあ持ってきてよ」
サギが呼びかけると一目散にナクラたちは家へと駆け戻る。
見た目も小動物っぽいけど、その動きも同じだった。
あっという間の出来事に呆然としていると、サギはかごを下ろして荷物の中から機織り機を出して組み立て始める。
「お仕事ってどういうこと」
「お仕事はお仕事だよ。わたしはナーナイだから裁縫とか得意だからね。変わりに食べ物を分けてもらったりするんだ」
「この世界ってお金はないの?」
「おかねって?」
「ええと……」
無邪気な質問にどうこたえていいかわからなかった。
ズボンのポケットに小銭は入っている。
これをお金だと説明はできても、じゃあどうするものかと言われると答えに窮する。
「何かを買ったり、してもらうことで代わりに支払うものかな?」
「それはどうやって手に入るの?」
再び返事にこまってしまった。
つばさは毎月おこずかいをもらっている。じゃあそのお金はどうして手に入れているかというと、両親が仕事をすることでだ。
サギが手早く機織り機を組み立て終わるころ、ナクラたちが一斉に姿を現した。
今度はみんな手や背中にカゴを担いでいて、その中には衣類とおぼしき布。
それから食べ物を入れていた。
「服、縫って」「壁掛け、破れた」「靴、欲しい」
「はいはい、順番ね」
次々と声をかけてくるナクラたちに、笑顔を向けながら次々と受け取っていく。
サギはござを引いてその上に座ると、機織り機を動かし始めた。
機織り機のそばには糸の塊があり、機織り機の動きに合わせてするすると解体されていく。
あっという間にまっすぐな糸が現れた。
つばさがその動きに見入っていると、ナクラの一人が布をもってじっと見上げているのに気づいた。
「ご、ごめん。ぼくはできないんだ」
「じゃあ、なに、出来る?」
無垢な目で見上げられて、つばさは逃げ出したい気持ちになった。
裁縫はもちろんだけど料理だってできない。
洗濯もサギが昨日川でするのを任せただけでどうしていいかわからない。
そもそも仕事なんかやったこと一度もなかった。
つばさにはできることなんて何一つない。
やがて興味を失ったらしくナクラはサギの方へと駆け寄った。
サギは話しかけてくる小動物のような障りたち楽しそうに笑いながら、布を受け取り、機織り機や針を器用に動かしていく。
仕事をお願いしたナクラは嬉しそうにサギの横に食べ物などを置いていく。
サギを中心に輪が出来ていた。
その輪を端で眺めていると、はっと胸が冷たくなり、周りの音がひどく遠いところに感じられた。
家で、学校で、いつも感じていたのと同じものだ。
いたたまれなくなり、つばさはそっと輪から離れていった。
しばらく歩くとだんだんお互いに話さなくなってくる。
家や学校では沈黙に気まずさをかんじることもあったが、これは気にならない沈黙だった。
互いに歩いたり周りをみることに集中するからだ。
時折何かをみつけては、一言二言しゃべってはまた歩くのだ。
道は進むにつれてだんだん足元が固く、広くなっていった。
お昼を前にしたあたりで、ずいぶんと開けたところにやってきた。
集落が近い、とサギがぽつりと言った。
やがて木の家が前方に現れた。
木で出来ているのではない。
木がそのまま家になっていたり、小さな木の上に立てられている感じだった。
「あの家はナクラの集落みたいだね」
そのナクラはすぐにつばさたちの前に姿を現した。
身長は二人よりだいぶ低い。
リスのような顔と体毛をしていて、それが人間のように服を来て二本足で歩いている。
刺繍はないものの、サギが来ているような感じの服だ。
どんな障りだろうと思っていたつばさはほっと胸をなでおろした。
これなら怖くないどころかむしろ可愛らしい。
そんな小柄な障りたちが次々に家から、森から現れて二人の前に集まってきた。
「ようこそ。旅人、歓迎。なに、したい?」
「こんにちは。わたしはナーナイのサギ。こっちはつばさだよ」
愛らしい姿の障りたちは、自己紹介すると大きな歓声をあげた。
「ナーナイ大歓迎。お仕事。ある」
「そうなんだ。じゃあ持ってきてよ」
サギが呼びかけると一目散にナクラたちは家へと駆け戻る。
見た目も小動物っぽいけど、その動きも同じだった。
あっという間の出来事に呆然としていると、サギはかごを下ろして荷物の中から機織り機を出して組み立て始める。
「お仕事ってどういうこと」
「お仕事はお仕事だよ。わたしはナーナイだから裁縫とか得意だからね。変わりに食べ物を分けてもらったりするんだ」
「この世界ってお金はないの?」
「おかねって?」
「ええと……」
無邪気な質問にどうこたえていいかわからなかった。
ズボンのポケットに小銭は入っている。
これをお金だと説明はできても、じゃあどうするものかと言われると答えに窮する。
「何かを買ったり、してもらうことで代わりに支払うものかな?」
「それはどうやって手に入るの?」
再び返事にこまってしまった。
つばさは毎月おこずかいをもらっている。じゃあそのお金はどうして手に入れているかというと、両親が仕事をすることでだ。
サギが手早く機織り機を組み立て終わるころ、ナクラたちが一斉に姿を現した。
今度はみんな手や背中にカゴを担いでいて、その中には衣類とおぼしき布。
それから食べ物を入れていた。
「服、縫って」「壁掛け、破れた」「靴、欲しい」
「はいはい、順番ね」
次々と声をかけてくるナクラたちに、笑顔を向けながら次々と受け取っていく。
サギはござを引いてその上に座ると、機織り機を動かし始めた。
機織り機のそばには糸の塊があり、機織り機の動きに合わせてするすると解体されていく。
あっという間にまっすぐな糸が現れた。
つばさがその動きに見入っていると、ナクラの一人が布をもってじっと見上げているのに気づいた。
「ご、ごめん。ぼくはできないんだ」
「じゃあ、なに、出来る?」
無垢な目で見上げられて、つばさは逃げ出したい気持ちになった。
裁縫はもちろんだけど料理だってできない。
洗濯もサギが昨日川でするのを任せただけでどうしていいかわからない。
そもそも仕事なんかやったこと一度もなかった。
つばさにはできることなんて何一つない。
やがて興味を失ったらしくナクラはサギの方へと駆け寄った。
サギは話しかけてくる小動物のような障りたち楽しそうに笑いながら、布を受け取り、機織り機や針を器用に動かしていく。
仕事をお願いしたナクラは嬉しそうにサギの横に食べ物などを置いていく。
サギを中心に輪が出来ていた。
その輪を端で眺めていると、はっと胸が冷たくなり、周りの音がひどく遠いところに感じられた。
家で、学校で、いつも感じていたのと同じものだ。
いたたまれなくなり、つばさはそっと輪から離れていった。
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