上 下
8 / 62
一章 異世界へ

わたしは一人前だから、と彼女は笑い

しおりを挟む
 しばらく歩いたところで水場を見つけた。
 休憩することにして互いに旅の荷物をいれたかごを下ろす。
 そのままつばさは座り込んだ。
 朝から歩き通しでクタクタだった。
 足はもちろん荷物を担いだ肩も痛くて痛くて仕方が無い。
 ただ乗っているだけで目的地へ運んでくれる、自動車や電車がどれだけ素晴らしい乗り物か。

「はい」

 革でできた水筒をサギが手渡してくれる。そこの湧水から汲んできたらしい。
 つばさは口をつけると半分ほど一気に飲んだ。冷たくてとても美味しかった。
 生き返ったとはこういうことをいうのだろうか。
 口を離すとサギがそれをひょいと取り上げて同じように飲む。
 その動作につばさはどきりとして彼女を見つめる。
 
「どうかしたのかい?」
「え、えーと……その、木の道具は何かなって?」

 慌ててしどろもどろにごまかす。
 サギは気にした様子もなく、下ろした荷物を広げて見せた。

「これは分解した機織り機だよ」
「ハタオリ機? それって何をするの?」
「木の皮の繊維を使って服とかを折るんだ」

 森の中でそんな話をしていたことを思い出す。

「サギって裁縫なんかできるんだね」
「ナーナイは手先が器用で代々編み物とか木細工の技が伝わっているんだ。それで旅の途中でしばらく滞在してそこの住人達に編み物を編む。代わりに生活をするためにものを分けて貰っているんだ」
「え? じゃあ服とか全部サギが作ったの」

 つばさはサギの顔から服、それから胸元の首飾りに視線を落とす。
 変わったデザインだけどよくできていて、とても子供が作ったものとは思えない。

「食器やおはしも?」
「そうだよ。靴もね」
「凄いんだね」
「ナーナイだから当然だよ。その代わりわたしはチェロムみたいに動物を狩ったり出来ないから」

 当然だというような口調だった。
 つばさは感心して彼女が作ったとものをまじまじとみる。
 変わったデザインだけど、店で売っているものみたいだ。
 とても同じ年ぐらいの子が作ったなんて思えなかった。 

「この服とか首飾りの渦巻き状の線もわざわざいれるの?」
「そうだよ。この文様でどこで伝わる技術かどうかわかるんだ」
「へえ、その首飾りをよく見せてもらっていい?」
「ごめん、これはちょっと……大事なものなんだ。代わりに食器をみせてあげる」
 そう謝って、かごから食器を取り出して手渡してくる。
 受け取った深皿をみると、やっぱり渦巻き状の文様がある。
 それに外側上部は他のとは趣が違う模様があった。

「この花と鳥の絵みたいなものも?」
「そうだよ」
「これもサギに伝わっている技術みたいなもの?」
「ううん。絵があったほうがかわいいでしょ」

 こっちの世界の女の子も、こういうところは変わらないらしい。

「そういえば伝わっている技術ってことは、サギ。お父さんとかお母さんから教えてもらったんだよね。両親はどこに住んでいるの?」

 サギは不思議そうな表情でつばさを見つめ返してきた。

「何を言っているのさ。わたしはもう一人前だよ。一人前のナーナイは一人で旅をするものだから」

 今度はつばさが目を丸くした。

「一人で? サギはぼくとそんなに年とかかわらないじゃないか」
「ナーナイに限らず障りはみんなそうさ。親や一族から生きていく術を教えて貰う。それで一人前として認められたら巣立つんだよ」
「でも……」
「わたし、そんなに頼りない?」

 逆に尋ねられて返事に困った。
 サギは頼りになる。彼女がいないと一日だって生きていけないだろう。
 そう、つばさは何もできない。
 そのつばさと同じ年ぐらいのサギは当たり前のようになんでもできる。
 そのことになんともいえない感情がうずまく。

「その、寂しくはないの? サギも、他の障りも」
「さすがに一人で旅をする障りはそんなに多くないかな。でも旅先でいろいろな出会いがあるから寂しくないよ。つばさだってそれで出会ったんだし」

 そのおかげでつばさは助かったのだ。だけど・・・・・・。

「それにつばさだってもうじき一人前なんでしょ?」
「どうして?」
「学校って勉強するところで、いずれ卒業するって。それってつまりつばさが一人前になったから卒業なんだよね」

 無邪気に話すサギにどう返事していいかわからなかった。
 学校で勉強したところで、せいぜいちょっと知識が増えるだけだ。
 とてもではないけど一人で生きていくことなんてできない。
 一体なにから卒業するというのだろう。

「そりゃ一人前でないと仕事を任せてもらえないし、悔しい思いをするのは当然だけど、たまたまわたしが少し早いだけなんだ。気にすることないよ」

 つばさは答えられなかった。
 自分一人でなんでもできるようになる。
 そんなこと今まで、考えたことすらなかったのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

月夜のさや

蓮恭
ミステリー
 いじめられっ子で喘息持ちの妹の療養の為、父の実家がある田舎へと引っ越した主人公「天野桐人(あまのきりと)」。  夏休み前に引っ越してきた桐人は、ある夜父親と喧嘩をして家出をする。向かう先は近くにある祖母の家。  近道をしようと林の中を通った際に転んでしまった桐人を助けてくれたのは、髪の長い綺麗な顔をした女の子だった。  夏休み中、何度もその女の子に会う為に夜になると林を見張る桐人は、一度だけ女の子と話す機会が持てたのだった。話してみればお互いが孤独な子どもなのだと分かり、親近感を持った桐人は女の子に名前を尋ねた。  彼女の名前は「さや」。  夏休み明けに早速転校生として村の学校で紹介された桐人。さやをクラスで見つけて話しかけるが、桐人に対してまるで初対面のように接する。     さやには『さや』と『紗陽』二つの人格があるのだと気づく桐人。日によって性格も、桐人に対する態度も全く変わるのだった。  その後に起こる事件と、村のおかしな神事……。  さやと紗陽、二人の秘密とは……? ※ こちらは【イヤミス】ジャンルの要素があります。どんでん返し好きな方へ。 「小説家になろう」にも掲載中。  

異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!

克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。

時間泥棒【完結】

虹乃ノラン
児童書・童話
平和な僕らの町で、ある日、イエローバスが衝突するという事故が起こった。ライオン公園で撮った覚えのない五人の写真を見つけた千斗たちは、意味ありげに逃げる白猫を追いかけて商店街まで行くと、不思議な空間に迷いこんでしまう。 ■目次 第一章 動かない猫 第二章 ライオン公園のタイムカプセル 第三章 魚海町シーサイド商店街 第四章 黒野時計堂 第五章 短針マシュマロと消えた写真 第六章 スカーフェイスを追って 第七章 天川の行方不明事件 第八章 作戦開始!サイレンを挟み撃て! 第九章 『5…4…3…2…1…‼』 第十章 不法の器の代償 第十一章 ミチルのフラッシュ 第十二章 五人の写真

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

処理中です...