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初めましてとリキュール

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真っ赤な扉が開いて、中から黒髪の男性がひょいと顔を出しました。かなり高い位置に顔がある、ということはとても背が高いのでしょう。優しそうな茶色い垂れ目が伊吹くんに向いています。

「おーい、イブキちゃん。遅いって、もうオープン時間だけど~?」
「悪いな夜都賀やつが、新しい従業員連れてきたんで許せ」
「おっマジ? てかオープンして以来新しい奴なんて入れてこなかったのにいきなりなーにー?」
「店内で準備をしながら話す。テーブル拭いておいてくれ。あとこれ、牛乳とフルーツ買ってきた」

 伊吹くんが手に持っていた袋を差し出すと、彼は中身を確認してにっこりと笑顔を浮かべました。

「おっありがと~。パパ助かる~う」
「パパ、はやめろ気色悪い」
「悲しいなぁ。ずっとボクはキミのお父さんでありたいのに。って……人?」
甘祢あまねだ。ほら」

 それまで背後に隠れるように立っていた私を紹介するため、伊吹くんは体をずらしました。夜都賀やつが、と呼ばれた長身の男性は、ようやく私に気付いたみたいです。

「ん、人……? どういうコト? まいっか、イブキちゃんが連れてきたならいいよ、入って入って~」
「は、はい、お邪魔、します……」

 本当に入っていいのでしょうか、お呼びではないんじゃないでしょうか。やっぱり雇わない、と返されたら、また明日から就職活動を頑張ろう。そんなことを思いながら店の敷居を跨ぐと、ピリ、と皮膚に静電気のようなものが流れました。

「おっ店入れんの。てことは人っぽいけどキミ、人じゃないんだねぇ」
「え、人……です、けど?」
「あー、自覚無しで人間として生きてきちゃった系? なんで今更こっち来たのかわかんないけどさ、まーそういうことなら歓迎するよ~。ボクは夜都賀やつが。好きに呼んでね!」
「おっさん、とかでもいいんだぞ」
「イブキちゃんひっど」
「お前はヘラヘラしすぎなんだよ」
「もう、ツンツンしちゃって~。って、ごめんね会話置き去りになってて。さてと、改めて、よろしくお願いします」

 私に対して軽い口調で話しかけていた夜都賀やつがさんは、途端にかしこまったような態度で椅子を引いて、お辞儀をしてから顔だけを上げました。人間離れした雰囲気、整った顔に美しい所作。人に目を奪われるってこういうことなのかも、と思いながら返事をします。

「あ、はい、よろしくお願いします。や、夜都賀やつがさん。柏原甘祢かしわばらあまねです」
「……甘祢ちゃん、ね。 では……あやかしバー『OROCHI』へ、ようこそ!」
「あやかし、バー?」
「そ。150年くらい営業してるよ! っていっても、営業形態や店名はその時代に合わせて何度も変えてきてるけどね~」
「ご……え……? 待って下さい、どういうことですか?」
「ま、百聞は一見にしかず。まずやってみよ。ボクが色々教えてあげるからさ。あと、そのコーヒーの染みがついたコート、こっちで預かるよ。洗濯上手な奴がいるからね」

 ウインクをする夜都賀やつがさん。こういうノリの人と話したことは今まで無かったので、どう返事をしていいのかわからない。私はただへらりと笑い返すしかできませんでした。失礼をしていないといいな。
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