現実でぼっちなぼくは、異世界で勇者になれるのか?

シュウ

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二章 ナクラの集落

きらきら平原をめざして

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「見える? 向こうの方で森が途切れているのが。あれがきらきら平原だよ」

 つばさと同じように毛布をマントのようにくるんだサギが、はるか森の向こうを指差す。
 高台からみて改めて森の広大さがわかった。
 周囲全て森で、他に見えるのはここと同じぐらいかもっと高い山しかない。
 あまりのすごさに、つばさはしばらく声を失って見入っていた。

「つばさ?」
「あ、ごめん。……あのずっと、ずーっと向こうで光っている場所がきらきら平原?」
「そう。朝日で輝いているでしょ? だからきらきら平原っていうの」
「……まだずいぶんと先だね」
「でも見える所まできたよ」
「確かに、そうだね」

 女王さまの城を目指し、もう森の中を三日間歩き通している。
 朝日が昇る前に起きて歩き始め、森の野草を食べ、日が沈むと眠る生活。
 寝るときも外で、毛布を敷いて二人並んで休んだ。
 バンガローでキャンプはしたことがあったものの、こんな風に一日中歩き続けたり、外で寝泊りした経験は今までにない。
 おかげで全身が筋肉痛だし、足はマメがつぶれて血だらけだ。
 テレビもゲームもない不便な世界で、一日だって生きてきていけるものかと思っていた。
 今だって帰りたい気持ちは変わらない。

 でも――
 つばさもう一度きらきら平原の方に視線を向ける。
 澄んだ朝の冷たい空気を吸いながら、雄大な自然を眺めるのも案外悪くないかも。
 

 太陽が地平線から上り、空が明るくなり始めた頃、二人は再び歩き出した。
 この世界は日本より気温が低いらしく、特に朝は毛布から出ると震えるほど寒い。
 身体は痛いのに、初日ほど歩くのが苦痛ではなくなっている。本来夜更かしなのに日の出前に勝手に目が覚めるようになっていた。
 人間の身体というのは慣れるのだとしみじみ思った。
 青々とした木々の隙間を抜け、時折山菜や果実などを採取しながら二時間ほども歩くと、身体はすっかりあったまっていた。
 その頃には日はすっかり登り、明るくなっていた。
 木の隙間からできたひだまりの下で、二人は朝食を取ることにする。
 つばさは荷物をおくと、カゴに毛布をいれた。
 毛布はチェロムに融通してもらったものの一つだ。
 こんなに親切な彼らから、最初に逃げ出したことをつばさはもうし分けなく思っている
 サギのほうは朝食の準備をはじめていた。
 最初にかごから出てきたのは例の団子で、なんでもユリの根で作られているそうだ。保存が効くので携帯食に向いているとサギが話してくれた。
 それから道中採取したウドやヤマニンジンなどの皮をはいでくれる。
 それは生で食べるのだ。
 慣れるとサラダみたいな感覚だ。
 つばさのお気に入りはヤマブドウなどの果実で、少し酸味がつよいものの甘い味がした。
 元々家ではくだものよりお菓子の方が好きだった。
 でもここでは甘い果実はご馳走だ。森は食料の宝庫だというサギの言葉がようやくわかるようになってきた。
 すっかり準備が整ったので、サギの祈りをまって朝食をはじめることにする。
 食事の時はだいたいサギがつばさの世界のことを聞きたがるのが常だった。
 どの話をしようかと考えていると、

「この近くに集落があるね」
 と向こうから話しかけてきた。

「そうなの?」
「うん。踏み鳴らした道が続いている。それにほら、そこの山菜は刺を避けて上部分が切り取られているでしょ? このあたりは採取場の一つなの」

 ハリギリとかそんな名前だったかな。
 採取するときにサギからいろいろな話を聞くので、自然と名前や調理方法が頭に入ってくる。

「集落ってチェロムの?」
「このあたりだったら、ナクラかウィルチーかもしれない」

 どういう障りだろう。きゅうに不安になってきた。
 話すと悪い人(障り?)たちではないのはわかっている。でも見た感じが怖いとやはり抵抗があるのだ。
 つばさはそもそも初対面の人とすぐに仲良くなる性格ではないのだ。

「旅に必要なものを分けてもらえるね。それにお風呂も入れるかも」
「お風呂かあ……」

 水場で体を拭いたりはしているものの、三日間入っていない。
 温かい湯につかると、きっとすごく気持ちがいいのだろう。
 この世界に来てからずっとサギと歩き続けているので、集落というものがどういうものかわからない。興味もある。

「そうだね。ちょっと寄ってみたいかな」
「つばさがよければだけど、集落なら一晩とめてもらおうか?」
「ぼくは……もちろんいいよ」

 サギが気をつかってくれているのがわかった。
 つばさが一日も早く帰りたがっているだろうから。
 でもまだまだ先は長いのだ。今更一日や二日帰るのが遅くなるぐらい構わない。
 それにつばさも一度風があたらない場所でゆっくり休みたかった。

「ベッドが恋しいよ……」
「わたしも。久しぶりにベッドでゆっくり寝たいね」
「サギでもそんなこと思うんだ?」
「もちろんだよ。つばさが一緒だからなんとか眠れているんだから」
 
 笑顔を向けられて、思わず彼女の顔から視線を外した。
 ここにきてから寝るときは毛布にくるまり、二人は身体を寄せ合って寝ていたのだ。
 最初こそ気恥ずかしさから抵抗があったものの、夜の風の冷たさを体験すれば、そんな抵抗などまったくの無意味だった。
 なれはしていたのだが、改めて言われると恥ずかしさが戻ってくる。

「どうしたの?」
「……ううん。ちょっと、他の障りと会ったことがないからどんなかなって……」
「みんないいやつばかりだよ」
 
 サギはうたがうことなく、つばさの言うことを信じた。

 
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